説明

ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュール

【課題】高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステルフィルムの製造方法、高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルム及び太陽電池用バックシート、ならびに太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】固有粘度が0.70以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機100に供給する原料樹脂供給工程46と、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出す溶融樹脂押出工程と、溶融したポリエステルを、シート状に成形してポリエステルシートを得る成形工程と、ポリエステルシートをフィルム状に延伸する延伸工程とを有するポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題に対する意識の高まりから、クリーンエネルギー源としての太陽光発電が注目され、種々の形態からなる太陽電池が開発されている。この太陽電池は、一般的には直列又は並列に配線された複数枚の太陽電池セルをパッケージングし、ユニット化した複数の太陽電池モジュールから構成されている。
【0003】
太陽電池モジュールは、屋外で長期間にわたり使用することができる高度な耐久性、耐候性等が要求される。一般的な太陽電池モジュールとしては、ガラス等からなる透光性基板と、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂からなる充填剤層と、光起電力素子としての複数枚の太陽電池セルと、上記充填剤層と同様の充填剤層と、バックシートとがこの順に積層され、真空加熱ラミネーション法等により一体成形された構造となっている。
【0004】
また今日では、発電効率のロスを減らすために、太陽電池システムのシステム電圧をできるだけ大きくする傾向にある。特に最近は、システム電圧が1000V以上の太陽電池システムの需要が拡大しており、従来の600V程度から1000V以上の高耐電圧性が必要とされてきている。そのため、太陽電池モジュール用のバックシートには、高い耐電圧性が与えられていることが不可欠である。
太陽電池モジュール用のバックシートとしては、近年、ポリエステルフィルムが使用されている。
【0005】
これに関連して、高温でかつ高湿度の環境で長期にわたって使用した場合においても、加水分解によるフィルムの劣化を高度に防ぐことを目的として、白色顔料を0.5重量%以上含有し、リン元素の含有量が0〜170ppmであるポリエステルからなるポリエステルフィルムであり、末端カルボキシル基量が26当量/トン以下であることを特徴とする太陽電池裏面封止用ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、耐加水分解性を得るために、二軸配向ポリエステルフィルムを、示差走査熱量分析(DSC)による結晶化パラメータΔTcgが70〜110℃であり、カルボキシル末端量が0.1〜10当量/トンであり、固有粘度が0.50〜0.90dL/gの二軸配向ポリエステルフィルムとすることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、良好な静電密着性を有した高品質なポリエステルを長期連続運転しても異物含有量の増加が少なく、極めて高度な清澄度を有するポリエステルを得るために、芳香族ジカルボン酸を主体とするジカルボン酸と、炭素数2〜4のアルキレングリコールのいずれか1種を原料として、少なくともマグネシウム化合物とリン化合物を添加し、さらに重縮合反応後に中間孔径が5μm以下で、かつバブルポイント法での最大孔径が10μm以下であり、ろ過面積が4〜200mであるフィルターでポリエステルを濾過することを特徴とするポリエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−141291号公報
【特許文献2】特開2010−235824号公報
【特許文献3】特開2009−120751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、既述の特許文献による方法では、耐候性を高めることはできても、高耐候性を維持しながら、耐電圧性をも高めることができなかった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステルフィルムの製造方法、高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルム及び太陽電池用バックシート、ならびに太陽電池モジュールを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 固有粘度が0.70〔dL/g〕以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機に供給する原料樹脂供給工程と、前記ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出す溶融樹脂押出工程と、前記溶融したポリエステルを、シート状に成形してポリエステルシートを得る成形工程と、前記ポリエステルシートをフィルム状に延伸する延伸工程と、を有するポリエステルフィルムの製造方法である。
【0011】
<2> 前記不活性ガスの流速が0.1〔m/秒〕〜30〔m/秒〕である前記<1>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0012】
<3> 前記不活性ガスの前記ベント部への吹き込み量X〔L/時間〕が、0.5Y≦X≦5000Y(ただし、前記Yは、1時間あたりの前記溶融したポリエステルの押出量〔トン〕)である前記<1>または前記<2>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0013】
<4> 前記不活性ガスは、予め加熱してから前記ベント部に吹き込む前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0014】
<5> 前記不活性ガスの温度T〔℃〕が、前記ベント部に位置するポリエステルの温度Z〔℃〕に対して、Z−30≦T≦Z+30である前記<4>に記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0015】
<6> さらに、前記溶融したポリエステルを、濾過精度が10μm以上である濾過フィルターを用いて濾過する濾過工程を有する前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0016】
<7> 前記溶融樹脂押出工程は、前記溶融したポリエステルを1〔トン/時間〕以上の押出量で押出し、前記二軸押出機に投入する前記ポリエステルと、前記ポリエステルシートとは、固有粘度の差が0.05〔dL/g〕以下であり、かつ、末端カルボキシ基濃度の差が4〔当量/トン〕以下である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法である。
【0017】
<8> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムの製造方法により製造されたポリエステルフィルムである。
【0018】
<9> 下記(1)〜(5)を全て満たすポリエステルフィルムである。
(1)固有粘度が0.70以上1.0dL/g以下
(2)末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下
(3)フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が1個以下
(4)120℃、相対湿度100%の条件で保存した後の、破断伸度保持率が50%となる時間が85時間以上
(5)120℃、相対湿度100%の条件で85時間保存した後のフィルム部分放電開始電圧保持率97%以上
【0019】
<10> 前記(1)は、固有粘度が0.73以上1.0dL/g以下であり、前記(2)は、末端カルボキシ基濃度が18当量/トン以下であり、前記(3)は、フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が0.5個以下である前記<9>に記載のポリエステルフィルムである。
【0020】
<11> 前記<8>〜前記<10>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシートである。
【0021】
<12> 太陽光が入射する透明性のフロント基板と、
前記フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び前記太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、
前記セル構造部分の前記フロント基板が位置する側と反対側に設けられ、前記封止材と隣接して配置された、前記<11>に記載の太陽電池用バックシートと、
を備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステルフィルムの製造方法、高耐候性を維持しつつ耐電圧性に優れたポリエステルフィルム及び太陽電池用バックシート、ならびに太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するための二軸押出機の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するフローの一例を示す図である。
【図3】ベント部における不活性ガスの吹き込み機構の一例を示す部分概略図である。
【図4】太陽電池モジュールの構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のポリエステルフィルム製造方法について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
<ポリエステルフィルム製造方法>
本発明のポリエステルフィルム製造方法は、固有粘度が0.70〔dL/g〕以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機に供給する原料樹脂供給工程と、前記ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出す溶融樹脂押出工程と、前記溶融したポリエステルを、シート状に成形してポリエステルシートを得る成形工程と、前記ポリエステルシートをフィルム状に延伸する延伸工程と、を有して構成される。
以下、ポリエステルフィルムの原料となるポリエステルを「原料樹脂」ともいう。
【0025】
ポリエステルフィルムは、一般に、押出機に供給する原料樹脂であるポリエステルや、原料樹脂と共に供給し得る添加剤等の成分を、押出機に投入し溶融混練して、シート状に成形したものを延伸することにより得られる。押出機として、ベント部を備えた二軸押出機を用いると、ポリエステルの溶融混練中に発生する水蒸気や、原料樹脂ないし添加剤等から発生する揮発成分等が、ベント部により吸引され、押出機の外部に排出される。
【0026】
