説明

ポリエステルフィルムの製造方法、ポリエステルフィルム及び太陽電池用バックシート

【課題】ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高いポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高い太陽電池用バックシートを提供する。
【解決手段】結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製し、該ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を設け、塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を少なくとも1回延伸するポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの製造方法、ポリエステルフィルム及び太陽電池用バックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、電気絶縁用途や、光学用途等、種々の用途で用いられている。電気絶縁用途としては、近年、特に、太陽電池用バックシート等の太陽電池用途が注目されている。
太陽電池は発電素子をEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の封止材に包埋し、これをガラス板に貼り付けて使用されるが、裏面(太陽光を受光する面とは反対側の面)を風雨から守るため、バックシート(裏面保護部材)が使用される。
【0003】
このような太陽電池用バックシートとしては、近年、ポリエステルフィルムが使用されつつある。バックシートに用いるポリエステルフィルムには、通常、EVAと密着させるための易接着層が設けられる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−335853号公報
【特許文献2】特開2006−175764号公報
【特許文献3】特開2009−269301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、太陽電池が屋外等の風雨に曝されるような環境下に長期間置かれると、長期経時によりバックシートの密着性が低下し、剥離し易くなる。また、太陽電池は通常、屋外で使用されるため、バックシートが水分を含んだ状態でも高い密着性(ウエット密着性)が要求されるが、長期経時で特にウエット密着性が低下してしまう。
【0006】
そのため、太陽電池用バックシートのように特に屋外で使用されるポリエステルフィルムとしては、長期経時をシミュレートした加速テスト後においても良好な密着特性を示し、特に密着強度が低下し易い含水状態でも高い密着特性を有するポリエステルフィルムが求められる。
【0007】
本発明は、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高いポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高い太陽電池用バックシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製する工程と、前記ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を設ける工程と、前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を少なくとも1回延伸する工程と、を有するポリエステルフィルムの製造方法。
<2> 前記ポリエステルフィルム基材を作製する工程がポリエステル原料樹脂を固相重合する工程と前記固相重合した樹脂を溶融押出しする工程を含み、前記ポリエステル樹脂は、固相重合開始時のエチレングリコールガス濃度を固相重合終了時のエチレングリコールガス濃度よりも200ppm以上1000ppm以下の範囲で高くして前記原料樹脂を固相重合して得たポリエステル樹脂である<1>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<3> 前記ポリエステル樹脂は、前記固相重合開始時の水蒸気濃度を前記固相重合終了時の水蒸気濃度よりも100ppm以上500ppm以下の範囲で高くして固相重合されたポリエステル樹脂である<2>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<4> 前記ポリエステル樹脂は、前記固相重合の前に、前記原料樹脂を1℃以上20℃以下の温度分布を有する乾燥槽で130℃以上180℃以下で乾燥したポリエステル樹脂である<2>又は<3>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<5> 前記ポリエステルフィルム基材は、直径140mm以上のスクリューを備えた2軸押出し機により製膜されたポリエステルフィルム基材である<1>〜<4>のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<6> 前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を延伸する工程は、水蒸気の存在下で延伸を行い、該延伸時の水蒸気濃度に5%以上30%以下の濃度分布を付与する<1>〜<5>のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<7> 前記結晶融解前ピーク(Tm’)の平均温度が230℃以上263℃以下である<1>〜<6>のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<8> ポリエステルフィルム基材と、該ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に設けた塗布層とを有し、前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材が少なくとも1回延伸されたものであり、且つ前記塗布層を設ける側における前記ポリエステルフィルム基材の表面の結晶化度分布が5%以上50%以下であるポリエステルフィルム。
<9> 前記塗布層が、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、又はポリオレフィン系の樹脂を含む<7>に記載のポリエステルフィルム。
<10> 前記塗布層の厚みが0.05μm以上1.5μm以下である<8>又は<9>に記載のポリエステルフィルム。
<11> 前記ポリエステルフィルム基材中に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である構成成分を0.005モル%以上2.5モル%以下含む<8>〜<10>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<12> 前記ポリエステルフィルム基材中に、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を0.1質量%以上5質量%以下含む<8>〜<11>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<13> 前記ポリエステルフィルム基材が、Ti元素を2ppm以上50ppm以下の範囲で含む<8>〜<12>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<14> 前記ポリエステルフィルム基材の固有粘度(IV)が0.7以上0.9以下である<8>〜<13>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<15> <1>〜<7>のいずれかに記載の製造方法により製造した<8>〜<14>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<16> <8>〜<15>のいずれかに記載のポリエステルフィルムを用いた太陽電池用バックシート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高いポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高い太陽電池用バックシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高いポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、ポリエステルフィルム基材と塗布層との密着性が高い太陽電池用バックシートについて詳細に説明する。
【0011】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム基材と、該ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に設けた塗布層とを有し、前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材が少なくとも1回延伸されたものであり、且つ前記塗布層を設ける側の前記ポリエステルフィルム基材の表面の結晶化度分布が5%以上50%以下であるポリエステルフィルムである。
【0012】
なお、本発明において「ポリエステルフィルム基材」(適宜「フィルム基材」と記す。)とは、塗布層を有するポリエステルフィルムにおいて支持体となるポリエステル部材であり、ポリエステル樹脂を溶融押出しによって膜状に形成したフィルムであり、未延伸のものでも延伸したものでも構わず、また前記フィルム基材において以下に記載の塗布層を設ける面の反対側は未塗布のものでも塗布されたものでも構わない。本発明では、このようなフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を塗設したあと、少なくとも1回の延伸操作を行う。
一方、「ポリエステルフィルム」とは、塗布層を設けたポリエステルフィルム基材をさらに延伸して得た延伸後の積層体を意味する。
【0013】
‐結晶化度分布‐
本発明におけるポリエステルフィルム基材は、塗布層を設ける側のフィルム基材表面の結晶化度分布が5%以上50%以下であり、好ましくは7%以上30%以下、さらに好ましくは8%以上20%以下である。
フィルム基材の表面における結晶化度分布が5%未満であると、フィルム基材と塗布層との密着力が不十分であり、50%を超えると、フィルム中に弾性率分布が発現し、密着評価で剥離テストを実施した際、弾性率の弱い箇所に応力が集中して剥離し易くなり、密着力が低下してしまう。
【0014】
上記のようにフィルム基材の表面に結晶化度分布を付与することで塗布層との密着性が向上する。即ち、結晶化度の比較的低い部分は塗布層の素材が浸透、貫入し易く密着力を増大させる。一方、結晶化度の比較的高い部分はフィルム基材の力学強度を向上させ、フィルム基材内での凝集破壊による密着力の低下を抑制する効果を有する。
【0015】
特に長期経時に相当する加速テストの際、ポリエステルフィルムは加水分解を受けるが、易接着層等の塗布層を設けていない状態では、外気と接触するフィルム基材の表面の加水分解が特に顕著である。このようにフィルム表面のポリエステルが加水分解によって低分子量化し、塗布層との密着強度が低下する。これに対し、本発明のようにフィルム基材の塗布層を形成する側の表面に結晶化度分布を持たせ、非晶部の比較的多い部分と結晶部の比較的多い部分を形成することで塗布層の密着性を向上させることができる。
【0016】
フィルム基材の表面における結晶化度分布はATR−IR法で測定される。例えば30cm角のフィルム基材を2cm×5cmのサイズに10箇所裁断して結晶化度を測定し、それらの結晶化度から分布を求める。
