説明

ポリエステルショートカット繊維

【課題】
水中での分散性に優れ、風合いが良好な湿式不織布を得るのに好適なポリエステルショートカット繊維を提供する。
【解決手段】
ポリエステルを主成分とし、下記(A)及び(B)成分を計0.3〜20.0質量%含有することを特徴とするポリエステルショートカット繊維。
(A)スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体、及びポリアルキレングリコールからなるエステル化反応物。
(B)ポリアルキレングリコール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式法によりポリエステル不織布を製造するに際し、ポリエステル繊維と他の繊維との混抄紙を製造するのに好適なポリステルショートカット繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然パルプ、合成パルプ、合成繊維ショートカット綿、又はこれらの混合物を水溶液中に分散し、抄紙して湿式不織布を得る方法や、さらにこの不織布に高圧液流処理等を施すことにより、機械的特性に優れた柔軟な湿式不織布を得る方法は一般的に知られている。
【0003】
しかし、湿式不織布を製造するために、天然パルプ、合成パルプ、合成ショートカット綿、又はこれらの混合物を水溶液中に分散し、抄紙する工程において、ショートカットされた合成短繊維が互いに疑似密着したり、絡み合って凝集して、水中に均一に分散し難いという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、付与する油剤成分を規定して短繊維の分散性を向上させる方法が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、これらの方法では、湿式不織布製造工程において、強攪拌による油剤の脱落や、経時による短繊維の再凝集、パルプスラリーの適性温度である40〜60℃で油剤が脱落するといった問題があり、依然として水中分散性に劣るものであった。
【0005】
以上のように、水中分散性に優れ、風合いが良好な湿式不織布や、ポリエステル繊維と他の繊維との混抄紙を得るのに好適なポリエステルショートカット繊維は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−208499号公報
【特許文献2】特開昭58−208500号公報
【特許文献3】特公平3−33837号公報
【特許文献4】特開平9−95891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、水中での分散性に優れ、風合いが良好な湿式不織布を得るのに好適なポリエステルショートカット繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステル繊維に特定の成分を含有することで、得られるポリエステルショートカット繊維の水中での分散性が顕著に改善されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ポリエステルを主成分とし、下記(A)及び(B)成分を計0.3〜20.0質
量%含有することを特徴とするポリエステルショートカット繊維。
(A)スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導 体、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘 導体、及びポリアルキレングリコールからなるエステル化反応物。
(B)ポリアルキレングリコール。
(2)(A)と(B)の質量比が5:95〜95:5である(1)記載のポリエステル ショートカット繊維。
(3)繊維長が3〜10mmである(1)又は(2)記載のポリエステルショートカット繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、水中分散性に優れ、攪拌等を繰り返しても良好な分散性を維持することができることから、湿式不織布や混抄紙などにも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステルショートカット繊維は、ポリエステルを主成分とし、成分(A)及び成分(B)を含有するポリエステル繊維である。ポリエステル繊維中の成分(A)、成分(B)それぞれの分散状態は、繊維全体に分散した全分散型であっても、ポリエステルの一部のみに分散した不均一分散型(例えば、芯鞘型、海島型)であっても良い。
【0012】
本発明におけるポリエステルショートカット繊維の主成分となるポリエステル成分(以下、「主成分ポリエステル」と記す場合がある。)は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等を主成分とするものが挙げられる。なお、これらのポリエステル成分には、目的や効果を損なわない範囲であれば、イソフタル酸、スルホイソフタル酸塩、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物等が共重合されていてもよい。
