説明

ポリエステルの製造方法

【課題】本発明の目的は色相調整剤であるコバルト化合物をほとんど含まない、色相に優れたポリエステルを安定して生産するポリエステルの製造方法を提供することにある。
【解決手段】エチレン芳香族ジカルボキシレートを主たる繰り返し単位として、整色剤を0.1〜10ppm含有し、且つ含有しているコバルト元素量が10ppm以下であるポリエステルの製造方法であって、下記の条件をすべて満足しているポリエステルの製造方法によって達成される。
(1)整色剤が0.01〜1質量%のエチレングリコール溶液又は分散液の状態でポリエステルに添加されること。
(2)前記整色剤溶液又は分散液がポリエステル製造工程に投入されるまでに100℃〜180℃の範囲に保持されていること。
(3)前記整色剤溶液又は分散液をポリエステル製造工程の前期〜中期の時期にポリエステル反応槽中中に添加すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルの製造方法に関する。さらに詳しくは、色相調整剤としてのコバルト化合物をほとんど含まなくても色相に優れ、且つ、色相の安定したポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、又はその他の成形物に広く利用されている。
【0003】
その中で例えばポリエチレンテレフタレートは、次のような2段階の工程で製造されている。通常まずテレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、ポリエチレンテレフタレートが製造されている。
【0004】
これらのポリエステルにおいては、重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度及び得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。この点について従来から検討の結果、ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ色相の良好なポリエステルが得られるなどの理由からアンチモン化合物が最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用したポリエステルを例えば長時間にわたって連続的に溶融紡糸し繊維化しようとした場合、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生することがある。するとこれが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
またペットボトル用などのポリエステル触媒としては、一般的にゲルマニウム化合物が使用されているが、ゲルマニウムは稀少金属であり、高価な為、得られる製品の価格が高くなってしまうことが問題となっている。
そこで近年では、ポリエステルの重合触媒としてアンチモン化合物やゲルマニウム化合物以外の重縮合触媒として、チタン化合物やアルミニウム化合物などを用いることが多く提案されている(例えば特許文献1〜5参照。)。
【0007】
このようにチタン化合物やアルミニウム化合物を触媒として使用したポリエステルでは、例えば繊維化する場合、口金孔周辺の異物が大きく低減し、繊維製造工程が安定化できる。しかし、一般的にチタン化合物やアルミニウム化合物を触媒として使用したポリエステルはアンチモン化合物やゲルマニウム化合物を触媒として使用したポリエステルに対して黄色味(b値)が高い傾向にあり、この色相を改善する為にはポリエステルの生産性を低下させたり、色相調整剤としてコバルト化合物などを添加する必要があった。更にコバルト化合物の添加は、ポリエステルの溶融熱安定性を低下させ、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題があった。このような問題を解決する為に、色相調整剤として有機系染料を添加する技術が提案されている(例えば特許文献6〜7参照。)。
【0008】
この方法によれば、例えばチタン化合物やアルミニウム化合物を触媒として使用したポリエステルの色相を、コバルト化合物を使用することなく大きく改善することが可能となる。しかしながら、使用する有機系染料はポリエステルの原料として使用するエチレングリコールに溶解、分散することが難しく、ポリエステル製造工程において配管内に沈殿が沈降するなどの問題を引き起こしやすい。
そこでこの問題を解決すべく、色相調整剤分散液の配管内での線速度を高めることが提案されているが、未だ十分な解決には至っていない(例えば特許文献8参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−032135号公報
【特許文献2】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/027166号パンフレット
【特許文献4】特開平10−324741号公報
【特許文献5】国際公開第02/022707号パンフレット
【特許文献6】特開2004−107382号公報
【特許文献7】国際公開第05/003235号パンフレット
【特許文献8】特開2005−023203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は色相調整剤であるコバルト化合物をほとんど含まない、色相に優れたポリエステルを安定して生産するポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、エチレン芳香族ジカルボキシレートが主たる繰り返し単位であり、コバルト元素を実質的に含まない整色剤を0.1〜10ppm含有しているポリエステルの製造方法であって、下記の条件をすべて満足しているポリエステルの製造方法によって上記の課題が解決できる。
