説明

ポリエステルマクロモノマーの製造方法

【課題】ポリエステル樹脂廃棄物の再利用を可能とし、工業的に利用できるポリエステルマクロモノマーの製造方法を提供する。
【解決手段】飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、この分解物に、無水フタル酸、無水コハク酸または無水マレイン酸を反応させ、その後、クロロメチルスチレンまたは臭化アリルを反応させて、ビニルフェニレン基末端またはアリル基末端を有するポリエステルマクロモノマーを製造することを特徴とする、ポリエステルマクロモノマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルマクロモノマーの製造方法に関するものである。更に本発明はポリエステル樹脂廃棄物の再利用を可能とし、特に、ポリエステル樹脂廃棄物を化学的に処理して工業的に再利用を図ることのできる価値のある原料を得る方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルマクロモノマーは分子主鎖にエステル構造を有し、分子量が数百〜数万で、その末端に重合性官能基を有するオリゴマーあるいはポリマーである。ここで重合可能な官能基とは、ビニル基、ビニリデン基、ビニレン基、環状オレフィン等であり、該官能基によりグラフト共重合体を得ることが可能となる。
【0003】
従来、製造されているポリエステルマクロモノマーは、ポリエステル部分としてフタル酸とグリコールの縮合物、アジピン酸等の脂肪族の二塩基酸とグリコールの縮合物、あるいはカプロラクトンの開環重合ポリマーのものが用いられていた。
【0004】
一般に芳香族ポリエステルの製造においては、そのグリコールとの反応性はフタル酸が最も大きく、イソフタル酸、更にテレフタル酸の順に低下する。したがってテレフタル酸のポリエステルが最も製造し難くなるため、テレフタル酸を分子主鎖に有するポリエステルマクロモノマーの製造もまた最も困難となる。
【0005】
従来、PETボトル、フィルムの再生としては熱で溶融して再成形するマテリアルリサイクルが主として行なわれている(たとえば、非特許文献1参照)。またPETボトル、フィルムの再生として、加水分解、メタノール分解、グリコール分解によりモノマーを回収し、PETに再合成する技術が開発されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】R.J.Ehring編著、プラスチックリサイクリング研究会訳、「プラスチックリサイクリング−回収から再生まで−」、p.71、工業調査会(1993)
【非特許文献2】「廃プラスチック サーマル&ケミカル・リサイクリング」、p.201、化学工業日報社(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のポリエステルマクロモノマーは、ポリエステル部分がフタル酸とグリコールの縮合物、アジピン酸とグリコールの縮合物、あるいはカプロラクトンの開環重合ポリマーから製造され、テレフタル酸のポリエステルの構造を有するポリエステルマクロモノマーの製造は困難であった。そして飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再生は、一般に熱可塑性樹脂で採用されている溶融後に再成形するマテリアルリサイクル法で行なわれている。しかし着色樹脂または汚れの付着樹脂の場合は、このリサイクル法では商品価値が無いため行なわれていない。またこの方法では再成形時に水分により加水分解を起こし分子量の低下、ひいては製品物性の低下を生ずる。
【0007】
またPETボトル、フィルムの再生として加水分解、メタノール分解あるいはグリコール分解によりモノマーを回収し、PETに再合成する技術が開発されているが、大部分オリゴマーが生成しモノマーの精製が困難である。
【0008】
そこで本発明は比較的短時間にポリエチレンテレフタレート樹脂、特にその廃棄物をグリコールで化学的に分解処理して、精製せずに工業的に容易にポリエステルマクロモノマーの原料を製造し、その再利用を図ろうとするものである。すなわち本発明はポリエステル樹脂廃棄物の分解生成物から得られるポリエステルマクロモノマーの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、この分解物に、無水フタル酸、無水コハク酸または無水マレイン酸を反応させ、その後、クロロメチルスチレンまたは臭化アリルを反応させて、ビニルフェニレン基末端またはアリル基末端を有するポリエステルマクロモノマーを製造することを特徴とする、ポリエステルマクロモノマーの製造方法である。
【0010】
ここで、上記飽和ポリエステル樹脂は廃棄物であることが好ましい。
また、本発明のポリエステルマクロモノマーの製造方法においては、飽和ポリエステル樹脂にポリエチレンテレフタレートが好適に使用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるとポリエステルマクロモノマーが容易に製造でき、飽和ポリエステル樹脂、またはその廃棄物から、工業的に有用な原料を得ることができる。そして、廃棄物のグリコール分解物から合成されるポリエステルマクロモノマーは高付加価値なモノマーとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、飽和ポリエステル樹脂、またはその廃棄物を破砕した後、100〜300℃程度でグリコールにより分解し、この分解生成物を原料として用い、ポリエステルマクロモノマーを製造することにより、飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再利用を可能にする。
【0013】
ポリエステルマクロモノマーを製造するには次の方法で行なう。まず粉砕された飽和ポリエステル樹脂、またはその廃棄物をグリコールに混入し、触媒を用いて、あるいは無触媒で飽和ポリエステル樹脂廃棄物の分解生成物を得る。そしてその分解生成物の少なくとも片末端に重合可能な官能基を有する化合物を縮合反応させて、ポリエステルマクロモノマーを製造する。
