説明

ポリエステルイミド前駆体及びポリエステルイミド

【課題】高難燃性、低線熱膨張係数、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高接着強度、高ガラス転移温度及び可撓性を併せ持つポリエステルイミド及びその前駆体を提供する。
【解決手段】一般式(9)で表される反復単位を有するエステル構造及び特定の芳香族骨格を有するポリエステルイミドは、フレキシブルプリント配線基板(FPC)基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC基板材料として好適に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルプリント配線基板(FPC)、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC基板材料として有用なポリエステルイミド及びその前駆体とこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、FPC基板、TAB用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜など、様々な電子デバイスに広く利用されている。また、ポリイミドはこれらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、といったことから、近年、益々その重要性が高まっている。
電子機器の軽薄短小化が進むにつれて、ポリイミドへの要求特性も年々厳しさを増し、ハンダ耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属基板との接着強度、成型加工性、スルーホール等の微細加工性など、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。
【0003】
近年、FPC基板としてのポリイミドの需要が飛躍的に増加している。FPCの原反(銅張積層板、FCCL)の構成は主に3つの様式に分類される。即ち、1)ポリイミドフィルムと銅箔とをエポキシ系接着剤等を用いて貼り付ける3層タイプ、2)銅箔にポリイミドワニスを塗付後、乾燥又は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを塗布後、乾燥、イミド化するか、あるいは蒸着・スパッタなどによりポリイミドフィルム上に銅層を形成する無接着剤2層タイプ、3)接着層として熱可塑性ポリイミドを用いる擬似2層タイプ、が知られている。ポリイミドフィルムに高度な寸法安定性が要求される用途では、接着剤を使用しない2層FCCLが有利である。
【0004】
FPC基板としてのポリイミドは、実装工程における様々な熱サイクルに曝されて寸法変化が起こる。これをできるだけ抑えるためには、ポリイミドのガラス転移温度(Tg)が工程温度よりも高いことに加えて、ガラス転移温度以下での線熱膨張係数ができるだけ低く、金属箔の線熱膨張係数と整合していることが望ましい。後述するように、ポリイミド層の線熱膨張係数の制御は、2層FCCL製造工程中に発生する残留応力の低減の観点からも、極めて重要である。
多くのポリイミドは、有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのため、ポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸(PMDA)などの芳香族テトラカルボン酸二無水物と4,4’−オキシジアニリン(ODA)などの芳香族ジアミンとを、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を重合し、このワニスを銅箔上に塗付し、250〜400℃で加熱し、脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0005】
残留応力は、高温でのイミド化反応後に、ポリイミド/金属箔積層体を室温へ冷却する過程で発生し、FCCLのカーリング、剥離、膜の割れなど、深刻な問題がしばしば起こる。また、ポリイミドワニスを用いた場合においても、乾燥−冷却工程において、ポリイミド前駆体ワニスを用いた場合と同様に、残留応力の問題が生じる。
熱応力低減の方策として、絶縁膜であるポリイミド自身を低熱膨張化することが有効である。殆どのポリイミドでは、線熱膨張係数が40〜100ppm/Kの範囲にあり、金属基板、例えば、銅の線熱膨張係数17ppm/Kよりもはるかに大きいため、銅の値に近い、およそ20ppm/K以下の線熱膨張係数を示す、低熱膨張性ポリイミドの研究開発が行われている。
【0006】
現在、実用的な低熱膨張性ポリイミド材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンから形成されるポリイミドがよく知られている。このポリイミドフィルムは、膜厚や作製条件にもよるが、5〜10ppm/Kと非常に低い線熱膨張係数を示す(例えば、非特許文献1参照)が、低吸湿膨張率は示さない。
ポリイミドの寸法安定性は、熱サイクルだけでなく吸湿に対しても要求される。従来のポリイミドでは2〜3wt%も吸湿する。絶縁層の吸湿による寸法変化に伴う回路の位置ずれは、高密度配線や多層配線にとって深刻な問題である。ポリイミド/導体界面でのコロージョン、イオンマイグレーション、絶縁破壊など、電気特性の低下によって更に深刻な問題を引き起こす恐れがある。そのため、絶縁膜としてのポリイミド層はできるだけ吸湿膨張率が低いことが求められている。
【0007】
低吸湿膨張率を実現するため、例えば式(21)で表される酸無水物を使用したポリイミドが有効であると報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【化1】

