ポリエステルポリオール及びポリウレタンエラストマー
【課題】
ポリエステル系のポリウレタンエラストマーにおいて、耐溶剤性と耐水性を有するポリウレタンエラストマーを提供する。
【解決手段】
カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であるものをポリウレタンエラストマーのポリオール成分として用いる。
ポリエステル系のポリウレタンエラストマーにおいて、耐溶剤性と耐水性を有するポリウレタンエラストマーを提供する。
【解決手段】
カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であるものをポリウレタンエラストマーのポリオール成分として用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルポリオール及びポリウレタンエラストマーに関する。詳しくは、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマーの原料として有用な特定のポリエステルポリオール及び当該ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンエラストマーはポリオールとポリイソシアネートを架橋剤と共に反応して得られる材料であり、機械的強度、耐摩耗性、低温特性等に優れるとともに、幅広い硬度や弾性が得られることから、防水材、床材、舗装材、接着剤、封止材、ローラ等の様々な産業機器の構成部材として使用されている。
【0003】
ポリウレタンエラストマーは、使用するポリオール成分により分類され、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系等がある。これらのポリオールとしてはポリエーテル系ではポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリエステル系では1,4−ブタンジオールアジペート、ポリラクトン系ではポリカプロラクトン等の数平均分子量が500〜5000程度のもの等が汎用的に用いられ、ポリウレタンエラストマーの物性はポリオールの組成及び構造的特徴に依存する部分が大きく、物性に応じた様々な用途に用いられている。例えば、コハク酸系のポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは耐溶剤性に優れていることから、印刷機用ポリウレタンローラとして広く用いられるている(特許文献1)。
【0004】
近年、環境衛生などの観点から、油性インクに代わり水性インクが用いられつつある。しかしながら、コハク酸系ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは、耐溶剤性に優れているものの、耐水性、耐加水分解性に劣るため、水性インクを用いるような用途では長期にわたって使用することができない。また、現在多く用いられる水性インクは、グリコールエーテル等の水溶性溶剤を含有するものがあり、印刷機用ポリウレタンローラとしては、水性インク用であっても、耐水性と共に耐溶剤性が求められているように、耐溶剤性と耐水性を兼ね備えたポリウレタンエラストマーが求められている。
【0005】
コハク酸系ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマー以外で耐溶剤性に優れるものとして、ポリカーボネート系ポリオールを使用したポリウレタンエラストマーが挙げられる(特許文献2)。このものは、耐溶剤性、耐水性、さらには耐アルカリ性にも優れ、例えば上記の水性インクを用いるような用途でも使用可能とされる。しかしポリカーボネートポリオールは一般に高価であることから汎用品や消耗品の類に用いるのは難しく、また、常温で固体であったり粘度が非常に高いという欠点もある。
【0006】
一方、硬質ウレタンフォームの分野では、特に芳香族系の多塩基酸とアルコール成分及び炭素数8〜30の脂肪酸又はそれらを成分とする油脂又は脂肪酸化合物と反応させることで、低粘度でフロンの溶解性の高いポリエステルポリオール組成物が提案されている(特許文献3)。しかしながらこのものを用いたポリウレタンエラストマー及びその耐水性に与える影響等についての検討はされていない。
【特許文献1】特開平5−301335号公報
【特許文献2】特開2004−217844号公報
【特許文献3】特許第3197508号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、安価で汎用用途に用いることのできる、耐溶剤性及び耐水性に優れたポリウレタンエラストマーの原料として有用な特定のポリエステルポリオール及び当該ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的を達成すべく、発明者は鋭意検討した結果、特定の構造的特徴をもつポリエステルポリオールをポリウレタンエラストマーの原料として用いることにより、上記課題を解決できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。即ち、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いたポリエステルポリオールにおいて、さらにヒマシ油を併用することにより、耐溶剤性を維持しつつ耐水性を付与できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
(1) ポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールであって、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であることを特徴とするポリエステルポリオール。
(2) 数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールが、ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールであることを特徴とする(1)に記載のポリエステルポリオール。
(3) カルボン酸成分としてコハク酸を用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステルポリオール。
(4) ポリエステルポリオールの水酸基価が、20〜200mgKOH/gである事を特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステルポリオール。
