説明

ポリエステルスパンライク2層構造糸

【課題】難燃性且つカチオン染色が可能なポリエステルスパンライク2層構造糸を提供する。
【解決手段】伸度の異なる2種のポリエステルフィラメント糸からなる2層構造糸であって、外層部を構成するフィラメント糸Bが、特定のリン系化合物を該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されており、且つ特定のカチオン可染剤を特定条件で含有するポリエステルスパンライク2層構造糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性且つカチオン可染性ポリエステル糸を含むスパンライク様2層構造糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)はその優れた機械的特性と化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。しかし、ポリエステルは、衣料用繊維としては染色性が良好とは言えず、染色物の鮮明さが劣るという欠点を有している。
【0003】
従来、このような欠点を補うため、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などに代表されるスルホン酸塩基含有成分を共重合した、塩基性染料に可染性のポリエステル(以下、カチオン可染ポリエステルと略記。)が公知であり、そのようなポリエステルからなる繊維が衣料分野において使用されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらのカチオン可染ポリエステル繊維は、通常のポリエステル繊維よりも溶融粘度が高く、燃焼時の溶融落下が起き難いため、延焼しやすいという欠点があり、難燃性が要求される分野での使用が制限されるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、特定の含リンジカルボン酸化合物とスルホン酸塩基含有成分が共重合されたポリエステル樹脂を用いてマルチフィラメントとすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、ポリエステル樹脂段階において、スルホン酸塩基含有成分を共重合する際には、その酸触媒作用によって、重合反応過程でジエチレングリコールの生成が促進され、得られるポリエステル中のジエチレングリコール含有量が高くなる傾向にある。したがって、リン化合物が共重合されている上、ジエチレングリコール含有量が高くなることにより、曳糸性、耐光性に問題が生じるおそれがあり、用途が制限されていた。
【0005】
このような問題を解決するためにジエチレングリコール(以下、DEGと略記)の含有量を規定しているが、ここで使用されているリン化合物の分子量が大きいために質量部換算で多量のリン化合物を使用する必要があるためにガラス転移温度の低下が起こり、繊維製造工程における乾燥時にポリマーの融着などの問題が発生する(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開平7−109621号公報
【特許文献3】特許第3168107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するものであり、難燃性且つカチオン染色が可能なポリエステルスパンライク2層構造糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果得られたもので、
すなわち、本発明によれば、
伸度の異なる2種のポリエステルフィラメント糸からなり、伸度の小なるフィラメント糸Aが芯部を、伸度の大なるフィラメント糸Bが芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しており、芯部と外層部の境界部において両フィラメント糸の一部が互いに混合、交錯して、交絡部を形成してなる2層構造糸であって、外層部を構成するフィラメント糸Bが下記要件を満足することを特徴とするポリエステルスパンライク2層構造糸、
a)下記一般式(1)で表されるリン系化合物が該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されていること。
b)カチオン可染剤として下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)がポリエステルを構成する全酸成分を基準として1.0〜5.0モル%共重合されていること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【化2】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
好ましくは、
カチオン可染剤として上記式(2)で表されるスルホイソフタル酸金属塩(A)及び下記式(3)で表される化合物(B)が下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有するポリエステルスパンライク2層構造糸、
【化3】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
難燃剤と特定のカチオン可染剤を特定条件で含むことにより常圧カチオン染色性が良好でまた難燃性に優れ且つ強度や生産性の良好なスパンライク2層構造糸となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に使用される混繊仮撚加工機の概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を詳しく説明する。
(難燃カチオン可染性ポリエステル)
本発明のポリエステル混繊糸の少なくとも一成分糸を構成するポリエステルは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、下記式(1)で表されるリン化合物を難燃剤として含有し、且つカチオン可染剤として下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)を含有する必要がある。
【0012】
さらに好ましくは、カチオン可染剤として下記式(2)と下記式(3)で表される化合物(B)を、下記数式1及び2を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであり、該ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下であり、且つ得られる共重合ポリエステルの固有粘度は0.55〜1.0の範囲であることが好ましい。
【0013】
【化4】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【化5】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【化6】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0014】
