説明

ポリエステルチップの製造方法

【課題】ポリエステルの製造における溶融ポリエステルチップの製造工程において、該ポリエステルチップの脱水および乾燥を行うことにより、従来技術で実施されてきているポリエステルの製造工程における乾燥機による乾燥工程を省略し、ポリエステルチップの乾燥の大幅な省エネルギーとコスト低減を行うポリエステルチップの製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融状態のポリエステルを吐出口金よりストランド状に吐出し、冷却槽中の水で冷却、固化後チップ状に切断して得られるポリエステルチップを空送により貯蔵サイロに移送してポリエステルチップを貯蔵するポリエステルチップの製造方法において、該貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させてポリエステルチップを乾燥するポリエステルチップの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルチップの製造方法に関するものである。さらに詳細には、ポリエステルの製造において従来実施されていた乾燥機による乾燥を省略して溶融成型に供給可能な低水分率のポリエステルチップを得ることができるポリエステルチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフイルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
該ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートを例にとれば、原料にテレフタル酸を用いる直接エステル化法または原料にジメチルテレフタル酸を用いるエステル交換法によって生産されている。該製造は溶融重縮合法により行われており、一般には重縮合反応で得られた溶融ポリエチレンテレフタレートは、重縮合反応装置からこれを吐出し、冷水で冷却固化した後、切断してチップ状として、直接または一旦貯蔵サイロに移送した後、乾燥機で乾燥され溶融成型に供給されている。
【0004】
ポリエステルは、水分により加水分解を受けるために、溶融成型に供給されるポリエステルチップは、水分率を50ppm以下に制御しないと、成型時の操業安定性や得られるポリエステル成型体の特性が低下する。一方、前述のごとく溶融ポリエステルは冷水で冷却固化されるために、切断されたポリエステルチップは1質量%近い水分を有している。そのために該ポリエステルチップは、乾燥機を用いて常圧または減圧下で乾燥されるが、該乾燥においては乾燥機内部でのチップの融着防止のためにポリエステルの融点より50〜150℃低い温度で乾燥する必要があり、乾燥に長時間を有すると共に、多大なエネルギーが必要である。そのために、製造コスト増大の一要因となっている。
【0005】
京都議定書の執行に見られるように、地球環境を護る観点より、製造業における省エネルギー対策は重要課題となってきている。上記ポリエステルチップの製造工程においても、該チップの乾燥における省エネルギーが強く嘱望されている。また、国際的な競争激化により製造コスト低減の要求が強くなってきている。
【0006】
上記背景により、ポリエステルチップの乾燥方法の改善が進められてきている。
【0007】
例えば、冷却固化装置を出た走行しているポリエステルストランドにノズルより空気を吹き付けることにより、ストランド表面に付着している水の脱水を行う方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−54557号公報
【0008】
また、ポリエステルチップの移送途中に予備乾燥機を設置する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献2】実開平7−26107号公報
【0009】
さらに、水冷却固化、切断されたポリエステルチップを減圧または加圧状態に保ちつつ輸送して第1の貯槽に滞留させて乾燥を行うポリエステルの製造方法が開示されている(特許文献3参照)。また、該方法において、除湿雰囲気下でチップを第1の貯層に滞留させることが好ましい実施態様であることが開示されている。
【特許文献3】特開平8−244033号公報
【0010】
また、上記の特許文献で開示されている方法は、いずれもが、予備乾燥法に関するものであり、乾燥機による乾燥工程の時間短縮や乾燥装置の小型化を目指した技術であり、乾燥機による乾燥工程を省略し、ポリエステルチップの乾燥における大幅な省エネルギーとコスト低減を図る方法は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の従来技術の課題を背景になされたものでポリエステルの製造における溶融ポリエステルを水冷固化する冷却槽、該水冷固化したポリエステルをチップ状に切断する切断装置、該切断されたポリエステルチップを空送する空送装置および該ポリエステルチップを貯蔵する貯蔵サイロよりなるポリエステルチップの製造工程において、該ポリエステルチップの脱水および乾燥を行うことにより、従来技術で実施されてきているポリエステルの製造工程における乾燥機による乾燥工程を省略し、ポリエステルチップの乾燥の大幅な省エネルギーとコスト低減を行うポリエステルチップの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、溶融状態のポリエステルを吐出口金よりストランド状に吐出し、冷却槽中の水で冷却、固化後チップ状に切断して得られるポリエステルチップを空送により貯蔵サイロに移送してポリエステルチップを貯蔵するポリエステルチップの製造方法において、該貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させてポリエステルチップを乾燥することを特徴とするポリエステルチップの製造方法である。