【0013】
次に、成分(A)、成分(B)について説明する。
成分(A)は、スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体(A−1)、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体(A−2)、ポリアルキレングリコール(A−3)の(A−1)〜(A−3)の3成分を構成成分とするエステル化反応物である。
また、成分(B)は、ポリアルキレングリコールである。
【0014】
成分(A)を構成するスルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸(A−1)としては、特に限定されないが、例えば、5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸又はこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられ、そのエステル形成性誘導体(A−1)としては、特に限定されないが、これらスルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸と炭素数1〜4程度の低級アルキルジオールとのエステル体)又はその塩、酸無水物等が挙げられる。中でも重合性の観点から、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩、5−スルホイソフタル酸ナトリウムジエチレングリコールエステル(以下SIPG)が好ましい。スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸とそのエステル形成性誘導体は、どちらか一方のみを用いても、両者を併用してもよい。また、1種類の成分のみを用いても、複数種類を併用してもよい。
【0015】
成分(A)を構成するスルホン酸基を含有しないポリカルボン酸(A−2)としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸やイソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられ、そのエステル形成性誘導体(A−2)としては、特に限定されないが、これらスルホン酸基を含有しないポリカルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸と炭素数1〜4程度の低級アルキルジオールとのエステル体)、酸無水物等が挙げられる。中でも重合性の観点から、アジピン酸、イソフタル酸、アジピン酸ジエチレングリコールエステル、イソフタル酸ジエチレングリコールエステルが好ましい。スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸とそのエステル形成性誘導体は、どちらか一方のみ用いても、両者を併用してもよい。また、1種類の成分のみを用いても、複数種類を併用してもよい。
【0016】
成分(A)を構成するポリアルキレングリコール(A−3)としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどが挙げられ、中でも水中分散性向上の観点からポリエチレングリコール(以下「PEG」と略す)が好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量は1000〜30000のものが好ましく、数平均分子量2000〜22000のものがより好ましい。また異なる数平均分子量のものを複数種類併用してもよい。数平均分子量が1000より低いと熱安定性、耐ブリードアウト性にやや劣るものとなる場合があり、数平均分子量が30000を超えるとエステル化反応がやや進みにくくなる場合がある。
【0017】
なお、エステル化反応物(A)において、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体(A−2)成分は、該エステル化を行なうのに必須の成分であり、(A−2)成分がない場合は、エステル化反応物(A)を良好に重縮合することができない。
【0018】
本発明のエステル化反応物(A)において、スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体(A−1)、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体(A−2)、及びポリアルキレングリコール(A−3)を重縮合させたエステル化反応物(A)を含有させることによって、得られるポリエステルショートカット繊維が水中に均一に分散しやすい理由は明らかではないが、例えば、成分(A−1)、成分(A−2)及び成分(A−3)を重縮合させることにより、ポリアルキレングリコールとスルホン酸基に由来する親水性及び相溶性向上の観点から、ポリエステルショートカット繊維の水中分散性向上効果が奏され、さらにエステル化反応物(A)のブリードアウトを抑制し、油剤などの脱落後においても水中分散性向上効果が奏されると推定される。