難燃剤として上記一般式(1)で表される有機リン化合物が、ポリエステル全重量に対して、リン原子含有量で1,000〜10,000ppmとなるよう、好ましくは3,000〜9,000ppmとなるよう含むことが必要であり、好ましくは共重合されて含まれていることである。有機リン化合物の含有量が、リン原子の含有量として1,000ppm未満になると十分な難燃性能が得られず、10,000を超えると、紡糸操業性が低下したり、糸強度が不足したりするため好ましくない。
【0015】
(成分Aについての説明)
本発明で使用される上記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸の金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)が例示される。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。これらの群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸の金属塩が好ましく例示され、特に、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩およびそのジメチルエステルである5−スルホイソフタル酸ジメチルのナトリウム塩が特に好ましく例示される。含有量として、ポリエステル全酸成分に対して1.0〜5.0モル%共重合されていることが必要である。
1.0モル%未満であれば染色性が悪く、5.0モル%を超える場合強度が低下し好ましくない。
【0016】
(成分Bについての説明)
また、上記化学式(3)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸あるいはその低級アルキルアエステルの4級ホスホニウム塩または4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、アルキル基、ベンジル基、フェニル基が置換された4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記化学式1で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステルが好ましく例示される。
【0017】
(数式1の説明)
本発明において、ポリエステルに共重合させる成分Aと成分Bの合計はポリエステル酸成分を基準として、A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%未満であると、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。
【0018】
(数式2の説明)
また、成分Aと成分Bの成分比は、B/(A+B)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られるポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり成分Bの割合が多い状態では、反応が遅くなり、さらに成分Bの比率が多くなると分解が進むため重合度を上げることができない。さらに、成分Bの比率多くなると熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。
【0019】
上記式(1)のような有機リン化合物をポリエステルに共重合する方法としては、ポリエステルの重合段階において有機リン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、有機リン化合物をエチレングリコール(以下、EGと略記)、メタノール等と反応させてエステルの形にしてから反応系に添加してもよい。
【0020】
また、本発明においてポリエステルは、DEGの含有量が3.0重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のDEG含有量が3.0重量%を超えると、耐光性が劣り、染色物が色あせするため好ましくない。より好ましくは2.5重量%以下である。
【0021】
DEG含有量は、有機スルホン酸金属塩成分の共重合割合が増すに従い、その酸触媒作用によって増加する傾向にある。また、有機リン化合物の共重合割合が増しても、DEG量は増える傾向にある。しかしDEG含有量は、ポリエステルの重合の際、本発明に用いる有機スルホイソフタル酸化合物により増加を抑制させることが容易となる。
【0022】
また添加時期、添加後の反応条件により制御することが好ましく、PETオリゴマーを重縮合反応缶に移送し、必要に応じてEGを添加して解重合を行った後、250度以下の温度条件下で上記の化合物を添加し、その後15分以内に減圧を開始して重合反応を開始することが好ましい。
【0023】
本発明に用いるポリエステルには必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱安定剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤又は耐衝撃剤等の添加剤を共重合、又は混合してもよい。
【0024】
本発明に用いるポリエステルの固有粘度(ポリエステルチップをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した値)は、0.10〜2.00dL/g、より好ましくは0.30〜1.50dL/g、さらに好ましくは0.40〜1.30dL/gの範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明に用いるポリエステルには、DEGの生成を抑制するため、必要に応じて塩基成分を加えることができる。その塩基成分としては、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウムをはじめとする有機酸アルキル金属塩、又はトリエチルアミンをはじめとするアミン化合物、水酸化テトラエチルアンモニウムをはじめとするアンモニウム系化合物を例示することができる。
【0026】
(外層部糸の製糸方法)
上記により得られたポリエステルは公知の方法により製糸し外層部糸とする。例えば、得られた常圧カチオン可染性ポリエステルを溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられる。
外層部糸の伸度は45%以上であることが好ましい。45%未満では2層構造糸の嵩高性が得られず好ましくない。
【0027】
外層部糸の単繊維繊度は4dtex以下が好ましい。4dtexを超える場合には、混繊時に芯鞘構造とすることが難しい。一方、単繊維繊度の下限については特に制限はないが、実用的に繊維形成可能で、かつ布帛の耐摩耗性を著しく損なわないという観点から、0.1dtex以上が好ましい。
