説明

ポリエステルの製造方法及びそれに用いる装置

【課題】溶融状態の原料からポリエステルを合成するに際し、高品質のポリマーを高収率で合成することができるポリエステルの製造方法、及びその方法に用いる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】反応槽50と、該反応槽50にヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を供給する手段と、該反応槽に重合触媒を供給する手段とを備え、反応槽50内で縮合物溶融物を解重合して環式縮合物に変換する装置であって、反応槽50の内壁に沿って縮合物溶融物を薄層化する手段を備え、さらに該内壁に薄層A内での縮合物溶融物の流動を制限するための堰52を設けてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態のポリマー原料からポリマーを合成するためのポリマー製造方法及びそれに用いる装置に関する。特に、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を、解重合により環式縮合物に変換し、この環式縮合物を開環重合するポリエステルの製造方法、及びそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリマーの合成においては、温度履歴の長時間化に伴い、原料あるいはポリマーが一部熱分解するなどして、最終ポリマーの品質劣化が問題となることがある。また、原料の分子中に不斉炭素が存在する場合は、温度履歴に伴い一部光学異性体化が起こり、最終ポリマーの品質劣化が問題となることがある。
【0003】
開環重合反応により合成されるポリマーであるポリ乳酸は、ヒドロキシカルボン酸の一つである乳酸を原料として作られるポリエステルである。乳酸からポリ乳酸を合成する方法の一つに、乳酸を縮合してオリゴマーを生成させ、これに2−エチルヘキサン酸スズ、酸化アンチモン等の重合触媒を添加して減圧環境下で解重合反応を起こすことにより環式縮合物であるラクチド(乳酸の二量体)を生成させ、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。この場合においても、各工程の熱履歴による熱分解の可能性があり、同様なことは例えば、グリコール酸を環状二量体であるグリコリドに変換してこれを開環重合して合成するポリグリコール酸等、ヒドロキシカルボン酸を原料とする他のポリエステルについても当てはまり、熱分解物の混入は製品ポリマーの着色等、物性低下の原因となりうるため望ましくない。
【0004】
ポリ乳酸の場合はさらに、ポリマー骨格となる乳酸分子に不斉炭素が含まれるため、解重合工程の熱履歴により、エノール化反応を通して一部光学異性化が起こりD−乳酸を生成する場合がある(図1)。ポリ乳酸では通常L−乳酸を原料としたホモポリマーを合成する場合が多いが、ポリ乳酸を構成する乳酸骨格の一部が光学異性体化を起こすと、その量に応じてポリマーの結晶性が低下するため、融点低下、耐加水分解性の低下等、ポリマー物性が劣化することが知られている。
【0005】
このため、(特許文献1)に記載される発明では、薄層化装置を用いてオリゴマーと触媒を接触させ、解重合を行う。これにより気相との界面積を増大させ、生成したラクチドの蒸発を加速させることで、高品質のラクチドを得ることができる。しかしながら、従来は、薄層化装置の内部において、反応液の主流方向への拡散や逆流が発生し、滞留時間分布が広くなることで、品質の均一性の保持が困難な状態を生じていた。
【0006】
【特許文献1】2007−100011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、溶融状態の原料からポリエステルを合成するに際し、高品質のポリマーを高収率で合成することができるポリエステルの製造方法、及びその方法に用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行った結果、ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を、反応槽内で重合触媒の存在下、解重合により環式縮合物に変換し、この環式縮合物を開環重合するポリエステルの製造方法において、外力を用いて前記縮合物溶融物を薄層化して解重合を行い、その際に装置内部に堰を設けることで押し出し流れ性能が向上することを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を、反応槽内で重合触媒の存在下、解重合により環式縮合物に変換し、この環式縮合物を開環重合するポリエステルの製造方法において、縮合物溶融物を外力により薄層化した状態で解重合を行い、その際に薄層内での縮合物溶融物の流動を堰によって制限する前記製造方法。
