説明

ポリエステルの製造方法

【課題】リン化合物の存在下、かつ単数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、ポリエステルを連続的に製造する方法において、経済性の高い方法で、かつ得られるポリエステルの品質を低下させることなく、該ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを回収し循環再使用できる方法を提供すること。
【解決手段】製造工程より留出するグリコールを蒸留により分留して循環再使用する、リン化合物の存在下で行うポリエステルの製造方法において、下記要件を同時に満たすことを特徴とするポリエステルの製造方法。
(1)リン化合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽へのエステル化反応生成物の移送ラインに添加すること
(2)上記分留をエステル化反応槽より留出する留出分と重縮合反応槽より留出する留出分を区分して処理すること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの連続製造方法に関する。さらに詳しくは、経済的に実施することができて、かつ高品質なポリエステルが安定して得られるポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その優れた特性からフィルム、繊維、ボトルをはじめ様々な用途に用いられている。なかでもポリエチレンテレフタレートは機械的強度、耐薬品性、寸法安定性に優れることから、一般的に使用されている。
【0003】
代表的なポリエステルである芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを主構成成分とするポリエステルは、例えばPETの場合には、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化反応もしくはエステル交換反応によってビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのオリゴマー混合物を製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて液相重縮合させ製造されている。これらの製造法において、テレフタル酸を使用する、いわゆる直接重合法は、原料コストの点で有利なことから広く実施されている。
【0004】
最も代表的なポリエステルであるPETは、近年、世界的な生産プラントの大増設に伴い、汎用製品については厳しい価格競争が強いられており、大幅な生産コストの低減が強く嘱望されている。
【0005】
上記直接重合法は、一般にエステル化反応は2〜3個の反応槽を有した多段エステル化方式により実施されているが、上記生産コスト低減に対する要求に答える方策の一つとして該エステル化反応槽を単数とした方式(以下、単缶エステル化法と称する)が注目されている。
【0006】
一方、上記の直接重合法においては、ポリエステルの製造は芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調製槽でスラリーを調合しエステル化反応槽に供給されエステル化反応が行われる。芳香族ジカルボン酸が固体でありグリコールに不溶であることより、これらの原料はスラリー状でエステル化反応槽に供給されるが、このスラリーの流動性を確保するため、理論必要量以上のグリコールを原料として供給し、過剰部分を回収する方法が一般的である。また、エステル化されたオリゴマーは重縮合反応槽で脱グリコール反応によりポリエステルが生成される。これらの過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールは回収され再使用する必要がある。これらのグリコールの回収、再使用の方法はポリエステルの製造コストに大きく影響を及ぼすので、各種方法が開示されている。
【0007】
エステル化反応槽の留出液の低沸点留分を精留除去しスラリー調製槽に循環し再使用する方法(特許文献1参照)、エステル化反応槽から取り出されるエチレングリコールの低沸点留分を精留除去しエチレングリコール貯槽に供給すると共に、この一部を重縮合反応槽に設けられた湿式コンデンサーの循環液として用い凝縮液をエチレングリコール貯槽に供給し、該エチレングリコール貯槽に滞留したエチレングリコールをスラリー調合用に再使用する方法(特許文献2参照)、重縮合反応槽より発生する留出液を湿式コンデンサーにて凝縮し、エステル化反応槽に設けられた蒸留塔へ送り低沸点留分を除いた後、スラリー調製槽に戻して再使用する方法(特許文献3参照)、重縮合反応槽で発生する留出液を連続的に単蒸留し、この連続単蒸留缶の底部抜き出し液を回分式単蒸留缶に送液して単蒸留を行い、初留部分を除いた蒸留液を重縮合反応ガスの凝縮用冷媒液の一部と使用する方法(特許文献4参照)、エステル化反応槽留出液および重縮合反応槽留出液の一部は低沸点留分を精留除去し、重縮合反応槽留出液の残りの一部は低沸点留分と高沸点留分を除去し、スラリー調合に循環し再使用する方法(特許文献5参照)、エステル化反応2段階目の反応槽から取り出される留出液を蒸留精製せずに直接、原料の一部、または全量として再使用する方法(特許文献6参照)、重縮合反応槽からの留出液をフラッシュ蒸留により低沸点留分を精留除去して原料グリコールの一部として再使用する方法(特許文献7参照)が開示されている。
【特許文献1】特開昭53−126096号公報
【特許文献2】特開昭55−56120号公報
【特許文献3】特開昭60−163918号公報
【特許文献4】特開平8−325363号公報
【特許文献5】特許第3424755号公報
【特許文献6】特開平10−279677号公報
【特許文献7】WO01/083582号公報
【0008】
上記技術の中で特許文献2および3で開示されている方法は、品質と経済性のバランス、すなわちコストパフォーマンスが優れているが、前述の背景においてさらなるコストパフォーマンスの優れたポリエステルの製造技術の構築が嘱望されている。また、該方法は、例えば、回収グリコールの移送ラインの詰り発生が起こることがある等の長期にわたり安定して運転することに関しては課題が残されていた。
【0009】
また、上記方法で回収されたグリコールの中には、例えば、反応で生成した水が完全に除去されずに再使用されるケースも含まれている。該方法においては、該回収グリコールの使用は、例えばエステル化反応の進行に影響し、結果としてポリエステルの品質や生産性に影響が及ぶ。しかしながら、これらの特許文献において開示されている技術は、原料グリコールの回収再使用方法に関する技術の開示であり、該回収グリコールを再使用する製造方法におけるポリエステルの品質安定化のためのポリエステル製造工程における反応条件等の最適化に関しては何ら言及されていない。
【0010】
また、ポリエステルの製造においては、エステル化やエステル交換反応触媒に用いられる金属化合物の封鎖、ポリエステル製造工程で例えば金属化合物との反応により微粒子を析出させるいわゆる内部粒子法あるいはポリエステルに静電密着性を付与するために添加する金属化合物の封鎖や静電密着特性の向上のため等にリン化合物が添加される場合が多い。これらのリン化合物はその一部が留出グリコールに混入する。該留出グリコールに混入したリン化合物は再使用の際に上記反応に影響するのでその混入を阻止あるいは制御する必要があるが、上記の特許文献において開示された技術では、循環再使用されるグリコールへのリン化合物の混入に関しては全く配慮がなされていない。
【0011】
リン化合物を使用するポリエステルの製造方法の一つである特定構造のリン化合物を用いた内部粒子法によるポリエチレンテレフタレートの製造方法おいて、リン化合物の一部がエチレングリコールと共に系外に留出し、このエチレングリコールを再使用すると、エステル交換反応や析出粒子の粒子径や粒子量が変化しフィルムとしたとき、望みの表面特性を与えるポリエステルが再現よく得られないという課題が知られている。該課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程より留出したエチレングリコールをアルカリ化合物の存在下で加熱処理後蒸留したエチレングリコールを使用する方法(特許文献8)、留出エチレングリコールを同容量以上の水を加えて加熱して、混入したリン化合物を水と共に留去させて得たエチレングリコールを使用する方法(特許文献9参照)および留出エチレングリコールに対して0.2〜10wt%の水を添加し加熱処理した後、蒸留して回収したエチレングリコールを使用する方法(特許文献10参照)が開示されている。
【特許文献8】特開昭57−14619号公報
【特許文献9】特開昭57−14620号公報
【特許文献10】特開昭59−96124号公報
【0012】
上記方法はリン化合物の回収エチレングリコールに混入を阻止する方法としては有効な方法であるが、経済性の点で不利であるという課題を有する。従って、リン化合物を使用するポリエステルの製造方法において、留出グリコールに混入するリン化合物を経済性の高い方法で除去する等により、グリコールが循環再使用できる方法の確立が嘱望されている。
【0013】
このように、上記の従来方法に於いては、いずれもそれぞれ問題があった。
【0014】
また、一般に直接エステル化法によるポリエステルの製造は、エステル化反応と重縮合反応の2段階で行われる。ポリエチレンテレフタレートの製造において、製造工程を安定化させるためには、エステル化反応によって得られる中間体である低重合体のカルボキシル末端基とヒドロキシル末端基の比率(以下「末端基比」と記載)を調整することが重要とされている。
【0015】
例えば、末端基比が大きく変動すると重縮合工程において重縮合反応の進行速度が変動するために、エチレングリコール除去の負荷変動を生じたり、ポリマーが所定の重合度に到達しない等の問題が発生する。品質においてはポリマーの色相が変化するような現象が生じる。
【0016】
上記単缶エステル化法においては、多段エステル化方式に比べて、例えば、反応物のショートパスが増大する等の現象がありエステル化反応の制御の精度が低下するという課題を有している。さらに、上記したポリエステルの製造工程で留出するグリコールを回収して循環使用する方法においては、該対応によるポリエステルの品質変動が加味されるので均質なポリエステルを製造するためには、エステル化反応の制御精度を高める必要がある。
【0017】
テレフタル酸とエチレングリコールからなるスラリーをスラリー調製槽で調製してエステル化反応槽に連続的に供給する過程において、スラリー調製槽からエステル化反応槽へスラリーを移送する配管中に、検出部が直管型のスラリー濃度計を設置し、該スラリー濃度計により検出されるスラリー濃度の変化に応じて、スラリー調製槽へのテレフタル酸および/またはエチレングリコールの供給量を増減させることにより、エステル化反応槽に供給するスラリーのテレフタル酸とエチレングリコールとの比率を制御することによりエステル化反応を安定化させる方法が開示されている(特許文献11参照)。
【特許文献11】特開2004−75956号公報
【0018】
上記特許文献で開示されている技術は、単缶エステル化法におけるエステル化反応の安定化方法としては有効な方法であり、エステル化反応物のエステル化率が94.4〜95.7%の範囲に抑えられることが記載されている。エステル化反応率はポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の両方より求められ、エステル化反応においては、一般には、該カルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の変化は連動しており、エステル化反応率の変動率はカルボキシル末端基濃度単独の変動率よりも小さくなる。従って、ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の安定化の要求に関しては、該スラリー密度制御のみでは不十分な場合がある。また、該方法は、長時間の連続運転を行う場合には、スラリー濃度検出器部がスラリー中の固形分であるジカルボン酸により閉塞する事態の生ずる場合があるという課題を有している。例えば、スラリー濃度計を並列に2式備え、それらのいずれかを使用するように切り替え可能として、一定時間毎に交互に使用する方法が開示されている。このような背景において、従来公知の方法より高い精度を有し、しかも長期運転しても信頼性が低下しない制御方法の構築が嘱望されている。
【0019】
一方、複数個のエステル化反応槽を用いた多段エステル化方式の製造方法に関しても該ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の制御方法に関して以下に示すような技術が開示されている。
【0020】
一般にポリエステル製造方法においては、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなるとポリエステルの加水分解性等の安定性が悪化することや該ポリエステルのカルボキシル末端基濃度は、ポリエステルの製造において重縮合反応工程へ供給される最終エステル化反応生成物であるオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の影響を大きく受けることより、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度を低くした状態で重縮合工程に供給することにより製造されている。例えば、エステル化反応率が90〜98%になるように、エステル化反応時の温度、圧力、滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基濃度を20〜50eq/tonの範囲内の一定量となるように制御する方法(特許文献12参照)、エステル化反応率が92〜98%の範囲であり、かつ全末端基中のカルボキシル末端基の割合が35%以下のオリゴマーとし、これを減圧下に重縮合反応させてポリエステル中のカルボキシル末端基濃度を35eq/ton以下にする方法(特許文献13参照)、第1段重縮合反応時の温度、滞留時間及びエチレングリコール供給量からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応条件を調節するか、もしくはエステル化反応物のエステル化反応率と共に第1段重縮合反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基量を15〜50eq/tonの範囲内の一定値となるように制御する方法(特許文献14参照)、最終反応容器へ供給されるポリエステル低重合体のカルボキシル末端基濃度を9〜30eq/tonとする方法(特許文献15)が開示されている。
【特許文献12】特開平10−176043号公報
【特許文献13】特開平10−251391号公報
【特許文献14】特開平11−106498号公報
【特許文献15】特開2001−329058号公報
【0021】
しかしながら、前記要求を満たすためには、上記した方法が必ずしも最適でなく、重縮合反応工程に供給される最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を高くすることが好ましい。該方法においては、上記方法に比べてオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が後続の重縮合反応の反応進行やポリエステル品質に対して極めて大きく影響するために、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動をより高精度に抑制する必要がある。
【0022】
例えば、該最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制する方法として、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じてエステル化工程でのエステル化率を調節する方法、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じて第1重縮合反応時の滞留時間を調節する方法および製品ポリマーの色調および極限粘度を測定してその測定値の目標値に対する偏差に応じて第1段重縮合反応缶へのエチレングリコールの供給量を調節することにより、製造されるポリエステルの色調(b値)の標準偏差が平均値の0.05倍以内に保ち、かつ極限粘度の標準偏差が平均値の0.005倍以内に保つ方法が開示されている(特許文献16〜18参照)。
【特許文献16】特許3375403号公報
【特許文献17】特開2004−75955号公報
【特許文献18】特開2004−75957号公報
【0023】
しかし、上記の方法では、製品ポリマーの色調を測定した時点では、すでに重縮合反応が進行しているので、エステル化率の調節が遅れるために、上記問題が解消されているとはいえない。
【0024】
上記課題を解決する方法として、エステル化反応生成物の電気伝導度をオンライン測定してその結果によりエステル化反応を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献19〜22等参照)。該方法は、エステル化反応生成物の電気伝導度とエステル化反応度が比例することを利用してエステル化反応を制御する方法であり、エステル化反応度を直接測定している点で、前記した方法よりは一歩前進した制御方式である。しかしながら、該方法は、エステル化反応により生ずる水や未反応のエチレングリコールの影響でエステル化反応生成物の電気伝導度に変動を与える等の外乱の影響が大きいという課題を有している。
【特許文献19】特公昭51−41679号公報
【特許文献20】特開昭48−103537号公報
【特許文献21】特開昭52−19634号公報
【特許文献22】特公平5−32385号公報
【0025】
上記課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程中の原料、反応中間生成物または最終生成物のうち1種以上についての近赤外線特性を連続的に測定し、得られた分光スペクトルから測定物中の物性を解析し、解析データに基づいて製造工程中の反応条件を制御する方法が開示されている(特許文献23参照)該特許文献において、ポリエステル連続製造工程の重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口に近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、常時抜き出し口を通過するポリエステルのカルボキシル末端基濃度を連続的に測定すると供に、第2エステル化反応槽の出口にも近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、該検出端子部を通過するポリエステルオリゴマーのエステル化率を連続測定し、目標エステル化率になるように第2エステル化反応槽温度調節器へフィードバックし、生成ポリエステルのカルボキシル末端基濃度変化を抑制する方法や、赤外線分光吸収を連続測定し反応を制御する方法(特許文献24参照)が開示されている。これらの方法は、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を安定化する制御方法としては有効な方法であるが、長期にわたり連続生産をした場合は、検出器の汚染や検出部の温度や圧力等の環境変化等により測定の変動が発生する等の課題があり長期連続運転における信頼性が劣ることがあるという課題を有する。そのために、より単純化された制御方法で精度よく、かつ長期運転した時の信頼性の高い方法の構築が嘱望されている。
【特許文献23】特開平11−315137号公報
【特許文献24】特開平5−222178号公報
【0026】
このように、上記の従来方法に於いては、いずれもそれぞれ問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、上記従来の有する問題点に鑑み、リン化合物の存在下、かつ単数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、ポリエステルを連続的に製造する方法において、経済性の高い方法で、かつ得られるポリエステルの品質を低下させることなく、該ポリエステルの製造工程で留出されるグリコールを回収し循環再使用できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するために鋭意検討し本発明を完成した。すなわち、本発明は、リン化合物の存在下で行うポリエステルの製造方法であり、スラリー調製槽で調製されたジカルボン酸とグリコールとからなるスラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、単数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、引き続き得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に連続的に供給して重縮合を行い、かつ、この製造工程より留出するグリコールを蒸留により分留して循環再使用するポリエステルの製造方法において、下記要件を同時に満たすことを特徴とするポリエステルの製造方法。
(1)リン化合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽へのエステル化反応生成物の移送ラインに添加すること
(2)上記分留をエステル化反応槽より留出する留出分と重縮合反応槽より留出する留出分を区分して処理すること
【0029】
この場合において、エステル化反応槽より留出する留出分(A)から、水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分のグリコールを循環再使用することが好ましい。
【0030】
また、この場合において、重縮合反応槽より留出する留出分(B)から、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分のグリコールを循環再使用することが好ましい。
【0031】
また、この場合において、上記分留し回収したグリコールの水分量を制御することにより、上記スラリー中の水分量をX±1.1質量%(但しXは1以上2以下の数を表す)になるように制御することが好ましい。
【0032】
また、この場合において、エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±1.5%以内になるように制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によるポリエステルの製造方法は、リン化合物の存在下で、かつ単数のエステル化反応槽によりポリエステルを連続的に製造する方法において、該ポリエステルの製造工程で留出されるグリコール中に混入するリン化合物を経済性の高い方法で除去しており、該リン化合物によるポリエステルの重縮合触媒活性や品質に対する悪影響を回避し循環再使用できるので、ポリエステルの品質を低下させることなく、該回収の運転経費の削減と設備の簡略化が達成できるという利点を有する。該回収グリコールの循環再使用によりポリエステルの製造コストを大幅に低減することができる。さらには該製造方法において、重縮合生産性を低下させることなく、かつ高品質のポリエステルを長期に渡り安定して連続生産できるという極めて顕著な効果を奏する。従って、極めてコストパフォーマンスの高いポリエステルの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明のポリエステルの製造方法の実施形態を説明する。
【0035】
本発明にいうポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルであって、好ましくはエチレンテレフタレート単位を70モル%以上含む線状ポリエステルであり、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含む線状ポリエステルである。
【0036】
前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としてのジカルボン酸としては、オルソフタル酸、イソフタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル―4,4―ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン―p,p’―ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸およびその機能的誘導体、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはその機能的誘導体、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸およびその機能的誘導体、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸およびその機能的誘導体などが挙げられる。
【0037】
前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としてのグリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族グリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノールなどの脂環族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0038】
前記ポリエステルの共重合に使用される環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオンラクトン、β−メチル−β−プロピオンラクトン、γ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0039】
さらに、前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としての多官能化合物としては、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などを挙げることができ、アルコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトールを挙げることができる。以上の共重合成分の使用量は、ポリエステルが実質的に線状を維持する程度でなければならない。また、単官能化合物、例えば安息香酸、ナフトエ酸などを共重合させてもよい。
【0040】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン―10―オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性などを向上させることが可能である。
【0041】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性などを向上させることが可能である。
【0042】
本発明においては、上記ポリエステルを直接エステル化法で、かつ単数のエステル化反応槽を用いて連続法で実施するのが好ましい。
【0043】
直接エステル化法はエステル交換法に比べ経済性の点で有利である。また、連続式重縮合法は回分式重縮合法に比して品質の均一性や経済性において有利である。また、単数のエステル化反応槽でエステル化反応を行うことは経済性において有利である。すなわち、ジカルボン酸とグリコールとからなるスラリーをスラリー調製槽で調製して該スラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、単数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、引き続き得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に連続的に供給して重縮合を行い、ポリエステルを連続的に製造するのが好ましい。