【0014】
本発明では前記飽和ポリエステル樹脂として好適にはポリエチレンテレフタレートが使用される。そして、飽和ポリエステル樹脂はボトル、フィルム、成型品に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等、あるいはこれらの廃棄物を使用できる。
【0015】
本発明において飽和ポリエステル樹脂は破砕、必要ならば洗浄、ふるい掛け等の前処理を行なう。破砕は衝撃式破砕機(ハンマー式、チェーン式)、せん断式破砕機、切断式破砕機、圧縮式破砕機(ロール式、コンベア式、スクリュ式)、スタンプミル、ボールミル、ロッドミル粉砕機等により行なう。破砕物は小さい方が好ましいが、目の開き20mmのふるいを通る物が好適である。好ましくは10mm、更に好ましくは5mmのふるいを通る破砕物が使用される。
【0016】
飽和ポリエステル樹脂(E)と、該飽和ポリエステル樹脂を分解するのに用いるグリコール(G)の重量比(E/G)は1/0.2〜1/5、好ましくは1/0.5〜1/2の範囲である。この重量比を変えることにより、分解生成物の分子量を調整できる。グリコールの混合量が少ないと分解生成物の分子量が大きくなり、グリコールの混合量が多いと、分解生成物の分子量は小さくなる。
【0017】
そして、上記分解生成物に更に新しい飽和ポリエステル樹脂を加えて、飽和ポリエステル樹脂を分解することもできる。また分解生成物より過剰のグリコールを分離することにより、飽和ポリエステル樹脂を効率良くリサイクルできる。
【0018】
本発明では飽和ポリエステル樹脂を分解するグリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、トリシクロデカンジメタノールエチレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコールなどを使用できる。
【0019】
本発明では飽和ポリエステル樹脂の分解は、無触媒下で行なうことができるが、触媒を用いることが好ましい。ここで触媒として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムなどの酢酸金属塩、酸化アンチモン、トリブチル錫メトキシド、チタンアルコキシドなど及びこれらの混合物がある。触媒の使用量は通常0.1〜1.0%の範囲である。
【0020】
飽和ポリエステル樹脂を分解する温度は通常100℃〜300℃の範囲、好ましくは150℃〜250℃の範囲である。この分解温度範囲で、飽和ポリエステル樹脂の分解速度が速く、効率的にポリエステルマクロモノマーが製造できる。そして分解反応は窒素雰囲気下で、酸化防止剤存在下で行なうことにより、酸化反応による着色等が防止できる。本発明では大気圧下あるいは加圧下で分解反応を行なうこともできる。なお分解反応に低沸点のグリコールを用いて、グリコールの沸点以上の温度で分解反応を行なう場合は、加圧下で行なう。
【0021】
グリコールによる飽和ポリエステル樹脂の分解反応は速い。グリコールによる分解生成物は通常両末端にOH基を有する。該分解生成物のOH基と重合可能な官能基を有する化合物、例えばアクリル酸またはメタクリル酸をエステル化反応させて、メタクリレート(メタクリロイル基)、アクリレート(アクリロイル基)を末端に有するポリエステルマクロモノマーが製造される。このエステル化反応には、p−トルエンスルホン酸のような酸触媒を用いることができる。
【0022】
次に、式(1)の構造を有するスチレン(ビニルフェニレン基)または式(2)の構造を有するアリル基を、分子鎖末端に有するポリエステルマクロモノマーは次の方法で製造される。まずグリコールによる飽和ポリエステル樹脂の分解生成物に、無水フタル酸のような二塩基酸を反応させて、分解生成物の分子鎖末端にカルボン酸を導入する。そしてこのカルボン酸にクロロメチルスチレンまたはアリルブロマイドを反応させ脱ハロゲン化水素反応により式(1)、式(2)の構造の、重合可能な官能基を分子鎖末端に有するポリエステルマクロモノマーを製造する。なお脱ハロゲン化水素反応には、塩基触媒あるいは相間移動触媒を用いることができる。
【0023】
【化1】

【0024】
式(1)、式(2)において、Zは次の式(3)、式(4)及び式(5)を表わす。
【0025】
【化2】

【0026】
本発明のポリエステルマクロモノマーは、重合開始剤の存在下、必要ならば所定量の多官能モノマーを添加して重合させる。ポリエステルマクロモノマーは、通常分子量が300〜20,000の範囲であり、均一系で、通常の重合モノマーに近い反応性を有する。
【0027】
本発明のポリエステルマクロモノマーは、不飽和ポリエステルの架橋剤としても使用できる。不飽和ポリエステルの重合性の炭素−炭素二重結合は通常トランス体に異性化するためフマレート基を有する。このフマレート基のエステル部分は長鎖であるが、その重合性はジイソプロピルフマレートとほぼ同じと考えられる。ここでビニルモノマー(M1)とジイソプロピルフマレート(M2)のラジカル共重合におけるモノマー反応性比を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
T.Otsu,A.Matsumoto,K.Shiraishi,N.Amaya,Y.Koinuma,J.Polym.Sci.:PartA:Polym.Chem.,30(8),1559(1992)。
【0030】
表1から、メチルアクリレート及びメチルメタクリレート等のビニルモノマー(M1)とジイソプロピルフマレート(M2)のラジカル共重合モノマー反応性比(r1,r2)が大きく相違することが判る。したがって、メタクリレートを末端に有するポリエステルマクロモノマーを不飽和ポリエステルの架橋に用いる場合は、スチレンあるいはスチレンを末端に有するポリエステルマクロモノマーと併用することが好ましい。そしてアクリレートを末端に有するポリエステルマクロモノマーの場合は、単独でも使用可能であるが、スチレンあるいはスチレンを末端に有するポリエステルマクロモノマーと併用するほうがよい。スチレンを末端に有するポリエステルマクロモノマーは単独で用いることができる。
