説明

ポリエステルの製造方法

【課題】重縮合反応時の真空度不良および異物の発生がなく、粒子分散性、色調に優れるポリエステルの製造方法であり、フィルムとした際に好適な製膜性、優れた易滑性を示すポリエステルを提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化反応を行い、次いでエステル化物を重縮合反応槽へ移行し、減圧下で重縮合反応をしてポリエステルを製造するに際し、エステル化反応率が80〜94%のエステル化物にエステル化物の温度が220〜250℃で、無機粒子に対し0.1〜2.0重量%の多価カルボン酸化合物を表面処理した無機粒子を、ポリエステルに対し0.05〜5.0重量%となるようにスラリーとして添加した後に減圧下、重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化法によって得られるポリエステルの製造方法に関するものである。詳しくは、無機粒子を含有した粒子分散性に優れるポリエステルの製造方法である。
【背景技術】
【0002】
一般的にポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートは優れた力学特性、化学特性を有しており、磁気記録媒体用、一般工業用、感熱孔版用、リボン用、反射板用、光学用、食品包装用、紙代替用、離型用、電気絶縁用、コンデンサ用フィルムなど幅広い用途で使用されている。
【0003】
例えば磁気記録媒体用ポリエステルであれば、易滑性付与のためにポリエステル中に不活性粒子を含有せしめ、成形品の表面に凹凸を形成し、摩擦係数を低下させる方法が数多く提案されている。特に磁気テープ用途においては、記録密度の上昇に伴い、ベースフィルムに対する要求項目は、より厳しくなり、易滑性、平坦性および耐摩耗性の高度な両立が必要となってきた。また、近年では離型用途への活用も盛んであり、シリコン塗布工程でのハジキ抑制のため、易滑性等の要求がより高度になっている。
【0004】
ポリエステルの製造方法としては、ジカルボン酸エステルとジオールとからエステル交換反応を行い、次いで重縮合反応を行うエステル交換法およびジカルボン酸とジオールからエステル化反応を行い、次いで重縮合反応を行うエステル化法があることはよく知られている。特に、エステル化法は、ポリエステル製造時のコストがエステル交換法に比べ安価であるため、多用されている。
【0005】
しかしながら、エステル化法では、エステル化物のカルボキシル末端基が高くなり、不活性粒子との反応が起こる。そのため、不活性粒子が凝集しやすく、前記フィルムの要求を満たせないという問題点があった。この問題を解決するために、エステル化物の解重合を行い、エステル化物のカルボキシル末端基を低下させる提案がされている。例えば特許文献1では、エステル化反応後、加圧下で不活性粒子のエチレングリコール(以下EG)スラリーを添加し、一定時間撹拌を行うことにより、エステル化物のカルボキシル末端基を低減させる方法が提案されている。また、特許文献2〜4では、無機粒子添加前にエステル化物に金属触媒やEGを添加し、解重合を行う方法が提案されている。ただし、いずれも副生成物であるジエチレングリコール(以下DEG)が増加し、耐熱性の低下や粒子分散性、製膜性の悪化を引き起こす。さらに、解重合に時間を有することによる生産性の低下や余分な原料を使用するため、製造コストが増加する。
【0006】
また、特許文献1、3、4では不活性粒子を表面処理し、粒子分散性を向上させる方法が提案されているが、いずれも温度の制御が不十分であり、そのため高温下で表面処理剤が分解し、粒子分散性が十分満足できるものではなかった。
【0007】
特に、エステル化反応率が低く、エステル化物のカルボキシル末端基が多量に存在する反応系では、カルボキシル末端基と不活性粒子の反応が抑制できない。そのため、分解ガスの発生に伴い重縮合反応時の真空度の不良や異物発生や粒子の凝集に対して、満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−183718号公報
【特許文献2】特開平4−1224号公報
【特許文献3】特開2010−77258号公報
【特許文献4】特開平3−269016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生がなく、粒子分散性、色調に優れるポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した本発明の目的は、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化反応させ、次いでエステル化物を重縮合反応槽へ移行し、減圧下で重縮合反応をしてポリエステルを製造する際、エステル化反応率が80〜94%および温度が220〜250℃のエステル化物に、無機粒子に対し0.1〜2.0重量%の多価カルボン酸化合物を表面処理した無機粒子を、ポリエステルに対し0.05〜5.0重量%となるようにスラリーとして添加した後に減圧下、重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生がなく、粒子分散性、色調に優れたポリエステルを製造することができる。
【0012】
また、本発明により得られたポリエステルは製膜性が良好であり、磁気記録媒体用および離型用に好適な易滑性を示すポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化反応させ、次いでエステル化物を重縮合反応槽へ移行し、減圧下で重縮合反応をしてポリエステルを製造する際、エステル化反応率が80〜94%および温度が220〜250℃のエステル化物に、無機粒子に対し0.1〜2.0重量%の多価カルボン酸化合物を表面処理した無機粒子を、ポリエステルに対し0.05〜5.0重量%となるようにスラリーとして添加した後に減圧下、重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法である。