外層部糸の断面形状は、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
【0028】
(芯糸)
次に、本発明の2層構造糸の芯糸としては、ポリエステル繊維で伸度25%未満であることが好ましい。25%を超える場合2構造糸の嵩高性が取れなくなり好ましくない。使用するポリエステルとしては上記難燃性カチオン可染性ポリエステルが好ましい。
【0029】
(2層構造糸の製造方法)
嵩高性の良好な2層構造糸とするためには芯糸と外層部糸とは伸度の差が20%以上あることが好ましい。伸度の差が20%未満の場合、嵩高性が低下し好ましくない。
2層構造糸とするためには上述の芯糸および外層部糸を引きそろえて空気交絡処理に付されその後非接触ヒーターで延伸仮撚加工する工程を経ることにより得られる。この場合、両者の使用割合は芯糸:外層部糸=25:75〜75:25(重量)とすればよい。空気交絡としては、インターレース、タスラン加工の何れであってもよい。 具体的には図1の工程を示すことができる。
【0030】
ここで、交絡付与後にオーバーフィードをかけながらヒーターで熱処理すると、芯糸は収縮し、外層部糸は殆ど収縮しないかあるいは自己伸張し、芯糸と外層部糸との間に糸足差が生じ、これが布帛とした時の膨らみ、スパンライク性が得られる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
(2)リン原子含有量
リガク社製蛍光X線スペクトロメーター ZSX100e型を用いて、蛍光X線法により定量した。
(3)糸条群Aと糸条群Bとの糸長差
50cmの複合仮撚加工糸の一端に0.176cN/dtexの荷重を掛け、垂直に吊し、正確に5cm間隔のマーキングを行った。荷重を外し、マーキング部分を正確に切りとって10本の試料とした。該試料より、鞘部分のフィラメント及び芯部のフィラメントを各々10本取出し、各々の単糸に0.03cN/dtexの加重を掛けて、垂直に吊るし、各々の長さを測定する。10本の試料について上記の測定を行い、各々の平均値をLb(鞘糸長)及びLa(芯糸長)とし、下記式で糸長差を計算した。
糸長差=(Lb−La)/Lb×100%
(4)仮撚加工糸の強度、伸度
JIS L−1013−75に準じて測定した。
(5)熱水収縮率:
日本工業規格、JIS L 1013に準拠して沸水収縮率を測定した。
(6)全捲縮数(TC):
加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力をかけてカセ枠に巻取り、約3300dtexのカセを作った。得られたカセの一端に0.00177cN/dtex+0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さ(L0)を測定する。次いで0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で100℃の沸水中にて20分間処理する。沸水処理後、0.177cN/dtexの荷重を除去し、0.00177cN/dtexの荷重のみを負荷し24時間自由な状態で自然乾燥する。自然乾燥した試料に再び0.00177cN/dtex+0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さ(L1)を測定する。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さ(L2)を測定し、次式で全捲縮率TC(%)を算出する。この測定を10回実施し、その平均値で表した。
全捲縮率TC(%)=((L1−L2)/L0)×100
(7)難燃性
JIS K 7201に準拠してLOI値(限界酸素指数)を測定し、27以上を合格とした。
(8)POYの紡糸性
複合紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数が1回未満を紡糸性:○とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
(9)染着率
CATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可溶性染料)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて120℃で40分、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD0−OD1)/OD0
OD0:染色前の染液の576nmの吸光度
OD1:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明の実施例では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0032】
[実施例1]
<難燃常圧カチオン可染性ポリマー製法>
ジメチルテレフタレート100質量部、式(2)の化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4.1重量部、エチレングリコール50質量部との混合物に酢酸カルシウム0.015質量部、撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、難燃剤[上記式(1)中、Rが2―ヒドロキシエチル基、Rがメチル基であり、Rが水素である化合物]3.0質量部をエステル交換反応後期に添加し、エステル交換反応を終了させた。
反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部と式(3)の化合物として5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート2.8重量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、もしくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化した。
【0033】
<2層構造糸製法>
上記で得られたポリエチレンテレフタレートペレットを150℃で5時間乾燥した後、紡糸速度3,300m/分で溶融紡糸して伸度130%、138dtex/36filの図1におけるポリエステル未延伸糸A(3:芯糸となる高配向未延伸糸側)を得た。他方、紡糸速度1,200m/分で紡糸して伸度350%、153dtex/48filのポリエステル未延伸糸B(3’:鞘糸となる低配向未延伸糸側)を得た。
次に、得られたポリエステル未延伸糸パッケージを、図1に示した装置で延伸同時仮撚加工を行った。すなわち、直径58mmのウレタンディスクを仮撚具として装備した帝人製機株式会社製HTS−1500型延伸仮撚加工機にて、延伸倍率1.65、仮撚ヒーター前半部温度400℃、後半部温度200℃、延伸仮撚速度850m/minの延伸仮撚条件で延伸仮撚加工を行い180dtex/84filの2層構造糸を得た。結果を表1に示した。