【0044】
本発明においては、上記ポリエステルの製造をリン化合物の存在下で行うのが好ましい。該リン化合物の添加は重縮合触媒の安定化、静電密着性の向上あるいは、例えば、アルミニウム化合物を主成分とした重縮合触媒においては、重縮合触媒活性の増大等の効果を付与することができる。
【0045】
また、本発明においては、該ポリエステルの製造工程より留出するグリコールを蒸留により分留して循環再使用するのが好ましい。該対応によりポリエステルの製造コストを大幅に低減することができる。
【0046】
また、本発明においては上記ポリエステルの製造方法において、下記要件を同時に満たすことが好ましい。
(1)リン化合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽へのエステル化反応生成物の移送ラインに添加すること。
(2)上記分留をエステル化反応槽より留出する留出分と重縮合反応槽より留出する留出分を区分して処理すること。
【0047】
さらに、本発明においては、エステル化反応槽より留出する留出分(A)から、水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分のグリコールを循環再使用することが、また、重縮合反応槽より留出する留出分(B)から、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分のグリコールを循環再使用することが、さらに、上記分留し回収したグリコールの水分量を制御することにより、上記スラリー中の水分量をX±1.1質量%(但しXは1以上2以下の数を表す)になるように制御することがより好ましい実施態様である。
【0048】
本発明においては、上記要件を満たせば、エステル化および重縮合工程の反応槽サイズや各工程の製造条件等は限定なく適宜選択できる。例えば、テレフタル酸1モルに対して1.2〜2.5モル、好ましくは1.3〜2.2モルのエチレングリコ−ルが含まれたスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、1個のエステル化反応槽を用い反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施するのが好ましい。エステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜300KPaが好ましく、20〜280kPaがより好ましく、40〜260kPaがさらに好ましい。引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られているが、コスト低減より1段階あるいは2段階方式が好ましい。重縮合反応条件は、例えば、2段階方式における第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は10〜2.7KPa、好ましくは2.7〜0.27KPaで、第2段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は1.3〜0.13KPa、好ましくは0.65〜0.065KPaである。
【0049】
以下、上記製造方法の詳細について言及する。
【0050】
リン化合物の存在下でポリエステルの重縮合を実施した場合には、重縮合反応系に添加したリン化合物の一部が留出するグリコール等の留出物と共に留出する。該留出分に含まれるリン化合物は、ポリエステルの製造工程に戻されるとポリエステルの重縮合触媒活性やポリエステル品質に対して悪影響を及ぼすことがある。そのために、該留出グリコールを再使用する場合には、回収グリコール中へのリン化合物の混入を阻止あるいは制御する必要がある。例えば、アルミニウム化合物を重縮合触媒系に用いた場合は、リン化合物の量は重縮合触媒活性に大きく影響する。また、リン化合物としてヒンダードフェノール残基を含んだ化合物を用いた場合は、上記の留出するリン化合物の構造変化が起こり、該変質したリン化合物がポリエステルに混入するとポリエステルの昇温時結晶化温度(Tc1)が低下する。
【0051】
例えば、PETはその優れた透明性、機械的強度、耐熱性、ガスバリヤー性などの特性により炭酸飲料、ジュース、ミネラルウオータなどの容器の素材として採用されておりその普及はめざましいものがある。これらの用途において、ポリエステル製ボトルに高温で殺菌した飲料を熱充填したり、また飲料を充填後高温で殺菌したりするが、通常のポリエステル製ボトルでは、このような熱充填処理時等に収縮、変形が起こり問題となる。ポリエステル製ボトルの耐熱性を向上させる方法として、ボトル口栓部を熱処理して結晶化度を高めたり、また延伸したボトルを熱固定させたりする方法が提案されている。特に口栓部の結晶化が不十分であったり、また結晶化度のばらつきが大きい場合にはキャップとの密封性が悪くなり、内容物の漏れが生ずることがある。
【0052】
また、果汁飲料、ウーロン茶およびミネラルウオータなどのように熱充填を必要とする飲料の場合には、プリフォームまたは成形されたボトルの口栓部を熱処理して結晶化する方法が一般的である。このような方法、すなわち口栓部、肩部を熱処理して耐熱性を向上させる方法は、結晶化処理をする時間・温度が生産性に大きく影響し、低温でかつ短時間で処理できる、結晶化速度が速いPETであることが好ましい。一方、胴部についてはボトル内容物の色調を悪化させないように、成形時の熱処理を施しても透明であることが要求されており、口栓部と胴部では相反する特性が必要である。また、結晶化速度が速すぎると結晶化が不均一になり口栓部に歪が生じ、充填液の液漏れに繋がる。
【0053】
このような問題を解決策として、PETの結晶化速度を最適化する方法があり、結晶化速度の尺度であるTc1を最適範囲にすることが知られている。適切な結晶化速度はボトルの生産工程の装置等により微妙に変化するが、市場より150〜170℃のTc1の製品が望まれている。上記のアルミニウム化合物とリン化合物とからなる重縮合触媒系は、例えば、従来より広く用いられているアンチモン系重縮合触媒とは異なり最適Tc1である150〜170℃のPETが得られるという特徴を有するが、回収グリコール中にリン化合物が混入すると得られるポリエステルのTc1の低下に繋がり、本発明の重縮合触媒系の有する優れた特性の悪化に繋がる。
【0054】
また、チタン化合物や錫化合物等のリン化合物により封鎖される重縮合触媒においては、リン化合物の量や質の変動は重縮合触媒活性に大きく影響する。
【0055】
本発明においては、前述したごとくリン化合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽へのエステル化反応生成物の移送ラインに添加するのが好ましい。該対応により、エステル化反応槽より留出する留出分にはリン化合物が含まれず、ポリエステルの製造工程より留出するリン化合物の混入は重縮合反応槽より留出する留出分のみに限定される。従って、本発明においては、上記分留をエステル化反応槽より留出する留出分と重縮合反応槽より留出する留出分とを区分して行うのが好ましい。両者を区分して処理することは、後述のごとく経済性、すなわち、運転経費の節減と設備の簡略化に大きな影響を及ぼす。
【0056】
エステル化反応槽より留出する留出分(A)は、リン化合物が混入しないので、水を主体とした低沸点留分を分留除去し、残留分をポリエステル製造用のグリコールとして再使用することが好ましい。
【0057】
一方、重縮合反応槽より留出する留出分(B)は、リン化合物が混入し、かつ該混入したリン化合物はグリコールより高沸点であるので、留出分(A)と同様に低沸点留分を分留除去しただけではリン化合物を除去することができずに残留分中に含まれる。従って、該残留分を循環再使用した場合は、該混入したリン化合物が、ポリエステル製造工程に循環されることになり、重縮合触媒活性や得られるポリエステルのTc1の低下が引き起こされることになる。従って、該留出分(B)は、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分をポリエステル製造用のグリコールとして循環再使用することが好ましい。
【0058】
留出分(A)も留出分(B)と同様に低沸点留分と高沸点留分を分留除去した中留分をエステル化反応用のグリコールの一部または全量として再使用した場合は、留出分(A)の処理が過剰となり設備および運転経費の増大に繋がり経済的に不利となり好ましくない。
【0059】
ポリエステルの製造条件により若干の変動はあるものも、直接エステル化法においては、ポリエステル製造工程において留出する留出分量の90〜95%がエステル化工程で発生する。従って、留出分(A)は留出分(B)に比して量が圧倒的に多く、該圧倒的大多数を占める留出分については、低沸点留分カットのみを行えばよく、かつ後述のごとくこの蒸留は留出分自体が有する熱量により蒸留できるので、運転経費の削減と設備の簡略化に対する効果が大きく発現される。従って、上記のごとく留出分(A)と留出分(B)を区分して蒸留処理を実施することの経済的効果は大きいといえる。
【0060】
本発明においては、上記分留方法は限定されないが、エステル化反応槽からの留出分(A)の低沸点留分の分留除去は留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好ましい。従って、インラインで行うのが好ましい。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要において、配管の加熱や熱交換により補助加熱することも排除はされない。
【0061】
上記のインラインでグリコールを回収する方法においては、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分を循環再使用するのが好ましい。この場合においては、経済性の点より水分は完全に除去せずに循環再使用するのが好ましい。
ただし、該回収グリコール中の水分量はエステル化反応の変動に繋がるので制御が必要である。該回収グリコール中の水分量の最適化に関しては後述する。
【0062】
上記のインラインでグリコールを回収する方法においては、該回収において用いられる蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させること(以下、蒸留塔液循環法と称する)が好ましい実施態様である。該方法の実施により、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定生産が可能となる。ポリエステル製造工程で留出するグリコール中には、飛沫同伴等によりポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分が含まれる。該固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれポリエステル製造工程に循環される。従って、ポリエステルの製造を長期に渡り連続して実施した場合に、該残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分あるいは送液ライン中で析出する固形分により該送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し安定運転が困難な場合があるという課題を有しておりその改善が嘱望されていた。本発明は上記の極めて単純な方法で該課題を解決したものである。上記蒸留塔液循環法の実施により上記課題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和により固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。すなわち、化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が、また、物理変化としては固形分の結晶性等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
【0063】
従って、残留分の液温および該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置および循環量等が重要となる。該条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。両者のバランスにおいて適宜決定される。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。
【0064】
また、蒸留塔の液面の制御について例えば、エステル化反応槽から留出するグリコールの他に蒸留塔に加えるグリコールの流量を制御することが考えられる。蒸留塔に加えるグリコールは新規グリコール、重合工程で発生し回収したグリコール、他の蒸留塔から留出したグリコール、別の系から回収したグリコールのいずれを用いてもよい。蒸留塔に加えるグリコールの流量は直接的制御する必要は無く、グリコール貯留槽やその前工程の液面や温度などを制御することにより間接的に流量を一定範囲内で規定するものであってもよい。また、蒸留塔からの抜き出し量により液面制御することも考えられる。この場合、抜き出し量は先にも述べたように貯留量を循環量に対し25〜70質量%に保ち、該循環量を残留分の30〜75質量%に保つ範囲内であることが好ましい。抜き出し量は直接的に流量制御する必要は無く、抜き出した液が流入する工程やその後工程の液面や温度などにより間接的に流量を一定範囲内に規定するものであってもよい。
【0065】
また、循環液温度は、160〜180℃がより好ましい。164〜173℃がより好ましく、168〜175℃がさらに好ましい。該温度維持および温度制御のために循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。該温度が160℃未満の場合は、ライン詰り頻度が高くなる。逆に、180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がり経済的に不利となる。また、蒸留精度の低下に繋がる。
【0066】
上記方法に用いられる蒸留塔の性能は限定されないが、8〜18段が好ましい。9〜15段がより好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。
【0067】
上記のエステル化反応槽より留出するグリコールの場合は、該グリコールに含まれる固形分は融点が低く、エステル化反応工程で反応系に溶解、反応してポリエステルに取り込まれるので除去する必要はない。ただし、前述した蒸留塔液循環法等による固形分析出による蒸留残留分の送液ラインの詰り防止を行うことが好ましい。
【0068】
一方、重縮合反応槽からの留出分(B)は、減圧系であるので、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収される。従って、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。従って、該留出分(B)の蒸留処理はインライン処理でなく、オフライン処理で行ってもよい。また、回分処理であってもよい。
【0069】
また、重縮合反応槽より留出する留分に含有される固形分は融点が高く、回収グリコールに含有されてポリエステル製造工程に循環されるとポリエステル製造工程でポリエステルに反応せずに異物の発生に繋がる場合があるので好ましくない。そのために、該固形分を回収グリコールに混入させない方策を取り入れるのが好ましい。該方策は限定されないが湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収された凝縮液中の固形分を除去し蒸留塔に供給するのが好ましい。該固形分の除去方法も限定されない。例えば、濾過、遠心分離あるいは自然沈降等およびこれらを組み合わせた方法で実施するのが好ましい。
【0070】
上記の留出分(B)の分留は1基の蒸留塔で低沸点留分と高沸点留分を同時に分留してもよいし、蒸留塔を2基に分割し、水を主体とした低沸点留分を分留除去した後に、再度分留してポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去してもよい。後者の方が効率的な蒸留が行えるので好ましい。該分留は回分式で実施してもよい。また、該分留における蒸留塔の性能は限定されないがトータルで20〜50段が好ましい。
【0071】
上記方法で回収された回収グリコールの再使用方法は限定されない。回収グリコール貯槽に蓄え、再使用するのが好ましい。この場合、蒸留塔下部の体積を大きくしてこの部分に貯留を回収グリコール貯槽への供給量を調整してもよい。また、回収グリコール貯留することなく直接スラリー調製槽に供給してもよい。また、エステル化反応槽からの留出物および重縮合反応槽からの留出物のそれぞれよりの回収グリコールを区分して取り扱ってもよいし、一括して取り扱ってもよい。
【0072】
本発明においては、スラリー調製に用いられる回収グリコールの使用割合は限定されないが、ポリエステル製造工程で発生するグリコールの全量を使用し、不足分を新規のグリコールで供給する自己バランス方式で実施するのが好ましい。
【0073】
本発明において、回収されるグリコールがエチレングリコールである場合の低沸点不純物は水、アセトアルデヒド、2−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルセロソルブあるいはこれらの化合物以外の沸点が165℃以下のものが主たる対象となる。
【0074】
上記グリコールの回収方法において、回収グリコール中の水分量の制御はポリエステルの品質や製造コストに影響を及ぼすので重要要因である。すなわち、水分量が多いと回収コストは低減されるが、エステル化反応の変動に繋がり、結果としてポリエステルの品質変動に繋がる。逆に、水分量を少なくするとポリエステルの品質変動に対しては好ましいが回収コストの点で不利になる。
【0075】
従来技術においては、品質重視の観点より殆ど実質的に無水の状態で回収されていた。そこで、本発明者等は、エステル化反応槽に供給されるスラリー中の水分量の最適値について鋭意検討して、スラリー中の水分量をX±1.1質量%(但しXは1以上2以下の数を表す)以内に制御すること好ましいことを見出した。変動幅は±0.9質量%以内に制御することがより好ましく、±0.7質量%以内に制御することがさらに好ましい。一方、変動範囲の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.01質量%が好ましく、±0.03質量%がより好ましい。
【0076】
上記水分量を該範囲に制御することにより、前記した水分量によるエステル化反応への影響の安定化と回収コストとのバランスが取れる。Xが1質量%未満では、回収グリコール中の水分量を下げる必要が生ずるので、回収コストが上がる。さらに、該スラリー中に水分が含まれると、該水分によりカルボン酸とグリコールよりなるスラリーの流動性が向上し、エステル化反応の安定化に繋がり、結果としてポリエステルの品質の安定化に繋がるという効果が付加される。すなわち、ポリエステルの製造を新規グリコールのみで製造あるいは、回収グリコールの水分量を実質的に無水状態にして回収して製造する場合、すなわち上記スラリー中の水分量が実質的に無水状態である方法に比べて、スラリー中に含まれる水分によりスラリーの流動性が向上し、該スラリーのエステル化反応槽への供給精度が向上し工程や品質の安定化に繋げることができる。また、スラリー調製時のグリコール使用量を低くしてもスラリーの供給安定性が確保できるのでスラリー中のグリコール量比を下げてとも安定生産が可能となり経済的に有利となる。逆に、Xが2質量%を超えた場合は、スラリーの流動性の向上効果が飽和する上に、エステル化反応が不安定になりエステル化反応生成物の特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。また、変動範囲が±1.1質量%を超えた場合は、エステル化反応が不安定になりエステル化反応生成物の特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。
【0077】
本発明においては、回収グリコール中の水分量を制御することによりスラリー中の水分量を上記範囲に制御するのが好ましい実施態様である。
【0078】
本発明においては、該スラリー中の水分量の測定方法や制御方法は限定されない。例えば、水分量の測定方法としては、近赤外線分光光度計やガスクロを用いてオンラインで計測する方法や、定期的にサンプリングしてカールフイシャー法でオフライン分析する方法等が挙げられる。近赤外線分光光度計を用いてオンラインで計測する方法が好ましい。
【0079】
近赤外線分光光度計を用いて定量することによりオンライン計測する場合の計測装置、計測検出器の設置場所および測定波長は限定されない。
【0080】
計測器はオンラインで連続的に測定可能な近赤外分光光度計であれば、特に限定されない。例えば、NIRSシステムズ社(ニレコ社)、BRAN LUEBBEおよび横河電機社製の近赤外オンライン分析計等の市販品を使用してもよいし、本目的のためにシステム化した装置を製作して対応してもよい。
【0081】
水分量定量のための近赤外線の測定波長は限定されない。水分既知のグリコールやスラリーサンプルを用いて、感度が高く、かつ外乱の少ない波長を調査して適宜設定して検量線を作成して計測するのが好ましい。例えば、1922nmの波長を用いるのが好ましい。また、複数の波長を組み合わせた検量線より算出してもよい。
【0082】
設置場所も限定されない、例えば、蒸留制御法の場合は、蒸留塔底部からスラリー調製槽に供給する直前までの任意の場所に設置すればよい。また、スラリー中の水分量を計測して後述の蒸留条件制御にフィードバックして水分量制御をしてもよい。また、水分調整法の場合は、スラリー調製槽よりエステル化反応槽に供給する直前までの任意の場所に設置すればよい。また、蒸留制御法の場合は、回収グリコールおよびスラリー中の両方の水分量を近赤外線分光光度計によりオンライン計測して制御精度を挙げてもよい。
【0083】
本発明においては、前述したエステル化反応槽よりの留出分(A)の分留残留液である回収グリコール中の水分量をX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内に制御して蒸留することが好ましい。X±1.5質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がより好ましく、X±1.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がさらに好ましい。一方、変動範囲の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.03質量%が好ましく、±0.05質量%がより好ましい。該方法で実施することにより、スラリー調製に用いるグリコールに占める該回収グリコールの混合比率が50〜66質量%という広い範囲で変動させても、スラリーの水分調整をしなくてもスラリー中の水分量を前記した本発明の好ましい範囲に保つことが可能となり、スラリー中の水分量の管理の安定化に繋げることができる。また、回収グリコール中の水分量のXを2〜3質量%で制御することは、水分量をそれより低くする方法に比べて回収コスト低減になるのでコストパフォーマンスの優れた方法であるといえる。
【0084】
上記の回収グリコール中の水分量を上記範囲にする方法は限定されないが、蒸留塔の圧力および温度の制御を行い、蒸留塔底部より取り出される分留の残留分中の水分量を制御するのが好ましい。
【0085】
蒸留塔の圧力は限定されないが、該蒸留塔の圧力調整により該蒸留塔に供給されるグリコールの発生源であるエステル化反応槽の圧力設定を行うのが好ましい。該圧力設定は、エステル化反応への影響および蒸留効率と蒸留に要するエネルギーとのバランス等の総合的なパフォーマンスより常圧から微加圧状態で実施するのが好ましい。
【0086】
上記方法においては、蒸留塔の塔頂圧力を常圧〜300kPa(絶対圧、以下圧力は絶対圧で表示する)に保つことが好ましい。20〜280kPaがより好ましく、40〜260kPaがさらに好ましい。減圧下では、蒸留塔の温度管理精度の低下に繋がる。一方、300kPaを超えた場合は、分留精度の低下に繋がる。また、該塔頂圧力でエステル化反応槽の圧力調整をする方法においては、エステル化反応工程におけるジエチレングリコールの副生が増大に繋がるので好ましくない。さらに、エステル化反応槽の圧力の増大により、圧力変動によるエステル化反応に対する影響度が大きくなるためにエステル化反応の変動が増大するので好ましくない。
【0087】
上記の蒸留塔の塔頂圧力の制御方法は限定されない。例えば、蒸留塔のベント配管に調圧弁を設置し、該調圧弁で調整する方法や該ベント配管を水封し、該水封の液面あるいは水封部分の配管の位置変更で調整する方法などが挙げられる。
【0088】
本発明は、グリコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルの製造方法に適用するのが好ましい。該グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合は、上記蒸留において、蒸留塔の中段温度を106±3℃に制御することが好ましい。一般に蒸留塔の制御は蒸留塔の塔頂温度で管理されるが、該塔頂温度で管理して、蒸留塔の底部より取り出される残留分中の水分量に制御するには、極めて狭い範囲の温度制御をする必要がある。一方、例えば、特許文献2で開示されている塔底部の温度で管理した場合は、塔頂温度が成り行き任せとなり、塔頂より取り出される水を主体とした低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなる。一般に、該低沸点留分は廃棄処分されるので該低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなると廃液の処理負荷の変動に繋がり、環境負荷が増大するので好ましくない。蒸留塔中段の温度管理をすることにより、上記課題のバランスが取れる。なお、中段温度とは、蒸留塔の棚段のほぼ中央部を意味している。すなわち、棚段数が奇数段の場合は中央の棚段部に、偶数の場合は、2分割した各分割部の中央側の棚段のいずれかの部分の温度を指す。該温度範囲は106±2℃がより好ましい。該温度が103℃未満では、残留分中の水分量が上記範囲より多くなるので好ましくない。一方、110℃を超えた場合は、残留分中の水分量が上記範囲より少なくなり、かつ低沸点留分中のエチレングリコール量が増大し、該低沸点留分を廃液処理する場合の負荷が増大するので好ましくない。
【0089】
本発明におけるエステル化条件やエステル化反応生成物の特性および重縮合反応条件は、ポリエステルの品質や生産性を考慮し適宜設定すればよいが、本発明においては、上記のごとく回収グリコールを循環し再使用するので、該回収グリコール中の水分量を上記範囲に制御したとしても、従来公知の回収グリコールを循環し再使用しない製造方法に比べて、エステル化反応の変動が増大するので、エステル化反応の変動抑制を取り入れるのが好ましい。
【0090】
本発明においては、エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±1.5%以内になるように制御することが好ましい。該エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量の変動範囲は±1.3%以内がより好ましく、±1.1%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。上記変動範囲が±1.5%を超えた場合は、エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。また、用いる重縮合触媒の種類によっては、重縮合触媒活性の変動に繋がる場合があり、上記ポリエステルの品質変動がより拡大されることがある。