ところで、ポリエステルフィルムの耐候性は、主として、ポリエステルフィルムの強度を強くし、ポリエステルフィルムが加水分解を起こし難くすることにより実現される。ポリエステルフィルムの強度を上げるためには、通常、固有粘度の高い、0.70dL/g以上1.0dL/gのポリエステルを原料樹脂として用いる。また、ポリエステルフィルムの加水分解は、一般に、ポリエステルフィルムの含有水分量が高く、末端カルボキシ基濃度が高い場合に起こり易いため、含有水分量が低く、末端カルボキシ基濃度が低いポリエステルを原料樹脂とすることが多い。具体的には、通常、含有水分量が600ppm以下であり、末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下であるポリエステルを原料樹脂とする。
【0027】
このような、固有粘度が0.70dL/g以上1.0dL/gであり、含有水分量が600ppm以下であり、更に末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下のポリエステルを用いて、押出機により溶融押出をすることで、高耐候性のポリエステルフィルムを得易い。
しかし、含有水分量が600ppm以下であるポリエステルを、押出機で溶融混練すると、水分量が少ないだけに、水蒸気が発生し難い一方、原料樹脂等からは、一定量の揮発成分が発生すると考えられる。
【0028】
このとき、まとまった量の水蒸気が発生する環境下においては、ベント部における吸引は順調に行なわれ、原料樹脂等から発生する揮発成分も水蒸気と共に押出機の外部に排出され易いが、水蒸気の発生が少ない場合には、真空ポンプの吸引力を大きくしても外部に排出され難いことがわかった。そのため、揮発成分は、ベント部内で滞留し、冷却することでベント部の内壁に固着し易くなり、さらには、ベント部内壁に固着した塊が落下して、溶融樹脂に異物として混入すると考えられる。
【0029】
溶融樹脂に異物が混入したまま押出機から押出され、シート成形を経てフィルム状に延伸されて得られたポリエステルフィルムは、高耐候性を有し得るものの、ポリエステルフィルム中に含まれる異物に起因して、耐電圧性が低下すると考えられる。
【0030】
これに対し、本発明のポリエステルフィルムの製造方法によれば、同じ物性の原料樹脂、すなわち、固有粘度が0.70dL/g以上1.0dL/gであり、含有水分量が600ppm以下であり、更に末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下のポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機で押出してフィルムを得ても、高耐候性を維持しつつ、耐電圧性にも優れたポリエステルフィルムを製造することができる。
これは、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出すことで、水蒸気の発生が少ない環境下においても、ベント部に吹き込まれた不活性ガスが、ベント部に集められた揮発成分等の排出を促進し、ベント部における滞留を抑制するためと考えられる。ベント部における揮発成分等の滞留が抑制されることで、ベント部に揮発成分等が固着しにくくなり、その結果、溶融樹脂に異物が混入することを抑制するため、異物に起因する耐電圧性の低下を抑制し得るものと考えられる。
【0031】
原料樹脂の溶融混練中に発生し得る揮発成分としては、原料樹脂であるポリエステル自体から発生する成分のみならず、ポリエステルと共に押出機に供給し得るフラフや、末端封止剤に代表される添加剤からも発生し易い。特に、重量平均分子量(Mw)が小さい成分は揮発し易いと考えられる。従って、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、重量平均分子量が小さい(例えば、Mwが1000以下)熱安定剤や末端封止剤等の添加剤を原料樹脂と共に押出機に供給する場合に、特に適している。
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について、詳細に説明する。
まず、原料樹脂供給工程から説明する。
なお、以下、単に「押出機」と称するときは、ベント部を有する二軸押出機を意味する。
【0032】
〔原料樹脂供給工程〕
原料樹脂供給工程は、固有粘度が0.70〔dL/g〕以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機に供給する工程である。
【0033】
‐ポリエステル(原料樹脂)‐
本発明のポリエステルフィルムの製造方法で用いられるポリエステル(原料樹脂)としては、既述の固有粘度、末端カルボキシ基濃度、及び含有水分量を満たすポリエステルであれば特に制限されず、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等が挙げられる。
原料樹脂の形状は特に制限されず、通常、ペレット、チップ等と称される粒径が数mm程度の粒子が用いられる。また、原料樹脂の粒径も数mmに限定されるものではない。
まず、固有粘度、含有水分量などの、原料樹脂の物性について説明し、次いで、原料樹脂を構成するポリエステルについて説明する。
【0034】
(固有粘度、IV)
原料樹脂の固有粘度(Interisic Viscosity;IV)は、0.70dL/g〜1.0dL/gである。原料樹脂のIVが0.70dL/g未満であると、原料樹脂の耐加水分解性が低下し、IVが1.0を超えると溶融混練中の発熱を十分に抑えることができない
原料樹脂のIVは0.70dL/g〜0.90dL/gであることが好ましく、0.70dL/g〜0.80dL/gであることがより好ましい。
【0035】
原料樹脂のIVは、ポリエステルの重合方式および重合条件によって調整することができ、液相重合の後に固相重合を行うことによって原料となる固有粘度IVが0.70dL/g〜1.0dL/gのポリエステルを得ることができる。
【0036】
耐加水分解性の高いポリエステルフィルム得るためには、原料樹脂であるポリエステルの固有粘度(IV原料)と、押出機から溶融押出し、成形された未延伸のポリエステルシート(IVシート)の固有粘度との差ΔIV(IVシート−IV原料)が0.05dL/g以下であることが好ましく、0.04dL/g以下であることがより好ましく、0.03dL/g以下であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求められる。
【0038】
(末端カルボキシ基濃度、AV)
また、原料樹脂は、末端カルボキシ基濃度(Acid Value;AV)が20当量/トン(eq/t)以下であり、15当量/トン以下が好ましい。
末端カルボキシ基濃度を「末端COOH量」称することもある。
末端COOH量が20当量/トン以下の原料樹脂を用いれば、末端COOH量が少なく、高い耐加水分解性を有するポリエステルフィルムが得られる。ただし、得られるポリエステルフィルムを被着物と接着する場合には、当該被着物との密着性が得られる観点から、原料樹脂の末端COOH量は2当量/トン以上であることが望ましい。
なお、「当量/トン」は、1トンあたりのモル当量を表す。
【0039】
耐加水分解性の高いポリエステルフィルム得るためには、原料樹脂であるポリエステルの末端カルボキシ基濃度(AV原料)と、押出機から溶融押出し、成形された未延伸のポリエステルシートの末端カルボキシ基濃度(AVシート)との差ΔAV(AVシート−AV原料)が4当量/トン以下であることが好ましく、3.5当量/トン以下であることがより好ましく、3.0当量/トン以下であることがさらに好ましい。なお、AVシート<AV原料である場合には、「AVシート−AV原料」の絶対値が4当量/トンより大きくてもよい。
単軸押出機により、溶融したポリエステルの押出量を1トン/時間以上とする場合には、既述のようなΔIV、およびΔAVを達成しにくい。
【0040】
原料樹脂の末端COOH量は、原料樹脂の含有水分量、押出機内での溶融温度、混練時間等によって調整することができる。
末端COOH量は、以下の方法により測定される値である。すなわち、原料樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下する。この溶液を、基準液(0.01N、KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求める。
【0041】
なお、複数の種類の樹脂を混合して用いる場合は、前記原料樹脂の末端COOH量は、混合状態での量を表す。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)として、そのペレットの1種又は2種以上やPETフィルムの粉砕屑であるチップ材などを混合する場合、ペレットの末端COOH量の総量、又はペレットの末端COOH量とチップの末端COOH量との合計量である。
【0042】
(含有水分量)
原料樹脂は、含有水分量が600ppm以下である。
原料樹脂の含有水分量の範囲は、原料樹脂を押出機内で溶融混練した際に水蒸気が発生し難くなる条件を定めるための数値である。原料樹脂の含有水分量が小さいほど、効果(高耐候性を維持しつつ、ポリエステルフィルムへの異物の混入を防ぎ、耐電圧性の低下を抑制すること)が高い。
なお、原料樹脂の含有水分量が600ppm以下であると、ポリエステルの加水分解を抑制することができる。原料樹脂の含有水分量は、原料樹脂の乾燥温度、乾燥時間等によって調整することができる。
原料樹脂の含有水分量は600ppm以下であればよく、0ppmでもよいが、過度の乾燥による原料樹脂の損傷を防ぐため、30ppm以上であることが好ましい。含有水分量は、30ppm〜400ppmであることがより好ましく、30ppm〜200ppmであることがさらに好ましく、30ppm〜70ppmであることが特に好ましい。
【0043】
(融点、Tm)
また、原料樹脂の融点Tmは、250℃〜260℃の範囲であることが好ましい。前記融点Tmは示差走査熱量測定により求められる値である。複数の樹脂の混合であるときは融点の平均値が上記範囲内にあることが好ましい。
【0044】
(樹脂温度)
原料樹脂は、100℃〜160℃に加熱して、押出機の原料供給口(押出機入口)に供給することが好ましい。すなわち、押出機の原料供給口における原料樹脂の温度が、100℃〜160℃であることが好ましい。原料樹脂の温度を上記範囲とすることで、原料樹脂の摩擦を抑制し、押出機内での発熱を抑制することができる。
原料樹脂の温度が100℃未満であると、原料樹脂の溶融時の摩擦発熱が増加し易く、160℃を超えると、原料の分解反応が進行し易い。
原料樹脂の温度は、120℃〜150℃であることが好ましい。
次に、原料樹脂を構成するポリエステルについて説明する。
【0045】
(ポリエステル)
原料樹脂を構成するポリエステルとしては、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体と、ジオール化合物とを公知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
前記ジカルボン酸又はそのエステル誘導体としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
【0046】
前記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0047】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などが挙げられる。通常は、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に挙げると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0048】
