説明

ポリエステルエラストマー樹脂組成物

【課題】良好な耐摩耗性と成形品表面外観を有し、機械的性質も優れたポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルエラストマー(A)86〜99.95重量%と、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体(B)0.05〜14重量%からなるポリエステルエラストマー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性、成形品表面外観が良好で、しかも機械物性に優れたポリエステルエラストマー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位及び/又はポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとするポリエステルエラストマーは、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
これらの用途において耐摩耗性が必要とされる場合には、ポリエステルエラストマーに耐摩耗性改良剤を添加する方法が知られており、シリコーン樹脂を添加する方法(特許文献1)、シリコーンオイルを添加する方法(特許文献2)、フッ素ゴムを添加する方法(特許文献3)、飽和脂肪族炭化水素基置換アマイドを添加する方法(特許文献4)が提案されている。また、2種以上の耐摩耗性改良剤を添加する方法として、分子量10000以上のシリコーン樹脂と反応性シリコーンオイルを添加する方法(特許文献5)、固体潤滑油と高級アルコール、高級脂肪酸それらの誘導体および長鎖炭化水素化合物を添加する方法(特許文献6)、チタン酸カリウムウィスカーと置換アマイド類を添加する方法(特許文献7)が提案されている。さらに、ポリエステルエラストマーマトリックス中にポリオレフィンエラストマーをドメインとして存在させることで耐摩耗性を改良する方法(特許文献8)も提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの耐摩耗性改良剤はポリエステルエラストマーとの相溶性が悪いためポリエステルエラストマーに添加した場合に、成形品表面の層状剥離やウェルドライン発生、さらにはこれらのブルーミングによる表面外観不良を起こす。また、チタン酸カリウムウィスカーを添加する場合には引張破断伸びが大きく低下しポリエステルエラストマーとしての機械特性を損なう。さらに、ポリオレフィンエラストマーをドメインとして存在させても十分な耐摩耗性は得る事が困難である。
【特許文献1】特開平3−229753号公報
【特許文献2】特開昭61−195154号公報
【特許文献3】特開平9−157500号方法
【特許文献4】特開平5−279557号公報
【特許文献5】特許第3531691号公報
【特許文献6】特開昭52−65552号公報
【特許文献7】特開2007−146076号公報
【特許文献8】特開2003−292745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ポリエステルエラストマーの耐摩耗性と成形品表面外観を改良し、しかも機械物性に優れたポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明とは、(1)主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルエラストマー(A)80〜99.95重量%と、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体(B)0.05〜20重量%からなるポリエステルエラストマー樹脂組成物である。
【0007】
また、次の(2)〜(4)が好ましい態様である。
(2)ポリエステルエラストマー(A)の低融点重合体セグメント(a2)の共重合量が10〜90重量%であること、
(3)重合体(B)がシリコーン化合物20〜80重量%とエチレン共重合体20〜80重量%のグラフト共重合体であること、
(4)さらに、重合体(B)100重量部に対し、シリコーン化合物(b1)が単体で0.01〜40重量部、エチレン共重合体(b2)が単体で0.01〜40重量部含まれていること。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐摩耗性と成形品の表面外観に優れ、しかも機械物性に優れたポリエステルエラストマー樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
【0010】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0011】
ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0012】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。そして、好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a1)の例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0013】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)の低融点重合体セグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテルであり、脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましい。
【0014】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)の低融点重合体セグメント(a2)の共重合量は、通常、10〜90重量%、好ましくは15〜75重量%である。
【0015】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0016】
本発明に用いられる重合体(B)とは、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体であり、エチレン共重合体がシリコーン化合物で変性されているエチレン共重合体のシリコーン変性物である。好ましい形態としては、分子内にエチレン共重合体単位とシリコーン化合物単位を有する共重合体であり、エチレン共重合体とシリコーン化合物を加熱混練してエチレン共重合体にシリコーン化合物をグラフト化して得ることができる。特に好ましくはエチレン共重合体とシコーン化合物とを加熱混練によりグラフト化したもので、その際には架橋剤や反応停止剤を用いることができる。シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)の共重合割合は、シリコーン化合物20〜80重量%とエチレン共重合体20〜80重量%、好ましくは、シリコーン化合物30〜70重量%とエチレン共重合体30〜70重量%である。シリコーン化合物(b1)が20重量%未満でエチレン共重合体(b2)が80重量%以上の時は、ポリエステルエラストマー樹脂組成物としての摺動性が劣り機械的性質を損なうため好ましくなく、シリコーン化合物(b1)が80重量%以上でエチレン共重合体(b2)が20重量%未満ではポリエステルエラストマー樹脂組成物の成形品表面外観が劣るため好ましくない。