【0091】
上記エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量の制御方法は限定されない。例えば、以下に示すような方法が挙げられる。
【0092】
その第1の方法は、エステル化反応槽内に滞留する反応物温度および流量、スラリー温度および流量を計測し、エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量が一定になるようにスラリーの持ち込む単位時間当たりの熱量を制御することにより行うのが好ましい。該方法において、スラリーの持ち込む単位時間当たりの熱量の制御方法としては、スラリー温度、スラリー供給量および両者を制御する方法があるが、スラリー供給量を変更するとエステル化反応槽の液面変動等のエステル化反応に影響を及ぼす要因の変動を引き起こすことになるので、スラリー流量は一定になるようにして、スラリー温度を制御するのが好ましい。該方法で実施する場合は、スラリー供給量を設定値±3.0%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調製槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽とエステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。また、反応槽内に滞留する反応物温度は、反応槽の底部の缶壁より200〜400mm内部の温度を測定するのが好ましい。
【0093】
また、エステル化反応槽を通過する反応物の通過量は高温用の流量計を用いてエステル化反応槽出口の反応物流量を計測する、あるいは該エステル化反応槽に供給されるスラリー供給量とエステル化反応槽の液面レベルより算出する方法等が挙げられる。
【0094】
第2の方法は、エステル化反応槽内に滞留する反応物の温度および液面レベルをそれぞれ設定値の±3.0%以内および±0.2%以内になるように制御した上で、エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御する方法である。
【0095】
エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動はエステル化槽の温度および滞留時間(限定されたポリエステル製造ラインにおいては、反応槽の液面レベル)の影響を受けるので、該要因は上記範囲に制御するのが好ましい。例えば、温度は設定値±2.0%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。また、液面レベルは設定値±0.2%以内が好ましく、±0.1%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.02%が好ましく、±0.05%がより好ましい。該液面レベルの制御は前記のスラリー流量制御を上記範囲にすることにより制御が可能である。
【0096】
上記要件を満たした上で、エステル化反応槽に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御するのが好ましい。±1.7%以内がより好ましく、±1.4%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0097】
第3の方法は、第2の方法と同様にエステル化反応槽内に滞留する反応物の温度および液面レベルをそれぞれ設定値の±3.0%以内および±0.2%以内になるように制御した上で、エステル化反応槽内に滞留している反応物温度とエステル化反応槽に供給されるスラリー温度との温度差とスラリー流量およびスラリー比熱より求められ該エステル化反応槽に供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量を設定値の±2.0%以内になるように制御することが好ましい。該上記方法で求められるエステル化反応槽内に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量の変動範囲は±1.7%以内がより好ましく、±1.4%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.1%が好ましく、±0.3%がより好ましい。
【0098】
該方法は、エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動はエステル化反応槽内に滞留している反応物温度で近似でき、かつ該熱量の変動はエステル化反応槽内に滞留している反応物温度とエステル化反応槽に供給されるスラリー温度との温度差とスラリー流量およびスラリー比熱より求められ該エステル化反応槽に供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量変動を小さくすることで抑制できることを見出したことに基づいている。すなわち、エステル化反応槽へ供給されるスラリーにより持ち込まれる熱量の変動を抑制すればエステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動抑制ができると共に、該エステル化反応槽へ供給されるスラリーにより持ち込まれる熱量の変動が大きくなるとエステル化反応槽の温度制御の過応答が起こることがあり、エステル化反応槽内に滞留している反応物温度制御が困難となるが、該方法により該過応答の回避に繋がり、エステル化反応槽におけるエステル化反応の変動が抑制され、エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動が抑制される。
【0099】
上記方法におけるエステル化反応槽内に供給するスラリーの単位時間当たりの熱量の制御方法は限定されない。例えば、エステル化反応槽内に供給するスラリーの温度およびスラリー流量を計測し、スラリー温度および/またはスラリー流量を制御する方法が挙げられるが、スラリー流量を制御する方法はエステル化反応槽内の反応物の液面変動等のエステル化反応に影響する要因の変動に繋がるので、スラリー流量は一定になるようにして、スラリー温度を制御するのが好ましい。該方法で実施する場合は、スラリー供給量を設定値±3.0%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調製槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽とエステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。
【0100】
また、上記方法で実施する場合のスラリー温度の制御方法は限定されない。例えば、上記スラリー調製槽の温度および/またはテレフタル酸温度を検出し、該調製槽に供給されるグリコール温度にフィードバックし制御するのが好ましい。また、スラリー温度制御はスラリー調製槽やスラリーの移送ラインに熱交換器を設置して制御してもよい。また、スラリー調製槽に循環ラインを設けてスラリー調製槽中のスラリーを循環させて温度制御の精度向上を図ってもよい。該方法の場合は、循環ラインにも温度制御機能を付加するのが好ましい。以上の方法を単独で行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、スラリー調製槽出口からエステル化反応槽に供給するまでの間にスラリー貯留槽を設けてスラリー温度制御の精度を高めてもよい。該方法の場合に、スラリー貯留槽に温度制御機構を付加してもよい。該スラリー貯留槽を設ける方法はスラリー調製槽におけるスラリー調整はバッチ式で実施してもよい。バッチ式スラリー調製法は、スラリー調製における重要工程管理項目であるスラリーのジカルボン酸とグリコールとの組成比の管理が容易となるので該管理の制御系を簡略化することができるという利点にも繋がる。また、該方法の場合は、スラリー貯留槽において、上記のジカルボン酸とグリコールとの組成比の調整が実施できるので、該組成比の変動抑制に繋げることもできるという利点を有する。該方法においては、スラリー調製を連続法やセミバッチ法で実施してもよい。また、該方法と前者の方法を組み合わせて実施してもよい。
【0101】
上記のスラリー温度の設定値は限定されないが室温から180℃が好ましい。本発明においては、後述のごとくインプラントで回収された回収グリコールが循環再使用するのが好ましい。該回収グリコールは、エネルギー効率の点より加温状態で循環するのが好ましい。従って、回収グリコールは加温状態にあるので、該設定温度は加温状態が好ましく70〜150℃がより好ましい。本発明においては、該循環再使用される回収グリコールの温度変動はスラリー温度変動に影響する。従って、該回収グリコールの温度管理や供給量管理は重要管理項目となる。
【0102】
本発明においては、エステル化反応槽圧力を設定値±4%以内になるように制御するのが好ましい。±3%以内がより好ましい。±2%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。該エステル化反応槽圧力が設定値±4%を超えた場合は、前記制御をしてもエステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動が後述の範囲を超えることがあるので好ましくない。
【0103】
上記エステル化反応槽圧力の設定値は限定されないが、前述のごとく大気圧〜300kPaが好ましい。20〜280kPaが好ましく、40〜260kPaがさらに好ましく、後述のごとく留出グリコールの分留を行う蒸留塔の塔頂圧力調整法で調整するのが好ましい。
【0104】
また、該スラリーの中のジカルボン酸とグリコールとのモル比もエステル化反応に影響するので一定範囲に制御することが好ましい。該変動範囲は、前記した公知技術の範囲で十分である。設定値±0.3%以内が好ましい。設定値±0.25%以内がより好ましく、設定値±0.2%以内がさらに好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.01%が好ましく、±0.02%がより好ましい。
【0105】
本発明においては、エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を設定値±5%以内にするのが好ましい。±4%以内がより好ましく、±3%以内がさらに好ましい。該カルボキシル末端基濃度変動が±5%を超えた場合は後続の重縮合反応の変動が増大して得られるポリエステルの品質の均一性が低下するので好ましくない。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0106】
カルボキシル末端基濃度の設定値は限定されないが150〜900eq/tonの範囲が好ましい。170〜800eq/tonの範囲がより好ましく、190〜700eq/tonの範囲がさらに好ましい。カルボキシル末端基濃度の設定値が150eq/ton未満になると、重縮合活性の低下や重縮合工程でのジエチレングリコールの生成の増大が起こるので好ましくない。特に、重縮合反応活性に対してエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の影響の大きい重縮合触媒系を用いた場合に重縮合触媒活性が著しく低下するので好ましくない。逆に、カルボキシル末端基濃度の設定値が900eq/tonを超えた場合は、後続の重縮合反応の進行が不安定になり得られるポリエステルの重合度の変動が大きくなるので好ましくない。また、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなり、ポリエステルの加水分解安定性等の安定性低下に繋がるので好ましくない。
【0107】
該エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物カルボキシル末端基濃度を上記範囲に設定する方法が限定されない。例えば、エステル化反応装置の構造等の製造装置要因や、エステル化反応槽に供給するスラリーのジカルボン酸とグリコールの組成比、エステル化反応温度、エステル化反応圧、エステル化反応時間等のエステル化反応条件等を適宜設定することにより行えばよい。また、エステル化反応工程に水を添加して調整してもよい。
【0108】
例えば、チタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒は、重縮合反応開始時のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度が高い方が重縮合活性が高く、かつ該カルボキシル末端基濃度が高い状態で重縮合を実施しても重縮合反応時にもエステル化反応が進行して最終ポリエステルの濃度の増大が他の重縮合触媒系で重縮合をした場合よりも抑制される重縮合触媒系を用いたポリエステルの製造方法に適用するのが好ましい実施態様の一つである。該重縮合触媒系においては、重縮合反応の開始時のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基を高めた状態で重縮合反応を行うことはポリエステル品質を低下させることなく生産性が高められるのでコストパフォーマンスの点で有利である。しかしながら、該重縮合反応の開始時のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた状態での重縮合反応においては、通常実施されているカルボキシル末端基濃度を下げた状態で重縮合反応を開始する方法に比べて、該エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動が、後続の重縮合反応やポリエステル品質に対して大きく影響するために、安定生産という制約より、やむを得ずコストパフォーマンスにおいて最適ではないエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を下げた通常条件でのポリエステルの製造が実施されてきている。本発明方法により、該課題が改善でき、上記重縮合触媒を用いた場合において、コストパフォーマンスの高い製造が可能となる。従って、該重縮合系を用いたポリエステルの製造方法に適用し、上記条件にて実施するのが好ましい実施態様の一つである。
【0109】
また、上記のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた領域におけるポリエステルの製造方法を後述のアルミニウム化合物とリン化合物よりなる複合系重縮合触媒系に適用した場合には、得られたポリエステル樹脂を用いて延伸フィルムを製造する場合にフィルムの透明性が向上するという効果も付加されるという二重の効奏の発現に繋がるので、該重縮合触媒系の使用は好ましい実施態様の一つである。
【0110】
該エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた領域におけるポリエステルの製造方法で行う場合は、エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の平均値を500〜900eq/tonの範囲にすることが好ましい。
【0111】
カルボキシル末端基濃度の平均値は520〜800eq/tonの範囲がより好ましく、540〜700eq/tonの範囲がさらに好ましい。カルボキシル末端基濃度の平均値が500eq/ton未満になると、例えば、重縮合反応活性に対してエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の影響の大きい重縮合触媒系を用いた場合に重縮合触媒活性が低下するので好ましくない。また、アルミニウム化合物とリン化合物よりなる複合系重縮合触媒系に適用した場合には、得られたポリエステル樹脂を用いて延伸フィルムを製造する場合のフィルムの透明性が低下するので好ましくない。逆に、カルボキシル末端基濃度の平均値が900eq/tonを超えた場合は、後続の重縮合反応の進行が不安定になり得られるポリエステルの重合度の変動が大きくなるので好ましくない。また、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなり、ポリエステルの加水分解安定性等の安定性低下に繋がるので好ましくない。
【0112】
エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた領域におけるポリエステルの製造方法で行う場合は、最終エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物の全末端基濃度に対するカルボキシル末端基濃度の割合は35超〜49%が好ましく、37〜48%がさらに好ましく、39〜47%が特に好ましい。該カルボキシル末端基濃度の割合が35%以下では、例えば、重縮合反応活性に対してエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の影響の大きい重縮合触媒系を用いた場合に重縮合触媒活性が低下するので好ましくない。また、後述のアルミニウム化合物とリン化合物よりなる複合系重縮合触媒系に適用した場合には、得られたポリエステル樹脂を用いて延伸フィルムを製造する場合のフィルムの透明性が低下するので好ましくない。逆に、カルボキシル末端基濃度の割合が49%を超えた場合は、後続の重縮合反応の進行が不安定になり得られるポリエステルの重合度の変動が大きくなるので好ましくない。また、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなり、ポリエステルの加水分解安定性等の安定性低下に繋がるので好ましくない。
【0113】
以上、本発明においては、上記方法によりエステル化反応生成物の特性変動を目的とした範囲に抑制することができるが、さらに、上記エステル化反応工程において、エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度やヒドロキシル末端基濃度をオンラインで計測して、前記したスラリー温度制御系にフィードバックすることにより該制御精度や安定性を向上してもよい。
【0114】
該エステル化反応生成物特性の計測方法は限定されないが、近赤外線分光光度計を用いて計測するのが好ましい。該近赤外線分光光度計はエステル化反応生成物が流動している部分、例えば反応槽、配管などに設置して連続計測するのが好ましい。オンラインで連続的に測定可能な近赤外分光光度計であれば、特に限定されない。例えば、NIRSシステムズ社(ニレコ社)、BRAN LUEBBEおよび横河電機社製の近赤外オンライン分析計等の市販品を使用してもよいし、本目的のためにシステム化した装置を製作して対応してもよい。
【0115】
本発明において、ポリエステル製造に用いられる重縮合触媒は限定されない。例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、ホウ素、カドミウム、マンガン等の金属およびこれら金属を含む金属化合物が挙げられる。なかでも、アンチモン、ゲルマニウム、チタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒の使用が好ましい。
【0116】
上記重縮合触媒の中でチタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒は、重縮合反応開始時のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度が高い方が重縮合活性が高く、かつ該カルボキシル末端基濃度が高い状態で重縮合を実施しても重縮合反応時にもエステル化反応が進行して最終ポリエステルの濃度の増大が他の重縮合触媒系で重縮合をした場合よりも抑制されるので、重縮合反応の開始時のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基を高めた状態で重縮合反応を行うことは経済性の点で有利である。しかしながら、該エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた状態での重縮合は、重縮合触媒活性等に対するカルボキシル末端基濃度の影響が大きくなるために、該エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動を小さくする必要がある。従来公知のエステル化反応制御の方法では、該要求に答えることが困難であるので、止むを得ずカルボキシル末端基濃度を低くした状態で重縮合が実施されてきた。本発明のポリエステルの製造方法は前述のごとく、エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度が極めて高い精度で制御することが可能であるので、重縮合反応を開始する折のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた状態で重縮合をしても重縮合反応が安定しポリエステルの品質を安定化することができるので、チタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒を用いたポリエステルの製造に適用することにより本発明の効果をより活かすことができるので好ましい実施態様である。もちろん、エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度が低い状態において重縮合を行う方法においても、エステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動を抑制することはポリエステルの品質の安定化に繋がるので汎用の重縮合触媒を用いた汎用のポリエステルの方法においても本発明のエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動を抑制する技術は有効に活用できる。
【0117】
上記した本発明の方法の効果がより顕著に発現される重縮合触媒であるチタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒の中では、アルミニウム系の重縮合触媒の使用は、得られるポリエステルの色調や安定性において、他の触媒系を凌駕しておりより好ましい。
【0118】
また、該アルミニウム系重縮合触媒を用いて本発明の方法で実施した場合は、前記したエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度を高めた状態で重縮合を開始することにより、得られたポリエステル樹脂を用いてポリエステルフィルムを製造した場合に、ポリエステルフィルムの透明性が向上するという効果も発現されるという二重の効奏が発揮できるという利点がでる。
【0119】
以下、該アルミニウム系重縮合触媒について言及する。
該アルミニウム系重縮合としては、アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種と、リン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなる重縮合触媒系が好ましい。
【0120】
本発明の重縮合触媒を構成するアルミニウム化合物は溶媒に溶解するものであれば限定されないが、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩およびキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0121】
これらのアルミニウム化合物の中でも、アルミニウム含有量が高い酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましく、さらに溶解度の観点から酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましい。さらに、装置を腐食しない観点から、酢酸アルミニウムの使用が特に好ましい。
【0122】
ここで、水酸化塩化アルミニウムは一般にポリ塩化アルミニウムや塩基性塩化アルミニウムなどとも呼ばれるものの総称であり、水道用に使われるものなどが使用できる。これらは、例えば一般構造式[Al(OH)Cl6−n(ただし1≦n≦5)で表される。これらの中でも、装置を腐食しない観点から塩素含有量の少ないものが好ましい。
【0123】
上記の酢酸アルミニウムは、塩基性酢酸アルミニウム、トリ酢酸アルミニウム、酢酸アルミニウム溶液などに代表される酢酸のアルミニウム塩の構造を有するものの総称であり、これらの中でも、溶解性および溶液の安定性の観点から、塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの中でも、モノ酢酸アルミニウム、ジ酢酸アルミニウム、あるいはこれらがホウ酸で安定化されたものが好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの安定剤としては、ホウ酸以外に尿素、チオ尿素などが挙げられる。
【0124】
上記のアルミニウム化合物は水やグリコールなどの溶剤に可溶化したものが好ましい。本発明で使用できる溶媒とは、水およびアルキレングリコール類である。アルキレングリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。好ましくは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、さらに好ましくはエチレングリコールである。水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが本発明の効果を顕著に発現することができるので好ましい。
【0125】
本発明の方法に従ってポリエステルを製造する際の、アルミニウム化合物の使用量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対してアルミニウム原子として0.001〜0.05モル%が好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.02モル%である。使用量が0.001モル%未満であると触媒活性が十分に発揮されない場合があり、使用量が0.05モル%より多いと、熱安定性や熱酸化安定性の低下、アルミニウムに起因する異物の発生や着色の増加が問題になる場合が発生する。このようにアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重縮合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果熱安定性や熱酸化安定性が優れ、アルミニウムに起因する異物や着色が低減される。
【0126】
本発明の重縮合触媒を構成するリン化合物としては、特に限定はされないが、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル、亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0127】
本発明の重合触媒を構成するリン化合物としては、特に限定はされないが、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル、亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0128】
本発明のより好ましいリン化合物は、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。これらのリン化合物を用いることで触媒活性の向上効果が見られると共に、ポリエステルの熱安定性等の物性が改善する効果が見られる。これらの中でも、ホスホン酸系化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0129】
本発明でいうホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物とは、それぞれ下記式(化1)〜(化6)で表される構造を有する化合物のことをいう。
【0130】
【化1】

