説明

ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率と寸法安定性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびそれを用いた工業用織物を提供する。
【解決手段】(A)ポリエチレンナフタレート成分70〜99重量%および(B)ポリエチレンテレフタレート成分30〜1重量%からなるポリエステル混合物100重量部に対して、(C)シリコーン系化合物を0.5〜20重量部含有させた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率および寸法安定性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびそれを用いた工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた力学特性、耐熱性などを有していることから、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。中でもポリエチレンナフタレートからなるモノフィラメントは、汎用であるポリエチレンテレフタレートモノフィラメントに比べて引張強度、高ヤング率および寸法安定性に優れており、工業用繊維材料として高い注目を集めている。
【0003】
しかしながら、ポリエチレンナフタレートモノフィラメントは糸の伸度、タフネスが低いことから耐屈曲疲労性や耐摩耗性が低く、長期間の連続使用に適していなかった。一方近年、抄紙速度の高速化が進み、工業用織物、例えば抄紙ドライヤーカンバスの交換作業に伴う生産工程の一時停機は、作業効率の悪化に多大な影響を及ぼすため、長期間の使用が可能な、すなわち耐屈曲疲労性および耐摩耗性により一層優れたポリエチレンナフタレートモノフィラメントの開発が求められていた。
【0004】
このような欠点を解決するため従来から様々の提案が行われてきた。
【0005】
すなわち、ポリエチレンナフタレートの欠点である耐屈曲疲労性を向上するため技術としては、例えば、ダイマージオール成分をグリコール成分に含有させた共重合ポリエチレンナフタレート繊維(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術で得られる繊維は、耐屈曲疲労性は改善されるものの、近年要求されている高いヤング率を発揮し得るものではなかった。
【0006】
また、ポリエチレンナフタレートのヤング率と耐屈曲疲労性とを同時に改善するための技術としては、例えば、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエチレンナフタレート繊維(例えば、特許文献2参照)が知られているが、この技術で得られる繊維は、ヤング率および耐屈曲疲労性は改善されるものの、工業用織物として必要な耐摩耗性は未だに不十分であるという問題を残していた。
【0007】
さらに、ポリエチレンナフタレートのヤング率および表面特性(耐摩耗性)を同時に改善するための技術として、例えば極限粘度[η]が0.6以上のエチレン−2,6−ナフタレ−ト単位を主とするポリエチレンナフタレートを芯成分として用い、そして極限粘度[η]が0.95以上のエチレンテレフタレート単位を主とするポリエチレンテレフタレートを鞘成分として用いて形成した芯鞘型ポリエステル複合繊維(例えば、特許文献3参照)が知られているが、この技術で得られる繊維はヤング率および表面特性(耐摩耗性)は改善されるものの、耐屈曲疲労性は低く、また複合化することでコストがかかる点でも、実用性に乏しいものであった。
【特許文献1】特開平10−17661号公報
【特許文献2】特開2003−193330号公報
【特許文献3】特開平5−222615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討された結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率と寸法安定性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびそれを用いた工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレートに対して、ポリエチレンテレフタレートを含有させ、さらにシリコーン系化合物を添加することにより、耐屈曲疲労性および耐摩耗性が相乗的に向上すると共に、さらには高いヤング率の保持および寸法安定性の確保が図れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)ポリエチレンナフタレート成分70〜99重量%および(B)ポリエチレンテレフタレート成分30〜1重量%からなるポリエステル混合物100重量部に対して、(C)シリコーン系化合物を0.5〜20重量部含有させた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメントを提供するものである。
【0012】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記シリコーン系化合物のシラノール基量が重量比で2%以上10%以下であること、
前記モノフィラメントが下記(a)〜(d)の要件
(a)屈曲疲労特性試験における切断するまでに要するMIT屈曲回数が50回以上
(b)屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が1000回以上
(c)ヤング率が10000N/mm以上
(d)180℃における乾熱収縮率が8.0%以下
を同時に満足すること、および
前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.65〜1.30であること
が、好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することにより一層優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を取得することができる。
【0013】
また、本発明の織物は、上記のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、工業用織物において抜群の耐屈曲疲労性および耐摩耗性を発揮する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のものより優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率および寸法安定性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、(A)ポリエチレンナフタレート成分、(B)ポリエチレンテレフタレート成分および(C)シリコーン系化合物の3成分を必須成分とするものである。