【0014】
本発明のポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、20モル%以下の範囲で共重合成分として他のジカルボン酸やジオール成分で置き換えても構わない。かかる共重合成分の例として、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸成分およびテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、DEG、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコール、p−キシリレングリコール、1、4−ヘキサンジメタノール、5−ナトリウムスルホレゾルシン等のジオール成分が挙げられる。また、必要に応じて耐熱安定剤や、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、蛍光増白剤等の添加物を加えても構わない。
【0015】
本発明はエステル化法によりポリエステルを製造する方法であり、無機粒子添加前のエステル化物のエステル化反応率は、80〜94%である必要がある。特に粒子分散性およびエステル化反応で副生するDEG等の副生成物の低減のために、90〜93%が好ましい。80%未満では、無機粒子添加時にカルボキシル末端基が過剰に存在するため、エステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子が反応し、無機粒子の凝集が起こる。また、重縮合反応時間が延長し、DEG等の副生成物および得られたポリエステルのb値も増加する。94%を超えて反応させるためには、ジオール成分の仕込量の増加や反応時間の延長が必要となり、生産性の低下に繋がる。また、エステル化物を重縮合反応槽へ移行後ジオール成分を追添加して解重合することにより、エステル化反応率を増加させる方法もあるが、DEG等の副生成物の増加や生産性の低下、製造コストの増加に繋がる。DEG等の副生成物の増加は、ポリエステルの耐熱性の低下や粒子分散性の悪化を引き起こす。さらに製膜時の破れや厚みムラなどによりフィルムの易滑性を損ない、離型用途に使用する際、シリコン塗布工程でハジキが発生したりする。
【0016】
DEG等の副生成物の低減およびエステル化反応の効率化のために、エステル化反応開始前のジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比が1.05〜1.25であることが好ましく、特に1.10〜1.20であることが好ましい。
【0017】
また、エステル化物のカルボキシル末端基の量はエステル化反応率に依存しており、エステル化物のエステル化反応率が80〜94%では、カルボキシル末端基濃度は630〜2080eq/tとなり、90〜93%では、730〜1040eq/tである。
【0018】
本発明の無機粒子は、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化チタンなどが好ましい。中でも、炭酸カルシウムは、粒度分布がシャープであり、粒子径制御が容易であるため、本発明の目的を高度に達成することができる。さらに比較的安価に製造することができることからも特に好ましい。
【0019】
無機粒子の平均粒子径は、0.2〜2.0μmであることが好ましく、特にフィルムにした際の易滑性の観点から0.4〜1.6μmであることが好ましい。
【0020】
本発明における無機粒子は、多価カルボン酸化合物を表面処理することが必要である。上記のエステル化反応率の範囲では、エステル化物のカルボキシル末端基が多く存在するため、無機粒子との反応が起こる。そのため、重縮合反応時に分解ガス発生に伴う真空度不良の発生や異物化、さらに無機粒子の凝集が引き起こされるが、多価カルボン酸化合物を表面処理することにより、エステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子の反応を抑制することができる。また、上記異物は、エステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子が反応してできるカルボン酸金属塩に由来するものであり、フィルムにした際の易滑性の悪化、欠点の発生さらに破れの原因となる。多価カルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族カルボン酸、セバシン酸、アゼライン酸、スベリン酸、ピメリン酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸などの飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和ジカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体およびこれらの金属塩、アンモニウム塩ならびにアルキルエステルやグリコールエステルが挙げられる。特に、無機粒子とポリエステルとの親和性および粒子分散性の観点からポリアクリル酸とその誘導体の共重合物およびその金属塩が好ましい。
【0021】
表面処理剤の量は、無機粒子に対して0.1〜2.0重量%である必要がある。粒子分散性の観点から好ましくは0.3〜1.8重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%である。0.1重量%未満の場合は、表面処理量が少なく、無機粒子の凝集やエステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子との反応が容易に起こり、重縮合反応時の分解ガス発生に伴う真空度不良や異物化、無機粒子の凝集が引き起こされる。また、2.0重量%より多くても無機粒子に凝集が見られる。