【0009】
しかしながら、銅箔との接着強度が低いため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などを用いた接着層を必要とし、構成される絶縁膜(ポリイミド層+接着層)としては、難燃性、吸湿膨張率、ポリイミドの特長である耐熱性の悪化が懸念される。
重合反応性や製膜加工性を保持したまま低線熱膨張係数(約20ppm/K 50−200℃)、高難燃性、低吸湿膨張率(8ppm/%RH以下、10−80%RH)、可撓性、ハンダ耐熱性、且つ銅箔との接着強度を満足するポリイミドを得ることは分子設計上容易ではなく、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ殆ど知られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平10−126019号公報
【非特許文献1】Macromolecules,29,7897(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高接着強度、銅に近い低線熱膨張係数、高ガラス転移温度及び可撓性を併せ持つポリエステルイミド及びその前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体ワニスを銅箔などの導体基板上に塗付、乾燥してフィルムとし、これを熱的に又脱水試薬などを用いてイミド化して形成された、下記一般式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミドフィルムが、上記産業分野において極めて有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下に示すものである。
1.下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【0012】
【化2】

【0013】
(ここで、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基であり、2つのカルボキシル基はシス配置に限定されず、シスとトランス配置が混在していてもよい。)
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
2.下記一般式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【0022】
【化10】

【0023】
(式(9)中、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基である。)
【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
3.1に記載のポリエステルイミド前駆体を加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、2に記載のポリエステルイミドの製造方法。
4.1に記載のポリエステルイミド前駆体を含有するワニスを金属箔上に塗付し、乾燥後、加熱あるいは脱水試薬を用いてイミド化させることを特徴とする、金属層と2に記載のポリエステルイミドから構成される樹脂層との積層板の製造方法。
5.4に記載の積層板の金属層をエッチングすることを特徴とする、フレキシブルプリント配線基板の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高接着強度、銅に近い低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、可撓性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線基板(FPC)用基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC基板材料として有用なエステル構造を有するポリエステルイミド及びその前駆体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
ポリイミドを低熱膨張化するための分子設計として、主鎖骨格をできるだけ直線状で剛直に(内部回転により多様なコンホメーションをとりにくく)する必要がある。しかし一方で、これによりポリマー鎖の絡み合いが減少し、フィルムが脆弱化する恐れがある。また、ポリイミド骨格へのエーテル構造などの屈曲性単位の過大な導入は、膜靭性の向上や金属との接着強度の向上には大きく寄与するが、低熱膨張特性の発現を妨げることが予想される。
本発明において着目したエステル構造は、エーテル構造に比べて内部回転障壁が高く、コンホメーション変化が比較的妨げられているため、剛直構造単位として振舞い、且つポリイミド主鎖にある程度の柔軟さも付与し、可撓性のフィルムを与えることが期待される。
【0034】
また、エステル構造はアミド構造やイミド構造よりも単位体積当たりの分極率が低いため、ポリイミドへのエステル構造の導入は低吸湿膨張率化にも有利である。
しかしながら、低吸湿膨張率化を目論み、ポリイミド中の芳香族エステル構造の含有率を増加させるだけでは、ポリイミド最大の特長である耐熱性、難燃性、前駆体の溶解性(溶液キャスト製膜性)、重合反応性(重合時に沈殿しないこと)の悪化が懸念される。また、膜厚や作製条件にもよるが、熱膨張係数が5〜9ppm/Kと非常に低くなり、銅箔同等の熱膨張係数への制御が困難である。その上、銅箔との接着強度などの悪化も懸念される。
【0035】
本発明においては、酸二無水物及びジアミンとして特定の芳香族骨格を有するモノマーを選定し、ポリイミドへ特定の芳香族骨格及びエステル構造を導入することにより、ポリイミドの耐熱性、前駆体の溶解性、重合反応性を保持したまま、燃焼時のチャー化率の向上による著しい難燃性の向上及び金属、特に銅との接着強度の向上を実現した。
本発明のポリエステルイミド前駆体は、エステル構造を有する酸二無水物及びエステル構造を有するジアミンをモノマーとして用いることにより製造される。
本発明に係るポリエステルイミド前駆体を重合する際、エステル構造を有するモノマーとして、下記式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物、及び式(11)〜式(17)より選択されるエステル構造を有するジアミンを少なくとも1種用いる。
【0036】
【化18】

