説明

ポリエステルポリオール、それを用いたポリウレタン及びその製造方法、並びにポリウレタン成形体

【課題】剥離性が高く均質性に優れ、弾性繊維やフィルム及び衣料等の用途に極めて有用なポリエステルポリオール、ポリウレタン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルポリオール(a−1)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)を原料としてポリウレタンを製造することを特徴とするポリウレタンの製造方法であって、該ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)のカルボキシル基またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)のエステル基と、ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とでエステル結合を形成させることにより得られるポリエステルポリオール(a−1)であることを特徴とするポリウレタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエステルポリオール、それを用いたポリウレタン及びその製造方法、並びにポリウレタン成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン及びポリウレタンウレアは様々な分野で応用されており、その中でも、弾性繊維等の用途に用いられることが多い。特に、ポリウレタンウレア構造を持つ繊維は、ソフトセグメント成分としてポリエーテルポリオールを使用し、ハードセグメントとして凝集力の高いポリアミン化合物を使用しているため、弾性特性、伸長回復性に優れた性質を有している。
【0003】
しかし、これらポリウレタン及びポリウレタンウレア等のポリウレタン系弾性繊維は繊維同士の粘着性が高いために紡出時の解舒性が悪い。又、摩擦抵抗が大きいために糸が接触する紡糸機、整経機、編み機及びガイド等の加工工程にある機器で糸切れを起こす等の問題が発生し易い。
そこで、加工工程の機器と糸との摩擦抵抗を低下させて、このような問題を解決する手段として、固体の金属石鹸、油溶性高分子、高級脂肪酸及びアミノ変性シリコーン等を油剤としてポリウレタン系弾性繊維に添加する方法、平滑剤としてタルク、シリカ、コロイダルアルミナ及び酸化チタン等をポリウレタン系弾性繊維に分散させる方法、並びにシリコンジオールまたはシリコンジアミンをポリウレタン主鎖の一部に導入する方法等が検討されてきた(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、これらの方法でも、十分な粘着防止効果が得られなかったり、平滑剤が紡糸機、整経機、編み機やガイド等に重大な磨耗を生じさせたりするといった問題があった。
又、整経若しくは編みたて工程において油剤成分によって抽出された糸中のオリゴマー、または油剤中の固体若しくは高粘度成分が固体またはペースト状になって分離したものが、繊維、紡糸機、整経機、編み機及びガイド等に多量に付着するため、製品汚損並びに機械及び器具の目詰まりを生じるといった問題があり、課題の解決に至っていない。
【0005】
このため、前記油剤及び平滑剤を使わずとも、粘着性を低下させ、紡出時の解舒性が高いポリウレタン、即ち、剥離性が高いポリウレタンを製造する方法が求められてきた。
一方、ポリウレタンの原料にポリシロキサンポリオールを用いる例がこれまでに数多く報告されている。例えば、変性ポリシロキサンジオールを使用した、高反発弾性率を有する熱可塑性ポリウレタン(特許文献2)が挙げられる。また、エーテル変性シリコーンを使用した、ソフトで良好な着用感を有するポリウレタン弾性繊維(特許文献3)等が挙げられる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の熱可塑性ポリウレタンは、他のポリオールに対する変性ポリシロキサンジオールの使用量が非常に多いため、柔軟性が不足しているという問題があった。
また、特許文献3に記載の方法では、ポリウレタンを製造した後に、得られたポリウレタンにエーテル変性シリコーンを添加するため、エーテル変性シリコーンが繊維表面から脱落し易いという問題があった。更に、ポリウレタンを製造する際に前記エーテル変性シリコーンを反応させようとしても、他のポリオールとの相溶性が不十分であり、均質なポリウレタンが生成しにくいといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−259577号公報
【特許文献2】特開2004−250683号公報
【特許文献3】特開2004−332126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、剥離性が高く均質性に優れ、弾性繊維やフィルム及び衣料等の用途に極めて有用なポリウレタンの原料用のポリエステルポリオール、それを用いたポリウレタン及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、均質性に優れ、剥離性が高い弾性繊維やフィルム及び衣料等の用途に極めて有用なポリウレタンの成形体(以下、ポリウレタン成形体ともいう)であり、該成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比が特定の範囲であるポリウレタン成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリウレタンを製造するにあたり、ポリシロキサン骨格を有し且つ複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸、または、ポリシロキサン骨格を有し且つ複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステルとポリエーテルポリオールとから形成されるエステル結合を有するポリエステルポリオールを用いた場合に、得られるポリウレタンが一定以上の透明性を有しつつも高い剥離性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
また、特定の分子構造を有するポリシロキサンポリオールを使用して得られるポリウレタン成形体において、ポリウレタン成形体の表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比であるSi/Cが特定の範囲とした場合に、高い剥離性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下である。
1.ポリエステルポリオール(a−1)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)を原料としてポリウレタンを製造することを特徴とするポリウレタンの製造方法であって、該ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)のカルボキシル基またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)のエステル基と、ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とでエステル結合を形成させることにより得られるポリエステルポリオール(a−1)であることを特徴とするポリウレタンの製造方法。
2.ポリエステルポリオール(a−1)及びポリエーテルポリオール(b)の混合物を得る工程を含む前項1に記載のポリウレタンの製造方法。
3.ポリエステルポリオール(a−1)及びポリエーテルポリオール(b)の混合物を得る工程で得られた混合物とイソシアネート化合物(c)とを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得る工程を含む前項1又は2に記載のポリウレタンの製造方法。
4.ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)1分子の両末端カルボキシル基と、ポリエーテルポリオール(ii)2分子の末端ヒドロキシル基とで形成されたエステル結合を有するものである前項1〜3のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
5.ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリエーテルポリオール(ii)としてポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いて得られたものである前項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
6.ポリエステルポリオール(a−1)が、数平均分子量1,000〜4,000のものである前項1〜5のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
7.ポリエステルポリオール(a−1)の使用量の割合が、ポリエステルポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の合計使用量に対して0.1〜10重量%である前項1〜6のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
8.イソシアネート化合物(c)が芳香族ポリイソシアネートである前項1〜7のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
9.鎖延長剤(d)がポリアミン化合物である前項1〜8のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
10.前項1〜9のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法により得られたことを特徴とするポリウレタン。
11.前項10記載のポリウレタンを含むことを特徴とするポリウレタンフィルム。
12.前項10に記載のポリウレタンを含むことを特徴とするポリウレタン繊維。
13.ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)カルボキシル基またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)のエステル基と、ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とで、エステル結合を形成させることにより得られるポリエステルポリオール。14.前項13に記載のポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールを含むポリオール混合物。
15.下記構造式(1)で表されるポリシロキサンポリオール(a−2)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)から得られるポリウレタンの成形体であって、該成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比であるSi/Cが0.03〜0.5である成形体。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、2つのRは独立して炭素数1〜15のアルキレン基、2つのRは独立して、炭素数2〜6のアルキレン基、xは0か1の整数、2つのyは独立して5〜50の整数、
nは1〜100の整数である。)
16.ポリエーテルポリオール(b)がポリテトラメチレンエーテルグリコールである前項15に記載の成形体。
17.ポリシロキサンポリオール(a−2)の数平均分子量が500〜5000である前項15又は16に記載の成形体。
18.ポリイソシアネート化合物(c)が芳香族ポリイソシアネートである前項15〜17のいずれか1項に記載の成形体。
19.鎖延長剤(d)がポリアミン化合物である前項15〜18のいずれか1項に記載の成形体。
20.前項15〜19のいずれか1項に記載の成形体がポリウレタンフィルムである成形体。
21.前項15〜19のいずれか1項に記載の成形体がポリウレタン繊維である成形体。22.ポリウレタンが、ポリシロキサンポリオール(a−2)及びポリエーテルポリオール(b)を混合してポリオール混合物を得た後に、該混合物とポリイソシアネート化合物(c)及び鎖延長剤(d)とを反応させて得られたポリウレタンであることを特徴とする前項15〜21のいずれか1項に記載の成形体。
23.ポリウレタンが、ポリシロキサンポリオール(a−2)とポリエーテルポリオール
(b)を別々のラインから導入することにより、混合または分散させたポリオール混合物を使用して得られたポリウレタンであることを特徴とする前項15〜22のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、剥離性が高く、均質性に優れた、弾性繊維、フィルム及び衣料等の用途に極めて有用なポリウレタンの原料用のポリシロキサンポリオール、それを用いたポリウレタン及びその製造方法を提供することができる。また、弾性繊維、フィルム及び衣料等の用途に極めて有用な剥離性が高いポリウレタン成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に記載するが、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下に記載の態様に限定されない。
<1.ポリウレタンの製造>
<1−1.ポリウレタンの製造原料>
本発明のポリウレタンは、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)若しくはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)とポリエーテルポリオール(ii)とから得られるポリエステルポリオール(a−1)[以降、ポリシロキサンポリオール(a−1)ということがある]、または特定の構造を有するポリシロキサンポリオール(a−2)[以降、
(a−1)と(a−2)とを合わせて、ポリシロキサンポリオール(a)と略称することがある]、ポリエーテルポリオール(b)、ポリイソシアネート化合物(c)、及び鎖延
長剤(d)を原料として得られるものである。
【0015】
尚、本発明において、ポリウレタンとは、特に限定がない限り、類似の物性を有することが従来から知られているポリウレタンとポリウレタンウレアの両者を言う。
ここで、ポリウレタンとポリウレタンウレアの構造的特徴の違いとしては、ポリウレタンは、主としてウレタン結合によって連鎖構造を形成するポリマーであり、ポリウレタンウレアは、主としてウレタン結合及びウレア結合によって連鎖構造を形成するポリマーである。原料面からの違いとしては、ポリウレタンは、鎖延長剤として短鎖ポリオールを使用し製造されるものであり、ポリウレタンウレアは、鎖延長剤としてポリアミン化合物を使用し製造されるものである。