(5) 少なくともポリイソシアネート、ポリオール及び架橋剤を反応させて得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオールの少なくとも一部として(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステルポリオールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールを提供することができる。また、本発明のポリエステルポリオールは耐水性に優れた材料として、塗料、接着剤、可塑剤等の分野においても用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のポリエステルポリオールは、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用い、さらにヒマシ油をこれらと共に脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールである。
【0012】
本発明において、ポリエステルポリオールを構成するカルボン酸成分として、コハク酸及び/又はアジピン酸を用いる。これら以外に併用できるカルボン酸としては、酢酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロフタル酸等の脂肪族又は脂環族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
耐溶剤性向上の観点から、コハク酸及び/又はアジピン酸は、カルボン酸成分の主成分として50mol%以上、好ましくは60mol%以上用いる。特に、カルボン酸成分の全量をコハク酸及び/又はアジピン酸とするのが好ましく、カルボン酸成分の全量をコハク酸とするのが最も好ましい。それぞれのカルボン酸は、無水物やメチルエステル等のエステル誘導体を用いても良い。
【0013】
本発明において、ポリエステルポリオールを構成するアルコール成分として、数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用しても良く、市販されているポリエチレングリコール400のような、各種分子量の混合物を用いても良い。ポリオキシアルキレングリコールの数平均分子量が400を超える場合、ポリエステルポリオールを構成するカルボン酸ユニットの含有量が減り物性の低下を招くため好ましくない。
【0014】
これら以外に併用できるアルコール成分としては、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、ショ糖のような脂肪族又は脂環族アルコール、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノールのような芳香族アルコール、フェノールのようなフェノール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合ポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の長鎖ポリオール等が挙げられる。耐溶剤性を向上させる観点から、平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールは、アルコール成分の主成分として50mol%以上、好ましくは60mol%以上用いる。特に、アルコール成分の全量をジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールとすることが最も好ましい。
【0015】
本発明で用いるヒマシ油の使用量は、得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%である。ヒマシ油の使用量が10重量%以下ではポリウレタンエラストマーの耐水性を向上させる効果が小さく、逆に60重量%を超えるとポリウレタンエラストマーの耐溶剤性が悪化するとともに機械的強度が低下するために好ましくない。好ましいヒマシ油の使用量は得られるポリエステルポリオールに対して15〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。
【0016】
本発明のポリエステルポリオールの水酸基価は、20〜200mgKOH/gの範囲であり、好ましくは25〜190mgKOH/g、さらに好ましくは30〜180mgKOH/gの範囲である。水酸基価が20mgKOH/gより小さいと合成が難しくなることや、粘度が上昇し取り扱いが困難になる可能性があり、一方、200mgKOH/gより大きいと未反応のアルコール成分が多い分子量分布となり、ポリウレタンエラストマーの柔軟性、脆性等の物性を低下させる恐れがあるため好ましくない。
【0017】
本発明のポリエステルポリオールの平均官能基数は、通常、1.5〜4.0の範囲である。好ましくは1.8〜3.5の範囲である。平均官能基数が1.5より小さいと得られるポリウレタンエラストマーの機械的強度が低下する可能性がある。一方、3.5より大きいとポリエステルポリオールの粘度が上昇し、取り扱いが困難になる可能性がある。尚、平均官能基数は原料の仕込モル比により計算することができるが、便宜上、本発明ではヒマシ油の平均官能基数を3.0として計算した。
【0018】
本発明のポリエステルポリオールの合成においては通常、エステル化触媒を使用する。エステル化触媒には一般に酸触媒が用いられることが多く、ルイス酸には例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステルやジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物や酸化亜鉛等の金属化合物が用いられる。また、ルイス酸の他にはパラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸を用いることもできる。
【0019】
本発明のポリエステルポリオールの合成に用いる触媒は、ウレタン化反応の反応挙動に影響を及ぼさない方が望ましい。そのため、上記のエステル化触媒の中では、オルトチタン酸エステルが好ましく、その使用量は原料に用いるカルボン酸成分とアルコール成分の合計に対して通常、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下で通常、0.001重量%以上、好ましくは0.003重量%以上である。場合によっては、これらのエステル化触媒を用いないで反応してもよく、反応後に失活処理を施したり、精製等で取り除いてもよい。
【0020】
本発明のポリエステルポリオールの製造には、一般的なポリエステルポリオールの製造装置と反応方法を適用することができる。反応の終点は通常、用いたカルボン酸成分の未反応カルボキシル基の量で決定する。ポリウレタンエラストマーに酸分が存在すると、耐加水分解性が低下する場合がある。従って、ポリエステルポリオールについても未反応カルボキシル基の量、即ち酸価は出来るだけ低い方が好ましい。従って、本発明のポリエステルポリオールの酸価は、通常、3mgKOH/g以下、好ましくは2mgKOH/g以下、さらに好ましくは1mgKOH/g以下である。下限は特にないが、反応条件や反応時間からすれば、0.1mgKOH/gである。
