説明

ポリエステルエラストマー樹脂

【課題】 低温時の物性を損なうことなく、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂の耐屈曲疲労性向上を達成することを課題とする。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸(a1)、低分子量グリコール(a2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]と、芳香族ジカルボン酸(b1)、低分子量グリコール(b2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]を、[A]および[B]の末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物[C]で鎖延長したポリエステルエラストマー樹脂であって、(a3)の数平均分子量と(b3)の数平均分子量が異なり、[A]のガラス転移温度(Tg(A))と[B]のガラス転移温度(Tg(B))が異なることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形などの成形に用いられるポリエステルエラストマー樹脂に関する。特に、電気部品や家電製品、自動車部品や工業部材に用いられ、耐屈曲疲労性に優れるポリエステルエラストマー樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
リサイクル性の環境面、耐屈曲疲労性の性能面、そして生産性のコスト面における優位性から従来のゴムの代替として熱可塑性エラストマーが活用されている。その用途は幅広く、それに伴い樹脂に求められる性能も柔軟性、高耐熱性、高耐屈曲疲労性などの組合せが多岐に渡る。
【0003】
耐屈曲疲労性を向上させるには、ポリエステルエラストマー全体の分子量を向上させる、ポリエステルエラストマーを構成するソフトセグメントであるポリエーテルグリコールの重量比率を上昇させる、そしてポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくする手段がある。その中でも特にポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくする手段は、耐屈曲疲労性を向上させる手段として非常に有効となる。しかしポリエステルエラストマー全体の分子量を向上させる手法では流動性が悪くなり、ポリエーテルグリコールの重量比率を上昇させる手法では表面硬度や結晶融点が低下し、ポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくする手法では融点が上昇し低温時の硬度は硬くなる。このようにそれぞれの手法において、それぞれ低下する物性が存在し、特にポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくする手法では、ポリエーテルグリコールの低温での固化により硬度変化が顕著となる。そのため特にポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくする手法での耐屈曲疲労性と低温時の硬度変化の抑制を両立させることは困難であった。
【0004】
ポリエステルエラストマー全体の分子量を向上させ耐屈曲疲労性を向上する手段として、エポキシとの反応による鎖延長がある。エポキシとの反応による鎖延長の手段については、例えば特許文献1で、ポリエポキシドと反応させて溶融劣化を防ぐ方法が提案されている。しかし、これは溶融劣化した分をエポキシで反応させて分子量を維持しようとするものであり、耐屈曲疲労性については十分満足できるものではない。特許文献2では、ポリエステルブロックエラストマーに2官能以上のグリシジルエステル化合物を配合してなる耐屈曲疲労性が優れる樹脂製フレキシブルブーツが提案されているが、低温時の硬さに関する記述はなく、耐屈曲疲労性と低温時の硬度変化の抑制する機能の発現も限定的である。
【0005】
また低温での硬度変化を制御するために低温特性の良い他の共重合体をブレンドする方法がある。例えば特許文献3には、低温特性の良いスチレンジエン型ブロック共重合体をブレンドすることで低温時の硬さ変化を抑制しているが、耐屈曲疲労性については十分満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−100495号公報
【特許文献2】特許第4038742号公報
【特許文献3】特開昭50−82162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の手法では解決できなかった、他の物性を損なうことなく、ポリエステルエラストマー樹脂の耐屈曲疲労性向上を達成することを課題とする。特に、耐屈曲疲労性向上のためにポリエステルエラストマーに含まれるポリエーテルグリコールの分子量を大きくし、そのことによる低温時の硬さ変化の抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意、研究、検討した結果、遂に本発明を完成するに到った。つまり、本発明は、芳香族ジカルボン酸(a1)、低分子量グリコール(a2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]と、芳香族ジカルボン酸(b1)、低分子量グリコール(b2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]を、[A]および[B]の末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物[C]で鎖延長したポリエステルエラストマー樹脂であって、(a3)の数平均分子量と(b3)の数平均分子量が異なり、[A]のガラス転移温度(Tg(A))と[B]のガラス転移温度(Tg(B))が異なることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂である。
【0009】
この場合において、前記Tg(A)が、−65〜−40℃であり、前記Tg(B)が、Tg(A)より高く、かつ−50〜−30℃であり、ポリエステルエラストマー樹脂中の[A]の質量部をW(A)、[B]の質量部をW(B)、[C]の質量部をW(C)としたときに、下記の(式1)および(式2)を満足することが好ましい。
(式1) 0.4<W(A)/W(B)<2.4
(式2) 100<(W(A)+W(B))/W(C)<300
【0010】
この場合において、前記(a3)の数平均分子量が500〜1500であり、前記(b3)の数平均分子量が1500〜3000であることが好ましい。
【0011】
この場合において、前記(a1)、(b1)が、テレフタル酸、およびナフタレンジカルボン酸から選択される少なくとも1種であり、前記(a2)、(b2)が、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびダイマーグリコールから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(ここで、(a1)、(b1)は、同一であっても異なっていても良く、(a2)、(b2)は、同一であっても異なっていても良い。)
【0012】
この場合において、前記[C]が、エポキシ基を2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、低温時の物性を損なうことなく、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂の耐屈曲疲労性向上を達成することができる。