【0016】
各原料の組成割合は、通常、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の水酸基の合計のモル数をA、イソシアネート化合物(c)のイソシアネート基のモル数をB、鎖延長剤(d)の活性水素置換基(水酸基及び/又はアミノ基)のモル数をCとした場合、A:Bが、通常1:10〜1:1の範囲であることが好ましく、1:5〜1:1.05の範囲であることがより好ましく、1:3〜1:1.1の範囲であることが更に好ましく、1:2.5〜1:1.2の範囲であることが特に好ましく、1:2〜1:1.2の範囲であることが最も好ましく、且つ、(B−A):Cが、通常1:0.1〜1:5の範囲であることが好ましく、1:0.8〜1:2の範囲であることがより好ましく、1:0.9〜1:1.5の範囲であることが更に好ましく、1:0.95〜1:1.2の範囲であることが特に好ましく、1:0.98〜1:1.1の範囲であることが最も好ましい。
【0017】
<1−1−1.ポリシロキサンポリオール(a)>
本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a)は、複数のシロキサン部位及び複数のヒドロキシル基を有する化合物である。ポリシロキサンポリオール(a)は公知のものが使用できる。具体的には、例えば、ヒドロキシル基をポリシロキサン骨格の側
鎖に導入したもの、ポリシロキサン骨格の両末端に導入したもの、ポリシロキサン骨格の片末端にのみ導入したもの及びポリシロキサン骨格の片末端と側鎖に導入したものなどが挙げられる。その中でも、ブロック共重合体のポリウレタンを得るためには、ヒドロキシル基をポリシロキサン骨格の両末端に導入したポリシロキサンポリオールが好ましい。
【0018】
本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a)中の、ポリシロキサン部位の割合は特に限定されるものではないが、下限は、通常5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上が更に好ましく、20重量%以上が特に好ましく、25重量%以上が最も好ましい。前記割合の数値が大きくなるほど、得られるポリウレタンの剥離性が向上する傾向となる。
【0019】
一方、上限は、通常90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下が更に好ましく、60重量%以下が特に好ましく、55重量%以下が最も好ましい。前記割合の数値が小さくなるほどポリエーテルポリオールとの相溶性が向上して得られるポリウレタンの透明性や均質性が高くなる傾向となる。なお、ポリシロキサンポリオール(a)中の、ポリシロキサン部位の割合は、例えば、NMRを測定することにより、容易に算出することができる。
【0020】
前記ポリシロキサンポリオール(a)の数平均分子量は特に限定されるものではないが、下限は、通常500以上が好ましく、700以上がより好ましく、1000以上が更に好ましい。また、上限は、通常5000以下が好ましく、4500以下がより好ましく、4000以下が更に好ましい。
数平均分子量を前記上限以下とすることにより、ポリウレタン製造時に使用するポリエーテルポリオール(b)や溶媒との相溶性が良くなり、均質なポリウレタンを製造し易い。また、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の混合物(以下、ポリオール混合物ということがある)またはプレポリマー、プレポリマー溶液を形成した際に、それらの粘度が高くなりすぎることを抑え、操作性及び生産性が向上する傾向がある。前記下限以上とすることにより、得られるポリウレタン重合体の剥離性を十分発現させることができる。
【0021】
本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a)の性状は特に限定されるものではないが、常温で液状又はワックス状のものであり、ポリシロキサンポリオール(a)の性状や形態は、用途に応じて種々選択すればよい。
本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a)のうち、ポリエステルポリオール(a−1)について、以下に説明する。ポリエステルポリオール(a−1)は、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)〔以降、「ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)」と略記することがある。〕と、ポリエーテルポリオール(ii)とを、前記ポリカルボン酸(i−1)のカルボキシル基と前記ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とでエステル化させて、または、前記ポリカルボン酸エステル(i−2)のエステル基と前記ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とでエステル交換反応させて得られる。
【0022】
<1−1−1−1.ポリエステルポリオール(a−1)>
本発明において用いられるポリエステルポリオール(a−1)は、通常、分子内に2個以上のエステル結合と2個以上のヒドロキシル基を有するものである。該ポリエステルポリオール(a−1)は、通常、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)1分子が有する2個以上のカルボキシル基またはエステル基が、少なくとも2分子のポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基との間でそれぞれ
エステル結合を形成し、合計として1分子中に2個以上のエステル結合を有すると共に、結合した少なくとも2分子の各ポリエーテルポリオール(ii)の有する2個以上のヒドロキシル基のうちカルボキシル基と反応していない残余の1個以上のヒドロキシル基を合計として1分子中に2個以上有するものである。
【0023】
即ち、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)に由来する部分(〔X〕とする)とポリエーテルポリオール(ii)に由来する部分(〔Y〕とする)とで形成されるポリエステルポリオールの結合形式としては、〔X〕と〔Y〕とがエステル結合で結合された(YX)−Y型のポリエステルポリオールである(ここでiは1以上の任意の整数を表わす)。
【0024】
本発明におけるポリエステルポリオール(a−1)の製造方法としては、以上の分子構造を有する限り特に限定されるものではなく、上記製造法以外にも、例えば、珪素原子に結合する水素原子を少なくとも一つ有するオルガノポリシロキサンに末端不飽和エステル化合物を反応させるヒドロシリル化により、ポリシロキサン骨格の両末端にアルキレン基等の連結部位を介してエステル結合及びポリエーテル鎖が存在するポリエステルポリオール製造法も存在する。
【0025】
しかし、ポリウレタン製造時に使用するポリエーテルポリオールと同一のポリエーテルポリオールを一定量以上分子内に導入するとより透明度の高いポリウレタンが製造できることから、ポリエステルポリオール製造方法は前者のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルとポリエーテルポリオールの脱水または脱アルコール反応による製造方法であるのが好ましい。
【0026】
特に好ましい態様は、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)1分子が有する2個のカルボキシル基またはエステル基が、2分子のポリエーテルポリオール(ii)の各1個のヒドロキシル基との間でそれぞれエステル結合を形成した、前記結合形式におけるi=1のYXY型のポリエステルポリオールである。
なかでも特に好ましい態様は、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)1分子が有する2個の末端カルボキシル基またはエステル基が、2分子のポリエーテルポリオール(ii)の各1個の末端ヒドロキシル基との間でそれぞれエステル結合を形成したポリエステルポリオールである。
【0027】
本発明において用いられるポリエステルポリオール(a−1)は、分子内に、上記の部位以外の構造を有していてもよいが、上記部位以外の他の構造を含まないポリエステルポリオールが好ましい。
尚、一般に、ポリウレタン製造時におけるシリコーン系化合物の添加は、得られるポリウレタンの剥離性を向上させるために効果的である。しかし、シリコーン系化合物は、ポリウレタンの製造において、他の主原料であるポリエーテルポリオールや溶媒との相溶性が悪く、ポリウレタンが白濁したり、均質なフィルムまたは繊維が製造しにくいといった問題があった。
【0028】
これに対し、本発明においては、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)にポリエーテルポリオール(ii)を導入したポリエステルポリオール(a−1)を用いることにより、ポリエステルポリオール(a−1)中のポリシロキサン部位の割合が小さくなるほど剥離性は悪化するものの、後述するポリウレタンの製造において、このポリエステルポリオール(a−1)と後述するポリエーテルポリオール(b)の混合物を作製する際の両者の相溶性が向上し、均質で透明なフィルムまたは繊維を製造しやすくなるものである。
【0029】
<1−1−1−1−1.ポリエステルポリオール(a−1)の製造原料>
前述したような、分子末端にカルボキシル基またはエステル基を有するポリシロキサンにジオールを反応させてエステル結合を形成する例示方法の中で好適な方法として、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)とポリエーテルポリオール(ii)とを、前者(i)のカルボキシル基またはエステル基と後者(ii)のヒドロキシル基とでエステル結合を形成させて得られるポリエステルポリオール(a−1)の製造について、以下に詳述する。
【0030】
<1−1−1−1−1−a.ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)>
本発明において用いられるポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)は、複数のシロキサン部位及び複数のカルボキシル基またはエステル基を有する化合物である。
【0031】
前記ポリシロキサン骨格としては、シロキサン骨格を有する限り特に限定されるものではなく、例えば、ポリジメチルシロキサン及びポリジエチルシロキサン等のポリアルキルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリアルキルアリールシロキサン、並びにポリジフェニルシロキサン等のポリアリールシロキサンが挙げられる。これらの中で、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0032】
ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)は、カルボキシル基またはエステル基を複数有していてよいが、2個であるのが好ましい。
ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル中のカルボキシル基またはエステル基の位置は特に限定されず、例えば、カルボキシル基またはエステル基を分子側鎖に有するもの、分子の両末端に有するもの、分子の片末端と側鎖に有するもの、及び分子の片末端のみに有するもの等が挙げられる。
【0033】
その中でも、高物性のポリウレタンを得るためには、カルボキシル基またはエステル基をポリシロキサンの両末端に有するジカルボン酸またはジカルボン酸エステルが特に好ましい。
尚、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸(i−1)のいくつかは市販されており、本発明においてもそれら公知のものが使用できる。ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸エステル(i−2)は市販されていないが、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸(i−1)とアルコールとのエステル交換反応により公知の方法で製造することができる。
【0034】
尚、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)は、通常、珪素原子が連結基を介してカルボキシル基またはエステル基を有するものである。
前記連結基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基及びペンタデカメチレン基等のアルキレン基、ビニレン基及びプロペニレン基等のアルケニレン基、並びにフェニレン基等のアリーレン基等が挙げられる。これらの中でもアルキレン基が好ましく、炭素数4〜12の直鎖アルキレン基が特に好ましい。
【0035】
本発明において用いられるポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)の分子量は、数平均分子量で、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1,000以上であることが更に好ましい。また
、5,000以下であることが好ましく、4,000以下であることがより好ましく、3,000以下であるものが更に好ましい。
【0036】
数平均分子量を前記上限以下とすることにより、ポリエステルポリオール(a−1)中のポリシロキサン部位含有量が多すぎることによるポリウレタン製造時に使用するポリエーテルポリオール(b)や溶媒との相溶性の悪化を防ぎ、均質なポリウレタンを製造し易くなる。また、分子量が大きくなりすぎるのを防ぎ、ポリエステルポリオール(a−1)とポリエーテルポリオール(b)の混合物(以下、ポリオール混合物ということがある)やプレポリマー、プレポリマー溶液を形成した際のそれらの粘度を抑え、操作性及び生産性を向上することができる。
【0037】
一方、前記下限以上とすることにより、ポリエステルポリオール(a−1)中のポリシロキサン部位含有量を増加させて、得られるポリウレタン重合体の剥離性を十分発現させることができる。