【0021】
ポリウレタンエラストマーの一般的な製造方法としては、ワンショット法、プレポリマー法等が挙げられる。ワンショット法はポリイソシアネート成分、ポリオール成分及び必要に応じて架橋剤やその他助剤を同時に反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法であり、プレポリマー法はポリイソシアネート成分、ポリオール成分及び必要に応じてその他助剤を反応させてイソシアネートプレポリマーを製造し、次いで架橋剤及び必要に応じてその他の助剤をさらに反応させ、高分子量のポリウレタンエラストマーを得る方法である。本発明のポリウレタンエラストマーの製造方法としては、安定した物理特性をもったポリウレタンエラストマーを製造する目的ではプレポリマー法が好ましい。
【0022】
ポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する有機化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート及びキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート、またはこれらの変性物等が挙げられる。さらにこれらのポリイソシアネートのカルボジイミド変性物やウレタン変性物等も包含される。好ましいポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0023】
ポリオールとしては、少なくとも上記の本発明のポリエステルポリオールを使用する。さらに併用できるポリオールとしては、ポリプロピレングリコール(PPG)やポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)のようなポリエーテル系ポリオール、アジピン酸エステルのようなポリエステル系ポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリラクトン系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。これらは数平均分子量500〜5000程度のものが好適に使用できる。本発明のポリエステルポリオールと併用する場合には、その他のポリオールの使用量は全ポリオールの割合の50重量%以下とすることが望ましく、全量を本発明のポリエステルポリオールとすることが最も望ましい。
【0024】
架橋剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコールや、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等、活性水素を1分子中に2個以上有する化合物が用いられる。好ましい架橋剤としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0025】
本発明のポリウレタンエラストマーには、必要に応じてその他助剤を用いる。その他助剤の使用目的は主にウレタン化反応を促進、あるいは減速させるための触媒、反応性調整剤や、ポリウレタンエラストマーの物性を調整するための可塑剤、充填材、酸化防止剤、脱泡剤、界面活性剤等である。これらの添加剤、助剤については、特に限定されるものではなく、通常のポリウレタンエラストマーにおいて物性向上や操作性向上等の目的で用いられるもので、本発明の効果が得られる範囲内において使用してもよい。
【0026】
以下に、実施例により本発明の具体的態様をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
<ポリオールの合成>
「ポリオール−1〜5」は、表1に記載したカルボン酸及びアルコールを用いて公知のポリエステルポリオールの合成法に沿って合成した。また、「ポリオール−6」として、ヒマシ油(和光純薬株式会社製 特級試薬)を用いた。尚、表中ではジエチレングリコールを「DEG」、トリエチレングリコールを「TEG」と略記した。なお、カルボン酸成分及びアルコール成分の量は、表1に記載した酸価、水酸基価のポリエステルポリオールとなる組成比とした。
【0028】
「ポリオール−1〜5」の酸価、水酸基価及び粘度は以下の方法で測定し、結果を表1に記載した。
(1)酸価:JIS K15571970に準拠して測定した。
(2)水酸基価:JIS K15571970に準拠して測定した。
(3)粘度:JIS K15571970に準拠して測定した。(25℃)
(4)平均官能基数:仕込組成比より計算で求めた。尚、ヒマシ油の平均官能基数を3.0とした。
(5)数平均分子量:JIS K16011982に準拠して求めた。
【0029】
【表1】
【0030】
<イソシアネートプレポリマーの合成>
イソシアネートプレポリマーの合成には以下の原料と反応性調整剤を使用した。
(1)ポリオール−1〜6:前記のポリオール
(2)ポリイソシアネート:ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMT」 )
(3)反応性調整剤:リン酸エステル(城北化学株式会社製「JP−508」)
【0031】
上記の原料及び反応性調整剤を用いてイソシアネートプレポリマー「プレポリマー−1〜6」を以下の方法に沿って合成した。尚、ポリオール/ポリイソシアネートのモル比は、1/3とした。
【0032】
<イソシアネートプレポリマーの合成方法>
攪拌機、温度計、圧力計、オイルバスなどを装備した、容積が1リットルのガラス製反応器に、ポリオール、ポリイソシアネート、反応性調整剤を表2に記載の配合比に応じて仕込み、系内を減圧して脱泡を行った。その後、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、常圧にて反応器の加熱を開始した。内温が80℃に達した時点を反応開始として、反応開始から30分毎に系内を減圧して脱泡しながら2時間反応させた。ここで得られたイソシアネートプレポリマーを「プレポリマー−1〜6」として、表2に記載した。
【0033】
イソシアネートプレポリマーの%NCO(末端イソシアネート基濃度)は、溶媒にジメチルホルムアミドを用い、JIS K15561968に準拠して測定し、結果を表2に記載した。
【0034】
【表2】
【0035】
<ポリウレタンエラストマーの合成>
ポリウレタンエラストマーの合成には以下のプレポリマーと架橋剤を使用した。
(1)プレポリマー:プレポリマー−1〜6
(2)架橋剤:1,4−ブタンジオール(和光純薬株式会社製 特級試薬)