【0022】
本発明の無機粒子は、その合成のプロセスにおいて、最終段階で粉砕処理を実施することで制御することができる。炭酸カルシウム粒子の製法について一例を挙げると、常法にて得られた炭酸カルシウム粉末をEG懸濁液とし、この懸濁液に表面処理剤を加えた後に、湿式粉砕を行う。ここで表面処理剤の量および湿式粉砕の処理条件を適宜調節することにより、目的とする粒径の粒子を得ることができる。
【0023】
無機粒子のポリエステルに対する添加量は、0.05〜5.0重量%である必要がある。好ましくは0.1〜4.0重量%、より好ましくは0.5〜2.0重量%である。添加量が0.05重量%未満では、フィルムに成形したときに十分な易滑性が得られない。一方、5.0重量%を超えると粒子の凝集が起こり、フィルム表面に粗大突起が発生するなど表面の易滑性が悪化する。
【0024】
本発明における無機粒子のエステル化物への添加方法は、粒子の飛散防止のため、スラリー状にする必要がある。分散媒としては、ポリエステルの原料であることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの場合は、EGが好ましい。また、スラリー濃度は、特に限定されないが5.0〜30重量%が好ましく、供給精度や作業性の観点から、特に10〜25重量%が好ましい。
【0025】
無機粒子スラリーのエステル化物への添加時期は、エステル化反応後、重縮合反応槽へ移行し、重縮合反応触媒等を添加した後であることが好ましい。特に、無機粒子スラリーを高温かつカルボキシル末端基が多量に存在するエステル化物に添加し、長時間保持することは、表面処理剤の分解およびエステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子の反応に繋がるため、減圧開始直前、つまり重縮合反応開始直前に添加することが好ましい。
【0026】
無機粒子スラリー添加時のエステル化物の温度は、220〜250℃である必要があり、より好ましくは235〜245℃である。220℃未満では、無機粒子スラリーの添加により、エステル化物の温度が下がり、エステル化物の固化や無機粒子の凝集を引き起こす。250℃を超える場合、無機粒子の表面処理剤が分解し、エステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子との反応が起こり、重縮合反応時の分解ガス発生に伴う真空度不良や異物化、無機粒子の凝集が起こる。
【0027】
無機粒子スラリー添加時のエステル化物の温度を上記の範囲とする方法として、エステル化物を重縮合反応槽へ移行後、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kgに対し15W以下とすることが好ましい。特に、局部的な加熱を抑制するためには5W以下が好ましい。例えば、熱媒を供給することにより加熱している重縮合反応槽において、高温の熱媒をジャケットに一定量供給した場合、反応系内へ供給した熱量は、反応系内へ供給した熱媒の熱量と反応系外へ排出した熱媒の熱量の差から算出した。ここで示す反応系とは、ジャケット等を含めた重縮合反応槽全体を指す。ジャケットへの熱媒の供給を止めた場合は、反応系内へ供給した熱量が0Wとなる。さらに、冷却設備などを用いて、強制的に熱媒の温度を下げても構わない。また、電気ヒーターを使用して加熱する設備等を用いても構わない。電気ヒーターは電力により反応系内へ供給する熱量を調整し、電力の供給を止めた時に反応系内に供給する熱量が0Wとなる。
【0028】
また、無機粒子の凝集およびエステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子の反応を抑制するために、無機粒子スラリー添加によるエステル化物の温度低下は5〜20℃であることが好ましく、特に7〜15℃が好ましい。また、該温度の調整は上記反応系内へ供給する熱量によって行うことができ、上記の通り、局部的な加熱を抑制するために、エステル化物1kgに対し5W以下とすることが好ましい。
【0029】
本発明において、重縮合反応槽を減圧して重縮合反応する際、反応系外から反応系内へ供給する熱量は、エステル化物1kgあたり60W以下であることが好ましい。60W以下とすることにより、エステル化物の昇温が緩やかとなり、無機粒子の表面処理剤の分解およびエステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子の反応が抑制できる。
【0030】
本発明の製造方法で得られたポリエステルは、無機粒子の粒子分散性、粗大粒子の低減あるいは重縮合反応性、耐熱性、色調の観点から、リン化合物とアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を含有することが好ましい。
【0031】
アルカリ金属化合物とアルカリ土類金属化合物は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属化合物としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物のうちリチウム化合物、カリウム化合物が粗大粒子低減、エステル化物のカルボキシル末端基低減の点から好ましい。
【0032】
また、アルカリ土類金属化合物としては、カルシウム、マグネシウムなどの酢酸塩、酸化物が好ましく、特に粒子分散性の観点から酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法から得られるポリエステルは、アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として、0.1〜30ppm含有することが好ましい。エステル化物のカルボキシル末端基の低減のために、より好ましくは1〜20ppm、さらに好ましくは2〜10ppmである。