【0017】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントを構成する(A)ポリエチレンナフタレート(以下、PENと略称する)とは、ジカルボン酸成分の90モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸からなり、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるものが好適である。
【0018】
また、PENは、上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の一部を、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0019】
PENには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0020】
本発明で使用するPENの固有粘度は、0.60以上であれば好ましく、更に好ましくは、0.75以上である。ここで固有粘度が0.60未満であれば工業用織物として高いヤング率を得ることができない。
【0021】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、更に(B)ポリエチレンテレフタレート成分を含有することが重要であり、これにより耐屈曲疲労性が飛躍的に向上する。
【0022】
本発明のポリエステルモノフィラメントを構成するポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)とは、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、またグリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるものが好適である。
【0023】
PETは、上記のテレフタル酸成分の一部を、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0024】
また、PETには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0025】
本発明で使用するPETの固有粘度は、通常は0.65以上1.30以下であればよいが、さらに0.7以上1.20以下であればより好ましい。PETの固有粘度を高めることは、モノフィラメントの強度がさらに向上することから有益である。PENを溶融紡糸する際の紡糸機温度は300℃以上の高温を採用する。ここでPETの固有粘度が0.65未満であると、PETの溶融粘度が紡糸温度の高さが故に大きく低下してしまい、PENの溶融粘度よりもかなり低くなるため、両者の溶融粘度差が大きくなる。その結果、紡出されるモノフィラメントの断面形状が均一な同心状にならずに偏芯を生じたり、コブの発生が頻発したりするなど、操業性に支障をきたすため好ましくない。1.30を越えると紡糸中に延伸切れが多発し、操業性の低下を招くという好ましくない傾向となる。
【0026】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成するPENとPETの成分比は、PENが70〜99重量%に対してPETが30〜1重量%であることが好ましい。上記の範囲を満足しないと、工業用織物用モノフィラメントに求められる高いヤング率および寸法安定性を得ることができない。
【0027】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記ポリエステル混合物に対して、更に(C)シリコーン系化合物を含有することが重要であり、これにより高ヤング率を保持しつつ、耐屈曲疲労性および耐摩耗性が相乗的に向上する。これは、シリコーン系化合物の構造骨格をなすシトキサン結合中の酸素結合(-O-)の存在により分子屈曲性に優れ、かつ分子間相互作用が小さいため少量添加にて高いヤング率を保持しつつ柔軟性を向上させることができ、かつ表面張力が低いためポリエステルモノフィラメント表面にブリードアウトすることで耐摩耗性が発現されるためである。
【0028】
本発明のシリコーン系化合物はSiO2.0単位の構造単位のみからなる場合を除いて、Si元素と結合する有機基を含有しており、このシリコーン系化合物の有機基としては水素基、水酸基、炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0029】
炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としてはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0030】
本発明のシリコーン系化合物の含有量は、耐屈曲疲労性、耐摩耗性およびヤング率の観点からポリエステル混合物100重量部に対して0.5〜20重量部である必要があり、更に好ましくは1.0〜10%重量部である。含有量が0.5%重量部未満の場合は、耐屈曲疲労性および耐摩耗性が得られず、また20重量部を超えると工業用織物として高いヤング率が得られないばかりか、紡糸工程においてスクリューの噛み込み不良など操業性に支障をきたすため好ましくない。
【0031】
また、本発明のシリコーン系化合物はシラノール基を含有していることが好ましい。このシラノール基とはSiOH基のことであり、このシラノール基を含有することで、ポリエステルモノフィラメント表面にシラノール基が存在し、表面活性が大きく、また会合し網目構造を形成することによって見掛けの分子量が大きくなり、表面活性が大きいことと見掛けのファンデルワールス力が大きくなることが相乗して、ポリエステルモノフィラメント表面に対する定着性が大きくなり、耐摩耗性が向上する。
【0032】
シラノール基の含有量は耐摩耗性の観点から、シリコーン系化合物に対して重量比で2%以上10%以下の範囲が好ましく、更に好ましくは3%以上7%以下である。
【0033】
このシラノール基量の測定には29Si−NMRにおいてシラノール基を含有しない構造由来のSiO2.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比からシラノール基量を算出することが可能である。
【0034】
例えば、RSiO1.5とRSiO1.0(OH)の積分値の比が1.5(RSiO1.5):1.0(RSiO1.0(OH))であれば下記式の通り求めることができる。
シラノール基量(wt%)={(17×RSiO1.0(OH)の積分値の比)/