【0010】
(2)縮合物溶融物に重合触媒を添加して分散させた後、これを反応槽内に連続供給し、供給された縮合物溶融物を外力により薄層化した状態で解重合を行う前記(1)に記載のポリエステルの製造方法。
【0011】
(3)薄層化するための外力が、重力、遠心力又はその両方を含む前記(1)又は(2)に記載のポリエステルの製造方法。
【0012】
(4)反応槽と、該反応槽にヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を供給する手段と、該反応槽に重合触媒を供給する手段とを備え、反応槽内で縮合物溶融物を解重合して環式縮合物に変換する装置であって、縮合物溶融物を反応槽の内壁に沿って薄層化する手段を備え、さらに該内壁に薄層内での縮合物溶融物の流動を制限するための堰を設けてなる前記装置。
【0013】
(5)縮合物溶融物を反応槽の内壁に沿って薄層化する手段が、遠心薄膜蒸発装置又は攪拌膜型蒸発装置から構成される前記(4)に記載の装置。
【発明の効果】
【0014】
堰を設けることで、反応槽の内部において反応液の流れが押し出し流れとなり、反応液の滞留時間が一定となり、生成したラクチド等の環式縮合物の品質を均一にすることができる。本発明により、高品質のポリマーを高収率で合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリマーの製造方法及び装置は、開環重合反応によって生成するポリマーの重合に好適に用いられる。開環重合反応によって生成するポリマーについては、環式縮合物のポリマー原料、特に環状二量体の開環重合反応によって合成されるポリマー、特にポリエステルの重合反応に好適に用いられる。例えば、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体、ポリグリコール酸、グリコール酸を主成分とする共重合体等、ヒドロキシカルボン酸のホモポリマー、これらを含む共重合体が挙げられる。
【0016】
本発明の方法及び装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸、グリコリドの開環重合によるポリグリコール酸の合成に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。また、グリコリドはグリコール酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリグリコール酸は、グリコール酸を主成分とする重合体を意味し、他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリグリコール酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。乳酸、グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸の例としては、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールが挙げられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸等のヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30重量%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明のポリマー製造方法及び装置は、原料の縮合物を溶融状態で中間原料である環式縮合物に変換するためのものであり、溶融状態にある縮合物を好ましくは連続的に供給し、加熱しつつ触媒と接触させて減圧環境下に置くことで解重合を行うものである。原料とは、重合するポリマーの骨格構成要素となるモノマーを意味する。ポリ乳酸の場合では乳酸、ポリグリコール酸ではグリコール酸である。原料の縮合物とは原料分子自身が縮合反応で複数個直鎖状にエステル結合した低分子量ポリマーの集合体であり、以下、オリゴマーと呼ぶ。オリゴマーには通常、2以上の複数の重合度の低分子量ポリマーが含まれる。環式縮合物とは原料分子自身が複数個環状にエステル結合した低分子量ポリマーであり、開環重合のための中間原料である。ポリ乳酸、ポリグリコール酸の場合ではそれぞれ環状二量体であるラクチド、グリコリドである。本明細書において、反応液とは溶融したオリゴマー、オリゴマーと触媒の混合物、オリゴマー、触媒、環式縮合物の混合物など、合成工程で流通する溶融物や生成物などをすべて包含するものとする。