【0036】
ポリウレタンエラストマーのシートを下記の成型方法で成型した。
【0037】
<成型方法>
80℃に予熱したプレポリマーをSUS製反応器に所定量計り採り、所定量の架橋剤をシリンジで加えた後に直ちに真空攪拌装置にセットして減圧下、脱泡しつつ30秒攪拌を行った。その後、80℃に予熱しておいた2mm厚みシートの成型金型に予熱したプレポリマーを流し込み、120℃のオーブンで1昼夜加熱硬化させた。その後、ポリウレタンエラストマーのシートを脱型し、2日間以上室内に保管した後に当該ポリウレタンエラストマーのシートの物性評価を行った。尚、プレポリマーと架橋剤の配合比は、イソシアネートインデックス(NCO基/OH基のモル比)で1.05とした。
【0038】
ポリウレタンエラストマーのシート成形の金型及び離型剤には下記のものを使用した。
(1)金型:アルミ製 内寸 200mm×200mm×2mm
(2)離型剤:フッ素系離型剤スプレー(ダイキン工業株式会社製「ダイフリー GA−6010」)
【0039】
<評価方法>
得られたポリウレタンエラストマーの評価試験は、下記の方法で行い、ポリウレタンエラストマーの機械的強度を表3に、耐水性及び耐溶剤性の評価結果を表4〜7に記載した。
【0040】
(1)機械的強度試験
ポリウレタンエラストマーの機械的強度はJIS A73111995に準拠して測定し、ポリウレタンエラストマーの硬度はJIS K7111995に準拠して測定しその結果を表3に記載した。尚、引張試験片及び引裂試験片は以下のものを使用し、100%、200%、300%の各モジュラスは表中でぞれぞれ、100%M、200%M、300%Mと略記した。
引張試験片 : JIS K7113 2号
引裂試験片 : JIS K7311 3号
【0041】
(2)耐水性試験
機械強度測定用の試験片を水(60℃)に1週間浸漬した後、試験片の重量変化と上記(1)の機械的強度試験による試験結果の変化を測定した。試験片の浸漬前後の重量変化(膨潤量の指標)と元の機械的強度がどの程度失われたかを耐水性の評価結果とした。その評価結果は、浸漬前の試験片の重量と機械的強度試験値(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率、引裂強度)に対する浸漬後のこれらの値の比率(%)で表4に記載した。
【0042】
(3)耐溶剤性試験
機械的強度測定用の試験片を(ア)トルエン、(イ)酢酸エチル、(ウ)イソプロピルアルコールにそれぞれ20℃の条件で1週間浸漬した。その後、試験片を取り出し、試験片の重量変化と上記(1)の機械的強度試験による試験結果の変化を測定した。試験片の浸漬前後の重量変化(膨潤の指標)と元の機械的強度がどの程度失われたかを耐溶剤性の試験結果とした。その評価結果は、浸漬前の試験片の重量と機械的強度試験値(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率、引裂強度)に対する浸漬後のこれらの値の比率(%)で表5〜表7に記載した。
【0043】
表4〜7において、引張試験結果(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス及び弾性率)と引裂試験結果(引裂強度)の値(浸漬前の試験片の値に対する比率)の算術平均を強度平均値として記載し、機械的強度の低下の指標とした。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
表3より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの機械的強度評価(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率及び引裂強度)において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールであるポリオール−4を用いた比較例1に比べ若干は劣るものの、その物性を大きく損なうものではない。しかしながらヒマシ油の配合量が多いポリオール−5を用いた比較例2や、ヒマシ油そのものを用いた比較例3と比べ明らかに物性が向上している。
【0050】
表4より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの耐水性評価において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、水(60℃)に浸漬後の強度平均値や重量変化が、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールを用いた比較例1よりも改善している。
【0051】
また、表5〜7より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの耐溶剤性評価において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールであるポリオール−4を用いた比較例1に比べ若干は劣るものの、その物性を大きく損なうものではない。しかしながらヒマシ油の配合量が多いポリオール−5を用いた比較例2や、ヒマシ油そのものを用いた比較例3と比べ明らかに物性が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマーを提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルポリオール及びポリウレタンエラストマーに関する。詳しくは、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマーの原料として有用な特定のポリエステルポリオール及び当該ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンエラストマーはポリオールとポリイソシアネートを架橋剤と共に反応して得られる材料であり、機械的強度、耐摩耗性、低温特性等に優れるとともに、幅広い硬度や弾性が得られることから、防水材、床材、舗装材、接着剤、封止材、ローラ等の様々な産業機器の構成部材として使用されている。
【0003】
ポリウレタンエラストマーは、使用するポリオール成分により分類され、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系等がある。これらのポリオールとしてはポリエーテル系ではポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリエステル系では1,4−ブタンジオールアジペート、ポリラクトン系ではポリカプロラクトン等の数平均分子量が500〜5000程度のもの等が汎用的に用いられ、ポリウレタンエラストマーの物性はポリオールの組成及び構造的特徴に依存する部分が大きく、物性に応じた様々な用途に用いられている。例えば、コハク酸系のポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは耐溶剤性に優れていることから、印刷機用ポリウレタンローラとして広く用いられるている(特許文献1)。