(RSiO1.0(OH)の分子量×RSiO1.0(OH)の積分値の比+RSiO1.5の分子量×RSiO1.5の積分値の比)}×100=17×1.0/(138×1.0+129×1.5)×100=5.13
【0035】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、ポリエステルおよびシリコーン系化合物の他に、モノカルボジイミドなどの耐加水分解性添加剤などを任意の割合で含有していてもよい。
【0036】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントは、さらに下記の方法により測定した切断するまでに要するMIT屈曲回数が50回以上であることが好ましい。MIT屈曲回数が上記範囲を下回ると耐屈曲疲労性に欠けてしまい、製織工程において断糸してしまうなど操業性に支障をきたしてしまうため好ましくない。
【0037】
[切断するまでに要するMIT屈曲回数]東洋精機(株)製;MIT耐揉疲労試験機により、JIS P−8115に準じて、荷重2.2cN/dtex、折り曲げ回数175回/分、折り曲げ角度270度(左右に各約135度)およびモノフィラメントを挟む折り曲げコマにおける左右の折り曲げ面の曲率半径各々0.38±0.02mmの条件で、同一試料につき10本のモノフィラメントについて夫々切断するまでの往復折り曲げ回数を測定して平均値を求める。
【0038】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が1000回以上であることが必要であり、好ましくは3000回以上である。屈曲摩耗回数が上記範囲を下回ると、耐摩耗性に欠けて長時間の使用ができないため、好ましくない。
【0039】
[屈曲摩耗回数]
JIS L−1095:1999−9.10.2B法に準じ、屈曲摩耗特性試験により測定された値であり、具体的には、固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたポリエステルモノフィラメントを、ポリエステルモノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けられた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、ポリエステルモノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでポリエステルモノフィラメントを摩擦子に往復接触させて、ポリエステルモノフィラメントが破断するまでの回数である。
【0040】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、JIS L1013に準じて測定したヤング率が10000N/mm2 以上であることが好ましく、より好ましくは12000N/mm2 以上、さらに好ましくは15000N/mm2 以上である。なお、ヤング率が上記の範囲未満では、従来のPETモノフィラメントが発現する最大のヤング率とほぼ同等のレベルであるため、PENを含有する利点が得られないばかりか、工業用織物としての高ヤング率の要望を満たすことができないため好ましくない。
【0041】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、JIS L1013に準じて測定した180℃における乾熱収縮率が8.0%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0%以下である。180℃での乾熱収縮率が上記範囲を越えると、工業用織物として必要な寸法安定性を得ることができない。
【0042】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントは、1本からなる連続糸であり、繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉、6葉、7葉、8葉、などの多様形状、正方形、長方形、菱形、ドッグボーン状および繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。
【0043】
本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましい製造例としては、1軸もしくは2軸エクストルダーのホッパーに、必要量の乾燥したPEN、PETのポリエステル、所定量のシリコーン系化合物、あるいはシリコーン系化合物を高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレットを計量供給し、ポリエステルの融点以上の温度で溶融混練した後、エクストルダー先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行うなどの方法を挙げることができる。
【0044】
かくして得られる本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のものより優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率および寸法安定性を有していることから、各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0045】
したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする工業用織物は、耐屈曲疲労性および耐摩耗性により優れることから、従来よりも長期間の使用が可能となり産業用の利用価値の高いものである。
【0046】
本発明における工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した各種工業用途に使用される織物のことであり、例えば、抄紙ワイヤー(パルプ漉き揚げ用の織物)、抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙機に装着される織物類、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア織物、熱処理炉内搬送用ベルト織物もしくは各種フィルター織物のことである。
【0047】
ここで、抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、抄紙ドライヤーカンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。さらに、不織布の熱接着工程用ベルト織物とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。また、熱処理炉内搬送用ベルト織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理などのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。さらにまた、各種フィルターとは、高温の液体、気体、粉体などをろ過する織物のことである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を基に本発明のポリエステルモノフィラメントをさらに詳細に説明する。
