説明

ポリエステルシートの製造方法、並びに、ポリエステルフィルム及びポリエステルフィルムの製造方法

【課題】結晶化が抑制されたポリエステルシートが得られるポリエステルシートの製造方法を提供する。
【解決手段】降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、溶融押出しする押出工程と、溶融押出しされたポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却する冷却工程と、を有する厚さ3mm以上5mm以下のポリエステルシートを製造するポリエステルシートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルシートの製造方法、並びに、ポリエステルフィルム及びポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、電気絶縁用途や、光学用途等、種々の用途で用いられている。電気絶縁用途としては、近年、特に、太陽電池バックシート等の太陽電池用途が注目されている。太陽電池は発電素子をEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の封止材に包埋し、これをガラス板に貼り付けて使用されるが、裏面(太陽光を受光する面とは反対側の面)を風雨からこれを守るため、バックシート(裏面保護部材)が使用される。バックシートに用いるポリエステルフィルムには、通常、EVAと密着させるための易接着層が設けられる。
ところで、ポリエステルは、通常は、その表面にカルボキシル基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境では加水分解を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。太陽電池モジュールが一般に用いられる環境は、屋外等の常に風雨に曝されるような環境であり、加水分解を起こし易い環境であるため、太陽電池用途においては、ポリエステルの加水分解抑制は重要な課題の一つである。さらに長期経時によりバックシートの密着性が低下し、剥離し易くなる。また、太陽電池は通常、屋外で使用されるため、バックシートが水分を含んだ状態でも高い密着性(ウエット密着性)が要求され、密着性向上も重要な課題である。
【0003】
太陽電池バックシートは、太陽光を効率よく透過するために透明性の高い、すなわち、ヘイズが低いことが求められ、かつ、耐電圧増加のために更にフィルムの厚手化が必要である。しかし、ポリエステルを厚手化(例えば、3mm〜5mm)すると、耐候性にムラが生じることがあった。
【0004】
上記の状況に関連し、ヘイズの低いポリエステルフィルムとして、例えば、降温結晶化温度が150℃以上200℃以下であり、厚みが200μm以上500μm以下であり、かつヘイズが2.5%以下である二軸延伸ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、例えば、ポリエステルを、厚みが1500μm以上のシート状に溶融押出しし、キャスティングドラム上で、14から5℃以上50℃以下の冷風を吹きつけて、シートの表面温度を前記ポリエステルの(降温結晶化開始温度+40℃)から(降温結晶化終了温度−40℃)の範囲で、350℃/min以上590℃/min以下の平均冷却速度で冷却固化し、ポリエステルシートを製造した後、二軸延伸を行うポリエステルフィルムの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、例えば、溶融した熱可塑性樹脂シートを帯電したロールと冷却媒体で挟み込みながらキャスティングし、製膜を行う熱可塑性樹脂シートの製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、EVAとの密着性を得ることを目的として、ポリビニルアルコール(A)を含む塗液をポリエステルフィルムに塗布して形成される皮膜を有する太陽電池裏面保護膜用易接着性ポリエステルフィルム(例えば、特許文献4参照)や、少なくとも片面に、ポリオレフィン系樹脂との接着性を有するコート層をポリエステルフィルムの製膜時に設けたポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献5参照)。水溶性・親水性樹脂に対する接着性を得るために、少なくとも片面に、自己架橋性ポリウレタン樹脂を主たる構成成分とし、ヘーズ、熱収縮率等の物性が特定の値である易接着層を有する易接着性ポリエステルフィルム等も開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−185898号公報
【特許文献2】特開2008−239788号公報
【特許文献3】特開2000−263572号公報
【特許文献4】特開2006−335853号公報
【特許文献5】特開2006−175764号公報
【特許文献6】特開2009−269301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1〜特許文献3に記載の製造方法では、ポリエステルの置かれる環境により、ポリエステルの加水分解を十分に抑制することが困難であり、耐候性にムラがあった。
【0008】
本発明は、結晶化が抑制されたポリエステルシートが得られるポリエステルシートの製造方法、及び耐候性ムラの抑制に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、溶融押出しする押出工程と、溶融押出しされたポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却する冷却工程と、を有する厚さ3mm以上5mm以下のポリエステルシートを製造するポリエステルシートの製造方法である。
【0010】
<2> 前記降温結晶化温度が、160℃以上220℃以下である前記<1>に記載のポリエステルシートの製造方法である。
【0011】
<3> 前記冷却工程は、前記溶融押出しされたポリエステルを、冷却キャストドラムを用いて冷却し、冷却されたポリエステルの表面温度が下記式(1)を満たす温度であるときに、前記冷却されたポリエステルを前記冷却キャストドラムから剥離する前記<1>または前記<2>に記載のポリエステルシートの製造方法である。
Tg−10<TL<Tg ・・・式(1)
〔式(1)中、Tgはポリエステルのガラス転移温度(℃)を示し、TLは冷却されたポリエステルの表面温度を示す。〕
【0012】
<4> 前記冷却されたポリエステルの、前記冷却キャストドラムからの剥離は、前記冷却キャストドラムに対向配置され、ロール径が下記式(2)を満たす剥ぎ取りロールを用いて行なう前記<3>に記載のポリエステルシートの製造方法である。
(D1/D2)<7 ・・・式(2)
〔式(2)中、D1は冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
【0013】
<5> 前記ポリエステルは、固有粘度が0.7以上0.9以下である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のポリエステルシートの製造方法である。
【0014】
<6> 前記ポリエステルが、触媒由来のチタン原子を含有する前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のポリエステルシートの製造方法である。
【0015】
<7> 前記ポリエステルが、カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーを0.005モル%以上2.5モル%以下含む前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステルシートの製造方法である。
【0016】
<8> 前記押出工程は、前記ポリエステルの全質量に対して、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を0.1質量%以上5質量%以下添加する工程を含む前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のポリエステルシートの製造方法である。
【0017】
<9> 前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載のポリエステルシートの製造方法により得られたポリエステルシートを延伸して、厚さ250μm以上500μm以下のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法である。
【0018】
<10> 前記<9>に記載のポリエステルフィルムの製造方法により得られたポリエステルフィルムである。
【0019】
<11> カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含み、前記多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である前記<10>に記載のポリエステルフィルムである。
【0020】
<12> オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を0.1質量%以上5質量%以下含む前記<10>または前記<11>に記載のポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、結晶化が抑制されたポリエステルシートが得られるポリエステルシートの製造方法、及び耐候性ムラの抑制に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<ポリエステルシートの製造方法>
本発明のポリエステルシートの製造方法は、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、溶融押出しする押出工程と、溶融押出しされたポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却する冷却工程と、を有する構成としたものである。
本発明では、ポリエステルシートの原料に、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを用い、当該ポリエステルが上記押出工程と、冷却工程とを経ることにより、厚さ3mm以上5mm以下のポリエステルシートを製造する。
なお、「ポリエステルシート」とは、厚さ3mm以上5mm以下であって、未延伸のポリエステルをいう。
本発明のポリエステルシートの製造方法を上記構成とすることで、結晶化が抑制されたポリエステルシートを製造し得る理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0023】
ポリエステルシートの原料であるポリエステル(原料ポリエステルともいう)を溶融し、押出機を用いて、ポリエステルをシート状に成形する過程で、溶融状態のポリエステル(以下、「溶融樹脂」とも称する)が冷却されるときに、結晶化が起こる。結晶化は、溶融樹脂を冷却する過程で球晶が発生し、球晶が核となり、結晶が成長し易い環境下に結晶核が置かれることで、結晶が急激に成長すると考えられる。結晶が成長し易い環境とは、ポリエステルが分子運動し易い環境をいい、温度やポリエステルの粘度により環境を制御し得る。ポリエステルの温度が高いほど、また、ポリエステルの粘度が小さいほど、ポリエステルは分子運動をし易く、結晶質になり易いと考えられる。
【0024】
これに対し、降温結晶化温度の半値幅が大きな、25℃以上50℃以下のポリエステルを用いることで、球晶が発生しにくくなると考えられる。さらに、溶融樹脂を、樹脂の表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却することで、結晶が成長する速度を落とし易くなると考えられる。結晶成長速度が低下することにより、結晶が成長し難い温度環境を作ることとなるため、仮に結晶核たる球晶が生じてしまっても、結晶の成長を抑制し、結果、結晶化しにくくなると考えられる。
以下、本発明のポリエステルシートの製造方法の詳細を、ポリエステル、押出工程、及び、冷却工程の各工程に分けて説明する。
【0025】
〔押出工程〕
押出工程は、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、溶融押出しする工程である。
例えば、ポリエステルを乾燥し溶融した後、押出機、フィルター(濾過器)、及びダイを通じてシート状に押出せばよい。
また、押出工程は、ポリエステルに対して、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を添加する工程を含むことが好ましい。末端封止剤の詳細は後述する。
【0026】
ポリエステルの溶融温度は、250℃以上320℃以下が好ましく、260℃以上310℃以下がより好ましく、270℃以上300℃以下がさらに好ましい。
押出機は、1軸でも多軸でもよい。熱分解により末端COOHの発生を抑制し、ポリエステルの加水分解を抑制する観点から、押出機内を窒素置換して、ポリエステルの溶融押出しを行なうことが好ましい。