本発明のポリエステルフィルムを例えば太陽電池用バックシートに用いる場合は、上記のように大きな測定領域間で結晶化度の分布を有することが特に有効となる。太陽電池は通常1m程度の大きなサイズで使用されるため、この領域全般に亘って密着力を向上させることが必要であり、これには小さな周期の結晶化度分布よりも、大きな周期の結晶化度分布の方がバックシート全体における密着力の向上に有効となる。
なお、フィルム基材のサイズが30cm角未満であれば、均等に10箇所裁断してサンプルを採取し、各サンプルの結晶化度を測定して結晶化度分布を求めればよい。
【0017】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムは、例えば以下の方法によって製造することができる。
すなわち、本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製する工程と、前記ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を設ける工程と、前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を少なくとも1回延伸する工程と、を有する。
【0018】
(ポリエステルフィルム基材の作製)
結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製する。
【0019】
ポリエステルフィルム基材のAVを3eq/ton以上20eq/ton以下にすることで結晶化度の比較的高い部分と比較的低い部分を形成することができ、前記のような結晶化度分布を形成することができる。末端カルボン酸は極性が高い上、嵩張るため、ポリエステルの結晶化を阻害する。このため、AVを少なくすることで結晶化度を高めることができる。そして、ポリエステルフィルム基材のAVを3eq/ton以上20eq/ton以下にすることで、結晶化度の比較的低い箇所を所々に形成することができ、上記結晶化度を測定する際に検出できる程度に結晶化度分布を形成することができる。
【0020】
ポリエステルフィルム基材のAVが20eq/tonを超えると低結晶化領域の発現頻度を超え、結晶化度分布の周期が上記測定範囲より小さくなり、見かけ上均一となり5%以上の結晶化度分布が形成されない。一方、ポリエステルフィルム基材のAVが3eq/ton未満では結晶化度の低い領域が少なくなりすぎ、均一な結晶化度となり、塗布層の密着力が低下し易い。
【0021】
また、本発明に係るポリエステルフィルム基材の固有粘度(IV)は0.70以上0.90以下が好ましく、より好ましくは0.73以上0.87以下、さらに好ましくは0.75以上0.85以下である。
このように高IVの樹脂を用いることにより上記結晶化度分布の形成を促す効果がある。即ち、高IVの樹脂は分子量が大きいことを意味し、このような分子は運動性が低下し、結晶形成速度が低下する。塗布後の乾燥による温度分布で結晶化度に分布を形成させる場合、温度が低い領域でも時間があれば結晶化し、温度が高い領域と同程度の結晶化度に達する。この際、ポリエステルフィルム基材のIVが0.70よりも低いと分子の運動性が高く結晶形成速度が速いため、延伸に伴う結晶形成時間中に低温領域でも結晶化が高温領域と同じ程度に結晶が生成し、結晶化度分布を形成し難い。一方、ポリエステルフィルム基材のIVが0.90を超えると、分子の運動性が低下し過ぎて、高温領域においても結晶化が生成し難くなり、高温領域と低温領域とで結晶形成に差ができ難くなる。
【0022】
末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下となるポリエステルフィルム基材の製膜に使用する原料樹脂としては、結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下、好ましくは1.5℃以上8℃以下、さらに好ましくは2℃以上6℃以下のポリエステル樹脂を用いる。
Tm’は結晶の一部が融解し再編成する温度を示している。この温度が異なる、即ち結晶状態が異なるポリエステル樹脂を用いることで、結晶化度分布を形成し易くなる。Tm’の分布が10℃を超えると前記結晶化度分布が50%を超え易く、Tm’の分布が1℃未満であると結晶化度分布が5%未満になり易い。
なお、平均Tm’は230℃以上263℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以上260℃以下、さらに好ましくは245℃以上255℃以下である。
このようなTm’と、上記AVとによって相乗効果が得られ、より一層の密着力向上の効果が得られる。
【0023】
上記結晶融解前ピーク(Tm’)の異なる原料樹脂の効果を有効に発現させるには、好ましくは直径140mm以上、より好ましくは直径150mm以上300mm以下、さらに好ましくは直径160mm以上260mm以下のスクリューを用いた2軸押出し機により製膜することが好ましい。これにより原料樹脂の結晶の融解を抑制し、結晶構造を残すことができ、上記結晶化度分布を形成し易くなる。
【0024】
なお、単軸押出し機ではバレルと樹脂、スクリューと樹脂の間の摩擦により樹脂が輸送されるため強い摩擦力が発生し、これにより結晶構造が破壊され易い。一方、2軸押出し機ではスクリュー上を樹脂が輸送され摩擦力が低いため結晶構造が残りやすく、上記Tm’の分布による結晶化度分布を付与し易く好ましい。
さらに、スクリューの直径を140mm以上とすることで、1回転あたりの吐出量を多くできるため、回転数を低減することができ、摩擦力による結晶の破壊をより低減することができる。スクリュー直径が140mmを下回ると摩擦力が低減し難く、ポリエステルフィルム基材の結晶化度分布が5%を下回るおそれがある。一方、スクリュー直径が300mmを上回ると、結晶構造が残存しすぎて結晶化度分布が50%を上回るおそれがある。
【0025】
ポリエステルフィルム基材の原料樹脂として用いるポリエステル樹脂は固相重合を行ったものが好ましい。特に、固相重合開始時のエチレングリコール(EG)ガス濃度を固相重合終了時のEGガス濃度よりも200ppm以上1000ppm以下の範囲で高くすることが好ましく、より好ましくは250ppm以上800ppm以下、さらに好ましくは300ppm以上700ppm以下の範囲で高くして固相重合することが好ましい。この時、平均EGガス濃度(固相重合開始時と終了時のガス濃度の平均)は100ppm以上500ppm以下が好ましく、より好ましくは150ppm以上450ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上400ppm以下である。
【0026】
また、固相重合の温度は180℃以上230℃以下が好ましく、より好ましくは190℃以上215℃以下、さらに好ましくは195℃以上209℃以下である。
また、固相重合時間は10時間以上80時間以下が好ましく、より好ましくは15時間以上60時間以下、さらに好ましくは20時間以上45時間以下である。
【0027】
特に固相重合中のEGガス濃度分布を付与することでIVの上昇を抑制しつつAVを効率的に低下でき、前記した範囲のAV、IV値を達成することができる。即ち、固相重合初期にEG濃度を高くし、固相重合後期でEG濃度を低くすることが有効である。固相重合によりポリエチレンテレフタレート(PET)分子の末端同士が結合(重合)し分子量が増大する。PET分子末端はカルボン酸末端と水酸基末端が存在する。PET間の結合は、水酸基末端とカルボン酸末端が結合するエステル化反応と、水酸基末端同士が結合するエステル交換反応が存在する。効率的にカルボン酸末端を低減させるには、PET間の結合の前になるべく多くのカルボン酸末端をEGと反応させ水酸基末端とした後、これらをエステル交換反応で分子量を上げることで、一層効果的に末端カルボン酸量(AV)を低減できる。このような末端カルボン酸とEGとの反応は、PET分子量が小さく運動性(反応性)に富む固相重合初期に行うことが好ましく、固相重合初期のEG濃度を高くすることが有効である。
このようにしてAVを選択的に低下させたことにより、製膜後の結晶化度分布を本発明の範囲にすることができる。即ちAVを低下させることで、嵩高いカルボン酸末端の量を低減でき、PET分子が配列し易くなり結晶化しやすくなる。この結果、フィルム中どこでも結晶化がし易くなると同時に、結晶化度の分布が小さくなる。この結果、AVが3eq/ton未満では本発明の結晶化度分布(5%)未満となる。AVが20eq/tonを超えると、結晶性が低下し、結晶が進行するところとし難いところとの差が発現し易くなり、結晶化度の分布が本発明の範囲(50%)を超え好ましくない。
【0028】
EGガスの濃度分布(固相重合開始時のEGガス濃度と固相重合終了時のEGガス濃度の差)が1000ppmを上回ると、固相重合初期のEG濃度が高すぎ、固相重合速度が低下し(EGはPET結合に伴い生成するため、生成物であるEG濃度が高くなりすぎるとPET間の結合が抑制されるため)、本発明のIVに達しないためである。EGガス濃度分布が200ppmを下回るとAVを効率的(選択的)に低下することができず好ましくない。
固相重合におけるEGガス濃度の勾配は、固相重合容器にEGをガス化して導入し、その濃度を時間と共に濃くすることで達成することができる。
【0029】
一方、固相重合中の水蒸気濃度の勾配は、Tm’の温度分布を形成するのにも効果がある。固相重合開始時の水蒸気濃度を固相重合終了時の水蒸気濃度よりも100ppm以上500ppm以下の範囲で高くして固相重合することが好ましく、より好ましくは150ppm以上400ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上350ppm以下である。
この時、平均水蒸気濃度(固相重合開始時と終了時の水蒸気濃度の平均)は50ppm以上400ppm以下が好ましく、より好ましくは80ppm以上300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以上250ppm以下である。
【0030】
水蒸気濃度に勾配が生じることで、固相重合中のペレット中に含水率の差が発生し、この結果Tgが低下し、Tgに分布が発生する。Tgが低下したものほど分子の運動性が増加し、結晶化し易くなり、この結果、ペレット間でTm’に分布が発生する。
水蒸気濃度の分布(固相重合開始時の水蒸気濃度と固相重合終了時の水蒸気濃度の差)が500ppmを上回ると、Tm’の分布が大きくなり、水蒸気濃度の分布が100ppmを下回るとTm’の分布が小さくなる。
固相重合における水蒸気濃度の勾配は、固相重合容器に水蒸気を導入し、その濃度を時間と共に濃くすることで達成できる。
【0031】
また、固相重合の前に、1℃以上20℃以下、より好ましくは2℃以上15℃以下、さらに好ましくは3℃以上10℃以下の温度分布を有する乾燥槽で、130℃以上180℃以下、より好ましくは140℃以上175℃以下、さらに好ましくは145℃以上170℃以下で乾燥させることでも、原料樹脂のTm’の温度分布を形成することができる。なお、乾燥槽における温度分布の方向は特に限定されず、乾燥槽の高さ方向でも、幅方向でもよい。
【0032】
原料樹脂(例えばPET)の乾燥に伴い、水分が揮散するが、水分がPETの可塑化効果を有し、運動性を向上させる。この結果、PET分子が集合し、結晶を形成し易くなる。この時、乾燥温度に分布を付与することでペレット中の水分量に分布を付与し、これが結晶の形成性に分布を与えTm’に分布を形成する。
乾燥槽の温度分布が20℃を超えると原料樹脂のTm’温度分布が大きくなり、乾燥槽の温度分布が1℃を下回ると原料樹脂のTm’温度分布が小さくなる。