この場合において、前記の貯蔵サイロに流通させる廃ガスの露点が−70℃以下であることが好ましい。
また、この場合において、前記の貯蔵サイロに流通させる廃ガスの温度が60〜100℃であることが好ましい。
また、この場合において、貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させて乾燥させた後のポリエステルチップの水分率が50ppm以下であることが好ましい。
また、この場合において、前記の貯蔵サイロに送り込まれるポリエステルチップの水分率が1500ppm以下であることが好ましい。
また、この場合において、前記の冷却、固化後チップ状に切断する工程において、冷却槽を出てからカッターの間で、走行するストランドを弾性ロールに挟んで通過させることによりストランドに付着している水の水切りを行うことが好ましい。
また、この場合において、切断されたポリエステルチップの水分率が5000ppm以下であることが好ましい。
また、この場合において、前記の空送を2工程以上に分割して行うことが好ましい。
また、この場合において、前記の空送工程の少なくとも1工程は、空送に用いるガスの温度を80〜160℃とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステルチップ製造方法は、ポリエステルの製造におけるポリエステルチップの製造工程、すなわち、溶融ポリエステルを水冷固化する冷却槽、該水冷固化したポリエステルをチップ状に切断する切断装置、該切断されたポリエステルチップを空送する空送装置および該ポリエステルチップを貯蔵する貯蔵サイロよりなるポリエステルチップの製造工程の中で、ポリエステルチップを溶融成型するに際して必要な水分率である50ppm以下までの乾燥が実施でき、従来技術で実施されてきている乾燥機を用いたポリエステルチップの乾燥工程が省略できるので、ポリエステル製造におけるポリエステルチップの乾燥に必要なエネルギー消費量とコストを大幅に低減できる。また、本発明においては、該乾燥に用いる流通ガスとして窒素ガス製造工程で発生する廃品である廃ガスを有効活用しており、環境負荷や経済性において有利である。従って、ポリエステル製造におけるコスト競争において有利であり、かつ環境保全にも有効であるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に言うポリエステルとは、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とから成るものをいう。
【0015】
ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3ーシクロブタンジカルボン酸、1,3ーシクロペンタンジカルボン酸、1,2ーシクロヘキサンジカルボン酸、1,3ーシクロヘキサンジカルボン酸、1,4ーシクロヘキサンジカルボン酸、2,5ーノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5ー(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3ーナフタレンジカルボン酸、1,4ーナフタレンジカルボン酸、1,5ーナフタレンジカルボン酸、2,6ーナフタレンジカルボン酸、2,7ーナフタレンジカルボン酸、4、4’ービフェニルジカルボン酸、4、4’ービフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’ービフェニルエーテルジカルボン酸、1,2ービス(フェノキシ)エタンーp,p’ージカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0016】
これらのジカルボン酸のうちテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸とくに2,6ーナフタレンジカルボン酸が、得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0017】
これらジカルボン酸以外にも少量であれば多価カルボン酸を併用しても良い。該多価カルボン酸としては、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3、4、3’、4’ービフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0018】
グリコールとしてはエチレングリコール、1、2ープロピレングリコール、1、3ープロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1、2ーブチレングリコール、1、3ーブチレングリコール、2、3ーブチレングリコール、1,4ーブチレングリコール、1、5ーペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6ーヘキサンジオール、1,2ーシクロヘキサンジオール、1,3ーシクロヘキサンジオール、1,4ーシクロヘキサンジオール、1,2ーシクロヘキサンジメタノール、1,3ーシクロヘキサンジメタノール、1,4ーシクロヘキサンジメタノール、1,4ーシクロヘキサンジエタノール、1,10ーデカメチレングリコール、1、12ードデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’ージヒドロキシビスフェノール、1,4ービス(βーヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4ービス(βーヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1、2ービス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5ーナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0019】
これらのグリコールのうちエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0020】
これらグリコール以外に少量であれば多価アルコールを併用しても良い。該多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0021】
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3ーヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、pー(2ーヒドロキシエトキシ)安息香酸、4ーヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0022】
また、環状エステルの併用も許容される。該環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0023】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらの化合物のアルキルエステルやヒドロキシルアルキルエステル等が挙げられる。
【0024】
ジオールのエステル形成性誘導体としては、ジオールの酢酸等の低級脂肪族カルボン酸とのエステルが挙げられる。
【0025】
本発明のポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4ーシクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重縮合体が好ましく、これらのうちポリエチレンテレフタレートおよびこの共重縮合体が特に好ましい。共重縮合体としてはエチレンテレフタレート単位を50モル%以上よりなるものが好ましく、70モル%以上がより好ましい。
【0026】
本発明においては、溶融状態のポリエステルを吐出口金よりストランド状に吐出し、冷却槽中の水で冷却、固化後チップ状に切断して得られポリエステルチップを空送により貯蔵サイロに移送してポリエステルチップを貯蔵するポリエステルチップの製造方法において、該貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させてポリエステルチップを乾燥することが重要である。
【0027】
上記廃ガスの露点が−70℃以下が好ましい。−75℃以下がより好ましい。また、上記廃ガスの温度が60〜100℃であることが好ましい。65〜95℃がより好ましい。該対応により、ポリエステルチップの乾燥がより効率的に実施することができる。
【0028】
一般に、ポリエステルの製造工程においては、該製造工程で使用する窒素ガスを確保するために、ポリエステルの製造工程には、窒素ガスの製造プラントが併設されている。本発明の方法は、該窒素製造工程で発生する廃品である廃ガスを有効利用しており、この点においても経済的に有利である。さらに環境負荷低減にも繋がる。また、該廃ガスは、一般には除湿された状態で得られるので、上記の露点を満たすための除湿工程が省略されるのでさらなるコスト低減に繋がる。
【0029】
本発明における上記の貯蔵サイロにおける廃ガスの流通方法や流通方法は乾燥上がりのポリエステルチップの水分率が50ppm以下になることを満たせばその内容は限定されないが、例えば、廃ガスは貯蔵サイロの下部より上部へ流通させるのが好ましい。また、該廃ガスの供給は貯蔵サイロ内に均一に流通されるように複数の廃ガス口から流通させる、サイロ下部にインナーパイプを設け廃ガスを流通させる等の工夫をすることが好ましい。また、チップ偏析対策として、偏析が発生しやすいサイロ下傾斜部に複数のチップ抜き出し口を設ける、サイロ内部を多段構造にすることにより上部から空送されたチップが直ぐに下部へ行くことを防ぐ等の工夫をすることが好ましい。
【0030】
本発明においては、例えば、窒素製造装置の故障等で該廃ガスの供給が停止した場合は、該廃ガスの代わりに除湿された空気や窒素ガス等を用いて行ってもよい。また、廃ガスの供給量が不足した場合は、除湿された空気や窒素ガス等を廃ガスに混合して実施しても構わない。
【0031】
上記貯蔵サイロは2基以上を設けて、切り替えにより連続生産を対応してもよい。
【0032】
本発明において、乾燥上がりのポリエステルチップの水分率が50ppm以下であることが好ましい。40ppm以下がより好ましく、30ppm以下がより好ましい。水分率の下限は0ppmが最も好ましいが、コストパフォーマンスより3ppm以上が好ましい。該対応により従来技術で実施されてきている乾燥機を用いたポリエステルチップの乾燥工程が省略できるので、ポリエステル製造におけるポリエステルチップの乾燥に必要なエネルギー消費量とコストを大幅に低減できる。
【0033】