【0031】
次に、フマレート(M1)とジアリルフタレート(M2)のラジカル共重合のモノマー反応性比を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
この表2より、フマレート(M1)とジアリルフタレート(M2)のラジカル共重合モノマー反応性比の積(r1×r2)が0に近いので共重合性が悪く、アリル基を末端に有するポリエステルマクロモノマーも不飽和ポリエステルの架橋に使用できる。
【0034】
これらのポリエステルマクロモノマーはコーティング剤、UV硬化インキ、光ディスク用コーティング剤、接着剤、塗料、フォトレジスト、プリント基板用レジスト、感光性樹脂凸版、光重合歯科材料などとして使用される。
【0035】
本発明によるポリエステルマクロモノマーは硬い塗膜を形成する。飽和ポリエステル樹脂のグリコール分解により分解物を得て、これを原料として反応させ、高付加価値のポリエステルマクロモノマーを製造することができる。
【0036】
以下に実施例および参考例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
以下の実施例では、ポリエステル樹脂からなる飲料水ボトルを、鋏で切断後、ロータリーカッターミル、(株)ホーライ製Granulaters U−140によって粒径5mmに、破砕した試料を用いた。
【0037】
<実施例1>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにプロピレングリコール15.22kg(モル比1:2)を加え、240℃で2時間分解した。PETは100%分解し、分解物の酸価=19.93mgKOH/g、OH価(試料1kg当たりのOH基のモル数)=9.0mol/kg、数平均分子量=332、重量平均分子量=418であった。
【0038】
得られた分解物10gに無水フタル酸13.12g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は12.6g得られ、酸価=4.9mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=390、重量平均分子量=438であった。
【0039】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン22.00g、DMF50ml、50%NaOH水溶液2.6mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物8.30gが得られ、酸価=0.4mol/kg、数平均分子量=416、重量平均分子量=786であった。
【0040】
生成物の1H−NMR(400MHz、CDCl3溶媒)で測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0041】
<実施例2>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにプロピレングリコール11.41kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で2時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=18.83mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=8.2mol/kg、数平均分子量=363、重量平均分子量=489であった。
【0042】
得られた分解物10gに無水フタル酸12.00g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は14.3g得られ、酸価=4.6mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=419、重量平均分子量=526であった。
【0043】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン20.65g、DMF50ml、50%NaOH水溶液2.4mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物7.28gが得られ、酸価=0.2mol/kg、数平均分子量=530、重量平均分子量=667であった。
【0044】
生成物の1H−NMR(400MHz、CDCl3溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0045】
<実施例3>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにジエチレングリコール15.92kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で1時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=10.60mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=7.5mol/kg、数平均分子量=396、重量平均分子量=538であった。
【0046】
得られた分解物10gに無水フタル酸11.06g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は13.8g得られ、酸価=4.5mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=438、重量平均分子量=549であった。
【0047】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン20.20g、DMF50ml、50%NaOH水溶液2.4mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物7.62gが得られ、酸価=0.5mol/kg、数平均分子量=601、重量平均分子量=711であった。
【0048】