【0019】
なお、上記3種を共重合したエステル化反応物(A)を用いずに、ポリアルキレングリコール自体をポリエステルにブレンドして紡糸しても、ポリアルキレングリコールのエーテル結合部および末端水酸基による水和力のために、得られるポリエステルショートカット繊維の水中での分散性の向上は見られるが、溶融紡糸時にブリードアウトが発生するため紡糸性に劣り、さらに保管時のブリードアウトや油剤などの脱落により水中分散性向上効果は低下する。
【0020】
エステル化反応物(A)は、上記した3つの成分[(A−1)〜(A−3)]を、通常のポリエステルの製造方法と同様にしてエステル化反応させて得ることができる。重合反応に用いる重合触媒としては、三酸化アンチモン、テトラブチルチタネート、ジブチル錫オキシド、二酸化ゲルマニウムなど公知の触媒を使用することができ、中でも低温での高触媒活性の観点からテトラブチルチタネートが好ましい。
【0021】
成分(A)中のそれぞれの含有量としては、水中分散性向上効果とポリエステルとの相溶性のバランスの観点から、成分(A−1)は5〜35モル%、成分(A−2)は5〜45モル%、成分(A−3)は50〜90質量%であることが好ましく、中でも、成分(A−1)は15〜35モル%、成分(A−2)は5〜25モル%、(A−3)は60〜90質量%であることがより好ましい。
【0022】
そして、成分(A)の数平均分子量は、1000〜30000が好ましく、中でも4000〜20000がより好ましい。数平均分子量が1000未満であると、熱安定性、耐ブリードアウト性に劣るものとなり好ましくない。30000を超えると溶融粘度が高くなり、主成分中に均一に分散させて含有させることが困難となりやすい。
【0023】
成分(B)としては、ポリアルキレングリコールであれば特に限定されないが、PEG、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどが挙げられ、中でも取り扱い性の観点からPEGが好ましい。数平均分子量は1000〜30000のものが好ましく、4000〜20000のものがより好ましい。数平均分子量が1000未満であると、熱安定性に乏しいものとなりやすく、数平均分子量が30000を超えると、溶融粘度が高くなり、成分(A)と成分(B)を均一に混合することが困難となりやすい。
【0024】
成分(A)と成分(B)の質量比は5:95〜95:5が好ましく、10:90〜90:10がより好ましい。成分(A)の質量比が5未満であると、主成分のポリエステルとの相溶性に劣るものとなりやすく、一方、成分(A)の質量比が95を超えると、成分(A)の組合せによっては、成分(A)及び成分(B)の水酸基及びエーテル基総量が不足するため、攪拌の繰り返しによる水中分散性悪化が起こる場合があり好ましくない。
【0025】
さらに、本発明のポリエステルショートカット繊維中の成分(A)と成分(B)の合計の含有量は、0.3〜20.0質量%が必要であり、2〜20.0質量%が好ましく、5〜20.0質量%がより好ましく、12〜20.0質量%がいっそう好ましい。成分(A)と成分(B)の合計の含有量が0.3質量%未満であると、繊維中の水酸基総量が不足するため、攪拌の繰り返しによる水中分散性悪化が起こる。一方、20.0質量%を超えると、紡糸操業性が悪化するため好ましくない。
【0026】
本発明のポリエステルショートカット繊維においては、芯鞘型複合繊維とし、主として鞘に本発明の(A)及び(B)成分を高濃度に含有することで、曳糸性も向上させながら水中分散性を向上させることができるため、特に好ましい。
【0027】
芯鞘型複合繊維の鞘中の成分(A)と成分(B)の合計の含有量は、0.3〜50.0質量%が好ましく、2〜35.0質量%が好ましい。均一分散型に比べて、水中分散性が優れるため特に好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルショートカット繊維に成分(A)及び成分(B)が含有されている状態としては、成分(A)及び成分(B)が含有されていればいずれの状態でも効果を奏し得る。すなわち、例えば、主成分ポリエステルに成分(A)及び(B)が共重合して含有している状態、主成分ポリエステルに成分(A)、(B)が混合(ブレンド)されて含有している状態が挙げられ、いずれの状態で本発明の効果を奏し得る。
【0029】
成分(A)及び成分(B)を含有させる順番としては、特に限定されないが、ポリエステル主成分に成分(A)、成分(B)を逐次添加する方法、成分(A)、成分(B)を同時に添加する方法、成分(A)及び成分(B)を予め混合し混合物(C)とした後に添加する方法が挙げられ、中でも、均一分散性の観点から、予め成分(A)と成分(B)を混合した混合物(C)をポリエステル主成分に添加して混合されている状態若しくは少なくともその一部が共重合されている状態であることが好ましい。予め成分(A)と成分(B)を混合した混合物(C)をポリエステル主成分に添加することにより、主成分であるポリエステル成分中に成分(A)及び成分(B)がより均一に分散することにより、得られるポリエステルショートカット繊維の水中分散性及びその耐久性の効果的な向上が達成される。