(1)整色剤が0.01〜1質量%のエチレングリコール溶液又は分散液の状態でポリエステルに添加されること。
(2)前記整色剤溶液又は分散液がポリエステル製造工程に投入されるまでに100℃〜180℃の範囲に保持されていること。
(3)前記整色剤溶液又は分散液をポリエステル製造工程の前期〜中期の時期にポリエステル反応槽中に添加すること。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば色相調整剤としてコバルト元素を含む化合物を使用することなく、色相に優れたポリエステルを安定して製造する方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルとはエチレン芳香族ジカルボキシレートを主たる繰り返し単位としたポリエステルであって、具体的にはテレフタル酸やナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体に代表される芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを重縮合反応せしめて得られるポリエステルのことである。「主たる繰り返し単位」とはポリエステルの全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上がエチレン芳香族ジカルボキシレート単位であることを示す。他の20モル%以下を占めても良い共重合成分としてはコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどを挙げることができる。
【0014】
ここで本発明のポリエステルの製造方法は、通常知られている製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコールとを直接エステル化反応させる、若しくはテレフタル酸ジメチルの如き芳香族ジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させ、芳香族ジカルボン酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって目的とするポリエステルが製造される。
【0015】
本発明におけるポリエステルはコバルト元素を実質的に含まない整色剤がポリエステル中に0.1〜10ppm含有されている必要がある。ここで、整色剤としては金属成分を含まない有機系染料であることが好ましく、更にアントラキノン系染料であることが耐熱性に優れている点で好ましい。なおここでコバルト元素に実質的に含まないとは、コバルト元素が絶対的に含まれていないということではなく、後述するICP発光分析法など、通常の検出精度を有する分析評価方法を用いてもコバルト元素が検出できないことを表す。
【0016】
本発明におけるポリエステルは、含有しているコバルト元素がポリエステルに対して10ppm以下であることが好ましい。通常コバルト化合物はポリエステルの色相調整剤として使用されるが、含有しているコバルト元素量が10ppmを超える場合、ポリエステルの耐熱性を損なう可能性があり好ましくない。ポリエステル中のコバルト元素量は8ppm以下の範囲が好ましく、5ppm以下の範囲が更に好ましい。実質的にコバルト元素を含む化合物を用いることなくポリエステルを製造することによってこの含有量範囲を達成することができる。
【0017】
更に該整色剤としては、ポリエステルの色相をより好ましくする為に、整色剤のクロロホルム溶液を波長380〜780nm領域において可視・紫外分光光度計によって測定した時の最大吸収波長が520〜640nmの範囲にあることが好ましい。最大吸収波長がこの範囲にある整色剤は青〜紫色を呈し、ポリエステルに添加することによって鮮やかな色相を与える。ここで、整色剤溶液の吸収スペクトルの最大吸収波長が520nm未満の場合は得られるポリエステルの赤味が強くなり、また640nmを超える場合は得られるポリエステルの青味が強くなる為好ましくない。最大吸収波長の範囲は540〜620nmの範囲が更に好ましい。上述のように整色剤の元の色相を手がかりにして、市販の整色剤から適宜選択することができる。
【0018】
本発明のポリエステルの製造方法において、添加される整色剤は下記の条件をすべて満足している必要がある。
(1)整色剤が0.01〜1質量%のエチレングリコール溶液又は分散液の状態でポリエステルに添加されること。
(2)前記整色剤溶液又は分散液がポリエステル製造工程に投入されるまでに100℃〜180℃の範囲に保持されていること。
(3)前記整色剤溶液又は分散液をポリエステル製造工程の前期〜中期の時期にポリエステル反応槽中に添加すること。
【0019】
ここで、前記(1)の整色剤の濃度が0.01質量%未満の場合、ポリエステルに添加するエチレングリコール溶液又は分散液を多量に使用する必要があり、1質量%を超える場合、添加するエチレングリコール溶液又は分散液が非常に少なく、添加量の調整が難しい為好ましくない。整色剤の濃度は0.03〜0.5質量%の範囲が好ましく、0.05〜0.3質量%の範囲が更に好ましい。
【0020】