上記熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]及び上記熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]を上記化合物[C]で鎖延長し均等に分散されることで、[A]と[B]の割合に比例した耐屈曲疲労性能を示すにもかかわらず、低温での硬度変化においては、Tgの高い(構成成分のポリ(オキシテトラメチレン)グリコールの数平均分子量が大きい)[B]の低温における寄与を、Tgの低い(構成成分のポリ(オキシテトラメチレン)グリコールの数平均分子量が小さい)[A]の寄与が吸収し、硬度変化が抑制される利点を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[A])
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]は、芳香族ジカルボン酸(a1)、低分子量グリコール(a2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)を構成成分とするものである。
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸であることが望ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0015】
また、本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]において、ハードセグメントのポリエステルを構成する低分子量グリコールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2〜8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコールなどが挙げられる。エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコーが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0016】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位あるいはブチレンナフタレート単位よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0017】
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000〜40000を有しているものが望ましい。
【0018】
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]におけるソフトセグメントは、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)で構成される。ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)の数平均分子量は、下記する理由により、500〜1500のものが望ましい。好ましい下限は600、より好ましくは800である。好ましい上限は1300、より好ましくは1200である。本発明の特性を損なわない範囲で、ソフトセグメントの一部として、他のポリ(オキシアルキレン)グリコールや脂肪族ポリエステルグリコール等を用いても良い。
【0019】
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]は、ハードセグメントとソフトセグメントを反応させて得られるものである。ソフトセグメントの重量比率は、エラストマー性能を発現できる5〜80重量%が好ましく、また40〜60重量%がより好ましい。上記反応は、反応温度、触媒濃度、反応時間の組み合わせを任意に決定して行なうことができる。すなわち、反応条件は、用いるハードセグメント及びソフトセグメントの種類及び量比、用いる装置の形状、攪拌状況などの種々の要因によってその適正値が変化する。
【0020】
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]のガラス転移温度Tg(A)は、−65〜−40℃であることが好ましい。Tgをこの範囲にするためには、ソフトセグメントを構成するポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)の数平均分子量としては500〜1500のものが望ましい。Tg(A)の下限は、−63℃がより好ましく、−60℃がさらに好ましい。上限は、−45℃がより好ましく、−50℃がさらに好ましく、−55℃が特に好ましい。
【0021】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]は、少量に限り三官能以上のポリカルボン酸、ポリオールを含んでもよい。例えば無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリンなどを使用できる。
【0022】
次に本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]を得る方法としては、公知の任意の方法を採用することができる。例えば、溶融重合法、溶液重合法、固相重合法などいずれも適宜用いられる。溶融重合法の場合、エステル交換法でも直接重合法であってもよい。樹脂の粘度を向上させるため、溶融重合後に固相重合を行うことはもちろん望ましいことである。
反応に用いる触媒としては、アンチモン触媒、ゲルマニウム触媒、チタン触媒が良好である。特にチタン触媒は、詳しくはテトラブチルチタネート、テトラメチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート、シュウ酸チタンカリなどのシュウ酸金属塩などが好ましい。またその他の触媒としては公知の触媒であれば特に限定はしないが、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウリレートなどのスズ化合物、酢酸鉛などの鉛化合物が挙げられる。
【0023】
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[B])
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]は、芳香族ジカルボン酸(b1)、低分子量グリコール(b2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)を構成成分とするものである。
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸であることが望ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0024】
また、本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]において、ハードセグメントのポリエステルを構成する低分子量グリコールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2〜8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコールなどが挙げられる。エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコーが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0025】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位あるいはブチレンナフタレート単位よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000〜40000を有しているものが望ましい。
