説明

ポリエステルフィルムおよびそれを用いたデータストレージ

【課題】記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できるポリエステルフィルムの提供およびそれを用いたデータストレージの提供。
【解決手段】記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、
磁性層を形成する側のポリエステルA層は、不活性粒子aを含有し、該不活性粒子aの接触率が0〜25%、該不活性粒子aに起因の粗大突起数が0〜10個/100cm以下、そしてTi化合物をTi元素量で5ppm以上100ppm以下の範囲で含むポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いるポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜5には、粗大突起を低減するために触媒種を特定のものにしたり、フィルム中に含有させる粒子として粗大粒子の少ないものを用いること、およびそのような処理を行った粗大突起の少ないフィルムが提案されている。
しかしながら、近年の高密度記録の要求はすさまじく、特に記録容量が1巻あたり0.8TBを超えるようなデータストレージでは、前述の特許文献1〜5で粗大突起がないとされたフィルムでも十分に応えられなくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−114492号公報
【特許文献2】特開2003−291288号公報
【特許文献3】特開2002−363311号公報
【特許文献4】特開2002−363310号公報
【特許文献5】特開2002−059520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究するにあたって、まずは外部異物(いわゆるコンタミ)成分を除くことを行ったが、それだけでは不十分であった。具体的には、持ち込み異物などが入らないようにしたり、フィルターなどで除去しても、滑剤として含有させる不活性粒子同士が接触している状態で存在すると、本来形成されるべき不活性粒子による突起に比べ直径や高さが大きい突起を形成し特に記憶容量が0.8TB以上あるデータストレージ用途では大きなエラーの原因となること、そしてこの不活性粒子同士の接触をよりコントロールすることが必要があることを見出した。そして、この不活性粒子同士が接触した状態による突起を、10個/100cm以下にまで減少させたとき、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
かくして本発明によれば、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側のポリエステルA層は、不活性粒子aを含有し、該不活性粒子aの接触率が0〜25%、不活性粒子aに起因の粗大突起が0〜10個/100cm以下、そして、Ti化合物を、Ti元素量で5ppm以上100ppm以下の範囲で含有するポリエステルフィルムが提供される。
【0007】
また、本発明の好ましい態様として、さらにポリエステルA層を構成するポリエステルが、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とすること、ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、表面粗さ(RaA)1〜3nmの範囲であること、磁性層を形成しない側の表面が、表面粗さ(RaB)3〜10nmの範囲にあること、不活性粒子aの平均粒径が0.05μm以上0.2μm以下の範囲にあり、その含有量が、ポリエステルA層の重量を基準として、0.01重量%以上0.5重量%未満の範囲であることの少なくともいずれかを具備するポリエステルフィルムも提供される。
【0008】
さらにまた、上述の本発明のポリエステルフィルムを用いた磁気記録媒体として、上述の本発明のポリエステルフィルムと、そのポリエステルA層側の表面に形成された磁性層とからなる記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージ、特に磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式であるデータストレージも提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いたときにエラーとなる不活性粒子起因の粗大突起が低減されていることから、電磁変換特性に優れたデータストレージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、詳述する。
本発明のポリエステルフィルムは、磁性層を形成する側の表面にあるポリエステルA層が不活性粒子aを含有し、その不活性粒子aの接触率が0〜25%であり、好ましくは0〜15%、さらに好ましくは0〜10%である。接触率が上限を超えると、突起の高さが高くエラーになり、またエラーにまでならなくてもヘッドとテープの距離が遠くなり、電磁変換特性が悪くなる。一方、下限は特に制限されず、少ないほど好ましいが、生産性などの点から3%以上であることが好ましい。
【0011】
なお、本発明における接触率とは、後述の接触率の測定で説明しているように、個々の不活性粒子aを観察したとき、それ以上分割出来ない最小の単位を一次粒子とし、その全一次粒子数をカウントし、その中で他の不活性粒子aとの間に境界が確認できない、すなわち接触状態にある一次粒子数をカウントし、接触状態にある一次粒子数を、前述の全一次粒子数で割った値である。
【0012】
また、本発明のポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面にあるポリエステルA層は、後述の粗大突起の測定で測定される不活性粒子aに起因する粗大突起が0〜10個/100cmである。粗大突起は好ましくは0〜7個/100cmであり、さらに好ましくは0〜4個/100cmである。粗大突起が上限を超えるとエラーが増えたり、電磁変換特性が悪くなる。一方、下限は特に制限されず、少ないほど好ましいが、生産性などの点から1個/100cm以上であることが好ましい。