好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、より好ましくはPETである。PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0049】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。本発明においては、ポリエステルフィルムの末端COOH量を30eq/トン以下の範囲に調整するのに好適である。
【0050】
Ti系触媒を用いた重合により得たTi触媒系PETの製造には、例えば、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特許3436268号公報、特許3979866号公報、特許3780137号、特開2007−204538号公報等に記載の重合方法を用いることができる。
【0051】
チタン(Ti)系化合物を、1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明の方法によって製造されるポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
Ti系触媒の量は、1ppm以上であると好ましいIVが得られ、30ppm以下であると、末端COOHを低く抑えることができ、耐加水分解性の向上に有利である。
【0052】
−固相重合−
本発明においては、エステル化反応及び/又はエステル交換反応に加えて更に、ポリエステルを固相重合してもよい。固相重合は、既述のエステル化反応等により重合したポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。具体的には、固相重合として、特許第2621563号、特許第3121876号、特許第3136774号、特許第3603585号、特許第3616522号、特許第3617340号、特許第3680523号、特許第3717392号、特許第4167159号等に記載の方法を用いることができる。
【0053】
固相重合は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは190℃以上230℃以下で5時間以上100時間以下、より好ましくは10時間以上80時間以下、さらに好ましくは15時間以上60時間以下の条件で行なうのが好ましい。また、固相重合は、真空中あるいは窒素(N)気流中で行なうことが好ましい。更に、多価アルコール(エチレングリコール等)を1ppm以上1%以下混合してもよい。
【0054】
固相重合は、バッチ式(容器内に樹脂を入れ、この中で所定の時間熱を与えながら撹拌する方式)で実施してもよく、連続式(加熱した筒の中に樹脂を入れ、これを加熱しながら所定の時間滞流させながら筒中を通過させて、順次送り出す方式)で実施してもよい。
【0055】
本発明においては、原料樹脂として用いるポリエステルの重合度は、ポリエステルの使用用途の要求特性に合わせて適宜選択すればよいが、一般には、溶融重縮合で0.3≦IV≦0.65のポリエステルを得て、溶融重縮合で得られたポリエステルを固相重縮合により0.70≦IV≦0.85に上昇させるのが好ましい。
【0056】
−末端封止剤−
固相重合を終えたポリエステルには、末端封止剤を添加して溶融押出しを行なうことが好ましい。末端封止剤とは、ポリエステルの末端のカルボキシル基と反応し、ポリエステルのカルボキシル末端量を減少させる添加剤である。
【0057】
好ましい末端封止剤として、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いても良い。末端封止剤を添加し、特に5%以上50%以下の結晶化度分布を持つポリエステルフィルムを製造することで、相乗効果が得られる。即ち、上記範囲の結晶化度分布を持つポリエステルフィルム中に前記末端封止剤が含有されていると、相乗効果により、塗布層との密着性が促進される。即ち、ポリエステルフィルムの結晶化度の低い部分に塗布液が浸透し、相互貫入し密着を向上させるが、その時、ポリエステルフィルムの末端が上記封止剤と反応し嵩高くなることで、塗布液成分から引き抜き難くなる(アンカー効果)。この結果相互作用力が高まり密着が強くなると考えられる。
【0058】
これらの末端封止剤は、ポリエステルに対して0.1質量%以上5質量%以下添加することが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。ポリエステルに対する末端封止剤の添加量が0.1質量%以上であれば、上記アンカー効果が発現し易くなり、密着力がさらに向上し易い。一方、5質量%以下であれば嵩張った末端のためにポリエステル分子が配列し難くなることが抑制され、結晶を形成し易くなる。この結果、高結晶領域が増加し、結晶化度の分布を形成し易くなり密着力が向上する。
【0059】
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、一官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがあり、一官能性カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドおよびジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。特に好ましくは、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
【0060】
また、多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のポリカルボジイミドが好ましく用いられる。ポリカルボジイミドは、一般に、「−R−N=C=N−」等で表される繰り返し単位を有し、前記Rは、アルキレン、アリーレン等の2価の連結基を表す。このような繰り返し単位としては、例えば、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドおよび1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどを例示することができる。
【0061】
カルボジイミド化合物は、熱分解によるイソシアネート系ガスの発生が抑えられる点で、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくはカルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、ポリエステル原料樹脂を溶融押出する温度を下げることで、カルボジイミド化合物による耐候性の向上効果及び熱収縮の低減効果がより効果的に得られる。
【0062】
カルボジイミド化合物を添加した本発明のポリエステルフィルムは、300℃の温度で30分間保持した際のイソシアネート系ガスの発生量が0〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスとはイソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。イソシアネート系ガスが0.02質量%以下であると、ポリエステルフィルム中に気泡(ボイド)が生成され難く、応力集中する部位が形成されにくいため、ポリエステルフィルム内に生じやすい破壊や剥離を防ぐことができる。これにより、隣接する材料との間の密着が良好になる。
【0063】
また、エポキシ化合物の好ましい例としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステルおよびピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0064】
また、オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができるが、その中ではビスオキサゾリン化合物が好ましい。具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4’−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−9,9’−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)および2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性が良好で耐候性の向上効果が高い観点から、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましく用いられる。さらに、上記で挙げたビスオキサゾリン化合物は、本発明の効果を損なわない限り、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもどちらでも良い。
【0065】
−フラフ−
原料樹脂の押出にあたっては、原料樹脂にフラフを混入させてもよい。
フラフとは、ポリエステルフィルムの粉砕屑、特に、ポリエステルフィルムの製膜途中に生じたフィルムの粉砕屑、及び、リサイクルのための使用済みポリエステルフィルムの粉砕屑等をいう。
フラフの嵩密度は0.2〜0.7であることが好ましい。
【0066】
嵩密度とは、粉末を一定容積の容器の中に一定状態で入れる等して、所定形状にした粉末の質量を、そのときの体積で除算して求められる密度(単位体積あたりの質量)をいい、嵩密度が小さいほど嵩張る。フラフの嵩密度は、JIS K7365:1999の「プラスチック−規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に準拠した方法により測定することができる。
【0067】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、低含水率であり、高固有粘度の原料樹脂に、嵩密度が0.2〜0.7であるフラフを混入することで、原料樹脂が低含水率であること及び高固有粘度を有することのメリットを維持したまま、押出機内での発熱を抑制することができる。
フラフの嵩密度が、0.2未満であると、押出機の原料供給口で原料樹脂が詰まり易く(ブリッジともいう)、原料樹脂を溶融し難くなる。フラフの嵩密度が0.7を超えると、嵩が小さく、原料樹脂の発熱を抑制しにくい。
【0068】
嵩密度が0.2〜0.7であるフラフは、使用済みポリエステルフィルムを破砕することにより得られる。また、ポリエステルフィルムの製造時に生じる破砕片を用いてもよい。
フラフの嵩密度は、原料樹脂の押出し安定性(ブッリジ抑制)、及び剪断発熱抑制の観点から、0.2〜0.6であることが好ましい。
【0069】
また、フラフの混入量は、原料樹脂の全質量に対して、10質量%〜50質量%であることが好ましい。フラフの含有量が、10質量%未満であると、押出機内での原料樹脂の発熱を抑制しにくく、50質量%を超えると、原料樹脂のAVが増加し易い。
フラフの混入量は、原料樹脂の全質量に対して、15質量%以上とすることがより好ましい。また、フラフの混入量の上限は、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0070】