【0033】
乾燥槽における温度分布は、乾燥槽に複数の加熱風の吹込み口を設けて異なる温度の風を吹き込んでも良く、あるいは、乾燥槽の周囲の一部に加熱ヒーターを設置して一部の樹脂の温度を高くしても良く、あるいは、乾燥槽の中に乾燥槽の温度とは異なる温度の熱源を投入して温度分布を付与しても良い。
【0034】
ポリエステル樹脂は、Ti元素を2ppm以上50ppm以下、より好ましくは3ppm以上30ppm以下、さらに好ましくは4ppm以上15ppm以下の範囲で含むことが好ましい。ポリエステル樹脂中のTi元素となるTi化合物は、金属錯体として存在することが好ましく、PET重合触媒として作用するものが好ましい。このような金属錯体は均一にPET中に分散し、結晶核になり難い。この結果、結晶化速度を低減させ、上記のような結晶形成に差を持たせ、Tm’の温度分布を形成し易くなる。一方、結晶化速度が大きいと、上記条件によらず結晶化が進行してしまい、均一の結晶分布を形成しTm’分布が形成し難くなる。
ポリエステル樹脂に含まれるTi触媒量が2ppmを下回ると結晶形成し難くなり、Tm’の分布が小さくなり易く、一方、Ti触媒量が50ppmを上回ると結晶形成し易くなり、結晶性に差を付与し難く、Tm’の分布が低下し易い。
【0035】
原料樹脂となるポリエステルとしては、ジカルボン酸成分と、ジオール成分とを用いて合成してもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0036】
ポリエステルを合成する場合は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
(A)ジカルボン酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類;アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸;などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0037】
(B)ジアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類;シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類;ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香族ジオール類;等のジオール化合物が挙げられる。
【0038】
(A)ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、(B)ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0039】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0040】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0041】
例えば、エステル化反応工程は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合する。このエステル化反応工程では、触媒であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体を用いると共に、工程中に少なくとも、有機キレートチタン錯体と、マグネシウム化合物と、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を設けて構成される。
【0042】
まず初めに、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する。有機キレートチタン錯体等のチタン化合物は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0043】
より好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。
このようなポリエステルフィルム基材に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である構成成分(以下、「≧3官能成分」と記す場合がある。)、あるいは、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を含むことが好ましい。これらの「≧3官能成分」または「末端封止剤」は単独で使用しても良く、組合せて使用しても良い。
【0044】
本発明のポリエステルフィルム基材中に「≧3官能成分」即ち、カルボン酸基(a)と水酸基(b)の合計(a+b)が3以上である構成成分を含有することが好ましい。ここで、カルボン酸基(a)と水酸基(b) との合計(a+b)が3以上である構成成分(≧3官能成分:p)の内、カルボン酸基数(a)が3以上のカルボン酸構成成分については、三官能の芳香族カルボン酸構成成分として、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が挙げられ、三官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が挙げられ、四官能の芳香族カルボン酸構成成分としてベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ベリレンテトラカルボン酸等が挙げられ、四官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が挙げられ、五官能以上の芳香族カルボン酸構成成分として、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が挙げられ、五官能以上の脂肪族カルボン酸構成成分として、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられ、並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるがこれらに限定されない。また上述のカルボン酸構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類を組み合わせて用いても構わない。
【0045】
また、水酸基数(b)が3以上の構成成分(p)の例については、三官能の芳香族構成成分としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリンが挙げられ、三官能の脂肪族アルコール構成成分(p)として、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオールが挙げられ、四官能の脂肪族アルコール構成成分として、ペンタエリスリトール等の化合物が挙げられ、また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた構成成分(p)も好ましく用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類を組み合わせて用いても構わない。
【0046】
また、その他の構成成分(p)として、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸など、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有するオキシ酸類のうち、かつカルボン酸基数(a)と水酸基数(b)との合計(a+b)が3以上であるものが挙げられる。また上述の構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0047】
本発明のポリエステルフィルム基材において、該構成成分(≧3官能成分:p)の含有量が、ポリエステルフィルム基材中の全構成成分に対して0.005モル%以上2.5モル%であることが好ましい。より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下、更好ましくは0.025モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下、更に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
ポリエステルフィルム基材中に≧3官能成分が存在することで、重縮合に使用されなかった官能基が、塗布層中の成分と水素結合または共有結合することでより密着を向上させることができる。このような効果は≧3官能成分と本発明による結晶化度分布を合わせ持つポリエステルフィルム基材を使用することで、相乗的に得られる。即ちポリエステルフィルム基材における結晶化度の低い部分に貫入した塗布層の素材が、上記官能基と結合を形成し密着力を向上するためである。この時、貫入することで表面のみでの反応に比べ、より一層上記官能基と反応する数が増え密着力が増加し易い。このため≧3官能成分(p)の量が0.005モル%以上であれば、密着力がさらに向上し易い。一方、≧3官能成分(p)の量が2.5モル%以下であれば、ポリエステル中で結晶形成し、強度が低下し難く、その結果凝集破壊を発現し難く、密着力を向上させることができる。
【0048】
また、本発明では、該ポリエステルフィルム基材中に、末端封止剤を含むことが好ましく、好ましい末端封止剤として、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いても良い。末端封止剤を本発明の結晶化度分布を持つポリエステルフィルム基材と併用することで、相乗効果が得られる。即ち、本発明の結晶化度分布を有するポリエステルフィルム基材中に該封止剤が含有されると、密着が相乗効果で促進される。即ち、ポリエステルフィルム基材の結晶化度の低い部分に塗布液が浸透し、相互貫入し密着を向上させるが、その時、ポリエステルフィルムの末端が上記封止剤と反応し嵩高くなることで、塗布液成分から引き抜き難くなる(アンカー効果)。この結果相互作用力が高まり密着が強くなる。
【0049】
これらの末端封止剤はポリエステルフィルム基材中に0.1質量%以上5質量%以下含むことが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。0.1質量%以上であれば上記アンカー効果が発現し易くなり、密着力がさらに向上し易い。一方、5質量%以下であれば嵩張った末端のためにポリエステル分子が配列し難くなることが抑制され、結晶を形成し易くなる。この結果、高結晶領域が増加し、結晶化度の分布を形成し易くなり密着力が向上する。
【0050】
なお、末端封止剤とは、ポリエステルの末端のカルボキシル基と反応し、ポリエステルのカルボキシル末端量を減少させる添加剤であり、カルボジイミド基、エポキシ基およびオキサゾリン基を有する化合物であることが好ましい。
【0051】
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、一官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがあり、一官能性カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドおよびジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。特に好ましくは、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
【0052】
