説明

ポリエステルショートカット繊維

【課題】 単一成分型のポリエステルショートカット繊維でありながら、熱接着性に優れ、操業性よく、コスト的に有利に得ることができるものであって、熱収縮率が小さいため地合や強力に優れ、かつ耐熱性にも優れた合成繊維紙を得ることが可能となるポリエステルショートカット繊維を提供する。
【解決手段】 エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートのみで構成される繊維長1〜20mmのポリエステルショートカット繊維であって、繊維の長さ方向に下記(1)式を満足する繊維径の小さい細部(細部Aとする)が100μmあたり1〜10個存在し、繊維中の細部Aの面積比率が3〜50%、かつ繊維の平均複屈折率が0.015〜0.05、乾熱収縮率が70%以下であるポリエステルショートカット繊維。 0.4L≦M≦0.92L・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートのみで構成されるショートカット繊維であって、合成繊維紙の製造において、バインダー繊維として好適に使用できるポリエステルショートカット繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械的特性、電気的特性、耐熱性、寸法安定性、疎水性等の優れた物性およびコスト優位性の面から、ポリエステル繊維を原料の一部または全部に使用した抄紙法による合成繊維紙が多くなっている。
【0003】
また、合成繊維紙を製造する際に用いられるバインダー繊維として、従来はポリエチレン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維等が使用されていた。しかしながら、主体繊維としてポリエステル繊維を用いる合成繊維紙において、ポリエステル繊維の性能を十分に発揮させるためには、バインダー繊維としてもポリエステル繊維を用いることが好ましい。
【0004】
ポリエステル系のバインダー繊維としては、低軟化点の変性ポリエステルを鞘部に、通常の融点を有するポリエステルを芯部に配置した芯鞘型のポリエステル系複合繊維が使用されている。しかし、このような複合繊維は、複雑な紡糸設備および高度な運転管理が必要となるため、製造時のコストが高いものとなる。また、低軟化点の変性ポリエステルがバインダー成分となるため、耐熱性に乏しく、このバインダー繊維を用いて得られる合成繊維紙は、後加工で熱処理を施す用途においては劣化し、使用できないという問題があった。
【0005】
また、特許文献1、2にはポリエステル系バインダー繊維として未延伸のポリエステル繊維を使用することが提案されている。特に、特許文献2には、主体繊維のポリエステル延伸糸と強く接着し、得られる合成繊維紙にソフトな風合を与えるポリエステル系バインダー繊維が提案されており、未延伸ポリエステル繊維の極限粘度を0.50〜0.58、単糸繊度を1.2デニール以下および複屈折率を0.02以下、比重を1.35以下にすることが重要であるとされている。
【0006】
しかしながら、このような未延伸ポリエステル繊維は、延伸が全く施されていないため、熱収縮率が高いものである。このため、合成繊維紙を製造する工程において、未延伸ポリエステル繊維の過度な熱収縮によって、得られる合成繊維紙の地合が悪くなり、合成紙の強力も低いものとなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭49−8809号公報
【特許文献2】特開平1−104823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、単一成分型のポリエステルショートカット繊維でありながら、熱接着性に優れ、操業性よく、コスト的に有利に得ることができるものであって、熱収縮率が小さいため地合や強力に優れ、かつ耐熱性にも優れた合成繊維紙を得ることが可能となるポリエステルショートカット繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートのみで構成される繊維長1〜20mmのポリエステルショートカット繊維であって、繊維の長さ方向に下記(1)式を満足する繊維径の小さい細部(細部Aとする)が100μmあたり1〜10個存在し、該100μmの繊維中の細部Aの面積比率が3〜50%、かつ繊維の平均複屈折率が0.015〜0.05、乾熱収縮率が70%以下であることを特徴とするポリエステルショートカット繊維を要旨とするものである。
0.4L≦M≦0.92L・・・(1)
ただし、Mは細部Aの繊維径、Lはショートカット繊維の中で繊維径が最も大きい部分の繊維径である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、延伸部である細部と未延伸部の割合が最適な状態で存在するものであるため、単一成分型のポリエステル繊維でありながら熱接着性に優れる。そして、乾熱収縮率が低いため、合成繊維紙を製造する際の乾燥熱処理工程での収縮の発生が小さく、斑のない、地合に優れ、強力の高い合成繊維紙を得ることができる。また、ポリエチレンテレフタレートからなるものであるため、耐熱性に優れ、得られた合成繊維紙を後加工でさらに高温で熱処理を施す用途にも用いることが可能となる。さらには、繊維の平均複屈折率が最適な範囲のものであるため、ポリエチレンテレフタレートを用いていながら、比較的低温の熱接着処理においても熱接着性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のポリエステルショートカット繊維の一実施態様を示す模式図であり、繊維の長さ方向に沿って撮影した写真より模写したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートのみで構成される単一成分型のものである。ポリエチレンテレフタレートとしては、中でも主たる繰り返し単位の85モル%以上、さらには95モル%以上がエチレンテレフタレートからなるものであることが好ましい。したがって、テレフタル酸成分やエチレングリコール成分以外の成分を少量共重合したものであってもよい。