【0037】
【化19】

【0038】
【化20】

【0039】
【化21】

【0040】
【化22】

【0041】
【化23】

【0042】
【化24】

【0043】
【化25】

【0044】
(Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。R5は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
本発明に係るポリエステルイミドは、式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミドであって、エステル構造を有する特定の芳香族酸二無水物モノマーとジアミンモノマーの構成により、高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高い接着強度、銅箔同等の低熱膨張係数、高ガラス転移温度を同時に実現することを可能とする。
また、本発明によると、フッ素化モノマーなどの高価なモノマーを使用せずに、上記のような特性を併せ持つポリイミドを低コストで製造することができる。
【0045】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
本発明は、式(10)で表されるエステル構造を有する酸二無水物と式(11)〜式(17)で表されるエステル構造を有するジアミンから選択される少なくとも1種のモノマーを重合反応させることにより、産業上極めて有用な、エステル構造及び特定の芳香族構造を有するポリエステルイミドを提供することができる。エステル構造を有し、かつ特定の芳香族構造を有するモノマーの剛直性、疎水性、置換基の立体的嵩高さという構造上の特徴から、樹脂とした際に高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高い接着強度、銅箔同等の低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、可撓性を併せ持つ、従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。
【0046】
<ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明に係るポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。
まずジアミンを重合溶媒に溶解し、これにテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間好ましくは1〜24時間攪拌する。この際、モノマー濃度は重合度の観点や、モノマーや生成するポリマーの溶解性の観点から、5〜50wt%が好ましく、10〜40wt%がより好ましい。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリエステルイミド前駆体溶液を得ることができる。ポリエステルイミドフィルムの靭性の観点から、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。ポリエステルイミドフィルムの靭性及びワニスのハンドリングの観点から、ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.1〜15.0dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0047】
本発明に係るポリエステルイミドフィルムの要求特性及びポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、式(1)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体重合の際に、式(10)で表されるエステル構造を有する酸二無水物と併用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−メチルフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0048】
本発明に係るポリエステルイミドフィルムの要求特性及びポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、式(10)で表されるエステル構造を有する酸二無水物と併用可能な脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0049】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体の重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、式(11)〜式(17)で表されるエステル構造を有するジアミンと併用可能な芳香族ジアミンとして、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミンなどが挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0050】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体の重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、式(11)〜式(17)で表されるエステル構造を有するジアミンと併用可能な脂肪族ジアミンとしては特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミンが挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0051】
重合反応の際使用される溶媒としては、原料モノマーと生成するポリエステルイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造は限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチルーγ−ブチロラクトンなどの環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート溶媒、トリエチレングリコールなどのグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフエノールなどのフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。溶解性の観点から、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。
【0052】
また、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
本発明に係るポリエステルイミド前駆体は、その重合溶液を大量の水やメタノールなどの貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0053】