また、多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のカルボジイミドが好ましく用いられる。具体的には、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドおよび1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどを例示することができる。
【0053】
カルボジイミド化合物は、熱分解によりイソシアネート系ガスが発生するため、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくはカルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、一度熱分解を起こすとさらなる熱分解を起こし易くなるため、ポリエステルの押出温度をなるべく低温下にするなどの工夫が必要である。
【0054】
このようなカルボジイミド化合物を添加した本発明のポリエステルフィルム基材は、300℃の温度で30分間におけるイソシアネート系ガスの発生量が0〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスとはイソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。イソシアネート系ガスが上記範囲を超えると、ポリエステルフィルム基材中に気泡(ボイド)が生成し、これが密着テストの際に応力集中点となり、ここでポリエステルフィルム内に破壊が発生し剥離する。この結果密着不良となり易い。
【0055】
また、エポキシ化合物の好ましい例としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0056】
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステルおよびピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
また、グリシジルエーテル化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエ−テル、O−フェニルグリシジルエ−テル、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ブタン、1,6−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ベンゼン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−エトキシエタン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−ベンジルオキシエタン、2,2−ビス−[р−(β,γ−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパンおよび2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるビスグリシジルポリエーテルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0058】
また、オキサゾリン化合物としては、ビスオキサゾリン化合物が好ましく、具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4’−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−9,9’−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)および2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性の観点から、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましく用いられる。さらに、上記で挙げたビスオキサゾリン化合物は本発明の目的を達成する限り、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもどちらでも良い。
【0059】
さらに、PETは、触媒成分としてゲルマニウム(Ge)化合物(Ge系触媒)、アンチモン(Sb)化合物(Sb系触媒)、アルミニウム(Al)化合物(Al系触媒)、及びチタン(Ti)化合物(Ti系触媒)から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはチタン化合物である。
【0060】
前記チタン化合物は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にポリエステルが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。すなわち、チタン化合物を用いることで、熱分解の原因となるポリエステルの末端カルボン酸の量を低減することができ、異物形成を抑制することができる。ポリエステルの末端カルボン酸の量を低減しておくことで、ポリエステルフィルムを製造した後に、ポリエステルフィルムが熱分解することを抑制することもできる。
なお、チタン化合物の中でも、白色化剤として使用する酸化チタンではこのような効果は得られない。
【0061】
[チタン系触媒]
触媒として用いられるチタン化合物、すなわち、チタン系触媒は、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種であることが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0062】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステルが得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加する方法により、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステルが得られる。この点については、チタン系触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、上記の添加方法によって末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
【0063】
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0064】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0065】
また、チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体以外には一般に、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機キレートチタン錯体に加えて、他のチタン化合物を併用してもよい。
このようなチタン化合物の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0066】
ポリエステルを重合する際には、チタン化合物(チタン系触媒を含む)を、2ppm以上50ppm以下、より好ましくは2ppm以上30ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いることが好ましい。この場合、原料ポリエステルには、2ppm以上50ppm以下のチタン元素が含まれる。
原料ポリエステルに含まれるチタン化合物(チタン系触媒を含む)の量が2ppmよりも少ないと、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)を上げることができず、熱分解し易いため、押出機内で異物が増加し易い。原料ポリエステルに含まれるチタン化合物(チタン系触媒を含む)の量が50ppmmを超えると、チタン化合物(チタン系触媒を含む)が異物となり、ポリエステルフィルム基材の延伸の際に、延伸分布を引き起こすため、好ましくない。
【0067】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステルの製造方法により作製されるのが好ましい。
【0068】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン系触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステルが得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステルに比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステルに比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステルを提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステルが得られる。
【0069】
このポリエステルは、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0070】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0071】
[リン化合物]
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。例えば、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が挙げられ、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0072】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは60ppm以上75ppm以下となる量である。
【0073】
[マグネシウム化合物]
ポリエステルにマグネシウム化合物を含めることにより、ポリエステルの静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0074】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0075】
エステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)0≦Z≦5.0
これは、リン化合物はチタンに作用のみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0076】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステルを得ることができる。
【0077】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、1.0≦Z≦4.0を満たす場合が好ましく、1.5≦Z≦3.0を満たす場合がより好ましい。
【0078】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0079】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0080】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0081】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0082】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0083】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0084】