【0018】
本発明において、「連続的に合成する」とは、当技術分野において通常用いられる意味を有し、原料等の供給と生成物や反応液等の排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料等の供給を連続的に行い、生成物や反応液等を連続的に排出する場合を含むものである。
【0019】
オリゴマーが溶融状態にあるためには、加熱温度がオリゴマーの融点以上である必要がある。融点はオリゴマーの重合度分布や原料モノマーの種類、配合率等によって変化するが、通常100〜250℃、好ましくは180〜220℃である。
【0020】
重合反応のための触媒としては、当業者であれば、合成するポリマーによって好適なものを適宜選択できる。例えば、乳酸やグリコール酸のオリゴマーの解重合に用いられる触媒としては、従来公知のポリ乳酸、ポリグリコール酸の開環重合用触媒を用いることができ、例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、2−エチルヘキサン酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
【0021】
触媒は液体、又は粉末状の固体のものであれば、当技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融オリゴマーに添加してから混合液を解重合装置に連続供給し解重合後の残液を連続排出する方法、及び解重合装置に直接添加し、連続供給されてきた溶融オリゴマーと解重合装置内で接触させる方法のいずれも適用可能である。しかしながら、触媒は所定の寿命の間(触媒活性を有する期間)に限って溶融オリゴマーを解重合させることが可能なので、後者の方法を採用し、触媒活性が低下してきた段階で残液を排出し、新しい触媒を添加する方法が効率的である。この他、触媒が固体の場合には解重合装置内の機器、構造物で溶融オリゴマーと接触する面の少なくとも一部に担持させる方法がある。本方法では触媒の添加装置が不要となる反面、上記方法と比べて溶融オリゴマーとの実際の接触面積が低下するので解重合反応が遅くなったり、触媒活性低下のたびに解重合装置内の機器、構造物をメンテナンスする必要がある等の短所がある。
【0022】
本発明において、遠心薄膜蒸発装置とは、装置内に供給された被濃縮液を遠心力により装置ケーシング内面(反応槽の内壁)に当てて液膜からなる薄層を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は、翼を備えた回転子を固定された装置ケーシング内に設置し、回転する翼を通して被濃縮液に与えられる。本方式では設備規模をコンパクトにでき、また翼とケーシングの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。また、反応槽の内壁に沿って被濃縮液を上から注ぎ、反応槽内部に設置された翼付の回転子を回転させることにより、所定の厚さ以上の液膜を翼でかきとり、反応槽外面からの加熱で蒸発を促進する攪拌膜型蒸発装置なども適用可能である。この方式では動力を用いなくとも重力に伴う液膜の流れにより薄膜を形成させつつ、翼とケーシングの間のギャップ幅により液膜厚さを制御できる長所がある。
【0023】
遠心薄膜蒸発装置又は攪拌膜型蒸発装置においては、反応槽のケーシング内部は単一の空間を成しており、反応液の主流方向への拡散や逆流による混合を生じるため、装置入口から出口までの反応液の滞留時間τは、ある特定の分布をもつ。分布の分散σは、個々の装置の詳細な構造に依存する値となる。
【0024】
従来の遠心薄膜蒸発装置又は攪拌膜型蒸発装置においては、滞留時間τの分布が広い、すなわち分散σが大きい値をとるため、装置内におけるオリゴマー反応液の滞留時間は、ばらつきが大きくなる。これにより、滞留時間の長いオリゴマーは末端カルボキシル基の乳酸骨格の光学異性体化を起こしやすくなる。従って、そのようなオリゴマーからメソラクチドが多く生成され、ラクチドの品質にばらつきが出る原因となっていた。
【0025】
これに対し、本発明では、装置内部に、縮合物溶融物であるオリゴマーの薄層内における流動を制限するための堰を設置し、押し出し流れ性能を高めることで、滞留時間τの分散σを低減させる。
【0026】