【0013】
また、このようなポリエステル中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0014】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、上記のようにポリエチレンテレフタレートのみからなるものであるため、耐熱性に優れるものである。このため、本発明の繊維をバインダー繊維として用いて得られた合成繊維紙は、後加工で熱処理を施す用途にも用いることが可能となる。
【0015】
例えば、得られた合成繊維紙にカレンダーロールにより熱圧着加工を施したり、合成繊維紙の表面を樹脂でコーティングした後、乾燥熱処理を施すことも可能となる。
【0016】
そして、本発明のポリエステルショートカット繊維は、繊維長が1〜20mmであり、中でも3〜15mmであることが好ましい。繊維長が1mm未満であると、繊維をカッターで切断する際に切断時に受ける抵抗が大きくなり、繊維が伸ばされたり、単繊維同士の絡みが生じやすくなり好ましくない。一方、繊維長が20mmを超えると、抄紙時の水中分散性が悪くなり、得られる合成繊維紙が地合の悪いものとなる。
【0017】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、上記のような繊維長のものであり、抄紙用に好適に用いられるものであるため、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与したものとせず、捲縮を有していないもの(ノークリンプのもの)とすることが好ましい。
【0018】
次に、本発明のポリエステルショートカット繊維の形状について、図面を用いて説明する。図1は、本発明のポリエステルショートカット繊維の一実施態様を示す模式図であり、繊維の長さ方向に沿って撮影した写真より模写したものである。
本発明のポリエステルショートカット繊維は、繊維の長さ方向に繊維径が小さい細部(細部Aとする)が存在するものであり、細部Aとは、繊維径(M)が下記(1)式を満足するものをいう。
0.4L≦M≦0.92L・・・(1)
ただし、Mは細部Aの繊維径、Lはショートカット繊維の中で繊維径が最も大きい部分の繊維径である。
【0019】
つまり、本発明のポリエステルショートカット繊維は、繊維の長さ方向に沿って未延伸の部分と延伸された部分とが存在するものであり、延伸された部分が細部Aとなるものである。
そして、延伸部分、未延伸部分ともに熱処理を施すことにより溶融して熱接着成分となるものであり、未延伸の部分は繊維の配向が進んでいないため複屈折率が低く、熱処理により延伸部分よりも低温域で溶融して、熱接着成分となる。一方の延伸された部分(細部A)は繊維の配向が進んでいるため複屈折率が高く、この細部Aが存在することで繊維の乾熱収縮率を低いものとすることができる。
【0020】
(1)式においては、未延伸の部分のうち繊維径が最も大きい部分の繊維径をLとするものである。細部Aの繊維径(M)が0.92Lを超えるものであると、未延伸部分との繊維径の差がなく、ほとんど延伸が施されておらず、繊維全体として未延伸糸と同様のものとなり、乾熱収縮率が高い繊維となる。一方、細部Aの繊維径が0.4L未満であると、高延伸倍率で延伸が施されたものとなり、平均複屈折率が高くなり、熱接着時に高温での熱処理が必要となり、熱接着性に劣るとともにコスト的にも不利となる。
【0021】
そして、本発明のポリエステルショートカット繊維は、繊維の長さ方向に複数の延伸された部分である細部Aを有するものであり、ショートカット繊維中に存在する細部Aの数は、100μmあたり1〜10個であり、この100μmの繊維中の細部Aの面積比率が3〜50%であることが必要である。
【0022】
ショートカット繊維中の細部Aの数が100μmあたり1個未満であったり、面積比率が3%未満であると、繊維中の延伸された部分の割合が少なくなり、平均複屈折率が低く、乾熱収縮率が高い繊維となる。一方、ショートカット繊維中の細部Aの数が100μmあたり10個を超えたり、面積比率が50%を超えるものであると、延伸された部分の割合が多くなりすぎ、熱接着時に高温での熱処理が必要となり、熱接着性に劣るものとなる。
【0023】
本発明において、ショートカット繊維中の繊維径(M、L)、細部Aの数、面積比率は、キーエンス社製デジタルマイクロスコープを用いて繊維の長さ方向の写真を撮影し、その写真から測定、算出するものである。写真は繊維の長さ方向に任意の箇所で10枚撮影し、その10枚の写真において、100μmあたりに(1)式を満足する細部Aの数を数え、細部Aの面積比率を算出するものとし、n数10の平均値とする。
【0024】