【0004】
近年、環境衛生などの観点から、油性インクに代わり水性インクが用いられつつある。しかしながら、コハク酸系ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは、耐溶剤性に優れているものの、耐水性、耐加水分解性に劣るため、水性インクを用いるような用途では長期にわたって使用することができない。また、現在多く用いられる水性インクは、グリコールエーテル等の水溶性溶剤を含有するものがあり、印刷機用ポリウレタンローラとしては、水性インク用であっても、耐水性と共に耐溶剤性が求められているように、耐溶剤性と耐水性を兼ね備えたポリウレタンエラストマーが求められている。
【0005】
コハク酸系ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマー以外で耐溶剤性に優れるものとして、ポリカーボネート系ポリオールを使用したポリウレタンエラストマーが挙げられる(特許文献2)。このものは、耐溶剤性、耐水性、さらには耐アルカリ性にも優れ、例えば上記の水性インクを用いるような用途でも使用可能とされる。しかしポリカーボネートポリオールは一般に高価であることから汎用品や消耗品の類に用いるのは難しく、また、常温で固体であったり粘度が非常に高いという欠点もある。
【0006】
一方、硬質ウレタンフォームの分野では、特に芳香族系の多塩基酸とアルコール成分及び炭素数8〜30の脂肪酸又はそれらを成分とする油脂又は脂肪酸化合物と反応させることで、低粘度でフロンの溶解性の高いポリエステルポリオール組成物が提案されている(特許文献3)。しかしながらこのものを用いたポリウレタンエラストマー及びその耐水性に与える影響等についての検討はされていない。
【特許文献1】特開平5−301335号公報
【特許文献2】特開2004−217844号公報
【特許文献3】特許第3197508号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、安価で汎用用途に用いることのできる、耐溶剤性及び耐水性に優れたポリウレタンエラストマーの原料として有用な特定のポリエステルポリオール及び当該ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的を達成すべく、発明者は鋭意検討した結果、特定の構造的特徴をもつポリエステルポリオールをポリウレタンエラストマーの原料として用いることにより、上記課題を解決できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。即ち、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いたポリエステルポリオールにおいて、さらにヒマシ油を併用することにより、耐溶剤性を維持しつつ耐水性を付与できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
(1) ポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールであって、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であることを特徴とするポリエステルポリオール。
(2) 数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールが、ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールであることを特徴とする(1)に記載のポリエステルポリオール。
(3) カルボン酸成分としてコハク酸を用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステルポリオール。
(4) ポリエステルポリオールの水酸基価が、20〜200mgKOH/gである事を特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステルポリオール。
(5) 少なくともポリイソシアネート、ポリオール及び架橋剤を反応させて得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオールの少なくとも一部として(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステルポリオールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールを提供することができる。また、本発明のポリエステルポリオールは耐水性に優れた材料として、塗料、接着剤、可塑剤等の分野においても用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のポリエステルポリオールは、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用い、さらにヒマシ油をこれらと共に脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールである。
【0012】
本発明において、ポリエステルポリオールを構成するカルボン酸成分として、コハク酸及び/又はアジピン酸を用いる。これら以外に併用できるカルボン酸としては、酢酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロフタル酸等の脂肪族又は脂環族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
耐溶剤性向上の観点から、コハク酸及び/又はアジピン酸は、カルボン酸成分の主成分として50mol%以上、好ましくは60mol%以上用いる。特に、カルボン酸成分の全量をコハク酸及び/又はアジピン酸とするのが好ましく、カルボン酸成分の全量をコハク酸とするのが最も好ましい。それぞれのカルボン酸は、無水物やメチルエステル等のエステル誘導体を用いても良い。
【0013】
本発明において、ポリエステルポリオールを構成するアルコール成分として、数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用しても良く、市販されているポリエチレングリコール400のような、各種分子量の混合物を用いても良い。ポリオキシアルキレングリコールの数平均分子量が400を超える場合、ポリエステルポリオールを構成するカルボン酸ユニットの含有量が減り物性の低下を招くため好ましくない。