尚、本発明において用いられるポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)の性状は、特に限定されるものではなく、常温で液状のものもワックス状のものも使用可能である。ハンドリング性が良いことから、液状のものが好ましい。
【0038】
<1−1−1−1−1−b.ポリエーテルポリオール(ii)>
本発明において用いられるポリエーテルポリオール(ii)は、通常、分子内の主骨格中に1つ以上のエーテル結合を有するヒドロキシ化合物である。主骨格中の繰り返し単位としては、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素のどちらでもよく、又、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。
【0039】
主骨格中の繰り返し単位としては、例えば、1,2−エチレングリコール単位、1,2−プロピレングリコール単位、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール)単位、2−メチル−1,3−プロパンジオール単位、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール単位、1,4−ブタンジオール(テトラメチルングリコール)単位、2−メチル−1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,5−ペンタンジオール単位、ネオペンチルグリコール単位、1,6−ヘキサンジオール単位、1,7−ヘプタンジオール単位、1,8−オクタンジオール単位、1,9−ノナンジオール単位、1,10−デカンジオール単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール単位等が挙げられる。
【0040】
ポリエーテルポリオール(ii)としては、前記繰り返し単位を主骨格中に有するポリエーテルポリオールのうち、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、1〜20モル%の3−メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの反応により得られる共重合ポリエーテルポリオール(例えば、保土ヶ谷化学社製「PTG−L1000」、「PTG−L2000」及び「PTG−L3500」等)及びネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランの反応により得られる共重合ポリエーテルグリコール等が好ましい。
【0041】
これらのポリエーテルポリオールは、単独で用いても二種以上を混合して使用することもでき、求めるポリウレタンの物性に応じて種々選択すればよい。均質なポリウレタンを得るためには、ポリウレタン製造時に使用するポリエーテルポリオール(b)と同一のポリエーテルポリオールを使用することが好ましい。
本発明において用いられるポリエーテルポリオール(ii)の分子量は、数平均分子量で、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。また、3,000以下であることが好ましく、2,500
以下であることがより好ましく、2,000以下であることが更に好ましい。
【0042】
数平均分子量を前記上限以下とすることにより、生成するポリエステルポリオール(a)の分子量が非常に大きく粘度が高くなりすぎるのを防ぎ、ポリウレタン製造時の操作性及び生産性を向上することができる。また、ポリエステルポリオール中のポリエーテル部位含有量が高くなり過ぎるのを防ぎ、ポリウレタンの剥離性を十分発現させることができる。
【0043】
一方、数平均分子量を前記下限以上とすることにより、ポリエステルポリオール中のポリエーテル部位含有量が十分となり、ポリエーテルポリオール(b)との相溶性が良く、均質なポリウレタンを生成することができる。
尚、数平均分子量は、JIS K1557−1:2007に準拠したアセチル化法による水酸基価(KOH(mg)/g)測定方法により求めることができる。
【0044】
<1−1−1−1−2.ポリエステルポリオール(a−1)の製造>
<1−1−1−1−2−a.触媒>
本発明におけるポリエステルポリオール(a−1)は、好ましくは、前記ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)と前記ポリエーテルポリオール(ii)とのエステル化またはエステル交換反応によって得られるものである。
【0045】
前記エステル化またはエステル交換反応は、触媒の存在しない系で行うことも可能ではあるが、通常は、これらの反応を円滑に進行させるために、無機酸類または有機酸類を用いることができる。
前記無機酸類または有機酸類としては、通常のエステル化反応及びエステル交換反応に使用されているいずれの触媒も用いることができ、Li、Na、K、Rb、Ca、Mg、Sr、Zn、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pb、Sn、Sb及びPb等の金属の塩化物、酸化物及び水酸化物並びに酢酸、シュウ酸、オクチル酸、ラウリル酸及びナフテン酸等の脂肪酸塩類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキサイド、イソプロピルチタネート及びn−ブチルチタネート等のアルコール類;ナトリウムフェノラート等のフェノール類;Al、Ti、Zn、Sn、Zr及びPb等の金属のその他の有機金属化合物等が好ましい。
【0046】
これらの中でも、入手が容易で毒性も低く、エステル化またはエステル交換反応に幅広く使用されていることから、イソプロピルチタネート及びn−ブチルチタネート等のチタン系触媒が最も好ましい。
その際の触媒の使用量は、ポリエステルポリオール(a−1)調製用原料総量に対して0.00001重量%以上が好ましく、0.0001重量%以上が更に好ましく、0.001重量%以上が最も好ましい。また、1.0重量%以下が好ましく、0.1重量%以下が更に好ましく、0.02重量%以下が最も好ましい。
【0047】
触媒の使用量を前記下限以上とすることにより、ポリエステルポリオール形成にかかる時間を短縮し、生成物の着色を防ぐことができる。また、前記上限以下とすることにより、触媒が、ポリウレタン化反応に対する過剰な反応促進作用を示すのを防ぐことができる。
<1−1−1−1−2−b.エステル化またはエステル交換反応>
本発明におけるポリエステルポリオール(a−1)の製造は、通常、従来公知のエステル化またはエステル交換技術を採用することができる。例えば、前記ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)と前記ポリエーテルポリオール(ii)とを、常圧下に反応させる方法、減圧下で反応させる方法、及びトルエンの
ような不活性溶剤存在下に反応を行った後に縮合水又は縮合アルコールと溶剤とを共沸させて反応系外に除去する方法等がある。
【0048】
エステル化またはエステル交換反応の反応温度は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、150℃以上が特に好ましい。また、通常250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、220℃以下が特に好ましい。
反応温度を前記下限以上とすることにより、エステル化またはエステル交換反応を十分進行させることができる。また、反応温度を前記上限以下とすることにより、生成物の着色を抑えることができる。
【0049】
又、エステル化またはエステル交換反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。反応圧力は任意であり、目的に応じて常圧又は減圧下で実施することができる。反応中に生成する水やアルコールを反応系から除去するために、反応系に不活性ガスを流通させてもよい。
又、エステル化反応の反応時間は、触媒の使用量、反応温度、反応させる基質、生成するポリエステルポリオールに所望の物性等により異なるが、通常0.5時間以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。また、通常30時間以下とすることが好ましく、20時間以下とすることがより好ましい。
【0050】
<1−1−1−1−2−c.後処理>
ポリエステルポリオール生成物からのチタン系触媒等の除去には通常繁雑な工程を伴うので、生成したポリエステルポリオールは、一般にチタン系触媒を分離することなく、そのままポリウレタンの製造に使用することが多い。しかし、触媒の含有量が多い場合やポリウレタンの用途によってはポリエステルポリオール中のチタン触媒を失活させておくことが好ましい。
【0051】
ポリエステルポリオール中のチタン系触媒の失活方法としては、例えば、ポリエステルポリオールを加熱下に水と接触させる方法、並びにポリエステルポリオールを燐酸、燐酸エステル、亜燐酸及び亜燐酸エステル等の燐化合物で処理する方法等を挙げることができる。
水と接触させる前者方法による場合は、例えば、ポリエステルポリオールに水を1重量%以上添加して、好ましくは70〜150℃、より好ましくは90〜130℃の温度で1〜3時間程度加熱すればよい。その際の加熱による失活処理は、常圧下で行っても加圧下で行ってもよい。失活処理後に系を減圧にすると、失活に用いた水分をポリエステルポリオールから円滑に除去することができる。
【0052】
<1−1−1−1−3.ポリエステルポリオール(a−1)の物性>
所望のポリウレタン樹脂の物性に応じて、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)及びポリエーテルポリオール(ii)の重合度を調節することにより、生成するポリエステルポリオール(a−1)の分子量やポリシロキサン骨格の含有量を変化させることが容易に可能である。
【0053】
又、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)1分子に対してポリエーテルポリオール(ii)を2分子以上の割合で加えてエステル化またはエステル交換を実施し、ポリエステルポリオール(a−1)と未反応のポリエーテルポリオール(ii)の混合物をウレタン化反応の原料として使用してもよい。
<1−1−1−2.ポリシロキサンポリオール(a−2)>
また、本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a)として、下記構造式(1)で表される分子構造を有し、ポリウレタンの成形体表面の炭素原子に対するケイ素
原子の相対存在比であるSi/C(以下、「相対存在比」と略記することがある)が0.03〜0.5となるポリシロキサンポリオール(a−2)が挙げられる。
【0054】
前記ポリシロキサンポリオール(a−2)は、公知の製造方法により得られるものや、市販のポリシロキサンポリオールをそのまま使用することができる。
本発明において用いられるポリシロキサンポリオール(a−2)は、ポリウレタンの透明性や均質性向上に寄与するポリエーテル部位、ポリウレタンの剥離性向上に寄与するポリシロキサン部位を分子内に有するエーテル変性シリコーンであり、求めるポリウレタンの物性に応じて、ポリシロキサン部位(下記構造式(1)のn)やポリエーテル部位の長さ(下記構造式(1)のy)が異なるエーテル変性シリコーンを使用すればよい。
【0055】
【化2】

【0056】
前記構造式(1)中、2つのRは独立して炭素数1〜15のアルキレン基、2つのRは独立して、炭素数2〜6のアルキレン基、xは0か1の整数、2つのyは独立して5〜50の整数、nは1〜100の整数である。
前記構造式(1)におけるxは0か1の整数であり、ポリシロキサンポリオール(a−2)の製造法によって、これらの数値が決定する。
【0057】
前記構造式(1)におけるyは5〜50であり、下限は、通常5以上であり、7以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、上限は、通常50以下であり、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
nの値が一定の場合には、yの値が大きくなるほどポリエーテルポリオール(b)との相溶性が高くなり、均質なポリウレタンを製造しやすくなるが、上限超過ではポリシロキサンポリオールの分子量が大きくなりすぎて粘度が高くなり、ポリウレタン製造時の操作性や生産性が悪くなる。
【0058】
一方、nの値が一定ならば、yの値が小さくなるほどポリシロキサンポリオール(a−2)中のポリシロキサン骨格含有量が増加するので、得られるポリウレタン重合体の剥離性が向上する。
また、構造式(1)におけるRの炭素数は2〜6であり、ポリウレタンの物性への影響や汎用性の高さから2〜4が好ましい。ポリオキシアルキレン部位(構造式(1)における−R−O−基)は、単一のオキシアルキレン基から形成されてもよいし、Rの炭素数が異なる複数のオキシアルキレン基から形成されてもよい。
【0059】
また、前記構造式(1)における、ジメチルシロキサン骨格の繰り返し数nは1〜100の整数であり、通常2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。また、通常70以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましい。
yの値が一定の場合には、nの値が大きくなるほど、得られるポリウレタン重合体の剥離性が向上する傾向となる。一方、nの値が小さくなるほど、ポリエーテルポリオールとの相溶性が高くなり、均質なポリウレタンを製造しやすい傾向となる。
【0060】
尚、一般に、ポリウレタン製造時におけるシリコーン系化合物の添加はポリウレタンの剥離性を向上させるために効果的であるが、シリコーン系化合物は、ポリウレタンの製造
において、他の主原料であるポリエーテルポリオール(b)や溶媒との相溶性が悪い。このため、生成するポリウレタンが白濁し、均質なフィルムまたは繊維が製造しにくいといった問題があった。
【0061】
これに対して、繰り返し単位yが5以上のオキシアルキレン基から成るポリエーテル部位を有する前記構造式(1)のポリシロキサンポリオール(a−2)を用いる場合には、ポリウレタンの製造において、ポリシロキサンポリオール(a−2)とポリエーテルポリオール(b)の混合物を作製する際の両者の相溶性が向上し、均質で透明なフィルムまたは繊維を製造しやすくなる。
【0062】
前記構造式(1)で表されるポリシロキサンポリオール(a−2)としては、xが0、すなわち、ポリシロキサン部位に結合しているアルキレン基(−R−基)と複数のオキシアルキレン基(−R−O−基)が、エーテル結合で連結している場合、ポリシロキサンポリオール(a−2)は市販されているもの、または、公知の方法(例えば、特公平5−29706号公報に記載の方法)により得られたものが使用できる。