【0131】
【化2】

【0132】
【化3】

【0133】
【化4】

【0134】
【化5】

【0135】
【化6】

【0136】
本発明のホスホン酸系化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。本発明のホスフィン酸系化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。本発明のホスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0137】
ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物の中では、本発明のリン化合物としては、下記式(化7)〜(化12)で表される化合物が好ましい。
【0138】
【化7】

【0139】
【化8】

【0140】
【化9】

【0141】
【化10】

【0142】
【化11】

【0143】
【化12】

【0144】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0145】
また、本発明のリン化合物としては、下記一般式(化13)〜(化15)で表される化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0146】
【化13】

【0147】
【化14】

【0148】
【化15】

【0149】
(式(化13)〜(化15)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0150】
本発明のリン化合物としては、上記式(化13)〜(化15)中、R、R、R、Rが芳香環構造を有する基である化合物がとくに好ましい。
【0151】
本発明のリン化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらのうちで、フェニルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルが特に好ましい。
【0152】
上述したリン化合物の中でも、本発明では、リン化合物としてリンの金属塩化合物がとくに好ましい。リンの金属塩化合物とは、リン化合物の金属塩であれば特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物の金属塩を用いると本発明の課題であるポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。リン化合物の金属塩としては、モノ金属塩、ジ金属塩、トリ金属塩などが含まれる。
【0153】
また、上記したリン化合物の中でも、金属塩の金属部分が、Li、Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgが特に好ましい。
【0154】
本発明のリンの金属塩化合物としては、下記一般式(化16)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0155】
【化16】

【0156】
(式(化16)中、Rは水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0157】
上記のRとしては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。上記のRとしては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CHCHOHで表される基などが挙げられる。Rとしては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。
【0158】
上記一般式(化16)で表される化合物の中でも、下記一般式(化17)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0159】
【化17】

【0160】
(式(化17)中、Rは水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0161】
上記のRとしては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。Rとしては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。
【0162】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0163】
上記式(化17)の中でも、Mが、Li,Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgが特に好ましい。
【0164】
本発明のリンの金属塩化合物としては、リチウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、カリウム[(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、リチウム[ベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[ベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベリリウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ストロンチウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、マンガンビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベンジルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸]、ナトリウム[(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−クロロベンジルホスホン酸フェニル]、マグネシウムビス[4−クロロベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−アミノベンジルホスホン酸メチル]、マグネシウムビス[4−アミノベンジルホスホン酸メチル]、フェニルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[フェニルホスホン酸エチル]、亜鉛ビス[フェニルホスホン酸エチル]などが挙げられる。これらの中で、リチウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、リチウム[ベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[ベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベンジルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸]が特に好ましい。
【0165】
上述したリン化合物の中でも、本発明では、リン化合物としてP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物がとくに好ましい。これらのリン化合物を含有することでポリエステルの物性改善効果が特に高まることに加えて、ポリエステルの重合時に、これらのリン化合物を本発明のアルミニウム化合物と共存して用いることで触媒活性の向上効果が大きく見られる。
【0166】
P−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物とは、分子内にP−OHを少なくとも一つ有するリン化合物であれば特に限定はされない。これらのリン化合物の中でも、P−OH結合を少なくとも一つ有するホスホン酸系化合物を用いるとアルミニウム化合物との錯体形成が容易になり、ポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0167】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0168】
本発明のP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物としては、下記一般式(化18)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0169】
【化18】

【0170】
(式(化18)中、Rは水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0171】
上記のRとしては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。上記のRとしては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CHCHOHで表される基などが挙げられる。
【0172】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0173】
本発明のP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物としては、(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、(1−ナフチル)メチルホスホン酸、(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸、(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、2−メチルベンジルホスホン酸エチル、4−クロロベンジルホスホン酸フェニル、4−アミノベンジルホスホン酸メチル、4−メトキシベンジルホスホン酸エチルなどが挙げられる。これらの中で、(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸エチルが特に好ましい。
【0174】
本発明の好ましいリン化合物としては、化学式(化19)であらわされるリン化合物が挙げられる。
【0175】
【化19】

【0176】
(式(化19)中、Rは炭素数1〜49の炭化水素基、または水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜49の炭化水素基を表し、R,Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0177】
また、さらに好ましくは、化学式(化19)中のR,R,Rの少なくとも一つが芳香環構造を含む化合物である。
【0178】
これらのリン化合物の具体例を以下に示す。
【0179】
【化20】

【0180】
【化21】

【0181】
【化22】

【0182】
【化23】

【0183】
【化24】

【0184】
【化25】

【0185】
また、本発明のリン化合物は、分子量が大きいものの方が重合時に留去されにくいため効果が大きく好ましい。
【0186】
本発明のリン化合物は、フェノール部を同一分子内に有するリン化合物であることが好ましい。フェノール部を同一分子内に有するリン化合物を含有することでポリエステルの物性改善効果が高まることに加えて、ポリエステルの重合時にフェノール部を同一分子内に有するリン化合物を用いることで触媒活性を高める効果がより大きく、従ってポリエステルの生産性に優れる。
【0187】
フェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、フェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、フェノール部を同一分子内に有する、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上のフェノール部を同一分子内に有するホスホン酸系化合物を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0188】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、下記一般式(化26)〜(化28)で表される化合物が好ましい。
【0189】
【化26】

【0190】
【化27】

【0191】
【化28】

【0192】
(式(化26)〜(化28)中、Rはフェノール部を含む炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール部を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R,R,Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R,Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。RとRの末端どうしは結合していてもよい。)
【0193】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、例えば、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸メチル、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸フェニル、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、トリス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド、および下記式(化29)〜(化32)で表される化合物などが挙げられる。これらのうちで、下記式(化31)で表される化合物およびp−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチルが特に好ましい。
【0194】
【化29】

【0195】
【化30】

【0196】
【化31】

【0197】
【化32】

【0198】
上記の式(化31)にて示される化合物としては、SANKO−220(三光株式会社製)があり、使用可能である。
【0199】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化33)で表される特定のリンの金属塩化合物から選択される少なくとも一種が特に好ましい。
【0200】
【化33】

【0201】
(式(化33)中、R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。Rとしては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0202】
これらの中でも、下記一般式(化34)で表される化合物から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0203】
【化34】

【0204】
(式(化34)中、Mn+はn価の金属カチオンを表す。nは1,2,3または4を表す。)
【0205】
上記式(化33)または(化34)の中でも、Mが、Li,Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgが特に好ましい。
【0206】
本発明の特定のリンの金属塩化合物としては、リチウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、カリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、ベリリウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル]、ストロンチウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、バリウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル]、マンガンビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ニッケルビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、銅ビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、亜鉛ビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]などが挙げられる。これらの中で、リチウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]が特に好ましい。
【0207】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化35)で表されるP−OH結合を少なくとも一つ有する特定のリン化合物から選択される少なくとも一種が特に好ましい。
【0208】
【化35】

【0209】
(式(化35)中、R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0210】
これらの中でも、下記一般式(化36)で表される化合物から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0211】
【化36】

【0212】
(式(化36)中、Rは、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0213】
上記のRとしては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CHCHOHで表される基などが挙げられる。
【0214】
本発明のP−OH結合を少なくとも一つ有する特定のリン化合物としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸イソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸オクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸などが挙げられる。これらの中で、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチルが特に好ましい。
【0215】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化37)で表される特定のリン化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物が好ましい。
【0216】
【化37】

【0217】
(上記式(化37)中、R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0218】
上記一般式(化37)の中でも、下記一般式(化38)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が高く好ましい。
【0219】
【化38】

【0220】
(上記式(化38)中、R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0221】
上記のR、Rとしては例えば、水素、メチル基、ブチル基等の短鎖の脂肪族基、オクタデシル等の長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基等の芳香族基、−CHCHOHで表される基などが挙げられる。
【0222】
本発明の特定のリン化合物としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジイソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジ−n−ブチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルなどが挙げられる。これらの中で、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルが特に好ましい。
【0223】
本発明のフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、本発明で特に望ましい化合物は、化学式(化39)、(化40)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。
【0224】
【化39】