【0017】
また、本発明に用いられる重合体(B)は、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体以外に、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)を単体として含有することも可能であり、含有量としては重合体(B)100重量部に対し、シリコーン化合物(b1)単体で0.01〜40重量部、エチレン共重合体(b2)単体で0.01〜40重量部であり、各々40重量部を超えるとポリエステルエラストマー樹脂組成物の成形品表面外観が損なわれるので好ましくない。
【0018】
本発明のポリエステルエラストマー(A)とシリコーン化合物(b1)とエチレン化合物(b2)からなる重合体(B)の配合割合は、ポリエステルエラストマー(A)86〜99.95重量%、重合体(B)の配合割合0.05〜14重量%、さらに好ましくはポリエステルエラストマー(A)90〜99.5重量%、重合体(B)0.5〜10重量%、より好ましくはポリエステルエラストマー(A)90〜99重量%、重合体(B)1〜10重量%であることが推奨される。
【0019】
本発明のシリコーン化合物(b1)とは、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、トリフロロプロピルメチルポリシロキサンなどのシリコーン樹脂であってアミノ基、ビニル基、アルキルアリル基で変性したシリコーン樹脂も使用することができる。
【0020】
また、本発明に用いられるエチレン共重合体(b2)とは、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレンメチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンメチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、などが挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物の混合方法としては特に制限がなく、ポリエステルエラストマー(A)、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体(B)を任意の割合で配合し、バンバリーミキサー、押出機等を用いて加熱混練する方法を採用することができる。また、ポリエステルエラストマー(A)、シリコーン化合物(b1)およびエチレン共重合体(b2)を架橋剤や反応停止剤とともにバンバリーミキサーや押出機等で加熱混練することにより、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)の重合(グラフと重合)とポリエステルエラストマー(A)との混連を同時に行ってもよい。このとき、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)の重合は100%完結させる必要はなく、結果として、ポリエステルエラストマー(A)が86〜99.95重量%、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)との重合体(B)が0.05〜14重量%になればよい。このような場合には、樹脂組成物には、さらに未反応のシリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)が含まれることになる。
【0022】
好ましい方法としては、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)を架橋剤等とともに先に加熱混練してシリコーン化合物とエチレン共重合体の重合体(B)を製造し、その後ポリエステルエラストマー(A)を配合し加熱混練する方法が挙げられる。
【0023】
また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤、シリコーンオイル等の添加剤を添加することができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次のように測定した。
【0025】
[硬度(デュロメーターD)]
ASTM D−2240にしたがって測定した。
【0026】
[機械的特性]
JIS K7113にしたがって、引張破断強度と引張破断伸度を測定した。
【0027】
[滑り摩耗試験]
JIS K7218にしたがって、摩耗量と動摩擦係数を測定した。相手材はS45C、試験速度72mm/sec、荷重100N、滑り距離259m(60min)である。
【0028】
[成形品表面外観]
成形品表面外観を目視観察し、層状剥離、フローマークの有無を確認する。外観不良がなく成形品表面外観が良好なものを○、外観不良が確認されたものを×とした。
【0029】
[実施例に用いた化合物]
[ポリエステルエラストマー(A−1)]
テレフタル酸234部、1,4−ブタンジオール222部および数平均分子量が約2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール723部を、チタンテトラブトキシド3部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行った。この反応混合物に“イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を展開した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間40分重合を行い、ポリエステルエラストマー(A−1)を得た。得られたポリエステルエラストマーを水中にストランド状で吐出し、カッティングしてペレット化した。このポリエステルエラストマーの硬度は30ショアDであった。
【0030】
[ポリエステルエラストマー(A−2)]
テレフタル酸444部、1,4−ブタンジオール386部および数平均分子量が約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール439部を使用した以外は、(A−1)と同様にして重合、カッティングしてポリエステルエラストマー(A−2)を得た。このポリエステルエラストマーの硬度は50ショアDであった。