生成物の1H−NMR(400MHz、DMSOーd6溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0049】
<実施例4>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにジプロピレングリコール20.13kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で2時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=9.16mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=6.6mol/kg、数平均分子量=539、重量平均分子量=744であった。
【0050】
得られた分解物10gに無水フタル酸9.76g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は14.0g得られ、酸価=3.9mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=547、重量平均分子量=720であった。
【0051】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン17.51g、DMF50ml、50%NaOH水溶液2.0mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物9.23gが得られ、酸価=0.2mol/kg、数平均分子量=799、重量平均分子量=978であった。
【0052】
生成物の1H−NMR(400MHz、CDCl3溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0053】
<実施例5>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにトリプロピレングリコール28.84kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で2時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=7.79mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=5.7mol/kg、数平均分子量=698、重量平均分子量=898であった。
【0054】
得られた分解物10gに無水フタル酸8.37g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は10.8g得られ、酸価=3.4mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=630、重量平均分子量=839であった。
【0055】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン15.26g、DMF50ml、50%NaOH水溶液1.7mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物7.08gが得られ、酸価=0.9mol/kg、数平均分子量=900、重量平均分子量=1188であった。生成物の1H−NMR(400MHz、CDCl3溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0056】
<実施例6>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにジプロピレングリコール20.13kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で2時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=9.16mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=6.6mol/kg、数平均分子量=539、重量平均分子量=744であった。
【0057】
得られた分解物10gに無水フタル酸9.76g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は14.0g得られ、酸価=3.9mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=547、重量平均分子量=720であった。
【0058】
フタル酸付加物10gに,クロロメチルスチレン8.76g、DMF50ml、50%NaOH水溶液0.85mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物6.65gが得られ、酸価=1.4mol/kg、数平均分子量=682、重量平均分子量=818であった。
【0059】
生成物の1H−NMR(400MHz、CDCl3溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0060】
<実施例7>
廃PETボトルを粉砕後、PET19.22kgにジプロピレングリコール20.13kg(モル比1:1.5)を加え、240℃で2時間分解した。100%分解し、分解物の酸価=9.16mgKOH/g、OH価(OH基のモル数)=6.6mol/kg、数平均分子量=539、重量平均分子量=744であった。
【0061】
得られた分解物10gに無水フタル酸9.76g、ピリジン50mlを加え、60℃で1時間反応させた。生成物をTHFに溶解し、ヘキサンに沈殿させ、2回精製した。フタル酸付加物は14.0g得られ、酸価=3.9mol/kg(カルボキシル基のモル数)、OH価は検出されず、生成物の数平均分子量=547、重量平均分子量=720であった。
【0062】