フラフのサイズは特に制限されないが、厚みが20〜5000μmであるものが好ましい。中でも、嵩密度が大きくなり過ぎて充満率が低下しすぎないようにし、溶融不足を回避する観点から、100〜1000μmの範囲、更には100〜500μmの範囲がより好ましい。
【0071】
また、製膜されるポリエステルフィルムの末端COOH量をより低減する点で、フラフのサイズのばらつきは小さい方が好ましく、例えば粉砕片の厚みでは、ばらつきは±100%以内であるのが好ましく、より好ましくは±50%以内であり、更には±10%以内である。粉砕片を用いる場合、厚みなどサイズばらつきを小さく抑えることで、得られるポリエステルフィルムの末端COOH量の変動を低く抑えることができる。
【0072】
〔溶融樹脂押出工程〕
溶融樹脂押出工程は、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出す工程である。
原料樹脂供給工程により、押出機内に供給された原料樹脂、及び必要に応じて原料樹脂と共に供給されるフラフや末端封止剤等の添加剤は、溶融樹脂押出工程において、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融混練され、溶融樹脂(メルトともいう)とされると共に、押出機から排出される。
ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出すことで、ベント部に原料樹脂であるポリエステル、フラフ、末端封止剤等から発生する揮発成分がベント部の内部で滞留しにくく、押出機の外部に排出され易くなる。
かかるベント部における不活性ガスの吹き込み機構を、図面を用いて説明する。
まず、原料樹脂を供給し、溶融混練する二軸押出機の詳細について説明し、その後、ベント部の詳細を説明する。
【0073】
(二軸押出機)
まず、本発明で用いる二軸押出機について説明する。
二軸押出機は、主として押出機に供給された原料樹脂を溶融し、溶融樹脂を混練するものであり、一般的に、バレル(シリンダーともいう)を備える。バレルは、原料樹脂を供給するための原料供給口と、溶融樹脂を排出する出口(排出口)とを有し、バレル内には、溶融樹脂を混練するために、スクリューが備えられている。押出機は、大別して、スクリューが1本である単軸と、スクリューが複数本ある多軸とがあり、本発明においては、二軸押出機(二軸スクリュー押出機)を用いる。二軸押出機は、ポリエステル(原料樹脂)を可塑化するニーディング部を有するスクリューを備えていることが好ましい。
【0074】
なお、ニーディング部とは、スクリューの部位であって、ポリエステル(原料樹脂)を可塑化する機能を有するセグメント(ニーディングディスクの位置)を意味し、可塑部とは、押出機内の領域であって、ポリエステル(原料樹脂)が可塑化される領域を指す。従って、押出機の可塑部にスクリューのニーディング部が位置する。
【0075】
以下、押出機の構成を、図1〜図2を用いて説明する。
図1は、押出機の構成例を概略的に示している。
図2は、本発明に係るポリエステルフィルム製造方法を実施するフローの一例を示している。
【0076】
図1に示す押出機100は、スクリューを二本(二軸)有する二軸押出機である。押出機100は、供給口12及び押出機出口14を有するバレル10(シリンダー)と、バレル10内で回転する2つのスクリュー20A、20Bと、バレル10の周囲に配置され、バレル10内の温度を制御する温度制御手段30と、を備えている。また、図2に示すように、供給口12の手前には原料供給装置46が設けられている。押出機出口14の先にはギアポンプ44と、フィルター42と、ダイ40が設けられている。原料供給装置46は、第1の樹脂を収納する第1の原料供給装置と、第2の樹脂を収納する第2の原料供給装置とを少なくとも含む複数の原料供給装置で構成されていてもよいし、複数の樹脂を個別に収納可能な複数の収納容器を備えた1つの原料供給装置であってもよい。
【0077】
−バレル−
バレル10は原料樹脂を供給するための供給口12と、加熱溶融された原料樹脂が押し出される押出機出口14を有する。
バレル10の内壁面は、耐熱、耐磨耗性、及び腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材を用いることが必要である。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、タングステン等の耐腐食性、耐磨耗性素材合金をバレル10の内壁面にライニングさせたバイメタリックバレルを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
【0078】
−ベント部−
バレル10には、溶融混練中に真空を引くためのベント部16A、16Bも設けられている。ベント部16A、16Bを通じて真空引きをすることでバレル10内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント部16A、16Bを適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレークなど)や製膜途中で出たフィルムの粉砕屑(フラフ)等をそのまま原料樹脂として使用することができる。
ベント部16A、16Bは脱気効率との関係で、開口面積やベント部の数を適正にすることが求められる。本発明で用いる二軸押出機100は、1箇所以上のベント部16A、16Bを有することが望ましい。なお、ベント部16A、16Bの数が多過ぎると、溶融樹脂がベント部から溢れ出るおそれ、滞留劣化異物増加の懸念があるので、ベント部は1箇所又は2箇所設けることが好ましい。
【0079】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、ベント部に不活性ガスを吹き込む。
ベント部における不活性ガスの吹き込み機構を、図3を用いてより詳細に説明する。
図3は、ベント部における不活性ガスの吹き込み機構の一例をより詳細に示した概略図である。
図3(A)は、二軸押出機102のベント部50の位置における軸方向と直交する方向の断面概略図である。二軸押出機102は、2つのスクリュー20Cおよび20Dと、スクリュー20Cおよび20Dの上部に位置するベント部50と、ベント部50に不活性ガスを吹き込むための不活性ガス供給管54Aおよび不活性ガス供給管54Bとを備えている。不活性ガス供給管54Aおよび54Bは、ベント部50の内部に不活性ガスが供給されるように、ベント部50の内側に不活性ガス供給口52Aおよび52Bを有している。
ベント部50には、ベント部50に位置する溶融樹脂の温度を確認するための窓を備えていてもよい。
【0080】
ベント部50は、図1に示すベント部16A、および16Bのように、二軸押出機102に2つ備えていてもよいし、3つ以上備えていてもよい。図2に示すフローには、ベント部50が2つ(ベント部50Aおよびベント部50B)備えられ、2つのベント部50は、図2に示すように、真空ポンプ70に連結されている。ベント部50が真空ポンプ70に連結されることにより、水蒸気、不活性ガス、及び揮発成分を含む排気を真空ポンプ70により吸引することができる。また、真空ポンプ70に水蒸気や揮発成分が吸い込まれて真空ポンプ70が故障することを防ぐために、ベント部50と真空ポンプ70との間に、水蒸気や揮発成分を分離するトラップ60を設けていてもよい。
【0081】
既述のように、不活性ガスは、ベント部50の内部56に滞留する原料樹脂等からの揮発成分を、二軸押出機102の外部に排出し易くするための、いわば促進材料であり、揮発成分がベント部50の内壁に固着し、固着物が落下して溶融樹脂に混入しないようにするために吹き込まれる。
不活性ガスは、二軸押出機102の外部から不活性ガス供給管54Aまたは不活性ガス供給管54Bを通じて二軸押出機102内部に供給され(Gin)、不活性ガス供給口52Aおよび52Bから、ベント部50の内部56に吹き込まれる。そして、例えば、図2に示す真空ポンプ70により二軸押出機102の外部、すなわちベント部50の外部に排出される(Gout)。
【0082】
不活性ガスのベント部50への吹き込み量は、吹き込みをX〔L/時間〕としたとき、1時間あたりの溶融したポリエステルの押出量Y〔トン〕に対して、0.5Y≦X≦5000Yとなる量であることが好ましい。不活性ガスの吹き込み量Xが、5000Y以下であることで、ベント部の真空圧が上がりにくいため、本来の目的であるベント部での水分の脱気効率が低下しにくく、0.5Y〔L/時間〕以上であることで、ベント部に、揮発成分由来の有機異物が蓄積することを防止し易い。
不活性ガスのベント部50への吹き込み量Xは、50Y≦X≦3000Yであることがより好ましく、50Y<X<4000であることがさらに好ましく、100Y<X<3000であることが特に好ましく、300Y<X<2000であることが最も好ましい。不活性ガスのベント部への吹き込み量は、株式会社山武社製、マスフローメーター、タイプCMS200を用いて測定した値である。
【0083】
また、不活性ガスの流速は、0.1〔m/秒〕〜30〔m/秒〕であることが好ましい。不活性ガスの流速が0.1〔m/秒〕以上であることで、揮発成分等の排気を促進し易く、30〔m/秒〕以下であることで、ベント部の真空圧が上がりにくく、本来の目的であるベント部での水分の脱気効率が低下しにくい。
不活性ガスの流速は、0.3〔m/秒〕〜25〔m/秒〕であることがより好ましい。
なお、本発明において、不活性ガスの流速は、ベント部に注入する窒素ガス量と、ベント部の真空度と、ベントサイズとから計算により求めたベント部における流速を表している。
【0084】
不活性ガスは、ベント部50の内部56に吹き込む前に、予め加熱しておくことが好ましい。不活性ガスは、不活性ガスの温度をT〔℃〕、ベント部50に位置する溶融したポリエステルの温度をZ〔℃〕としたとき、Z−30≦T≦Z+30であることが好ましい。不活性ガスの温度Tが、Z−30〔℃〕以上であることで、ベント部50の内壁への揮発成分の固着を促進しにくく、不活性ガスの温度Tが、Z+30〔℃〕以下であることで、溶融樹脂を焦がしにくく、溶融樹脂に熱損傷を与えにくい。
不活性ガスの温度Tは、Z−20≦T≦Z+10であることがより好ましい。
【0085】
なお、ベント部に位置する溶融樹脂の温度Zは、ベント部に備えられ、バレル内部を観察可能な窓から、ドクターハイマン放射温度計(HEITRONICS社製D65205)」を使用し測定される溶融樹脂の表面温度である。
また、不活性ガスの温度Tは、不活性ガス供給管に備えた温度計(日本特殊窯業社製、温度センサー、CTAS@-T)により測定される温度である。
【0086】
図3(B)は、図3(A)におけるベント部50をα−β線に沿って切断した場合の、二軸押出機102の部分上面図の概略図である。符号は、図3(A)と同じであるので、説明を省略する。ベント部50の断面からは、二軸押出機102に備えられた不活性ガス供給管54A及び54Bの出口である不活性ガス供給口52A及び52Bと、歯が噛み合った2本のスクリュー20C及び20Dと、が見えている。
不活性ガス供給口52Aおよび52Bの形状は、図3(B)においては、円形状であるが、特に制限されず、多角形状でもよいし、スリット状であってもよい。また、図3(B)においては、不活性ガス供給口52Aの数は4つ、不活性ガス供給口52Bの数は5つ示されているが、数は特に制限されない。不活性ガス供給口52Aの数と不活性ガス供給口52Bの数は、同じであっても異なっていてもよい。不活性ガス供給口52Aおよび52Bの並び方は、図3(B)に示すように直線状であってもよいし、ベント部50の内壁に沿うように円弧状に並んでいてもよい。隣接する不活性ガス供給口同士の間隔も特に制限されない。