【0063】
また、前記構造式(1)で表されるポリシロキサンポリオール(a−2)において、xが1、すなわち、ポリシロキサン骨格に結合しているアルキレン基(−R−基)と複数のオキシアルキレン基(−R−O−基)がエステル結合で連結している場合のポリシロキサンポリオール(a−2)は、珪素原子に結合する水素原子を少なくとも一つ有するオルガノ(ポリ)シロキサンに末端不飽和エステルを反応させる公知の方法(特開平9−278891号公報)だけでなく、例えば、前述したように、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)とポリエーテルポリオール(ii)のエステル化またはエステル交換反応による製造法が使用できる。
【0064】
ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)及びポリエーテルポリオール(ii)のエステル化またはエステル交換反応により生成するポリシロキサンポリオールには、構造式(1)で示されるポリシロキサンポリオール(a−2)のほか、ポリシロキサンユニットとポリエーテルユニットの交互構造を複数有するポリエステル型のポリオールも一部生成し含まれていることが予想される。しかしながら、そのような構造のポリシロキサンポリオールが一部生成しても、ポリオール混合物の調製やポリウレタン化において問題となる可能性は低く、本発明に包含される。
【0065】
<1−1−1−3.ポリシロキサンポリオール(a−3)>
また、本発明における他の実施形態では、ポリシロキサンポリオール(a)として、構造式(1)におけるyの値が4以下のポリシロキサンポリオール(a−3)を用いることもできる。
ポリシロキサンポリオール(a−3)は、ポリエーテル鎖が短いために疎水性が高く、ポリエーテル鎖が長いポリシロキサンポリオールに比べてポリエーテルポリオールや溶媒との相溶性が悪いものの、ポリウレタン製造時に添加することにより、ポリウレタンの剥離性を向上させることができる。
【0066】
ポリシロキサンポリオール(a−3)としては、カルビノール変性シリコーンとして市販されているものもある。その一例として、参考例3のポリシロキサンポリオール6として使用しているカルビノール変性シリコーン(信越化学社製、KF−6001、数平均分子量1820)が挙げられる。
前記カルビノール変性シリコーンの構造は、構造式(1)においてn=20,x=0,y=1,R=炭素数3のアルキレン基、R=炭素数2のアルキレン基としたものであり、yの値が5以上にはなっておらず、構造式(1)を満たさない構造のポリシロキサンポリオールである。
【0067】
<1−1−1−4.ポリシロキサンポリオール(a−4)>
また、本発明における他の実施形態では、ポリシロキサンポリオール(a)として、エステル結合を介してポリラクトンを分子内に有するポリシロキサンポリオール(a−4)が挙げられる。
ポリシロキサンポリオール(a−3)にラクトンを公知の方法で付加重合することにより、ポリシロキサンポリオール(a−3)中のヒドロキシル基とラクトンが反応してエステル結合を形成し、ポリラクトンを分子内に有するポリシロキサンポリオール(a−4)を製造することができる。ポリシロキサンポリオール(a−3)に対するラクトン使用量を変更することにより、ポリシロキサンユニットとポリラクトンユニットの含有比率を変えることが容易にできる。
【0068】
ラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン及びエナントラクトン等が挙げられる。これらは、単独で用いても二種以上混合して使用することもできる。入手しやすく反応性が高いことから、ε−カプロラクトンが最も好ましい。
【0069】
<1−1−2.ポリエーテルポリオール(b)>
本発明において用いられるポリエーテルポリオール(b)は、通常、分子内の主骨格中に1つ以上のエーテル結合を有するヒドロキシ化合物である。主骨格中の繰り返し単位としては、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素のどちらでもよく、又、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。
【0070】
前記繰り返し単位としては、例えば、1,2−エチレングリコール単位、1,2−プロピレングリコール単位、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール)単位、2−メチル−1,3−プロパンジオール単位、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール単位、1,4−ブタンジオール(テトラメチルングリコール)単位、2−メチル−1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,5−ペンタンジオール単位、ネオペンチルグリコール単位、1,6−ヘキサンジオール単位、1,7−ヘプタンジオール単位、1,8−オクタンジオール単位、1,9−ノナンジオール単位、1,10−デカンジオール単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール単位等が挙げられる。
【0071】
これらの繰り返し単位を主骨格中に有するポリエーテルポリオールのうち、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、1〜20モル%の3−メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの反応により得られる共重合ポリエーテルポリオール(例えば、保土ヶ谷化学社製「PTG−L1000」、「PTG−L2000」及び「PTG−L3500」等)、及びネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランとの反応により得られる共重合ポリエーテルグリコール等が好ましい。
【0072】
又、これらのポリエーテルポリオールは、単独で用いても二種以上を混合して使用することもでき、求めるポリウレタンの物性に応じて種々選択すればよい。
均質なポリウレタンを得るためには、ポリシロキサンポリオール(a)として前述のポリエステルポリオール(a−1)を使用する場合には、ポリエステルポリオール(a−1)製造において用いたポリエーテルポリオール(ii)と同一のポリエーテルポリオール(b)を使用することが好ましい。
【0073】
本発明において用いられるポリエーテルポリオール(b)の分子量は、数平均分子量で、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、1,5
00以上であることが更に好ましい。また、5,000以下であることが好ましく、4,000以下であることがより好ましく、3,500以下であることが更に好ましい。
数平均分子量を前記上限以下とすることにより、後述するポリウレタンの製造において、前述したポリシロキサンポリオール(a)とこのポリエーテルポリオール(b)の混合物を作製する際の該混合物、及びそれを用いて製造したプレポリマー、プレポリマー溶液を形成した際に、それらの過度な粘度の上昇を抑え、操作性及び生産性を向上するとともに、得られるポリウレタンの低温における柔軟性及び弾性回復性が向上することができる。
【0074】
一方、前記下限以上とすることにより、得られるポリウレタンが硬くなるのを防ぎ、十分な柔軟性が得られるとともに、強度及び伸度等の弾性性能が十分に得られる。
尚、ここで、数平均分子量は、JIS K1557−1:2007に準拠したアセチル化法による水酸基価(KOH(mg)/g)測定方法により求めたものである。
ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の使用量は特に限定されるものではないが、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の合計重量に対して、ポリシロキサンポリオール(a)の使用量として、通常0.01重量%以上であることが好ましく、0.03重量%以上であることがより好ましく、0.05重量%以上であることが更に好ましく、0.07重量%以上であることが特に好ましく、0.1重量%以上であることが最も好ましい。
【0075】
また、通常20重量%以下であることが好ましく、17重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましく、12重量%以下であることが特に好ましく、10重量%以下であることが最も好ましい。
ポリシロキサンポリオール(a)の使用量を前記上限以下とすることにより、得られるポリウレタンの剥離性が向上する傾向となる。使用量を前記下限以上とすることにより、得られるポリウレタンの剥離性は悪化するものの、弾性特性や伸張回復性が向上する傾向となる。
【0076】
<1−1−3.イソシアネート化合物(c)>
本発明において用いられるイソシアネート化合物(c)は、特に限定されるものではないが、例えば、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−MDI、パラフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート及びトリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、並びに1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添TDI)、1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独使用でも2種以上の併用でもよい。
【0077】
本発明においては、特に反応性の高い芳香族ジイソシアネートが好ましく、特にトリレンジイソシアネート(TDI)及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ま
しい。
又、イソシアネート化合物のNCO基の一部を、ウレタン、ウレア、ビュレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド及びイミド等に変成したものであってもよく、更に多核体には前記以外の異性体を含有しているものも含まれる。
【0078】
これらのイソシアネート化合物(c)の使用量は、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の水酸基の合計、並びに鎖延長剤(d)の水酸基及び/又はアミノ基を合計した1当量に対し、通常0.1当量〜5当量であることが好ましく、0.8当量〜2当量であることがより好ましく、0.9当量〜1.5当量であることが更に好ましく、0.95当量〜1.2当量であることが最も好ましく、0.98当量〜1.1当量であることが特に好ましい。
【0079】
イソシアネート化合物の使用量を5当量以下とすることにより、未反応のイソシアネート基が好ましくない反応を起こすのを防ぎ、所望の物性を得やすくなる。また、0.1当量以上とすることにより、ポリウレタン及びポリウレタンウレアの分子量を十分に大きくすることができ、所望の性能を発現し易くなる。
<1−1−4.鎖延長剤(d)>
本発明において用いられる鎖延長剤(d)は、主として、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のアミノ基を有する化合物、水に分類される。この中でも、ポリウレタン製造には短鎖ポリオール、具体的には2個以上のヒドロキシル基を有する化合物を有する化合物が好ましい。また、ポリウレタンウレア製造には、ポリアミン化合物、具体的には2個以上のアミノ基を有する化合物が好ましい。
【0080】
鎖延長剤(d)のうち、水については反応を安定に行うために、できるだけ低減することが好ましい。又、本発明のポリウレタンは、鎖延長剤(d)として、分子量(数平均分子量)が500以下の化合物を併用すると、ポリウレタンエラストマーのゴム弾性が向上するために、物性上更に好ましい。尚、これらの鎖延長剤(d)は単独使用でも2種以上の併用でもよい。
【0081】
前記2個以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール及び1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等の脂環族グリコール、並びにキシリレングリコール及びビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香環を有するグリコール等が挙げられる。
【0082】
又、2個以上のアミノ基を有する化合物としては、例えば、2,4−又は2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン及び4,4′−ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ペンタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン及び1,10−デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、並びに1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン(水添MDA)、イソプロピリデンシクロヘキシル−4,4′−ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン及び1,3−ビスアミノメ
チルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。これらの中でも、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,3−ペンタンジアミン及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミンが好ましい。
【0083】
これらの鎖延長剤(d)の使用量は、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の合計の水酸基当量からイソシアネート化合物(c)の当量を引いた当量を1とした場合、通常0.1当量〜5.0当量であることが好ましく、0.8当量〜2.0当量であることがより好ましい、0.9当量〜1.5当量であることが更に好ましい。
【0084】
鎖延長剤(d)の使用量を前記上限以下とすることにより、得られるポリウレタン及びポリウレタンウレアが硬くなりすぎるのを防いで所望の特性を得ることができ、溶媒に溶け易く加工し易い。また、前記下限以上とすることにより、軟らかすぎることなく、十分な強度や弾性回復性能や弾性保持性能が得られ、良好な高温特性が得られる。