【0013】
ところで、本発明のポリエステルフィルムは、磁性層を形成する側の表面にあるポリエステルA層が、前述の接触率と粗大突起数を具備するものであれば、その製造方法は特に制限されない。ただ、前述の特許文献1〜5に記載されるような凝集しにくい不活性粒子の選択や、溶融混練などによる分散性強化などだけでは難しい。そこで、前述の接触率と粗大突起数を満足させるための好ましい方法について、以下説明する。
【0014】
まず、不活性粒子aとしては、粒度分布がシャープなものにしやすく、一次粒子の状態で存在しやすい不活性粒子を選択する。具体的な不活性粒子aとしては、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンなどの有機高分子粒子および球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特にシリコーン樹脂、架橋ポリスチレンおよび球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。もちろん、これらの不活性粒子を含有させる場合は、さらに粗大粒子をなくすため、フィルターでのろ過を行ったり、分散剤で不活性粒子の表面を処理したり、押出機での混練を強化することが好ましい。
【0015】
好ましい不活性粒子aの平均粒径は、0.05μm以上0.2μm以下であり、その不活性粒子aの含有量は、ポリエステルA層の重量を基準として、0.01重量%以上0.5重量%未満である。平均粒径が下限より小さいと、不活性粒子a同士の接触がしやすくなる。他方、平均粒径が上限よりも大きいと、突起の高さが高くなり、電磁変換特性が低下しやすい。また、不活性粒子aの含有量が0.01重量%未満だと滑り性が悪くなり巻取りが困難になり、他方上限よりも多くなると、不活性粒子a同士の接触が多くなりやすく、電磁変換特性が悪くなりやすい。さらに好ましい不活性粒子aの平均粒径は0.07〜0.15μm、含有量は0.03〜0.15重量%の範囲である。
【0016】
また、不活性粒子aのポリエステルへの添加方法としては、ポリエステルに不活性粒子aを溶融混練で添加するよりも、ポリエステルの重合段階、特にエステル交換反応やエステル化反応といったより初期の段階にエチレングリコールスラリーの状態で添加するのが好ましい。その際、ポリエステルの重合触媒として、チタン化合物を用いていること、また、エチレングリコールスラリーが少量の水分を含有していることが好ましい。
【0017】
これは、不活性粒子aを重合時にエチレングリコールスラリーの状態で添加するとき、エステル交換反応やエステル化反応のときに触媒としてTi化合物を触媒として使用することにより、触媒周辺に粒子同士が集まり凝集するのを防げるためである。Ti化合物の含有量は、Ti元素で、ポリエステルA層の重量を基準として、5〜100ppmが必要であり、好ましくは7〜50ppm、さらに好ましくは10〜30ppmである。Ti元素量が下限未満であると重合時間が長くなり、接触率が高くなったりする。他方上限を超えると、触媒量が多すぎるため、触媒の周囲での不活性粒子aの接触を発生させやすくなる。また、驚くべきことに、エチレングリコールスラリーの水分率を特定の範囲に調整することで重合中の不活性粒子a同士の接触を抑制することができる。そのような観点から、好ましいエチレングリコールスラリーの水分率は、エチレングリコールスラリーの重量を基準として、0.5〜10.0wt%であり、さらに好ましくは1.5〜5.0wt%である。添加方法はエチレングリコールスラリーに滑剤を分散させた後にイオン交換水を所定量添加する方法などがあるが所望の水分率を達成できれば特にほかの方法を使用することもできる。
【0018】
さらに詳しく、本発明のポリエステルフィルムの製造方法の一例を製造工程に基づいて説明する。まず、本発明におけるポリエステルの製造方法は、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。前述のとおり、原料由来の異物を低減するために、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールなどの原料は、精製を繰り返して、異物を低減しておくのが好ましい。ここでの異物が多いと、後述のろ過によっても異物が取りきれず、粗大突起が増えてしまうことがある。
【0019】
このように精製された原料は、前述の第一反応によってポリエステル前駆体となる。ここで、このポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行ない、不活性粒子aの接触状態を壊したり、接触状態にある不活性粒子aを取り除くことが好ましい。このようにして接触状態にある不活性粒子a量を減らすことで、後述の第二反応後の濾過で、さらに接触状態にある不活性粒子aを減らしやすくなる。なお、第1フィルターでの濾過は一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。したがって、第一反応と第二反応の間で行なう第1フィルターの濾過精度は、フライスペック低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度がさらに8μm以下、さらに5μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくとそれだけ詰まりやすく交換周期が短くなるので、生産性などの観点から3μm以上、さらに4μm以上であることが好ましい。また、第1フィルターは、金属繊維の不織布を積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。なお、このような不溶性粗大異物量は、原料段階から極力減らすことが好ましいが、前述のとおり難しく、第一反応後のフィルター濾過によって取り除くことが、簡便で且つ極めて有効である。