【0027】
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]におけるソフトセグメントは、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)で構成される。ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)の数平均分子量は、下記する理由により、1500〜3000のものが望ましい。好ましい下限は1600、より好ましくは1800である。好ましい上限は2500、より好ましくは2200である。本発明の特性を損なわない範囲で、ソフトセグメントの一部として、他のポリ(オキシアルキレン)グリコールや脂肪族ポリエステルグリコール等を用いても良い。
【0028】
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]はハードセグメントとソフトセグメントを反応させて得られるものである。ソフトセグメントの重量比率は、エラストマー性能を発現できる5〜80重量%が好ましく、また40〜60重量%がより好ましい。上記反応は、反応温度、触媒濃度、反応時間の組み合わせを任意に決定して行なうことができる。すなわち、反応条件は、用いるハードセグメント及びソフトセグメントの種類及び量比、用いる装置の形状、攪拌状況などの種々の要因によってその適正値が変化する。
【0029】
本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]のガラス転移温度Tg(B)は、前記Tg(A)より高く、かつ−50〜−30℃であることが好ましい。Tgをこの範囲にするためには、ソフトセグメントを構成するポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)の数平均分子量としては1500〜3000のものが望ましい。Tg(B)の下限は、−48℃がより好ましく、−45℃がさらに好ましい。上限は、−33℃がより好ましく、−35℃がさらに好ましく、−40℃が特に好ましい。
Tg(B)は、Tg(A)より、5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。
【0030】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]は、少量に限り三官能以上のポリカルボン酸、ポリオールを含んでもよい。例えば無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリンなどを使用できる。
【0031】
次に本発明にかかる熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]を得る方法としては、公知の任意の方法を採用することができる。例えば、溶融重合法、溶液重合法、固相重合法などいずれも適宜用いられる。溶融重合法の場合、エステル交換法でも直接重合法であってもよい。樹脂の粘度を向上させるため、溶融重合後に固相重合を行うことはもちろん望ましいことである。
反応に用いる触媒としては、アンチモン触媒、ゲルマニウム触媒、チタン触媒が良好である。特にチタン触媒は、詳しくはテトラブチルチタネート、テトラメチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート、シュウ酸チタンカリなどのシュウ酸金属塩などが好ましい。またその他の触媒としては公知の触媒であれば特に限定はしないが、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウリレートなどのスズ化合物、酢酸鉛などの鉛化合物が挙げられる。
【0032】
(化合物[C])
本発明において化合物[C]とは、前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物である。前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの末端官能基とは、カルボキシル基及び/または水酸基である。また、熱可塑性ポリエステルエラストマーの末端官能基と反応しうる官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基(酸無水物基)、水酸基、カルボジイミド基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらのうち、溶融滞留時の溶融粘度変化や熱可塑性ポリエステルエラスマー末端官能基との反応制御から、[C]の官能基は、エポキシ基が好ましく、[C]は、エポキシ基を2つ以上有する化合物であることが好ましい。
化合物[C]の具体例として、イソシアネート基を有する化合物は、ヘキサメチレンジソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環化物;
イソホロンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類;これらのジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
キシリレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルイソシアネート、(mもしくはp)フェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’ビフェニンジイソシアネート、ビス(4−イソシナトフェニル)スルホン等の芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
トリフェニルメタンー4,4’、4’’―トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等の1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコーツ等のポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0033】
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物;
ジシクロペンタジエンジオキサイド、エポキシシクロヘキセンカルボン酸エチレングリコールジエステル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’−4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、1,2,:8,9ジエポキシリモネン等の脂環族エポキシ化合物;
ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物及びその水添化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート等の芳香族又は複素環式エポキシ化合物;
シリコーンオイルの末端にエポキシ基を有する化合物やアルコキシシランとエポキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0034】
また、その他の化合物として、無水ピロメリット酸、無水フタル酸、ポリカルボジイミド、ビスオキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0035】
