説明

ポリエステルフィルム及びその製造方法

【課題】 製造および使用において刺激性、有毒性のガス等が発生することなく、優れた性質を有し、安定して製造することが出来、耐加水分解性に極めて優れるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルと耐加水分解剤とから成るポリエステルフィルムであって、耐加水分解剤が、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであるポリエステルフィルム及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムに関し、詳しくは、0.4〜500μmの厚さを有し、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムに関する。本発明は、更に、上記ポリエステルフィルムの製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
0.4〜500μmの厚さを有するポリエステルフィルムは公知である。この種のポリエステルフィルムは、一般に耐加水分解性が低いという欠点を有する。特に、ポリエステルのガラス転移温度を超える状況下において、加水分解を被りやすい。加水分解は湿気などの水分によって生じ、ポリエステルの固有粘度IVや標準粘度SVの低下を引起す。特に、コンデンサー、ケーブルの鎧装、リボンケーブル、エンジン保護フィルム等の高熱、高負荷を受けるフィルムや、窓ガラスに貼付けるフィルム、屋外で使用するフィルム等の長期間湿気に曝される環境下で使用するフィルムにおいては、上記耐加水分解性が使用限界の要因となる。
【0003】
上記の加水分解は、脂肪族ポリエステルだけでなく、PBTやPETのような芳香族ポリエステルにおいても著しい。PETでは加水分解が顕著に起りやすいような状況で使用する場合、より耐加水分解性が良好なPENや、ポリエーテルイミド、ポリイミド等の他のポリマーが使用される。しかしながら、これらの耐加水分解性が良好なポリマーは、PETと比較して高価であるという問題がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性を向上されるために、耐加水分解剤を添加することが知られている。カルボジイミドを含有する耐加水分解性が向上したポリエステル原料および当該原料を使用して製造される繊維およびフィルムが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、このような耐加水分解剤を含有するフィルムは、製造工程や使用において、イソシアナートや他の副生物および分解物によるガスが発生し、このガスが粘膜を刺激したり、健康被害をもたらす。射出成型品よりも、シートやフィルムのような大きな表面積を有する成型品の方が、上記の問題が特に生じやすい。
【0005】
また、エポキシ基を有する耐加水分解剤も知られている(例えば、特許文献4〜5参照)上記の耐加水分解剤は、エピクロルヒドリンによるオキシラン環形成に基づく作用をするが、特に末端エポキシ基により、低分子有毒化合物が熱により排出される傾向がある。そのため、カルボジイミドを耐加水分解剤として使用する場合と同様の問題が生じる。また、上記の耐加水分解剤のポリマーマトリックス中への分散が不十分である場合は、反応時間を長くすることになり、二軸延伸ポリエステルフィルムの場合にはヘーズが悪化する。
【0006】
さらに、カルボジイミドと他の化合物による公知の耐加水分解剤(例えば、特許文献4参照)を使用した場合、ポリマーの粘度が上昇し、押出工程において、押出の不安定性や制御困難な問題が生じる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5885709号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0838500号明細書
【特許文献3】スイス特許出願公開第621135号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第0292251号明細書
【特許文献5】米国特許第3657119号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、上記の従来技術における問題点が解決され、製造および使用において刺激性、有毒性のガス等が発生することなく、優れた性質を有し、安定して製造することが出来、耐加水分解性に極めて優れるポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の耐加水分解剤をポリエステル原料に含有させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、ポリエステルと耐加水分解剤とから成るポリエステルフィルムであって、耐加水分解剤が、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであることを特徴とするポリエステルフィルムに存する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステルとポリエステル及び耐加水分解剤から成るマスターバッチとから成る溶融体をフラットフィルムダイを介して押出す工程と、1つ以上のロールを使用して押出された溶融体を引取り、冷却固化して非晶シートを得る工程と、非晶シートを再加熱して二軸延伸し、二軸延伸フィルムを得る工程と、二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成り、耐加水分解剤がエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであることを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0012】
本発明の第3の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成るコンデンサーに存する。