<1−1−5.その他の添加剤等(e)>
本発明において、ポリウレタンの製造には、以上の(a)〜(d)の他に、ポリウレタンの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤等を使用することができる。
【0085】
前記鎖停止剤としては、水酸基を有するエタノール、プロパノール、ブタノール及びヘキサノール等の脂肪族モノオール、並びにアミノ基を有するジエチルアミン、ジブチルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等の脂肪族モノアミン等が例示される。これらは単独使用でも2種以上の併用でもよい。
又、ポリウレタン製造時に、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤としては、「CYANOX1790」(CYANAMID社製)、「IRGANOX245」、「IRGANOX1010」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)、「Sumilizer GA−80」(住友化学社製)及び2,6−ジブチル−4−メチルフェノール(BHT)等の酸化防止剤、「TINUVIN622LD」、「TINUVIN765」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)、「SANOL LS−2626」及び「SANOL LS−765」(以上、三共社製)等の光安定剤、「TINUVIN328」及び「TINUVIN234」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)等の紫外線吸収剤、ジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体等のシリコン化合物、赤燐、有機燐化合物、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素または塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤、二酸化チタン等の顔料、染料、カーボンブラック等の着色剤、カルボジイミド化合物等の加水分解防止剤、ガラス短繊維、カーボンファイバー、アルミナ、タルク、グラファイト、メラミン、白土等のフィラー、滑剤、油剤、界面活性剤、その他の無機増量剤並びに有機溶媒等が挙げられる。
【0086】
<1−2.ポリウレタンの製造>
本発明において、ポリウレタンを製造するには、ポリシロキサンポリオール(a)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)を主製造用原料として、上記記載の各使用量で用い、一般的に実験/工業的に用いられる全ての製造方法により、無溶媒或いは溶媒共存下で実施することができる。
【0087】
その際使用する溶媒としては、特に限定されるものではないが、汎用性や溶解性等の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミド並びにそれらの2種以上の混合物等のアミド系溶媒;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒が好ましく用いられ、これらの中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0088】
製造方法の一例としては、前記(a)、前記(b)、前記(c)及び前記(d)を一緒に反応させる方法(以下、一段法という)、まず前記(a)と前記(b)を混合して、その混合物と前記(c)を反応させて両末端がイソシアネート基のプレポリマーを調製した後に、そのプレポリマーと前記(d)を反応させる方法(以下、二段法という)、前記(b)と前記(c)を反応させた後に前記(a)を混合し、前記(d)と反応させる方法、並びに前記(b)、前記(c)及び前記(d)を反応させた後に前記(a)を混合する方法が挙げられる。
【0089】
これらの中でも二段法は、ポリエーテルポリオール(b)を予め1当量以上のイソシアネート化合物(c)と反応させることにより、ポリウレタンのソフトセグメントに相当する両末端イソシアネートで封止された中間体を調製する工程を経るものである。二段法は、プレポリマーをいったん調製した後に鎖延長剤(d)と反応させることにより、ソフトセグメント部分の分子量の調整が行いやすく、ソフトセグメントとハードセグメントの相分離がしっかりとなされやすく、エラストマーとしての性能を出しやすい特徴がある。
【0090】
特に、鎖延長剤(d)がジアミンの場合には、イソシアネート基との反応速度がポリエーテルポリオールの水酸基とジアミンのアミノ基では大きく異なるため、二段法にてポリウレタンウレアを製造することが好ましい。
また、前記(a)と前記(b)の混合物と前記(c)を反応させて両末端がイソシアネート基のプレポリマーを調製した後に、そのプレポリマーと前記(d)を反応させるポリウレタン製造方法は、ポリシロキサンポリオール(a)がポリウレタンの分子構造に組みこまれるのでポリウレタン成形工程においてポリシロキサンポリオールがブリードアウト(分離、析出)しにくく、生成するポリウレタン成形体の剥離性が損なわれない最も好ましい方法であると言える。
【0091】
一方、別のポリウレタン製造方法として、例えば、前記(b)、前記(c)、前記(d)を反応させた後に前記(a)を混合する方法がある。しかし、当該方法では、ポリシロキサンポリオール(a)がポリウレタンの分子構造に組み込まれにくいため、ポリウレタン成形工程において前記(a)がブリードアウトしやすく、生成するポリウレタン成形体が所望の剥離性を示さない傾向や、十分な剥離性を得るためには大量のポリシロキサンポリオール(a)が必要となるのでコストが高くなる傾向となり、好ましくない。
【0092】
予め、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)でポリオール混合物を調整する方法は、特に限定されないが、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の何れも液状である場合は、これを攪拌して混合することが好ましい。
また、一方または双方が固体または高粘度の液体である場合は、加温して粘度の低い液状として混合することもできる。
【0093】
混合する際の温度は限定されないが、10〜110℃で混合することが好ましい。110℃以下とすることにより、ポリオール混合物が着色するのを防ぐことができる。また、10℃以上とすることにより、ポリオールが一部固化するのを防ぎ、作業効率を向上するとともに、不均一に混合されるのを防ぎ、剥離性及び均質性に優れたポリウレタンを安定的に生産することができる。
【0094】
上記ポリオール混合物のハーゼン色数は、0に近いほど好ましい。ハーゼン色数の上限は、通常400以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下が更に好ましく、50以下が特に好ましい。上限以下にすることにより、ポリウレタン成形体の着色が大きくなるのを防ぐことができる。
ポリオール混合物を予め調整しておくと、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の相溶性が良好であるので、このように混合した状態で長期に保存した場合であっても、相分離を起こすことがないという特徴をもつ。
【0095】
また、ポリオール混合物は、後述する本発明のポリウレタンを製造する際に、ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)を別々のラインから導入し、混合または分散させてポリオール混合物とすることも好ましい。
ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)を別のラインから導入する場合、通常のポリウレタン製造設備に本発明のポリシロキサンポリオール用のタンクとフィードラインを増やすだけで、剥離性に優れる特殊グレードのポリウレタンが製造可能となる。
【0096】
ポリオール混合物を調整した後に通常のポリウレタン製造設備のポリエーテルポリオールの保管タンクに導入すると、通常グレードのポリウレタンを製造する場合にポリシロキサンポリオールが混在してしまい、ポリウレタンの均質性が損なわれる可能性が考えられる。
通常グレードと特殊グレードのポリウレタンを所望の物性が得られるように効率よく製造するためには、このようにポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)を別々のラインから導入することが好ましい。
【0097】
<1−2−1.一段法>
一段法とは、ワンショット法とも呼ばれ、前記(a)、前記(b)、前記(c)及び前記(d)を一緒に仕込むことで反応を行う方法である。反応は、通常、各成分を0〜250℃で反応させることが好ましい。
前記反応温度は、溶剤の量、使用原料の反応性、反応設備等により異なる。温度が低すぎると反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低くなるために生産性が悪く、又、高すぎると副反応やポリウレタンの分解が起こるので好ましくない。
【0098】
反応は、減圧下脱泡しながら行ってもよい。又、反応は必要に応じて、触媒、安定剤等を添加することもできる。その際の触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ−ト、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸及びスルホン酸等が挙げられる。
また、安定剤としては、例えば、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ−ト、ジ−β−ナフチルフェニレンジアミン及びトリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
【0099】
<1−2−2.二段法>
二段法は、プレポリマー法ともよばれる。まずポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)を混合し、イソシアネート化合物(c)とそのポリオール混合物とを反応させたプレポリマーを製造する。次いで該プレポリマーにイソシアネート化合物(c)又は多価アルコール及びアミン化合物等の活性水素化合物成分を加えることにより、二段階反応させることもできる。
【0100】
特に、ポリオール混合物に対して当量以上のイソシアネート化合物(c)を反応させて両末端NCOプレポリマーをつくり、続いて鎖延長剤(d)である短鎖ジオールやジアミンを作用させてポリウレタンを得る方法が有用である。
二段法は無溶媒でも溶媒共存下でも実施することができる。溶媒共存下で実施する場合、汎用性や溶解性等の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミド並びにそれらの2種以上の混合物等のアミド系溶媒;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる溶媒が好ましく
用いられる。これらの中でN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0101】
プレポリマーを合成する場合、(1)まず溶媒を用いないで直接イソシアネート化合物(c)とポリオール混合物を反応させてプレポリマーを合成しそのまま使用してもよいし、(2)(1)の方法でプレポリマーを合成しその後に溶媒に溶かして使用してもよいし、(3)初めから溶媒を用いてイソシアネート化合物(c)とポリオール混合物を反応させてもよい。
【0102】
(1)の場合には、本発明では、鎖延長剤(d)と作用させるにあたり、鎖延長剤(d)を溶媒に溶かしたり、溶媒に同時にプレポリマー及び鎖延長剤(d)を導入する等の方法により、ポリウレタンを溶媒と共存する形で得ることが好ましい。
NCO/活性水素基(ポリオール混合物)の反応当量比は、通常1以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。また、通常10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。
【0103】
NCO/活性水素基(ポリオール混合物)の反応当量比を前記上限以下とすることにより、過剰のイソシアネート基が副反応を起こすのを防ぎ、良好なポリウレタンの物性が得られる。また、前記下限以上とすることにより、得られるポリウレタンの分子量を十分に向上することができ、十分な強度及び熱安定性が得られる。
又、鎖延長剤(d)の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに含まれるNCO基の当量に対して、通常0.1以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、通常5.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0104】
鎖延長反応は、通常、各成分を0〜250℃で反応させることが好ましい。当該反応温度は溶剤の量、使用原料の反応性及び反応設備等により異なる。温度が低すぎると反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低いために生産性が悪く、又、高すぎると副反応やポリウレタンの分解が起こるので好ましくない。反応は、減圧下脱泡しながら行ってもよい。
【0105】
又、反応は必要に応じて、触媒及び安定剤等を添加することもできる。その際の触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ−ト、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸及びスルホン酸等が挙げられる。
また、安定剤としては、例えば、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ−ト、ジ−β−ナフチルフェニレンジアミン及びトリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
【0106】
しかしながら、鎖延長剤が短鎖脂肪族アミン等の反応性の高いものの場合は、触媒を添加せずに実施することが好ましい。又、反応時に一官能性の有機アミン及びアルコールを共存させてもよい。
<2.ポリウレタンの物性>
上記の製造方法で得られるポリウレタンは、通常は溶媒存在下で反応を行っているため、溶媒に溶解した状態で得られるのが一般的であるが、溶液状態でも固体状態でも制限されない。
【0107】