【0087】
‐ベント圧力‐
ベント部50(図1における16Aまたは16B)を通じて真空引きをすることで、バレル内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がバレルの外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベント部50から溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は0.01Torr〜5Torr(1.333Pa〜666.5Pa)とすることが好ましく、0.01Torr〜4Torr(1.333Pa〜533.2Pa)とすることがより好ましい。
【0088】
−スクリュー−
引き続き、図1および図2を用いて、押出機が備えるスクリューの好ましい態様について説明する。
バレル10内には、モータおよびギアを含む駆動手段21によって回転する2つのスクリュー20A、20Bが設けられている。
本発明のポリエステルフィルム製造方法においては、押出機100は、スクリューの直径をD〔mm〕とするとき、スクリュー径Dが、60mm以上であることが好ましく、140mm以上であることがより好ましい。スクリュー径Dを60mm以上とすることで押出機内における溶融樹脂の滞留を抑制することができ、ポリエステルフィルムの生産性を向上することができる。
大量生産の観点から、スクリュー径Dは、さらに好ましくは160mm以上である。一方、樹脂の溶融ムラを抑制する観点から、スクリュー径Dは200mm以下であることが好ましい。
【0089】
二軸押出機は、2つのスクリュー20A、20Bの噛み合い型と非噛み合い型に大別され、噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きい。本発明では、噛み合い型と非噛み合い型のいずれのタイプでも良いが、原料樹脂を十分混練して溶融ムラを抑制する観点から、噛み合い型を用いることが好ましい。
2つのスクリュー20A、20Bの回転方向もそれぞれ同方向と異方向に分かれる。異方向回転スクリュー20A、20Bは同方向回転型よりも混練効果が高く、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。
さらに軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。
【0090】
本発明で用いる二軸押出機では、様々な形状のスクリューセグメントが用いられる。スクリュー20A、20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリューが用いられる。
ポリエステル(原料樹脂)を可塑化する可塑部に、ニーディングディスクやローターなどの剪断を付与するセグメントを用いることで、原料樹脂をより確実に溶融することができる。また、逆スクリューやシールリングを用いることにより、樹脂をせき止め、ベント部16A、16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。例えば、図1に示すように、ベント部16A、16B付近に、上記のような原料樹脂の溶融を促進するニーディング部(混練部)24A、24Bを設けることができる。
【0091】
スクリューの部位のうち、ニーディングディスクが設けられているニーディング部は、ニーディングクリアランスにおける剪断速度が500s−1〜2000s−1であることが好ましい。
ニーディングクリアランスとは、隣接するニーディングディスク間の間隔をいう。
剪断速度が500s−1以上であることで、原料樹脂の溶融不足による未溶融異物の残存を抑制することができ、剪断速度が2000s−1以下であることで、原料樹脂の発熱によるΔAVの増加を抑制することができる。
ニーディングクリアランスにおける剪断速度は、500s−1〜1500s−1であることがより好ましく、500s−1〜800s−1であることが特に好ましい。
【0092】
押出機100の後半では溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)が有効である。剪断発熱よりもバレル10の伝熱効率が高い場合は、温調ゾーン(冷却部)にピッチの短いスクリュー28を設けることで、バレル10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。冷却効果を高める観点から、冷却部に位置するスクリュー28のピッチは、スクリュー径Dに対し、0.5D〜0.8Dであることが好ましい。
【0093】
また、剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲にはニーディング部等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュー出口(押出機出口)14の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベント部16A、16Bによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口14の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0094】
−温度制御手段−
バレル10の周囲には、温度制御手段30が設けられている。図1に示す押出機100では、原料供給口12から押出機出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9が温度制御手段30を構成している。このようにバレル10の周囲に分割して配置された加熱/冷却装置C1〜C9によって、例えば可塑部C1〜C7と冷却部C8、C9の各領域(ゾーン)に区画し、バレル10内を領域ごとに所望の温度に制御することができる。
【0095】
加熱は、通常バンドヒーターまたはシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、これらに限定されず、例えば熱媒循環加熱方法も用いることができる。一方、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、バレル10の周囲に巻き付けたパイプに水または油を流す方法もある。
【0096】
‐原料樹脂の溶融混練‐
押出機100は、温度制御手段30によりバレル10を加熱するとともにスクリューを回転させ、供給口12から原料樹脂を供給する。なお、供給口12は、原料樹脂のペレット等が加熱されて融着しないようにすることと、モータなどのスクリュー駆動設備を保護するため、伝熱防止として冷却することが好ましい。
【0097】
バレル内に供給された原料樹脂は、温度制御手段30による加熱のほか、スクリュー20A、20Bの回転に伴う樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュー20A、20Bやバレル10との摩擦などによる発熱によって溶融されるとともに、スクリューの回転に伴って押出機出口14に向けて徐々に移動する。
バレル内に供給された原料樹脂は融点Tm(℃)以上の温度に加熱されるが、樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイ40からの排出が困難になるおそれがあり、樹脂温度が高過ぎると熱分解によって末端COOHが著しく増加して耐加水分解性の低下を招くおそれがある。これらの観点から、温度制御手段30による加熱温度及びスクリュー20A、20Bの回転数を調整することにより、二軸押出機内の長手方向における最大樹脂温度Tmaxを(Tm+40)℃〜(Tm+60)℃にすることが好ましく、(Tm+40)℃〜(Tm+55)℃とすることがより好ましく、(Tm+45)℃〜(Tm+50)℃とすることがさらに好ましい。
【0098】
二軸押出機内の長手方向における最大樹脂温度Tmaxは、二軸押出機100のスクリュー20A、20Bが配設されたバレル内で加熱されている原料樹脂の温度であり、剪断発熱があるときはその発熱による局所的高温部を含む温度である。Tmaxはバレル内の樹脂温度の測定により得られる。上記のTm及びTmaxの関係式において、Tmax[℃]は、末端COOHの増加を抑える観点から、290℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。また、Tmaxの下限温度は、樹脂の溶融不足を防止する観点から260℃とすることが好ましい。
【0099】
‐平均滞留時間‐
バレル内で原料樹脂を加熱溶融し、押出機出口14を出た後、ダイ40からフィルム状に押出されるまでの平均滞留時間を10分〜20分とすることが好ましい。原料樹脂を加熱溶融して、押出機100の押出機出口14を出てからダイ40から押出されるまでの平均滞留時間を10分以上とすることで未溶融樹脂が残留しにくく、一方、20分以下とすることで、熱分解による末端COOH量の増加を抑制する。このような観点から、原料樹脂を加熱溶融して押出機出口14から押出され後の上記平均滞留時間は、10分〜15分がより好ましい。
ここで、平均滞留時間は、下記式で定義される。
平均滞留時間(秒)=押出機下流配管容積(cm)×溶融体密度(g/cm)×3600/1000÷押出量(kg/hr)
【0100】
‐冷却‐
上記のように原料樹脂をバレル内で加熱溶融する一方、温度制御手段30によりバレル10の押出機出口14側の内壁がポリエステル(原料樹脂)の融点Tm(℃)以下の冷却部となるように制御する。バレル10の押出機出口14側の内壁を冷却部として原料樹脂の融点Tm(℃)以下に制御すれば、樹脂が過剰に加熱されて末端COOH量が増加することを抑制することができる。末端COOH量の増加を確実に抑制する観点から、かかる冷却部における温度は、(Tm−100)℃〜Tm℃の範囲内が好ましく、(Tm−50)℃〜(Tm−10)℃の範囲内がより好ましい。
【0101】
冷却部の長さは、スクリュー径Dに対し、4D〜11Dにすることが好ましい。冷却部の長さが4D以上であれば、溶融加熱された樹脂を効果的に冷却して末端COOHの増加を抑制する。一方、冷却部の長さが11D以下であれば、樹脂を冷却し過ぎて固化することを防ぎ、溶融押出しを円滑に行うことができる。
なお、押出機出口14における樹脂温度は、既述のように、275℃〜285℃にする。
【0102】
〔成形工程〕
本発明のポリエステルフィルム製造方法は、押出機から押出した溶融したポリエステルをシート状に成形してポリエステルシートを得る成形工程を有する。
本発明のポリエステルフィルム製造方法においては、上記構成の原料樹脂供給工程を経た後、押出機から押出した溶融樹脂であるポリエステルをシート状に製膜する。
なお、シート状とは、押出機から押出した後、帯状に成形されたポリエステルであって、延伸を完了していないポリエステルをいう。後述するように、押出機から押出した溶融したポリエステルは、シート状に成形した後、延伸工程により、更に延伸してポリエステルフィルムを得る。従って、延伸工程が、例えば、ポリエステルの搬送方向に延伸する縦延伸をした後、当該搬送方向と直交する方向に延伸する横延伸をする場合、縦延伸後であって、横延伸を行なう前のポリエステルは「シート状」ないし「シート」と称し、横延伸を終えたポリエステルを「フィルム状」ないし「フィルム」と称する。
【0103】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、溶融したポリエステルを、濾過精度が10μm以上である濾過フィルターを用いて濾過する濾過工程を有していてもよい。