本発明におけるチップ化手段は、重縮合反応装置より押し出された溶融状態のポリエステルが吐出口金よりストランド状に吐出し、水よりなる冷却槽で冷却、固化後にチップ状に切断されるのが好ましい。冷却水には、水中の菌類、藻類の増殖を防ぐ薬品等を任意に加えてもよい。また、冷却槽を出てからカッター間で、走行するストランドを弾性ロールに挟んで通過させることによりストランドに付着している水分の水切りを行うことが好ましい。更に弾性ロールとストランドの接触圧を任意に変化させ、ストランドの走行速度を低下させることなく水切りを調整できるものが好ましい。弾性ロールの材質や硬度は限定されない。エラストマー、プラストマーおよびゴム等から柔軟性ポリマーからなるものが挙げられる。形状も限定されないが、スポンジ状のものが好ましい。また、該水切りの前後において、走行するストランドに空気等の気体を吹き付けて付着水を吹き飛ばし水切りの効率を上げてもよい。例えば、ストランドの走行部分にノズル等の吐出部を設けて気体を吹き付けるのが好ましい。また、減圧吸引によって実施してもよい。また、ポリマーは完全に固化されている必要はなく、チップ化した後に冷却固化するものでもよい。該対応により切断後のポリエステルチップの水分率を上記範囲にすることが可能となる。本発明においては、切断後のポリエステルチップを遠心分離方式などによる脱水工程を取り入れて上記水分率を達成する方法等を取り入れることも排除されない。なお、切断時のポリエステルは完全に固化されている必要はなく、チップ化した後に冷却固化するものでもよい。
【0034】
上記方法で切断されたポリエステルチップは空送により貯蔵サイロに移送される。該空送は圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送するのが好ましい。該方法で空送することにより、ポリエステルチップの移送と共に、該移送工程にポリエステルチップに付着した水を有効に減少させることができる。減圧または加圧状態に保ちつつ移送する距離は、チップに付着した水を有効に減少させる観点からは3メートル以上さらには、10メートル以上とするのが好ましい。また、本発明においては、該空送を2工程以上に分割して実施するのが好ましい。さらに、該空送工程の少なくとも1工程は、空送に用いる空気の温度を80〜160℃とするのが好ましい。該空気の温度は100〜140℃がより好ましい。該温度範囲で実施することで該工程における水分率の低減度を高めることができる。該空送工程を分割して実施する場合は、各空送工程の繋ぎ目にサイクロンを設けて固気分離を行い該空送の工程でポリエステルチップに付着している水分により吸湿した空送空気を逃してやり、引き続き行う空送工程の空送用の空気は新規な空気を取り入れて行うのが好ましい。該対応により該空送工程におけるポリエステルチップの水分率の低減効果を増進することができる。
【0035】
上記の分割回数や加熱した空気を用いた空送工程の位置等は限定されないが、2分割をして第1段目は積極的な加熱をせずに、第2段目の空送ラインの空気を加熱して実施する方法がコストパフォーマンス的に有利である。この場合の空送用空気の加熱方法は限定されない。例えば、空送ラインと送風機の間に加熱装置を設けて実施する方法が好ましい。また、空送ラインの配管の一部に加熱部分を設けて実施するのが好ましい。また、空送ラインの一部において別工程で発生した熱風や液体と熱交換を実施することもエネルギー効率が良く好ましい。また、これらを組み合わせてもよい。加熱を第1段目で行ってもよいし、2段とも加熱して行ってもよい。また、3段以上に分割して実施してもよい。
【0036】
上記方法におけるチップ輸送能力はチップ化設備のチップ化能力と等しいかまたはこれを上回る必要があり、チップ化能力に対し、1.5〜2.5倍の能力があるものが好ましい。
【0037】
空送に用いるガスは空気が一般的であるが、脱水空気、窒素、窒素製造工程で発生する廃ガスなどを用いてもよい。
【0038】
本発明においては、上記方法で切断されたポリエステルチップの水分率が5000ppm以下であることが好ましい。4000ppm以下がより好ましい。また、上記の貯蔵サイロに送り込まれるポリエステルチップの水分率が1500ppm以下であることが好ましい。1200ppm以下がより好ましい。貯蔵サイロに至る各工程において、それぞれに適切な水分率の低減を分担させて、上記した本発明におけるポリエステル貯蔵サイロにおける乾燥の負荷を低減させて実施することがトータルでのコストパフォーマンスにおいてベストであり、上記の各工程における水分率の最適化は好ましい実施態様であるといえる。また、該対応により最終ポリエステルチップ中の水分率の変動抑制を図ることもできる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示するものであり、限定されるものではない。また、下記の実施例中のポリエステルチップ中の水分率は下記の方法により測定した。
【0040】
〔ポリエステルチップ中の含水率の測定方法〕
約2gのポリエステルチップを精秤し、測定装置(三菱化学 電量滴定式水分測定装置VA−06型、CA−06型)に入れ、試料を230℃に加熱気化し、250ml/分の窒素流量で気化した水分を測定セルに送る、セル内の電解液(アクアミクロンAX及びアクアミクロンCXU)に吸収された水分を電位差滴定により測定した。
【0041】
実施例1
重縮合反応で生産された溶融状態のポリエチレンテレフタレートに圧力をかけて2トン/時間の速度でストランド状に口金より押し出し、該ポリエステルを水冷却槽を通過させることにより冷却固化した。該冷却槽出口よりチップカッターに至るまでの間において、走行するストランド状のポリエステルを長さ750mm、直径100mmの円柱状であるポリビニルアセタール系多孔質の弾性ロールの間を通過させ付着水分を除き、チップ化カッターでチップ化した。チップの重さは100個当たり3.2gであった。チップは楕円柱形であり、切断面の短径が2.5mm、長径が4.0mmの楕円状、非切断面の長さが3.2mmであった。また、弾性ロールの長期使用による劣化のため、ストランド付着水分を除去する能力が低下した場合、弾性ロールとチップ化カッター間のストランドへエアを吹きつけた。得られたチップの水分率は500〜3000ppmであった。
【0042】