本発明において、ポリウレタンのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)は、用途により異なるが、通常1万〜100万が好ましく、5万〜50万がより好ましく、10万〜40万が更に好ましく、15万〜30万が特に好ましい。
又、分子量分布の目安としての、その重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)
に対する比(Mw/Mn)は、1.5〜3.5であることが好ましく、1.7〜3.0であることがより好ましく、1.8〜3.0であることが特に好ましい。なお、前記数平均分子量(Mn)も、前述のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0108】
また、本発明におけるポリウレタンのフィルム成形時における剥離強度は小さいほど好ましい。剥離強度は、通常20g/cm以下であることが好ましく、10g/cm以下であることがより好ましく、5g/cm以下であることが更に好ましく、2g/cm以下であることが特に好ましい。20g/cm以下とすることにより、ポリウレタン重合体の剥離性が十分となる。
【0109】
又、上記の製造方法で得られるポリウレタンは、ハードセグメントの含有量が、ポリウレタンの全重量に対して、1〜20重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることがより好ましく、4〜12重量%であることが更に好ましく、5〜10重量%であることが特に好ましい。
前記ハードセグメント量を20重量%以下とすることにより、得られるポリウレタンが十分な柔軟性や弾性性能を示し、溶媒を使用する場合に溶け易くなり加工し易くなる。一方、ハードセグメント量を1重量%以上とすることにより、ポリウレタンが柔らかくなりすぎるのを防ぎ、加工し易く、十分な強度及び弾性性能が得られる。
【0110】
尚、本発明でいう、ハードセグメントとは、P.J.Flory,Journal of American Chemical Society,58,1877〜1885(1936)をもとに、全体重量に対する、イソシアネートと鎖延長剤結合部の重量を、下記式で算出したものである。
ハードセグメント(%)=[(R−1)(Mdi+Mda)/{Mp+R・Mdi+(R−1)・Mda}]×100
ここで、
R=イソシアネート化合物(c)のモル数/(ポリエーテルポリオール(b)の水酸基のモル数+ポリシロキサンポリオール(a)の水酸基のモル数)
Mdi=イソシアネート化合物(c)の数平均分子量
Mda=鎖延長剤(d)の数平均分子量
Mp=ポリシロキサンポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)から成るポリオール混合物の数平均分子量
溶媒存在下で反応を行った際に得られるポリウレタン溶液は、ゲル化が進行しにくく、粘度の経時変化が小さい等保存安定性がよく、又、チクソトロピー性も小さいため、フィルム、繊維等に加工するためにも都合がよい。
【0111】
ポリウレタン溶液のポリウレタン濃度は、溶媒に溶解した溶液の全重量に対して、通常1〜99重量%であることが好ましく、5〜90重量%であることがより好ましく、10〜70重量%であることが更に好ましく、15〜50重量%であることが特に好ましい。
ポリウレタンの量を前記下限以上とすることにより、大量の溶媒を除去することが不要とになり生産性を向上することができる。一方、前記上限以下とすることにより、溶液の粘度を抑え、操作性及び加工性を向上することができる。
【0112】
尚、ポリウレタン溶液は、長期にわたり保存する場合は、常温又はそれ以下の温度で、窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。
<3.ポリウレタン成形体>
本発明のポリウレタン成形体は、前記のポリウレタンから構成される成形体である。前記の通り、本発明においてポリウレタン成形体とは、固体状態のポリウレタンを意味するので、前記で例示した製造方法で得られた固体状のポリウレタン自体も本発明のポリウレ
タン成形体に該当する。さらには固体状態又は液体状態のポリウレタンを公知の方法で成形することによって得られる成形体も該当する。
【0113】
その成形方法も形態も特に限定されないが、押出成形及び射出成形等の成形方法により、シート、フィルム及び繊維等の形態に成形されたものを包含する。
また、本発明には、成形体表面の原子組成が特定のものであることを特徴とするポリウレタン成形体も含まれる。すなわち、成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比であるSi/Cは、下限が0.03以上であり、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.10以上であることが特に好ましい。前記下限値未満であると、ポリウレタン成形体の剥離性が不十分となるため好ましくない。
【0114】
一方、上限は、0.5以下であり、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることが更に好ましく、0.15以下であることが特に好ましい。前記上限値を超えると、得られる成形体の柔軟性や透明性が低くなる傾向にあるため、好ましくない。
本発明において、成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比は、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)またはXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)により測定するものとする。従って、ここで規定される表面原子の相対存在比は厳密には最表面の原子数比ではなく、分析測定域の厚みのある部分に存在する原子数比となる。
【0115】
また、成形体表面の相対存在比は、ポリシロキサンポリオール(a)またはポリエーテルポリオール(b)の添加量を変えたり、ポリシロキサンポリオールの添加順序を変えたり、ポリシロキサン部位またはポリオキシアルキレン部位の含有量が異なるポリシロキサンポリオールの使用等により調整することができる。
<4.ポリウレタンの用途>
本発明で製造されるポリウレタン、及びそのウレタンプレポリマー溶液は、多様な特性を発現させることができる。例えば、樹脂状、ゴム状及び熱可塑性エラストマー状等の材質で、又、各種形状に成形された固体状またはフォーム状及び液体状等の性状で、繊維、フィルム、塗料、接着剤及び機能部品等として、衣料、衛生用品、包装、土木、建築、医療、自動車、家電及びその他工業部品等の広範な分野で用いられる。
【0116】
特に、繊維やフィルムとして用いられるのが本発明で製造されるポリウレタンの弾性性能や透湿性の特徴を生かす上で好ましい。これらの具体的用途としては、衣料用の弾性繊維、医療、衛生用品及び人工皮革等に用いられるのが好ましい。
<4−1.ポリウレタンフィルム>
本発明のポリウレタンを用いたフィルムは、その厚さとしては特に限定されるものではないが、通常10〜1000μmであることが好ましく、10〜500μmであることがより好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。フィルムの厚さを1000μm以下とすることにより、十分な透湿性が得られる。又、10μm以上とすることにより、ピンホールが形成されにくいとともに、フィルムがブロッキングしにくく、取り扱い易くなる。
【0117】
本発明のポリウレタンを用いたフィルムは、医療用粘着フィルムや衛生材料、包装材、装飾用フィルム、その他透湿性素材等に好ましく用いることができる。尚、フィルムは布や不織布等の支持体に塗布して形成されたものでもよく、その場合は厚さが10μmよりも更に薄くてもかまわない。
又、引張特性として、破断強度は、通常5MPa以上であることが好ましく、10MP
a以上であることがより好ましく、20MPa以上であることが更に好ましく、30MPa以上であることが特に好ましい。また、破断伸度は、通常100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることが更に好ましく、500%以上であることが特に好ましい。
【0118】
本発明のポリウレタンを用いたフィルムの製造方法は、特に限定はなく、従来公知の方法が使用できる。例えば、支持体又は離型材に、ポリウレタン溶液を塗布又は流延し、凝固浴中で溶媒その他の可溶性物質を抽出する湿式製膜法、並びに支持体または離型材にポリウレタン溶液を塗布又は流延し、加熱及び減圧等により溶媒を除去する乾式製膜法等が挙げられる。
【0119】
製膜する際に用いる支持体は特に限定されないが、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム、ガラス、金属、剥離剤を塗布した紙や布等が用いられる。塗布の方式は特に限定されないが、ナイフコーター、ロールコーター、スピンコーター及びグラビアコーター等の公知のいずれでもよい。
乾燥温度は、溶媒の種類や乾燥機の能力等によって任意に設定できるが、乾燥不十分、或いは急激な脱溶媒が起こらない温度範囲を選ぶことが必要であり、室温〜300℃の範囲であることが好ましく、60℃〜200℃の範囲であることがより好ましい。
【0120】
<4−2.ポリウレタン繊維>
ポリウレタンフィルムと繊維の物性は非常によい相関があり、フィルム試験等で得られた物性値は繊維においても同様の傾向を示す場合が多い。本発明のポリウレタンを用いた繊維は、伸長回復性、弾性、耐加水分解性、耐光性、耐酸化性、耐油性及び加工性等に優れる。
【0121】
本発明のポリウレタンを用いた繊維は、例えば、レッグ、パンティー・ストッキング、おむつカバー、紙おむつ、スポーツ用衣類、下着、靴下、ファッション性に優れたストレッチ性の衣類、水着及びレオタード等の用途に好ましく用いられる。
本発明のポリウレタンを用いた弾性繊維の優れた透湿性は、衣類に使用される際に蒸れにくく、付け心地がよいという特徴を持つ。又、応力の変動率またはモジュラスが小さいという特性は、例えば、衣類として体につける際に小さな力でそでを通したりすることができ、小さな子供やお年寄りにとっても非常に着脱しやすいという特徴を持つ。
【0122】
又、フィット感及び運動追従性が良いことより、スポーツ用衣類及びよりファッション性の高い衣類の用途で使用することができる。又、繰り返しの伸張試験での弾性保持率が高いことより、繰り返しの使用に対してもその弾性性能が損なわれにくいという特徴もある。
【実施例】
【0123】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。尚、以下の実施例、参考例及び比較例における分析、測定は、以下の方法によった。
<ポリシロキサンポリオール(a)の数平均分子量>
ポリエーテルポリオール(ii)がポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル(i)に対して2当量以上存在する場合、ポリエステルポリオール(a−1)の数平均分子量は、原料の分子量から以下の〔式1〕に従って算出することができる。実施例に用いたポリシロキサンポリオール1、2の数平均分子量は、〔式1〕によって算出した。
【0124】
また、ポリシロキサンポリオール(a−4)の数平均分子量は、原料のカルビノール変
性シリコーン及びε-カプロラクトンの仕込み重量を用いて、〔式2〕によって算出する
ことができる。ポリシロキサンポリオール4、5の数平均分子量は、〔式2〕によって算出した。ただし、実施例に用いたポリシロキサンポリオール3、6は市販品であるため、数平均分子量は、メーカーのカタログ値を記載した。
【0125】
〔式1〕
ポリシロキサンポリオール1,2の数平均分子量=(ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸(i)の分子量)+(ポリエーテルポリオール(ii)の分子量)×2−(水の分子量)×2
〔式2〕
ポリシロキサンポリオール4,5の数平均分子量=カルビノール変性シリコーンの分子量+{(ε-カプロラクトンの仕込み重量)/(ε-カプロラクトンの分子量)}/{(カルビノール変性シリコーンの仕込み重量)/(カルビノール変性シリコーンの分子量)}×(ε-カプロラクトンの分子量)
<ポリエーテルポリオール(ii)、及びポリエーテルポリオール(b)の数平均分子量>
JIS K1557−1:2007に準拠したアセチル化法による水酸基価(KOH(mg)/g)測定方法より数平均分子量を求めた。
【0126】
<ポリウレタン及びポリウレタンウレアの分子量>
得られたポリウレタン又はポリウレタンウレアの分子量は、ポリウレタン又はポリウレタンウレアのジメチルアセトアミド溶液を調製し、GPC装置〔東ソー社製、製品名「HLC−8220」 (カラム:TskgelGMH−XL(2本)〕を用い、標準ポリスチレン換算での数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0127】
<ポリウレタンウレア溶液の透明性>
透明ガラス規格瓶(150ml、第一ガラス社製「PS−13K」)にポリウレタンウレア溶液100mlを入れ、瓶の真横から溶液の透明性を目視観察し、以下の基準で評価した。
○;透明。
【0128】
△;微白濁し、瓶を通し背景の色彩等は見えるが透明ではない。
×;白濁し、瓶を通し背景が全く見えない。
<剥離試験方法>
成形したフィルム2枚を重ね合わせ、長さ4cm、幅1cmの試験片2枚を打ち抜き、その長さ方向一端から2.5cmの重ね合わせ部分を、温度25℃、相対湿度50%の条件下、200g/cmの圧力を10分間印加した試験片について、引張試験機(FUDOH製「レオメーターNRM−2003J」)を用い、引張速度300mm/分で圧着部分をT型剥離したときの剥離強度を測定した。
【0129】
<フィルム物性>
成形したフィルムから打ち抜いた幅10mm、長さ100mm(厚み約50μm)の短冊状試験片を用い、JIS K6301に準じ、温度23℃、相対湿度55%の条件下、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM−III−100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、100%伸長時と300%伸長時の応力、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0130】
<相対存在比(表面原子組成)>
ポリウレタン成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比、すなわち、表面原子組成は、ESCA(Electron Spectroscopy for
Chemical Analysis)測定により求めた。測定は、アルバック−ファイ株式会社ESCA装置「ESCA−5800」を用いて実施した。測定条件は、以下の通りである。