押出機の内部(溶融樹脂が投入される配管部)の温度は、例えば、原料であるポリエステルの融点(Tm)の10℃以上から50℃以上の範囲、即ち、Tg+10℃以上Tg+50℃以下の範囲に設定される。
溶融された溶融樹脂(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出す。このとき、溶融樹脂は、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0027】
ダイから押出された溶融樹脂は、その厚みを3mm以上5mm以下、好ましくは3.2 mm以上4.7mm以下、より好ましくは3.4mm以上4.6mm以下にする。溶融樹脂の厚さを5mm以下とすることで、溶融樹脂の冷却速度を、後述する数値範囲とし得る。また、押出す溶融樹脂の厚さを3mm以上とすることで、押出しから冷却までの間に、ポリエステル中のOH基やCOOH基がポリエステル内部に拡散され、加水分解発生の要因となるOH基及びCOOH基がポリエステル表面に露出することを抑制する。また製造したポリエステルシートを延伸してポリエステルフィルムにするときに、延伸倍率を高くしても100μm以上の厚みを有するポリエステル二軸延伸フィルムが得られる。
【0028】
また、溶融押出しされるポリエステルは、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である。
ここで、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるとする物性は、押出機より溶融押出しされる際のポリエステル(溶融樹脂)が備えていればよい。すなわち、原料であるポリエステルが、押出機に投入される前は、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である物性を備えていなくとも、溶融され、押出機の中を通過して押出ダイから押出されるときに、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である物性を備えていればよい。
溶融押出しされるポリエステルの降温結晶化温度の半値幅がかかる範囲であることで、後述する冷却工程で結晶化を抑制する。より具体的には、降温結晶化温度の半値幅を25℃以上とすることで、冷却工程で、球晶が発生することを抑制することができ、50℃以下とすることで、結晶の成長が抑制される。
【0029】
なお、降温結晶化温度は、溶融樹脂を冷却しながら、溶融樹脂の熱量を、島津製作所社製の示差走査熱量測定装置 (Differential scanning calorimetry;DSC)を用いて測定したとき、縦軸に熱量、横軸に温度をとった座標系で、得られた発熱ピークの頂点の温度をいい、Tcとも称する。降温結晶化温度(Tc)の半値幅は、当該発熱ピークのピーク幅をいう。
半値幅の測定方法の詳細は、次のとおりである。
【0030】
(1)試料としてポリエステルシートを10mg秤量し、アルミパンにセットし、昇温速度10℃/minで、室温から最終温度300℃まで昇温しながら、島津製作所社製の示差走査熱量測定装置で、温度に対する熱量を測定する。
(2)最終温度の300℃に到達後、保持せずに、降温速度−10℃/minで、最終温度60℃まで降温する。
(3)300℃から60まで降温する間に検出される凸状の発熱ピークの頂点の温度を降温結晶化温度(Tc)とし、当該発熱ピークの幅を半値幅とする。より具体的には、試料の熱量を、高温側から低温側にプロットしてDSC曲線を作成したとき、発熱吸収により、DSC曲線のベースラインからピークが立ち上がり始める温度と、発熱吸収が無くなり、ベースラインに到達する温度との温度幅を半値幅とする。
【0031】
降温結晶化温度(Tc)の半値幅は、25℃以上40℃以下であることが好ましく、30℃以上37℃以下であることがより好ましい。
また、降温結晶化温度は、160℃以上220℃以下であることが好ましい。降温結晶化温度が160℃以上であることで冷却速度を大きくすることができ(低温では冷媒との温度差小さく、冷却速度を稼げない)、220℃以下であることで結晶化が始まるのを遅くすることができる。降温結晶化温度は、170℃以上210℃以下であることがより好ましい。
【0032】
溶融押出しされるポリエステルの降温結晶化温度の半値幅は、例えば、押出機中の溶融樹脂に圧力変動等の変動を与えることで制御し得る。具体的には、溶融樹脂を押出す圧力、すなわち、背圧を変動させたり、押出機内の温度を変化させて溶融樹脂の温度分布を変動させたり、押出機のスクリューの回転数を変動させることが挙げられる。
また、背圧、温度分布、及びスクリュー回転数等を変動して、半値幅を25℃以上50℃以下とすることで、溶融樹脂中に熱分解物が生じ易くなる。溶融樹脂に熱分解物が含まれていると、溶融樹脂中に球晶が発生していても、結晶が成長しにくくなるため、結果、ポリエステルシートの結晶化を抑制すると考えられる。
【0033】
具体的には、次のように圧力や温度を変動させることにより、溶融樹脂の降温結晶化温度の半値幅を25℃以上50℃以下とし易い。下記に示す圧力ないし温度の変動の数値範囲は、下限よりも小さいと、降温結晶化温度の半値幅を25℃としにくく、上限よりも大きいと、溶融樹脂の熱分解が生じ過ぎて、却ってポリエステルの結晶化を促進するおそれがある。
背圧は、押出機バレル内での平均圧力 に対して0.5%以上1.5%以下の範囲で加圧することで変動させることが好ましい。背圧変動は、0.8%以上1.1%以下であることがより好ましい。
溶融樹脂の温度分布は、押出機バレル内での平均温度に対して0.5%以上4%以下の範囲で加熱することで変動させることが好ましい。さらには、0.8%以上2.5%以下であることがより好ましい。
なお、ポリエステルの降温結晶化温度の半値幅を制御するに当たり、背圧、温度分布、スクリュー回転数のいずかのみを変動させてもよいし、2つ以上を組み合わせて変動させてもよい。
次に、溶融押出ししたポリエステルを冷却する。
【0034】
〔冷却工程〕
冷却工程は、溶融押出しされたポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却する工程である。
冷却速度が350℃/min未満であると、ポリエステルの結晶化が進んでしまう。冷却速度が590℃/minを上回ると、ポリエステルの表面の冷却速度と、ポリエステルの内部の冷却速度とに差が生じてしまう。
ポリエステルの表面の冷却速度と、ポリエステルの内部の冷却速度とに差が生じると、得られるポリエステルシートの延伸性にムラが生じてしまうため、ポリエステルシートを延伸して得られるポリエステルフィルムの耐候性を損ねる。
溶融樹脂の冷却速度は、370℃/min以上550℃/min以下であることが好ましく、400℃/min以上500℃/min以下であることがより好ましい。
【0035】
押出ダイから押出された溶融樹脂を冷却する手段は、特に制限されず、溶融樹脂に冷風を当てたり、冷却キャストドラム(冷却キャストドラム)に接触させたり、水を霧吹きすればよい。冷却手段は、1つのみ行なってもよいし、2つ以上を組み合わせて行なってもよい。
冷却手段は、上記の中でも、連続運転時のシート表面へのオリゴマー付着防止の観点から、冷風による冷却及び冷却キャストドラムを用いた冷却の少なくとも一方が好ましい。さらには、押出機から押出された溶融樹脂を冷風で冷却すると共に、溶融樹脂を冷却キャストドラムに接触させて冷却することが特に好ましい。
【0036】
冷風による冷却は、冷風温度を、15℃以上50℃以下とすることが好ましく、18 ℃以上40℃以下とすることがより好ましく、20℃以上35℃以下とすることがさらに好ましい。また、風速は、20m/sec以上70m/sec以下とすることが好ましく、40m/sec以上65m/sec以下とすることがより好ましく、50m/sec以上60m/sec以下とすることがさらに好ましい。
冷却キャストドラムの温度は、−10℃以上30℃以下が好ましく、より好ましくは−5℃以上25℃以下、さらに好ましくは0℃以上15℃以下である。さらに、溶融樹脂と冷却キャストドラムとの間で密着性を高め、冷却効率を上げる観点からは、冷却キャストドラムに溶融樹脂が接触する前に静電気を印加しておくことが好ましい。冷却キャストドラム内部に冷媒を通し、所定の表面温度に制御できる。
【0037】
溶融樹脂を、冷却キャストドラムを用いて冷却した場合、冷却したポリエステルシートの表面温度が、下記式(1)を満たす温度であるときに、冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。
Tg−10<TL<Tg ・・・式(1)
〔式(1)中、Tgはポリエステルのガラス転移温度(℃)を示し、TLは冷却されたポリエステルの表面温度を示す。〕
【0038】
すなわち、冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgよりも低くなったときに、ポリエステルシートを冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。また、冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgより10℃低い温度以下となる前に、ポリエステルシートを冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。
冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgを下回ることで、ポリエステルシートが十分に固化され、柔軟性が低下しているため、剥離の際に、ポリエステルシートの一部が伸びる等の損傷を抑制し得る。冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgより10℃低い温度より高い温度で剥離することで、ポリエステルシートのひび割れ等の欠損を抑制することができる。
なお、ポリエステルシートの原料であるポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、特に制限されないが、65℃以上80℃以下であることが好ましく、70℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0039】
ポリエステルのガラス転移温度Tgと、冷却したポリエステルシートの表面温度TLとの関係は、下記式(1−2)を満たすことがより好ましい。
Tg−5<TL<Tg ・・・式(1−2)
〔式(1−2)中、Tgはポリエステルのガラス転移温度(℃)を示し、TLは冷却されたポリエステルの表面温度を示す。〕
すなわち、TLは、Tg−5よりも大きく、Tg未満であることがより好ましい。
【0040】
さらに、冷却したポリエステルの冷却キャストドラムからの剥離は、冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて行なうことが好ましい。
剥ぎ取りロールを用いて、冷却したポリエステルを冷却キャストドラムから剥離することで、冷却したポリエステルに偏った引っ張り応力を与えずに剥離することができるため、冷却したポリエステルを損ない難い。
【0041】
また、剥ぎ取りロールのロール径は、冷却キャストドラムのロール径との間に、下記式(2)を満たす大きさであることが好ましい。
(D1/D2)<7 ・・・式(2)
〔式(2)中、D1は冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
【0042】
さらに、剥ぎ取りロールのロール径は、冷却キャストドラムのロール径との間に、下記式(2−2)を満たす大きさであることがより好ましい。
3≦(D1/D2)<7 ・・・式(2−2)
〔式(2−2)中、D1は冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
D1/D2が3以上となると、冷却したポリエステルを冷却キャストドラムから剥離するときに、ポリエステルが、剥ぎ取りロールに沿って、偏らずに剥離することができる。
【0043】
なお、ポリエステルのガラス転移温度Tgは、島津製作所社製の示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定する。
具体的には、試料としてポリエステルシートを10mg秤量し、アルミパンにセットし、昇温速度10℃/minで、室温から最終温度300℃まで昇温しながら、DSC装置で、温度に対する熱量を測定したとき、DSC曲線が屈曲する温度をガラス転移温度とした。なお、ポリエステルの融点(溶融温度)Tmは、当該DSC曲線において得られる凹状の吸熱ピークのピーク頂点における温度として求める。
【0044】
〔ポリエステルシート〕
上記の本発明のポリエステルシートの製造方法により、厚さ3mm以上5mm以下のポリエステルシートを製造する。
厚さが5mmを超えるポリエステルシートを製造するためには、厚さが5mmを超える溶融樹脂を押出し、冷却する必要があるところ、この場合、溶融樹脂の冷却速度が低下するため、ポリエステルの結晶化を抑制することができない。
ポリエステルシートの厚さが3mm未満であると、電気絶縁性を発現しにくいため、太陽電池バックシート用途に適さない。
ポリエステルシートの厚さは、結晶化抑制及び電気絶縁性の観点から、3.2mm以上4.7mm以下であることが好ましく、3.4mm以上4.6mm以下であることがより好ましい。