次に、前記(2)の整色剤溶液又は分散液の温度がポリエステル製造工程に投入されるまでに100℃未満の場合、整色剤がエチレングリコールに十分溶解しない為、整色剤が沈降する可能性があり、180℃を超える場合、エチレングリコールの沸点に近い為、安全上好ましくない。整色剤溶液又は分散液の温度は110〜170℃の範囲が好ましく、120〜160℃の範囲が更に好ましい。また「ポリエステル製造工程に投入されるまでに」、とは整色剤溶液又は分散液を調整する段階、溶液又は分散液状態で保管する段階、ポリエステル製造工程に投入する段階と3つに分けた場合に、少なくとも保管する段階及びポリエステル製造工程に投入する段階で上述の温度に保持されていることを表す。またその保持時間は少なくとも5分以上が好ましく、より好ましくは15分以上、最も好ましくは20分以上である。またより好ましくは整色剤溶液又は分散液を調整する段階、溶液又は分散液状態で保管する段階、及びポリエステル製造工程に投入する段階の全ての段階において100〜180℃の温度に保持されていることである。
【0021】
続いて、前期3の前記整色剤溶液又は分散液はポリエステル製造工程の前期〜中期に添加する必要がある。ここでポリエステル製造工程の前期とは、芳香族ジカルボン酸成分又は芳香族ジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールとのエステル化反応又はエステル交換反応が起こるまでを示し、ポリエステル製造工程の中期とはそのエステル化反応又はエステル交換反応が開始してから終了するまでを示し、後期とはエステル化反応又はエステル交換反応終了後から所定の固有粘度まで重縮合を行った後、チップ又はペレット化の形状で反応装置から排出されるまでを示している。この製造工程の中で、好ましくは、テレフタル酸やナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体に代表される芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールとのエステル化反応あるいはエステル交換反応終了後に添加することが好ましい。ポリエステル製造工程の後期にポリエステル中に添加すると、ポリエステルの重合度が低下する為好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステルの製造方法において、前記整色剤溶液又は分散液の保持においては流速10m/分以上の流速で循環或いは攪拌している事が好ましい。流速10m/分未満の場合、未溶解の整色剤が沈降する可能性があり好ましくない。前記整色剤溶液又は分散液の保持は流速15〜100m/分の範囲が更に好ましい。流速は例えば以下のようにして算出・制御することができる。整色剤溶液又は分散液が循環している場合には、循環している配管の途中に流速計を設置することにより、整色剤溶液又は分散液が攪拌されている場合には、水平方向が円形の攪拌槽を用いている場合には、攪拌翼の回転数、攪拌槽直径等から適宜算出することができる。
【0023】
本発明におけるポリエステルは、含有している真比重5以上の金属元素の含有量が10ppm以下である事が好ましい。ここで真比重5以上の金属元素とは前述した一般的に整色剤として使用されるコバルト元素の他、ポリエステルの触媒として一般的に使用されるアンチモン元素、ゲルマニウム元素、マンガン元素、亜鉛元素などが挙げられる。これらの金属元素の含有量が10ppmを超える場合、ポリエステルの耐熱性の低下、口金孔周辺への異物堆積、ポリエステル中の凝集異物の増加、コストアップ等の問題を引き起こす可能性があり好ましくない。真比重5以上の金属元素の含有量は5ppm以下の範囲が好ましい。実質的に真比重5以上の金属元素を含む化合物を用いることなくポリエステルを製造することによってこの含有量範囲を達成することができる。
【0024】
本発明のポリエステルの製造方法において、使用する重合触媒は、チタン化合物であることが好ましい。ここで、チタン化合物としては特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。チタン化合物としてより好ましいのは、下記一般式(I)で表わされる化合物、一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその無水物とを反応させた生成物、または下記一般式(III)で表される化合物を用いることである。
【0025】
【化1】

[上記式中、R、R、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって、アルキル基又はフェニル基を示し、mは1〜4の整数を示し、かつmが2、3又は4の場合、2個、3個又は4個のR及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもどちらでもよい。]
【化2】

[上記式中、qは2〜4の整数を表わす。]
【化3】

[上記式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、または炭素数6〜20のアリール基、アリールオキシ基である。]
【0026】