化合物[C]のイソシアネート基を有する化合物の市販品としては、旭化成製のヂュラネート50M、同D−101、D−201,24A−100、TPA 100、THA 100、三井化学品のコスモネートT 80、M 100、NBDI、ND、タケネート500、600、700、住化バイエルウレタン製のスミジュールT−08、44S,N3200,N3300、デスモジュールH、W、I、日本ポリウレタン工業製のコロネートT 08、ミリオネートMT、MR,HDI、協和発酵製のLTI、信越シリコーン製のKBE−9007等が挙げられる。
【0036】
エポキシ基を有する化合物の市販品としては、JER社製のエピコート806、807、1256、152、154、YX400、YL6400、阪本薬品工業社製のSR−NPG、SR−16H、SR−16L、SR−TMP、SR−HHPA、SR−HBA、SR−4GL、SR−SEP、日産化学工業製のTepic−p、Tepic−s、Tepic−g,ナガセケムテックス社製のデナコールEX−201,EX−211、EX−212,EX−252、EX−313,EX−314、EX−321、EX−411、EX−212L、新日本理化製のリカレジンHBE−100,DME−100,BPO−20E、四日市合成製のDBG−DEP、エポゴーセーHD(M)、2EH、ダイセル化学工業製の2021P、2000、エポリードGT401、EHPE3150、東都化成製のYH−300、YH−301、YH−315、YH−324,YH−325、YD−127,YD−128,YD−134、信越シリコーン製のX−22−163、KF−105,X−22−163A、X−22−163B、X−22−169AS、X−22−169B、X−22−9002等が挙げられる。
【0037】
(ポリエステルエラストマー樹脂)
本発明において、ポリエステルエラストマー樹脂とは、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]及び[B]を前記化合物[C]で鎖延長したものである。
本発明では、[A]質量部・W(A)と[B]質量部・W(B)が、以下の(式1)を満たすことが望ましい。
(式1) 0.4<W(A)/W(B)<2.4
また[A]質量部・W(A)、[B]質量部・W(B)、そして[C]質量部・W(C)が、以下の(式2)を満たすことが望ましい。
(式2) 100<(W(A)+W(B))/W(C)<300
それぞれがこの範囲であれば耐屈曲疲労性を満足しながら、かつ低温における硬度変化を抑えることができる。(式2)における(W(A)+W(B))/W(C)の範囲について、(W(A)+W(B))/W(C)≧300では耐屈曲疲労性を充分に満足することが難しく、(W(A)+W(B))/W(C)≦100では前記化合物[C]の過剰な反応により化合物[C]自体による異物により耐屈曲疲労性を妨げる原因となる。
ただし、0.25≦W(A)/W(B)≦4、かつ、50≦(W(A)+W(B))/W(C)≦350 を満たせば、耐屈曲疲労性と低温における硬度変化を、十分に満足できるレベルではないが、両立させることができる。
【0038】
また、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]及び[B]と前記化合物[C]を反応させる際、反応を促進させるため、公知の触媒を使用しても良い。
【0039】
さらに、本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂には、目的に応じて種々の添加剤を配合して組成物を得ることができる。添加剤としては、公知のヒンダードフェノール系、硫黄系、燐系、アミン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル系などの光安定剤、帯電防止剤、滑剤、過酸化物などの分子調整剤、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物などの反応基を有する化合物、金属不活性剤、有機及び無機系の核剤、中和剤、制酸剤、防菌剤、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、有機及び無機系の顔料などを添加することができる。
【0040】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができるヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−トルエン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6’−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、カルシウム(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−モノエチル−ホスフェート)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ビス〔3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸〕グリコールエステル、トリフェノール、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、2,2’−オキサミドビス〔エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,1,3−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミックアヒドトリエステルウイズ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナアミド)、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどを挙げることができる。
【0041】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができる硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジウロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジラウリルチオジプロピオネート、ジオクタデシルサルファイド、ペンタエリストリール−テトラ(β−ラウリル−チオプロピオネート)エステルなどを挙げることができる。
【0042】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができる燐系酸化防止剤としては、トリス(ミックスド、モノ及びジノリルフェニル)フォスファイト、トリス(2,3−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)フォスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンフォスファナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストール−ジ−フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、トリドデシルトリチオホスファイトなどを挙げることができる。