次に、本発明のポリエステルシートの製造方法に用いる原料であるポリエステルについて説明する。
【0045】
〔ポリエステルシートの原料(ポリエステル)〕
ポリエステルシートの原料としてのポリエステル(原料ポリエステル)は、押出機から溶融押出しされるとき降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である必要がある。既述のように、ポリエステルの降温結晶化温度の半値幅は、ポリエステルの溶融押出における押出機内の圧力変動等により制御し得るため、押出機内の圧力変動等で降温結晶化温度の半値幅を25℃以上50℃以下とすることができれば、ポリエステルの種類には特に制限されない。多価カルボン酸(例えば、ジカルボン酸)成分と、多価アルコール(例えば、ジオール)成分とを用いて合成してもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0046】
ポリエステルを合成する場合は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
(A)ジカルボン酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0047】
(B)ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物が挙げられる。
【0048】
(A)ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、(B)ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0049】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0050】
−多官能モノマー−
本発明のポリエステルシートの製造方法に用いる原料であるポリエステルは、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマー(以下、「3官能以上の多官能モノマー」又は単に「多官能モノマー」ともいう)を含むことが好ましい。ポリエステルに、多官能モノマーを含めることで、ポリエステルシートや、ポリエステルシートを延伸して得られるポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。ポリエステルシートないしポリエステルフィルムに隣接する材料としては、ポリエステルシートないしポリエステルフィルム上に塗布形成する塗布層や、ポリエステルシートないしポリエステルフィルムに貼り合わせる部材等が挙げられる。
【0051】
ポリエステルシートの原料であるポリエステルは、多官能モノマーを共重合成分(3官能以上の構成成分)として含むことが好ましい。「多官能モノマーを共重合成分(3官能以上の構成成分)として含む」とは、多官能モノマーに由来の構成単位を含むことを意味する。
ポリエステルは、既述のように、例えば(A)ジカルボン酸成分と(B)ジオール成分とを周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができ、更に好ましくは、これに3官能以上の多官能モノマーを共重合させて得られる。
【0052】
カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーの例として、3官能の芳香族カルボン酸としては、例えば、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、3官能の脂肪族カルボン酸としては、例えば、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、4官能の芳香族カルボン酸としては、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ペリレンテトラカルボン酸等が、4官能の脂肪族カルボン酸として、例えば、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、5官能以上の芳香族カルボン酸として、例えば、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、5官能以上の脂肪族カルボン酸として、例えば、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられる。
本発明においては、これらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
また、上述のカルボン酸のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0054】
水酸基数(b)が3以上の多官能モノマーの例として、3官能の芳香族化合物としては、例えば、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリンが、3官能の脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオールが、4官能の脂肪族アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール等が挙げられる。また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた化合物も好ましく用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0055】
また、上記以外の他の多官能モノマーとして、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類も挙げられる。このようなオキシ酸類の例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、トリヒドロキシテレフタル酸などを挙げることができる。
また、これらの多官能モノマーのカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。
これらは、1種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0056】
ポリエステルシートの原料であるポリエステルは、前記多官能モノマーの含有比率が、ポリエステル中の全モル数に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。多官能モノマーの含有比率は、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下であり、特に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下であり、最も好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0057】
ポリエステル中に3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位が存在することで、上記したように、最終的にポリエステルフィルムを成形した場合において、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位からポリエステル分子鎖を枝分かれされた構造が得られ、ポリエステル分子間の絡み合いを促すことができる。
【0058】
多官能モノマーは、ポリエステルの重合中、すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応工程中に添加すればよい。
【0059】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0060】
例えば、エステル化反応工程は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合する。このエステル化反応工程では、触媒であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体を用いると共に、工程中に少なくとも、有機キレートチタン錯体と、マグネシウム化合物と、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を設けて構成される。
【0061】
まず初めに、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する。有機キレートチタン錯体等のチタン化合物は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0062】
より好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。さらに、PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0063】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能であり、本発明のポリエステルフィルムにおいて、末端COOH量を所定の範囲に調整するのに好適である。
【0064】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0065】
ポリエステルを重合する際において、触媒としてチタン(Ti)化合物を、1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明のポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
【0066】
(チタン化合物)
触媒成分であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種が用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0067】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステルが得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステルが得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、本発明の添加方法によって末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
【0068】
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0069】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0070】
エステル化反応させる際において、Ti触媒を用い、Ti添加量が元素換算値で1ppm以上30ppm以下、より好ましくは3ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは5ppm以上15ppm以下の範囲で重合反応させる態様が好ましい。チタン添加量は、1ppm以上であると、重合速度が速くなる点で有利であり、30ppm以下であると、良好な色調が得られる点で有利である。
【0071】
また、チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体以外には一般に、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機キレートチタン錯体に加えて、他のチタン化合物を併用してもよい。
このようなチタン化合物の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0072】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステルの製造方法により作製されるのが好ましい。
【0073】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステルが得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステルに比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステルに比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステルを提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステルが得られる。
【0074】
このポリエステルは、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0075】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0076】
(リン化合物)