【0034】
リン化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、重縮合反応触媒などの添加時期としては、エステル化物の重縮合反応槽への移行が終了してから、無機粒子を添加するまでの任意の時期に添加することが好ましい。添加方法としては、ジオール溶液またはジオールスラリーとして添加することが好ましい。ジオールとしては、ポリエステルの原料であることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの場合は、EGが好ましい。これらは、二回以上に分割して添加したり、二種以上の化合物を併用して添加しても構わない。
【0035】
リン化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、重縮合反応触媒の少なくとも1つをジオールの溶液またはスラリーとしてエステル化物に添加する際、ジオールの量は、ポリエステルに対し1.0〜4.0重量%であることが好ましい。特に、DEGの低減の観点から2.0〜3.0重量%であることが好ましい。また、ジオールの量を該範囲とすることで、無機粒子添加前のエステル化物の温度が220℃〜250℃となるように調整でき、効率がよい。
【0036】
本発明の製造方法から得られるポリエステルの固有粘度は、製膜性および得られるフィルムの強度の点で、0.50dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.55〜0.70dl/gである。DEGの含有量は、耐熱性、フィルムの製膜性、易滑性の観点から1.2%以下であることが好ましい。また、b値は10以下、異物は0個/300gであることが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法から得られるポリエステルは、ポリエステルフィルムに成型することができる。ポリエステルフィルムは、未延伸のシート状でもよいし、一軸または二軸に延伸された延伸フィルムであってもよい。また、製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、以下の製法を挙げることができる。すなわち、ポリエステルを乾燥後、溶融押出しして未延伸シートとし、続いて二軸延伸、熱処理しフィルムにする。二軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは二軸同時延伸のいずれでもよく、延伸倍率は、通常、縦、横それぞれ2〜5倍が適当である。また、二軸延伸後、さらに縦、横方向のいずれかに再延伸してもよい。この際、本発明のポリエステルと各種のポリエステルとを混合してもよく、該ポリエステルは、本発明のポリエステルの触媒や添加物と同一であっても、異なってもよい。また、本発明のポリエステルフィルムは、単層でも2層以上の積層構造であっても良い。
【0038】
上述した方法で、ポリエステルフィルムを得ることができ、各種用途に使用できるが、特に離型用ポリエステルフィルムに好適に使用できる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0040】
(1)無機粒子の平均粒子径
粒子のEG分散液を水に希釈し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA700)を用いて粒度分布の測定を行った。濃度については、光線透過率80〜95%になるように水で希釈調製し、測定温度25℃、循環速度570ml/minで測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒子径を平均粒子径とした。
【0041】
(2)反応系内への供給熱量
熱媒をジャケットに供給することにより加熱している重縮合反応槽において、下記式よりエステル化物1kgに対する反応系内への供給熱量W(W/kg)を算出した。
W=W1−W2
W1=(T1×c1×V1)/m
W2=(T2×c2×V2)/m
(W1:ジャケットに供給した熱媒の熱量(W/kg)、W2:ジャケットから排出した熱媒の熱量(W/kg)、T1:ジャケットに供給した熱媒の温度(K)、c1:ジャケットに供給した熱媒の比熱(J/(kg・K)、V1:ジャケットへの熱媒の供給量(kg/sec))、T2:ジャケットから排出した熱媒の温度(K)、c2:ジャケットから排出した熱媒の比熱(J/(kg・K))、V2:ジャケットからの熱媒の排出量(kg/sec)、m:エステル化物の重量(kg))
また、重縮合反応槽へ反応系外からの熱媒の供給を停止した際(V1=V2=0)、熱量は0Wとなる。
【0042】
(3)ポリエステルの固有粘度
25℃でオルトクロロフェノール中、0.1g/ml濃度で測定した。
【0043】
(4)ポリエステルの色調
スガ試験機(株)社製の色差計(SMカラーコンピューター形式SM−3)を用いて、ハンター値(b値)として3回測定し、平均値を色調とした。
【0044】
(5)エステル化物のエステル化反応率
エステル化反応で留出した水の量から算出した。
【0045】
(6)ポリエステルの金属元素量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)を用いて、各元素に対する蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線より求めた。
【0046】
(7)エステル化物のカルボキシル末端基