【0031】
[シリコーン化合物とエチレン共重合体の重合体(B−1)]
東レ・ダウコーニング(株)製BY27−219 シリコーン含有量60%エチレンメチルメタクリレート共重合体
【0032】
[シリコーン化合物とエチレン共重合体の重合体(B−2)]
東レ・ダウコーニング(株)製BY27−220 シリコーン含有量60%エチレン酢酸ビニル共重合体
【0033】
[シリコーン化合物とエチレン共重合体の重合体(B−3)]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(信越化学製 NER−2)50重量部と、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)(日本ユニカー製 NUC−6570)50重量部と、過酸化物(日本油脂製 パーブチルP)0.05重量部と、酸化防止剤(チバスペシャルティ・ケミカルズ製 イルガノックス1010)0.02重量部を120℃に設定したバンバリーミキサーに投入し、10分間混連し得られた重合体組成物をペレット化した。
【0034】
[シリコーン化合物とポリエステルエラストマーの混合物(Z−1)]
東レ・ダウコーニング(株)製BY27−010 ポリエステルエラストマーとシリコーン化合物の混合物(シリコーン含有量50%)
【0035】
[シリコーン化合物(b1)]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(信越化学製 NER−2)
【0036】
[エチレン共重合体(b2)]
エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)(日本ユニカー製 NUC−6570)
【0037】
[実施例1〜10、比較例1〜11]
上記したポリエステルエラストマー(A−1)、(A−2)、エチレン共重合体のシリコーン変性物(B−1)、(B−2)、(B−3)、シリコーン化合物とポリエステルエラストマーの混合物(Z−1)、シリコーン化合物(b1)、エチレン共重合体(b2)を、表1と表2に示す配合比率(重量%)でV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いてペレット化した。加熱温度はポリエステルエラストマー(A−1)では200℃、ポリエステルエラストマー(A−2)では230℃で溶融混練した。
【0038】
得られたペレットを80℃で5時間乾燥後、ポリエステルエラストマー(A−1)を使用したポリエステルエラストマー樹脂組成物は190℃、ポリエステルエラストマー(A−2)を使用したポリエステルエラストマー樹脂組成物は230℃に設定したインラインスクリュー型射出成形機を用いて、30℃の金型温度(金型キャビティ表面)において、JIS2号ダンベル試験片と縦120mm×横70mm×厚み2mmの角板成形品を射出成形した。硬度には角板成形品を、引張試験にはJIS2号ダンベル試験を用いて試験を行った。耐摩耗性は、角板成形品からφ50mmの円板を打ち抜き加工した成形品を用いた。成形品の表面外観の観察にはJIS2号試験片と角板成形品を使用し良好な成形品を○、層状剥離やフローマークが観察された成形品を×とした。特性を調べた結果を表1と表2に示す。
【0039】
[実施例11]
ポリエステルエラストマー(A−1)95wt%、シリコーン化合物(b1)2.5wt%、エチレン共重合体(b2)2.5wt%、過酸化物(日本油脂製 パーブチルP)0.05wt%と、酸化防止剤(チバスペシャルティ・ケミカルズ製 イルガノックス1010)0.02wt%をV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する190℃に設定した2軸押出機を用いて溶融混練してポリエステルエラストマー樹脂組成物を得てペレット化した。ポリエステルエラストマー樹脂組成物中のシリコーン化合物とエチレン共重合体からなる重合体、シリコーン化合物単体、エチレン共重合体単体の割合は、各々54%、23%、23%であった。得られたペレットは実施例1〜10と同様に成形、評価を行った。特性を調べた結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
以上の結果より、実施例1〜11に示した本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は優れた機械的性質を示し、耐摩耗性においては摩耗量が少なく低い摩擦係数を示した。さらに、成形品表面外観の観察でも層状剥離やフローマークなどは確認されず良好であった。比較例1、2ではシリコーン化合物を含有しないため耐摩耗性が不十分であり、シリコーン化合物を多く含有する比較例3〜6では機械的性質が劣っている。エチレン共重合体を含有しない比較例7〜10では成形品表面外観に層状剥離やフローマークが観察され良好な表面外観が得られなかった。シリコーン化合物とエチレン共重合体を単独で含有する比較例11では成形品表面外観に層状剥離が観察され良好な表面外観が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、上記した優れた特性を活かして、自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費財用途の各種成形品などに有用であり、特に優れた耐摩耗性と成形品表面外観を両立させる用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルエラストマー(A)86〜99.95重量%と、シリコーン化合物(b1)とエチレン共重合体(b2)からなる重合体(B)0.05〜14重量%からなるポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステルエラストマー(A)の低融点重合体セグメント(a2)の共重合量が10〜90重量%であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
重合体(B)がシリコーン化合物20〜80重量%とエチレン共重合体20〜80重量%のグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルエラストマ−樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、重合体(B)100重量部に対し、シリコーン化合物(b1)が単体で0.01〜40重量部、エチレン共重合体(b2)が単体で0.01〜40重量部含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルエラストマ−樹脂組成物。