既述のように、本発明のポリエステルフィルムの製造方法によれば、ベント部の内壁に揮発成分が固着することを防ぎ、その結果、溶融樹脂に異物(固着物が溶融樹脂に落下したもの)が混入しにくい。そのため、粒径が10μm以上の異物を分離し得る濾過精度が10μm以上である濾過フィルター、すなわち、フィルターの細孔が10μmである濾過フィルターを用いても、得られるポリエステルフィルムに異物が残存し難い。
【0104】
溶融樹脂中に異物が存在する場合には、より細孔径が小さな濾過精度の濾過フィルターを用いて異物を取り除けばよい。しかし、高耐候性のポリエステルフィルムを製造する場合、本発明のポリエステルフィルムの製造方法のように、固有粘度が0.70dL/g以上となる高固有粘度の原料樹脂を用いる。固有粘度が高いほど、溶融樹脂の粘度も高くなるため、細孔径が小さな濾過フィルターを用いると、濾過しにくくなるために、フィルターを通過するまでの滞留時間が長くなり、その結果、溶融樹脂が熱分解する場合がある。
これに対し、本発明のポリエステルフィルムの製造方法によれば、溶融樹脂への異物の混入を抑制することができるため、押出機出口14からダイ40までの溶融樹脂の滞留時間を20分以下(より具体的には3分以上20分以下)にすることができ、濾過フィルターの濾過精度を小さくしなくても、得られるポリエステルフィルム中に異物が残存し難い。
従って、濾過精度が10μm以上である濾過フィルターを用いて排出することができ、溶融樹脂の熱分解を抑制し、生産効率も向上することができる。
【0105】
押出機から押出した溶融したポリエステルは、図2に示すように、ギアポンプ44、フィルター42を介してダイ40から排出される。ダイ40の開口部の形状が長尺状の幅広な形状をしていることで、ダイ40から排出される溶融樹脂は、シート状に加工される。
【0106】
−ダイ−
図1に示すバレル10の押出機出口14には、押出機出口14から押出された溶融樹脂をシート状に排出するためのダイ40(図2)が設けられている。また、バレル10の押出機出口14とダイ40との間には、シートに未溶融樹脂や異物が混入することを防ぐためのフィルター42が設けられている。
【0107】
−ギアポンプ−
厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機100とダイ40との間にギアポンプ44を設けてもよい。ギアポンプ44から一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプ44による押出安定化を図ることが好ましい。
【0108】
ギアポンプ44を用いることにより、ギアポンプ44の2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を上げることなしにフィルターによる濾過が可能なことから、樹脂温度の上昇の防止、輸送効率の向上、及び押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルターの濾圧上昇が原因で、スクリューから供給される樹脂量が経時変動することも防止できる。ただし、ギアポンプ44を設置すると、設備の選定方法によっては設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり注意が必要である。
【0109】
ギアポンプ44は1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプ44の負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内、好ましくは15MPa、更に好ましくは10MPa以内とする。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプ44の一次圧力を一定にするために、押出機のスクリュー回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0110】
なお、本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、固有粘度(IV)が0.70dL/g以上の原料樹脂を用いるため、成形工程においては、原料樹脂をバレル内で加熱溶融して押出機出口14から押出された後、10分〜20分の平均滞留時間を経て、スクリュー径Dを考慮してスクリュー回転数N〔rpm〕と押出量Y〔kg/hr〕を制御することで下記式(1)を満たす条件下でシート状に溶融押出しを行うことが好ましい。
6.0×10−6×D≦Y/N≦1.1×10−5×D ・・・式(1)
IVが0.7dL/g以上の原料樹脂を溶融する場合、Nを低下させることで溶融と脱気、樹脂冷却を同時に満たし易い。また、押出機出口14での樹脂温度を特に290℃以下に制御することで、特にその下流の配管滞留での末端COOHの増加抑制に大きな効果がある。
Y/Nが6.0×10−6×D以上とすることで、スクリュー20A、20Bの高回転による原料樹脂の過発熱を抑制し、押出機出口14における樹脂温度を290℃以下にし易く、ΔAVを4当量/トン以下にし易い。また、Y/Nが1.1×10−5×D以下であることで、ベント部直下の樹脂充填率が増加しにくく、ベント部16A、16Bから溶融樹脂が溢れにくくなるほか、ベント圧が低下しにくいため、押出機内部での樹脂の加水分解が進行しにくく、末端COOHの発生を抑制し易い。さらに、未溶融樹脂がフィルムに混入しにくくなり、ポリエステルフィルムの強度が低下することを抑制することができるので、延伸工程におけるフィルム破断を抑制することができる。
なお、原料樹脂の押出機への供給量〔kg/hr〕と押出機内の押出量とは同様に扱うことができ、原料樹脂の押出機への供給量がY〔kg/hr〕であるとき、押出機内の押出量はY〔kg/hr〕であると考えてよい。
【0111】
上記溶融押出しは、下記式(2)に示す条件で行なうことがより好ましく、下記式(3)に示す条件下で行うことがさらに好ましい。
7×10−6×D≦Y/N≦1×10−5×D ・・・式(2)
8×10−6×D≦Y/N≦9×10−6×D ・・・式(3)
【0112】
スクリュー回転数Nが低過ぎると、温度制御手段30によって温度ムラが生じて未溶融樹脂が生じ易く、スクリュー回転数Nが高過ぎると、過度に発熱して末端COOH量の増加につながるため、スクリュー回転数Nは1.9×10×D−0.5rpm〜8.4×10×D−0.5rpmが好ましく、6.3×10×D−0.5rpm〜7.9×10×D−0.5rpmがより好ましい。
また、押出量Yが少な過ぎると過度に加熱され易くなり、多過ぎると未溶融樹脂が生じ易くなるため、押出量Yは1.1×10−3×D2.5kg/hr〜7.6×10−3×D2.5kg/hrが好ましく、3.8×10−3×D2.5kg/hr〜7.1×10−3×D2.5kg/hrがより好ましい。
【0113】
バレル10の押出機出口14から押し出された樹脂をフィルター42に通してダイ40から(例えば冷却ロールに)押し出してシート状に成形する。
ダイ40からメルト(溶融樹脂)を押出した後、冷却ロールに接触させるまでの間(エアギャップ)は、湿度を5%RH〜60%RHに調整することが好ましく、15%RH〜50%RHに調整することがより好ましい。エアギャップでの湿度を上記範囲にすることで、シート表面のCOOH量やOH量を調節することが可能であり、低湿度に調節することで、シート表面のカルボン酸量を減少させることができる。
【0114】
なお、シート厚は、2mm〜8mmが好ましく、より好ましくは2.5mm〜7mmであり、さらに好ましくは3mm〜6mmである。厚みを厚くすることで、押出されたメルトがガラス転移温度(Tg)以下に冷却するまでの所要時間を長くすることができる。この間に、フィルム表面のCOOH基はポリエステル内部に拡散され、表面COOH量を低減することができる。
【0115】
上記工程により、原料樹脂の末端COOH量と溶融押出しされたシートの末端COOH量との差ΔAVが4当量/トン以下のポリエステルシートを製造することができ、かかるポリエステルシートを延伸することで、例えば、末端COOH量が20当量/トン以下であるポリエステルフィルムが得られる。末端COOH量が20当量/トン以下であると、耐加水分解性に優れており、長期耐久性が得られる。末端COOH量は、耐加水分解の点では低いことが望ましいが、フィルムを被着物に密着させる場合の密着性向上の点から、2当量/トン以上が好ましい。中でも、10〜20当量/トンの範囲がより好ましい。
末端COOH量の測定は、既述の方法と同様にして行なうことができる。
【0116】
本発明によれば、溶融樹脂押出工程において、溶融したポリエステルを1〔トン/時間〕以上の押出量で押出しても、二軸押出機に投入する原料樹脂であるポリエステルと、二軸押出機から排出されシート状に成形されたポリエステルシートとは、固有粘度の差が0.05〔dL/g〕以下であり、かつ、末端カルボキシ基濃度の差が4〔当量/トン〕以下とすることができる。
【0117】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、下記(1)〜(5)を全て満たすポリエステルフィルムである。
(1)固有粘度が0.70以上1.0dL/g以下
(2)末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下
(3)フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が1個以下
(4)120℃、相対湿度100%の条件で保存した後の、破断伸度保持率が50%となる時間が85時間以上
(5)120℃、相対湿度100%の条件で85時間保存した後のフィルム部分放電開始電圧保持率97%以上
【0118】
本発明のポリエステルフィルムは、既述の本発明のポリエステルフィルム製造方法により製造することができる。
本発明のポリエステルフィルム製造方法において、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融樹脂を押出すことにより、溶融樹脂への異物の混入を抑制することができるため、(3)ポリエステルフィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物を1個以下とすることができる。その結果、ポリエステルフィルムの耐電圧性も向上することができ、(5)120℃、相対湿度100%の条件で85時間保存した後のフィルム部分放電開始電圧保持率を97%以上とすることができる。
【0119】
また、本発明のポリエステルフィルム製造方法においては、固有粘度が0.70〔dL/g〕以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを原料樹脂として用いるため、得られるポリエステルフィルムは、耐候性に優れ、(1)固有粘度が0.70以上1.0dL/g以下、(2)末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下、かつ(4)120℃、相対湿度100%の条件で保存した後の、破断伸度保持率が50%となる時間が85時間以上とすることができる。
【0120】
本発明のポリエステルフィルムは、(1)固有粘度が0.73以上1.0dL/g以下であり、(2)末端カルボキシ基濃度が18当量/トン以下であり、(3)フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が0.5個以下であることが好ましい。