得られた2層構造糸を筒編に編立て、常法にしたがって染色、仕上げした編地は、サラットした滑らかな表面タッチでかつソフトな風合を呈するものであった。
【0034】
[比較例1〜5]
実施例1において、難燃剤、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル及び5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムの添加量を表1に記載の値となるように変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。共重合ポリエステル組成物の製造条件と評価結果の詳細を表1に示した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、常圧カチオン染色性が良好でまた難燃性に優れ且つ強度や生産性の良好なスパンライク2層構造糸が得られるので、各種衣料用途などに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0037】
3:伸度の低い方の糸
3’:伸度の高い方の糸
4:ガイド
5:張力装置
6:フイードローラ
7:インターレースノズル
8:第1デリベリローラ
9:ヒーター
10:仮撚具、
11:第2デリベリローラ
12:巻取ローラ
13:巻取チーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸度の異なる2種のポリエステルフィラメント糸からなり、伸度の小なるフィラメント糸Aが芯部を、伸度の大なるフィラメント糸Bが芯部の周りを交互撚糸状にとりまいて外層部を構成しており、芯部と外層部の境界部において両フィラメント糸の一部が互いに混合、交錯して、交絡部を形成してなる2層構造糸であって、外層部を構成するフィラメント糸Bが下記要件を満足することを特徴とするポリエステルスパンライク2層構造糸。
a)下記一般式(1)で表されるリン系化合物が該ポリエステル繊維全重量に対しリン原子換算で1,000〜10,000ppm共重合されていること。
b)カチオン可染剤として下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)がポリエステルを構成する全酸成分を基準として1.0〜5.0モル%共重合されていること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基である。]
【化2】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【請求項2】
カチオン可染剤として下記式(2)で表されるスルホイソフタル酸金属塩(A)及び下記式(3)で表される化合物(B)が下記数式(1)及び(2)を同時に満足する条件で含有する請求項1に記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【化3】

[上記式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウムである。]
【化4】

[上記式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.3≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)を、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした上記式(3)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【請求項3】
フィラメント糸Bの平均糸長がフィラメント糸Aの平均糸長より10〜20%長い請求項1〜2いずれかに記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【請求項4】
芯部のフィラメント糸Aの伸度が25%以上である請求項1〜3いずれかに記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【請求項5】
外層部のフィラメント糸Bの伸度が45%以上である請求項1〜4いずれかに記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【請求項6】
芯部のフィラメント糸Aと外層部のフィラメント糸Bの伸度差が少なくとも20%以上である請求項1〜5いずれかに記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【請求項7】
フィラメント糸Bが速度2000〜5000m/分で紡糸した弛緩熱処理を施すことによって自発伸長性するポリエステルマルチフィラメント未延伸糸であり、他方フィラメント糸Aが第3成分としてイソフタル酸を5〜15モル%共重合させた熱収縮性ポリエステル繊維で、かつ沸水収縮率が10〜16%のポリエステル延伸糸である請求項1〜6いずれかに記載のポリエステルスパンライク2層構造糸。
【請求項8】
請求項1〜7記載のポリエステルスパンライク2層構造糸の製造方法であって、フィラメントAとBとを引き揃え、オーバーフィード下にインターレースノズルに供給して交絡せしめた後、弛緩熱処理を施してフィラメント糸Aに自発伸長性を付与し、更に非接触ヒータにより第2の弛緩熱処理を施すことを特徴とするポリエステルスパンライク2層構造糸の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7記載のポリエステルスパンライク2層構造糸の製造方法であって、下記(1)〜(4)を全て満足する条件で延伸同時仮撚加工することを特徴とするポリエステルスパンライク2層構造糸の製造方法。
(1)仮撚直前に空気交絡処理を施し、30個以上/mの交絡を付与する。
(2)仮撚具として、3軸フリクションディスクタイプの仮撚具であって、解撚部に位置する最下段のデイスとして、ディスク材質がセラミック製で、該ディスクと走行糸条との接触長が2.5〜0.5mmであり、かつ、該ディスクの直径が直上のディスクの直径の90〜98%であるものを使用する。
(3)仮撚温度を、170℃〜300℃の温度とする。
(4)仮撚数(T/m)を、仮撚加工糸の繊度(Ydtex)に対し、15000/Y1/2≦T≦35000/Y1/2とする。

【図1】
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【公開番号】特開2011−106072(P2011−106072A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264037(P2009−264037)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】