<ポリエステルイミドの製造方法>
本発明に係るポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際、ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属箔/ポリエステルイミドフィルム積層体、粉末、成型体及び溶液である。
ポリエステルイミドフィルムを製造する方法について述べる。
ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコンなどの基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素などの不活性ガス中、あるいは空気中、200〜430℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで本発明に係るポリエステルイミドフィルムを製造することができる。イミド化の閉環反応の観点から、200℃以上であり、生成したポリエステルイミドフィルムの熱安定性の観点から、430℃以下である。イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【0054】
また、イミド化反応は、熱処理に代えて、ポリエステルイミド前駆体の重合溶液中にピリジンやトリエチルアミンなどの3級アミンを添加しポリエステルイミド前駆体フィルムを作製し、200〜300℃で加熱しながら化学イミド化することや、ポリエステルイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミンなどの3級アミン存在下、無水酢酸などの脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。
ここでは、ポリエステルイミド前駆体ワニスからのポリエステルイミドフィルムの製造方法について述べたが、これに限定されず、熱乾燥させたポリエステルイミド前駆体フィルムや、単離したポリエステルイミド前駆体を、加熱により、あるいは脱水試薬を用いて環化反応させることなどによりポリエステルイミドを製造してもよい。ポリエステルイミドが溶媒に不溶な場合は、結晶性のポリエステルイミド粉末を沈殿物として得ることができる。ポリエステルイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリエステルイミドの成型体を作製することができる。
【0055】
また、ポリエステルイミド前駆体ワニス中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸などの脱水試薬を添加・撹拌して、0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。ポリイソイミドワニスを上記と同様の手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリエステルイミドへ容易に変換することができる。イソイミド化反応は、上記脱水試薬を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することでも可能である。
【0056】
ポリエステルイミドが溶媒に溶解する場合、ポリエステルイミド前駆体の重合溶液をそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後150〜200℃に加熱することで、本発明に係るポリエステルイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。この際、イミド化の副生成物である水などを共沸留去するために、トルエンやキシレンなどを添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリンなどの塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノールなどの貧溶媒中に滴下・濾過しポリエステルイミドを粉末として単離することもできる。またポリエステルイミド粉末を上記重合溶媒に再溶解してポリエステルイミドワニスとすることができる。ポリエステルイミドワニスを基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜300℃で乾燥することによってもポリエステルイミドフィルムを形成することができる。
【0057】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体のワニスを、金属箔、例えば銅箔上に塗付、乾燥後、上記の条件によりイミド化することで、FPC基板の原反である金属層とポリエステルイミド樹脂層の積層板(FCCL)を得ることができる。
FPC基板の金属箔としては、種々の金属箔を使用することができるが、好ましくは、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔などを挙げることができる。これらの金属箔には、マット処理、メッキ処理、クロメート処理、アルミニウムアルコラート処理、アルミニウムキレート処理、シランカップリング剤処理などの表面処理を行ってもよい。
金属箔の厚みは特に限定されないが、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは6〜18μmである。
【0058】
FCCLは、例えば以下の様にして製造することができる。
まず、本発明に係るポリエステルイミド前駆体ワニスを金属箔上にブレードコーターや、リップコーター、グラビアコーターなどを用いて塗工する。その後、乾燥させてポリエステルイミド前駆体層を形成する。塗工厚は、ポリエステルイミド前駆体ワニスの固形分濃度に影響されるが、ポリエステルイミド前駆体層を、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気下にて、200〜400℃にて熱イミド化させることによりポリエステルイミド樹脂絶縁層を形成することができる。ポリエステルイミド樹脂絶縁層の厚みは、100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは3〜25μmである。
【0059】
更に、塩化第二鉄水溶液などのエッチング液を用いて積層板の金属層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型フレキシブルプリント配線基板を製造することができる。
本発明に係るポリエステルイミド及びその前駆体ワニス中に、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤及び増感剤などの添加物を加えることができる。