【0030】
成分(A)と(B)を混合した混合物(C)を得る方法としては、特に限定されるものではないが、ミキサー等の混合装置を用いて、80〜120℃で1〜4時間混合することにより製造することができる。
【0031】
また、本発明の繊維形態としては、フィラメント、ステープル、ステープルを精紡機で紡績した紡績糸など、いずれの方法で製造されたものでもよい。
【0032】
本発明のポリエステルショートカット繊維には、各種顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を使用用途に応じて混合することができる。
【0033】
次に、本発明のポリエステルショートカット繊維の製造方法について一例(成分(A)と成分(B)を混合して混合物(C)を作成し、混合物(C)を主成分に混合する場合)を用いて説明する。
【0034】
まず、成分(A)と成分(B)を、80〜120℃でミキサーを用いて1〜4時間混合して混合物(C)を製造する。次に、例えば、以下に示す1〜5いずれかの方法により、主成分と混合物(C)を混合する。
1.主成分ポリエステルと混合物(C)を予めドライブレンドして単一の溶融紡糸機に供給する方法。
2. 主成分ポリエステルと混合物(C)を溶融混練機でブレンドして目的とする濃度のチップを作製し、引き続いて通常の溶融紡糸機に該チップを供給する方法。
3.主成分ポリエステルと混合物(C)を、混合物(C)が高濃度となるようにマスターチップを作成した後、単一の溶融紡糸機にマスターチップとポリエステル成分をドライブレンドし供給する方法。
4.前記マスターチップ(混合物(C)が高濃度含有)と主成分を別々の溶融紡糸機に供給し、溶融後にポリマーライン又はノズルパック内でブレンドする方法。
5.主成分と混合物(C)を別々の溶融紡糸機に供給し、溶融後にポリマーライン又はノズルパック内でブレンドする方法。
【0035】
次に、前述の方法にて混合、溶融したポリマーを計量ポンプにて計量し、単成分紡糸口金から吐出させ、紡糸糸条を横吹付装置や環状吹付装置などの公知の冷却装置を用いて糸条を冷却した後、油剤を付与した後、捲き取り、得られた長繊維をカットすることにより本発明のポリエステルショートカット繊維を得ることができる。紡糸方法としては、2000m/min以上の高速紡糸により半未延伸糸として巻き取る(POY法)若しくは捲き取り過程内にて延伸熱処理する一工程法、一旦2000m/min以上の高速紡糸又は、2000m/min未満の低速紡糸で巻き取った糸条を延伸熱処理する2工程法など、いずれの方法で製造されたものでもよい。なお、断面形状が芯鞘型の場合は、前記の方法にて混合したポリマーを鞘部、ポリエステルを芯部として芯鞘複合紡糸口金から吐出させ、同様に冷却し、油剤を付与する。
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各特性の評価は、次の通りである。
【0037】
(1)融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
【0038】
(2)極限粘度[η]
フェノール/四塩化エタンの等質量混合溶液を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用して、温度20℃で測定した。
【0039】
(3)数平均分子量
テトラヒドロフランを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。充填剤としてwaters社製のStyragelHR 54460及び44225、Ultrastyragel 10571の3種類を使用し、屈折率計を使用してポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
【0040】
(4)繊度
JIS L−1015−7−5−1Aの方法により測定した。
【0041】
(5)繊維長
JIS L−1015−7−4−1Cの方法により測定した。
【0042】
(6)紡糸操業性
8錘にて24時間連続して紡糸を行った際の糸切れ件数の合計を未延伸糸採取量1t当たりの糸切れ件数に換算し、下記の評価基準で評価した。
評価 糸切れ件数
○ : 1.0回以下
× : 1.0を超える
【0043】
(7)水中分散性
2000cmのビーカーに30℃の水1kgを秤取し、そこへポリエステルショートカット繊維1.0gを投入し、DCスターラー(攪拌ペラは3枚スクリュー型で直径は約50mm)で回転数3000rpm、攪拌時間1分間の条件で攪拌し、攪拌1回後、5回後、10回後の分散状態を下記の評価基準で、目視にて判断した。なお、○〜△であれば合格とした。
評価 結束繊維の数
○: 0個
△: 1〜5個
×: 6個以上
【0044】
(8)高温水中分散性
30℃の水の代わりに、50℃の温水を用いた以外は(7)と同様にして、分散性を評価した。
【0045】
(9)経時分散安定性
(7)と同様にして、3000rpmで1分間攪拌後、30℃で3日間放置した後、再び3000rpmで1分間攪拌し、分散性を評価した。