ここで、一般式(I)の化合物としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラフェノキシチタン、あるいはこれらのダイマー、トリマー、テトラマー(例えばヘキサアルコキシジチタン、オクタアルコキシトリチタン、デカアルコキシテトラチタン)等が例示される。また、1分子中のカルボキシル基数が2〜4個であるカルボン酸化合物としては、安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、乳酸等が例示され、これらの中でもフタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸などの芳香族ジカルボン酸又は芳香族トリカルボン酸、又はこれらの酸無水物が特に好ましい。上記チタン化合物とカルボン酸化合物とを反応させる場合には、溶媒にカルボン酸化合物を溶解又は分散させ、これにチタン化合物を滴下して、0〜200℃の温度で少なくとも30分間反応させれば良く、溶媒としては上述したアルキレングリコール、特にエチレングリコールが好ましい。
【0027】
本発明におけるポリエステルは5ppm以上のリン化合物が含有されていることが好ましい。通常リン化合物はポリエステルの熱安定剤、触媒活性調整剤としてポリエステルに添加されるが、ポリエステル中のリン化合物量が5ppm未満の場合、ポリエステルの色相、耐熱性が不十分となり好ましくない。ポリエステル中のリン化合物の量は10ppm以上であることが更に好ましい。ここでポリエステル中に含有されているリン化合物としては特に限定はないが、リン酸、ホスホン酸、あるいはこれらの低級アルキルエステルが特に好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル製造方法では、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消剤等を添加してもよい。特に繊維用途に使用する場合は艶消剤として酸化チタンが好ましく添加される。
【0029】
本発明のポリエステルの製造方法によって製造されたポリエステルは、ポリエステル繊維、フィルム、ボトル等に好ましく成形することが出来るが、これら成形品を製造する場合、特別な製造方法は必要とせず、従来公知の溶融成形方法を好ましく選択することが出来る。
【実施例】
【0030】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。尚、固有粘度、色相、チタン含有量及び紡糸口金に発生する付着物の層等については、下記記載の方法により測定した。
【0031】
(ア)有機系整色剤の吸収波長測定、溶液の最大吸収波長測定:
有機系整色剤の吸収波長測定は、整色剤を室温で濃度20mg/Lのクロロホルム溶液とし、光路長1cmの石英セルに充填し、対照セルにはクロロホルムのみを充填して、日立分光光度計U−3010型を用いて、380〜780nmの可視光領域での可視光吸収スペクトルを測定して最大吸収波長を求めた。整色剤2種を混合する場合は合計で濃度20mg/Lとなるようにした。
【0032】
(イ)ポリエステル中のリン元素含有量:
ポリエステルチップをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製 ZSX100e型)を用いて求めた。
【0033】
(ウ)ポリエステル中の真比重5.0以上の金属成分定性分析:
ポリエステルサンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、理学電機工業株式会社製ICP発光分析装置(JY170 ULTRACE)を用いて定性分析し、真比重5.0以上の金属元素の有無を確認した。1ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
【0034】
(エ)ポリエステルの固有粘度:
ポリエステルチップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0035】
(オ)ポリエステルの色相(カラーL値、a値、b値):
ポリエステルチップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、2時間乾燥結晶化処理を行った。その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL及びbを、ミノルタ株式会社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。Lは明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、bはその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
【0036】
(カ)ポリエステル中のジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル組成物チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用いて測定した。
【0037】
[参考例1]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2重量%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。これをチタン触媒Aとする。
【0038】
[参考例2]整色剤溶液/分散液調製
整色剤としてC.I.Solvent Blue 45(クラリアントジャパン社製:アントラキノン系染料、Co元素を含まない)とC.I.Solvent Violet 36(有本化学社製:アントラキノン系染料、Co元素を含まない)を2:1の質量比で計量し、エチレングリコール中にそれぞれの合計濃度が0.1質量%となるように攪拌機と循環ラインの配管を有した整色剤溶解槽の容器内で分散させた。次いで、内温を140℃まで加温して約1時間で溶解後、流速を20m/分の流速で30分間循環させた。整色剤の最大吸収波長を表1に示す。