本発明のポリエステルイミドは、高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高接着強度、金属箔、特に銅箔同等の低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、及び可撓性を有するため、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、フレキシブルプリント配線基板、ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板などに利用でき、特にフレキシブルプリント配線基板用基材として有用である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(Thermo Nicolet社製 Avatar 360 FT-IR)を用い、全反射法にてポリエステルイミドフィルム(25μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
<固有粘度>
0.5wt%のポリエステルイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0061】
<ガラス転移温度:Tg>
島津製作所製熱機械分析装置(TMA−50)を用いて、熱機械分析により、荷重5g、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下(流量20ml/min)、温度50〜450℃の範囲における試験片伸びの測定を行い、得られた曲線の変曲点からポリエステルイミドフィルム(25μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
島津製作所製熱機械分析装置(TMA−50)を用いて、熱機械分析により、荷重5g、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下(流量20ml/min)、温度50〜450℃の範囲における試験片伸びの測定を行い、50〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(25μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
【0062】
<吸湿膨張率:CHE>
アルバック理工株式会社製熱機械分析装置(TM−9400)及び湿度雰囲気調整装置(HC−1)を用いて、幅3mm、長さ30mm(チャック間長さ15mm)、厚み25μmのフィルムを23℃、荷重5gにて湿度10%RHから80%RHに変化させた際の試験片の伸びから10%RH〜80%RHにおける平均値としてポリエステルイミドフィルムの吸湿膨張率を求めた。
<難燃性>
イミド化後のポリエステルイミドフィルムの厚みが12μmとなるようにポリエステルイミド前駆体溶液をフィルム銅箔上に塗布した。窒素雰囲気中にて乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム付銅箔の銅箔を塩化第二鉄溶液にてエッチングし、得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させた。その後、長さ20cm×幅5cmの大きさとなるように40枚作製した。40枚のサンプル中、20枚を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に48時間以上放置(受理状態)し、残り20枚を温度70℃、168時間エージング後、温度23℃、相対湿度20%以下のデシケーター中にて4時間冷却した。各々のフィルム各5枚を用いて、UL94 VTM試験に基づく評価方法にて23℃、相対湿度55%の雰囲気下にて燃焼性試験によりVTM-0評価を行った。(なお、このとき評価に使用した炎は、20mmの大きさの青色炎で、銅スラグの100〜700℃までの昇温時間が42.9秒であった。)
【0063】
<銅箔接着強度>
サンプル作製法及び測定法についてはJIS C6471規格に準じて行った。ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ15cm×幅1cmの大きさに切断し、1cmの中心幅3mmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させ、その後、厚み3mmのFR−4基板に両面粘着テープにて取り付けた。幅3mmの導体をポリエステルイミドフィルムとの界面で引剥がし、アルミ製テープに張りつけ掴み代とした。
試料を島津製作所製引っ張り試験機(オートグラフAG-10KNI)に固定した。固定する際、確実に90°の方向に引き剥がすために治具をとりつけ、約50mm/minの速度にて50mm引き剥がした際の荷重を測定し、1cmあたりの接着強度として算出した。
【0064】
<ハンダ耐熱性評価>
ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ3cm×幅3cmの大きさに切断し、中心部2.5cm×2.5cmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させた後、300℃に設定されたハンダ浴中に、銅箔側が接するようにハンダ浴表面に2分間静置し、銅箔とポリエステルイミドフィルム中のふくれ、皺の発生の有無など、外観を目視により評価し、外観の変化が見られない場合を良好な結果(○)とした。
【0065】
<煮沸ハンダ耐熱性評価>
ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ3cm×幅3cmの大きさに切断し、中心部2.5cm×2.5cmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。還流冷却器付き容器に精製水を入れ、得られたサンプルを浸漬し、100℃で2時間静置した。その後、常温精製水中にサンプルを投入し、各サンプルを1枚ずつ取り出し、両面の水分を紙タオルでふきとった。その後、280℃に設定されたハンダ浴中に、銅箔側が接するようにハンダ浴表面に2分間静置し、銅箔とポリエステルイミドフィルム中のふくれ、皺の発生の有無など、外観を目視により評価し、外観の変化が見られない場合を良好な結果(○)とした。
【0066】
(実施例1)
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化及びポリエステルイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に式(18)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、ATAB)13mmol、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3mmol(以下、ODA)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン71mLに溶解した後、この溶液に式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、TABP)の粉末17mmolを徐々に加えた。室温下で30分間攪拌し、その後、80℃に加温することで、溶液粘度が急激に増加した。さらに4時間撹拌し、透明、均一で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得た。
【0067】
【化26】