【0225】
【化40】

【0226】
上記の化学式(化39)にて示される化合物としては、Irganox1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)が市販されており、また化学式(化40)にて示される化合物としてはIrganox1425(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)が市販されており、使用可能である。
【0227】
本発明で使用できるその他のリン化合物としては、下記する(化41)、(化42)で表される連結基(X)を有するホスホン酸系あるいは(化43)で表される連結基(X)を有さないホスホン酸系などが挙げられる。
【0228】
本発明で使用できる広範な連結基(X)を有するリン化合物でる式(化41)で表されるリン化合物は次のようなものである。
【0229】
−X−(P=O)(OR)(OR) (化41)
[連結基を有する前記式(化41)中、Rは炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。Xは連結基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素(直鎖状あるいは分岐構造あるいは脂環構造であってもかまわない)、あるいは置換基を含有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素(直鎖状あるいは分岐構造あるいは脂環構造であってもかまわない)、−O−、−OCH−、−SO−、−CO−、−COCH−、−CHOCO−、−NHCO−、−NH−、−NHCONH−、−NHSO−、−NHCOCHCHO−から選ばれる。また、RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。]
【0230】
式(化41)で表されるリン化合物の芳香環構造および複素環構造の置換基が、炭素数1〜50の炭化水素基(直鎖状であっても脂環構造、分岐構造、芳香環構造であってもよく、これらがハロゲン置換されたものであってもよい)または水酸基またはハロゲン基または炭素数1〜10のアルコキシル基またはアミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)、ホスホリル含有基、ニトリル基、シアノアルキル基、から選ばれる一種もしくは二種以上である。
【0231】
式(化41)で表されるリン化合物には次のようなものが挙げられる。具体的には、ベンジルホスホン酸、ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、1−ナフチルメチルホスホン酸、1−ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−ナフチルメチルホスホン酸、2−ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、4−フェニル,ベンジルホスホン酸、4−フェニル,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−フェニル,ベンジルホスホン酸、2−フェニル,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−クロル,ベンジルホスホン酸、4−クロル,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−クロル,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−メトキシ,ベンジルホスホン酸、4−メトキシ,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−メトキシ,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−メチル,ベンジルホスホン酸、4−メチル,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−メチル,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ニトロ,ベンジルホスホン酸、4−ニトロ,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−ニトロ,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−アミノ,ベンジルホスホン酸、4−アミノ,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−アミノ,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−メチル,ベンジルホスホン酸、2−メチル,ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−メチル,ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、10−アンスラニルメチルホスホン酸、10−アンスラニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、10−アンスラニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、(4−メトキシフェニル−,エトキシ−)メチルホスホン酸、(4−メトキシフェニル−,エトキシ−)メチルホスホン酸モノメチルエステル、(4−メトキシフェニル−,エトキシ−)メチルホスホン酸ジメチルエステル、(フェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸、(フェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸モノエチルエステル、(フェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸ジエチルエステル、(フェニル−,クロル−)メチルホスホン酸、(フェニル−,クロル−)メチルホスホン酸モノエチルエステル、(フェニル−,クロル−)メチルホスホン酸ジエチルエステル、(4−クロルフェニル)−イミノホスホン酸、(4−クロルフェニル)−イミノホスホン酸モノエチルエステル、(4−クロルフェニル)−イミノホスホン酸ジエチルエステル、(4−ヒドロキシフェニル−,ジフェニル−)メチルホスホン酸、(4−ヒドロキシフェニル−,ジフェニル−)メチルホスホン酸モノエチルエステル、(4−ヒドロキシフェニル−,ジフェニル−)メチルホスホン酸ジエチルエステル、(4−クロルフェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸、(4−クロルフェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸モノメチルエステル、(4−クロルフェニル−,ヒドロキシ−)メチルホスホン酸ジメチルエステル、その他、複素環を含有するリン化合物としては、2−ベンゾフラニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−ベンゾフラニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−ベンゾフラニルメチルホスホン酸、2−(5−メチル)ベンゾフラニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−−(5−メチル)ベンゾフラニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−−(5−メチル)ベンゾフラニルメチルホスホン酸などが挙げられる。上記の連結基を有するリン化合物は、重合活性の点で好ましい態様である。
【0232】
本発明で使用できる連結基(X=−(CH−)を有する式(化41)で表されるリン化合物は次のようなものである。
【0233】
(R−R1−(CH−(P=O)(OR)(OR) (化42)
【0234】
[式(化42)中、Rは、水酸基、C1〜C10のアルキル基、−COOH基あるいは−COOR(Rは、C1〜C4のアルキル基を表す)、アルキレングリコール基あるいはモノアルコキシアルキレングリコール基を表す(モノアルコキシはC1〜C4を、アルキレングリコールはC1〜C4のグリコールを表す)。Rはベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ジフェニルケトン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンなどの芳香環構造を表す。RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、C1〜C4の炭化水素基を表す。mは1〜5の整数を表し、Rが複数個の場合、同一置換基あるいは異なる置換基の組合せであってもかまわない。nは0あるいは1〜5の整数を表す。]
【0235】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がベンゼンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、2−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−ヒドロキシベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸、6−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、6−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、6−ヒドロキシベンジルホスホン酸などのベンゼン環に水酸基を導入したベンジルホスホン酸類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0236】
2−n−ブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−n−ブチルベンジルホスホン酸モノメチルエステル、2−n−ブチルベンジルホスホン酸、3−n−ブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3−n−ブチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3−n−ブチルベンジルホスホン酸、4−n−ブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−n−ブチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−n−ブチルベンジルホスホン酸、2,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸、3,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3,5−n−ジブチルベンジルホスホン酸などのベンゼン環にアルキルを導入したベンジルホスホン酸類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0237】
さらに、2−カルボキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−カルボキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−カルボキシベンジルホスホン酸、3−カルボキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3−カルボキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3−カルボキシベンジルホスホン酸、4−カルボキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−カルボキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−カルボキシベンジルホスホン酸、2,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸、3,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3,5−ジカルボキシベンジルホスホン酸、2−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸、3−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸、4−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−メトキシカルボニルベンジルホスホン酸、2,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸、3,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3,5−ジメトキシカルボニルベンジルホスホン酸などのベンゼン環にカルボキル基あるいはカルボン酸エステル基を導入したベンジルホスホン酸類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0238】
さらに、2−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、3−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、2,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、3,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、2−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、1−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、3−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノメチルエステル、3−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、4−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、2,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、2,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、2,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸、3,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、3,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、3,5−ジ(2−メトキシエトキシ)ベンジルホスホン酸などのベンゼン環にアルキレングリコール基あるいはモノアルコキシ化アルキレングリコール基を導入したベンジルホスホン酸類が挙げられる。
【0239】
本発明でのベンジル系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0240】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がナフタレンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸、1−(5−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸、1−(4−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(4−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(4−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸、1−(4−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(4−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(4−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸、1−(4−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(4−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(4−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸、1−(5−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−ヒドロキシ)ナフチルモノエチルホスホン酸、2−(6−ヒドロキシ)ナフチルメチルホスホン酸、2−(6−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−(6−n−ブチル)ナフチルメチルホスホン酸、2−(6−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−(6−カルボキシ)ナフチルメチルホスホン酸、2−(6−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−(6−メトキシカルボニル)ナフチルメチルホスホン酸、2−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)]ナフチルメチルホスホン酸、2−(6−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸ジエチルエステル、2−(6−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸モノエチルエステル、2−(6−メトキシエトキシ)ナフチルメチルホスホン酸などのナフタレン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノアルコキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0241】
本発明でのナフタレン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0242】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がビフェニルであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニル)ベンジルホスホン酸などのビフェニル環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0243】
本発明でのビフェニル系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0244】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニルエーテルであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルオキシ)ベンジルホスホン酸などのジフェニルエーテル環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0245】
本発明でのジフェニルエーテル系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0246】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニチオエーテルであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルチオ)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルチオ)ベンジルホスホン酸などのジフェニルチオエーテル環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0247】
本発明でのジフェニルチオエーテル系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0248】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニルスルホンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルスルホニル)ベンジルホスホン酸などのジフェニルスルホン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0249】
本発明でのジフェニルスルホン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0250】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニルメタンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシベンジル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシベンジル)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルベンジル)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシベンジル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルベンジル)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシベンジル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシベンジル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシベンジル)ベンジルホスホン酸などのジフェニルメタン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0251】
本発明でのジフェニルメタン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0252】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニルジメチルメタンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシフェニルジメチルメチル)ベンジルホスホン酸などのジフェニルメタン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0253】
本発明でのジフェニルジメチルメタン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0254】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がジフェニルケトンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、4−(4−ヒドロキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−(4−ヒドロキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸、4−(4−n−ブチルベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−n−ブチルベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ブチルベンゾイル)ベンジルホスホン酸、4−(4−カルボキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−カルボキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシカルボニルベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシカルボニルベンゾイル)ベンジルホスホン酸、4−(4−ヒドロキシエトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−ヒドロキシメトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸、4−(4−メトキシエトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−(4−メトキシエトキシベンゾイル)ベンジルホスホン酸などのジフェニルケトン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0255】
本発明でのジフェニルケトン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0256】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がアンスラセンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、9−(10−ヒドロキシ)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(10−ヒドロキシ)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(10−ヒドロキシ)アンスリルメチルホスホン酸、9−(10−n−ブチル)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(10−n−ブチル)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(10−n−ブチル)アンスリルイルメチルホスホン酸、9−(10−カルボキシ)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(10−カルボキシ)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(10−カルボキシ)アンスリルメチルホスホン酸、9−(10−カルボキシ)9−(2−ヒドロキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸、9−(2−メトキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(2−メトキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(2−メトキシエトキシ)アンスリルメチルホスホン酸、9−(2−メトキシカルボニル)アンスリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、9−(2−メトキシカルボニル)アンスリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、9−(2−メトキシカルボニル)アンスリルメチルホスホン酸などのアンスラセン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0257】