・励起X線:単色AlKα線(1486.7eV)
・X線出力:14kV、350W(帯電防止の為中和銃使用)
・分析モード(LENS MODE):5(最小領域モード)
・アパーチャー番号:5
・検出角度(試料法線から検出器の角度):45度
・PassEnergy:23.5eV
・チャージシフト補正:炭素のC1sピークの結合エネルギーを235.0eVに合わせ
るように行った。
【0131】
酸素原子の炭素原子に対する相対存在比については、以下の式で算出した。
相対存在比=(酸素O1sのピーク面積/ピーク補正相対感度係数)/(炭素C1sのピーク面積/ピーク補正相対感度係数)
尚、各ピークの面積は装置付属のMultiPak Ver.8.2Cソフトを使用しSavitzky−Golayアルゴリズムを用いたスムージング処理(9ポイント)を行いshirleyのバックグラウンド補正を使って求めた。相対存在比算出に用いた酸素原子ピークと炭素原子ピークの結合エネルギー及びMultiPak Ver.8.2Cソフトで用いられている補正感度係数は次の通りである。
・O1s:結合エネルギー=532.5eV付近、
・補正相対感度係数=13.118
・C1s:結合エネルギー=285.0eV付近、
・補正相対感度係数=5.220
炭素C1sのピーク面積については、280eV及び290.5eV付近の極小値をshirleyで結んで得られる面積と、290.5eV及び293eV付近の極小値をshirleyで結んで得られるベンゼン環のshake up由来のピーク(291〜293eV付近〉の面積を足したものを用いた。
【0132】
実施例1
<ポリシロキサンポリオール1の製造>
撹拌子を備えた100mL四つ口丸底フラスコに、テトラブチルオルトチタネート(東京化成社製)4.4mg、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸(i−1)として、ポリジメチルシロキサン骨格の分子末端にそれぞれカルボキシル基を有するカルボン酸変性シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、「BY16−750」、数平均分子量1500)30.0g(20.0mmol)、及びポリエーテルポリオール(ii)としてポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量650、三菱化学社製)27.4g(42.2mmol)を測り取った。
【0133】
留出管及び窒素導入管を取り付け、留出部はテープヒーターにより120℃に保温した。反応容器をオイルバスに浸して30分で200℃まで昇温し、200℃で7時間反応させてポリシロキサンポリオール1(数平均分子量2764、ポリジメチルシロキサン含有量40重量%)を得た。
原料組成及び生成物のNMR分析結果より、ポリシロキサンポリオール1の構造を推定すると、構造式(1)中のn=15,x=1,y=9,R=炭素数11のアルキレン基、R=炭素数4のアルキレン基となり、構造式(1)を満たす構造であることがわかった。
【0134】
<ポリウレタンウレア1の製造>
容量が1Lのフラスコに、ポリエーテルポリオール(b)として予め40℃に加温した
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、「PTMG」と略記することがある。)(数平均分子量1972、三菱化学社製)109.2重量部と、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール1を0.55重量部加えて混合し、この混合物をポリウレタン製造用の原料とした。この混合物に対するポリシロキサンポリオール1の割合は0.5重量%であった。
【0135】
その後、イソシアネート化合物(c)として予め40℃に加温した4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」と略記することがある。)22.2重量部を加えた。このときの、NCO/活性水素基(ポリシロキサンポリオールとポリエーテルポリオール)の反応当量比は1.6であった。
そして、このフラスコを45℃のオイルバスにセットし、窒素雰囲気下にて碇型攪拌翼で攪拌しつつ、1時間かけてオイルバスの温度を70℃まで昇温し、その後70℃にて3時間保持した。
【0136】
残存NCO基を過剰量のジブチルアミンと反応させ、その後残存ジブチルアミンを塩酸により逆滴定することによりNCOの反応率が99%を越えていることを確認した後に、オイルバスを取り去り、フラスコにN,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAC」と略記することがある。関東化学社製)198重量部を加え、室温にて攪拌し溶解させることでポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0137】
上記ポリウレタンプレポリマー溶液を10℃に冷却し保持しておき、一方で、鎖延長剤(d)として、エチレンジアミン(EDA)/ジエチルアミン(DEA)=89/11(モル比)の0.6%DMAC溶液を調製した。この0.5%DMAC溶液に10℃に冷却し保持した上記ポリウレタンプレポリマー溶液を高速に攪拌しながら添加してポリマー濃度20%の透明性良好なポリウレタンウレアDMAC溶液を得た。
【0138】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア1につき、GPCで重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布の目安としてその重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)を算出したところ、Mwは21.6万、Mw/Mnは2.5であった。又、得られたポリウレタンウレア1のハードセグメントの割合は、7.7重量%であった。
【0139】
又、こうして得られたポリウレタンウレア1溶液をガラス板上にキャストし、60℃にて乾燥させて厚さ約50μmの無色透明なフィルムを得た。このフィルムの剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.0g/cmであり、剥離性は良好であった。又、得られた弾性フィルムは表1に示す通りの特性であった。
実施例2
<ポリシロキサンポリオール2の製造>
ポリエーテルポリオール(ii)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量650、三菱化学社製)の代わりにポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1,009、三菱化学社製)33.8g(33.8mmol)を用い、テトラブチルオルトチタネートの量を5.2mgとし、ポリシロキサン骨格を有するポリカルボン酸(i)としてのカルボン酸変性シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、「BY16−750」)の量を24.1g(16.1mmol)とした以外は、実施例1におけると同様にしてポリシロキサンポリオール2(数平均分子量3482、ポリジメチルシロキサン含有量32重量%)を製造した。
【0140】
原料組成及び生成物のNMR分析結果より、ポリシロキサンポリオール2の構造を推定すると、構造式(1)中のn=15,x=1,y=14,R=炭素数11のアルキレン基、R=炭素数4のアルキレン基となり、構造式(1)を満たす構造であることがわか
った。
<ポリウレタンウレア2の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を88.6重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール2を0.90重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を18.1重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア2溶液を得た。
【0141】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア2につき、GPCで測定したMwは19.1万、Mw/Mnは2.6であった。又、得られたポリウレタンウレア2のハードセグメントの割合は、7.7重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア2溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.1g/cmであり、剥離性は良好であった。又、得られた弾性フィルムは表1に示す通りの特性であった。
【0142】
実施例3
<ポリウレタンウレア3の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を94.8重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール2を8.30重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を20.3重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア3溶液を得た。
【0143】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア3につき、GPCで測定したMwは13.3万、Mw/Mnは2.6であった。又、得られたポリウレタンウレア3のハードセグメントの割合は、7.5重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア3溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.6g/cmであり、剥離性は良好であった。又、得られた弾性フィルムは表1に示す通りの特性であった。
【0144】
実施例4
<ポリウレタンウレア4の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を132.7重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール2を0.67重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を27.0重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア4溶液を得た。
【0145】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア4につき、GPCで測定したMwは23.1万、Mw/Mnは2.4であった。又、得られたポリウレタンウレア4のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア4溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.1g/cmであり、剥離性は良好であった。又、得られた弾性フィルムは表1に示す通りの特性であった。
【0146】
実施例5
<ポリウレタンウレア5の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を115.3重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリエステルポリオール1を1.16重量部とし、イソ
シアネート化合物(c)としてのMDIの量を23.6重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア5溶液を得た。
【0147】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア5につき、GPCで測定したMwは22.9万、Mw/Mnは2.2であった。又、得られたポリウレタンウレア5のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア5溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は0.4g/cmであり、剥離性は良好であった。又、得られた弾性フィルムは表1に示す通りの特性であった。
【0148】
実施例6
<ポリウレタンウレア6の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を130重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)としてエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、SF8427、数平均分子量1860、ポリジメチルシロキサン含有量32重量%)を0.65重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を26.7重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア6溶液を得た。
【0149】
この際に使用したポリシロキサンポリオール3の構造をNMR分析結果より推定すると、構造式(1)中のn=11,x=0,y=8〜11,R=炭素数3のアルキレン基、R=炭素数2または3のアルキレン基となり、構造式(1)を満たす構造であることがわかった。
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア6につき、GPCで測定したMwは27.9万、Mw/Mnは2.5であった。又、得られたポリウレタンウレア6のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
【0150】
又、こうして得られたポリウレタンウレア6溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は2.8g/cmであり、剥離性は良好であった。また、得られたフィルムは表1に示す通りの物性であった。
参考例1
<ポリシロキサンポリオール4の製造>
撹拌子を備えた100mL四つ口丸底フラスコに4.2mgのテトラブチルオルトチタネート(東京化成社)、62.5g(34.5mmol)のカルビノール変性シリコーン(信越化学社製KF−6001、水酸基価62)、10g(87.6mmol)のε-カプロラクトン(Across社)を測り取った。還流管及び窒素導入管を取り付け、反応容器
をオイルバスに浸して30分で190℃まで昇温し、190℃で7h反応させてポリシロキサンポリオール4(数平均分子量2100、ポリジメチルシロキサン含有量77.9重量%)とした。