【0068】
【化27】

【0069】
このポリエステルイミド前駆体溶液は室温及び20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。N−メチル−2−ピロリドン中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.82dL/gであった。
金属製の塗工台に、12μm厚の銅箔(日本電解株式会社 USLP箔)を、マット面側が表面になるように静置した。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリエステルイミド前駆体溶液をドクターブレードにて銅箔マット面に塗布した。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30分間静置の後、タック性のないポリエステルイミド前駆体フィルム(厚み45μmもしくは24μm)を得た。次いで、SUS製金属板にポリエステルイミド前駆体フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃30分、200℃1時間、400℃1時間にてイミド化を行った。カールのない銅箔つきフィルムが得られた。この銅箔付きフィルムの銅箔を塩化第二鉄溶液にてエッチングすることにより、膜厚25μmもしくは12μmの薄茶色のポリエステルイミドフィルムを得た。
【0070】
この膜厚25μmのポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によって破断せず、可撓性を示した。N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に対して溶解性を示さなかった。また、TMA測定により17ppm/K(50℃から200℃の間の平均値)と銅箔同等の低い線熱膨張係数を示した。吸湿膨張率を測定したところ4.8ppm/%RH(10%RHから80%RHの間の平均値)と、極めて低い吸湿膨張率を示した。90°銅箔接着強度を測定したところ0.9kg/cmと高い接着強度を示した。膜厚12μmのポリエステルイミドフィルムの難燃性を評価したところUL94 VTM-0の性能を示した。また、良好なはんだ耐熱性、煮沸はんだ耐熱性を示した。表1に物性値をまとめる。得られたポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0071】
(実施例2)
式(19)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、BBOT)を用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。
【0072】
【化28】

【0073】
物性値を表1に示す。得られたポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを図2に示す。このポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に対して溶解性を示さなかった。低吸湿膨張率、高難燃性、銅箔との高い接着強度、銅に近い線熱膨張係数、良好なハンダ耐熱性及び煮沸ハンダ耐熱性を示した。
【0074】
(実施例3)
式(20)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、BPIP)を用いた以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。得られたポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを図3に示す。
【0075】
【化29】

【0076】
このポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に対して溶解性を示さなかった。低吸湿膨張率、高難燃性、銅箔との極めて高い接着強度、銅に近い線熱膨張係数、良好なハンダ耐熱性及び煮沸ハンダ耐熱性を示した。
【0077】
(比較例1)
TABPの代わりに式(21)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミンとして式(22)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、APAB)、ODAを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0078】
【化30】

【0079】
【化31】

【0080】
銅に近い線熱膨張係数、高い熱安定性及び可撓性を示したが、吸湿膨張率は、8.3ppm/%RHと比較的高く、また、銅箔との接着強度も0.3kg/cmと低い値であり、12μm厚のフィルムにて難燃性能が低くUL94 VTM-0の性能が得られなかった。
【0081】
(比較例2)
TABPの代わりにエステル構造を有しない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDA)を用い、ジアミンとしてAPAB、ODAを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。高い難燃性、低い線熱膨張係数、高い熱安定性及び可撓性を示したが、吸湿膨張率は、10ppm/%RHと高い値であり、また、銅箔との接着強度も0.3kg/cmと低い値であった。
【0082】
(比較例3)
TABPの代わりに式(23)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、TAMHQ)を用い、ジアミンとしてAPAB、ODAを用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。
【0083】
【化32】

【0084】
低吸湿膨張率、銅に近い線熱膨張係数、高い熱安定性及び可撓性を示したが、銅箔との接着強度が0.2kg/cmと低い値であり、12μm厚のフィルムにて難燃性能が低くUL94 VTM-0の性能が得られなかった。
【0085】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリエステルイミドは、フレキシブルプリント配線基板(FPC)基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC基板材料として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は実施例1に記載のポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルである。
【図2】図2は実施例2に記載のポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルである。
【図3】図3は実施例3に記載のポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【化1】

(ここで、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基であり、2つのカルボキシル基はシス配置に限定されず、シスとトランス配置が混在していてもよい。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
【請求項2】
下記一般式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【化9】

(式(9)中、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基である。)
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステルイミド前駆体を加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、請求項2に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のポリエステルイミド前駆体を含有するワニスを金属箔上に塗付し、乾燥後、加熱あるいは脱水試薬を用いてイミド化させることを特徴とする、金属層と請求項2に記載のポリエステルイミドから構成される樹脂層との積層板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の積層板の金属層をエッチングすることを特徴とする、フレキシブルプリント配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255252(P2008−255252A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99915(P2007−99915)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】