【0013】
本発明の第4の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成るケーブルの鎧装に存する。
【0014】
本発明の第5の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成るリボンケーブルに存する。
【0015】
本発明の第6の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成るエンジン保護フィルムに存する。
【0016】
本発明の第7の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成る窓ガラス用フィルムに存する。
【0017】
本発明の第8の要旨は、第1の要旨に記載のポリエステルフィルムから成る屋外物品に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、製造および使用において刺激性、有毒性のガス等が発生することなく、優れた性質を有し、安定して製造することが出来、耐加水分解性に極めて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルを主成分とし、耐加水分解剤として、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルを含有する。本発明のポリエステルフィルムは、単層構造であっても、多層構造であってもよい。多層構造としては、ベース層Bと外層Cとから成るBC構造、ベース層Bと中間層Zと外層Cとから成るBZC構造、ベース層Bと2つの外層Aから成るABA構造、ベース層Bと外層A及びCとから成るABC構造などが例示され、さらに中間層Zを有していてもよい。多層構造の場合、耐加水分解剤を何れの層に添加しても構わないが、すべての層に添加することが好ましい。
【0020】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ビベンゼン変性ポリエチレンテレフタレート(PETBB)、ビベンゼン変性ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PENBB)、ビベンゼン変性ポリブチレンテレフタレート(PBTBB)、これらのポリエステルを主成分とする共重合体およびこれら2種以上の混合物が挙げられ、中でも、PET、PEN、PBT、PTT、これらのポリエステルを主成分とする共重合体およびこれら2種以上の混合物が好ましく、安価であるPETが特に好ましい。
【0021】
ポリエステルとしては、上述のように共重合ポリエステルであってもよく、また、ホモポリエステル及び/又は共重合ポリエステルの混合物であってもよい。共重合ポリエステルの共重合成分としては、イソフタル酸単位(IA)、trans−及び/又はcis−1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(c−CHDM、t−CHDM、c/t−CHDM)等が挙げられ、更に、ジメチルテレフタレート(DMT)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸(TA)、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸(NDA)等のジカルボン酸単位、ジカルボン酸単位、ジオール単位などを使用してもよい。これらの共重合成分は2種以上組合せて使用してもよい。
【0022】
ポリエステルのジカルボン酸成分は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上のテレフタル酸(TA)から成ることが好ましく、ポリエステルのジオール成分は、90重量%以上、好ましくは93重量%以上のエチレングリコール(EG)から成ることが好ましい。また、ポリエステルの全量を基準として0.5〜2重量%のジエチレングリコールを含有させることが好ましい。なお、上記の含有量には、耐加水分解剤を考慮しない。
【0023】
本発明では、さらに、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、PHBとポリヒドロキシバレレートとの共重合体、ポリヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリε−カプロラクトン(PCL)、SP 3/6、4/6(1,3−プロパンジオール/アジペート又は1,4−プロパンジオール/アジペート)、ポリカプロラクトン、アジピン酸から形成されるポリエステル、脂肪族カルボン酸から形成されるポリエステル等の脂肪族ポリエステルも使用できる。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムは、表面形状、外観、耐ブロッキング等の観点から、無機および/または有機粒子を含有することが好ましい。粒子の添加量は、粒子の種類や粒径に依存する。粒子の粒径は、通常0.01〜30.0μm、好ましくは0.1〜5.0μm、より好ましくは0.3〜3.0μmである。
【0025】
上記の無機および/または有機粒子としては、炭酸カルシウム、アパタイト、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、ゼオライト、アルミニウムシリケート等の他のシリケート粒子などが例示される。これらの粒子の配合量は、フィルムの重量を基準として、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜0.6重量%である。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、上記粒子の他に、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤、ポリエーテルイミド等の他のポリマー等を1種または2種以上組合せて添加することが出来る。