Mauriceの方法に準じた。エステル化物2gをo−クレゾール/クロロホルム(重量比7/3)50mlに溶解し、N/20−水酸化ナトリウムメタノール溶液によって滴定し、エステル化物のカルボキシル末端基を測定し、eq/ポリエステル1tの値で示した。
【0047】
(8)ポリエステルのDEG含有量
ポリエステルをモノメタノールアミンで加熱分解後、1,6−ヘキサンジオール/メタノールで希釈し、テレフタル酸で中和した後、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から求めた。
【0048】
(9)ポリエステル中の粒子分散性
粒子分散性はポリエステルを走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所社製、S−4000型)で観察し、以下の方法により判定した。○、△はフィルムにした場合に問題ないレベルであり、×はフィルムにした場合に問題がある。
○:粒子同士の凝集による粗大粒子は観察されない。
△:粒子同士の凝集による粗大粒子がわずかに観察される。
×:粒子同士の凝集による粗大粒子が多く観察される。
【0049】
(10)ポリエステルチップの異物数と異物組成分析
異物が混入したポリエステルチップをヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、異物のみを取り出し、SEMに付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDX:堀場製作所社製、EMAX−7000型)および赤外顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET CONTINUμM型)を備えたフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET6700型)を用いて、組成分析を行い、ポリエステルチップ300g中のエステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子が反応したカルボン酸金属塩と同定できた異物の個数をカウントした。
【0050】
実施例1
ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびそのオリゴマーを溶融貯留したエステル化反応槽にテレフタル酸とEGのスラリー(モル比1.15)を3時間連続的に供給した。スラリーを供給しながら、0.1MPaの加圧下、255℃でエステル化反応を行い、反応時間4時間でエステル化反応率92%のエステル化物を得た。次いで、供給分のエステル化物を、270℃の重縮合反応槽に移行した。
移行開始より、重縮合反応槽ジャケットへの熱媒の供給を停止し、反応系外から反応系内へ供給する熱量を0Wとした。移行終了後、エステル化物に、常圧下、三酸化アンチモン/酢酸マグネシウム・4水和物/酢酸リチウム・2水和物をアンチモン元素として230ppm、マグネシウム元素として65ppm、リチウム元素として2ppmとなるように添加した。該金属化合物は、ポリエステルに対し3.0重量%のEGを用いて、EGスラリーとして添加した。2分後、トリメチルホスフェートをリン元素として45ppmとなるように添加した。更にその2分後に、粒子に対し1.0重量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(東亜合成株式会社製:A−30SL)を表面処理した平均粒子径1.1μmの炭酸カルシウム粒子の20重量%EGスラリーを、炭酸カルシウム粒子としてポリエステルに対して1.0重量%となるように添加した。粒子添加前のエステル化物は、エステル化反応率が93%、カルボキシル末端基が730eq/t、温度が240℃であった。
また、粒子添加後のエステル化物の温度は230℃となった。2分間攪拌後、重縮合反応槽を常圧から100Paまで徐々に下げ、290℃まで昇温して重縮合反応を終了した。重縮合反応時の加熱は、重縮合反応槽ジャケットへ熱媒として320℃のフェニルエーテル・ビフェニル混合物(比熱2.4×10J/(kg・K))を0.3kg/sec以下で供給することにより、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kgあたり30W以下に制御した。得られたポリエステルは固有粘度0.62dl/g、b値8、DEG1.1重量%であり、SEMでの観察から、粒子分散性も良好であった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示した。
【0051】
実施例2〜4
EGのテレフタル酸に対するモル比を変更し、無機粒子添加前のエステル化反応率を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。実施例2では、EGのモル比を上げることで、DEG量が若干高い値となったが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。実施例3、4では、エステル化反応率が低いため、重縮合反応時間が長くなり、b値、DEG量が若干増加した。重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。実施例4では、カルボキシル末端基と無機粒子が若干反応したため、DEG量が多く、また粒子の凝集が見られたが、問題ないレベルであった。結果を表1〜3に示す。
【0052】
実施例5、6
無機粒子として、酸化アルミニウム、二酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。酸化アルミニウムについて、実施例1に比べ若干粒子分散性に差が見られたものの問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0053】