【0043】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができるアミン系酸化防止剤としては、N,N−ジフェニルエチレンジアミン、N,N−ジフェニルアセトアミジン、N,N−ジフェニルフルムアミジン、N−フェニルピペリジン、ジベンジルエチレンジアミン、トリエタノールアミン、フェノチアジン、N,N’−ジ−seC−ブチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−テトラメチル−ジアミノジフェニルメタン、P,P’−ジオクチル−ジフェニルアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチル−ペンチル)−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β− ナフチルアミン、4,4’−ビス(4−α,α−ジメチル−ベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン類及びその誘導体やアミンとアルデヒドの反応生成物、アミンとケトンの反応生成物から挙げることができる。
【0044】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができるベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアゾール系、ニッケル系、サリチル系光安定剤としては、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’、5’−ビス(α,α−ジメチルベンジルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンアゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾチリアゾール、2,5−ビス−〔5’−t−ブチルベンゾキサゾリル−(2)〕−チオフェン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル燐酸モノエチルエステル)ニッケル塩、2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチルオキサリックアシッド−ビス−アニリド85〜90%と2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチル−4’−t−ブチルオキサリックアシッド−ビス−アニリド10〜15%の混合物、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−エトキシ−2’−エチルオキサザリックアシッドビスアニリド、2−〔2’−ヒドロオキシ−5’−メチル−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミド−メチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−i−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシルオキシベンゾフェノン、サリチル酸フェニルなどの光安定剤を挙げることができる。
【0045】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができる充填剤としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型)、酸化クロム(三価)、酸化鉄、酸化亜鉛、シリカ、珪藻土、アルミナ繊維、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、軽石バルーンなどの酸化物や水酸化マウネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの塩基性物又は水酸化物又は、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウウム、炭酸バリウム、炭酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、ドロマイト、ドーソナイトなどの炭酸塩又は、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、塩基性硫酸マグネシウムなどの(亜)硫酸塩又は、珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、モンモリナイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ペントナイトなどの珪酸塩又は、カオリン(陶土)、パーライト、鉄粉、銅粉、鉛粉、アルミニウム粉、タングステン粉、硫化モリブデン、カーボンブラック、ボロン繊維、炭化珪素繊維、黄銅繊維、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、硼酸亜鉛、硼酸アルミニウム、メタ硼酸バリウム、硼酸カルシウム、硼酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0046】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができる難燃助剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ソーダ、二酸化錫、メタ硼酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、赤燐系化合物、ポリリン酸アンモニウム塩、メラミンシアヌレート、四フッ化エチレンなどが挙げられる。
【0047】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができるトリアジン基を有する化合物及び/又はその誘導体としては、メラミン、メラミンシアヌレート、燐酸メラメン、スルファミン酸グアニジンなどが挙げられる。
【0048】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは、ポリエステルエラストマー樹脂に配合することができる燐化合物の無機系燐化合物としては、赤燐系化合物、ポリリン酸アンモニウム塩などが挙げられる。赤燐系化合物としては、赤燐に樹脂をコートしたもの、アルミニウムとの複合化合物などが挙げられる。有機系燐化合物としては、燐酸エステル、燐酸メラミンなどが挙げられる。燐酸エステルとしては、ホスフェート類、ホスホネート類、ホスフィネート類のトリメチルホスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルホスフェート、トリオクチルフォスフィート、トリブトキシエチルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリス・イソプロピルフェニルフォスフェート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、ビス(1,3−フェニレンジフェニル)ホスフェート、芳香族縮合燐酸エステルの1,3−〔ビス(2,6−ジメチルフェノキシ)ホスフェニルオキシ〕ベンゼン、1,4−〔ビス(2,6−ジメチルフェノキシ)ホスフェニルオキシ〕ベンゼンなどが耐加水分解や熱安定性、難燃性から好ましい。
【0049】
これらの添加物の配合方法としては、加熱ロール、押出機、バンバリミキサーなどの混練機を用いて配合することができる。また、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を製造する際のエステル交換反応の前又は重縮合反応前のオリゴマー中に、添加及び混合することができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
(測定法)
耐屈曲疲労性試験:
JIS K 6260に準じた。デマッチャ屈曲き裂試験機BE−102(テスター産業株式会社製)を用い、試験環境温度は100℃で試験を行なった。試験片が破断するまでの回数で評価を行なった。
耐屈曲疲労性の評価については、破断までの屈曲回数1200万回以上で特に優れる場合は◎、破断までの屈曲回数1200万回未満800万回以上で優れる場合は○、破断までの屈曲回数800万回未満700万回以上の場合は△、破断までの屈曲回数700万回未満で不十分である場合は×とした。
低温での硬度変化:
テンシロンUTM−1−5000(東洋ボールドウィン製)を用い、室温(25℃)から−30℃までの50%伸長時応力を測定し、(−30℃での50%伸長時応力)/(室温での50%伸長時応力)で低温時の硬度変化の評価とした。
低温での硬度変化の評価については、(−30℃での50%伸長時応力)/(室温での50%伸長時応力)<2で○、2≦(−30℃での50%伸長時応力)/(室温での50%伸長時応力)<2.2で△、(−30℃での50%伸長時応力)/(室温での50%伸長時応力)≧2.2で×とした。
ガラス転移温度(Tg):
動的粘弾性測定装置Rheogel−E4000(株式会社ユービーエム社製)を用い、測定サンプルはNF型単動圧縮成形機(株式会社神藤金属工業製)を用い240℃に加熱した熱板でプレスすることにより0.4mm厚のシートを作成し、測定は測定周波数11Hz、昇温速度は2℃/分の条件で−150℃から150℃までのtanδでそのピーク位置をTgとした。
【0051】
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[A1])
ジメチルテレフタレート(DMT)320g、1,4−ブタンジオール(BD)260g、ポリテトラメチレングリコール(PTMG,分子量1000)420g、イルガノックス−1330(チバジャパン社製) 1.8g、テトラブチルチタネート(TBT)1.0gを4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期縮合反応を行った。さらに250℃、1torr以下の状態で2時間重合反応を行い、ポリマーをペレット状に取り出した。採取された熱可塑性ポリエステルエラストマー[A1]は、Tg=−60℃であった。
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[A2])
ジメチルテレフタレート(DMT)320g、1,4−ブタンジオール(BD)260g、ポリテトラメチレングリコール(PTMG,分子量1200)420g、イルガノックス−1330(チバジャパン社製) 1.8g、テトラブチルチタネート(TBT)1.0gを4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期縮合反応を行った。さらに250℃、1torr以下の状態で2時間重合反応を行い、ポリマーをペレット状に取り出した。採取された熱可塑性ポリエステルエラストマー[A2]は、Tg=−57℃であった。
【0052】
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[B1])
ジメチルテレフタレート(DMT)320g、1,4−ブタンジオール(BD)260g、ポリテトラメチレングリコール(PTMG,分子量2000)420g、イルガノックス−1330(チバジャパン社製) 1.8g、テトラブチルチタネート(TBT)1.0gを4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期縮合反応を行った。さらに250℃、1torr以下の状態で2時間重合反応を行い、ポリマーをペレット状に取り出した。採取された熱可塑性ポリエステルエラストマー[B1]は、Tg=−40℃であった。
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[B2])
ジメチルテレフタレート(DMT)320g、1,4−ブタンジオール(BD)260g、ポリテトラメチレングリコール(PTMG,分子量1800)420g、イルガノックス−1330(チバジャパン社製) 1.8g、テトラブチルチタネート(TBT)1.0gを4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期縮合反応を行った。さらに250℃、1torr以下の状態で2時間重合反応を行い、ポリマーをペレット状に取り出した。採取された熱可塑性ポリエステルエラストマー[B2]は、Tg=−43℃であった。
【0053】
[実施例1]
熱可塑性ポリエステルエラストマー[A1]と、熱可塑性ポリエステルエラストマー[B1]の末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物には、YD−128(東都化成製:ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを重縮合させて得られる重合体)[C1]を用い、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=1とし、2軸押出機にて溶融・混練後、冷水に通して冷却ストランドによりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0054】
[実施例2]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と、[C]として、YH−300(東都化成製:脂肪族ポリグリシジルエーテルを主成分としたエポキシ樹脂)[C2]を用いて、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0055】
[実施例3]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、デナコールEX−313(ナガセケムテックス株式会社製:グリセロールポリグリシジルエーテル)[C3]を用いて、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0056】
[実施例4]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、Tepic−p(日産化学工業株式会社製:トリアジン核を骨格にもつ3価のエポキシ化合物)[C4]を用いて、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0057】
[実施例5]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、ミリオネートMR−200(日本ポリウレタン工業株式会社製:モノメリックMDI及びその多核体の混合物)[C5]を用いて、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0058】
[実施例6]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、カルボジライトHMV−8CA(日清紡績株式会社製:多価カルボジイミド)[C6]を用いて、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0059】
[実施例7]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=290、W(A)/W(B)=1とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0060】