【0014】
これら以外に併用できるアルコール成分としては、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、ショ糖のような脂肪族又は脂環族アルコール、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノールのような芳香族アルコール、フェノールのようなフェノール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合ポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の長鎖ポリオール等が挙げられる。耐溶剤性を向上させる観点から、平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールは、アルコール成分の主成分として50mol%以上、好ましくは60mol%以上用いる。特に、アルコール成分の全量をジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールとすることが最も好ましい。
【0015】
本発明で用いるヒマシ油の使用量は、得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%である。ヒマシ油の使用量が10重量%以下ではポリウレタンエラストマーの耐水性を向上させる効果が小さく、逆に60重量%を超えるとポリウレタンエラストマーの耐溶剤性が悪化するとともに機械的強度が低下するために好ましくない。好ましいヒマシ油の使用量は得られるポリエステルポリオールに対して15〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。
【0016】
本発明のポリエステルポリオールの水酸基価は、20〜200mgKOH/gの範囲であり、好ましくは25〜190mgKOH/g、さらに好ましくは30〜180mgKOH/gの範囲である。水酸基価が20mgKOH/gより小さいと合成が難しくなることや、粘度が上昇し取り扱いが困難になる可能性があり、一方、200mgKOH/gより大きいと未反応のアルコール成分が多い分子量分布となり、ポリウレタンエラストマーの柔軟性、脆性等の物性を低下させる恐れがあるため好ましくない。
【0017】
本発明のポリエステルポリオールの平均官能基数は、通常、1.5〜4.0の範囲である。好ましくは1.8〜3.5の範囲である。平均官能基数が1.5より小さいと得られるポリウレタンエラストマーの機械的強度が低下する可能性がある。一方、3.5より大きいとポリエステルポリオールの粘度が上昇し、取り扱いが困難になる可能性がある。尚、平均官能基数は原料の仕込モル比により計算することができるが、便宜上、本発明ではヒマシ油の平均官能基数を3.0として計算した。
【0018】
本発明のポリエステルポリオールの合成においては通常、エステル化触媒を使用する。エステル化触媒には一般に酸触媒が用いられることが多く、ルイス酸には例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステルやジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物や酸化亜鉛等の金属化合物が用いられる。また、ルイス酸の他にはパラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸を用いることもできる。
【0019】
本発明のポリエステルポリオールの合成に用いる触媒は、ウレタン化反応の反応挙動に影響を及ぼさない方が望ましい。そのため、上記のエステル化触媒の中では、オルトチタン酸エステルが好ましく、その使用量は原料に用いるカルボン酸成分とアルコール成分の合計に対して通常、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下で通常、0.001重量%以上、好ましくは0.003重量%以上である。場合によっては、これらのエステル化触媒を用いないで反応してもよく、反応後に失活処理を施したり、精製等で取り除いてもよい。
【0020】
本発明のポリエステルポリオールの製造には、一般的なポリエステルポリオールの製造装置と反応方法を適用することができる。反応の終点は通常、用いたカルボン酸成分の未反応カルボキシル基の量で決定する。ポリウレタンエラストマーに酸分が存在すると、耐加水分解性が低下する場合がある。従って、ポリエステルポリオールについても未反応カルボキシル基の量、即ち酸価は出来るだけ低い方が好ましい。従って、本発明のポリエステルポリオールの酸価は、通常、3mgKOH/g以下、好ましくは2mgKOH/g以下、さらに好ましくは1mgKOH/g以下である。下限は特にないが、反応条件や反応時間からすれば、0.1mgKOH/gである。
【0021】
ポリウレタンエラストマーの一般的な製造方法としては、ワンショット法、プレポリマー法等が挙げられる。ワンショット法はポリイソシアネート成分、ポリオール成分及び必要に応じて架橋剤やその他助剤を同時に反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法であり、プレポリマー法はポリイソシアネート成分、ポリオール成分及び必要に応じてその他助剤を反応させてイソシアネートプレポリマーを製造し、次いで架橋剤及び必要に応じてその他の助剤をさらに反応させ、高分子量のポリウレタンエラストマーを得る方法である。本発明のポリウレタンエラストマーの製造方法としては、安定した物理特性をもったポリウレタンエラストマーを製造する目的ではプレポリマー法が好ましい。
【0022】
ポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する有機化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート及びキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート、またはこれらの変性物等が挙げられる。さらにこれらのポリイソシアネートのカルボジイミド変性物やウレタン変性物等も包含される。好ましいポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0023】
