説明

ポリエステルコアヤーンミシン糸

【課題】 コアヤーンミシン糸の芯糸であるマルチフィラメントの露出を防止することによって強力低下することなく、高速可縫性に優れたポリエステルコアヤーンミシン糸を提供する。
【解決手段】 長繊維フィラメントを芯糸とし、短繊維スパン糸を鞘糸とする複合糸で構成されるコアヤーンミシン糸において、芯糸であるフィラメントの単糸繊度を0.8〜1.6dtexとし、かつフィラメントのトータル繊度が40〜60dtexとすることを特徴とするポリエステルコアヤーンミシン糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアヤーンの芯糸であるフィラメントを細繊度にすることにより鞘糸であるスパン糸の被覆性を良好にせしめ、ミシン糸加工時の操業性を向上させ、かつ高速可縫性を良好にせしめた、高強度のポリエステルコアヤーンミシン糸を提供するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用されているミシン糸はポリエステルミシン糸が主流であり、原糸形態により大別するとポリエステルフィラメント糸からなるポリエステルフィラメントミシン糸とポリエステルスパン糸(紡績糸)からなるポリエステルスパンミシン糸とに大別される。
【0003】
ポリエステルフィラメントミシン糸は高強力を有しかつ縫い目外観に優れているが、針穴との空隙率が低いため熱的影響を受けやすく、縫製後の強力保持率が劣るという問題点がある。また、フィラメントの表面に毛羽加工を施し、縫製時の摩擦熱を放熱させる効果を持たせているが、縫糸の強度がフィラメント縫い糸対比劣位となる欠点がある。
【0004】
一方、ポリエステルスパン糸は毛羽を有し空隙率が高いため縫製後の強力保持率に優れており、更に可縫性も優れているが、ポリエステルフィラメントミシン糸に比べ縫目外観に劣る欠点を持っている。
【0005】
このようにポリエステルミシン糸において、フィラメントミシンとスパンミシン糸の両者の長所を併せ持つミシン糸が低コスト開発されるならば縫製分野において画期的な技術的意義を有する。従来、フィラメント糸とスパン糸の長所を併せ持った糸の開発には様々な提案がなされてきた。その代表的なものとしてフィラメントを芯糸とし、その周りにスパン繊維を包絡してなる複合糸コアヤーン糸が挙げられる。該ミシン糸はミシン糸分野の中でもコアヤーンは高い可縫性を有しかつ縫目外観に優れており、フィラメントミシン糸とスパンミシン糸の両者の優れた特徴を結合した性能を有することが知られている(特許文献1、2、3)。
【0006】
しかしながら、従来コアヤーンの製造はフィラメント糸にスパン糸繊維を包絡させる必要があり、マルチフィラメントにドラフトされたスパン繊維を合わせて撚糸することにより得られる。この方法ではマルチフィラメントが必ずしもコアスパン糸の中心になく、そのため表面に出たマルチフィラメント部と針穴との摩擦により縫製後の強力低下を生じる恐れがある。このようなマルチフィラメントの露出を回避するために、スパン繊維のカバー率をアップさせる方法が一般的であるが、カバー率アップに伴いコアヤーンの強度が低下する問題もあり、カバー率のバランスも重要なファクターとなっている。
【0007】
また、スパン繊維のフィラメントとの結束力も重要であり、一般的には上撚り(係)数をアップさせることにより向上させている。
【0008】
更に、コアヤーン糸の強度については、芯糸と鞘糸に分けて考えた場合に、引張試験を実施したときに先に切断するのがスパン繊維であることが知られている。コアヤーン糸の強度をアップさせるためには、スパン繊維の切断時における芯糸であるフィラメントの中間強度を高くし、コアヤーン糸トータルの強度を補うことが有効である。
【特許文献1】特開昭60− 81348号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開平02−160943号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開昭58−144142号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述のような従来技術の欠点を解消し、コアヤーンの強度が高く、芯糸であるマルチフィラメントの露出を防止することによって強力低下することなく、高速可縫性に優れたポリエステルコアヤーンミシン糸を低コストで安定的に供給するできるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、
長繊維フィラメントを芯糸とし、短繊維スパン糸を鞘糸とする複合糸で構成されるコアヤーンミシン糸において、芯糸であるフィラメントの単糸繊度を細くすることによって、鞘糸であるスパン糸の被覆性を向上させ、高速可縫性を安定的にすること、また、コアヤーン強度をアップさせるためにスパン糸の切断付近におけるマルチフィラメントの中間強度をアップさせることにより可能とした。
【0011】