上記のようにして合成されたポリエステルには、光安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、核剤(結晶化剤)、結晶化阻害剤などの添加剤を更に含有させてもよい。
【0085】
エステル化反応により重合した後に、さらに固相重合することにより、ポリエステルの含水率、結晶化度、ポリエステルの酸価、すなわち、ポリエステルの末端カルボキシル基の濃度、固有粘度を制御することができる。
【0086】
特に、エステル化反応において、Ti触媒を使用し、さらに固相重合して、ポリエステルの固有粘度(IV)を、0.7以上0.9以下とすることで、ポリエステルフィルム基材の作製工程における溶融樹脂の冷却工程において、ポリエステルが結晶化することを抑制し易い。
従って、ポリエステルフィルム基材の原料であるポリエステルは、固有粘度が0.7以上0.9以下であることが好ましい。
【0087】
なお、ポリエステルの固相重合には、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルを、ペレット状などの小片形状にしたものを、出発物質として用いればよい。
【0088】
(塗布層の形成)
末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製した後、該ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を設ける。延伸前に塗布層を設けることにより、フィルム基材と塗布層との密着性を向上させることができる。これは塗布液の乾燥分布に由来するフィルム基材の表面の温度分布を形成させ、塗布層を形成した後に行う延伸過程で発現する結晶生成において不均一性を形成し、上記結晶化度分布生成を助長する効果も有すると考えられる。
さらに、延伸中にフィルム基材の表面の分子が切断して発生したラジカルにより塗布成分と化学結合を発現させ、密着をより効果的に発現できる効果も有すると考えられる。
【0089】
フィルム基材の表面に塗布層を設ける方法としては、例えば、バーコート法、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、塗布層の塗設前にフィルム基材に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。
【0090】
フィルム基材に設ける塗布層は、製造するポリエステルフィルムの用途にもよるが、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、又はポリアミド系の樹脂を含む塗布層が好ましい。これらの樹脂は極性がポリエステルに近く密着力を得易く好ましい。
塗布層を構成する樹脂としては、例えば、特開2006−152013号公報、特開2006−332091号公報、特許第4457322号公報、特開2006−175764号公報、特開2006−253565号公報、特許4547644号公報、特許3777725号公報、特許3731286号公報、特開2009−269301号公報、特開2006−335853号公報等に記載されている易接着層等、ポリエステルフィルム基材の表面に塗布形成するための塗布液に用いる樹脂が挙げられる。さらに具体的には、例えば以下の樹脂が挙げられる。
【0091】
‐ウレタン系樹脂‐
ブロック型イソシアネート基を含有する樹脂であって、末端イソシアネート基を親水性基で封鎖(以下ブロックともいう)した、熱反応型の水溶性ウレタンなどが挙げられる。上記イソシアネート基を親水性基で封鎖するためのブロック化剤としては、重亜硫酸塩類及びスルホン酸基を含有したフェノール類、スルホン酸基を含有したアルコール類、スルホン酸基を含有したラクタム類、スルホン酸基を含有したオキシム類及びスルホン酸基を含有した活性メチレン化合物類等が挙げられる。ブロック化されたイソシアネート基はウレタンプレポリマーを親水化あるいは水溶化する。上記ポリウレタン樹脂に熱エネルギーが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基からはずれるため、上記ポリウレタン樹脂は自己架橋した編み目に、混合した水分散性共重合ポリエステル樹脂を固定化するとともに、上記共重合ポリエステル樹脂の末端基等とも反応する。塗布液調製中の樹脂は、親水性であるために耐水性が悪いが、塗布、乾燥して熱反応が完了すると、ウレタン樹脂の親水性基すなわちブロック化剤がはずれるため、耐水性が良好な塗膜が得られる。上記ブロック化剤の内、フィルム製造工程における熱処理温度、熱処理時間でブロック化剤がイソシアネート基からはずれる点、及び工業的に入手可能な点から、重亜硫酸塩類が最も好ましい。
【0092】
上記樹脂において使用される、ウレタンプレポリマーの化学組成としては、(1)分子内に2個以上の活性水素原子を有する有機ポリイソシアネート、又は分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200〜20,000の化合物、(2)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート、あるいは、(3)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤を反応せしめて得られる、末端イソシアネート基を有する化合物である。
【0093】
上記(1)の化合物として一般に知られているのは、末端又は分子中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基又はメルカプト基を含むものであり、特に好ましい化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシド類、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等を重合した化合物、又はそれら2種以上をランダム共重合若しくはブロック共重合した化合物、あるいはそれらと多価アルコールとの付加重合を行って得られた化合物がある。
【0094】
‐ポリエステル系樹脂‐
ポリエステル系樹脂としては、以下のような多塩基酸またはそのエステル形成誘導体とポリオールまたはそのエステル形成誘導体とから形成される。すなわち、多塩基酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これらの酸成分を好ましくは2種以上用いて共重合ポリエステル樹脂を合成する。また、若干量であれば不飽和多塩基酸成分としてマレイン酸、イタコン酸等や、p−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。また、ポリオール成分としては、エチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等が挙げられる。
【0095】
‐アクリル系樹脂-
アクリル系樹脂としては、以下に例示するようなアクリルモノマーを重合してなるアクリル樹脂が挙げられる。このアクリルモノマーとしては、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシ基、スルホキシ基またはその塩を含有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N、N−ジアルコキシアクリルアミド、N、N−ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等のモノマーが挙げられる。
【0096】
これらのなかで、水酸基を含むモノマー、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが2〜20モル%、好ましくは4〜15モル%含まれていることが好ましい。
【0097】
塗布液には、さらに濡れ剤、帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等を含有させてもよい。濡れ剤を含有する場合、その含有量は例えば固形分に対し1〜20質量%である。
【0098】
また、塗布層としてはポリオレフィン系、例えばSBR等のゴム系樹脂も好ましい。このようなポリオレフィン系を含む塗布層であれば、柔軟な構造のために剥離応力を吸収し易く密着力を高めることができる。例えば特開昭61−60424号公報、特許2583455号公報、特許3626305号公報、特許3783989号公報、特許4041784号公報、特許4505402号公報の各公報に記載のものを使用できる。
【0099】
また、ポリオレフィン系としては、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を用いることも好ましい。これは、本発明により製造されるポリエステルフィルムを太陽電池バックシートとして用いる場合、PVA系樹脂を含む塗布層を設けておけば、塗布層上に積層するポリビニルアルコール系樹脂と親和性が高いためである。
【0100】
塗布層には、さらに、架橋性化合物(架橋剤)を共存させることも好ましい。これにより塗布層内あるいはポリエステルと架橋を形成し、より密着強度を上げることができる。架橋性化合物としては、エポキシ化合物、グリシジル化合物、メラミン化合物、オキサゾリン化合物等を挙げることができる。
また、塗布層に架橋剤を含有することにより、さらに耐湿性を向上させることができる。なお、架橋剤を用いる場合、その含有量が5質量%未満であると耐湿性向上の効果が発現し難く、一方、20質量%を超えると、塗膜の形成が困難となり、結果としてEVAとの接着性が低下することがあり、好ましくない。
【0101】
架橋剤に加えて、他のエポキシ基を有する化合物も併用してもよい。これらの化合物の例としては、ソルビトトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのポリエポキシ化合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等のジエポキシ化合物、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのモノエポキシ化合物を挙げることができる。
【0102】
これらのエポキシ化合物を架橋剤と併用する場合、架橋剤とこれらのエポキシ化合物との合計量が、塗布液の固形分に対し5〜20質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0103】
なお、塗布液に含有される微粒子や架橋剤、場合によりさらに濡れ剤を比較的多く含有する場合にはポリマーバインダーの量を相対的に少なくすることで固形分の合計量が100質量%となるようにすればよい。
【0104】
塗布層の塗設に先立ち、ポリエステルフィルム基材に表面処理を行うことも好ましく、例えばコロナ処理、火炎処理、紫外線処理、グロー処理、大気圧プラズマ処理等を挙げることができる。
【0105】
本発明のポリエステルフィルムにおける延伸後の塗布層の厚みは0.05μm以上1.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上1.0μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上0.7μm以下である。塗布層の厚みが0.05μm未満ではフィルム基材との密着が低下し易くなるおそれがある。また塗布層の厚みが1.5μmを超えても、サーモ経時中に塗布層が経時劣化し塗布層内で破壊が進行し易く、密着力が低下し易くなるおそれがある。
【0106】
(延伸)
次いで、塗布層を形成したポリエステルフィルム基材を少なくとも1回延伸する。