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。例えば、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が挙げられ、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0077】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは60ppm以上75ppm以下となる量である。
【0078】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0079】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0080】
本発明におけるエステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)+0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用のみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0081】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステルを得ることができる。
【0082】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.0≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0083】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0084】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0085】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0086】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0087】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0088】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0089】
上記のようにして合成されたポリエステルには、光安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、核剤(結晶化剤)、結晶化阻害剤などの添加剤を更に含有させてもよい。
【0090】
ポリエステルシートの原料であるポリエステルは、固相重合したペレットであることが好ましい。
エステル化反応により重合した後に、さらに固相重合することにより、ポリエステルフィルムの含水率、結晶化度、ポリエステルの酸価、すなわち、ポリエステルの末端カルボキシル基の濃度(Acid Value;AV)〔当量/トン〕、固有粘度(Interisic Viscosity;IV)〔dL/g〕を制御することができる。なお、本明細書中において、「当量/トン」は1トンあたりのモル当量を表す。
ポリエステルの固有粘度(IV)は、0.7以上0.9以下であることが好ましい。
固有粘度が0.7以上であると、ポリエステルの分子運動が阻害されて結晶化しにくくすることができ、0.9以下であると、押出機内の剪断発熱によるポリエステルの熱分解が起こり過ぎず、結晶化を抑制し、また、酸価(AV)を低く抑えることができる。
IVは、0.75以上0.85以下であることがより好ましい。
【0091】
特に、エステル化反応において、Ti触媒を使用し、さらに固相重合して、ポリエステルの固有粘度(IV)を、0.7以上0.9以下とすることで、ポリエステルシートの製造工程における溶融樹脂の冷却工程において、ポリエステルが結晶化することを抑制し易い。
従って、ポリエステルシートの原料であるポリエステルは、固有粘度が0.7以上0.9以下であることが好ましく、さらに触媒(Ti触媒)由来のチタン原子を含有することが好ましい。
【0092】
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求められる。
【0093】
ポリエステルの固相重合には、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルを、ペレット状などの小片形状にしたものを、出発物質として用いればよい。
ポリエステルの固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、順次送り出す方法)でもよく、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。
ポリエステルの固相重合は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは180℃以上230℃以下で1時間以上50時間以下、より好ましくは5時間以上40時間以下、さらに好ましくは10時間以上30時間以下の条件で行なうのが好ましい。また、固相重合は、真空中あるいは窒素気流中で行なうことが好ましい。
【0094】
固相重合の温度は、170℃以上240℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以上230℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上220℃以下である。温度が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)がより大きく低減することの点で好ましい。また、固相重合時間は、5時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以上75時間以下であり、さらに好ましくは15時間以上50時間以下である。時間が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)と固有粘度(IV)の本発明の好ましい範囲に容易に制御できる点で好ましい。固相重合は、真空中あるいは窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0095】
−末端封止剤−
本発明のポリエステルシートの製造方法においては、ポリエステルシートの原料であるポリエステル(原料ポリエステル)の溶融押出にあたり、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる末端封止剤を併用することが好ましい。末端封止剤を併用することで、ポリエステルシートや、ポリエステルシートを延伸して得られるポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。
ポリエステルに末端封止剤を含める場合、ポリエステルは、特に、固相重合後のポリエステルであることが好ましい。
【0096】
本発明のポリエステルシートの製造方法においては、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、押出工程によって、例えば、ポリエステルを乾燥し溶融した後、押出機、フィルター(濾過器)、及びダイを通じてシート状に押出す。
押出工程が、ポリエステルの全質量に対して、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を添加する工程を含むことで、耐候性が向上する上、熱収縮を低く抑えることができる。
【0097】
末端封止剤の添加時期は、ポリエステルシートの原料の投入から押出までの段階であれば、特に制限はないが、末端封止剤は、ポリエステルを乾燥した後から、ポリエステルを押出機バレルに投入し、スクリューで送られ、押出機から押出される前までの間に加えられ、ポリエステルと共に溶融混練に供されることが好ましい。
例えば、ポリエステルを乾燥した後、ポリエステルと共に、末端封止剤を押出機バレルに投入してもよいし、溶融混練を行なう押出機バレルの原料投入口と、溶融状態のポリエステル(メルト)の排出口との間に末端封止剤を供給する供給口を設け、押出機バレル内のポリエステルに直接加えてもよい。このとき、末端封止剤は、加熱混練が開始されているが完全に溶融状態に達していないポリエステルに加えられてもよいし、溶融状態のポリエステル(メルト)に加えられてもよい。
【0098】
本発明における末端封止剤としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びオキサゾリン基を有する化合物が好ましい。末端封止剤の具体例としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン系化合物などを好適に挙げることができる。
【0099】
カルボジイミド基を有する前記カルボジイミド化合物は、1官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがある。1官能性カルボジイミドとしては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド及びジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられ、好ましくはジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
また、多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドは、一般に、「−R−N=C=N−」等で表される繰り返し単位を有し、前記Rは、アルキレン、アリーレン等の2価の連結基を表す。このような繰り返し単位としては、例えば、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4'−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド及び1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどが挙げられる。
【0100】
カルボジイミド化合物は、熱分解によるイソシアネート系ガスの発生が抑えられる点で、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくは、カルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、原料ポリエステルを溶融押出する温度を下げることで、カルボジイミド化合物による耐候性の向上効果及び熱収縮の低減効果がより効果的に得られる。
【0101】
カルボジイミド化合物を用いたポリエステルフィルムは、温度300℃で30分間保持した際のイソシアネート系ガスの発生量が0〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスの発生量が0.02質量%以下であると、ポリエステルフィルム中に気泡(ボイド)が生成され難く、したがって応力集中する部位が形成されにくいため、ポリエステルフィルム内に生じやすい破壊や剥離を防ぐことができる。これにより、隣接する材料との間の密着が良好になる。
ここで、イソシアネート系ガスは、イソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。
【0102】
エポキシ基を有する前記エポキシ化合物としては、好ましい例として、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0103】
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル及びピロメリット酸テトラグリシジルエステル等を挙げられる。
【0104】
また、グリシジルエーテル化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエ−テル、O−フェニルグリシジルエ−テル、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ブタン、1,6−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ベンゼン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−エトキシエタン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−ベンジルオキシエタン、2,2−ビス−[р−(β,γ−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン及び2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるビスグリシジルポリエーテルなどが挙げられる。
【0105】
前記オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができるが、その中ではビスオキサゾリン化合物が好ましい。