実施例7、8
炭酸カルシウム粒子の平均粒子径を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。実施例7では平均粒子径を下げたために若干粒子の凝集が見られたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0054】
実施例9〜11
炭酸カルシウム粒子の添加量、スラリー濃度を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。実施例11では、炭酸カルシウム粒子の添加量を増やすことにより、粒子の凝集が見られたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0055】
実施例12、13
表面処理剤の量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。いずれも、粒子の凝集が見られたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0056】
実施例14、15
炭酸カルシウム粒子のスラリー濃度を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。実施例14では、溶媒であるEGの量が増えることにより、若干DEG量が高くなった。また、粒子添加によるエステル化物の温度低下が大きく、粒子が凝集したが、問題ないレベルであった。重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0057】
実施例16
エステル化物を重縮合反応槽へ移行する際、反応系外から反応系内へ供給する熱量を変更させた以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。重縮合反応槽ジャケットへの熱媒の供給量を0.1kg/secとすることにより、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kgに対し10Wとした。粒子添加前のエステル化物温度が250℃と高くなり、無機粒子の表面処理剤が一部分解し、粒子の凝集が若干見られた。また、b値やDEG量も高くなったが問題のないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0058】
実施例17
炭酸カルシウム粒子のスラリー濃度およびエステル化物を重縮合反応槽へ移行する際、反応系外から反応系内へ供給する熱量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。熱媒を冷却装置に通し、220℃のフェニルエーテル・ビフェニル混合物のジャケットへの供給量を0.05kg/secとすることにより、温度制御を行った。粒子添加前のエステル化物温度が下がり、粒子の凝集が若干みられたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0059】
実施例18
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、重縮合反応触媒の添加時期およびエステル化物を重縮合反応槽へ移行する際、反応系外から反応系内へ供給する熱量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。熱媒を冷却装置に通し、250℃のフェニルエーテル・ビフェニル混合物のジャケットへの供給量を0.05kg/secとすることにより、温度制御を行った。粒子添加前のエステル化物温度が高いため、粒子の凝集、DEG量、b値の増加が見られたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0060】
実施例19、20
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、重縮合反応触媒に用いるEG量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。実施例19では、EGの量が増えることにより、若干DEG量が高くなった。また、重縮合反応時間が長くなり、b値が若干増加したが、問題ないレベルであった。重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。実施例20では、EGの量が減ることにより、粒子添加前のエステル化物温度が高くなり、粒子の凝集、DEG量、b値の増加が見られたが、問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0061】
実施例21
重縮合反応時、反応系外から反応系内へ供給する熱量を変更させた以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。重縮合反応槽ジャケットへの熱媒の供給量を0.7kg/sec以下とすることにより、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kgあたり70W以下に制御した。重縮合反応時にエステル化物に供給する熱量を上げることにより、b値、DEG量が増加したが問題ないレベルであった。また、重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかった。結果を表1〜3に示す。
【0062】
比較例1
EGのテレフタル酸に対するモル比を1.85とし、粒子添加前のエステル化反応率を98%とした以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。重縮合反応時の真空度不良や異物の発生はなかったが、得られたポリエステルはDEGの量が多くなった。結果を表1〜3に示す。また、エステル化反応時間が長くなり、生産性が低下した。