フタル酸付加物10gに,アリルブロマイド11.85g、DMF50ml、50%NaOH水溶液1.7mlを加え、室温、窒素下で、24時間攪拌、反応させた。反応終了後DMFの2倍量のo−ジクロロベンゼン、ヒドロキノン0.1%を加え、減圧下、DMFを留去した。生成物のo−ジクロロベンゼン溶液を多量のヘキサンに投入し、沈殿を得た。この沈殿をTHFに溶解し、ヘキサンに投入し、2回精製し、減圧乾燥した。生成物8.20gが得られ、酸価=1.1mol/kg、数平均分子量=890、重量平均分子量=1038であった。
【0063】
生成物の1H−NMR(400MHz、DMSO−d6溶媒)を測定し、そのNMR測定結果を表4に示す。
【0064】
<参考例1>
PET廃棄物粉砕物113.6gをビスフェノールA酸化エチレン4モル付加物287.0g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)、0.2gNaOHに加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。その後、希硫酸で中和した。分解物のOH価=3.42モル/kg、OH当量=292.1g/mol、酸価=1.9mgKOH/g、GPCによる数平均分子量=953、重量平均分子量=1502であった。
【0065】
分解物203.1g(0.69 OHグラム当量)にメタクリル酸61.9g(0.72モル、モル比1:1.04)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.4gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、5時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は88.9%、酸価=4.0mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.547、粘度(mPa・s/25℃)=27000、GPCによる数平均分子量=936、重量平均分子量=1546であった。
【0066】
得られたポリエステルマクロモノマーのFT−IRを測定し、そのFT−IR測定結果を表5に示す。
【0067】
得られたマクロモノマーについて、UV開始剤Irgacure907(チバガイギー社製)を用いてUV硬化特性を試験した。その結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3より、合成したメタクリレート末端を有するポリエステルマクロモノマーはUV硬化速度は比較的遅く、特に空気中では表面の硬化が遅く、べたつきがあるが、5回照射で完全に硬化した。そして多官能ウレタンアクリレートU−15HA(新中村化学工業(株)製)を配合すると、硬化速度は速くなった。
【0070】
<参考例2>
PET廃棄物粉砕物187.4gをトリプロピレングリコール224.9g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=5.37モル/kg、OH当量=186.1g/mol、酸価=2.7mgKOH/g、GPCによる数平均分子量=662、量平均分子量=1006であった。
【0071】
分解物176.1g(0.946 OHグラム当量)にメタクリル酸86.0g(1.00モル、モル比1:1.06)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、8時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は81.5%、酸価=3.4mgKOH/g、GPCによる数平均分子量=655、重量平均分子量=1022であった。
【0072】
得られたポリエステルマクロモノマーのFT−IRを測定し、そのFT−IR測定結果を表5に示す。
【0073】
<参考例3>
PET廃棄物粉砕物182.0gをテトラエチレングリコール220.7g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=5.35モル/kg、OH当量=186.7g/mol、酸価=2.0mgKOH/g、GPCによる数平均分子量=640、重量平均分子量=1060であった。
【0074】
分解物177.1g(0.947 OHグラム当量)にメタクリル酸86.0g(1.00モル、モル比1:1.06)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、6時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は86.4%、酸価=3.2mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.503、粘度(mPa・s/25℃)=350、GPCによる数平均分子量=638、重量平均分子量=1080であった。
【0075】
得られたポリエステルマクロモノマーのFT−IRを測定し、そのFT−IR測定結果を表5に示す。
【0076】
<参考例4>
PET廃棄物粉砕物114.2gをポリエチレングリコール#400 285.6g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=3.41モル/kg、OH当量=293.3g/mol、酸価=1.9mgKOH/g、GPCによる数平均分子量=1036、重量平均分子量=1656であった。
【0077】
分解物196.1g(0.669 OHグラム当量)にメタクリル酸60.2g(0.699モル、モル比1:1.04)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、7時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は86.5%、酸価=1.2mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.495、粘度(mPa・s/25℃)=470、GPCによる数平均分子量=1117、重量平均分子量=1675であった。
【0078】
得られたポリエステルマクロモノマーのFT−IRを測定し、そのFT−IR測定結果を表5に示す。
【0079】
<参考例5>