ビスオキサゾリン化合物としては、例えば、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4'−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−9,9'−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)及び2,2'−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性が良好で耐候性の向上効果が高い観点から、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましい。
ビスオキサゾリン化合物は、本発明の効果を損なわない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
末端封止剤のポリエステルに対する量としては、ポリエステルの全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。末端封止剤のポリエステルに対する好ましい量は、0.3質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
末端封止剤の添加比率が0.1質量%以上であることで、AV低下効果による耐候性向上を達成できる上、低熱収縮性も付与することができる。また、末端封止剤の添加比率が5質量%以下であると、末端封止剤の添加によりポリエステルのガラス転移温度(Tg)の低下が抑制され、これによる耐候性の低下や熱収縮の増加を抑制することができる。これは、Tgが低下した分、相対的にポリエステルの反応性が増加することで生じる加水分解性の増加を抑制したり、Tg低下で増加するポリエステル分子の運動性が増加し易くなることで生じる熱収縮が抑制されるためである。
【0107】
本発明において、既述の3官能以上の多官能モノマー、及び、末端封止剤は、それぞれ一種単独で用いてもよいし、これら両方を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、本発明のポリエステルシートの製造方法により得られたポリエステルシートを延伸して、厚さ250μm以上500μm以下のポリエステルフィルムを製造する方法である。
ポリエステルフィルムの製造方法の構成を上記構成とすることで、製造されるポリエステルフィルムは、耐候性ムラを抑制することができる。
なお、「ポリエステルフィルム」とは、厚さ250μm以上500μm以下であって、延伸後のポリエステルをいう。
【0109】
既述のように、ポリエステルフィルムが常に風雨に曝されるような環境でも、ポリエステルの加水分解が抑制されること、即ち、耐候性が重要な課題となっている。ポリエステルの加水分解は、ポリエステルフィルムに延伸ムラがある場合に発生し易い傾向にある。
ポリエステルフィルムは、ポリエステルシートを延伸することで得られるが、ポリエステルシートを、より厚みの小さいフィルム状に延伸するときにムラが生じるのは、ポリエステルシートの構成成分が均一でないためと考えられる。すなわち、ポリエステルシート中に、非晶質よりも柔軟な結晶質と、結晶質に比べ硬い非晶質とが混在することで、ポリエステルシートの延伸により、延伸ムラが生じると考えられる。
ここで、ポリエステルシートとして、本発明のポリエステルシートの製造方法により製造されたポリエステルシートを用いて延伸すれば、ポリエステルシートの結晶化が抑制されているため、延伸ムラを抑制し得る。
その結果、耐候性ムラを抑制した250μm以上500μm以下の厚さのポリエステルフィルムを製造することができる。
【0110】
ポリエステルシートの延伸方法は、二軸延伸であっても、二軸延伸であってもよいが、得られるポリエステルフィルムの強度、形状安定性の観点から二軸延伸であることが好ましい。
例えば、ポリエステルシートを、ポリエステルシートの長手方向に、延伸応力が5MPa以上15MPa以下、かつ、延伸倍率が2.5倍以上4.5倍以下の縦延伸及び幅方向に横延伸を行えばよい。
【0111】
より具体的には、ポリエステルシートを、70℃以上120℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に、延伸応力が5MPa以上15MPa以下、かつ、延伸倍率が2.5倍以上4.5倍以下、より好ましくは、延伸応力が8MPa以上14MPa以下、かつ、延伸倍率が3.0倍以上4.0倍以下の縦延伸を行う。縦延伸後、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが好ましい。
【0112】
続いて、ポリエステルシートの両端をクリップで把持しながらテンターに導き80℃以上150℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向、すなわち、幅方向に延伸応力が8MPa以上20MPa以下であり、かつ、延伸倍率が3.4倍以上4.5倍以下の横延伸を行うことが好ましく、延伸応力が10MPa以上18MPa以下、かつ、延伸倍率が3.6倍以上4.2倍以下の横延伸を行うことがより好ましい。
【0113】
上記二軸延伸による延伸面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上20倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以上20倍以下であると、延伸後の厚みが250μm以上500μm以下であり、面配向度が高く、30%以上40%以下の結晶化度を有し、平衡含水率が0.1質量%以上0.25質量%以下である二軸配向したポリエステルフィルムが得られる。
【0114】
二軸延伸する方法としては、上述のように、長手方向と幅方向の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法のほか、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
【0115】
(熱固定)
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、熱固定処理を行うことが好ましい。二軸延伸後のフィルムを、張力が1kg/m以上10kg/m以下、かつ、210℃以上230℃以下で熱固定処理を行うことが好ましい。このような条件下で熱固定処理を行うことで、平面性と寸法安定性が向上し、任意の10cm間隔で測定した含水率の差を0.01質量%以上0.06質量%以下にすることができる。
【0116】
好ましくは、ポリエステルシートの原料であるポリエステルのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で1秒以上30秒以下の熱固定処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱固定処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルム中の含水率が上昇して耐加水分解性に劣ることがある。そのため、本発明のポリエステルフィルムの熱固定処理温度(Ts)としては、40℃≦(Tm−Ts)≦90℃であるのが好ましい。より好ましくは、熱固定処理温度(Ts)を50℃≦(Tm−Ts)≦80℃、更に好ましくは55℃≦(Tm−Ts)≦75℃とすることが好ましい。
【0117】
得られたポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成するバックシートとして用いることができるが、モジュール使用時には雰囲気温度が100℃程度まで上昇することがあるため、熱固定処理温度(Ts)としては、160℃以上Tm−40℃(但し、Tm−40℃>160℃)以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以上Tm−50℃(但し、Tm−50℃>170℃)以下、更に好ましくはTsが180℃以上Tm−55℃(但し、Tm−55℃>180℃)以下である。上記の熱固定処理温度は、2つ以上に分割された領域で温度差を1〜100℃の範囲で順次降温しながら熱固定することが好ましい。
【0118】
また必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の弛緩処理を施してもよい。
熱固定されたポリエステルフィルムは通常Tg以下まで冷却され、ポリエステルフィルム両端のクリップ把持部分をカットしロール状に巻き取られる。この際、最終熱固定処理温度以下、Tg以上の温度範囲内で、幅方向及び/または長手方向に1〜12%弛緩処理することが好ましい。
また、冷却は、最終熱固定温度から室温までを毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが寸法安定性の点で好ましい。特に、Tg+50℃からTgまでを、毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特
に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながら、これらの処理を行うことが、ポリエステルフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。
また、上記ポリエステルフィルムの製造に際し、ポリエステルフィルムの強度を向上させる目的で、多段縦延伸、再縦延伸、再縦横延伸、横・縦延伸など公知の延伸フィルムに用いられる延伸を行ってもよい。縦延伸と横延伸の順序を逆にしてもよい。
【0119】
〔ポリエステルフィルム〕
上記の本発明のポリエステルフィルムの製造方法により、厚さ250μm以上500μm以下のポリエステルフィルムを製造する。
本発明のポリエステルフィルムは、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムは、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を含むことが好ましい。
ポリエステルフィルムが、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位を含むことで、ポリエステルシートや、ポリエステルシートを延伸して得られるポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。また、ポリエステルフィルムが、末端封止剤に由来する構造部分を含むことによっても、ポリエステルシートや、ポリエステルシートを延伸して得られるポリエステルフィルムに隣接する材料との密着力に優れる。
【0120】
本発明のポリエステルフィルムは、上記の本発明のポリエステルシートの製造方法により製造されたポリエステルシートを、厚さ250μm以上500μm以下に延伸する本発明のポリエステルフィルムの製造方法により製造される。既述のように、本発明のポリエステルシートの原料としてのポリエステル(原料ポリエステル)は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができ、更に好ましくは、これに3官能以上の多官能モノマーを共重合させて得られたものであることが好ましい。ジカルボン酸成分、ジオール成分、及び多官能モノマー等の例示や好ましい態様などの詳細については、既述のとおりである。
【0121】
−多官能モノマーに由来の構成単位−
カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーに由来の構成単位としては、カルボン酸基の数(a)が3以上のカルボン酸並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマー、並びに「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類」などを挙げることができる。これらの例示及び好ましい態様などの詳細については、既述のとおりである。
また、前記カルボン酸のカルボキシ末端、又は前記「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有する多官能モノマー」のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適である。
これらは、一種単独で用いても、必要に応じて、複数種を併用してもよい。
【0122】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、前記3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステルフィルム中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率は、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下であり、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下であり、特に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下であり、最も好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0123】