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、耐加水分解剤として、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルを含有する。なお、以下の説明において、「エポキシ基を有する」を「エポキシ化」と表記することがある。耐加水分解剤は、2種以上のエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステル混合物または1種のエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであることが好ましい。エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルとしては、下記式[1]で示される化合物が好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
[1]式中、R1〜R3は、カルボニル基、メチレン基を有するブロック(1)、エポキシ基を有するブロック(2)及びCHCH3基を有するブロック(3)を有する下記式[2]で示さる。R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
【化2】

【0031】
[2]式中、REはCH3またはHであり、mは1〜40、好ましくは7〜20、更に好ましくは10〜16であり、nは0〜10、好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜3であり、pは0〜4、好ましくは0である。m、n及びpは整数であることが好ましい。ブロック(2)とブロック(3)の間および/またはブロック(3)とREとの間にブロック(1)があってもよい。すなわち、カルボニル基−ブロック(1)−ブロック(2)−ブロック(3)−REの構成だけでなく、カルボニル基−ブロック(1)−ブロック(2)−ブロック(1)−ブロック(3)−RE、カルボニル基−ブロック(1)−ブロック(2)−ブロック(3)−ブロック(1)−RE、カルボニル基−ブロック(1)−ブロック(2)−ブロック(1)−ブロック(3)−ブロック(1)−REの構成であってもよい。
【0032】
2種以上のエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの混合物を耐加水分解剤として使用する場合、m=0のR1、R2及びR3の合計量は、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常30重量%未満、好ましくは20重量%未満、さらに好ましくは10重量%未満である。
【0033】
R1、R2及びR3の1つ以上が、H(エステル化されていない)、不飽和脂肪酸とのエステル基(二重結合を有し、エポキシ化されていない)又は−(PO2)−O−(CH2)2−N(CH3)3基であってもよい。しかしながら、このような化合物はあまり好ましくないので、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常20重量%未満、好ましくは5重量%未満とする。
【0034】
耐加水分解剤中のエポキシ基に由来する酸素の含有量は、通常2.0重量%以上、好ましくは1.5重量%、より好ましくは2.0重量%である。
【0035】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルは生合成されたものが好ましく、グリセリンエステルに加えてプロテイン等の他の基質が、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの重量を基準として、通常10重量%未満、好ましくは2重量%未満含有されていてもよい。
【0036】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルは、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの重量を基準として、210℃未満の沸点を有する成分の含有量が、通常5重量%未満、好ましくは1重量%未満である。
【0037】
DIN EN ISO 3682に準じて測定したエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの酸価は、通常10mg(KOH/g)未満、好ましくは2mg(KOH/g)未満である。
【0038】
DIN 53018に準じて測定した、25℃におけるエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの粘度は、通常300mPa・sより大きく、好ましくは500mPa・sより大きく、更に好ましくは700mPa・sより大きい。これにより、耐加水分解効果が優れる。
【0039】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとしては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油、エポキシ化魚油などが挙げられ、これらは2種以上組合せて使用してもよい。市販品としては、「Polybio Hystab(登録商標)10」(Schafer Additivsysteme GmbH社製、アルトリップ、ドイツ)が特に好ましくい。
【0040】
耐加水分解剤は、上述の様にマスターバッチ法により添加することが好ましい。先ず、中に耐加水分解剤を分散させる。キャリアー物質としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、ポリエステルと相溶性を有する他のポリマーが好ましい。マスターバッチを計量してフィルム製造工程(押出工程)に供給することにより、耐加水分解剤がポリマー中に均一に溶解または分散し、所望の耐加水分解剤含有量を有する押出原料となる。
【0041】
上記のマスターバッチの製法としては2種類ある。第1の製法としては、キャリアー物質と液状耐加水分解剤を押出機中、好ましくは二軸押出機中で溶融し、混合し、ダイを介して押出し、冷却し、粉砕する方法である。特に、キャリア物質(ポリマー)を押出機内で脱揮した後に、溶融キャリア物質に所定量の液状耐加水分解剤を直接供給混合することが好ましい。