【0020】
さらに好ましい第一反応の条件について説明する。第一反応は、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃〜270℃の範囲で行なうことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、不活性粒子aの接触をより抑えやすく、また副生物の発生を抑制できる。
【0021】
また、第一反応の反応速度をより早くして、不活性粒子の接触を防ぐためには、前述のとおり、Ti化合物を触媒として使用する。加圧下で行う場合も、反応の進みやすさの点からTi化合物が優れている。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを好ましく例示できる。
添加する触媒量は、前述の含有量となる範囲が好ましく、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0022】
つづいて、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
本発明では、得られるポリエステルに、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行なうことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0023】
ところで、重縮合反応の温度は270℃〜300℃の範囲で行い、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり、不活性粒子aの接触率が高くなったり、重合度の高いポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でも前述の第1反応に添加されたTi化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0024】
ところで、前述のとおり、さらに接触状態にある不活性粒子aの割合を低減する観点から、重縮合反応によって得られる所望の分子量を有するポリエステルを、溶融状態で95%濾過精度がさらに1.5μm以下の第2フィルターで濾過することがこのましい。このような濾過により、前述の第一反応と第二反応の間で行なう濾過では取りきれなかった、またはその後に生成された接触状態にある不活性粒子aを取り除いたり、解砕したり出来る。好ましい第2フィルターの95%濾過精度は、1μm以下であり、小さければ小さいほどフライスペックの点では好ましいが、生産性などの点から0.2μm以上、さらに0.3μm以上であることが好ましい。また、第2フィルターは、金属不織布メディアを積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。
【0025】
このようにして接触状態の少ない不活性粒子aを含有するポリエステルを得ることができるが、それをポリエステルA層のポリエステルとしてそのまま用いるよりも、不活性粒子aを0.02〜1.0重量%の範囲で含有するマスターポリエステルとし、該マスターポリエステルを、粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが、不活性粒子aの接触状態をさらに低減する上で好ましい。
【0026】
このようにして得られるポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分をさらに共重合、例えば繰り返し単位のモル数に対して10モル%以下、さらに5モル%以下の範囲で共重合していてもよいし、他の熱可塑性樹脂などを、例えば20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲でブレンドしても良いし、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、核剤、を必要に応じて配合しても良い。
【0027】
つぎに、このようにして得られた接触状態の少ない不活性粒子aを含有するポリエステルを、磁性層を形成する側の表面に位置づけられるポリエステルA層となるように配置して、溶融状態でダイからシート状に押出し、回転している冷却ドラムの表面に接触させて冷却し、未延伸フィルムとする。なお、本発明のポリエステルフィルムは、データストレージのベースフィルムに用いることから、上記未延伸フィルムをフィルムの製膜方向および幅方向にそれ自体公知の方法で延伸した二軸配向フィルムであることが好ましい。なお、前述の第2フィルターの濾過は、製膜直前であるほど、不活性粒子aの接触状態にあるものをより最終段階に近い状態で取り除いたり解砕できるので、製膜する際の溶融押出工程で用いるのが好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムは、前述のとおり、磁性層を形成する側の表面にあるポリエステルA層が、前述の不活性粒子aの接触が少ないものであれば良く、ポリエステルA層の磁性層を形成しない側の表面に、他のポリエステルからなる層が形成された積層ポリエステルフィルムであってもよい。
【0028】
以下、積層二軸配向ポリエステルフィルムを例にとって、さらに詳述する。まず、押出し口金内または口金以前(一般に、前者はマルチマニホールド方式、後者はフィードブロック方式と呼ぶ)で、前述のポリエステルA層を形成するポリエステルと、他のポリエステルBととを、必要に応じて前述のような高精度のフィルターでろ過したのち、溶融状態にて積層複合し、所望の厚み比の積層構造となし、次いで口金よりポリエステルの融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度でフィルム状に共押出ししたのち、30〜70℃の冷却ロールで急冷固化し、未延伸積層フィルムを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−10)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向とは直角方向(一段目延伸が縦方向の場合には、二段目延伸は横方向となる)に(Tg)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸する。さらに、必要に応じて、縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。すなわち、2段、3段、4段あるいは多段の延伸を行うとよい。全延伸倍率としては、通常9倍以上、好ましくは10〜35倍、さらに好ましくは12〜30倍である。