フィルム基材の表面に塗布層を形成した後、延伸すると、表面に存在する分子の切断に伴って活性なサイトが多数生じ、密着力を向上させることができる。
なお、溶融押出した未延伸フィルムの表面に塗布層を設けた後、延伸してもよいし、未溶融フィルムを一方向に延伸(縦延伸又は横延伸)した後、フィルム表面に塗布層を設け、その後、同方向あるいは他の方向に延伸してもよい。
【0107】
例えば、ポリエステル樹脂を混練押出して融体とした後、ギアポンプ、ろ過器、ダイなどを通した後、冷却ドラム上にキャストし、未延伸フィルム(フィルム基材)を形成する。
次いで、未延伸フィルムを縦、横の少なくとも一方に延伸するが、この際、ポリエステルフィルム基材に塗布層を設けた後、延伸する。この時、水蒸気存在下で延伸を行い、かつ延伸時の水蒸気濃度に5%以上30%以下の濃度分布を付与することが好ましく、より好ましくは6%以上25%以下、さらに好ましくは7%以上20%以下の濃度分布を付与する。
【0108】
また、延神時の平均水蒸気濃度(延伸部入口の水蒸気濃度と延伸部出口の水蒸気濃度の平均値:空気1Nmあたりの水蒸気の質量で示す)は、0.1g/Nm以上50g/Nm以下が好ましく、より好ましくは0.3g/Nm以上20g/Nm以下、さらに好ましくは0.5g/Nm以上10g/Nm以下である。
【0109】
延伸中に水蒸気が存在すると、水蒸気と接したポリエステルは可塑化され、分子の流動性が増加し、結晶形成が促される。この時水蒸気濃度に分布(むら)があると、結晶化の進行し易い部分と進行が遅れる部分が存在し、本発明の結晶化度分布を達成することができる。このような水蒸気の効果は延伸中に特に発現し易い。これは延伸に伴い分子が配向しつつある過程であるため、この際、水分により可塑化を行うと結晶化が急激に進行し、結晶化度分布を付け易いためである。
【0110】
このような延伸中の水蒸気処理は、未延伸フィルムを延伸する際に行っても良く、延伸途中で行っても良い。延伸途中とは、例えば縦延伸の途中でも良く、横延伸の途中でも良く、さらには縦延伸と横延伸の途中でも良い。この中で最も好ましいのは縦延伸と横延伸の間での実施である。縦延伸である程度分子配向させた後、横に延伸し再配列させる際、分子が大きく流動するが、この際に水蒸気に曝すことでその運動性に差を付与し、結晶化分布を形成し易い。なお、水蒸気の中に他の有機溶剤の蒸気が混入していても構わず、アルコール、エステル、ケトン等の蒸気が併存しても構わない。
【0111】
このような水蒸気濃度の分布は、例えば、延伸ゾーンにケーシングを設け、それに吹き出し口を設け、水蒸気を含んだガス(空気や窒素など)を吹き込み、その風速に変動を与えることでも実施できる。また、吹き込み口をケーシングの中央から外すことでケーシング内に濃度分布を形成することも有効である。
【0112】
延神時の水蒸気濃度の分布が5%を下回るとフィルムの結晶化が遅れ、結晶化分布を形成し難くなり、水蒸気濃度の分布が30%を上回るとフィルムの結晶化が進みすぎ結晶化分布を形成し難くなる。
【0113】
延伸後に得られるポリエステルフィルム(塗布層を設けたフィルム基材)の厚みは30μm以上350μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上310μm以下、さらに好ましくは45μm以上300μm以下である。
ポリエステルフィルムの厚みが350μm未満では曲げ強度が低下し、ハンドリング時に亀裂が発生し易く、そこを起点としてフィルム基材と塗布層との密着力が低下するおそれがある。一方、ポリエステルフィルムの厚みが350μmを超えると、曲げた際にフィルム表面の伸張量が大きくなりすぎ、塗布層が破壊して、そこを起点として密着が低下し易くなるおそれがある。
【0114】
なお、フィルム基材の延伸方法は、単軸延伸であっても、2軸以上の多軸延伸であってもよい。2軸延伸とは、互いに異なる方向に、各々、少なくとも1回ずつ延伸することをいう。
得られるポリエステルフィルムの強度、形状安定性の観点から、ポリエステルフィルム基材の搬送方向(MD)の延伸、すなわち縦延伸と、搬送方向と直交する方向(TD)の延伸、すなわち横延伸と、を行なう2軸延伸であることが好ましい。
【0115】
2軸延伸する方法としては、縦延伸と横延伸とを分離して行なう逐次2軸延伸方法のほか、縦延伸と横延伸を同時に行なう同時2軸延伸方法のいずれであってもよい。
縦延伸と横延伸とは、各々独立に2回以上行なってもよく、縦延伸と横延伸の順序は問わない。例えば、縦延伸→横延伸、縦延伸→横延伸→縦延伸、縦延伸→縦延伸→横延伸、横延伸→縦延伸などの延伸態様が挙げられる。中でも縦延伸→横延伸が好ましい。
なお、横延伸について、「ポリエステルフィルム基材の搬送方向(MD)と直交する方向(TD)」とは、ポリエステルの搬送方向(MD)に対し、垂直の角度及び垂直とみなせる角度(90°±5°)の方向をいう。
【0116】
縦延伸および横延伸において、ポリエステルフィルム基材の面積延伸倍率(各延伸倍率の積)は、延伸前のポリエステルフィルム基材の面積の6倍〜18倍が好ましく、8倍〜16倍であることがより好ましく、10倍〜15倍であることがさらに好ましい。
縦延伸および横延伸において、ポリエステルフィルム基材の延伸時の温度(延伸温度)は、ポリエステルフィルム基材のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−20℃以上Tg+50℃であることが好ましく、より好ましくはTg−10℃以上Tg+40℃以下、さらに好ましくはTg以上Tg+30℃である。
【0117】
延伸工程において、ポリエステルフィルム基材を加熱する手段としては、ニップロール等のロールを用いて延伸する場合は、ロール内部にヒーターや温溶媒を流すことのできる配管を設けることで、ロールに接するポリエステルフィルム基材を加熱することができる。また、ロールを用いない場合においても、ポリエステルフィルム基材に温風を吹きかけたり、ヒーター等の熱源に接触させ、又は熱源の近傍を通過させることにより、ポリエステルフィルム基材を加熱することができる。
【0118】
ポリエステルフィルム基材の延伸においては、縦延伸および横延伸の組合せによる2軸延伸の後に、熱固定を行うことが好ましい。熱固定温度は、160℃〜250℃であることが好ましく、170℃〜240℃であることがより好ましく、180℃〜220℃であることがさらに好ましい。
【0119】
また、熱固定後は、縦延伸および横延伸の少なくとも一方向に、1%〜20%、より好ましくは3%〜15%、さらに好ましくは4%〜10%の緩和を施すことが好ましい。
【0120】
以下、本発明に関わる物性値の評価方法、測定方法等について以下に説明する。
【0121】
(1)末端カルボン酸基量(AV)
末端COOH量は、ポリエステルをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全に溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、これを基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その滴定量から算出される値である。
(2)固有粘度(IV)
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η)の比η(=η/η;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=η−1)を濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒中の30℃での溶液粘度から求められる。
【0122】
(3)結晶融解前ピーク(Tm’)
・サンプル10mgをサンプルパンに入れ、10℃/分で昇温しながら300℃まで昇温する。
・200℃以上265℃の間に出現する吸熱ピークのうち、最高温度の吸熱量を示すピーク(Tm)の次に高い温度に現れるピークを結晶融解前ピーク(Tm’)とする。
・上記測定を任意に選んだ10粒のペレットに対して実施し、Tm’の最高温度と最低温度の差をTm’の温度分布とする。なお、Tm’の平均値は10点のTm’の平均値を示す。
【0123】
(4)Ti元素量
ポリエステルフィルムをHFIP(ヘキサフルオルイソプロパノール)に5wt%で溶解し、これを1000rpmで遠沈する。この上澄み液を原子吸光法を用い、Ti量を計測する。この遠沈処理によりTiO等の固形物を取り除き、Ti系触媒のみを計測する。
【0124】
(5)結晶化度分布
サンプル中から任意に30cm角のフィルムを切り出す
一辺(A辺)の端から5cm、15cm、25cmのところにA辺に平行に引いた線上と、直交するもう一辺(B辺)の端から7.5cm、22.5cmのところにB辺に平行に引いた線の交点を中心に2cm×5cmのサンプルを切り出す。この時5cmの辺がA辺と平行になるようにする。
この6枚のサンプルを多重反射型ATR−IR結晶子(KRS−5、入射角45度)に装着し、FT−IRを用い100回積算測定する。
下記式を用い各6サンプルの結晶バンド強度を求める。
結晶バンド強度=1341cm−1の吸光度/1410cm−1の吸光度
※1341cm−1はエチレングリコール残基のトランス構造に由来し、結晶化度に比例する。1410cm−1のピークはベンゼン環に帰属し、これで割ることで規格化する。
6つの測定点のうち、結晶バンド強度の最大値と最小値の差を平均値で割り、百分率で表したものを結晶化度分布と呼ぶ。また、6枚のサンプルの平均値を平均結晶バンド強度とした。
【0125】
(6)EGガス濃度
EGガス濃度は、ガス検知管(例えば、光明理化学工業社製 北川式ガス検知管)を用いて測定する。
【0126】
(7)水蒸気濃度
水蒸気濃度は、例えば静電容量式露点計 Moisture Monitor Series 3(GE Sensing社製)を用い、露点を計測して求める。
【0127】
<太陽電池用バックシート>
【0128】
本発明のポリエステルフィルムの用途は特に限定されないが、太陽電池用バックシート、バリアフィルム基材等の用途に好適である。
太陽電池モジュールへの用途では、電気を取り出すリード配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止材で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様が挙げられる。
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【0129】
本発明のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシートを用いることで、EVA等の封止材との密着性が長期に渡って維持されるため、超寿命の太陽電池モジュールを得ることができる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、「部」、「%」は、特に記載しない限り、質量基準である。
【0131】
<実施例1〜67、A〜C、及び比較例1〜5、A、B>
(1)ポリエステル樹脂の製造
(1−1)ポリエステルの重合
(A)Ti触媒PET:
特開2007−70462の実施例1に従って以下のようにポリエステルを重合した。このとき、Ti触媒の量を表1記載のように変化させた。
【0132】
(B)Sb触媒PET:
国際公開公報WO2010/110119A1の段落0054に記載されている「原料PET-1」に従い、下記のようにポリエステルを得た。
ジメチルテレフタレート100質量%、およびエチレングリコール60質量%の混合物を、酢酸カルシウム0.08質量%、三酸化アンチモン0.03質量%を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。