【0151】
<ポリウレタンウレア7の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を97.6重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール4を5.14重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を21.0重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンウレア7溶液を得た。得られたポリウレタンウレア溶液は若干白濁していた。
【0152】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア7につき、GPCで測定したMwは19.4万、Mw/Mnは2.5であった。又、得られたポリウレタ
ンウレア7のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア7溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は0.6g/cmであり、剥離性は良好であった。また、得られたフィルムは表1に示す通りの物性であった。
【0153】
参考例2
<ポリシロキサンポリオール5の製造>
テトラブチルオルトチタネートの使用量を4.2mg、カルビノール変性シリコーンの使用量を45.0g(24.9mmol)、ε-カプロラクトンの使用量を29.6g(
259mmol)にした以外は、参考例1と同様にしてポリシロキサンポリオール5を製造した。(数平均分子量3001、ポリジメチルシロキサン含有量54.5重量%)
<ポリウレタンウレア8の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を103重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)として前記で合成したポリシロキサンポリオール5を5.40重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を21.6重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア8溶液を得た。
【0154】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア8につき、GPCで測定したMwは21.9万、Mw/Mnは2.9であった。又、得られたポリウレタンウレア8のハードセグメントの割合は、7.7重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア8溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.2g/cmであり、剥離性は良好であった。また、得られたフィルムは表1に示す通りの物性であった。
【0155】
参考例3
<ポリウレタンウレア9の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を105重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)としてカルビノール変性シリコーン(信越化学社製、KF−6001、数平均分子量1820)を5.53重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を22.7重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンウレア9溶液を得た。得られたポリウレタンウレア9溶液は白濁していた。
【0156】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア9につき、GPCで測定したMwは18.8万、Mw/Mnは2.2であった。又、得られたポリウレタンウレア9のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
又、こうして得られたポリウレタンウレア9溶液から実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は1.9g/cmであり、剥離性は良好であった。また、得られたフィルムは表1に示す通りの物性であった。
【0157】
参考例4
<ポリウレタンウレア10の製造>
ポリエーテルポリオール(b)としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1972、三菱化学社製)の量を97.4重量部とし、ポリシロキサンポリオール(a)としてカルビノール変性シリコーン(信越化学社製、KF−6001、数平均分子量1820)を0.1重量部とし、イソシアネート化合物(c)としてのMDIの量を20.0重量部とした以外は、実施例1と同様にして透明性良好なポリウレタンウレア10溶液を得た。
【0158】
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア10につき、GPCで測定したMwは21.4万、Mw/Mnは2.6であった。又、得られたポリウレタンウレア10のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。又、こうして得られたポリウレタンウレア10溶液から、表1の組成で実施例1と同様にしてフィルムを作製した。フィルムの物性は表1に示す通りであった。
【0159】
比較例1
<ポリウレタンウレア11の製造>
ポリシロキサンポリオールを使用せず、表1の組成で実施例1と同様にしてポリウレタンウレア11溶液を製造した。
この溶液を25℃にて一晩熟成した後に、得られたポリウレタンウレア11につき、GPCで測定したMwは21.7万、Mw/Mnは2.5であった。又、得られたポリウレタンウレア11のハードセグメントの割合は、7.8重量%であった。
【0160】
こうして得られたポリウレタンウレア11溶液から、実施例1と同様にしてフィルムを成形し、剥離試験を行ったところ、剥離強度は46.0g/cmであり、剥離性は悪かった。また、得られたフィルムは表1に示す通りの物性であった。
【0161】
【表1】

【0162】
表1に示すように、各実施例、比較例を比較すると、構造式(1)を満たすポリシロキサンポリオールをポリウレタン製造時に使用した実施例1〜6では、剥離性及び透明性に優れたポリウレタンを製造することができ、前記ポリエステルポリオールを使用しなかった比較例1に比べて、剥離性が極めて高いポリウレタンを製造できることがわかった。
また、各実施例と参考例を比較すると、構造式(1)を満たすポリシロキサンポリオールをポリウレタン製造時に使用している実施例1〜6は、同ポリシロキサンポリオールを使用していない参考例に比べ、ポリウレタンの剥離性または均質性が優れていることが明らかとなった。
【0163】
さらに、ポリオール混合物中のポリシロキサンポリオール添加量が同一の場合、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)とポリエーテルポリオール(ii)から成るポリエステルポリオールをポリウレタン製造時に使用した実施例1,4は市販品のポリシロキサンポリオールを使用した実施例6に比べ、ポリウレタンの剥離性及び均質性が僅かに高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明によれば、剥離性が高く均質性に優れ、弾性繊維やフィルム及び衣料等の用途に極めて有用なポリウレタンの原料用のポリエステルポリオール、それを用いたポリウレタン及びポリウレタンウレアを製造することができる。
そして、得られるポリウレタン及びポリウレタンウレアを用いて弾性繊維およびフィルム等のポリウレタン成形体を製造する場合、油剤および平滑剤等の使用量の削減によるコストの削減、製品汚損並びに機械および器具の目詰まり頻度低減による操業安定性の向上、摩擦抵抗の低減による機械に導入する駆動電力の削減等が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリオール(a−1)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)を原料としてポリウレタンを製造することを特徴とするポリウレタンの製造方法であって、該ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)のカルボキシル基またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボン酸エステル(i−2)のエステル基と、ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とでエステル結合を形成させることにより得られるポリエステルポリオール(a−1)であることを特徴とするポリウレタンの製造方法。
【請求項2】
ポリエステルポリオール(a−1)及びポリエーテルポリオール(b)の混合物を得る工程を含む請求項1に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項3】
ポリエステルポリオール(a−1)及びポリエーテルポリオール(b)の混合物を得る工程で得られた混合物とイソシアネート化合物(c)とを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得る工程を含む請求項1又は2に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項4】
ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)1分子の両末端カルボキシル基と、ポリエーテルポリオール(ii)2分子の末端ヒドロキシル基とで形成されたエステル結合を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項5】
ポリエステルポリオール(a−1)が、ポリエーテルポリオール(ii)としてポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いて得られたものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項6】
ポリエステルポリオール(a−1)が、数平均分子量1,000〜4,000のものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項7】
ポリエステルポリオール(a−1)の使用量の割合が、ポリエステルポリオール(a)とポリエーテルポリオール(b)の合計使用量に対して0.1〜10重量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項8】
イソシアネート化合物(c)が芳香族ポリイソシアネートである請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項9】
鎖延長剤(d)がポリアミン化合物である請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリウレタンの製造方法により得られたことを特徴とするポリウレタン。
【請求項11】
請求項10に記載のポリウレタンを含むことを特徴とするポリウレタンフィルム。
【請求項12】
請求項10に記載のポリウレタンを含むことを特徴とするポリウレタン繊維。
【請求項13】
ポリシロキサン骨格を有し、複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(i−1)カルボキシル基またはポリシロキサン骨格を有し、複数のエステル基を有するポリカルボ
ン酸エステル(i−2)のエステル基と、ポリエーテルポリオール(ii)のヒドロキシル基とで、エステル結合を形成させることにより得られるポリエステルポリオール。
【請求項14】
請求項13に記載のポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールを含むポリオール混合物。
【請求項15】
下記構造式(1)で表されるポリシロキサンポリオール(a−2)、ポリエーテルポリオール(b)、イソシアネート化合物(c)、及び鎖延長剤(d)から得られるポリウレタンの成形体であって、該成形体表面に存在する炭素原子に対するケイ素原子の相対存在比であるSi/Cが0.03〜0.5である成形体。
【化1】

(式中、2つのRは独立して炭素数1〜15のアルキレン基、2つのRは独立して、炭素数2〜6のアルキレン基、xは0か1の整数、2つのyは独立して5〜50の整数、
nは1〜100の整数である。)
【請求項16】
ポリエーテルポリオール(b)がポリテトラメチレンエーテルグリコールである請求項15に記載の成形体。
【請求項17】
ポリシロキサンポリオール(a−2)の数平均分子量が500〜5000である請求項15又は16に記載の成形体。
【請求項18】
ポリイソシアネート化合物(c)が芳香族ポリイソシアネートである請求項15〜17のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項19】
鎖延長剤(d)がポリアミン化合物である請求項15〜18のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか1項に記載の成形体がポリウレタンフィルムである成形体。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれか1項に記載の成形体がポリウレタン繊維である成形体。
【請求項22】
ポリウレタンが、ポリシロキサンポリオール(a−2)及びポリエーテルポリオール(b)を混合してポリオール混合物を得た後に、該混合物とポリイソシアネート化合物(c)及び鎖延長剤(d)とを反応させて得られたポリウレタンであることを特徴とする請求項15〜21のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項23】
ポリウレタンが、ポリシロキサンポリオール(a−2)とポリエーテルポリオール(b)を別々のラインから導入することにより、混合または分散させたポリオール混合物を使用して得られたポリウレタンであることを特徴とする請求項15〜22のいずれか1項に記載の成形体。


【公開番号】特開2011−174037(P2011−174037A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242815(P2010−242815)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】