【0029】
さらに、前記二軸配向フィルムは(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、180〜250℃で熱固定結晶化することによって、優れた寸法安定性が付与される。その際、熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0030】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、前述のとおり、磁性層を形成する側の表面に、粒子同士の接触が極めて抑えられたポリエステルA層が配置されていることから、エラーの少ないデータストレージに好適なベースフィルムとして用いることができる。
【0031】
つぎに、本発明の好ましい態様について、以下、詳述する。
本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステルは、フィルムへの製膜が可能なものであれば、それ自体公知のものを採用できる。例えば、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分との重縮合によって得られる芳香族ポリエステルが好ましく挙げられ、かかる芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が挙げられ、またジオール成分として、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、高温での加工時の寸法安定性の点からは、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。
【0033】
また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などを共重合したものも挙げられる。
【0034】
これらの中でも、前述のポリエステルA層に用いるのポリエステルは、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルが、データストレージ用途で必要とされる強度を達成しつつ、不活性粒子aの接触を抑えやすいために好ましい。
【0035】
また、前述のとおり、本発明のポリエステルフィルムは、磁性層が形成される側の表面にポリエステルA層が配置されていれば良く、ポリエステルA層の磁性層が形成されない側の表面に他のポリエステルからなる層(以下、ポリエステルB層と称する。)が形成されていてもよい。このポリエステルB層を構成するポリエステルも、ポリエステルA層のポリエステルと同様のものを使用することが好ましく、また0.8TB以上の容量のデーターストレージで要求される寸法安定性のうち湿度膨張に対する寸法安定性をより高めやすいことから、ポリエステルの酸成分のうち、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分に占める割合が5モル%以上25モル%未満である共重合ポリエステルを用いることも好ましい。なお、前記共重合ポリエステルにおける6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分に占める割合が下限より少ないと、湿度膨張係数を下げる効果が乏しくなり、他方、上限よりも多いと強度などの機械的性質が低下しやすくなる。
【0036】
なお、本発明におけるポリエステルフィルムは、磁性層を形成する側の表面がポリエステルA層であればよく、(ア)ポリエステルA層の一方の表面にポリエステルB層が形成された2層フィルム、(イ)ポリステルB層の両側にポリエステルA層が形成された3層フィルム、(ウ)ポリエステルA層、ポリエステルB層およびポリエステルC層(ポリエステルA層およびポリエステルB層とも相違する第3のポリエステル層)が形成された3層フィルム、(エ)ポリエステルA層とB層(必要に応じてポリエステルC層も)とが交互に多層積層された多層フィルムなど、いずれの積層構成であってもよい。
【0037】
なお、本発明のポリエステルフィルムの厚みは、データストレージに用いる点から、3〜6μmの範囲にあることが好ましく、またポリステルフィルムが積層フィルムである場合、磁性層を形成する側の最表面に形成されるポリエステルA層の厚みは、他のポリエステル層による突起などの影響を抑えるため、0.5μm以上、さらに1μm以上あることが好ましい。
【0038】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜1.0dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が1.0dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下する。なお、上記固有粘度は、ポリエステルがο−クロロフェノールで完全に溶解する場合は、ο−クロロフェノール中で35℃において測定したものであり、完全に溶解しない場合はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒中、35℃において、測定したものである。
【0039】