【0042】
第2の製法としては、キャリア物質の製造工程に耐加水分解剤を含有させる方法である。すなわち、粉砕する前の、ダイに供給される調製されたキャリア物質(ポリマー)を供給するラインに耐加水分解剤を供給する方法である。しかしながら、この方法では、上記第1の製法と比較して、耐加水分解剤とキャリア物質との混合が劣る。すなわち、キャリア物質(ポリマー)の製造反応器に耐加水分解剤を所定量供給した場合、粘度の大きな差により混合が不均一となる。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムに上記の粒子を添加した場合、粒子がすでに耐加水分解剤を含有するマスターバッチ中に添加されていると、粒子は耐加水分解剤を均一に分散させる様に働く。特に、粒子としてSiO2及び/又はAl2O3粒子をマスターバッチを基準として0.3重量%以上、好ましくは0.75重量%以上含有することが好ましい。
【0044】
上記の耐加水分解剤含有マスターバッチ中または原料ポリマー中にフリーラジカル捕捉剤を含有させると、フリーラジカル捕捉剤のフリーラジカルの第2反応により、押出中の活性オキシラン基の失活を防ぐことが出来、好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、上記のフリーラジカル捕捉剤または熱安定剤などの安定剤を、ポリエステルフィルムの重量を基準として、通常50〜15000ppm、好ましくは100〜5000ppm、より好ましくは300〜1000ppm含有させることが好ましい。
【0045】
上記の安定剤としては、ヒンダードフェノール類、2級芳香族アミン等の立体障害性を有する第1の安定剤と、チオエーテル類、亜燐酸塩類(ホスファイト)、ホスホナイト(ホスホニウム塩)、ジブチルチオカルバミン酸亜鉛などの第2の安定剤とが例示される。第1の安定剤と第2の安定剤とを組合せて使用することによりそれらの相乗効果が得られるため好ましい。中でもフェノール系安定剤が好ましい。
【0046】
フェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンジル化合物、アクリルアミノフェノール、ヒドロキシフェニルプロピオネート等が例示される。詳細は、「Kunststoffadditive」(プラスチック添加剤、第2版、Gachter Muller著、Carl Hanser−Verlag社)および「Plastics Additives Handbook」(第5版、Dr Hans Zweifel著、Carl Hanser−Verlag社)に記載されている。
【0047】
具体的な市販品としては、Ciba Specialties社(Basle、スイス)のCAS番号6683−19−8、36443−68−2、35074−77−2、65140−91−2、23128−74−7、41484−35−9、2082−79−3及び「Irganox(登録商標)1222、1010、1330、1425」、「Irgaphos(登録商標)168」等が例示される。これらは2種以上組合せて使用してもよい。
【0048】
上記の安定剤は、ポリエステルに添加する前に、耐加水分解剤に含有させることが好ましい。特に、上記の市販品で「Irganox(登録商標)1010」及び「Irgaphos(登録商標)168」は、ポリエステルに添加する前に、耐加水分解剤に含有させることが好ましい。上記の安定剤の含有量は、通常50ppm以上、好ましくは500ppm以上で、通常5000ppm以下である。
【0049】
耐加水分解剤は、上述の様にマスターバッチを使用して添加することが好ましいが、フィルムの製造工程において直接添加する方法でもよい。しかしながら、直接添加する方法の場合は、二軸押出機を使用した場合に良好な結果が得られる。さらに、この場合、押出機の脱揮ゾーンよりも後方の場所で所定量の耐加水分解剤を供給することにより、耐加水分解性を向上させることが出来る。
【0050】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法を説明する。本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステルとポリエステル及び耐加水分解剤から成るマスターバッチとから成る溶融体をフラットフィルムダイを介して押出す工程と、1つ以上のロールを使用して押出された溶融体を引取り、冷却固化して非晶シートを得る工程と、非晶シートを再加熱して二軸延伸し、二軸延伸フィルムを得る工程と、二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成る。耐加水分解剤としては、上述のエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルである。上記の製造方法は、公知の方法を使用することが出来る。
【0051】
押出工程における温度は、295℃を超えないことが好ましい。押出ダイ、特に押出ダイリップと中間部付近の温度が285℃以下、特に275℃以下とすることが好ましい。
【0052】
多層構造のフィルムを製造する場合、複数の押出機を使用し、共押出ダイを介して溶融ポリマーを連続的に共押出する。得られた単層または多層溶融体は、1つ以上の冷却ロール又は他のロールによって引出し、冷却固化して平坦溶融シートを得る。
【0053】
次いで、得られたシートを二軸延伸する。通常、二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(長手方向)に延伸し、次いで横方向に延伸するのが好ましい。これにより、分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有する2つのロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用して行われる。
【0054】