次いで、このエステル交換反応生成物に、酢酸リチウム0.16質量%、リン酸トリメチル0.11質量%を添加した後、重合反応槽に移行し、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重合し、固有粘度が0.52のポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)を得た。
【0133】
(C)Al触媒PET:
以下に示す方法に準じて、PETサンプルを得た。
攪拌機付の熱媒循環式(2リットル)ステンレス製オートクレーブに、高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコール及びトリエチルアミンを、酸成分に対して0.3mol%になるように加え、0.25MPaの加圧下245℃にて、水を系外に留去しながらエステル化反応を120分間実施して、オリゴマー混合物を得た。このオリゴマー混合物に、重縮合触媒として塩基性酢酸アルミニウム(Aldrich製)水溶液及びエチレングリコールを加えて還留し、結果として15g/l塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子として0.014mol%、リン化合物としてIrganox 1425(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の10g/lエチレングリコール溶液を酸成分に対してIrganox 1425として0.02 mol%を加えた。次いで、窒素雰囲気下、常圧にて245℃で10分間攪拌した。その後、60分間をかけて275℃まで昇温しつつ、反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに275℃、13.3Paで所望のIVが得られるまで、重縮合反応を実施した。所定の攪拌トルクに到達した時点でオートクレーブに窒素を導入して常圧に戻し、重縮合反応を停止させた。
【0134】
(D)「≧3官能成分」の添加
上記重合過程において、原料組成中のジカルボン酸成分、ジオール成分のうち、下記から選定した「≧3官能成分」を表1記載の量だけ添加した。なお、ここでいう添加量とは、ジカルボン酸成分、ジオール成分の和に対するモル%で示した。
3官能カルボン酸型:トリメリット酸(表1にTMAと記載)
4官能カルボン酸型:ベンゼンテトラカルボン酸(表1にBTCと記載)
5官能カルボン酸型:エタンペンタカルボン酸(表1にEPCと記載)
6官能カルボン酸型:シクロヘキサンヘキサカルボン酸(表1にCHCと記載)
3官能水酸基型:トリヒドロキシベンゼン(表1にTHBと記載)
4官能水酸基型:ペンタエリスリトール(表1にPEと記載)
【0135】
(1−2)固相重合
上記樹脂(ペレット)を表1記載の平均温度、温度分布で5時間乾燥させた。
乾燥後、表1記載の温度の固相重合槽にペレットを移し、固相重合槽に表1記載の濃度のEG、水蒸気を含むNガスを、樹脂1kgあたり1Nm/hr流した。この際、固相重合時間と共に水蒸気、EG濃度を表1のように制御した。なお、固相重合時間は表1に記載した通りである。
このようにして得た固相重合ペレットを前記した方法によりTm’を測定し、表1に記載した。
【0136】
(2)ポリエステルフィルム基材(未延伸フィルム)の製膜
固相重合した樹脂を再度乾燥し、含水率を100ppm以下とした後、下記の末端封止剤から選定し表1記載の量を添加した。なお、ここでいう添加量とはポリエステル樹脂に対する質量%を指す。
(a)カルボジイミド系化合物:ラインケミー社製スタバクゾールP100(表中に「CI」と記載)
(b)エポキシ系化合物:Hexion Speciality Cnemicals社製「カージュラE10P」(表中に「EP」と記載)
(c)オキサゾリン系化合物:日本触媒社製「エポクロスRPS-1005」(表中のOXと記載)
【0137】
表1記載の直径を持つスクリューを備えた2軸押出し機に投入し、窒素気流下、280℃で溶融混練し、この溶融体(メルト)をギアポンプ、ろ過器、ダイを通してチルロール上に押出し、未延伸フィルムを作製した。
【0138】
(3)延伸及び塗布層の形成
得られた未延伸フィルムに対して、下記のような手順で延伸と塗布を行い、延伸及び塗布の各条件を表2に記載した。なお、両面塗布する水準は両面とも同じ塗布量、塗布液で塗布した。
手順#1:縦延伸→片面塗布→横延伸
手順#2:縦延伸→縦延伸→片面塗布→横延伸
手順#3:縦延伸→片面塗布→横延伸→横延伸
手順#4:縦延伸→片面塗布→縦延伸→横延伸
手順#5:縦延伸→横延伸→片面塗布→横延伸
手順#6:縦延伸→両面塗布→横延伸
【0139】
縦延伸は90℃で3.5倍に、横延伸は120℃で3.8倍に延伸した。なお、縦延伸を2段で行っている場合は前段を1.5倍、後段を2.3倍で実施した。また、横延伸を2段で行っている場合は前段を1.9倍、後段を2.0倍で実施した。
【0140】
延伸時は表2記載の水蒸気濃度分布を付与した。具体的には、延伸機上にケーシングを設け、そこに上記延伸温度になるように熱風を吹き込み、この熱風に水蒸気を添加した。この時、熱風吹き込み口を複数設け、この吹き込み口毎に水蒸気濃度を変えることで水蒸気濃度分布を付与した。水蒸気分布は、ケーシング中の任意の箇所10箇所で前記した方法で測定し、最大値と最小値の差を平均値で割り、百分率で表した。
【0141】
塗布は延伸直後に行った。なお、塗布前のフィルム基材をサンプリングし、前記した方法でそれぞれAV、IVを測定した。
また、塗布前にフィルム基材の表面にコロナ処理を行うことで、塗布時のハジキを抑制した。
塗布層を形成する際、ポリエステルフィルム基材の表面には、全延伸工程終了後の塗布層の乾燥厚みが0.5μmとなるように塗布液を塗布した。塗布は、バー塗布法によって行った。
【0142】
表2に記載の塗布層を形成するための塗布液に用いた各樹脂の構成は以下の通りである。
・アクリル系樹脂:A−1
メチルメタクリレート 55モル%
エチルアクリレート 40モル%
N−メチロールアクリルアミド 3モル%
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 2モル%
で構成されているアクリル樹脂(Tg=27℃)
【0143】
・ウレタン系樹脂:U−1
ポリエステル系主剤+(イソホロンジイソシアネート/キシリレンジイソシアネート)系硬化剤
【0144】
・ウレタン系樹脂:U−2
水 51.00質量%
イソプロパノール 30.00質量%
ポリウレタン樹脂 12.58質量%(以下の方法で調製されたポリウレタン樹脂)
オキサゾリン基を有する樹脂 4.72質量%(以下の方法で調製されたオキサゾリン系樹脂)
粒子 1.57質量%(平均粒径40nmのシリカゾル、固形分濃度40質量%)
粒子 0.08質量%(平均粒径450nmのシリカゾル、固形分濃度40質量%)
界面活性剤 0.05質量%(信越シリコーン社製KF6011、シリコン系界面活性剤、固形分濃度100質量%)
(ポリウレタン樹脂の調製)
撹拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、及び温度計を備えた4つ口フラスコに、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート43.75質量部、ジメチロールブタン酸12.85質量部、数平均分子量2000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール153.41質量部、ジブチルスズジラウレート0.03質量部、及び溶剤としてアセトン84.00質量部を投入し、窒素雰囲気下、75℃において3時間撹拌し、反応液が所定のアミン当量に達したことを確認した。次に、この反応液を40℃にまで降温した後、トリエチルアミン8.77質量部を添加し、ポリウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、高速攪拌可能なホモディスパーを備えた反応容器に、水450gを添加して、25℃に調整して、2000min−1で攪拌混合しながら、ポリウレタンプレポリマー溶液を添加して水分散した。その後、減圧下で、アセトンおよび水の一部を除去することにより、固形分35%の水溶性ポリウレタン樹脂を調製した。得られたポリウレタン樹脂のガラス転移点温度は−30℃であった。
(オキサゾリン基を有する樹脂の調製)
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、滴下ロート、および攪拌機を備えたフラスコに水性媒体としてのイオン交換水58質量部とイソプロパノール58質量部との混合物、および、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩)4質量部を投入した。一方、滴下ロートに、オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体としての2−イソプロペニル−2−オキサゾリン16質量部、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールの平均付加モル数・9モル、新中村化学社製)32質量部、およびメタクリル酸メチル32質量部の混合物を投入し、窒素雰囲気下、70℃において1時間にわたり滴下した。滴下終了後、反応溶液を9時間攪拌し、冷却することで固形分濃度40質量%のオキサゾリン基を有する水溶性樹脂を得た。
【0145】
・ウレタン系樹脂:U−4
下記の化合物(1)〜(4)の固形分が下記部数となるように水を媒体とする塗布液(濃度10%)を調整した。
(1)大日本インキ化学工業社製ポリウレタンであるハイドラン AP−40(商品名) 60質量%
(2)三洋化成社製ポリウレタンであるパーマリン UA310(商品名) 10質量%
(3)大日本インキ化学工業社製ポリエステルからなるファインテックス ES−670 20質量%
(4)アルキロールメラミン 10質量%
【0146】
・ポリエステル系樹脂:E−1
架橋剤:メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されているオキサゾリン基を有する重合体(Tg=50℃)
樹脂成分:酸成分がテレフタル酸80モル%/イソフタル酸15モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール60モル%/ジエチレングリコール40モル%で構成された共重合ポリエステル(Tg=43℃)
フィラー:平均粒径60nmのシリカ粒子
濡れ剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル
これらの配合比を、架橋剤/他の樹脂/フィラー/濡れ剤=15質量%/75質量%/4質量%/6質量%とした。
【0147】
・ポリエステル系樹脂:E−2
下記の塗剤を混合し、塗布液を作成した。粒子Aは屈折率2.1のSnO、粒子Bは平均1次粒径約500nmのシリカ粒子である。
水 40.16質量%
イソプロパノール 30.00質量%
ポリエステル水分散液 18.19質量%(以下の方法で調製されたポリエステル水分散液)
ブロックポリイソシアネート水分散液 2.08質量%(第一工業製薬社製エラストロンE-37)
粒子A 9.37質量%(多木化学製セラメースS−8、固形分濃度8質量%)
粒子B 0.17質量%(日本触媒製シーホスターKEW50、固形分濃度15質量%)
シリコン系界面活性剤 0.03質量%(東レ・ダウコーニング社製DC57、固形分濃度100%)
(ポリエステル水分散液の調製)