【0063】
比較例2
粒子添加前のエステル化反応率を低下させた以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。エステル化物のカルボキシル末端基が高く、粒子の凝集が見られた。また、重縮合反応時間が長く、得られたポリエステルのDEG量、b値共に高い値となった。結果を表1〜3に示す。
【0064】
比較例3
炭酸カルシウム粒子の添加量、スラリー濃度を変更させた以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。炭酸カルシウム粒子の添加量を増やすことにより、粒子の凝集が多く見られた。結果を表1〜3に示す。
【0065】
比較例4
炭酸カルシウム粒子に多価カルボン酸化合物を表面処理しなかった以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。重縮合反応時の分解ガス発生に伴う真空度不良、異物化が見られた。粒子の凝集が見られ、DEG量、b値共に高い値となった。結果を表1〜3に示す。また、発生した異物の組成分析を実施した結果、カルボン酸金属塩であった。
【0066】
比較例5
表面処理剤の量を増加させること以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。得られたポリエステルは粒子の凝集が多く見られた。結果を表1〜3に示す。
【0067】
比較例6
表面処理剤としてリン酸カルシウムを用いること以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。得られたポリエステルは粒子の凝集が多く見られた。結果を表1〜3に示す。
【0068】
比較例7
炭酸カルシウム粒子を粉末のまま添加すること以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。炭酸カルシウム粒子の粉末が飛散、異物化したため、異物数が多く見られた。結果を表1〜3に示す。また、発生した異物の組成分析を実施した結果、炭酸カルシウム粒子およびカルボン酸金属塩であった。
【0069】
比較例8
無機粒子添加時、エステル化物の温度を変更させた以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルを得た。エステル化物の温度は、重縮合反応槽へエステル化物を移行後、重縮合反応槽ジャケットへの熱媒の供給量を0.16kg/secとすることにより、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kgに対し16Wとし、粒子添加前のエステル化物温度を255℃とした。高温下で表面処理剤が分解、エステル化物のカルボキシル末端基と無機粒子が反応することにより、重縮合反応時の分解ガス発生に伴う真空度不良、異物化が見られた。粒子の凝集が多く見られ、DEG量、b値共に高い値となった。結果を表1〜3に示す。また、発生した異物の組成分析を実施した結果、カルボン酸金属塩であった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化反応させ、次いでエステル化物を重縮合反応槽へ移行し、減圧下で重縮合反応をしてポリエステルを製造する際、エステル化反応率が80〜94%および温度が220〜250℃のエステル化物に、無機粒子に対し0.1〜2.0重量%の多価カルボン酸化合物を表面処理した無機粒子を、ポリエステルに対し0.05〜5.0重量%となるようにスラリーとして添加した後に減圧下、重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
無機粒子スラリーの添加開始から減圧開始までの間のエステル化物の温度低下が5〜20℃であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
エステル化物の移行開始から減圧開始するまでの間、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kg当たり15W以下とすることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
重縮合反応槽を減圧して重縮合反応する際、反応系外から反応系内へ供給する熱量をエステル化物1kg当たり60W以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
エステル化物の移行後、無機粒子添加前に重縮合反応触媒、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物の少なくとも1つをジオールの溶液またはスラリーとして添加する際、ジオールの量がポリエステルに対し1.0〜4.0重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
無機粒子の平均粒子径が0.2〜2.0μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
無機粒子スラリーの濃度が5.0〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
無機粒子が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2013−49785(P2013−49785A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188584(P2011−188584)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】