ポリエステルフィルム中に3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位が存在することで、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位からポリエステル分子鎖を枝分かれされた構造が得られ、ポリエステル分子間の絡み合いを促すことができる。その結果、高温高湿環境下に曝されてポリエステル分子が加水分解し分子量が低下しても、ポリエステル分子間に絡み合いが形成されていることにより、ポリエステルフィルムの脆化が抑制され、より優れた耐候性が得られる。さらに、このような絡み合いは、熱収縮の抑制にも有効である。これは、上記のポリエステル分子の絡み合いによりポリエステル分子の運動性が低下するため、熱で分子が収縮しようとしても収縮できず、ポリエステルフィルムの熱収縮が抑制されたものと推定される。
したがって、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が0.005モル%以上であることで、耐候性、低熱収縮性がさらに向上し易い。また、3官以上の多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が2.5モル%以下であることで、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位は嵩高いため、結晶形成し難くなるのが抑制される。その結果として、結晶を介して形成される低移動成分の形成を促し、加水分解性が低下するのを抑制することができる。さらに、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の嵩高さにより、増加する自由体積(分子間の隙間)が抑制され、大きな自由体積中をポリエステル分子がすり抜けることで発生する熱収縮を抑制することができる。また、3官能以上の多官能モノマーに由来の構成単位の添加過剰に伴なうガラス転移温度(Tg)の低下も抑制され、耐候性が低下防止にも有効である。
【0124】
−末端封止剤に由来する構造部分−
本発明のポリエステルフィルムは、更に、イソシアネ−ト化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる末端封止剤に由来する構造部分を有していることが好ましい。なお、「末端封止剤に由来する構造部分」とは、末端封止剤がポリエステル末端のカルボン酸と反応して末端に結合している構造をさす。
【0125】
末端封止剤がポリエステルフィルム中に含められると、末端封止剤はポリエステル末端のカルボン酸と反応し、ポリエステル末端に結合して存在するため、末端COOH量(AV値)を、既述の好ましい範囲など所望とする値に安定的に維持し易くなる。すなわち、末端カルボン酸により促進されるポリエステルの加水分解が抑制され、耐候性を高く保つことができる。さらに、末端封止剤は嵩高く、ポリエステル分子が自由体積中をすり抜けて移動するのを抑制する。その結果、分子の移動を伴なう熱収縮を抑制する効果も有する。
【0126】
「末端封止剤に由来する構造部分」を構成する末端封止剤は、1種単独であってもよく、2種以上を組合せでもよい。
末端封止剤に由来する構造部分は、ポリエステルフィルムに対して、0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含有されていることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
末端封止剤に由来する構造部分の含有比率が0.1質量%以上であることで、AV低下効果による耐候性向上を達成できる上、低熱収縮性も付与することができる。また、末端封止剤に由来する構造部分の含有比率が5質量%以下であると、末端封止剤の添加によりポリエステルのガラス転移温度(Tg)の低下が抑制され、これによる耐候性の低下や熱収縮の増加を抑制することができる。これは、Tgが低下した分、相対的にポリエステルの反応性が増加することで生じる加水分解性の増加を抑制したり、Tg低下で増加するポリエステル分子の運動性が増加し易くなることで生じる熱収縮が抑制されるためである。
末端封止剤の好ましい態様については既述のとおりである。
【0127】
また、ポリエステルフィルムの厚さは、電気絶縁性の観点から、250μm以上400μm以下であることが好ましく、250μm以上350μm以下であることがより好ましい。
既述のように、得られたポリエステルフィルムは、太陽電池発電モジュールの太陽光入射側とは反対側の裏面に配置される裏面保護シート(いわゆるバックシート)、バリアフィルム基材等の用途に好適である。
【0128】
太陽電池発電モジュールの用途では、電気を取り出すリード配線で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様が挙げられる。なお、太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
<原料ポリエステルの合成>
(原料ポリエステル1)
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル(Ti触媒系PET)を得た。
【0131】
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下、平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600当量/トンであった。
【0132】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0133】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10−3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0134】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10−4MPa)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0135】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10−4MPa)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート(PET))を得た。
【0136】
次に、得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリエステルのペレット<断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>を作製した。
【0137】
得られたポリエステルについて、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて以下に示すように測定した結果、Ti=9ppm、Mg=75ppm、P=60ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
得られたポリマーは、IV=0.65、末端カルボキシル基濃度AV=22当量/トン、融点=257℃、溶液ヘイズ=0.3%であった。
【0138】
−固相重合−
また、上記のようにして得たポリエステルのペレットを、バッチ法で固相重合を実施した。すなわち、ポリエステルのペレットを容器に投入した後、真空にして撹拌しながら、以下の条件で固相重合した。
150℃で予備結晶化処理した後、190℃で30時間の固相重合反応を行った。
得られた原料ポリエステル1は、固有粘度IV=0.78、末端カルボキシル基濃度AV=15当量/トンであった。
【0139】
(原料ポリエステル2)
原料ポリエステル1の合成において、固相重合時間を12時間に変更したほかは同様にして、原料ポリエステル2を得た。
得られた原料ポリエステル2は、固有粘度IV=0.7、末端カルボキシル基濃度AV=19当量/トンであった。
【0140】
(原料ポリエステル3)
原料ポリエステル1の合成において、固相重合時間を60時間に変更したほかは同様にして、原料ポリエステル3を得た。
得られた原料ポリエステル3は、固有粘度IV=0.9、末端カルボキシル基濃度AV=10当量/トンであった。
【0141】
(原料ポリエステル4)
以下に示す方法に準じて、添加するTi触媒(チタンアルコキシド化合物)の量を変えて重合を行なうことにより、アンチモン(Sb)量を含み、チタン(Ti)量の異なる原料ポリエステルを得た。具体的な方法は、次の通りである。
ジメチルテレフタレート100トンとエチレングリコール70トンとを、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1水塩及び酢酸マグネシウム4水塩を使用して、常法にしたがってエステル交換反応させた後、トリメチルフォスフェートを添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。更に、チタニウムテトラブトキサイドと三酸化アンチモンとを添加し、高温高真空下で常法にしたがって重縮合反応を行ない、反応物を得た。
得られた反応物をカッティングして、ポリエステルのペレット<断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>を作製した。
得られたポリエステルについて、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて以下に示すように測定した結果、
Ti=0ppm、Sb=9ppmであった。
次いで、得られたポリエステルを容器に投入し、150℃で予備結晶化処理した後、真空にして撹拌しながら、190℃で30時間の固相重合反応を行って、固有粘度IV=0.78、末端カルボキシルキ濃度AV=27当量/トンの原料ポリエステル4を得た。
【0142】
(原料ポリエステル5)
原料ポリエステル1の合成において、固相重合反応を行なわなかったほかは同様にして、原料ポリエステル5を得た。
得られた原料ポリエステル5は、固有粘度IV=0.65、末端カルボキシル基濃度AV=22当量/トンであった。
【0143】
(原料ポリエステル6〜17)
原料ポリエステル1の合成における(1)エステル化反応において、原料組成中のジカルボン酸成分(テレフタル酸)およびジオール成分(エチレングリコール)に加えて、表1及び表2の「原料ポリエステル」、「多価能成分」欄に記載の種類の多官能モノマーを、当該欄に示す量だけ添加した。なお、ここでいう添加量とは、ジカルボン酸成分およびジオール成分の和(全モル量)に対するモル%で示した。
【0144】
この後、得られたポリエステルを、原料ポリエステル1と同様にしてペレットとし、さらに、原料ポリエステル1と同様の固相重合条件にて原料ポリエステル6〜17を得た。
得られた原料ポリエステル6〜17は、固有粘度IV=0.78、末端カルボキシル基濃度AV=15当量/トンであった。
【0145】
なお、表1および表2に示すTMA、BTC、EPC、CHC、THB、及びPEの詳細は、次のとおりである。
3官能カルボン酸型:トリメリット酸(表1及び表2にTMAと記載)
4官能カルボン酸型:ベンゼンテトラカルボン酸(表1にBTCと記載)
5官能カルボン酸型:エタンペンタカルボン酸(表1にEPCと記載)
6官能カルボン酸型:シクロヘキサンヘキサカルボン酸(表1にCHCと記載)
3官能水酸基型:トリヒドロキシベンゼン(表1にTHBと記載)
4官能水酸基型:ペンタエリスリトール(表1にPEと記載)
【0146】
〔実施例1〕
<ポリエステルシートの製造>
−押出工程−
原料ポリエステル1を、含水率20ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入した。原料ポリエステル1は、280℃に溶融し、下記押出条件により、ギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を介し、ダイから押出した。なお、ポリエステルシートの厚さが4mmとなるように、ダイのスリットの寸法を調整した。ポリエステルシートの厚さは、キャストドラムの出口に設置した自動厚み計により測定した。
溶融樹脂の押出条件は、圧力変動を1%、溶融樹脂の温度分布を2%として、溶融樹脂をダイから押出した。具体的には、背圧を、押出機のバレル内平均圧力に対して1%加圧し、押出機の配管温度を、押出機のバレル内平均温度 に対して2%高い温度で加熱した。
また、ダイから押出された溶融樹脂から10mgを採取し、DSC装置を用いて、既述の方法で、降温結晶化温度(Tc)及び、降温結晶化温度(Tc)の半値幅を測定したところ、Tcは180℃、Tcの半値幅は、35℃であった。
【0147】
−冷却工程−
溶融樹脂を、冷却キャストドラム上に押出し、静電印加法を用い冷却キャストドラムに密着させた。
溶融樹脂の冷却は、冷却キャストドラムの温度を25℃に設定し、冷却キャストドラムに対面して設置された冷風発生装置から、25℃の冷風を風速60m/secで吹き出し、溶融樹脂に当てたところ、ポリエステルの表面温度は、450℃/minの冷却速度で低下した。
なお、冷却速度は次のようにして求めた。溶融されたポリエステル(溶融樹脂)が冷却キャストドラム上に押出されたときから、ポリエステルが冷却され、冷却キャストドラムから剥離されるまでの間、ポリエステルの表面温度を5秒おきに測定し、当該表面温度をもとに、シート内部の温度シミュレーションを実施して、220℃から120℃まで低下するのに掛かる最長時間を求め、速度に換算した。