[実施例8]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=110、W(A)/W(B)=1とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0061】
[実施例9]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=0.43とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0062】
[実施例10]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=2.3とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0063】
[実施例11]
上記熱可塑性エラストマー[A2]、[B2]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=1とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0064】
[比較例1]
(熱可塑性ポリエステルエラストマー[D])
ジメチルテレフタレート(DMT)320g、1,4−ブタンジオール(BD)260g、ポリテトラメチレングリコール(PTMG,分子量1500)420g、イルガノックス−1330(チバジャパン社製) 1.8g、テトラブチルチタネート(TBT)1.0gを4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期縮合反応を行った。さらに250℃、1torr以下の状態で2時間重合反応を行い、ポリマーをペレット状に取り出した。
【0065】
熱可塑性ポリエステルエラストマー[D]の末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(D))/W(C)=200とし、2軸押出機にて溶融・混練後、冷水に通して冷却ストランドによりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0066】
[比較例2]
上記熱可塑性エラストマー[A1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、W(A)/W(C)=200とし、2軸押出機にて溶融・混練後、冷水に通して冷却ストランドによりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0067】
[比較例3]
上記熱可塑性エラストマー[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、W(B)/W(C)=200とし、2軸押出機にて溶融・混練後、冷水に通して冷却ストランドによりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0068】
[実施例12]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=50、W(A)/W(B)=1とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0069】
[実施例13]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=350、W(A)/W(B)=1とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0070】
[実施例14]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=0.25とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0071】
[実施例15]
上記熱可塑性エラストマー[A1]、[B1]と[C]として、YD−128(東都化成製)[C1]を用いて、(W(A)+W(B))/W(C)=200、W(A)/W(B)=4とし、実施例1と同様の方法によりポリエステルエラストマー樹脂を得た。
【0072】
上記実施例、比較例で製造したポリエステルエラストマー樹脂の構成比を表1に、得られたポリエステルエラストマー樹脂の物性を表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、ポリエステルエラストマー樹脂の耐屈曲疲労性向上を達成すると同時に、低温時の硬さ変化の抑制も可能であり、産業界への寄与が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸(a1)、低分子量グリコール(a2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(a3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[A]と、芳香族ジカルボン酸(b1)、低分子量グリコール(b2)、およびポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(b3)を構成成分とする熱可塑性ポリエステルエラストマー[B]を、[A]および[B]の末端官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する化合物[C]で鎖延長したポリエステルエラストマー樹脂であって、(a3)の数平均分子量と(b3)の数平均分子量が異なり、[A]のガラス転移温度(Tg(A))と[B]のガラス転移温度(Tg(B))が異なることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項2】
前記Tg(A)が、−65〜−40℃であり、前記Tg(B)が、Tg(A)より高く、かつ−50〜−30℃であり、ポリエステルエラストマー樹脂中の[A]の質量部をW(A)、[B]の質量部をW(B)、[C]の質量部をW(C)としたときに、下記の(式1)および(式2)を満足する請求項1記載のポリエステルエラストマー樹脂。
(式1) 0.4<W(A)/W(B)<2.4
(式2) 100<(W(A)+W(B))/W(C)<300
【請求項3】
前記(a3)の数平均分子量が500〜1500であり、前記(b3)の数平均分子量が1500〜3000であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルエラストマー樹脂。
【請求項4】
前記(a1)、(b1)が、テレフタル酸、およびナフタレンジカルボン酸から選択される少なくとも1種であり、前記(a2)、(b2)が、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびダイマーグリコールから選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂。
(ここで、(a1)、(b1)は、同一であっても異なっていても良く、(a2)、(b2)は、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項5】
前記[C]が、エポキシ基を2つ以上有する化合物である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂。



【公開番号】特開2011−122019(P2011−122019A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279372(P2009−279372)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】