押し出し流れ性能を高める目的で装置内部に設置する堰は、反応槽のケーシングから回転軸に向かう方向に、反応槽の内壁に沿って設置する。遠心薄膜蒸発装置に投入する原料の流量をQ[m/s]、遠心薄膜蒸発装置の回転軸に沿う方向の長さをL[m]、遠心薄膜蒸発装置のケーシングの平均半径をr[m]、装置内の反応液の体積をV[m]、装置内の反応液の平均高さをh[m]、装置内の平均滞留時間をτ[s]とすると、以下の関係式が成立する。
【0027】
V=2πrLh
V=τ
すなわち
=τQ/(2πrL)
【0028】
薄層内における流動を制限して逆流を防止し、押し出し流れ性能を確保するためには、装置内部に設置する堰の高さh[m]を
h>h
を満たすように決定すればよい。このように堰の高さを規定することで、堰の前後における回転軸方向の流れが阻止され、堰間の空間において、近似的に完全混合槽が実現できる。
【0029】
堰の設置と同時に、堰を設置した場所においては、攪拌翼を軸方向に分断、もしくは切り欠きを設け、堰と攪拌翼の衝突を回避する。
【0030】
また、装置内部に設置する堰の個数については、上限はなく、設置する個数の増大にしたがって、押し出し流れ性能が向上する。堰の設置個数を(N−1)とすると、完全混合槽の数はNとなり、これに伴って分散σはσ/Nに低減される。
【0031】
堰は、遠心薄膜蒸発装置(図2及び図3)あるいは攪拌膜型蒸発装置(図4及び図5)の形式を採用するいずれの解重合装置に対しても設置することができ、溶融オリゴマーの連続解重合装置として適用することができる。
【0032】
以下に、解重合反応の工程を含むポリエステルの製造方法、及びそれに用いる解重合装置の実施形態について説明する。図6は、原料モノマーからポリマーを合成する一連の製造工程を示すフローチャートであり、原料モノマーの濃縮工程、濃縮物の縮合工程、オリゴマーの解重合工程、環式縮合物の精製工程、開環重合工程、液相脱揮工程、ペレット化工程、乾燥工程、固相脱揮工程から構成される。これらはポリマーの性状、プロセスの必要性に応じて省略したり、途中で他工程を追加しても良い。液相脱揮工程は、減圧環境下におけるモノマーの脱離・除去工程を指す。乾燥工程は、ポリマーペレットを100℃から180℃、望ましくは120℃から140℃において、5分から60分、望ましくは10分から30分加熱し、ペレットに含まれる水分を蒸発させる。固相脱揮工程は、融点以下の温度である100℃から170℃、望ましくは150℃から170℃において、1時間から20時間、望ましくは5時間から10時間加熱し、モノマーの脱離・除去を行う工程を指す。
【0033】
本発明の一実施形態においては、解重合装置として、図2及び図3に示すような、装置内部に堰を設けて押し出し流れ性能を高めた遠心薄膜蒸発装置5を用いる。遠心薄膜蒸発装置5の内部は環式縮合物凝縮器、不純物凝縮器を経由して設置されている真空ポンプにより減圧されており、断続的に触媒が添加される。原料モノマーの濃縮・縮合で得られた縮合物溶融物である溶融オリゴマーは連続的に遠心薄膜蒸発装置5内に供給される。溶融オリゴマーの装置内滞留量は滞留量測定器により計測され、一定となるよう供給量が調節される。遠心薄膜蒸発装置5内には液体触媒が添加されており、回転子の翼51の回転により溶融オリゴマーと液体触媒は混合されると共に遠心力で反応槽50の内面に押しつけられ、内面の形状に沿って液膜からなる薄層Aを形成する。反応槽50の外面は熱媒等で加熱されており、これにより液膜は加熱され、触媒との接触により生成した環式縮合物の蒸発が促進される。そして、反応槽50の内壁に堰52が設けられ、薄層A内における縮合物溶融物の流動が制限される。なお、図2及び図3はそれぞれ、攪拌翼51を回転軸方向に分断した例、及び攪拌翼51に切り欠きを設けた例を示しており、いずれも堰52と攪拌翼51との衝突が回避されている。環式縮合物を含む蒸気は遠心薄膜蒸発装置5の外に排出され、環式縮合物凝縮器に供給される。ここで環式縮合物は凝縮して回収され、精製工程に移送される。環式縮合物凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。
【0034】
遠心薄膜蒸発装置5について、上記の方式は固定された反応槽50のケーシング内で翼51を回転させて遠心力を与える方式であり、ここで翼は図2及び図3のように通常回転軸に平行な板状のもので回転軸から放射状に設置される場合が多く、その他、上記翼にねじりを加えスクリュー状にしたものを用いる場合もある。遠心薄膜蒸発装置は回転軸が地面に水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもの、いずれでも良い。また、滞留量測定器としては、例えば液ヘッド、溶融オリゴマーの誘電率、差圧等を利用した液面計が適用可能である。