PET廃棄物粉砕物121.2gをトリシクロデカンジメタノール酸化エチレン4モル付加物282.3g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=3.61モル/kg、OH当量=274.0g/mol、酸価=1.8mgKOH/g、GPCによる重量平均分子量=1039であった。
【0080】
分解物200.0g(0.722 OHグラム当量)にメタクリル酸64.5g(0.749モル、モル比1:1.04)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、6時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は89.2%、酸価=1.0mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.515、粘度(mPa・s/25℃)=3700、GPCによる重量平均分子量=1079であった。
【0081】
得られたポリエステルマクロモノマーのFT−IRを測定し、そのFT−IR測定結果を表5に示す。
【0082】
<参考例6>
PET廃棄物粉砕物121.2gをトリシクロデカンジメタノール酸化エチレン4モル付加物282.3g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=3.61モル/kg、OH当量=274.0g/mol、酸価=1.8mgKOH/g、GPCによる重量平均分子量=1039であった。
【0083】
分解物200.0g(0.722 OHグラム当量)にアクリル酸54.0g(0.749モル、モル比1:1.04)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、6時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は85.0%、酸価=1.5mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.500、粘度(mPa・s/25℃)=3600、GPCによる重量平均分子量=1020であった。
【0084】
<参考例7>
PET廃棄物粉砕物121.2gをトリシクロデカンジメタノール酸化エチレン4モル付加物282.3g(PETのエステル基:グリコールのモル比=1:1.2)に加え、窒素下で、240℃、2時間分解した。分解物のOH価=3.61モル/kg、OH当量=274.0g/mol、酸価=1.8mgKOH/g、GPCによる重量平均分子量=1039であった。
【0085】
分解物200.0g(0.722 OHグラム当量)にアクリル酸27.0g(0.375モル、モル比1:0.52)、トルエン800ml、p−トルエンスルホン酸20g、ヒドロキノン0.5gを加え、攪拌しながら、加熱、還流、脱水し、6時間、エステル化反応を行なった。反応終了後、10%NaOH水溶液で洗浄し、触媒、ヒドロキノンを除去し、中性になるまで水洗した。そして硫酸ナトリウムを入れ、一夜乾燥し、トルエンを減圧下で留去した。収率は84.0%、酸価=1.4mgKOH/g、屈折率(nD25)=1.500、粘度(mPa・s/25℃)=3650、GPCによる重量平均分子量=1015であった。
【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
実施例および参考例の生成物の構成成分をNMRの測定によって求めた結果を、表4及び図1〜図3にまとめて示している。図1に実施例1、2、4、5及び6に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す。また図2に実施例7に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す。図3に実施例3に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す。
【0089】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1、2、4、5及び6に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す図である。
【図2】実施例7に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す図である。
【図3】実施例3に基づく生成物の構成成分のプロトンの化学シフトを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和ポリエステル樹脂をグリコールで分解し、この分解物に、無水フタル酸、無水コハク酸または無水マレイン酸を反応させ、その後、クロロメチルスチレンまたは臭化アリルを反応させて、ビニルフェニレン基末端またはアリル基末端を有するポリエステルマクロモノマーを製造することを特徴とする、ポリエステルマクロモノマーの製造方法。
【請求項2】
前記飽和ポリエステル樹脂が廃棄物である請求項1に記載のポリエステルマクロモノマーの製造方法。
【請求項3】
前記飽和ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートである請求項1または2に記載のポリエステルマクロモノマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−249441(P2006−249441A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128285(P2006−128285)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【分割の表示】特願2001−135354(P2001−135354)の分割
【原出願日】平成13年5月2日(2001.5.2)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【出願人】(000190895)新中村化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】