【0046】
実施例1
[混合物(C)の製造]
重縮合反応容器に、成分(A−1)として、5―スルホイソフタル酸ナトリウムポリエチレングリコールジエステル(SIPG)(ポリエチレングリコール部分の平均分子量:356)の40%エチレングリコール溶液(PIPE−40L 三洋化成工業社製)108部(26モル%)、成分(A−2)として、アジピン酸29部及びイソフタル酸10部(74モル%)、成分(A−3)として、数平均分子量8300のPEG(PEG−6000S 三洋化成工業社製)830部(29モル%)、酸化防止剤として「イルガノックス245」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、ヒンダードフェノール系抗酸化剤)を9部、重合触媒としてテトラブチルチタネートを0.2部添加し、5mmHg減圧下で190℃に昇温した。この条件で、過剰なエチレングリコール、水を除去しながら12時間エステル交換反応を行い、エステル化反応物(成分(A))を得た。
次に成分(B)として、数平均分子量20000のPEG(PEG−20000 三洋化成工業社製)を226部添加し、100℃で2時間溶融混合した後、混合物(C)を得た。
[ポリエステルショートカット繊維の製造]
主成分となるポリエステルとして、融点255℃、極限粘度0.68のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、上記方法で得られた混合物(C)を常法により乾燥した後、繊維中の混合物(C)の割合が3.0質量%となるようにドライブレンドして溶融押出機に供給し、285℃で溶融混練した。続いて285℃に加熱された口金からポリマーを吐出させ、紡糸速度700m/minで溶融紡糸し、繊維の未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率3.70倍で延伸し、延伸糸を得、繊維長5mmに切断し、繊度が2.2dtexであるポリエステルショートカット繊維を得た。
【0047】
実施例2〜3、比較例1〜3
混合物(C)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして行い、ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0048】
実施例4
主成分となるポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート(融点;225℃)を用い、実施例1で得られた混合物(C)を常法により乾燥した後、繊維中の混合物(C)の割合が3.0質量%となるようにポリブチレンテレフタレートにドライブレンドして溶融押出機に供給し、285℃で溶融混練した。続いて285℃に加熱された口金からポリマーを吐出させ、紡糸速度700m/minで溶融紡糸し、未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率3.20倍で延伸し、延伸糸を得、繊維長5mmに切断し、繊度が2.2dtexであるポリエステルショートカット繊維を得た。
【0049】
実施例5〜6、比較例4〜6
混合物(C)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして行い、ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0050】
実施例7
主成分となるポリエステルとして、ポリ乳酸(融点;170℃)を用い、実施例1で得られた混合物(C)を常法により乾燥した後、繊維中の混合物(C)の割合が3.0質量%となるようにポリ乳酸にドライブレンドして溶融押出機に供給し、230℃で溶融混練した。続いて230℃に加熱された口金からポリマーを吐出させ、紡糸速度700m/minで溶融紡糸し、未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率3.20倍で延伸し、延伸糸を得、繊維長5mmに切断し、繊度が2.2dtexであるポリエステルショートカット繊維を得た。
【0051】
実施例8〜9、比較例7〜9
混合物(C)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例7と同様にして行い、ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0052】
実施例10
ポリエチレンテレフタレート(融点;255℃)を芯部とし、実施例1で得られた混合物(C)及びポリエチレンテレフタレート(融点;255℃)を鞘部とした。実施例1で得られた混合物(C)を常法により乾燥した後、繊維中の混合物(C)の割合が3.0質量%となるように鞘部ポリマーにドライブレンドし(鞘部中の混合物(C)の割合が6.0質量%)、溶融押出機に供給し、孔数1014、円形断面同心芯鞘複合紡糸口金を用い、芯:鞘=50:50となるように計量し、紡糸温度290℃、紡糸速度700m/minで溶融紡糸し、複合繊維の未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率3.20倍で延伸し、延伸糸を得、繊維長5mmに切断し、繊度が2.2dtexである芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0053】