そして、本発明のポリエステルショートカット繊維は、乾熱収縮率が70%以下であり、中でも60%以下であることが好ましく、さらには50%以下であることが好ましい。なお、乾熱収縮率は、170℃で15分間測定したものである。
本発明のポリエステルショートカット繊維は、上記のような乾熱収縮率を有しているので、抄紙後の合成繊維紙は乾燥熱処理をする際の繊維の収縮が小さい(合成繊維紙の面積収縮率が小さい)ものとなる。
【0025】
乾熱収縮率が70%を超えると、合成繊維紙を得る工程において、抄紙後、乾燥熱処理をする際に繊維が収縮し、得られる合成繊維紙に斑が生じ、地合の悪いものとなる。また、合成繊維紙の強力も低いものとなる。
【0026】
また、本発明におけるポリエステルショートカット繊維の乾熱収縮率は以下のようにして測定するものである。
ショートカット繊維を構成する単繊維の繊維長(熱処理前の繊維長N)を無荷重で測定し、次に170℃の箱型乾燥機内に載置して15分間熱処理を行い、熱処理後の繊維長Mを無荷重で測定する。そして熱処理前の繊維長Nと熱処理後の繊維長Mから下式にて乾熱収縮率を算出する。
乾熱収縮率(%)=〔1−(M/N)〕×100
【0027】
さらに、本発明のポリエステルショートカット繊維は、平均複屈折率が0.015〜0.05であり、中でも0.015〜0.03であることが好ましい。本発明における繊維の複屈折率は、光源にナトリウムランプを用いた偏光顕微鏡を使用し、ショートカット繊維をα−ブロムナフタリンに浸漬した状態下でBerekコンペンセーター法からレターデーションを求めて算出する。そして、繊維の長さ方向にランダムに50点(n数=50)複屈折率を測定し、これらの複屈折率の平均値を平均複屈折率とするものである。
【0028】
平均複屈折率が0.015未満であると、乾熱収縮率が70%を超えるとともに、抄紙ウエブを乾燥熱処理する際に繊維が収縮し、得られる合成繊維紙は斑が生じ、地合が悪く、強力の低いものとなる。一方、平均複屈折率が0.05を超えると、ショートカット繊維は延伸による繊維の配向が進んでしまい、熱接着性に劣るものとなる。
【0029】
また、本発明のポリエステルショートカット繊維は、細部A(延伸部)の平均複屈折率が0.05〜0.16であることが好ましい。さらには、細部Aの平均複屈折率と繊維の平均複屈折率の差が0.02以上であることが好ましい。
【0030】
細部Aの平均複屈折率が0.05未満であると、十分に延伸が施されていないため、未延伸糸と同様のものとなり、乾熱収縮率が70%を超えるとともに、抄紙ウエブを乾燥熱処理する際に繊維が収縮し、得られる合成繊維紙は斑が生じ、地合が悪く、強力の低いものとなる。一方、0.16を超えると、延伸による繊維の配向が進んでしまい、高温での熱処理が必要となり熱接着性に劣るものとなる。
【0031】
さらに、細部Aの平均複屈折率と繊維の平均複屈折率の差が0.02未満であると、繊維全体として、延伸糸又は未延伸糸に近いものとなり、延伸部と未延伸部を有することによる本発明の効果を奏することが困難となる。
【0032】
なお、細部Aの平均複屈折率は、細部Aにおける複屈折率を上記したショートカットポリエステル繊維の複屈折率と同様の方法で測定するものであり、20個の細部Aの複屈折率を測定し(n数を20とし)、その平均値とするものである。
【0033】
以上のように、本発明のポリエステルショートカット繊維は、未延伸部分と延伸部分を有し、繊維全体の平均複屈折率が適切な値のものであり、かつ延伸部分は適度な大きさ、数、面積比率を満足するものであるため、優れた熱接着性能と低い乾熱収縮率の両性能を達成することが可能となるものである。
【0034】
また、本発明のポリエステルショートカット繊維の固有粘度は0.53〜0.67であることが好ましい。固有粘度が0.67を超えると、抄紙ウエブにした際に強力の低いものとなりやすい。一方、固有粘度が0.53より小さくなると、抄紙ウエブの地合が悪くなるばかりでなく、繊維の収縮が発生しやすくなる。
【0035】
さらに、本発明のポリエステルショートカット繊維の単繊維繊度は2.5デシテックス以下であることが好ましく、中でも1.7デシテックス以下であることが好ましい。単繊維繊度が2.5デシテックスを超えると、繊度が大きくなることから未延伸部が乾燥熱処理工程で十分に溶融しない場合があり、得られる合成繊維紙の接着が不十分となり、強力が低下しやすくなる。なお、単繊維繊度の下限は、特に限定されるものではないが、安定して製糸を行うためには0.2デシテックス以上とすることが好ましい。
【0036】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、合成繊維紙のバインダー繊維として使用することが好適なものであり、通常、合成繊維紙を得る際には、主体繊維となるポリエステル繊維とともに抄紙機に供給し、抄紙ウエブを作成し、乾燥熱処理を行い、合成繊維紙を得るものである。
【0037】
このようにして得られる合成繊維紙においては、その用途に応じて様々な加工を施す場合がある。例えば、紙の密度を高めるために、乾燥熱処理後にさらにカレンダーロールで熱圧着加工を施したり、各種の機能を付与するために紙の表面に樹脂加工を行うことがある。このような加工においては、抄紙後の乾燥熱処理よりもさらに高温の熱処理を行う場合があるが、本発明のポリエステルショートカット繊維は、ポリエチレンテレフタレートからなるものであるためポリマーの融点が高く、耐熱性に優れており、これらの加工において高温の熱処理を施しても劣化が生じることがない。