本発明におけるポリエステルの融点は、200〜300℃であることが好ましく、更に好ましくは210〜290℃、特に好ましくは220〜280℃である。融点が下限に満たないと二軸配向フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、融点が上限を超える場合は後述は溶融混練する際の温度が非常に高温になり、熱劣化などを引き起こしやすくなる。
【0040】
ところで、本発明のポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面は、表面粗さ(RaA)が1〜3nmの範囲にあることが好ましい。表面粗さ(RaA)が上限を超えると、不活性粒子aの接触率を抑えても、電磁変換特性が悪くなりやすい。他方、表面粗さ(RaA)が下限未満になると、平坦すぎて巻取りが困難になりやすい。
【0041】
また、本発明のポリエステルフィルムは、磁性層側が同じ表面粗さなら、より搬送性や巻取り性を向上させやすく、同じ搬送性や巻取り性なら、より磁性層側の表面粗さを平坦にすることができることから、2層以上のポリエステル層からなり、磁性層を形成しない側の表面粗さが磁性層を形成する側の表面粗さよりも1nm以上大きいことが好ましい。
【0042】
そのような観点から、磁性層を形成しない側の表面は、表面粗さ(RaB)が磁性層側の表面粗さ(RaA)よりも1nm以上大きく、3〜10nmの範囲にあることが好ましい。好ましいRaBは、4〜9nm、さらに5〜9nmの範囲である。RaBが下限未満もしくはRaAよりも小さいと、搬送性や巻取り性の向上効果が発現されがたく、他方上限を超えると、磁性層側の表面を突き上げや転写によって粗くしてしまうことがある。
【0043】
磁性層を形成しない側の表面に上述のような表面粗さを具備させるには、不活性粒子を含有させ、その含有する不活性粒子の平均粒径や含有量を調整すればよい。好ましい磁性層を形成しない側の表面に含有させる不活性粒子の平均粒径は0.2〜0.5μm、さらに0.2〜0.4μmの範囲が好ましく、またその含有量は該表面を形成するポリエステルの重量を基準として、0.01〜0.5重量%、さらに0.02〜0.4重量%の範囲が好ましい。さらに、磁性層を形成しない側の表面は、前述の不活性粒子に加えて、平均粒径が0.05〜0.15μm、さらに0.06〜0.14μmの不活性粒子を、0.05〜0.5重量%、さらに0.06〜0.4重量%の範囲で含有させること、すなわち2種類以上の不活性粒子を併用することで、より搬送性と巻取り性を高めつつ、磁性層側の表面を平坦に維持しやすいので好ましい。
【0044】
上述の磁性層を形成しない側の表面に含有させる不活性粒子としては、ポリマー中で安定的に存在できるものであれば特に制限されず、それ自体公知のものを採用でき、前述の磁性層を形成する側の表面で説明した不活性粒子aと同様な不活性粒子が特に好ましい。
【0045】
このようにして得られた本発明のポリステルフィルムは、そのポリエステルA層側の表面に磁性層を形成することでデータストレージとすることができる。なお、磁性層は、強磁性金属を含有する塗剤を塗布して形成する塗布型磁性層が好ましく、塗布型磁性層による走行性を利用できる観点から、記録方式がリニア記録方式であるデータストレージが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル、ポリエステルフィルムおよびデータストレージの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0047】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度は、前述のとおり、o−クロロフェノール、35℃で測定し、o−クロロフェノールでは均一に溶解するのが困難な場合は、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて35℃で測定して求めた。
【0048】
(2)粗大突起の数
得られたポリエステルフィルムを2枚用意し、磁性層を形成する側の表面とその反対面とを合わせてローラーで密着させ空気を排除する。そして、NaD線(波長589nm)を使用して照射したときに発生した干渉縞(ニュートンリング)のうち1リング以上に相当する点をマーキングして、プラズマリアクターを使用してエッチングしてポリエステルを除き粗大突起原因物を掘り出し、プラチナ(Pt)をスパッタして、FE−SEM(島津製作所製FE300)を使用して、1万倍にて形態観察を実施する。そして、不活性粒子aの接触による粗大突起かどうか判別し、不活性粒子aの接触による粗大突起の数を粗大突起としてカウントした。なお、測定は面積25cm2の視野について、測定箇所を変えて10箇所行い、その平均値とした。
【0049】
(3)不活性粒子aの接触率
まず、得られたポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面をプラズマリアクターを使用してエッチングする。表面を白金(Pt)スパッタして、上記(2)と同様にFE−SEM(島津製作所製FE−3000)で5000倍にて20視野ランダムに確認する。そして、粒子状に見える最小の形態のものを一次粒子として、その全一次粒子の個数をカウントし、その中で他の一次粒子との境界が見えないものを接触している一次粒子として、その個数をカウントし、一次粒子同士が接触している個数を、全一次粒子数で割ったものを接触率として計算する。計算結果は、100分率で表示した。
【0050】
(4)中心面平均粗さ(Ra)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm2)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより中心面平均粗さ(Ra)を求めた。
【0051】
(5)不活性粒子の平均粒径
添加する不活性粒子の平均粒径および相対標準偏差は、JIS Z8823−1に準拠する遠心沈降法で得られる粒度分布から得られる数平均値を平均粒径とした。
【0052】
(6)ガラス転移点および融点