【0039】
[比較参考例1]整色剤溶液/分散液調製
整色剤溶解槽の温度を50℃に保ったこと以外は参考例2と同様に行った。整色剤の最大吸収波長を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、参考例1で調製したチタン触媒A 0.016部を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込んだ。0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023部を添加、更に参考例2で調製した整色剤0.2部(得られるポリエステルの全重量に対して2ppmとなる量)を循環ラインの分岐ラインから添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0042】
その後反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール含有量が1.0重量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。
上述したポリエステル製造工程を1サイクルとし、1日に5サイクルの頻度で3日間(計15サイクル)実施した。1サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の結果を表2に示す。
【0043】
[実施例2]
原料をテレフタル酸ジメチルから2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルに変更して、固有粘度0.60、ジエチレングリコール含有量が1.0重量%であるポリエステルを得たこと以外は実施例1と同様に行った。1サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の結果を表2に示す。
【0044】
[比較例1]
整色剤を比較参考例1で調製した整色剤に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。1サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の結果を表2に示す。
【0045】
[比較例2]
整色剤を比較参考例1で調製した整色剤に変更したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を1サイクル目、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示す通り、本発明(実施例1−2)では15サイクル分のポリエステルを製造しても1サイクル目と色相が大きく変わらず、安定した色相のポリエステルを得ることが出来るが、本発明の範囲を外れたもの(比較例1−2)では15サイクル分のポリエステルを製造すると色相が悪化し、色相が安定しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によればコバルト化合物を使用することなく、連続的に製造しても安定した色相のポリエステルを生産することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン芳香族ジカルボキシレートが主たる繰り返し単位であり、コバルト元素を実質的に含まない整色剤を0.1〜10ppm含有しているポリエステルの製造方法であって、下記の条件をすべて満足しているポリエステルの製造方法。
(1)整色剤が0.01〜1質量%のエチレングリコール溶液又は分散液の状態でポリエステルに添加されること。
(2)前記整色剤溶液又は分散液がポリエステル製造工程に投入されるまでに100℃〜180℃の範囲に保持されていること。
(3)前記整色剤溶液又は分散液をポリエステル製造工程の前期〜中期の時期にポリエステル反応槽中に添加すること。
【請求項2】
前記整色剤溶液又は分散液を流速10m/分以上の速度で循環、或いは攪拌していることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
整色剤がアントラキノン系染料である、請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
整色剤が、波長380〜780nm領域において可視・紫外分光光度計によって測定されたクロロホルム溶液での最大吸収波長領域が520〜640nmの範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
ポリエステル中に含有される真比重5以上の金属元素の含有量が10ppm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
ポリエステルの重合反応に使用する触媒がチタン触媒である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
ポリエステルが5ppm以上のリン元素を含有している、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−284556(P2007−284556A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113233(P2006−113233)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】