【0148】
冷却されたポリエステルは、表面温度(TL)が70℃となったときに、冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて、冷却キャストドラムから剥離した。
なお、剥ぎ取りロールは、冷却キャストドラムのロール径をD1とし、剥ぎ取りロールのロール径をD2としたとき、D1/D2が6.3となる寸法のロールを用いた。
以上のようにして、厚さ4mmのポリエステルシート1を得た。
【0149】
<結晶化抑制評価>
ポリエステルシート1の結晶化抑制性を、ポリエステルシート1の結晶化度から評価した。
ポリエステルシート1の結晶化度は、ポリエステルの完全非晶時の密度dA=1.335、完全結晶時の密度dC=1.501、ポリエステルシート1の密度をdとして下記式により求めた。
結晶化度(%)={(d−dA)/(dC−dA)}×100
結果を表1に示す。
結晶化抑制性の許容範囲は、30%以下である。
【0150】
<ポリエステルフィルムの製造>
得られたポリエステルシート1について、以下の方法で逐次2軸延伸および塗布液の塗布を施し、次のように延伸して、300μmのポリエステルフィルムを得た。なお、塗布は、延伸直後に行った。なお、
【0151】
−縦延伸−
ポリエステルシート1を周速の異なる2対のニップロールの間に通し、縦方向(搬送方向)に延伸した。なお、予熱温度を80℃とし、縦延伸温度を91℃、縦延伸応力を12MPa、縦延伸倍率を3.5倍に設定して縦延伸した。
【0152】
−横延伸−
縦延伸を施したポリエステルシート1に対し、テンターを用いて、横延伸温度を140℃、横延伸応力を15MPa、横延伸倍率を3.6倍として横延伸した。
【0153】
−熱固定・熱緩和−
続いて、縦延伸及び横延伸を終えた後のポリエステルフィルムを、220℃、張力7.0kg/mで熱固定した(熱固定時間:10秒)。さらに、熱固定した後、テンター幅を縮め、緩和率3.5%で熱緩和した(熱緩和温度:210℃)。
【0154】
−巻き取り−
熱固定及び熱緩和の後、ポリエステルフィルムの両端を20cmずつトリミングした。その後、両端に幅10mmで押出し加工(ナーリング)を行なった後、張力25kg/mで巻き取った。
以上のようにして、厚さ300μmの実施例1のポリエステルフィルム(PETフィルム)を製造した。得られたPETフィルムをポリエステルフィルム1という。
【0155】
得られたポリエステルフィルム1の厚さは、接触式膜厚測定計(アンリツ社製)を用いて行い、長手方向に0.5mに渡り等間隔に50点をサンプリングし、幅方向に製膜全幅にわたり等間隔(幅方向に50等分した点)に50点をサンプリングし、これらの100点の厚みを測定する。これら100点の平均厚みを求め、フィルムの平均厚みとした。
【0156】
−塗布−
次いで、得られたポリエステルフィルム1を基材(ポリエステルフィルム基材)とし、ポリエステルフィルム基材に、塗布層の乾燥厚みが0.5μmとなるように、塗布液を塗布した。塗布液の塗布は、バー塗布法によって行った。
【0157】
ポリエステルフィルム1に形成した塗布層は、具体的には、次のようにして形成した。
作製したポリエステルフィルム1の片面に、下記の(i)反射層と(ii)易接着性層をこの順で塗設した。
【0158】
(i)反射層(着色層)
まず初めに、下記組成の諸成分を混合し、ダイノミル型分散機により1時間分散処理して顔料分散物を調製した。
<顔料分散物の処方>
・二酸化チタン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39.9部
(タイペークR−780−2、石原産業(株)製、固形分100質量%)
・ポリビニルアルコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8.0部
(PVA−105、(株)クラレ製、固形分10%)
・界面活性剤(デモールEP、花王(株)製、固形分:25%)・・・・・・0.5部
・蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51.6部
【0159】
次いで、得られた顔料分散物を用い、下記組成の諸成分を混合することにより反射層形成用塗布液を調製した。
<反射層形成用塗布液の処方>
・上記の顔料分散物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71.4部
・ポリアクリル樹脂水分散液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17.1部
(バインダー:ジュリマーET410、日本純薬工業(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・・・・・・・・・・・・・・2.7部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.0部
【0160】
上記より得られた反射層形成用塗布液をサンプルフィルムにバーコーターにより塗布し、180℃で1分間乾燥して、二酸化チタン塗布量が6.5g/mの反射層(白色層)を形成した。
【0161】
(ii)易接着性層
下記組成の諸成分を混合して易接着性層用塗布液を調製し、これをバインダー塗布量が0.09g/mになるように反射層の上に塗布した。その後、180℃で1分間乾燥させ、易接着性層を形成した。
<易接着性層用塗布液の組成>
・ポリオレフィン樹脂水分散液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.2部
(バインダー:ケミパールS75N、三井化学(株)製、固形分:24質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・・・・・・・・・・・・・・7.8部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分25質量%)
・シリカ微粒子水分散物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.9部
(アエロジルOX−50、日本アエロジル(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83.3部
【0162】
次に、ポリエステルフィルムの反射層及び易接着性層が形成されている側と反対側の面に、下記の(iii)下塗り層、(iv)バリア層、及び(v)防汚層をポリエステルフィルム側から順次、塗設した。
【0163】
(iii)下塗り層
下記組成の諸成分を混合して下塗り層用塗布液を調製し、この塗布液をポリエステルフィルムに塗布し、180℃で1分間乾燥させ、下塗り層(乾燥塗設量:約0.1g/m)を形成した。
<下塗り層用塗布液の組成>
・ポリエステル樹脂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.7部
(バイロナールMD−1200、東洋紡(株)製、固形分:17質量%)
・ポリエステル樹脂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.8部
(ペスレジンA-520、高松油脂(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・・・・・・・・・・・・1.5部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・カルボジイミド化合物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.3部
(カルボジライトV−02−L2、日清紡(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91.7部
【0164】
(iv)バリア層
続いて、形成された下塗り層の表面に下記の蒸着条件にて厚み800Åの酸化珪素の蒸着膜を形成し、バリア層とした。
<蒸着条件>
・反応ガス混合比(単位:slm):ヘキサメチルジシロキサン/酸素ガス/ヘリウム=1/10/10
・真空チャンバー内の真空度:5.0×10−6mbar
・蒸着チャンバー内の真空度:6.0×10−2mbar
・冷却・電極ドラム供給電力:20kW
・フィルムの搬送速度 :80m/分
【0165】
(v)防汚層
以下に示すように、第1及び第2防汚層を形成するための塗布液を調製し、バリア層の上に第1防汚層用塗布液、第2防汚層用塗布液の順に塗布し、2層構造の防汚層を塗設した。
【0166】
<第1防汚層>
−第1防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第1防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・セラネートWSA1070(DIC(株)製)・・・・・・・・・・・45.9部
・オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.7部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・・・・・・・・・・・・2.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・反射層で用いた顔料分散物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33.0部
蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11.4部
【0167】
−第1防汚層の形成−
得られた塗布液を、バインダー塗布量が3.0g/mになるように、バリア層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第1防汚層を形成した。
【0168】
−第2防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第2防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・フッ素系バインダー:オブリガード(AGCコーテック(株)製)・・・45.9部
・オキサゾリン化合物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.7部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%;架橋剤)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・・・・・・・・・・・・・・2.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・前記反射層用に調製した前記顔料分散物・・・・・・・・・・・・・・・33.0部
・蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11.4部
【0169】
−第2防汚層の形成−
調製した第2防汚層用塗布液を、バインダー塗布量が2.0g/mになるように、バリア層上に形成された第1防汚層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第2防汚層を形成した。
【0170】
<耐候性評価>
得られたポリエステルフィルム(ポリエステルフィルム基材)の耐候性は、湿熱処理前後の破断伸度から評価した。
具体的には、ポリエステルフィルム(ポリエステルフィルム基材)を、85℃80%RH環境下で100時間放置する湿熱処理を施し、湿熱処理前後での破断伸度を下記方法で測定し、その測定値から評価した。
【0171】
ポリエステルフィルムを、1cm幅×20cmのサイズでMD(製膜流れ方向)、TD(フィルム幅方向)に各々10本切り出した。テンシロン万能引張試験機(オリエンテック株式会社製RTC−1210)を用い、25℃60%RHの環境下、チャック間10cmで毎分20%/分にて引っ張り、破断伸度と破断強度を求めた。そして、MD、TDのそれぞれ10本の破断伸度、破断強度の平均値をそれぞれ求め、MDとTDの下記式により破断伸度の保持率、破断強度の保持率を算出し、耐加水分解性を評価する指標とした。
破断伸度保持率(%)=(湿熱処理後の破断伸度/湿熱処理前の破断伸度)×100
結果を表1に示す。
なお、許容範囲は、50%以上であり、52%以上が好ましい。
【0172】
<密着性評価>
塗布層が形成されたポリエステルフィルム1(試料1)のポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性を、下記方法で評価し、表1に記載した。
(1)試料1を85℃80%RH環境下で100時間放置する湿熱処理を施した。
(2)湿熱処理後の試料1を取り出し、試料1の易接着層側の表面に3mm間隔にカッターナイフで縦横10本ずつの切れ込みを入れ、100個の升目を作った。