該チップをカッターから排出後、圧送式輸送設備で2段階に分けて空送した。1段目の空送は風速8m3/分であった。なお、空送の1段階目と2段階目の間に一時的に容量が5m3のチップ溜槽に滞留させることにより、1段階目の空送に用いた空気はサイクロンによりポリエステルチップを分離して外部に放出させた。2段階目の空送はスチーム熱で100〜120℃に加熱した空気により風速12m3/分で輸送し、容量が600m3の貯蔵サイロに投入した。該貯蔵サイロに供給するポリエステルチップ中の水分率は100〜700ppmであった。
【0043】
上記貯蔵サイロの下部より窒素ガス製造の際に発生する露点が−70〜−90℃、温度が90〜100℃の廃ガス200m3/時間の流量で導入して貯蔵サイロの塔頂より大気中に放出した。該貯蔵サイロにおけるポリエステルチップの最低滞留時間は96時間とした。該貯蔵サイロより抜き出したポリエステルチップの水分率は5〜50ppmであった。得られたポリエステルチップ中の水分率は低く、乾燥をすることなく成型加工に供給することができた。また、該廃ガスの供給は貯蔵サイロ内に均一に流通されるように複数の廃ガス口から流通させ、チップ偏析防止のために偏析が発生しやすいサイロ下傾斜部に複数のチップ抜き出し口を設けた。
【0044】
比較例1
実施例1の方法において、貯蔵サイロへの廃ガスの導入を取りやめる以外は、実施例1と同様の方法で貯蔵サイロに滞留させた後に貯蔵サイロより抜き出したポリエステルチップの水分率は100〜700ppmであり、成型に用いるにはポリエステルチップの乾燥が必要であった。
【0045】
比較例2
実施例1の方法で、チップ化カッターでチップ化したポリエステルチップを空送せずにコンテナーで貯蔵サイロに移動し、落下方式で貯蔵サイロに投入するように変更する以外は、実施例1と同様の方法で貯蔵サイロに滞留させた。その後に貯蔵サイロより抜き出したポリエステルチップの水分率は200〜2500ppmであり、成型に用いるにはポリエステルチップの乾燥が必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリエステルチップ製造方法は、ポリエステルの製造におけるポリエステルチップの製造工程、すなわち、溶融ポリエステルを水冷固化する冷却槽、該水冷固化したポリエステルをチップ状に切断する切断装置、該切断されたポリエステルチップを空送する空送装置および該ポリエステルチップを貯蔵する貯蔵サイロよりなるポリエステルチップの製造工程の中で、ポリエステルチップを溶融成型するに際して必要な水分率である50ppm以下までの乾燥が実施でき、従来技術で実施されてきている乾燥機を用いたポリエステルチップの乾燥工程が省略できるので、ポリエステル製造におけるポリエステルチップの乾燥に必要なエネルギー消費量とコストを大幅に低減できる。また、本発明においては、該乾燥に用いる流通ガスとして窒素ガス製造工程で発生する廃品である廃ガスを有効活用しており、環境負荷や経済性において有利である。従って、ポリエステル製造におけるコスト競争において優位であり、かつ環境保全にも有効であるという利点を有するので産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態のポリエステルを吐出口金よりストランド状に吐出し、冷却槽中の水で冷却、固化後チップ状に切断して得られるポリエステルチップを空送により貯蔵サイロに移送してポリエステルチップを貯蔵するポリエステルチップの製造方法において、該貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させてポリエステルチップを乾燥することを特徴とするポリエステルチップの製造方法。
【請求項2】
前記の貯蔵サイロに流通させる廃ガスの露点が−70℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項3】
前記の貯蔵サイロに流通させる廃ガスの温度が60〜100℃であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項4】
貯蔵サイロに窒素ガス製造で発生する廃ガスを流通させて乾燥させた後のポリエステルチップの水分率が50ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項5】
前記の貯蔵サイロに送り込まれるポリエステルチップの水分率が1500ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項6】
前記の冷却、固化後チップ状に切断する工程において、冷却槽を出てからカッターの間で、走行するストランドを弾性ロールに挟んで通過させることによりストランドに付着している水の水切りを行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項7】
前記の切断されたポリエステルチップの水分率が5000ppm以下であることを特徴とする請求項6に記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項8】
前記の空送を2工程以上に分割して行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステルチップの製造方法。
【請求項9】
上記の空送工程の少なくとも1工程は、空送に用いるガスの温度を80〜160℃とすることを特徴とする請求項8に記載のポリエステルチップの製造方法。

【公開番号】特開2007−262362(P2007−262362A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93038(P2006−93038)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】