ポリオールとしては、少なくとも上記の本発明のポリエステルポリオールを使用する。さらに併用できるポリオールとしては、ポリプロピレングリコール(PPG)やポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)のようなポリエーテル系ポリオール、アジピン酸エステルのようなポリエステル系ポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリラクトン系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。これらは数平均分子量500〜5000程度のものが好適に使用できる。本発明のポリエステルポリオールと併用する場合には、その他のポリオールの使用量は全ポリオールの割合の50重量%以下とすることが望ましく、全量を本発明のポリエステルポリオールとすることが最も望ましい。
【0024】
架橋剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコールや、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等、活性水素を1分子中に2個以上有する化合物が用いられる。好ましい架橋剤としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0025】
本発明のポリウレタンエラストマーには、必要に応じてその他助剤を用いる。その他助剤の使用目的は主にウレタン化反応を促進、あるいは減速させるための触媒、反応性調整剤や、ポリウレタンエラストマーの物性を調整するための可塑剤、充填材、酸化防止剤、脱泡剤、界面活性剤等である。これらの添加剤、助剤については、特に限定されるものではなく、通常のポリウレタンエラストマーにおいて物性向上や操作性向上等の目的で用いられるもので、本発明の効果が得られる範囲内において使用してもよい。
【0026】
以下に、実施例により本発明の具体的態様をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
<ポリオールの合成>
「ポリオール−1〜5」は、表1に記載したカルボン酸及びアルコールを用いて公知のポリエステルポリオールの合成法に沿って合成した。また、「ポリオール−6」として、ヒマシ油(和光純薬株式会社製 特級試薬)を用いた。尚、表中ではジエチレングリコールを「DEG」、トリエチレングリコールを「TEG」と略記した。なお、カルボン酸成分及びアルコール成分の量は、表1に記載した酸価、水酸基価のポリエステルポリオールとなる組成比とした。
【0028】
「ポリオール−1〜5」の酸価、水酸基価及び粘度は以下の方法で測定し、結果を表1に記載した。
(1)酸価:JIS K15571970に準拠して測定した。
(2)水酸基価:JIS K15571970に準拠して測定した。
(3)粘度:JIS K15571970に準拠して測定した。(25℃)
(4)平均官能基数:仕込組成比より計算で求めた。尚、ヒマシ油の平均官能基数を3.0とした。
(5)数平均分子量:JIS K16011982に準拠して求めた。
【0029】
【表1】
【0030】
<イソシアネートプレポリマーの合成>
イソシアネートプレポリマーの合成には以下の原料と反応性調整剤を使用した。
(1)ポリオール−1〜6:前記のポリオール
(2)ポリイソシアネート:ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMT」 )
(3)反応性調整剤:リン酸エステル(城北化学株式会社製「JP−508」)
【0031】
上記の原料及び反応性調整剤を用いてイソシアネートプレポリマー「プレポリマー−1〜6」を以下の方法に沿って合成した。尚、ポリオール/ポリイソシアネートのモル比は、1/3とした。
【0032】
<イソシアネートプレポリマーの合成方法>
攪拌機、温度計、圧力計、オイルバスなどを装備した、容積が1リットルのガラス製反応器に、ポリオール、ポリイソシアネート、反応性調整剤を表2に記載の配合比に応じて仕込み、系内を減圧して脱泡を行った。その後、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、常圧にて反応器の加熱を開始した。内温が80℃に達した時点を反応開始として、反応開始から30分毎に系内を減圧して脱泡しながら2時間反応させた。ここで得られたイソシアネートプレポリマーを「プレポリマー−1〜6」として、表2に記載した。
【0033】
イソシアネートプレポリマーの%NCO(末端イソシアネート基濃度)は、溶媒にジメチルホルムアミドを用い、JIS K15561968に準拠して測定し、結果を表2に記載した。
【0034】
【表2】
【0035】
<ポリウレタンエラストマーの合成>
ポリウレタンエラストマーの合成には以下のプレポリマーと架橋剤を使用した。
(1)プレポリマー:プレポリマー−1〜6
(2)架橋剤:1,4−ブタンジオール(和光純薬株式会社製 特級試薬)
【0036】
ポリウレタンエラストマーのシートを下記の成型方法で成型した。
【0037】
<成型方法>
80℃に予熱したプレポリマーをSUS製反応器に所定量計り採り、所定量の架橋剤をシリンジで加えた後に直ちに真空攪拌装置にセットして減圧下、脱泡しつつ30秒攪拌を行った。その後、80℃に予熱しておいた2mm厚みシートの成型金型に予熱したプレポリマーを流し込み、120℃のオーブンで1昼夜加熱硬化させた。その後、ポリウレタンエラストマーのシートを脱型し、2日間以上室内に保管した後に当該ポリウレタンエラストマーのシートの物性評価を行った。尚、プレポリマーと架橋剤の配合比は、イソシアネートインデックス(NCO基/OH基のモル比)で1.05とした。
【0038】
ポリウレタンエラストマーのシート成形の金型及び離型剤には下記のものを使用した。
(1)金型:アルミ製 内寸 200mm×200mm×2mm
(2)離型剤:フッ素系離型剤スプレー(ダイキン工業株式会社製「ダイフリー GA−6010」)
【0039】
<評価方法>
得られたポリウレタンエラストマーの評価試験は、下記の方法で行い、ポリウレタンエラストマーの機械的強度を表3に、耐水性及び耐溶剤性の評価結果を表4〜7に記載した。
【0040】
(1)機械的強度試験
ポリウレタンエラストマーの機械的強度はJIS A73111995に準拠して測定し、ポリウレタンエラストマーの硬度はJIS K7111995に準拠して測定しその結果を表3に記載した。尚、引張試験片及び引裂試験片は以下のものを使用し、100%、200%、300%の各モジュラスは表中でぞれぞれ、100%M、200%M、300%Mと略記した。
引張試験片 : JIS K7113 2号
引裂試験片 : JIS K7311 3号
【0041】
(2)耐水性試験
機械強度測定用の試験片を水(60℃)に1週間浸漬した後、試験片の重量変化と上記(1)の機械的強度試験による試験結果の変化を測定した。試験片の浸漬前後の重量変化(膨潤量の指標)と元の機械的強度がどの程度失われたかを耐水性の評価結果とした。その評価結果は、浸漬前の試験片の重量と機械的強度試験値(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率、引裂強度)に対する浸漬後のこれらの値の比率(%)で表4に記載した。