すなわち、本発明は長繊維フィラメントを芯糸とし、短繊維スパン糸を鞘糸とする複合糸で構成されるコアヤーンミシン糸において、芯糸であるフィラメントの単糸繊度を0.8〜1.6dtexとし、かつフィラメントのトータル繊度を40〜60dtexとすることを特徴とするポリエステルコアヤーンミシン糸である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のコアヤーンミシン糸に比べ、カバーリングヤーンの被覆性に優れ、コアヤーン破断強度が高く、高速可縫性に優れたものを得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のフィラメントとスパン糸は、コスト、汎用性の面からポリエステルであり、ポリエステルとはテレフタル酸を主たる酸成分として、少なくとも1種のグリコール好ましくはエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれたアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするものをいい、中でもポリエチレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。また、共重合ポリエステルであっても良い。
【0014】
本発明のフィラメントの単糸繊度は0.8〜1.6dtexである。0.8dtex未満であると原糸の製造工程である延伸工程において糸切れが多発し、また、1.6dtexを超える場合は、コアヤーンミシン糸加工時にスパン糸のフィラメントへの被覆性が低下し、鞘糸が剥がれやすくなる。好ましくは0.9〜1.2dtexである。
【0015】
本発明の芯糸であるフィラメントの10%伸長時における強度は6.0〜6.5cN/dtexであることが好ましい。コアヤーンミシン糸の強度を保持し、高速可縫性を安定にする。
【0016】
本発明のフィラメントとスパン糸のポリマの固有粘度は0.63〜0.80が特に縫製後の縫目強力を向上させる意味で好ましい。
【0017】
鞘糸であるスパン糸の割合については、コアヤーン全重量の40〜50重量%とするのが好ましい。40重量%以上としてスパン糸の被覆性、および可縫時における摩擦熱による溶断の防止のため、また50重量%以下として、コアヤーンミシン糸の強度を十分に得るためである。
【0018】
コアヤーンミシン糸の乾熱収縮率は、5.0%以下であることが好ましい。5.0%以下とすることにより、縫製後にアイロンなどの熱処理を受けた場合、または洗濯したときに、縫製品の収縮を起こさず、パッカリングすなわち縫製品が波状のふくらんだ状態を示す現象を防止でき縫製品の品質を良好にできるためである。
【0019】
複合糸の製造法としては、例えば図3に示す装置を用いて行う。図3において長繊維マルチフィラメントLと短繊維Kの繊維束を引き取りローラーM、Nで引き取り合糸し、必要に応じて交絡処理したのち巻取機Oに巻き取る。
上撚係数は三子撚りの場合は130〜170が好ましい。この範囲の理由としては、130以下になるとコアヤーン使用時に糸割れ(撚りが戻る現象)が発生する。また、スパン繊維の根本拘束力が強くなるため高速可縫時にスパン繊維が切断する欠点がある。撚係数が190以上の場合は糸強力が低下するためである。同様の理由で双糸の場合は上撚係数が150〜190とするのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0021】
なお、実施例及び比較例における測定値は、次の方法である。
(1)固有粘度
35℃のo−クロロフェノール溶液を用いて測定した値である。
(2)引張強度および破断伸度
JIS L 1073(合成繊維フィラメント試験方法)に準じ、自記録式引張試験機を用いて試長25cm、引張速度30cm/分で測定した数値である。
(3)高速可縫性
本縫1本針ミシン糸を用い、4000rpmの速度、ミシン針#14でT/Rサージ3枚を縫製して、ミシン糸の切断が多発した場合は×、ミシン糸の切断が1〜5回の場合は△、全く切断しなかった場合は◎で示した。
(4)延伸優等率
芯糸の製造工程において、図2で示す延伸機144錘建てを用いて、延伸速度600m/分、3.0kg巻を仕掛け錘数に対して糸切れ、単巻きが無く巻上げた錘数の比率を延伸優等率とした。延伸優等率が95.0%以上を○、95.0%未満を×、99.0%以上を◎とした。
(5)被覆性評価
得られたコアヤーンの側面を25倍の顕微鏡で観察し、糸長1m当たりに芯糸のフィラメントが表層部から確認できる数により判断した。判断基準は芯糸FYの露出部分の発生カ所が0カ所で◎、1〜5カ所で○、6〜9カ所で△、10カ所以上で×の4段階評価で行った。
【0022】
実施例1
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が1.0dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.5cN/dtexであり、
図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%を占めているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。コアヤーンミシン糸の強度は8.0cN/dtexと高いものであった。
【0023】
実施例2