【0035】
触媒の添加については、遠心薄膜蒸発装置の外に排出された物質重量が低下してきた場合、あるいは滞留量が時間と共に増大してきた場合に、触媒活性が低下してきたものとみなし、一度ドレンから内部の反応液を排出した後、所定量の溶融オリゴマーと触媒を添加・混合し、装置の運転を再開して溶融オリゴマーの連続供給、環式縮合物蒸気の連続排出を開始する。なお、固体触媒を反応槽50の内面等に担持させる場合は、触媒の供給操作・装置は不要となる。また、回転軸方向への反応液の排出を円滑にするため、必要に応じて堰52の一部にドレン用の貫通孔を形成しても良い。
【0036】
環式縮合物凝縮器、及び不純物凝縮器としては、金属管を隔てて冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これは環式縮合物が水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として後工程の開環重合反応の進捗を阻害する上、凝縮器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。不純物凝縮物には融点が低い光学異性体成分が含まれる場合があり、これも水と接触すると酸を生成するので同様に腐食を引き起こす可能性がある。冷媒として環式縮合物に対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
【0037】
本発明の他の一実施形態においては、解重合装置として、図4及び図5に示すような、装置内部に堰を設けて押し出し流れ性能を高めた攪拌膜型蒸発装置6を用いる。攪拌膜型蒸発装置6の内部は環式縮合物凝縮器、不純物凝縮器を経由して設置されている真空ポンプにより減圧されており、断続的に触媒が添加される。原料モノマーの濃縮・縮合で得られた縮合物溶融物である溶融オリゴマーには液体触媒が添加される。添加された触媒は分散装置により溶融オリゴマー中に分散される。そして触媒を分散した溶融オリゴマーは連続的に攪拌膜型蒸発装置6の上部から供給され、反応槽60の内面に沿って流下する。攪拌膜型蒸発装置6内では回転翼61により液膜からなる薄層Aの余分な厚さ部分を除去し、熱媒等で加熱されている反応槽60外面からの伝熱による環式縮合物の生成・蒸発を促進させる。翼61の回転は必要に応じて止めることができる。そして、反応槽60の内壁には堰62が設けられ、これにより薄層A内における縮合物溶融物の流動が制限される。なお、図4及び図5はそれぞれ、翼61を回転軸方向に分断した例、及び翼61に切り欠きを設けた例を示しており、いずれも堰62と翼61との衝突が回避されている。環式縮合物を含む蒸気は攪拌膜型蒸発装置6の外に排出され、環式縮合物凝縮器に供給される。ここで環式縮合物は凝縮して回収され、精製工程に移送される。環式縮合物凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。
【0038】
攪拌膜型蒸発装置6について、反応槽60のケーシング内面での反応液の流れを均質化する観点から、回転軸が地面に垂直なものが望ましい。
【0039】
触媒の添加・分散については、溶融オリゴマーに対して連続的に供給し、反応槽に供給される前にスタティックミキサー等を用いて混合しておくことが望ましい。これは不均質なまま解重合を行うと、局所的に高濃度の触媒領域では光学異性体化が多くなり、反対に低濃度の領域では解重合反応が遅延する場合があるためである。蒸発面を流れ落ちた反応液は装置ドレンから排出される。排出液にはまだ活性が残っている触媒が高濃度で存在するため、廃棄せずに溶融オリゴマー供給系に戻し再利用することも可能である。また、回転軸方向への反応液の排出を円滑にするため、必要に応じて堰62の一部にドレン用の貫通孔を形成しても良い。なお、固体触媒を反応槽60のケーシング内面等に担持させる場合は、触媒の供給操作・装置は不要となる。環式縮合物凝縮器、及び不純物凝縮器としては、上述の遠心薄膜蒸発装置の場合と同様に表面凝縮器が望ましい。
【0040】
次に、本発明のポリエステルの製造方法における連続解重合工程について、図7及び図8に示す各実施形態に基づき説明する。
【0041】