【0121】
また、本発明のポリエステルフィルムは、前記末端封止剤に由来する構造部分を含むことが好ましく、好ましい末端封止剤として、前記した、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いてもよい。
【0122】
本発明の方法により製造されるポリエステルフィルムは、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0123】
光安定化剤を含有すると、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、樹脂が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤を含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、樹脂中の紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0124】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、樹脂中に均一分散できることが望まれる。
【0125】
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0126】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0127】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0128】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明のポリエステルフィルム製造方法により製造されるため、高い耐候性を有すると共に、高い耐電圧性を有することができる。本発明のポリエステルフィルムは、建築材料、電化製品材料、日用品材料等、種々の用途に適用し得るが、中でも、屋外等で日光や露天にさらされる環境に用いられる材料に適しており、特に太陽電池用ポリエステルフィルムとして用いることに適している。
【0129】
<太陽電池用バックシート>
本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールの太陽光入射側とは反対側の裏面に配置される裏面保護シート(太陽電池用バックシート)、バリアフィルム基材等の用途に好適である。
【0130】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光が入射する透明性のフロント基板と、前記フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び前記太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、前記セル構造部分の前記フロント基板が位置する側と反対側に設けられ、前記封止材と隣接して配置された、本発明の太陽電池用バックシートと、を備えて構成される。
【0131】
太陽電池モジュールは、例えば、図4に示されるように、電気を取り出す金属配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)3をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止材2で封止し、これを、ガラス等の透明基板4と、本発明のポリエステルフィルムを備えたバックシート1とで挟んで互いに張り合わせることにより構成されてもよい。
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0132】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、「部」および「%」は、特に記載しない限り、質量基準である。
【0133】
〔実施例1〜実施例26、比較例1〜比較例8〕
表1〜表2に示す押出機を用いて、表1〜表2に示す原料樹脂を、表1〜表2の「押出量Y」欄に示す押出量〔トン/時間〕により押出して、それぞれのポリエステルフィルムを製造した。比較例5及び比較例6を除く実施例及び比較例においては、ベント部を有するベント付き二軸押出機を用いてポリエステルフィルムを製造した。比較例5及び比較例6では、ベント部を備えていない単軸押出機を用いて原料樹脂を押出した。
また、比較例5〜8を除き、ベント部に不活性ガスを吹き込みながら、原料樹脂を押出した。不活性ガスの吹き込み条件については後述した。
【0134】
‐二軸押出機‐
二軸押出機は、図1に示すように2箇所にベントが設けられたバレル内に、下記構成のスクリューを備え、バレルの周囲には長手方向に9つのゾーンに分割して温度制御を行うことができるヒータ(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。
スクリュー径D:表1〜表2の「押出機」「種類」欄に示す括弧内の大きさ〔mm〕
例えば、「押出機」「種類」欄に(φ196)とある場合は、スクリュー径Dが196mmであることを意味する。
スクリュー長L:スクリュー径Dとの比(L/D)が31.5となる長さ[mm]
(1ゾーンの幅:3.5D)
スクリュー形状:第1ベント部直前に可塑化ニーディング部を設置
第2ベント部直前に脱気促進ニーディング部を設置
ベント部位置:第1ベント部・・・図1のC5の位置
第2ベント部・・・図1のC7の位置
第1ベント部および第2ベント部は、いずれも、図3に示す構成のベント部を用いた。
【0135】
二軸押出機の押出機出口以降には、図2に示すように、下記構成のギアポンプ、フィルターおよびダイを接続し、ダイを加熱するヒーターの設定温度は280℃とした。
ギアポンプ:2ギアタイプ
フィルター:金属繊維焼結体のリーフディスクフィルター
フィルター孔径:表1〜表2の「フィルター」「濾過サイズ」欄に示す大きさ〔μm〕
【0136】
−単軸押出機−
単軸押出機は、バレル内に、下記構成のスクリューを備えている。また、二軸押出機と同様に、バレルの周囲には、長手方向に9つのゾーンに分割して温度制御を行うことができるヒータ(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。
スクリュー径D:表1〜表2の「押出機」「種類」欄に示す括弧内の大きさ〔mm〕
例えば、「押出機」「種類」欄に(φ250)とある場合は、スクリュー径Dが250mmであることを意味する。
スクリュー長L:スクリュー径Dとの比(L/D)が31.5となる長さ[mm]
(1ゾーンの幅:3.5D)
【0137】
比較例5で用いた単軸押出機の押出機出口以降には、二軸押出機と同様の構成で、下記構成のギアポンプ、フィルターおよびダイを接続し、ダイを加熱するヒーターの設定温度は280℃とした。
ギアポンプ:2ギアタイプ
フィルター:金属繊維焼結体のリーフディスクフィルター
フィルター孔径:表1の「フィルター」「濾過サイズ」欄に示す大きさ〔μm〕
なお、比較例6で用いた単軸押出機では、フィルターを取り付けなかった。
【0138】
‐原料樹脂‐
原料樹脂は、表1〜表2の「原料樹脂物性(平均値)」欄の、固有粘度〔dL/g〕が、「固有粘度」欄に示す値であり、末端カルボキシ基濃度〔モル当量/トン〕が「末端COOH」欄に示す値であり、かつ含有水分量〔ppm〕が「水分量」欄に示す量である「樹脂組成」欄に示す樹脂のペレットを用いた。
なお、ホモPETとは、ポリエチレンテレフタレートの単独重合体であることを意味する。
【0139】
原料樹脂の固有粘度(IV)および末端カルボキシ基濃度(AV)は、次の方法により測定した値である。
(1)固有粘度(IV)
原料樹脂を、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])の混合溶液に溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて25℃での相対粘度ηを測定し、この相対粘度から求めた比粘度(ηsp)と濃度cからηsp/cを求め、3点法により固有粘度(IV)を算出した。
【0140】
(2)末端COOH量(AV)
原料樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、クロロホルムを加えた混合溶液にフェノールレッド指示薬を滴下し、これを基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定した。滴下量から末端カルボキシル基の濃度[モル当量/トン]を算出した。
【0141】
原料樹脂の含有水分量は、原料樹脂の乾燥温度、乾燥時間等によって調整し、微量水分計(カールフィッシャー法)を用いて25℃にて測定した値である。
【0142】
−フラフ、添加剤−
原料樹脂と共に、フラフを添加した場合には「フラフ混入率」欄に、原料樹脂の全質量に対する割合〔%〕を示し、添加剤(末端封止剤)を添加した場合には「添加剤」欄に示す種類の添加剤および「添加剤」欄のカッコ内に原料樹脂の全質量に対する割合〔%〕を示した。
なお、添加剤(末端封止剤)の詳細は、次のとおりである。
CI:カルボジイミド系化合物
ラインケミー社製「スタバクゾールP100」
EP:エポキシ系化合物
Hexion SpecialityCnemicals社製「カージュラE10P」
OX:オキサゾリン系化合物
日本触媒社製「エポクロスRPS−1005」
【0143】
二軸押出機は、図1における供給口12側の1番目のゾーン(C1)は70℃に、2〜8番目のゾーン(C2〜C8)は270℃に、9番目のゾーン(C9)は250℃にそれぞれ温度設定を行った。また、単軸押出機も、二軸押出機に準じた形態で温度設定を行なった。
スクリューの回転数を60rpmに設定し、各押出機の供給口から、原料樹脂、及び必要に応じてフラフと添加剤を供給して、加熱溶融し、押出量を、表1〜表2の「押出量」欄に示す量〔トン/時間〕に設定して溶融押出を行った。
【0144】
ベント付き押出機を用いた溶融押出において、ベント部に不活性ガスを吹き込むときは、表1〜表2の「ベント部へ吹き込むガス」欄の「種類」欄に示す種類の不活性ガスを、「流速」欄に示す流速〔m/秒〕で、押出量Y〔トン/時間〕に対する流量(吹き込み量)〔リットル/時間〕が「X/Y」欄に示す量〔リットル(L)/トン(t)〕となるように吹き込んだ。また、ベント部に吹き込んだ不活性ガスを予め加熱した場合は、「予備加熱(ガス温度T)」欄に「有り」と示し、その加熱温度(不活性ガスの温度T〔℃〕)を示した。ベント部に吹き込んだ不活性ガスを予め加熱しなかった場合は、「予備加熱(ガス温度T)」欄に「−」と示した。
表1〜表2に示す不活性ガスの吹き込み条件は、第1ベント部と第2ベント部との両方に共通する条件である。
また、第1ベント部に位置する溶融樹脂の温度Z〔℃〕を、「樹脂温度Z」欄に示した。なお、温度Zは、第1ベント部に備えられ、バレル内部を観察可能な窓から、ドクターハイマン放射温度計(HEITRONICS社製D65205)」を使用し測定した溶融樹脂の表面温度である。
【0145】
溶融樹脂は、押出機出口から押出し、押出された溶融体(メルト)をギアポンプ、フィルター(比較例6では用いず)を通した後、ダイから冷却(チル)ロールに押出した。押出されたメルトは、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールは、中空のチルロールを用い、この中に熱媒として水を通して温調できるようになっている。