延伸温度および延伸比は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。一般的に、延伸温度は、ポリマーのガラス転移温度をTgとした場合、Tg+10〜Tg+60℃で行う。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍で、横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.0〜4.5である。再度長手方向または横方向に延伸してもよく、その場合の延伸比は、通常1.1〜5.0倍である。
【0055】
最初の長手方向の延伸において同時に横方向の延伸を行う2軸延伸法(同時二軸延伸)で延伸を行ってもよい。この場合、延伸比は長手方向および横方向とも3.0を超える。
【0056】
延伸後、通常150〜260℃、好ましくは200〜245℃で、通常0.1〜10秒間熱固定が行われる。熱固定工程の後または熱固定工程中に、通常0〜15%、好ましくは1.5〜8%の弛緩率で、横方向および必要に応じて長手方向に弛緩処理を行ってもよい。上記処理後、公知の方法でフィルムを冷却し、巻取る。
【0057】
上記の製造方法により製造されたポリエステルフィルムは、耐加水分解剤を含有しないポリエステルフィルムと比較して、室温〜210℃の間で実質的に加水分解を受けない。ポリエステルフィルムの安定性は、主としてフィルムの厚さと、温度(25〜210℃)によって決定される。例えば、耐加水分解剤として、エポキシ基酸素含有量が8重量%のエポキシ化亜麻仁油を2重量%使用した厚さ2μmの単層PETフィルム(DEG含有量=1重量%、SV=720)の場合、オートクレーブ中、110℃で96時間水蒸気処理を行った後でも、SV値は500を超え、機械的強度を保持している。一方、耐加水分解剤を含有していないフィルムでは上記の処理条件においてSV値が400未満となっている。したがって、このような条件下で機械的強度の限界点である400以上を保持できる時間は、本発明のフィルムの方が80%以上長い。同じようなことが80℃及び170℃の条件でも確認される。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムは、耐加水分解性が極めて優れているにもかかわらず、製造工程において、耐加水分解剤の含有による粘度上昇、ゲルの形成、斑点やしみなどの外観不良の発生問題が生じない。
【0059】
本発明のフィルムは、上述の様に、究めて過酷な条件(80℃を超える高温下で、高湿度雰囲気)においても、加水分解を受けにくく耐久性に優れる(1年以上の寿命を有する)。そのため、このような条件下で使用するフィルム、特にアウトドア用のフィルムとして好適に使用できる。
【0060】
本発明のフィルムは上述のような特性を有するため、例えば、コンデンサー用フィルム(好ましくは0.3〜12μmのフィルム厚)として好適に使用できる。本発明のフィルムから成るコンデンサーは、メタル化、コンデンサー幅にフィルムを切断、巻取り、メタリコン処理(フィルム端部にリード線等を接続し、金属被膜と導通させるために、金属微細粒子をスプレーする処理(Schoop process))、容器への封入などの公知の方法で製造することが出来る。本発明のフィルムから成るコンデンサーは、通常のポリエステルから成るコンデンサーと比較して耐久性にすぐれ、寿命を長い。また、カルボジイミドを耐加水分解剤として含有するポリエステルから成るコンデンサーと比較すると、高温化でもイソシアネート等の有害ガスの発生がない。本発明のフィルムをコンデンサー用フィルムとして使用する場合、200℃における長手方向の収縮率が4%未満、横方向の収縮率が1%未満であることが好ましい。特にSMD(面実装)コンデンサーを製造する場合に、上記範囲とすることが好ましい。
【0061】
さらに、本発明のポリエステルフィルムは、自動車などに使用されるリボンケーブル用のフィルムとしても好適に使用できる。本発明のポリエステルフィルムから成るリボンケーブルは、銅の上にヒートシール性接着剤を使用し、本発明のポリエステルフィルムを積層する。この用途におけるポリエステルフィルムの厚さは、好ましくは12〜200μmである。ヒートシール性接着剤としては、例えばEKPヒートシールラッカー230(EKP Verpackungslacke GmbH社製(ドイツ))が挙げられる。本発明のポリエステルフィルムは、上記の様なリボンケーブルに使用した場合、自動車で使用した場合の機械的負荷(振動も含む)に対しても優れた性質を示す。しかしながら、ポリエステル系接着剤を使用した場合は、接着剤自身の耐加水分解性も要求されるため、接着剤中に本発明で使用する耐加水分解材を含有させることが好ましい。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムは、上述優れた特性を有するため、ケーブルの鎧装、
エンジン保護フィルム、窓ガラス用フィルム、屋外物品などに好適に使用できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の評価方法において、DINはDeutsches Institut Normungを表す。
【0064】
(1)標準粘度SV:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、ポリエステルのジクロロ酢酸1重量%溶液を作成し、ウベローデ型粘度系を使用して25℃でDIN 53726に従って測定した。得られた相対粘度ηrelより、SV=(ηrel−1)×1000の式を使用して、標準粘度SV値を算出した。
【0065】
(2)表面粗度:
フィルムの表面粗度RaはDIN 4768に準じて測定した。カットオフ値は0.25mmとした。
【0066】
(3)収縮率:
熱収縮率は、10cm四方のフィルムについて測定した。サンプルの辺はそれぞれ長手方向と横方向に平行である。サンプルの長さを長手方向(L0 MD)と横方向(L0 TD)に対して正確に測定した後、循環オーブン内で200℃で15分間加熱した。サンプルを取出し、室温で長手方向(L MD)と横方向(L TD)に対して正確に長さを測った。収縮率は以下の式で算出した。