実施例12〜13、比較例10、12
混合物(C)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例10と同様にして行い、芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0054】
実施例11
繊維断面の芯鞘比率を表1に示すように変更した以外は、実施例10と同様にして行い、芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0055】
比較例11
繊維断面の芯鞘比率を表1に示すように変更した以外は、比較例10と同様にして行い、芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0056】
実施例14
ポリエチレンテレフタレート(融点;255℃)を芯部とし、実施例1で得られた混合物(C)及びイソフタル酸を40モル%共重合させてなるポリエチレンテレフタレート(軟化点;130℃)を鞘部とした。実施例1で得られた混合物(C)を常法により乾燥した後、繊維中の混合物(C)の割合が3.0質量%となるように鞘部ポリマーにドライブレンドし(鞘部中の混合物(C)の割合が6.0質量%)、溶融押出機に供給し、孔数1014、円形断面同心芯鞘複合紡糸口金を用い、芯:鞘=50:50となるように計量し、紡糸温度290℃、紡糸速度700m/minで溶融紡糸し、複合繊維の未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率3.20倍で延伸し、延伸糸を得、繊維長5mmに切断し、繊度が2.2dtexである芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0057】
実施例16〜17、比較例13〜14、16
混合物(C)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例14と同様にして行い、芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0058】
実施例15
繊維断面の芯鞘比率を表1に示すように変更した以外は、実施例14と同様にして行い、芯鞘型ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0059】
比較例15
繊維断面の芯鞘比率を表1に示すように変更した以外は、比較例14と同様にして行い、ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0060】
実施例18〜21、比較例17〜20
成分(A−1)、成分(A−2)、成分(A−3)のモル比を表1に示すように変更して混合物(C)を作成した以外は、実施例3と同様にして行い、ポリエステルショートカット繊維を得た。
【0061】
実施例1〜21、比較例1〜20で得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、実施例1〜21の繊維は水中分散性、高温水中分散性、経時分散安定性ともに優れたものであった。
【0064】
一方、比較例1、4、7、13の繊維は、混合物(C)を含まないため、水中分散性に劣るものであった。比較例2、5、8、10、11、14、15の繊維は、混合物(C)の含有量が少なかったため、水中分散性に劣るものであった。比較例3、6、9、12、16の繊維は、混合物(C)の含有量が多かったため、紡糸操業性が著しく悪化し、ポリエステルショートカット繊維を得ることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを主成分とし、下記(A)及び(B)成分を計0.3〜20.0質量%含有することを特徴とするポリエステルショートカット繊維。
(A)スルホン酸基含有芳香族ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体、スルホン酸基を含有しないポリカルボン酸及び/またはそのエステル形成性誘導体、及びポリアルキレングリコールからなるエステル化反応物。
(B)ポリアルキレングリコール。
【請求項2】
(A)と(B)の質量比が5:95〜95:5である請求項1記載のポリエステルショートカット繊維。
【請求項3】
繊維長が3〜10mmである請求項1又は2記載のポリエステルショートカット繊維。


【公開番号】特開2012−201987(P2012−201987A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64328(P2011−64328)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】