本発明でのアンスラセン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0258】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がフェナントレンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、1−(7−n−ブチル)フェナントリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(7−n−ブチル)フェナントリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(7−n−ブチル)フェナントリルメチルホスホン酸、1−(7−カルボキシ)フェナントリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(7−カルボキシ)フェナントリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(7−カルボキシ)フェナントリルメチルホスホン酸、1−(7−ヒドロキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(7−ヒドロキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(7−ヒドロキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸、1−(7−メトキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(7−メトキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(7−メトキシエトキシ)フェナントリルメチルホスホン酸、1−(7−メトキシカルボニル)フェナントリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(7−メトキシカルボニル)フェナントリルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(7−メトキシカルボニル)フェナントリルメチルホスホン酸などのフェナントレン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0259】
本発明でのフェナントレン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0260】
本発明の式(化42)で表されるリン化合物の内、置換基を有する芳香環構造がピレンであるリン化合物としては次のようなものが挙げられる。すなわち、1−(5−ヒドロキシ)ピレニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−ヒドロキシ)ピレニルメチルホスホン酸、1−(5−n−ブチル)ピレニリルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−n−ブチル)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−n−ブチル)ピレニルメチルホスホン酸、1−(5−カルボキシ)ピレニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−カルボキシ)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−カルボキシ)ピレニルメチルホスホン酸、1−(5−ヒドロキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−ヒドロキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−ヒドロキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸、1−(5−メトキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−メトキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−メトキシエトキシ)ピレニルメチルホスホン酸、1−(5−メトキシカルボニル)ピレニルルメチルホスホン酸ジエチルエステル、1−(5−メトキシカルボニル)ピレニルメチルホスホン酸モノエチルエステル、1−(5−メトキシカルボニル)ピレニルメチルホスホン酸などのピレン環にアルキル基、カルボキキシル基、カルボン酸エステル基、アルキレングリコール基、モノメトキシアルキレングリコール基などが導入されたホスホン酸類などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0261】
本発明でのピレン系リン化合物は、上述した単一置換基種に限定されるものではなく、上述した置換基、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基の混成されたものも使用できる。
【0262】
上記一連の芳香環に導入されるヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基などの置換基は、ポリエステルの重合時のアルミニウム原子との錯体形成に深く関わるものと推定される。また、ポリエステル形成時の官能基であるカルボキシル基あるいは水酸基と類似のものも含まれており、ポリエステルマトリックス中に溶解または取り込まれやすいため、重合活性、異物低減などに特に有効であると考えられる。
【0263】
芳香環構造(R)に結合したRが水素原子である未置換基に比べ、本発明のC1〜C10のアルキル基、−COOH基あるいは−COOR(Rは、C1〜C4のアルキル基を表す)、アルキレングリコール基あるいはモノアルコキシアルキレングリコール基(モノアルコキシはC1〜C4を、アルキレングリコールはC1〜C4のグリコールを表す)で置換されたリン化合物は、触媒活性を改善するだけでなく、異物低減効果の点で好ましい。
芳香環構造に結合した置換基は、C1〜C10のアルキル基、カルボキシルおよびカルボキシルエステル基、アルキレングリコールおよびモノアルコキシアルキレングリコールなどが挙げられる。異物低減効果の点でより好ましくは、カルボキシルおよびカルボキシルエステル基、アルキレングリコールおよびモノアルコキシアルキレングリコールである。その理由は不明であるが、ポリエステルおよび触媒の媒体であるアルキレングリコールとの相溶性が改善されることによると推測している。
【0264】
本発明で使用できる連結基(X)を持たないリン化合物である式(化43)で表される
リン化合物は次のようなものである。
【0265】
−(P=O)(OR)(OR) (化43)
【0266】
一方、連結基(X)のない上記式(化43)で表されるリン化合物中、Rは炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0267】
式(化43)で表されるリン化合物の芳香環構造および複素環構造の置換基が、炭素数1〜50の炭化水素基(直鎖状であっても脂環構造、分岐構造、芳香環構造であってもよく、これらがハロゲン置換されたものであってもよい)または水酸基またはハロゲン基または炭素数1〜10のアルコキシル基またはアミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)、ホスホリル含有基、ニトリル基、シアノアルキル基から選ばれる一種もしくは二種以上である。また、前記(化43)の芳香環構造がベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンから選ばれる。および前記複素環構造がフラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、ナフタランおよびフタリドから選ばれる。また、上記式(化43)中のRおよびRの少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
【0268】
本発明で使用できる式(化43)で表されるリン化合物としては、下記のリン化合物などが挙げられる。すなわち、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸、(3−ニトロ,5−メトキシ)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(3−ニトロ,5−メトキシ)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(3−ニトロ,5−メトキシ)−フェニルホスホン酸、(4−クロル)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(4−クロル,)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(4−クロル)− フェニルホスホン酸、(5−クロル,)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(5−クロル,)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(5−クロル,)−フェニルホスホン酸、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(3−ニトロ,5−メチル)−フェニルホスホン酸、(4−ニトロ)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(4−ニトロ)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(4−ニトロ)−フェニルホスホン酸、(5−ニトロ)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(5−ニトロ)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(5−ニトロ)−フェニルホスホン酸、(6−ニトロ)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(6−ニトロ)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(6−ニトロ)−フェニルホスホン酸、(4−ニトロ,6−メチル)−フェニルホスホン酸ジエチルエステル、(4−ニトロ,6−メチル)−フェニルホスホン酸モノエチルエステル、(4−ニトロ,6−メチル)−フェニルホスホン酸、その他、式(化42)で表されるリン化合物において、上述のベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ジフェニルケトン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンなどの芳香環構造を有するそれぞれの構造式から連結基であるメチレン鎖すなわち、−CH−を取り除いたリン化合物群、さらに複素環含有リン化合物として、5−ベンゾフラニルホスホン酸ジエチルエステル、5−ベンゾフラニルホスホン酸モノエチルエステル、5−ベンゾフラニルホスホン酸、5−(2−メチル)ベンゾフラニルホスホン酸ジエチルエステル、5−(2−メチル)ベンゾフラニルホスホン酸モノエチルエステル、5−(2−メチル)ベンゾフラニルホスホン酸などが挙げられる。上述の連結基を有しないリン化合物は、前述の連結基を有するリン化合物に比べ重合活性は若干劣るが、本発明の触媒調製法を使用した場合、ポリエステル重合触媒として使用することは可能である。
【0269】
リン化合物は、ポリエステルの熱安定剤としては知られていたが、これらの化合物を従来の金属含有ポリエステル重合触媒と組み合わせて使用しても、溶融重合を大きく促進することはこれまで知られていなかった。実際に、ポリエステル重合の代表的な触媒であるアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物あるいはゲルマニウム化合物を重合触媒としてポリエステルを溶融重合する際に、本発明のリン化合物を添加しても、実質的に有用なレベルまで重合が促進されることは認められない。
【0270】
本発明においては、上記リン化合物が、予め水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれた少なくとも一種の溶媒中で加熱処理されたものを用いることが好ましい実施態様である。該処理により前記のアルミニウムやアルミニウム化合物に上記のリン化合物を併用することによる重縮合触媒活性が向上すると共に、該重縮合触媒起因の異物形成性が低下する。
【0271】
リン化合物を予め加熱処理するときに使用する溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも一種であれば限定されず任意であるが、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましい。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール等の目的とするポリエステルの構成成分であるグリコールを用いることが好ましい。溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくてもよい。また、加熱処理の後に、化合物がもとの構造を保持している必要はなく、加熱処理による変性で溶媒に対する溶解性が向上するものであってもかまわない。
【0272】
加熱処理の温度は特に限定はされないが、20〜250℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、100〜200℃の範囲である。温度の上限は、用いる溶媒の沸点付近とすることが好ましい。加熱時間は、温度等の条件によっても異なるが、溶媒の沸点付近の温度だと1分〜50時間の範囲であることが好ましく、より好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間の範囲である。加熱処理の系の圧力は常圧、もしくはそれ以上あるいは以下であってもよく特に限定されない。溶液の濃度は、リン化合物として1〜500g/lであることが好ましく、より好ましくは5〜300g/l、さらに好ましくは10〜100g/lである。加熱処理は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。加熱後の溶液もしくはスラリーの保管温度は特に限定はされないが、0℃〜100℃の範囲であることが好ましく、20℃〜60℃の範囲であることがより好ましい。溶液の保管は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0273】
リン化合物を予め溶媒中で加熱処理する際に、本発明のアルミニウムまたはその化合物を共存してもよい。また、リン化合物を予め溶媒中で加熱処理したものに、本発明のアルミニウムまたはその化合物を粉状、溶液状、あるいはスラリー状として添加してもよい。さらに、添加後の溶液またはスラリーを加熱処理してもよい。これらの操作で得られた溶液もしくはスラリーを本発明の重縮合触媒として用いることが可能である。95質量%以上がグリコール成分よりなる溶媒に溶解あるいは分散して添加するのが好ましい。
【0274】
本発明におけるリン化合物の使用量としては、得られるポリエステルのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.1モル%が好ましく、0.005〜0.05モル%であることがさらに好ましい。
【0275】
本発明においては、上記のアルミニウムもしくその化合物とリン化合物を併用すれば実用性の高い重縮合触媒活性を発現することができるが、さらに少量のアルカリ金属、アルカリ土類金属ならびにその化合物から選択される少なくとも一種を第2金属含有成分として共存させることが好ましい態様である。かかる第2金属含有成分を触媒系に共存させることは、ジエチレングリコールの生成を抑制する効果に加えて触媒活性を高め、従って反応速度をより高めた触媒成分が得られ、生産性向上に有効である。
【0276】
アルミニウム化合物にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加して十分な触媒活性を有する触媒とする技術は公知である。かかる公知の触媒を使用すると熱安定性に優れたポリエステルが得られるが、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を併用した公知の触媒は、実用的な触媒活性を得ようとするとそれらの添加量が多く必要であり、アルカリ金属化合物を使用したときは得られるポリエステルの耐加水分解性が低下すると共にアルカリ金属化合物に起因する異物量が多くなり、繊維に使用したときには製糸性や糸物性が、またフィルムに使用したときはフィルム物性などが悪化する。またアルカリ土類金属化合物を併用した場合には、実用的な活性を得ようとすると得られたポリエステルの熱安定性が低下し、加熱による着色が大きく、異物の発生量も多くなり、耐加水分解性も低下する。
【0277】
アルカリ金属、アルカリ土類金属ならびにその化合物を添加する場合、その使用量M(モル%)は、ポリエステルを構成する全ポリカルボン酸ユニットのモル数に対して、1×10−6以上0.1モル%未満であることが好ましく、より好ましくは5×10−6〜0.05モル%であり、さらに好ましくは1×10−5〜0.03モル%であり、特に好ましくは、1×10−5〜0.01モル%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属の添加量が少量であるため、熱安定性低下、異物の発生、着色、耐加水分解性の低下等の問題を発生させることなく、反応速度を高めることが可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属ならびにその化合物の使用量Mが0.1モル%以上になると熱安定性の低下、異物発生や着色の増加、ならびに耐加水分解性の低下が製品加工上問題となる場合が発生する。Mが1×10−6未満では、添加してもその効果が明確ではない。
【0278】
本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて使用することが好ましい第2金属含有成分を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも一種であることが好ましく、このうちLi,Na,Mgないしその化合物から選択される少なくとも一種の使用がより好ましい。アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0279】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合がある。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなると共に、重合したポリエステルは着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属またはそれらの化合物あるいはアルカリ土類金属またはそれらの化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
【0280】
本発明においては、上記の重縮合触媒の存在下で製造したポリエステルにおいて、以下に示す評価法で定量されるポリエステルに不溶なアルミニウム系異物が3500ppm以下であることが好ましい。
【0281】
ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物は以下の方法で評価したものである。
[ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物評価法]
溶融重縮合上がりのポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解する。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別する。有効濾過直径は37.5mmとした。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥する。該メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rh管球4.0kW)でアルミニウム元素量を定量した。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行う。なお、該蛍光X線分析法の検量線はアルミニウム元素含有量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのアルミニウム元素量をppmで表示する。測定はX線出力50kV−70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でアルミニウム−Kα線強度を測定することにより実施する。検量線用ポリエチレンテレフタレート樹脂中のアルミニウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法で定量する。
【0282】
本発明においては、上記評価法で測定されたポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量は2500ppm以下が好ましい。1500ppm以下がより好ましい。1000ppm以下が特に好ましい。ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量が3500ppmを超えた場合は、該ポリエステルに不溶性の微細な異物が原因となり、例えばフィルムやボトル等の成型体として成型した場合に、該成型体のヘイズが悪化するので好ましくない。また、重縮合工程や成型工程でのポリエステルの濾過時のフィルター詰りが多くなるという課題にも繋がる。
【0283】
上記評価法で測定されたポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量は、あくまでも換算値であり、上記評価に用いたポリエステルの全量に対する含有量ではppbレベルの極微量となる。この極微量の異物量により成型体の透明性が悪化するのは、上記評価法で測定されるポリエステルに不溶なアルミニウム系異物は、ポリエステルに対する親和性が低いために、成型時の成型応力によりポリエステルとアルミニウム系異物の界面にボイドが
形成されて、該ボイドにより光の散乱が起こり成型体の透明性が低下することが原因となっていると推定している。
【0284】
本発明において、上記のポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量を3500ppm以下にする方法は限定されないが、例えば、下記の方法が挙げられる。
【0285】
(1)前記した本発明の重縮合触媒を構成するアルミニウム化合物の品質を最適化する。
例えば、アルミニウム化合物を水に溶解したときの不溶分量を特定化する、アルミニウム化合物の結晶化度を特定化する、アルミニウム化合物の結晶水量を特定化する等の方法が挙げられる。また、アルミニウム化合物の水等の溶媒に対する溶解性を向上する添加剤や、アルミニウム化合物の加水分解等に対する安定性を向上する化合物を併用する等も好ましい実施態様である。
【0286】
例えば、アルミニウム化合物を水に溶解したときの不溶分量を特定化する方法に関しては、下記に示す方法で測定したアルミニウム化合物の水に対する不溶分量がその尺度となる。
[アルミニウム化合物の水に対する不溶分量測定法]
200rpmで攪拌した室温の純水1500mlにアルミニウム化合物30gを添加し、室温で6時間攪拌を続ける。引き続き液温を95℃に加温し、同温度でさらに3時間攪拌を続行しアルミニウム化合物を溶解さる。得られた溶液を室温になるまで放冷し、孔径0.2μmのセルロースアセテート製のメンブレンフィルター(Advantec社製セルロースアセテートタイプメンブレンフィルター、品名:C020A047A)で濾過し、50mlの純水で洗浄する。得られた不溶分を濾過したフィルターを60℃の真空乾燥器で12時間乾燥し不溶分重量(W)を求める。アルミニウム化合物の水に対する不溶分量は下記式で算出する。アルミニウム化合物が水溶液の場合は、水溶液の一部を採取し、該水溶液を蒸発乾固することにより水溶液中の固形分を測定し、該固形分をアルミニウム化合物重量として水溶液中のアルミニウム化合物濃度を求め、水溶液中のアルミニウム化合物量が30gとなる量の水溶液を濾過することにより求める。該水溶液の場合は、水溶液中のアルミニウム化合物濃度が2質量%より濃い場合は、2質量%になるように純水を加えアルミニウム希釈して濾過を行った。該希釈は上記の固形アルミニウム化合物の溶解と同じ条件で行う。なお、上記操作はクリーンベンチ中で実施する。
【0287】
水に対する不溶分量(ppm)=[W(mg)/30000(mg)]×10
【0288】
上記方法で測定される水に対する不溶分量が700ppm以下のものを用いることが好ましい実施態様である。ただし、以下に示すような実施態様を最適化することにより、該水に対する不溶分量が700ppmを超えたアルミニウム化合物を用いても、ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量を3500ppm以下にすることも可能となるので、本範囲に限定はされない。
【0289】
(2)前記した本発明の重縮合触媒を構成するもう一つの構成成分であるリン化合物の構造を最適化したり、アルミニウム化合物とリン化合物とを事前に反応させたりする。
【0290】
(3)上記のアルミニウム化合物やリン化合物のポリエステルの製造工程での添加時期や添加方法等を最適化する。
【0291】
本発明においては、上記重縮合触媒系で実施した場合には、以下に示す評価法で評価される一軸延伸フィルムのヘイズ値が0.6%以下であることが好ましい。
[一軸延伸フィルムのヘイズ値]
ポリエステル樹脂を真空下、130℃で12時間乾燥し、ヒートプレス法で1000±100μmのシートを作成する。ヒートプレス温度、圧力および時間はそれぞれ320℃、100kg/cmGおよび3秒とする。プレス後シートは水中に投入し急冷却する。得られたシートをバッチ式延伸機(T.M.LONG CO.,INC製、FILM STRETCHER)で3.5倍に一軸延伸し300±20μmの一軸延伸フィルムを得る。延伸温度はブロー温度95℃/プレート温度100℃とする。また、延伸速度は1.5万%/分で行う。得られた一軸延伸フィルムのヘイズをJIS−K7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業社製、300A)を用いて測定する。なお、測定は5回行い、その平均値を求める。ヘイズ値はフィルム厚み300μmの換算値で表示する。一軸延伸フィルムのヘイズ値は0.5%以下がより好ましい。ヘイズ値が0.6%を超えた場合は、フィルムやボトル等の延伸を伴う成型により成型された成型体について高度に透明性の高い成型体が得られないので好ましくない。特に、二軸延伸フィルムにした場合に、下記方法により評価される微弱白濁感が悪化するので好ましくない。該微弱白濁感は極めて僅かな光学特性差であり従来公知のヘイズ値等では差別化できない特性である。従って、汎用の光学用途の使用に関しては問題にならない特性であるが、高度な光学特性を要求される用途においては問題になる可能性のある特性値として注目される。以下本特性値を微弱白濁感と称する。
