説明

ポリエステルモノフィラメントおよび織物

【課題】耐摩耗性に優れると共に、線径変動が小さくて表面平滑性が良好であり、また工業用織物として必要十分な引張強度を有するポリエステルモノフィラメントおよびそれを使用した工業用織物を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂に対し、平均粒子径が0.2〜1.0μmで、d25/d75で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量%を含有せしめた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物に関する。さらに詳しくは、耐摩耗性に優れると共に、線径変動が小さくて表面平滑性が良好であり、また工業用織物として必要十分な引張強度を有するポリエステルモノフィラメントおよびそれを使用した工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた力学特性、耐熱性などを有していることから、従来から各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
そして、これらの織物の具体例としては、抄紙用織物、フィルター用織物などが挙げられ、さらに他の用途としては各種ブラシ、毛筆、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などが知られている。
【0004】
なかでも、抄紙業界における抄紙用抄紙ワイヤー(紙をすき上げる織物)、抄紙ドライヤーカンバス(紙の乾燥工程用織物)および抄紙プレスフェルト(紙の搾水工程用織物)などの構成素材としては、ポリエステルモノフィラメントが広く使用されている。
【0005】
しかしながら、これらの産業用途において、ポリエステルモノフィラメントを他の物質、例えば金属,セラミック,プラスチックなどの粒子や構造物などと接触する用途に用いる場合には、これらの粒子や構造物などによってポリエステルモノフィラメントが擦過損傷を受けやすいため、ポリエステルモノフィラメントからなる網や織物などは、製品としての寿命が短いという欠点を有していた。
【0006】
例えば、製紙業界においては、従来から酸性紙が主として製造されていたが、紙の経日劣化の問題が顕著となるにしたがい、中性紙への転換が盛んに行なわれるようになってきている。この酸性紙から中性紙への転換にともない、填料と呼ばれる紙への充填材が、タルクから炭酸カルシウムに変更されたが、炭酸カルシウム粒子はタルク粒子に比較して硬いため、抄紙工程において使用される抄紙ワイヤーの摩耗が早く、特にポリエステルモノフィラメント製の抄紙ワイヤーは、ナイロン6などのポリアミドモノフィラメント製抄紙ワイヤーに比較して寿命が短いという欠点を有していた。
【0007】
しかるに、ナイロン製の抄紙ワイヤーは、上述したように比較的摩耗し難いという利点はあるものの、抄紙時の水分により抄紙ワイヤーの寸法が変化し、製紙に支障をきたすという致命的な欠点を有しているため、抄紙時においても寸法安定性が良好なポリエステルモノフィラメント製抄紙ワイヤーの耐摩耗性の改良がしきりに望まれていた。
【0008】
また、抄紙ドライヤーカンバスの分野においても、填料含有紙と接触する面のポリエステルモノフィラメントの摩耗問題が指摘されており、特に乾粉末炭酸カルシウムやカオリンなどの無機顔料を含有する塗料をコーティングして乾燥させる工程で使用されるドライヤーカンバスを構成するポリエステルモノフィラメントは、その摩耗が極めて著しいことから、その改善が求められていた。
【0009】
このような実状に鑑み、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を改良するための試みが従来より数多くなされてきた。
【0010】
例えば、ポリエチレンテレフタレートに熱可塑性エラストマである熱可塑性ポリウレタンを含有させたモノフィラメントを使用した耐摩耗性の改良された抄紙用織物(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この抄紙用織物は、ポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸温度で、使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂から、ウレタン結合およびエーテル鎖の熱分解が発生するため、得られるモノフィラメントは工業用として十分な引張強度を有するものではなかった。
【0011】
また、ポリエステルに、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択された20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比を有する非層状小板形粒子を配合することによりポリエステル繊維の耐摩耗性を向上する技術(例えば、特許文献2参照)、あるいはポリエステルに加水分解安定剤と平均粒径が100nm以下のケイ素、アルミニウムおよび/またはチタンの酸化物を配合することにより工業用布の耐摩耗性を向上する技術(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、これらのポリエステル繊維は、工業用として十分な引張強度を有するものの、添加する非層状小板形粒子の径が小さいために十分な耐摩耗性が得られず、工業織物用としては実用的ではなかった。
【0012】
さらに、カルシウム化合物を配合することによりスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントの製織工程における繊維の削れ屑を主体とする白粉スカムを抑制する技術(例えば、特許文献4参照)、炭酸カルシウムを配合することにより抄紙用ドライヤーキャンバスなどの工業用織物に用いられるポリフェニレンサルファイドモノフィラメントの耐摩耗性を向上する技術(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、これらの繊維は添加する粒子の粒径分布を制御していないため耐摩耗性を改善することはできず、後者はさらに組成物も相違していた。
【0013】
その他、少なくとも一つのスルホン酸基またはスルホン酸金属塩基をもつ化合物を共重合してなる芳香族ポリエステルに酸化ジルコニウム粒子を添加してなる耐摩耗性に優れた繊維を製造しうるポリエステル組成物(例えば、特許文献6参照)が提案されているが、この組成物から得られたモノフィラメントは、若干の耐摩耗性向上効果は認められるものの、添加したジルコニウム粒子が凝集することに起因して、線径変動が大きくなるため、工業用織物として必要な表面平滑性を得ることができなかった。
【特許文献1】特開平2−80688号公報
【特許文献2】特開2007−23474号公報
【特許文献3】特開2006−63511号公報