(3)升目を作った試料1を50℃の温水に1時間浸漬した後、25℃60%RH環境下の室内に取り出し、試料1の表面の水分を布で拭き取った。その後、試料1の升目が入った表面に、粘着テープ〔日東電工社製ポリエステル粘着テープ(No.31B)〕を貼り付け、次いで粘着テープを一気に180度方向に引き剥がした。なお、温水から取り出した後から粘着テープ引き剥がしまでの時間は5分以内で実施した。つまり、密着性評価は、試料1の塗布層が湿潤状態での密着性を評価したものである。
(4)試料1の升目が入った表面を目視観察し、塗布層が剥離した升目の数を数え、これを「剥離率」として表1に記載した。
【0173】
〔実施例2〜実施例7、及び比較例1〜比較例6〕
実施例1のポリエステルシート1の製造において、押出工程における押出条件(圧力変動、樹脂温度分布、シート厚さ)と、冷却工程における冷却条件(冷風の風速、冷却速度)及びポリエステルの剥離条件(TL、ロール径比)とを、表1または表2に示す条件に変更したほかは、同様にして、実施例2〜実施例7のポリエステルシート2〜7および、比較例1〜比較例6のポリエステルシート101〜106を製造した。
また、得られたポリエステルシート2〜7および、ポリエステルシート101〜106について、ポリエステルシート1と同様にして、結晶化度を測定した。
【0174】
次いで、実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステルシート1を、ポリエステルシート2〜7または、ポリエステルシート101〜106に変更したほかは同様にして、ポリエステルフィルムを製造し、実施例2〜実施例7、及び比較例1〜比較例6の各ポリエステルフィルムの破断伸度を測定して、ポリエステルフィルムの耐候性を評価し、また、密着性評価を行なった。結果を表1及び表2に示す。
【0175】
〔実施例8〜実施例11〕
実施例1のポリエステルシート1の製造において、原料ポリエステル1を、原料ポリエステル2〜5に変更し、さらに、押出工程における押出条件(圧力変動、樹脂温度分布、シート厚さ)と、冷却工程における冷却条件(冷風の風速、冷却速度)及びポリエステルの剥離条件(TL、ロール径比)とを、表1に示す条件に変更したほかは、同様にして、実施例8〜実施例11のポリエステルシート8〜11を製造した。
また、得られたポリエステルシート8〜11について、ポリエステルシート1と同様にして、結晶化度を測定した。結果を表1に示す。
【0176】
次いで、実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステルシート1を、ポリエステルシート8〜11に変更したほかは同様にして、ポリエステルフィルムを製造し、実施例8〜実施例11の各ポリエステルフィルムの破断伸度を測定して、ポリエステルフィルムの耐候性を評価し、また、密着性評価を行なった。結果を表1に示す。
【0177】
〔実施例12〜実施例23〕
実施例1のポリエステルシート1の製造において、用いた原料ポリエステルを原料ポリエステル1から、表1に示す原料ポリエステル6〜17に変更したほかは、同様にして、実施例12〜実施例23のポリエステルシート12〜23を製造した。
また、得られたポリエステルシート12〜23について、ポリエステルシート1と同様にして、結晶化度を測定した。
【0178】
次いで、実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステルシート1を、ポリエステルシート12〜23に変更したほかは同様にして、ポリエステルフィルムを製造し、実施例12〜実施例23の各ポリエステルフィルムの破断伸度を測定して、ポリエステルフィルムの耐候性を評価し、また、密着性評価を行なった。結果を表1に示す。
【0179】
〔実施例24〜実施例31〕
実施例1のポリエステルシート1の製造において、押出工程における原料ポリエステル1の1軸混練押出機のホッパーへの投入時に、乾燥し、含水率を20ppm以下とした原料ポリエステル1と共に、表2の「押出工程」、「末端封止剤」欄に示す種類・量の末端封止剤を添加したほかは、同様にして、実施例24〜実施例31のポリエステルシート24〜31を製造した。
【0180】
表2に示す末端封止剤の詳細は下記のとおりである。なお、ここでいう添加量とは原料ポリエステルの全質量に対する割合(質量%)を指す。
(a)カルボジイミド系化合物
ラインケミー社製スタバクゾールP100(表中に「CI」と記載)
(b)エポキシ系化合物
Hexion Speciality Cnemicals社製「カージュラE10P」(表中に「EP」と記載)
(c)オキサゾリン系化合物
日本触媒社製「エポクロスRPS−1005」(表中に「OX」と記載)
【0181】
また、得られたポリエステルシート24〜31について、ポリエステルシート1と同様にして、結晶化度を測定した。
次いで、実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステルシート1を、ポリエステルシート24〜31に変更したほかは同様にして、ポリエステルフィルムを製造し、実施例24〜実施例31の各ポリエステルフィルムの破断伸度を測定して、ポリエステルフィルムの耐候性を評価し、また、密着性評価を行なった。結果を表2に示す。
【0182】
〔実施例32〕
実施例15のポリエステルシート15の製造において、押出工程における原料ポリエステル9の1軸混練押出機のホッパーへの投入時に、原料ポリエステル9と共に、表2の「押出工程」、「末端封止剤」欄に示す種類・量の末端封止剤を添加したほかは、同様にして、実施例32のポリエステルシート32を製造した。
また、得られたポリエステルシート32について、ポリエステルシート1と同様にして、結晶化度を測定した。
【0183】
次いで、実施例1のポリエステルフィルムの製造において、ポリエステルシート1を、ポリエステルシート32に変更したほかは同様にして、ポリエステルフィルムを製造し、実施例32のポリエステルフィルムの破断伸度を測定して、ポリエステルフィルムの耐候性を評価し、また、密着性評価を行なった。結果を表2に示す。
【0184】
【表1】

【0185】
【表2】

【0186】
実施例1〜11では、冷却速度を所定の速度として溶融樹脂を冷却し、また、溶融樹脂の冷却工程において、溶融樹脂の表面のうち、一方を冷却キャストドラムで冷却し、他方を冷風により冷却したことで、樹脂内部と表面とに温度差を生じずに冷却することができた。
一方、実施例と同様に、溶融樹脂の表面のうち、一方を冷却キャストドラムで冷却し、他方を冷風により冷却したものであっても、冷却速度が、350℃/minを下回った比較例3及び比較例5では、ポリエステルシート103及び105の結晶化度が大きく、実施例のポリエステルシート1〜15に比べ、ポリエステルの結晶化が抑制されなかったと考えられる。
【0187】
実施例2、3では、圧力変動、樹脂温度分布の変更により降温結晶化度Tcの半値幅を調整した。これによりポリエステルの結晶化を抑制してポリエステルシートを均一に冷却することができた。
実施例4、5ではポリエステルシートの厚さを調整し、結晶化を抑制してポリエステルシートを均一に冷却することができた。
【0188】
一方、比較例1に示すように、比較例1のポリエステルシート101の結晶化度は、実施例1のポリエステルシート1の結晶化度よりも大きく、また、比較例1のポリエステルフィルムの破断伸度は、実施例1のポリエステルフィルムの破断伸度よりも小さい。これは、押出機内での背圧を調整してTcの半値幅を20℃に狭めると、ポリエステルの結晶化が進み、ポリエステルシート101を延伸する際に延伸ムラが生じたために、耐侯性ムラが悪化したものと考えられる。
逆に、比較例2に示すように、押出機内での圧力変動を上げてTcの半値幅を55℃まで広げると、押出機内での滞留時間が増加し、結晶化が進み、延伸ムラによって耐侯性ムラが悪化したものと考えられる。
【0189】
さらに、比較例3のごとく、ポリエステルシートを厚くすると、溶融樹脂の冷却速度が遅くなるために結晶化が進み、延伸ムラによって耐侯性ムラが悪化したと考えられる。
逆に、ポリエステルシートの厚さを薄くすると(比較例4)、冷却速度は速く、延伸ムラの発生はないが、シートが薄いために電気絶縁性が不足し、太陽電池用バックシートに使用できなかった。
【0190】
比較例5では、溶融樹脂の冷却工程において、風速が小さいために冷却速度が小さく、結晶化が進行したと考えられる。これにより延伸ムラが発生し、耐侯性が悪化したと考えられる。
比較例6は、冷却速度は大きいものの、風速が大きすぎるために、冷風によって溶融樹脂が振動し、厚みムラが発生した。厚みムラに起因して延伸ムラが発生し、耐侯性が悪化したと考えられる。
【0191】
また、実施例12〜実施例32の評価結果からわかるように、原料ポリエステルを、多官能モノマーを共重合成分として含めたり、原料ポリエステルと共に末端封止剤を添加して溶融押出することで、ポリエステルフィルムと、塗布層との密着性に優れることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるポリエステルを、溶融押出しする押出工程と、
溶融押出しされたポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却する冷却工程と、
を有する厚さ3mm以上5mm以下のポリエステルシートを製造するポリエステルシートの製造方法。
【請求項2】
前記降温結晶化温度が、160℃以上220℃以下である請求項1に記載のポリエステルシートの製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程は、前記溶融押出しされたポリエステルを、冷却キャストドラムを用いて冷却し、冷却されたポリエステルの表面温度が下記式(1)を満たす温度であるときに、前記冷却されたポリエステルを前記冷却キャストドラムから剥離する請求項1または請求項2に記載のポリエステルシートの製造方法。
Tg−10<TL<Tg ・・・式(1)
〔式(1)中、Tgは前記ポリエステルのガラス転移温度(℃)を示し、TLは前記冷却されたポリエステルの表面温度を示す。〕
【請求項4】
前記冷却されたポリエステルの、前記冷却キャストドラムからの剥離は、前記冷却キャストドラムに対向配置され、ロール径が下記式(2)を満たす剥ぎ取りロールを用いて行なう請求項3に記載のポリエステルシートの製造方法。
(D1/D2)<7 ・・・式(2)
〔式(2)中、D1は前記冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は前記剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
【請求項5】
前記ポリエステルは、固有粘度が0.7以上0.9以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステルシートの製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステルが、触媒由来のチタン原子を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステルシートの製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステルが、カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーを0.005モル%以上2.5モル%以下含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルシートの製造方法。
【請求項8】
前記押出工程は、前記ポリエステルの全質量に対して、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を0.1質量%以上5質量%以下添加する工程を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のポリエステルシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のポリエステルシートの製造方法により得られたポリエステルシートを延伸して、厚さ250μm以上500μm以下のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のポリエステルフィルムの製造方法により得られたポリエステルフィルム。
【請求項11】
カルボン酸基の数と水酸基の数との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成単位を含み、前記多官能モノマーに由来の構成単位の含有比率が、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下である請求項10に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤に由来する構造部分を0.1質量%以上5質量%以下含む請求項10または請求項11に記載のポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−46734(P2012−46734A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157220(P2011−157220)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】