【0292】
[二軸延伸フィルムの微弱白濁感]
二軸延伸フィルムを約9.4mmの厚みになるように多数枚のフィルムを重ね合わせて(フィルム厚み188μmの場合で50枚重ね)、蛍光灯下で垂直に対して45度の角度で肉眼観察した時に評価される極めて微妙な白濁感。
【0293】
該一軸延伸フィルムのヘイズ値や二軸延伸フィルムの微弱白濁感を本発明の範囲内にする方法は限定されないが、例えば、前記したポリエステルに不溶なアルミニウム系異物が1000ppm以下であり、かつ前記したポリエステルの製造方法において、重縮合反応工程に供給するエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の平均値およびその変動幅を前記した好ましい範囲にすることを同時に満足することにより達成することができる。
【0294】
上記特性付与により上記の光学特性が向上する理由は不明であるが、エステル化反応生成物やポリエステルのカルボキシル末端基により光の透過性を低下させるアルミニウム系異物粒子あるいはその凝集体の生成抑制やポリエステルへの可溶化の促進が引き起こされることにより発現されているものと推察している。
【0295】
本発明方法により得られたポリエステルを前述のごとく固相状態で減圧下あるいは不活性ガス気流下でポリエステル樹脂を加熱し、さらに重縮合を進めたり、該ポリエステル樹脂中に含まれている環状3量体等のオリゴマーやアセトアルデヒド等の副生成物を除去する等の手段を取ることも何ら制約を受けない。また、例えば超臨界圧抽出法等の抽出法でポリエステル樹脂を精製し前記の副生成物等の不純物を除去する等の処理を行うことを取り入れても良い。
【0296】
本発明のポリエステル中には、他の任意の重縮合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0297】
これらの添加剤は、ポリエステルの重縮合時もしくは重縮合後、あるいはポリエステル成形時の任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とするポリエステルの構造や得られるポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0298】
本発明を、以下の実施例を用いて具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示するものであり、限定されるものではない。また、下記の実施例中の各特性は下記の方法により測定した。
【0299】
1.回収グリコールおよびスラリーの水分量
試料中の水分量に見合った量の試料をマイクロシリンジあるいは注射器で採取し、電子天秤で精秤した後、KF水分率計(京都電子工業(株)製、MKC−210を用いて水の量を測定し、試料に対する質量%として算出した。
2.極限粘度
試料を0.200g精秤したのち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)50mlに溶解する。この溶液を40mlウベローデ粘度管に取り、30℃の恒温槽中で落下秒数を計測して極限粘度(IV)を算出した。なお、式(1)中におけるTは試料溶液の落下秒数(秒)、T0は溶媒の落下秒数(秒)、Cは試料溶液濃度(g/dl)を示す。
【0300】
極限粘度(dl/g)=((T/TO-1+3×ln(T/TO))/16)/C (式1)
該測定は3回行いその平均値を用いた。
【0301】
3.エステル化反応生成物カルボキシル末端基濃度
エステル化反応生成物を乾燥に呈すことなくハンディーミル(粉砕器)にて粉砕した。試料1.00gを精秤し、ピリジン20mlを加えた。沸石を数粒加え、15分間煮沸還流し溶解させた。煮沸還流後直ちに、10mlの純水を添加し、室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬としてN/10−NaOHで滴定した。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。なお、エステル化反応生成物がピリジンに溶解しない場合は、ベンジルアルコール中で行った。下記式に従って、AVo(eq/ton)を算出する。
【0302】
AVo=(A−B)×0.1×f×1000/W
【0303】
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),f=N/10−NaOHのファクター,W=試料の重さ(g))
該定量を3回測定してその平均値を用いた。
【0304】
4.エステル化反応生成物のヒドロキシル末端基濃度
試料9mgを試料管に入れ、CDCl+HFIP−d2(1+1)0.3mlを加えて溶解。CDCl 0.3mlを加え,さらにピリジン−d5 30μlを添加して、よく混ぜたのち、遠心分離を行い、可溶分のH-NMRスペクトルを500MHzの装置を用いて測定した。
【0305】
5.ポリマー酸価
試料15mgをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/CDCl=1/1混合溶媒0.13mlに溶解し、CDCl 0.52mlで希釈し、さらに0.2Mトリエチルアミン溶液(HFIP/CDCl 1/9)を22μl添加した溶液を用いて、500MHzのH−NMR測定をして定量した。該測定は3回行いその平均値を用いた。
【0306】
6.ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物評価法
溶融重縮合上がりのポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解した。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別した。有効濾過直径は37.5mmとした。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥した。該メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rhライン球4.0kW)でアルミニウム元素量を定量した。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行った。なお、該蛍光X線分析法の検量線はアルミニウム元素含有量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのアルミニウム元素量をppmで表示した。測定はX線出力50kV−70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でAl−Kα線強度を測定することにより実施した。検量線用PET樹脂中のアルミニウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法で定量した。
【0307】
7.一軸延伸フィルムのヘイズ値
ポリエステル樹脂を真空下、130℃で12時間乾燥し、ヒートプレス法で1000±100μmのシートを作成。ヒートプレス温度、圧力および時間はそれぞれ320℃、100kg/cmGおよび3秒とした。プレス後シートは水中に投入し急冷却した。得られたシートをバッチ式延伸機(T.M.LONG CO.,INC製、FILM STRETCHER)で3.5倍に一軸延伸し300±20μmの一軸延伸フィルムを得た。延伸温度はブロー温度95℃/プレート温度100℃とした。また、延伸速度は1.5万%/分で行った。得られた一軸延伸フィルムのヘイズをJIS−K7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色社製、300A)を用いて測定した。ヘイズ値はフィルム厚み300μmの換算値で表示した。なお、測定は5回行ってその平均値を求めた。
【0308】
8.二軸延伸フィルムの微弱白濁感
二軸延伸ポリエステルフィルムを複数枚重ね合わせて約9.4mmの厚み(フィルム厚み188μmの場合で50枚重ね)とし、蛍光灯下で垂直に対して45度の角度で肉眼観察した時の白濁感を観察して以下の基準で判定した。
〇 :白濁感がない
△ :極わずかな白濁感がある
× :白濁感がある
【0309】
実施例1
(1)重縮合触媒溶液の調製
(リン化合物のエチレングリコール溶液の調製)
窒素導入管、冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、エチレングリコール2.0リットルを加えた後、窒素雰囲気下200rpmで攪拌しながら、リン化合物として(化39)で表されるIrganox1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)の200gを加えた。さらに2.0リットルのエチレングリコールを追加した後、ジャケット温度の設定を196℃に変更して昇温し、内温が185℃以上になった時点から60分間還流下で攪拌した。その後加熱を止め、直ちに溶液を熱源から取り去り、窒素雰囲気下を保ったまま、30分以内に120℃以下まで冷却した。得られた溶液中のIrganox1222のモル分率は40%、Irganox1222から構造変化した化合物のモル分率は60%であった。
【0310】
(アルミニウム化合物の水溶液の調製)
冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、純水5.0リットルを加えた後、200rpmで攪拌しながら、塩基性酢酸アルミニウム200gを純水とのスラリーとして加えた。さらに全体として10.0リットルとなるよう純水を追加して常温常圧で12時間攪拌した。その後、ジャケット温度の設定を100.5℃に変更して昇温し、内温が95℃以上になった時点から3時間還流下で攪拌した。攪拌を止め、室温まで放冷し水溶液を得た。
(アルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液の調製)
上記方法で得たアルミニウム化合物水溶液に等容量のエチレングリコールを加え、室温で30分間攪拌した後、内温80〜90℃にコントロールし、徐々に減圧して、到達27hPaとして、数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を得た。得られたアルミニウム溶液の27Al−NMRスペクトルのピーク積分値比は2.2であった。
【0311】
(2)エステル化反応および重縮合
一基の連続エステル化反応槽および2基の重縮合反応槽よりなり、かつエステル化反応槽から重縮合反応槽への移送ラインに高速攪拌器を有したインラインミキサーが設置された連続式ポリエステル製造装置に高純度テレフタル酸1質量部に対してエチレングリコール1.0質量部とをスラリー調製槽に連続的に供給し、エステル化槽の反応温度260℃、圧力180kPaとしてエステル化反応生成物を得た。該エステル化反応工程において、エステル化反応槽内に滞留する反応物温度および反応物の通過量および反応物の比熱よりエステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を算出し、該熱量が一定になるように、該エステル化反応槽に供給されるスラリーの単位時間当たりの熱量を制御した。なお、反応槽内に滞留する反応物温度は、反応槽の底部の缶壁より300mm内部に入った位置で測定した。また、エステル化反応槽の反応物の通過量は反応槽に供給されるスラリー供給量とエステル化反応槽の液面レベルより算出した。また、スラリー熱量は、スラリー供給量の変動をロータリーピストン流量計を用いて送液ポンプの回転数を変えて設定値の±2.0%以内になるように制御した上でスラリー温度を調整することにより行った。なお、熱量計算の単位時間は1時間当たりで算出した。該スラリー調製においては、スラリー調製槽に供給される高純度テレフタル酸温度を該供給口の直前の計量タンクで測定し、該高純度テレフタル酸温度、その供給量および比熱より高純度テレフタル酸の持ち込む熱量を求めて、スラリー調製槽中のスラリー温度が一定になるようにスラリー調製槽に供給されるグリコール温度を変化させて制御した。該グリコール温度の設定は、スラリー調製槽中のスラリー温度を一定にするのに必要なスラリー調製槽に供給するグリコールの熱量を算出することにより行うとともに、スラリー調製槽に温度調整機能を付加してスラリー温度調整精度を上げる方法で実施した。エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は±0.8%であった。なお、エステル化反応槽に供給するスラリー温度は110℃を中心値として熱量制御をした。この場合において、スラリー調製槽に供給するエチレングリコールは、フレッシュエチレングリコールと後述の方法で回収された回収エチレングリコールとをほぼ質量比で0.37:0.63になるように供給し、該供給比を調整することでスラリー中の水分量を1.8±0.3%以内になるように調整して供給した。また、エチレングリコールおよびテレフタル酸をモル比の変動は、±0.25%以内に制御した。該モル比の調整は、近赤外線分光光度計を用いてスラリーのテレフタル酸量を計測して、スラリー調製槽に供給するエチレングリコール量を調整することにより行った。また、エステル化反応槽の圧力変動は±1.3%以内に制御した。また、エステル化反応槽の液面レベルの変動は±0.2%以内であった。エステル化反応槽出口のエステル化反応生成物のAVoおよびOHVoはそれぞれ平均値で810eq/tonおよび982eq/tonであり、AV%は45.2モル%であった。該エステル化反応生成物を3基の反応槽よりなる連続重縮合装置に連続的に移送すると共に、該移送ラインに設置されたインラインミキサーに上記方法で調製したアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液およびリン化合物のエチレングリコール溶液をそれぞれポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子およびリン原子として0.015モル%および0.036モル%となるように攪拌式のミキサーで攪拌しながら連続的に添加し、前期期重縮合反応槽が265℃、9kPa、後期重縮合反応槽が273℃、13.3Paで重縮合しIV0.620のPETを得た。得られたPETの特性値を表1に示す。本実施例で得られたエステル化反応生成物およびポリエステルの品質変動は小さく安定していた。なお、上記攪拌式ミキサー出口のアルミニウム化合物溶液とリン化合物溶液との混合液のNMRスペクトルにはアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液と混合する前のリン化合物のエチレングリコール溶液のスペクトルには存在しない5〜24ppmの範囲にブロードなピーク(配位ピークと称する)が観察された。該配位ピークの積分値はアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液と混合する前のリン化合物のエチレングリコール溶液のNMRスペクトルに存在する25〜27ppm付近に観察される水酸基が結合したリン原子のNMRスペクトルピークの積分値に対して45%であった。
【0312】
得られたポリエステルのAVpは平均値で22.5eq/tonで、ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物量は平均値で400ppmである。また、一軸延伸フィルムのヘイズ値は0.2〜0.6%であり透明性に優れていた。
【0313】
(3)エチレングリコールの回収
上記ポリエステル製造工程におけるエチレングリコールの流れを図1に示す。
スラリー調製槽2へ供給されるフレッシュエチレングリコールと回収エチレングリコールは質量比でほぼ0.4:0.6である。
【0314】
エステル化反応槽3より留出する留出分は段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔7に供給され水を主体とする低沸点留分を除去する。該蒸留塔においては、底部より取り出される残留分の一部を蒸留塔の中間部に循環させた。該循環液の温度は168℃近辺で安定していた。該循環により蒸留塔底部より取り出される残留液の送液ラインの詰まりは発生しなかった。蒸留塔7は、7段目に設置した温度検出器で検出した温度が106±2℃になるよう制御した。得られた残留分はエチレングリコール貯層12に供給される。得られた回収エチレングリコール中の水分量は3±0.5質量%に制御されていた。なお、エステル化反応槽3からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はない。なお、蒸留塔の塔頂の圧力を180kPaで、この設定値の±1.3%以内に制御した。該圧力は蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。
【0315】
2基の重縮合反応槽5および6よりから留出する留出分は蒸留塔10に供給され水を主体とする低沸点留分を除去し、高沸点留分除去用の蒸留塔11に供給される。蒸留塔10および11の段数はそれぞれ15および30段である。ただし、これらの留出物は減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサー8および9で凝縮させてエチレングリコール凝縮液貯槽13および14に供給された後に蒸留塔10に供給される。そのために、熱交換器17で蒸留のための熱量が供給される。この時、湿式コンデンサーに噴霧されるエチレングリコール液の温度の上昇を抑えるために冷却器15および16で冷却し湿式コンデンサーに供給される。この凝縮液は各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、必要に応じて新規エチレングリコールを供給してもよい。蒸留塔11で高沸点留分を留去した回収エチレングリコール中のリン元素含有量は1.4ppmであった。
【0316】
(4)製膜
上記方法で得られたPETを135℃、133Paで6時間減圧乾燥し、押出機に供給して約280℃でシート状に溶融押出し、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、厚さ1400μmのキャストフィルムを得た。この際、溶融PETの異物除去用濾材として濾過可能な粒子サイズが10μm(初期濾過効率95%)のステンレススチール製焼結濾材を用いて精密濾過を行った。このキャストフィルムを、加熱したロール群および赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。
その後、下記方法で調製した塗布液を、濾過可能な粒子サイズ10μm(初期濾過効率95%)のフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法によって、上記PETフィルムの片面に塗布、乾燥した。この際のコート量は、0.5g/mであった。塗布後引き続いて、フィルムの端部をクリップで把持して130℃に加熱された熱風ゾーンに導いて乾燥した後、幅方向に4.0倍に延伸した。引き続いてフィルム幅の長さを固定した状態で赤外線ヒーターによって250℃で0.6秒間加熱し、接着性改質層を形成した厚さ188μmの二軸配向PETフィルムを得た。
【0317】
塗布液は以下の方法で調製した。
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート345部、1,4ブタンジオール211部、エチレングリコール270部、およびテトラ−n−ブチルチタネート0.5部を仕込み、160℃から220℃まで、4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、フマル酸14部およびセバシン酸160部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、29.3Paの減圧下で1.5時間反応させ、淡黄色透明のポリエステル系樹脂A−1を得た。共重合ポリエステル樹脂を75部、メチルエチルケトン56部およびイソプロピルアルコール19部を撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に仕込み、65℃で加熱、撹拌し、共重合ポリエステル樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15部を添加した。次いで、スチレン10部、およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5部を12部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5部を添加した。次いで、水300部とトリエチルアミン15部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内の温度を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、淡黄色透明の水分散グラフト共重合樹脂を得た。この水分散グラフト共重合樹脂の25%水分散液を40部、水を24部およびイソプロピルアルコールを36部混合し、これにアニオン性界面活性剤を1質量%、滑剤(日産化学工業社製、スノーテックスOL)を5質量%添加し塗布液とした。
得られた二軸延伸PETフィルムの透明性は良好で、かつ安定していた。微弱白濁感の発生は極一部のロットにおいて見られたのみであった。これらの結果を表1に示す。
なお、表1に示した値は、12時間毎にサンプリングした50個のサンプル(25日分)の評価結果である。また、エステル化反応生成物のカルボキシル末端基の変動幅は、50個のサンプルの最大値、最小値および平均値より下記式(1)で求めた。
【0318】
[{(最大値―最小値)×1/2}/平均値]×100(%)・・・・・(1)
また、標準偏差(s)は下記(2)式で求めた。
標準偏差(s)={(測定値―平均値)の和/サンプル数(50)}1/2・・(2)
【0319】
(比較例1)
実施例1の方法において、重縮合反応槽5および6よりから留出する留出分を蒸留塔10および蒸留塔11での2段蒸留を止め、蒸留塔7に供給して高沸点留分の除去処理を行うことなくエチレングリコール貯槽12に供給するように変更する以外は、実施例1と同様にして重縮合を行いポリエステルを得た。結果を表1に示す。
本比較例1におけるポリエステル製造工程におけるエチレングリコールの流れを図2に示す。蒸留塔7の塔底留分中にはリン元素が22ppm含まれていた。従って、本比較例では、リン化合物が除去されることなく重縮合工程に循環される。さらに、該リン化合物は、詳細は不明であるが重縮合工程で構造が変化している。そのため、本比較例で得られたポリエステルはポリエステルの品質変動の悪化に加えて、ポリエステルのTc1は140℃と低かった。また、実施例1に比べ重縮合触媒活性が低下し、ポリエステルの極限粘度も0.600と低かった。
【0320】
(比較例2)
実施例1の方法において、アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液およびリン化合物のエチレングリコール溶液との混合溶液の添加場所をエステル化反応槽に変更する以外は、実施例1と同様にして重縮合を行いポリエステルを得た。結果を表1に示す。本比較例においては、比較例1と同様に回収グリコールに一部のリン化合物が混入してくるために比較例1と同様の課題が発生した。
【0321】
(実施例2)
実施例1の方法において、蒸留塔7の温度制御精度を±1%に向上させてかつ、スラリー中の水分量管理を近赤外線分光光度計を用いて行うように強化することにより、スラリー中の水分量が1.8±0.1%以内になるように変更する以外は、実施例1同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。
本実施例におけるエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られるポリエステル樹脂およびフィルムの透明性はさらに安定した。
【0322】
(実施例3)
実施例1において、蒸留塔7の棚段数を7段として、温度検出器の位置を4段目の空間に変更し、該温度を106±5℃で管理するよう変更する以外は、実施例1同様の方法でポリエステルを得た。回収エチレングリコール中の水分量は3±2.2質量%であり、スラリー中の水分量の変動が±1.3%となった。結果を表1に示す。
実施例1の方法に比べてスラリー中の水分量変動が増大したためにエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動が増大した。これに伴いポリエステル樹脂およびフィルムの透明性も実施例1より若干悪化した。
【0323】
(実施例4)
実施例1の方法において、スラリー調製槽からエステル化反応槽への移送ラインの途中に攪拌機および温度調整機能を有したスラリー貯留槽を設けて、該スラリー貯留槽においてもスラリーの温度制御を行いスラリー温度の調整精度を上げるように変更する以外は、実施例1同様の方法でポリエステルを得た。エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量変動は±0.4%に向上した。結果を表1に示す。
本実施例におけるエステル化反応生成物のカルボキシル末端基濃度の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られるポリエステル樹脂およびフィルムの透明性はさらに安定した。
【0324】
(中空成形体での評価)
実施例1〜4および比較例1、2で得られたポリエステルを常法により固相重縮合しIV0.75dl/gとし、脱湿空気を用いた乾燥機で乾燥し、名機製作所製M−150C(DM)射出成型機により樹脂温度295℃でプリフォ−ムを成形した。このプリフォームの口栓部を自家製の口栓部結晶化装置で90秒間加熱結晶化させた後、コーポプラスト社製LB−01E延伸ブロー成型機を用いて二軸延伸ブロー成形し、引き続き約150℃に設定した金型内で約7秒間熱固定し、2000ccの中空成形体(胴部は円形)を得た。得られた中空成形体に90℃の温湯を充填し、キャッピング機によりキャッピングをしたあと容器を倒し放置後、内容物の漏洩を調べた。また、キャッピング後の口栓部の変形状態も調べた。また、プリフォーム口栓部の天面から試料を採取し密度を測定し、赤外線加熱によるプリフォーム口栓部の密度を評価した。なお、密度は密度偏差硝酸カルシウム/水混合溶液の密度勾配ラインで30℃で測定した。また、中空成形体のヘイズは、中空成形体の胴部(肉厚約0.45mm)より試料を切り取り、日本電色(株)製ヘイズメーター、modelNDH2000で測定した。なお、比較例1,2で得られたポリエステルは、実施例1〜4で得られたポリエステルに比べて固相重縮合時間が長くなった。評価結果を表2に示す。比較例1,2で得られたポリエステルは実施例で得られたポリエステルに比べてTc1が低いので、該ポリエステルより得られるボトルは耐熱性が劣る。
【0325】
【表1】