【0038】
また、抄紙して得られた合成繊維紙にさらに熱圧着加工を施す際には、従来のバインダー繊維として未延伸部のみ有する未延伸糸を用いた場合と比較して、ローラーにバインダー繊維が溶融したことによる接着成分が溶着することがなく、工程通過性に優れるものである。これは、本発明のポリエステルショートカット繊維が延伸部と未延伸部とを有するものであるため、抄紙の際には主に未延伸部が溶融して接着成分となっているが、熱圧着加工時には、複屈折率が高く、配向が進んだ延伸部が溶融して接着成分となるためではないかと推定される。
【0039】
そして、上記したような特定の形状、条件を満足する本発明のポリエステルショートカット繊維を得るには、ポリエステルの固有粘度を適切な範囲のものとし、紡糸速度、延伸倍率を最適なものに調整することにより製造することが可能となる。
【0040】
まず、固有粘度0.55〜0.69のポリエチレンテレフタレートを用い、ペレット化した後常法によって乾燥後、スクリュー式押出機等を装備した紡糸設備で溶融紡糸し、糸条を冷却・固化し、700〜1500m/分の速度で引き取る。得られた糸条を集束して糸条束とした後、ローラ間で延伸倍率を1.01〜1.1倍として延伸を施す。このとき、延伸倍率は自然延伸倍率(NDR)以下とすることが好ましく、ローラは非加熱ローラを用いることが好ましい。そして、延伸を施した糸条束に油剤を付与し、糸条束の水分量を5〜40質量%の範囲内に調整してカッターに供給し、所定の繊維長に切断する。
【実施例】
【0041】
実施例によりさらに本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各特性値の測定方法、評価方法は以下のとおりである。
(a)固有粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ショートカット繊維中の(1)式を満足する細部Aの数、面積比率
前記の方法で測定、算出した。
(c)乾熱収縮率、平均複屈折率、細部Aの平均複屈折率
前記の方法で測定、算出した。
(d)合成繊維紙の強力
JIS P8113に従って、室温での引っ張り強さを測定した。
(e)合成繊維紙の面積収縮率
得られた合成繊維紙の面積A0(20cm×20cm=400cm)としたものをサンプルとし、これを170℃に維持した熱風乾燥機中に15分間放置し、この熱処理後の合成繊維紙の面積をA1とし、下式により面積収縮率を求めた。
面積収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
(f)合成繊維紙の地合
得られた合成繊維紙の地合を目視により以下の3段階で評価した。
○:構成繊維の分布が均一であり、斑が非常に少ない
△:構成繊維の分布がやや不均一であり、斑がやや目立つ
×:構成繊維の分布が非常に不均一であり、斑が目立つ。
(g)合成繊維紙の耐熱性
得られた合成繊維紙を160℃の雰囲気下で1分間保持した後、160℃雰囲気下で合成繊維紙の強力を(d)と同様にして測定した。
室温での強力と160℃雰囲気下での強力を用い、以下の式より強力保持率を算出した。
強力保持率(%)=〔(160℃雰囲気下での強力)/(室温での強力)〕×100
【0042】
実施例1
固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートペレットを130℃で乾燥後、295℃で溶融し、紡糸口金(紡糸孔数が1040)を通して、吐出量180g/分で吐出し、紡糸速度1150m/分の速度で引取り、単繊維繊度が1.35デシテックスの未延伸ポリエチレンテレフタレート繊維を得た。該ポリエチレンテレフタレート繊維を約80万デシテックスのトウとなし、延伸倍率1.04倍で延伸し(延伸熱処理なし)、油剤を付与後、トウの水分率が約15質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断し、単繊維繊度が1.3デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。
【0043】
次に、得られたショートカットポリエステル繊維をバインダー繊維とし、主体繊維として、延伸熱処理して得られた単繊維繊度が0.6デシテックス、長さが5mmのポリエチレンテレフタレートショートカット繊維を用いた。バインダー繊維/主体繊維(質量比)=60/40として水中へ分散させ、繊維濃度が0.04質量%となるように調整して円網抄紙機に供給した。抄紙ウエブを得た後、130℃のヤンキー式ドライヤーで乾燥熱処理(2分間)をし、エンボス装置にて225℃、線圧50kg/cm、ローラ速度5m/分にて熱圧着を施し、坪量が約25g/mのポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0044】
実施例2
固有粘度0.55のポリエチレンテレフタレートペレットを用い、吐出量を185g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.06倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.3デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0045】
実施例3