図7に、連続解重合工程の一実施形態として、遠心薄膜蒸発装置から構成された連続解重合装置を用いる乳酸オリゴマーの解重合工程を示す。本実施形態では、オリゴマー供給槽1、触媒供給槽2、遠心薄膜蒸発装置5、ドレン回収槽4、ラクチド凝縮器70、ラクチド回収槽71、不純物凝縮器72、不純物回収槽73、真空ポンプ74、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26、液面計36を備える装置によってラクチドの合成を行う。本実施形態におけるラクチド凝縮器70、不純物凝縮器72については必要に応じてそれぞれ複数段を用意し、かつ直列、並列いずれの設置も可能である。また、オリゴマー供給槽1、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26については必要に応じて省略することができる。
【0042】
バルブ16を開き、送液ポンプ10を稼動させて、縮合物溶融物である溶融オリゴマーをオリゴマー供給槽1から遠心薄膜蒸発装置5の反応槽50内に連続供給する。遠心薄膜蒸発装置5へは触媒供給槽2から必要に応じて、バルブ17を開き、送液ポンプ11を稼動させて触媒が供給される。遠心薄膜蒸発装置5では内部の翼51が回転し、これにより溶融オリゴマーと触媒が混合されると共に混合液は遠心力を受け、反応槽50のケーシング内面に押し付けられて液膜からなる薄層を形成する。反応槽50内の溶融オリゴマー滞留量は液面計36により測定され、一定となるよう送液ポンプ10を調節する。液膜部分には熱電対27が設置されており、液膜温度を測定できる。熱電対27の出力は温度調節器28に送られる。反応槽50のケーシング外面は熱媒加熱装置32を有する熱媒ジャケット33で混合液温度が200℃となるように、温度調節器28の制御を受けて加熱される。上記加熱を受け、触媒との接触により溶融オリゴマーが解重合して生成したラクチドは液膜から蒸発する。バルブ22〜26を開くと、蒸気排気口34から蒸気が排出される。排出された蒸気はラクチド凝縮器70に供給される。ここでラクチドは融点95〜98℃に近い温度まで冷却されて凝縮しラクチド回収槽71に流下して回収された後、バルブ19を開き、送液ポンプ13を稼動させて、精製工程に移送される。ラクチド凝縮器70を出た蒸気は不純物凝縮器72に入り、不純物はメソラクチドの融点53℃に近い温度まで冷却されて凝縮し不純物回収槽73で回収される。不純物凝縮物はバルブ20を開き、送液ポンプ14を稼動させて、系外に排出される。不純物凝縮器72を出たガスは真空ポンプ74を経由して、系外に放出される。遠心薄膜蒸発装置5の外に排出された物質重量が低下してきたら触媒活性が低下してきたものとみなし、送液ポンプ10を一度停止した後、バルブ18を開き、送液ポンプ12を用いて、装置ドレン口35から内部反応液をドレン回収槽4に排出する。ドレン液はバルブ21を開き、送液ポンプ15を稼動させて、系外に排出される。その後、送液ポンプ10を稼動させて溶融オリゴマーの供給を開始すると共に、バルブ17を開き、送液ポンプ11を稼動させて所定量の触媒を添加し、装置運転を再開する。
【0043】
図8に、連続解重合工程の別の一実施形態として、攪拌膜型蒸発装置から構成された連続解重合装置を用いる乳酸オリゴマーの解重合工程を示す。本実施形態では、オリゴマー供給槽1、触媒供給槽2、攪拌膜型蒸発装置6、ドレン回収槽4、ラクチド凝縮器70、ラクチド回収槽71、不純物凝縮器72、不純物回収槽73、真空ポンプ74、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26、スタティックミキサー37を備える装置によってラクチドの合成を行う。本実施形態のラクチド凝縮器70、不純物凝縮器72については必要に応じてそれぞれ複数段を用意し、かつ直列、並列いずれの設置も可能である。また、オリゴマー供給槽1、送液ポンプ10〜15、バルブ16〜26については必要に応じて省略することができる。
【0044】
バルブ16を開き、送液ポンプ10を稼動させて、縮合物溶融物である溶融オリゴマーをオリゴマー供給槽1から攪拌膜型蒸発装置6の反応槽60内に連続供給する。溶融オリゴマーには反応槽60に到達する前に、バルブ17を開き触媒供給槽2から送液ポンプ11を稼動させて触媒が供給され、スタティックミキサー37により溶融オリゴマー中に分散される。攪拌膜型蒸発装置6では上部から反応槽60のケーシング内面に沿って溶融オリゴマーと触媒の混合液が注がれる。攪拌膜型蒸発装置6では内部の翼61が回転し、混合液の液膜からなる薄層の余分な厚さの部分が除去され、均一厚さの液膜を形成する。液膜部分には熱電対27が設置されており、液膜温度を測定できる。熱電対27の出力は温度調節器28に送られる。反応槽60のケーシング外面は熱媒加熱装置32を有する熱媒ジャケット33で混合液温度が200℃となるように、温度調節器28の制御を受けて加熱される。