【0067】
【数1】

【0068】
(4)ヘーズ:
フィルムのヘーズは、図1に示す様なBYK Gardner Hazemeter XL−211を使用して測定した。測定30分前に電源を入れ、光源からの光が開口部の中心を通るように調節した。測定フィルムの大きさを100×100mmに調節し、フィルムのマージン部分に長手方向および横方向の方向が分かるようにマークを記入した。上記のフィルムは5種作成した。
【0069】
具体的な測定方法としては、スイッチ1を「OPEN」とし、スイッチ2を「×10」とする。Zeroつまみを使用して、デジタルディスプレイが0.00を表示するように調節する。スイッチ1を「Reference」とし、スイッチ2を「X1」とする。キャリブレートつまみを使用してデジタルディスプレイが100を表示するように調節する。長手方向にサンプルをセットする。デジタルディスプレイに表示された透過率を記録する。再度キャリブレートつまみを使用してデジタルディスプレイが100を表示するように調節する。スイッチ1を「OPEN」とする。デジタルディスプレイに表示されたヘーズ(長手方向)を記録する。サンプルを回転させて横方向とし、デジタルディスプレイに表示された横方向のヘーズを記録する。5回同じ測定を行い、平均値をヘーズとする。
【0070】
(4)オートクレーブ処理によるSV値の低下測定:
10cm×2cmのフィルム片を作成し、オートクレーブ(Adolf Wolf SANOklav社製ST−MCS−204型)中にワイヤーを使用して吊るした。オートクレーブ内に水を2L入れ、密閉した後、100℃に加熱し、オートクレーブ内の空気を水蒸気で置換し、排出口から放出させた。5分後に密閉し、温度を110℃、内気圧1.5barとして水蒸気雰囲気で加熱を行った。24時間後にオートクレーブは自動的にスイッチが切れるようになっており、この操作を4回繰返し、計96時間、飽和水蒸気雰囲気の加熱処理を行った。処理後、排出口を開いてフィルムを取出し、上記の方法でSV値を測定し、オートクレーブ処理前後で比較した。
【0071】
実施例および比較例で使用した耐加水分解剤を含有するPETは、以下の方法により調製した。
【0072】
(1)耐加水分解剤含有PET1(PET1):
10000ppmのSylobloc 44H(Grace社製)と、5000ppmのAerosil TT600(Degussa社製)と、3000ppmのIrganox(登録商標) 1010(Ciba社製)とを含有し、DEG含有量1%の原料PETを二軸押出機(Coperion社製)に供給して溶融した。脱揮ゾーンの後方で、その溶融体に、耐加水分解剤としてエポキシ化亜麻仁油8重量%を供給し、混合し、押出し、粉砕し、耐加水分解剤含有PET1チップを得た。上記のエポキシ化亜麻仁油のエポキシ基酸素含有量は8重量%で、DIN 53018に準じて測定した25℃における粘度は750mPa・sで、酸価は1.5mg(KOH/g)であった。得られたチップのSV値は785であった。
【0073】
(2)耐加水分解剤含有PET2(PET2):
Invista社(ドイツ)製「RT49」を二軸押出機(Coperion社製)に供給して溶融した。脱揮ゾーンの後方で、その溶融体に、4重量の耐加水分解剤、200ppmのIrganox(登録商標)1010及び100ppmのIrgaphos(登録商標)168を%供給し、混合し、押出し、粉砕し、耐加水分解剤含有PET2チップを得た。耐加水分解剤としては「Polybio Hystab(登録商標)10」を使用し、エポキシ基酸素含有量は8.5重量%、DIN 53018に準じて測定した25℃における粘度は900mPa・sで、酸価は0.9mg(KOH/g)であった。得られたチップのSV値は789であった。
【0074】
実施例および比較例で使用した原料は以下の通りである。
【0075】
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET):
Invista社(ドイツ)製「RT49」を使用した。SV値は790であった。
【0076】
(2)マスターバッチMB1:
Sylobloc 44H(Grace社製)1.0重量%と、Aerosil TT600(Degussa社製)0.5重量%と、Invista社(ドイツ)製「RT49」98.5重量%とから成るマスターバッチを調製した。SV値は790、DEG含有量は1%であった。
【0077】
実施例1及び比較例1(コンデンサー用フィルム):
表1に示す組成でPETチップを混合し、固定床乾燥機にて155℃で1分間予備結晶化を行い、シャフト乾燥機にて3時間乾燥し、278℃で押出を行った。引取りロールで溶融ポリマーを引取り、厚さ29μmのシートを得た。次いで、長手方向に116℃で3.8倍に延伸し、テンターフレームを使用して横方向に110℃で3.7倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを230℃で熱固定し、横方向に200〜180℃の温度で8%の弛緩処理を行った。得られたフィルムの厚さは2μmであった。フィルムの特性について表1に示す。
【0078】
実施例2〜4及び比較例2(リボンケーブル用フィルム):
表1に示す組成でPETチップを混合し、二軸押出機(日本製鋼社製)を使用して278℃で押出を行った。引取りロールで溶融ポリマーを引取り、厚さ530μmのシートを得た。次いで、長手方向に116℃で3.4倍に延伸し、テンターフレームを使用して横方向に110℃で3.1倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを225℃で熱固定し、横方向に200〜180℃の温度で3%の弛緩処理を行った。得られたフィルムの厚さは50μmであった。フィルムの特性について表1に示す。
【0079】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】ヘーズを測定する装置の概要を示す斜視図
【符号の説明】
【0081】