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が1.0dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.0cN/dtexであり、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。原糸の延伸優等率が実施例1対比良好であった。
【0024】
実施例3
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.70、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が1.6dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.5cN/dtexであり、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。原糸の延伸優等率が実施例1対比良好であった。
【0025】
【表1】

【0026】
比較例1
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が0.6dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.0cN/dtexであり、、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。コアヤーン芯糸原糸の延伸優等率は90.0%と製糸性レベルの低い結果となった。また、高速可縫性については3回と△の結果であった。
【0027】
比較例2
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が2.0dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.0cN/dtexであり、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。被覆性に劣る結果となった。
【0028】
比較例3
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が1.0dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が5.0cN/dtexであり、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の40重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。コアヤーン強度が4.0cN/dtexと目標対比低めの結果となった。
【0029】
比較例4
コアヤーンを構成する芯糸と鞘糸のポリマがPETあるいは共重合PETからなり固有粘度が芯糸0.65、鞘糸0.63であり、芯糸を構成するフィラメントの単糸繊度が1.0dtexでかつトータル繊度が50dtex、10%伸長時の強度が6.0cN/dtexであり、図3に示した装置を用いてドラフトされた綿の繊維束と重ね合わせ撚り係数3.5でよりかけして複合糸となした。得られた長短複合糸を用い下撚り加工した。下撚り加工した長短複合糸を3本引き揃え上撚り加工を行った。その結果、鞘糸であるスパン糸がコアヤーン全重量の20重量%をしめているポリエステルコアヤーンミシン糸を得た。被覆性に劣る結果となった。
【0030】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のポリエステルコアヤーンミシン糸の側面図
【図2】本発明の芯糸原糸を製造するのに好適な延伸機
【図3】本発明のポリエステル長繊維とポリエステル短繊維からポリエステルコアヤーンを得るのに好適な装置
【符号の説明】
【0032】
A.コア
B.無撚のコア層
C.からみ繊維
D.ニップローラー
E.給糸ローラー
F.予熱ローラー
G.延伸ローラー
H.熱セットローラー
I.弛緩熱処理ローラー
J.パーン
K.ポリエステル短繊維
L.ポリエステル長繊維
M−1.引き取りローラー1
M−2.引き取りローラー2
O.巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維フィラメントを芯糸とし、短繊維スパン糸を鞘糸とする複合糸で構成されるコアヤーンミシン糸において、芯糸であるフィラメントの単糸繊度を0.8〜1.6dtexとし、かつフィラメントのトータル繊度を40〜60dtexとすることを特徴とするポリエステルコアヤーンミシン糸。
【請求項2】
芯糸であるフィラメントの10%伸長時の強度が6.0〜6.5cN/dtexであることを特徴とする請求項1記載のポリエステルコアヤーンミシン糸。
【請求項3】
芯糸、鞘糸のポリマの固有粘度を0.63〜0.80とし、鞘糸のスパン糸がコアヤーン全重量の30〜50重量%を占めることを特徴とする請求項2記載のポリエステルコアヤーンミシン糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−247077(P2007−247077A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68848(P2006−68848)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】