【0042】
(3)耐溶剤性試験
機械的強度測定用の試験片を(ア)トルエン、(イ)酢酸エチル、(ウ)イソプロピルアルコールにそれぞれ20℃の条件で1週間浸漬した。その後、試験片を取り出し、試験片の重量変化と上記(1)の機械的強度試験による試験結果の変化を測定した。試験片の浸漬前後の重量変化(膨潤の指標)と元の機械的強度がどの程度失われたかを耐溶剤性の試験結果とした。その評価結果は、浸漬前の試験片の重量と機械的強度試験値(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率、引裂強度)に対する浸漬後のこれらの値の比率(%)で表5〜表7に記載した。
【0043】
表4〜7において、引張試験結果(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス及び弾性率)と引裂試験結果(引裂強度)の値(浸漬前の試験片の値に対する比率)の算術平均を強度平均値として記載し、機械的強度の低下の指標とした。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
表3より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの機械的強度評価(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率及び引裂強度)において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールであるポリオール−4を用いた比較例1に比べ若干は劣るものの、その物性を大きく損なうものではない。しかしながらヒマシ油の配合量が多いポリオール−5を用いた比較例2や、ヒマシ油そのものを用いた比較例3と比べ明らかに物性が向上している。
【0050】
表4より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの耐水性評価において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、水(60℃)に浸漬後の強度平均値や重量変化が、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールを用いた比較例1よりも改善している。
【0051】
また、表5〜7より次のことが明らかである。即ち、ポリウレタンエラストマーの耐溶剤性評価において、本発明のポリエステルポリオールを用いた実施例1〜3の場合、通常のコハク酸系ポリエステルポリオールであるポリオール−4を用いた比較例1に比べ若干は劣るものの、その物性を大きく損なうものではない。しかしながらヒマシ油の配合量が多いポリオール−5を用いた比較例2や、ヒマシ油そのものを用いた比較例3と比べ明らかに物性が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、耐溶剤性と耐水性に優れたポリウレタンエラストマーを提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールであって、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であることを特徴とするポリエステルポリオール。
【請求項2】
数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールが、ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルポリオール。
【請求項3】
カルボン酸成分としてコハク酸を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルポリオール。
【請求項4】
ポリエステルポリオールの水酸基価が、20〜200mgKOH/gである事を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルポリオール。
【請求項5】
少なくともポリイソシアネート、ポリオール及び架橋剤を反応させて得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオールの少なくとも一部として請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルポリオールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【請求項1】
ポリウレタンエラストマー用のポリエステルポリオールであって、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、アルコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であることを特徴とするポリエステルポリオール。
【請求項2】
数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールが、ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルポリオール。
【請求項3】
カルボン酸成分としてコハク酸を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルポリオール。
【請求項4】
ポリエステルポリオールの水酸基価が、20〜200mgKOH/gである事を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルポリオール。
【請求項5】
少なくともポリイソシアネート、ポリオール及び架橋剤を反応させて得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオールの少なくとも一部として請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルポリオールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【公開番号】特開2010−126659(P2010−126659A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303712(P2008−303712)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】
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