1:BYK Gardner Hazemeter XL−211
10:スイッチ1
11:スイッチ2
12:Zeroつまみ
13:デジタルディスプレイ
14:キャリブレートつまみ
15:サンプル設置部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルと耐加水分解剤とから成るポリエステルフィルムであって、耐加水分解剤が、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
単層または多層構造を有する請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
多層構造を有する請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムを構成するすべての層に耐加水分解剤が含有されている請求項3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
さらに有機および/または無機粒子を含有する請求項1〜4の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
二軸延伸されている請求項1〜5の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
さらに難燃剤および/またはフリーラジカル捕捉剤を含有する請求項1〜6の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
耐加水分解剤の含有量が、ポリエステルフィルムの重量を基準として0.1〜20.0重量%である請求項1〜7の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
耐加水分解剤が、2種以上のエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステル混合物または1種のエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであり、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルが下記式[1]で示される請求項1〜8の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、R1〜R3は、カルボニル基、メチレン基を有するブロック(1)、エポキシ基を有するブロック(2)及びCHCH3基を有するブロック(3)を有する下記式[2]で示さる。R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式中、REはCH3またはHであり、mは1〜40であり、nは0〜10であり、pは0〜4である。ブロック(2)とブロック(3)の間および/またはブロック(3)とREとの間にブロック(1)があってもよい。)
【請求項10】
耐加水分解剤中のエポキシ基に由来する酸素の含有量が、2.0重量%以上である請求項1〜9の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルが、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油およびエポキシ化魚油から成る群より選択される1種以上である請求項1〜10の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルが生合成されたものであり、エポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルの重量を基準として10重量%未満の他の基質を含有している請求項1〜11の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
DIN 53018に準じて測定した、25℃におけるエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルの粘度が300mPa・sより大きい請求項1〜12の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステルとポリエステル及び耐加水分解剤から成るマスターバッチとから成る溶融体をフラットフィルムダイを介して押出す工程と、1つ以上のロールを使用して押出された溶融体を引取り、冷却固化して非晶シートを得る工程と、非晶シートを再加熱して二軸延伸し、二軸延伸フィルムを得る工程と、二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成り、耐加水分解剤がエポキシ基を有する脂肪酸グリセリンエステルであることを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成るコンデンサー。
【請求項16】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成るケーブルの鎧装。
【請求項17】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成るリボンケーブル。
【請求項18】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成るエンジン保護フィルム。
【請求項19】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成る窓ガラス用フィルム。
【請求項20】
請求項1〜13の何れかに記載のポリエステルフィルムから成る屋外物品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−77249(P2006−77249A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260966(P2005−260966)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】