ガラス転移点、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2920)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0053】
(7)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0054】
(8)データストレージ(磁気テープ)の作成
1m幅にスリットしたポリエステルフィルムを、張力20kg/mで搬送させ、フィルムの平坦な側の表面に下記組成の磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布(上層は磁性塗料で、塗布厚0.1μm、非磁性下層の厚みは1.0μmとした。)し、磁気配向させ、乾燥温度100℃で乾燥させる。次いで反対面に下記組成のバックコートを固形分の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理し、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、長さが850mで磁気記録容量が0.8TBのデータストレージカートリッジを作成した。
(磁性塗料の組成)
・強磁性金属粉末 : 100重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 10重量部
・変成ポリウレタン : 10重量部
・ポリイソシアネート : 5重量部
・ステアリン酸 : 1.5重量部
・オレイン酸 : 1重量部
・カーボンブラック : 1重量部
・アルミナ : 10重量部
・メチルエチルケトン : 75重量部
・シクロヘキサノン : 75重量部
・トルエン : 75重量部
非磁性塗料の組成
・二酸化チタン微粒子 :100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) : 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm): 10重量部
・αアルミナ : 0.1重量部
・変成ポリウレタン : 20重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 30重量部
・シクロヘキサノン : 200重量部
・メチルエチルケトン : 300重量部
・トルエン : 100重量部
【0055】
(9)電磁変換特性
電磁変換特性測定には、ヘッドを固定した1/2インチリニアシステムを用いた。記録は、電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)を用い、再生はMRヘッド(8μm)を用いた。ヘッド/テープの相対速度は10m/秒とし、記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をスペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力Cと、スペクトル全域の積分ノイズNの比をC/N比とし、実施例1を0dBとした相対値を求め、以下の基準で、評価した。
◎ : +1dB以上
○ : −1dB以上、+1dB未満
× : −1dB未満
【0056】
(10)ドロップアウト(DO)
上記(8)で作成されたデータストレージカートリッジを、IBM社製LTO4ドライブ(記録ヘッドはインダクティブヘッド、再生ヘッドはMRヘッドを搭載)に装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P−P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは850m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算して、下記の基準で判定する。
◎:ドロップアウト 3個/m未満
○:ドロップアウト 3個/m以上、9個/m未満
×:ドロップアウト 9個/m以上
【0057】
[参考例1]樹脂1の作成
蒸留による精製を繰り返した2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをそれぞれ100部と70部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して7mmol%(Ti元素として14ppm)となるように添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルホスフェートをリン元素量で、全ジカルボン酸成分のモル数に対して12mmol%(P元素として9ppm)となるように添加し、余剰のエチレングリコールを追い出して、エステル交換反応を終了させた。
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、実質的に不活性粒子を含有しない、固有粘度0.6dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートを得た。
【0058】
[参考例2]樹脂2の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13の水ガラス法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、水分率が2.5wt%になるようにイオン交換水を添加したのち、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、トリメリット酸チタン触媒添加後に、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.3重量%となるように添加したほかは、参考例1と同様な操作を繰り返して、樹脂2を作成した。
【0059】
[参考例3]樹脂3の作成