【0326】
【表2】

【0327】
(実施例5および比較例3)
重縮合触媒をテトラブチルチタネート(チタン原子の残存量で15ppm)、酢酸マグネシウム(マグネシウム原子残存量で65ppm)、酢酸ナトリウム(ナトリウム原子残存量で5ppm)およびトリエチルリン酸(リン原子残存量で30ppm)よりなる混合触媒系に変更する以外は、それぞれ実施例1および比較例1と同様の方法で、実施例5および比較例3のポリエステルを得た。実施例5においては実施例1と同等の重縮合触媒活性があり、実施例1とほぼ同じ条件で極限粘度が0.62のポリエステルが得られたが、比較例3の方法では回収エチレングリコール中に存在するリン化合物の影響でチタン触媒の失活が起こり、極限粘度は0.48までしかあがらなかった。
【0328】
以上、本発明のポリエステルの製造方法について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0329】
本発明によるポリエステルの製造方法は、リン化合物の存在下で、かつ単数のエステル化反応槽によりポリエステルを連続的に製造する方法において、該ポリエステルの製造工程で留出されるグリコール中に混入するリン化合物を経済性の高い方法で除去しており、該リン化合物によるポリエステルの重縮合触媒活性や品質に対する悪影響を回避し循環再使用できるので、ポリエステルの品質を低下させることなく、該回収の運転経費の削減と設備の簡略化が達成できるという利点を有する。該回収グリコールの循環再使用によりポリエステルの製造コストを大幅に低減することができる。さらには該製造方法において、重縮合生産性を低下させることなく、かつ高品質、ポリエステルを長期に渡り安定して連続生産できるという極めて顕著な効果を奏する。従って、極めてコストパフォーマンスの高いポリエステルの製造方法であり、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0330】
【図1】本発明の実施例1におけるエチレングリコールの流れを示す図である。
【図2】比較例1におけるエチレングリコールの流れを示す図である。
【符号の説明】
【0331】
1:計量タンク
2:スラリー調合槽
3:エステル化反応槽
4:ラインミキサー
5:第1重縮合反応槽
6:第2重縮合反応槽
7、10、11:蒸留塔
15、16:湿式コンデンサー
12:回収グリコール貯槽
13、14:グリコール凝縮液貯槽
15,16:冷却器
17:熱交換器
18〜28:ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物の存在下で行うポリエステルの製造方法であり、スラリー調製槽で調製されたジカルボン酸とグリコールとからなるスラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、単数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、引き続き得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に連続的に供給して重縮合を行い、かつ、この製造工程より留出するグリコールを蒸留により分留して循環再使用するポリエステルの製造方法において、下記要件を同時に満たすことを特徴とするポリエステルの製造方法。
(1)リン化合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽へのエステル化反応生成物の移送ラインに添加すること
(2)上記分留をエステル化反応槽より留出する留出分と重縮合反応槽より留出する留出分を区分して処理すること
【請求項2】
エステル化反応槽より留出する留出分(A)から、水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分のグリコールを循環再使用することを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
重縮合反応槽より留出する留出分(B)から、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去した中留分のグリコールを循環再使用することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
上記分留し回収したグリコールの水分量を制御することにより、上記スラリー中の水分量をX±1.1質量%(但しXは1以上2以下の数を表す)になるように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
エステル化反応槽内に滞留する反応物の単位時間当たりの熱量を設定値の±1.5%以内になるように制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−94933(P2008−94933A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277412(P2006−277412)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】