上記加熱を受け、溶融オリゴマーの解重合で生成したラクチドは液膜から蒸発する。バルブ22〜26を開くと、蒸気排気口34から蒸気が排出される。排出された蒸気はラクチド凝縮器70に供給される。ここでラクチドは融点95〜98℃に近い温度まで冷却されて凝縮しラクチド回収槽71に流下して回収された後、バルブ19を開き、送液ポンプ13を稼動させて、精製工程に移送される。ラクチド凝縮器70を出た蒸気は不純物凝縮器72に入り、不純物はメソラクチドの融点53℃に近い温度まで冷却されて凝縮し不純物回収槽73で回収される。不純物凝縮物はバルブ20を開き、送液ポンプ14を稼動させて、系外に排出される。不純物凝縮器72を出たガスは真空ポンプ74を経由して、系外に放出される。攪拌膜型蒸発装置6の反応槽60の底部に到達した混合液はバルブ18を開き、送液ポンプ12を用いて、装置ドレン口35から内部反応液をドレン回収槽4に排出する。ドレン液はバルブ21を開き、送液ポンプ15を稼動させて、系外に排出されるか、必要に応じて触媒供給槽2に戻され、溶融ラクチドに供給される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】乳酸の光学異性化反応を示す図である。
【図2】本発明における遠心薄膜蒸発装置の一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明における遠心薄膜蒸発装置の他の一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明における攪拌膜型蒸発装置の一実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明における攪拌膜型蒸発装置の他の一実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明に係るポリエステルの製造方法の全体工程を説明する図である。
【図7】本発明における連続解重合装置の一実施形態を示す図である。
【図8】本発明における連続解重合装置の他の一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 オリゴマー供給槽
2 触媒供給槽
4 ドレン回収槽
5 遠心薄膜蒸発装置
6 攪拌膜型蒸発装置
10〜15 送液ポンプ
16〜26 バルブ
27 熱電対
28 温度調節器
31 熱媒循環ポンプ
32 熱媒加熱装置
33 熱媒ジャケット
34 蒸気排気口
35 装置ドレン口
36 液面計
37 スタティックミキサー
50 反応槽
51 翼
52 堰
60 反応槽
61 翼
62 堰
70 ラクチド凝縮器
71 ラクチド回収槽
72 不純物凝縮器
73 不純物回収槽
74 真空ポンプ
A 薄層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を、反応槽内で重合触媒の存在下、解重合により環式縮合物に変換し、この環式縮合物を開環重合するポリエステルの製造方法において、縮合物溶融物を外力により薄層化した状態で解重合を行い、その際に薄層内での縮合物溶融物の流動を堰によって制限する前記製造方法。
【請求項2】
縮合物溶融物に重合触媒を添加して分散させた後、これを反応槽内に連続供給し、供給された縮合物溶融物を外力により薄層化した状態で解重合を行う請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
薄層化するための外力が、重力、遠心力又はその両方を含む請求項1又は2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
反応槽と、該反応槽にヒドロキシカルボン酸の縮合物溶融物を供給する手段と、該反応槽に重合触媒を供給する手段とを備え、反応槽内で縮合物溶融物を解重合して環式縮合物に変換する装置であって、縮合物溶融物を反応槽の内壁に沿って薄層化する手段を備え、さらに該内壁に薄層内での縮合物溶融物の流動を制限するための堰を設けてなる前記装置。
【請求項5】
縮合物溶融物を反応槽の内壁に沿って薄層化する手段が、遠心薄膜蒸発装置又は攪拌膜型蒸発装置から構成される請求項4に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−37453(P2010−37453A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202893(P2008−202893)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】