蒸留による精製を繰り返した2,6―ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部とエチレングリコール60部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、酢酸マンガン・4水塩をMn元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して30mmol%(Mn元素として68ppm)となるように添加し、150℃から240℃に徐々に昇温しながらエステル交換反応を行った。途中反応温度が170℃に達した時点で三酸化アンチモンをSb元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して20mmol%(Sb元素として201ppm)を添加し、次いで220℃に達した時点で3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩をP元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して2mmol%(P元素として2.6ppm)となるように添加した。引き続いてエステル交換反応を行い、エステル交換反応終了後燐酸トリメチルをP元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して40mmol%(P元素として51ppm)を添加した。得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い25℃のo−クロロフェノール溶液で測定した固有粘度が0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)ポリマーを得た。
【0060】
[参考例4]樹脂4の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、酢酸マンガン・4水塩触媒添加後に、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.3重量%となるように添加したほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂4を作成した。
【0061】
[参考例5]樹脂5の作成
平均粒径が0.3μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、酢酸マンガン・4水塩触媒添加後に、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、1.0重量%となるように添加したほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂5を作成した。
【0062】
[参考例6]樹脂6の作成
ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを20部、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を80部にするほかは、参考例1と同様な操作を繰り返して、樹脂6を作成した。樹脂6の組成は、酸成分の29モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の71モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分の98モル%がエチレングリコール成分、グリコール成分の2モル%がジエチレングリコール成分であり、融点は240℃、ガラス転移温度は117℃であった。
【0063】
[実施例1]
A層用ポリマーとして樹脂1と2とを表1の不活性粒子の割合になるように用意し、また、B層用のポリマーとして樹脂1と2と5とを表1の不活性粒子の割合になるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。こうして、乾燥チップを表1に示した層厚み構成になるような比率にて、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度310℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)でろ過した。
このようにして得られた積層未延伸フィルムをこうして、乾燥チップを表1に示した層厚み構成になるような比率にて、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度310℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)でろ過した。
このようにして得られた積層未延伸フィルムを120℃に予熱し、さらに低速、高速のロール間でフィルムを130℃に加熱して4.8倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、150℃にて横方向に5.1倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを200℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に10%延伸を行い、厚み4.7μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。このフィルムのヤング率は縦方向6.4GPa、横方向8.5GPaであった。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
A層用ポリマーとして樹脂1と樹脂2を割合を変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
参考例1の樹脂1および、参考例2の樹脂2に使用するトリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して2.5mmol%(Ti元素として5ppm)となるように添加しそれぞれ樹脂1−1、2−1を得た。
そして、A層用ポリマーとして樹脂1と樹脂2の代わりに、樹脂1−1と2−1とを表1の不活性粒子の割合になるように用意したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