攪拌機、温度計と還流装置を備えた反応器に下記のポリエステル樹脂(a−1)30質量部、エチレングリコールn−ブチルエーテル15質量部を入れ、110℃で加熱、攪拌し樹脂を溶解した。樹脂が完全に溶解した後、水55質量部をポリエステル溶液に攪拌しつつ徐々に添加した。添加後、液を攪拌しつつ室温まで冷却して、固形分30質量%の乳白色のポリエステル水分散液を作製した。
(上記ポリエステル樹脂(a−1)の調製)
攪拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備するステンレススチール製オートクレ
ーブに、ジメチルテレフタレート194.2質量部、ジメチルイソフタレート184.5質量部、ジメチル−5−ナトリウムスルホイソフタレート14.8質量部、ジエチレングリコール233.5質量部、エチレングリコール136.6質量部、およびテトラ−n−ブチルチタネート0.2質量部を仕込み、160℃から220℃まで4時間かけてエステル交換反応を行なった。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、30Paの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステル樹脂(a−1)を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂(a−1)は、淡黄色透明であった。得られた共重合ポリエステル樹脂(a−1)の還元粘度を測定したところ,0.70dl/gであった。DSCによるガラス転移温度は40℃であった。
【0148】
・ポリエステル系樹脂:E−3
日本化工塗料社製の変性ポリエステル高分子結着剤FS−44、イソシアネート系架橋結合剤TD硬化剤、及び綜研化学(株)製の滑剤MP−300からなる塗布液
【0149】
・ポリエステル系樹脂:E−5
‐酸成分‐
テレフタル酸 32.8質量%
イソフタル酸 10.5質量%
トリメリット酸 14.7質量%
セバシン酸 4.3質量%
‐グリコール成分‐
エチレングリコール 6.5質量%
ネオペンチルグリコール 13.1質量%
1,4−ブタンジオール 18.1質量%
上記酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂(Tg:20℃)のアンモニウム塩型水分散体
【0150】
・ポリエステル系樹脂:E−6
水系ポリエステル(東洋紡績社製、バイロナール)と、水系ポリブロックイソシアネート化合物B(第一工業製薬社製、亜硫酸塩ブロック型)と、水系ポリブロックイソシアネート化合物C(第一工業製薬社製、エラストロンBN11)と、帯電防止剤として半極性有機ホウ素化合物(ボロンインターナショナル社製、ハイボロン)を固形分質量比率 30/33/3/34 で混合し、溶剤質量比率が水/イソプロパノール=93/7の溶媒により、固形分濃度14.6質量%の塗布液
【0151】
・PVA系樹脂:V−1
ポリビニルアルコール(ケン化度86〜89mol%のポリビニルアルコール)20質量%、微粒子(平均粒径100nmの球状シリカ粒子)、架橋剤(下式に示す化合物)の濃度8%の水性塗布液
【0152】
【化1】



【0153】
延伸及び塗布層の形成後、表2に記載の温度で熱固定処理を行った。次いで、両端を10cmずつトリミングし、ナーリングを付与した後2000m巻き取った。このようにして得たフィルムの厚みを表2に記載した。なお、全水準とも幅は2.5mであった。
【0154】
このようにして得た延伸フィルム(塗布層を設ける前のポリエステル基材)を前記方法で結晶化度分布を測定し、表2に記載した。
【0155】
<密着評価>
下記方法で塗布層の密着性を評価し、表2に記載した。
(1)サンプルフィルムを120℃100%rhで90時間サーモ経時する。
(2)サーモ経時後のサンプルを取り出し、3mm間隔にカッターナイフで縦横10本ずつの切れ込みを入れ、100個の升目を作る。
(3)これを50℃の温水に1時間浸漬した後、25℃60%rhの室内に取り出し、表面の水分を布で拭き取った後、粘着テープ(日東電工社製ポリエステル粘着テープ(No.31B))を貼り付け、これを一気に180度方向に引き剥がす。なお、浸漬から取り出した後から引き剥がしまでの時間は5分以内で実施し、塗布層が湿潤状態での密着性を評価している。
(4)目視観察で塗布層が剥離した升目の数を数え、これを「剥離率」として表2に記載した。
【0156】
<バックシートの作製>
塗布層を設けたポリエステルフィルム上に下記方法によって白色層を塗設し、120℃で3分間乾燥した後、170℃で3分間乾燥した反対面に白色層を塗設した後、160℃で3分間1m幅あたりの張力を80Nで搬送しながら熱処理した。
【0157】
−白色層−
まず初めに、下記組成の諸成分を混合し、ダイノミル型分散機により1時間分散処理して顔料分散物を調製した。
【0158】
<顔料分散物の処方>
・二酸化チタン ・・・39.9部
(タイペークR−780−2、石原産業(株)製、固形分100%)
・ポリビニルアルコール ・・・8.0部
(PVA−105、(株)クラレ製、固形分10%)
・界面活性剤 ・・・0.5部
(デモールEP、花王(株)製、固形分:25%)
・蒸留水 ・・・51.6部
【0159】
次いで、得られた顔料分散物を用い、下記組成の諸成分を混合することにより白色層形成用塗布液を調製した。
<白色層形成用塗布液の処方>
・上記の顔料分散物 ・・・71.4部
・ポリアクリル樹脂水分散液 ・・・17.1部
(バインダー:ジュリマーET410、日本純薬工業(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・2.7部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤) ・・・1.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・蒸留水 ・・・7.0部
【0160】
上記より得られた白色層形成用塗布液をサンプルフィルムにバーコーターにより塗布し、180℃で1分間乾燥して、二酸化チタン塗布量が6.5g/mの白色層を形成した。
【0161】
実施例及び比較例の製造条件、評価結果を表1、表2に示す。なお、表1、2における「〃」は上欄と同じことを意味する。
【0162】
【表1】



【0163】
【表2】

【0164】
表2から明らかなように、実施例1〜67のポリエステルフィルムは、比較例に比べ、剥離率が小さく、すなわち、密着性が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルム基材を作製する工程と、
前記ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に塗布層を設ける工程と、
前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を少なくとも1回延伸する工程と、
を有するポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルム基材を作製する工程がポリエステル原料樹脂を固相重合する工程と前記固相重合した原料樹脂を溶融押出しする工程を含み、前記ポリエステル樹脂は、固相重合開始時のエチレングリコールガス濃度を固相重合終了時のエチレングリコールガス濃度よりも200ppm以上1000ppm以下の範囲で高くして前記原料樹脂を固相重合して得たポリエステル樹脂である請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂は、前記固相重合開始時の水蒸気濃度を前記固相重合終了時の水蒸気濃度よりも100ppm以上500ppm以下の範囲で高くして固相重合されたポリエステル樹脂である請求項2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂は、前記固相重合の前に、前記原料樹脂を1℃以上20℃以下の温度分布を有する乾燥槽で130℃以上180℃以下で乾燥したポリエステル樹脂である請求項2又は請求項3に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルム基材は、直径140mm以上のスクリューを備えた2軸押出し機により製膜されたポリエステルフィルム基材である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材を延伸する工程は、水蒸気存在下で延伸を行い、該延伸時の水蒸気濃度に5%以上30%以下の濃度分布を付与する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記結晶融解前ピーク(Tm’)の平均温度が230℃以上263℃以下である請求項1〜請求項6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
ポリエステルフィルム基材と、該ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に設けた塗布層とを有し、前記塗布層を設けたポリエステルフィルム基材が少なくとも1回延伸されたものであり、且つ前記塗布層を設ける側における前記ポリエステルフィルム基材の表面の結晶化度分布が5%以上50%以下であるポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記塗布層が、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、又はポリオレフィン系の樹脂を含む請求項8に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記塗布層の厚みが0.05μm以上1.5μm以下である請求項8又は請求項9に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
前記ポリエステルフィルム基材中に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である構成成分を0.005モル%以上2.5モル%以下含む請求項8〜請求項10のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
前記ポリエステルフィルム基材中に、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、又はエポキシ化合物の少なくとも1種類の末端封止剤を0.1質量%以上5質量%以下含む請求項8〜請求項11のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
前記ポリエステルフィルム基材は、Ti元素を2ppm以上50ppm以下の範囲で含む請求項8〜請求項12のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
前記ポリエステルフィルム基材の固有粘度(IV)が0.7以上0.9以下である請求項8〜請求項13のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の製造方法により製造した請求項8〜請求項14のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項16】
請求項8〜請求項15のいずれか一項に記載のポリエステルフィルムを用いた太陽電池用バックシート。

【公開番号】特開2012−197432(P2012−197432A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45828(P2012−45828)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】