【0049】
なお、実施例におけるMIT屈曲回数、破断時の屈曲摩耗回数、ヤング率および180℃における乾熱収縮率の測定方法は上記に準じ、固有粘度およびシラノール基量の測定は下記の方法に準じて行った。
【0050】
<PETの固有粘度>
オルトクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた。
【0051】
<シラノール基量(重量%)>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整し、得られたシリコーン系化合物を29Si−NMRにより溶媒としてCDCl、標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)用いて、積算回数256回で測定し、シラノール基を含有しない構造由来のSiO2.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比からRSiO1.0(OH)とRSiO1.5の各々の積分値の比からシラノール基量を算出した。
【0052】
〔実施例1〕
PET樹脂(東レ社製T701)を用い、PET樹脂:シリコーン系化合物(シラノール基量5.2%)=60重量%:40重量%の配合比で、混練温度:300℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、PET中にシリコーン系化合物を混合した樹脂組成物を得た。
【0053】
PEN樹脂(東洋紡績社製PN−640)、PET樹脂および上記樹脂組成物を、最終的な組成比が、PEN樹脂:PET樹脂:シリコーン系化合物=92:8:3となるようにエクストルダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度320℃で溶融混練し、紡糸口金(口金孔径:1.5mm−15H(ホール))から溶融ポリマーを押し出した後、直ちに温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0054】
引き続き未延伸糸を常法にしたがい合計7.0倍に延伸および熱セットを行ない、直径0.40mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントのMIT屈曲回数、屈曲摩耗回数、ヤング率および180℃における乾熱収縮率を表1に示す。
【0055】
〔実施例2,3〕
使用したPEN樹脂、PET樹脂およびシリコーン系化合物の最終的な組成比を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。
【0056】
〔比較例1〜4〕
使用したPEN樹脂、PET樹脂およびシリコーン系化合物の最終的な組成比を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。
【0057】
これら得られたモノフィラメントの物性評価結果を表1に併せて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなとおり、本発明におけるポリエステルモノフィラメント、つまり(A)ポリエチレンナフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートおよび(C)シリコーン系化合物の3成分を必須成分として構成されたポリエステルモノフィラメント(実施例1〜3)は、優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備するとともに、工業用織物の構成素材として必要な高いヤング率および寸法安定性を有していることがわかる。
【0060】
これに対して、本発明外であるポリエステルモノフィラメント、つまり(A)ポリエチレンナフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートおよび(C)シリコーン系化合物の3成分の内、1成分でも欠いたポリエステルモノフィラメント(比較例1〜2)、およびポリエステルの重量比、シリコーン系化合物の含有量が本発明の規定から外れたなポリエステルモノフィラメント(比較例3〜4)などは、耐屈曲疲労性および耐摩耗性に劣り、または工業用織物として求められるヤング率および寸法安定性を有していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のものより優れた耐屈曲疲労性および耐摩耗性を兼備すると共に、高いヤング率および寸法安定性を有していることから、工業用織物の構成素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンナフタレート成分70〜99重量%および(B)ポリエチレンテレフタレート成分30〜1重量%からなるポリエステル混合物100重量部に対して、(C)シリコーン系化合物を0.5〜20重量部含有させた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記シリコーン系化合物のシラノール基量が重量比で2%以上10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
下記(a)〜(d)の要件を同時に満足することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメント。
(a)屈曲疲労特性試験における切断するまでに要するMIT屈曲回数が50回以上、
(b)屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が1000回以上、
(c)ヤング率が10000N/mm以上、
(d)180℃における乾熱収縮率が8.0%以下。
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.65〜1.30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。

【公開番号】特開2009−242997(P2009−242997A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91487(P2008−91487)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】