参考例1の樹脂1および、参考例2の樹脂2に使用するトリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して50mmol%(Ti元素として100ppm)となるように添加しそれぞれ樹脂1−2、2−2を得た。
そして、A層用ポリマーとして樹脂1と樹脂2の代わりに、樹脂1−2と2−2とを表1の不活性粒子の割合になるように用意したことと、B層用ポリマーとして、樹脂1、2,5のほかに、樹脂6を6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分のモル数を基準としたときの割合が15モル%になるように加え、かつ表1に示す不活性粒子の割合となるように樹脂1,2,5の割合を変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向多層積層フィルム、およびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0067】
[実施例5]
A層用ポリマーとして樹脂1と2とを表1の不活性粒子の割合になるように用意し、また、B層用のポリマーとして樹脂1,2,5、6を6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分のモル数を基準としたときの割合が15モル%になるように、かつ表1に示す不活性粒子の割合となるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。そして、実施例1と同様に溶融押出した後、A層用ポリエステルを25層、B層用ポリエステルを25層に分岐させ、A層とB層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、その積層状態を保持したままダイへと導き、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、A層とB層が交互に積層された総数50層の未延伸多層積層フィルムを作成した。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、多層フィードブロックに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)でろ過した。A層とB層の吐出比率は2:3とした。ほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向多層積層フィルムは、表層のA層の厚みが1100nm、内層のA層の厚みが37nm、表層のB層の厚み120nm、内層のB層の厚みが120nmで、それを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0068】
[比較例1、2]
A層用ポリマーとして樹脂1および樹脂2の代わりに、参考例3の樹脂3および参考例4の樹脂4を表1の不活性粒子の割合になるように用意したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
参考例4の樹脂4用のアルコキシド法で作成した10%濃度のエチレングリコールスラリーにイオン交換水を2.5wt%添加する以外は参考例4と同様にして樹脂4−1を得た。A層用ポリマーとして樹脂4の代わりに樹脂4−1を用意したほかは、比較例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1中の、PENは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、共重合は、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を15モル%共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のポリエステルフィルムは、微小な粗大突起までも低減されていることから、特に記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、
磁性層を形成する側のポリエステルA層は、不活性粒子aを含有し、該不活性粒子aの接触率が0〜25%、該不活性粒子aに起因の粗大突起数が0〜10個/100cm以下、そしてTi化合物をTi元素量で5ppm以上100ppm以下の範囲で含むことを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルA層を構成するポリエステルが、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
不活性粒子aの平均粒径が0.05μm以上0.20μm以下の範囲にあり、該不活性粒子aの含有量が、ポリエステルA層の重量を基準として、0.01重量%以上0.5重量%未満である請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステルA層の表面が、表面粗さ(RaA)1〜3nmの範囲である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルムと、その一方の表面に形成された磁性層とからなる記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージ。
【請求項6】
磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式である請求項5記載のデータストレージ。

【公開番号】特開2011−204334(P2011−204334A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72828(P2010−72828)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】