なお、ダイ出口から冷却ロールまでの搬送域(エアギャップ)は、この搬送域を囲い、この中に調湿空気を導入することにより、湿度を30%RHに調節してある。押出機の押出量の調整及びダイの開口部の形状を上記構成とすることにより、メルト厚みを3300μmとし、ポリエステルシートを得た。
【0146】
−延伸、巻取り−
上記方法で冷却ロール上に押出し、固化したポリエステルシートに対し、以下の方法で逐次2軸延伸を施し、250μmの厚みのフィルムを得た。なお、延伸は、縦延伸を95℃で、横延伸を140℃で縦延伸、横延伸の順に行なった。その後、210℃で12秒間熱固定した後、205℃で横方向に3%緩和した。延伸後、両端を10cmずつトリミングした後、両端に厚み出し加工を施した後、直径30cmの樹脂製巻芯に3000m巻き付けた。なお、幅は1.5m、巻長は2000mであった。
【0147】
(延伸方法)
a)縦延伸
ポリエステルシートを周速の異なる2対のニップロールの間に通し、縦方向(搬送方向)に延伸した。なお、予熱温度を95℃、延伸温度を95℃、延伸倍率を3.5倍、延伸速度を3000%/秒として実施した。
【0148】
b)横延伸
縦延伸した前記ポリエステルシートに対し、テンターを用いて下記条件にて横延伸して、延伸を完了した。
<条件>
・予熱温度:110℃
・延伸温度:120℃
・延伸倍率:3.9倍
・延伸速度:70%/秒
【0149】
以上のようにして、実施例1〜実施例26および比較例1〜比較例8の各PETフィルムを作製した。次に、作製したPETフィルムを用いて、以下の評価を行なった。評価結果を表3〜表4に示す。
【0150】
<PETフィルムの評価>
(1)固有粘度(IV)
PETフィルムを、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])の混合溶液に溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて25℃での相対粘度ηを測定し、この相対粘度から求めた比粘度(ηsp)と濃度cからηsp/cを求め、3点法により固有粘度(IV)を算出した。
また、縦延伸を行なっていないポリエステルシートについても、同様の方法で固有粘度を算出し、原料樹脂の固有粘度との差(Δ固有粘度)を算出した。
【0151】
(2)末端COOH量(AV)
PET0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、クロロホルムを加えた混合溶液にフェノールレッド指示薬を滴下し、これを基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定した。滴下量から末端カルボキシル基の濃度[モル当量/トン]を算出した。
また、縦延伸を行なっていないポリエステルシートについても、同様の方法で末端COOH量を算出し、原料樹脂の末端COOH量との差(Δ末端COOH)を算出した。
【0152】
(3)異物〔個/10g〕
PETフィルムに対し、ベース面状投影機(反射光、透過光にて角度を変えて検査)を用いてフィルム中の異物を検出した後、拡大画像を撮影し、画像処理装置を用いて異物を数え、PETフィルム10g中の個数に換算した。
【0153】
(4)結晶配向度(フィルム面の配向度)
PETフィルムをXD測定し、下記式からPETフィルムの表面における結晶配向度〔面配向度(Δn)〕を求めた。
結晶配向度(Δn)
={2θ=23°((110)面)のピーク強度}/{2θ=25.8°((100)面)のピーク強度}
【0154】
(5)製膜性(圧力安定性)
PETフィルムの製膜時の状態(圧力安定性)を下記の評価基準にしたがって評価した。圧力の不安定化により、膜揺れや静電印加ムラが生じるため、かかる観点から評価した。
<評価基準>
◎:膜揺れや静電印加ムラが無く、目視でフィルム面状の良好なものであった。
○:膜揺れや静電印加ムラは殆どみられず、目視でフィルム面状もほぼ良好なものであった。
△:膜揺れや静電印加ムラが僅かにみられ、目視でフィルム面状の悪化が見られるが、実使用上は問題ない程度であった。
×:膜揺れや静電印加ムラがみられ、目視でフィルム面状の悪化がみられた。
【0155】
(6)耐加水分解性
PETフィルムを、120℃で100%RH(相対湿度100%)の湿熱環境下に静置する加速試験をし、その後JIS−K7127法により破断伸度測定を行なって、下記の評価基準にしたがって評価した。
【0156】
<評価基準>
◎:破断伸度が加速試験前のPETフィルムの50%にまで減少する時間が、100時間を超えるもの
○:破断伸度が加速試験前のPETフィルムの50%にまで減少する時間が、90時間を超え100時間以下のもの
△:破断伸度が加速試験前のPETフィルムの50%にまで減少する時間が、80時間を超え90時間以下のもの
×:破断伸度が加速試験前のPETフィルムの50%にまで減少する時間が、80時間以下のもの
【0157】
(7)耐電圧性(部分放電開始電圧保持率)
PETフィルムを、120℃、100%RHで85時間静置する湿熱処理をする前の部分放電開始電圧と、当該湿熱処理をした後の部分放電開始電圧を測定し、測定結果を下記式に当てはめ、部分放電開始電圧保持率〔%〕を算出した。なお、PETフィルムの部分放電開始電圧は、部分放電試験器〔菊水電子工業社製、KPD2050〕を用い、IEC60664に準拠して測定した。
部分放電開始電圧保持率〔%〕=(V/V)×100
〔Vは、上記湿熱処理をする前のPETフィルムの部分放電開始電圧を表し、
は、上記湿熱処理をした後のPETフィルムの部分放電開始電圧を表す。〕
なお、部分放電開始電圧保持率の許容範囲は、97%以上であり、98%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
【0158】
【表1】

【0159】
【表2】

【0160】
【表3】

【0161】
【表4】

【0162】
表3〜表4からわかるように、比較例1〜比較例8のPETフィルムは、耐候性(耐加水分解性)および耐電圧性(部分放電開始電圧保持率)の少なくとも一方が不十分であるところ、実施例1〜実施例26のPETフィルムは耐候性および耐電圧性の両方に優れ、高耐候性と高耐電圧性とを両立したPETフィルムであった。
【0163】
〔実施例27〜実施例52〕
<太陽電池モジュールの作製>
実施例1〜実施例26の各PETフィルムを太陽電池用バックシートとして用い、次のようにして、実施例27〜実施例52の太陽電池モジュールを作製した。
厚さ3.2mmの強化ガラスと、EVAシート〔三井化学ファブロ社製のSC50B〕と、結晶系太陽電池セルと、EVAシート〔三井化学ファブロ社製のSC50B〕と、実施例1〜実施例26のPETフィルムのいずれか1枚とを、この順に重ね合わせ、真空ラミネータ〔日清紡社製、真空ラミネート機〕を用いてホットプレスすることにより、各部材とEVAシートとを接着させた。
【0164】
作製した各太陽電池モジュールについて、発電運転をしたところ、いずれも太陽電池として良好な発電性能を示した。
【符号の説明】
【0165】
10 バレル
12 供給口
14 押出機出口
16 ベント部
20 スクリュー
30 温度制御手段
40 ダイ
42 フィルター
44 ギアポンプ
46 原料供給装置
50 ベント部
52 不活性ガス供給口
54 不活性ガス供給管
56 ベント部内部
60 トラップ
70 真空ポンプ
100 二軸押出機
102 二軸押出機
C1〜C9 加熱/冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70〔dL/g〕以上1.0〔dL/g〕以下であり、末端カルボキシ基濃度が20〔当量/トン〕以下であり、含有水分量が600〔ppm〕以下であるポリエステルを、ベント部を有する二軸押出機に供給する原料樹脂供給工程と、
前記ベント部に不活性ガスを吹き込みながら溶融したポリエステルを押出す溶融樹脂押出工程と、
前記溶融したポリエステルを、シート状に成形してポリエステルシートを得る成形工程と、
前記ポリエステルシートをフィルム状に延伸する延伸工程と、
を有するポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスの流速が0.1〔m/秒〕〜30〔m/秒〕である請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスの前記ベント部への吹き込み量X〔L/時間〕が、0.5Y≦X≦5000Y(ただし、前記Yは、1時間あたりの前記溶融したポリエステルの押出量〔トン〕)である請求項1または請求項2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは、予め加熱してから前記ベント部に吹き込む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガスの温度T〔℃〕が、前記ベント部に位置するポリエステルの温度Z〔℃〕に対して、Z−30≦T≦Z+30である請求項4に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記溶融したポリエステルを、濾過精度が10μm以上である濾過フィルターを用いて濾過する濾過工程を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記溶融樹脂押出工程は、前記溶融したポリエステルを1〔トン/時間〕以上の押出量で押出し、前記二軸押出機に投入する前記ポリエステルと、前記ポリエステルシートとは、固有粘度の差が0.05〔dL/g〕以下であり、かつ、末端カルボキシ基濃度の差が4〔当量/トン〕以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法により製造されたポリエステルフィルム。
【請求項9】
下記(1)〜(5)を全て満たすポリエステルフィルム。
(1)固有粘度が0.70以上1.0dL/g以下
(2)末端カルボキシ基濃度が20当量/トン以下
(3)フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が1個以下
(4)120℃、相対湿度100%の条件で保存した後の、破断伸度保持率が50%となる時間が85時間以上
(5)120℃、相対湿度100%の条件で85時間保存した後のフィルム部分放電開始電圧保持率97%以上
【請求項10】
前記(1)は、固有粘度が0.73以上1.0dL/g以下であり、前記(2)は、末端カルボキシ基濃度が18当量/トン以下であり、前記(3)は、フィルム10g中に含まれる粒径10μm以上の異物が0.5個以下である請求項9に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシート。
【請求項12】
太陽光が入射する透明性のフロント基板と、
前記フロント基板の上に設けられ、太陽電池素子及び前記太陽電池素子を封止する封止材を有するセル構造部分と、
前記セル構造部分の前記フロント基板が位置する側と反対側に設けられ、前記封止材と隣接して配置された、請求項11に記載の太陽電池用バックシートと、
を備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43411(P2013−43411A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184152(P2011−184152)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】