吐出量を188g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.07倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.3デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0046】
実施例4
吐出量を170g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.04倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.4デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0047】
実施例5
吐出量を145g/分、紡糸速度1200m/分、延伸倍率を1.04倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.0デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0048】
比較例1
固有粘度0.69のポリエチレンテレフタレートペレットを用い、吐出量を242g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.4倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.3デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0049】
比較例2
吐出量を207g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.15倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.3デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0050】
比較例3
吐出量を173g/分、紡糸速度1150m/分、延伸倍率を1.0倍とした以外は実施例1と同様に行い、単繊維繊度が1.35デシテックスのショートカットポリエステル繊維を得た。そして、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得た。
【0051】
比較例4
バインダー繊維として、ユニチカ社製のメルティー〈3380〉を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート繊維紙を得ようとした。抄紙ウエブを得た後、130℃のヤンキー式ドライヤーで乾燥熱処理(2分間)をし、エンボス装置にて熱圧着を施した際に、バインダー繊維がロールに溶着し、繊維紙を得ることができなかった。
【0052】
実施例1〜5、比較例1〜3で得られたショートカットポリエステル繊維及び得られたポリエチレンテレフタレート繊維紙の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1〜5のショートカットポリエステル繊維は、本発明の条件を満足する形状のものであったため、乾熱収縮率が低く、これらのショートカットポリエステル繊維を用いた合成繊維紙は、乾燥熱処理をする際の繊維の収縮が小さく、面積収縮率が低いものであったので、地合、強力に優れ、かつ耐熱性にも優れていた。
一方、比較例1のショートカットポリエステル繊維は、延伸による繊維の配向が進み、細部Aの面積比率が大きいものであったため、熱接着性に劣り、得られた合成繊維紙は強力の低いものとなった。比較例2では延伸倍率が高かったため、得られたショートカットポリエステル繊維は、細部Aの数が多く、面積比率が大きくなり、平均複屈折率も高いものとなった。このため、熱接着性に劣り、得られた合成繊維紙は強力の低いものとなった。比較例3は、延伸倍率が低かったため、得られたショートカットポリエステル繊維は細部Aがなく、平均複屈折率が低く、乾熱収縮率が高いものとなった。このため、得られた合成繊維紙は面積収縮率が高く、地合が悪いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートのみで構成される繊維長1〜20mmのポリエステルショートカット繊維であって、繊維の長さ方向に下記(1)式を満足する繊維径の小さい細部(細部Aとする)が100μmあたり1〜10個存在し、該100μmの繊維中の細部Aの面積比率が3〜50%、かつ繊維の平均複屈折率が0.015〜0.05、乾熱収縮率が70%以下であることを特徴とするポリエステルショートカット繊維。
0.4L≦M≦0.92L・・・(1)
ただし、Mは細部Aの繊維径、Lはショートカット繊維の中で繊維径が最も大きい部分の繊維径である。
【請求項2】
細部Aの平均複屈折率が0.05〜0.16であり、細部Aの平均複屈折率と繊維の平均複屈折率の差が0.02以上である請求項1記載のポリエステルショートカット繊維。


【図1】
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【公開番号】特開2011−117108(P2011−117108A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277562(P2009−277562)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】