【特許文献4】特開昭63−262290号公報
【特許文献5】特開2001−254227号公報
【特許文献6】特開平5−171014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0015】
したがって、本発明の目的は、耐摩耗性に優れると共に、線径変動が小さくて表面平滑性が良好であり、また工業用織物として必要十分な引張強度を有するポリエステルモノフィラメントおよびそれを使用した工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため本発明によれば、ポリエステル系樹脂に対し、平均粒子径が0.2〜1.0μm、かつd25/d75(d25:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の25%における粒径 d75:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の75%における粒径)で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量%を含有せしめた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0017】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記モノフィラメントの線径が0.1mm以上2.0mm以下であること、
前記無機粒子が炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素から選ばれた少なくとも1種であること、
前記ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種を主成分であること、
前記ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレートであって、カルボキシル末端濃度が10当量/トン以下であること、
前記モノフィラメントの線径変動率が4.0以下であること前記モノフィラメントのJIS L−1013:1999−8.5の規定に準じて測定した引張強度が2.0cN/dtex以上であること、および
前記モノフィラメントの次に示す方法で測定した乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数が200回以上/往復であること
が、好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することにより一層優れた耐摩耗性効果を取得することができる。
【0018】
また、本発明の織物は、上記のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、工業用織物、特に抄紙用織物において、抜群の耐摩耗性効果を発揮する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のものより優れた耐摩耗性を有すると共に、線径変動が小さくて表面平滑性が良好であり、また工業用織物として必要十分な引張強度し、工業用織物、特に抄紙用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのジカルボン酸またはエステル形成誘導体およびジオールまたはエステル形成誘導体から合成されるポリエステル系樹脂のことである。
【0022】
また、本発明で使用する無機粒子の具体例としては、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどが挙げられるが、それらの中でも、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素が優れた乾粉末炭酸カルシウム耐摩耗性が得られ、とりわけ炭酸カルシウムが好ましい。
【0023】
本発明において、ポリエステルモノフィラメントに含有させる無機粒子の含有量は、ポリエステル系樹脂に対して1〜15重量%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜10重量%である。含有量が1重量%未満では、耐摩耗性が不十分であり、また15重量%を越えると、モノフィラメントの製造時に延伸切れが発生するなどの操業不安定を来すばかりか、モノフィラメントの引張強度が低下してしまうため好ましくない。
【0024】
本発明で使用する無機粒子の平均粒子径は、0.2〜1.0μmであることが必要であり、本発明で使用する無機粒子は、上記で示される粒度分布比が2.5以下であることが必要である。粒度分布比は、粒度分布のシャープさを表す1より大きい指標であって、その値が1に近いほど分布がシャープであることを示す。
【0025】
本発明の好適な用途である抄紙用織物における填料や無機顔料による摩耗とは、単なる織物表面のダメージではなく織物を構成する繊維を摩滅していくような激しい摩耗である。本発明者らはこのような摩耗を大きく軽減するために上記する平均粒径と粒度分布比が必須であることを発見した。すなわち、このような激しい摩耗は、填料や無機顔料が繊維の表面をすり減らす現象であるが、微視的には填料や無機顔料の粒子が繊維表層を圧縮、切削、打撃などの攻撃による繊維表層の破壊と剥離であることを把握し、以下の改良技術が有効であることを見出したのである。
【0026】
それは第一に、繊維中に無機粒子を配合することで繊維表層に存在する無機粒子が直接、填料や無機顔料の攻撃を受け、繊維基質の破壊を抑えること、第二に、無機粒子が過度に大きい場合、このような填料や無機顔料の攻撃により無機粒子が破壊されやすく耐摩耗性には有効でなく、填料や顔料粒子の攻撃に耐え得る上限サイズが存在すること、第三に、無機粒子が過度に小さい場合、填料や無機顔料の攻撃から繊維基質を防御できず耐摩耗性に有効でなく、填料や顔料粒子の攻撃に耐え得る下限サイズが存在することである。
【0027】
上記の平均粒子経と粒度分布比は、以上の実験と考察に基づき求められた臨界的な値である。
【0028】
また、本発明で使用する無機粒子の平均粒子径は、好ましくは0.3〜0.7μmである。優れた耐摩耗性を付与するためには、上記したようにある程度の粒子径が必要であり、かつ、逆に大きすぎるとモノフィラメントに粗大な突起が発生して、工業用織物用途では重要となるモノフィラメントの線径変動率が大きくなり、織物の表面平滑性を低下させるばかりか耐摩耗性をも低下させることになる。
【0029】
また、本発明で使用する無機粒子の粒度分布比は2.0以下であることが好ましい。粒度分布比を2.0以下とすることにより、モノフィラメントとしたときに粗大突起を形成しにくく、脱落を生じる場合が少なくなる。また、工業用織物用途で特に重要となるモノフィラメントの線径変動率が小さくなり、織物の表面平滑性を向上することができる。粒度分布比は1.7以下が特に好ましい。
【0030】
また、本発明で使用する無機粒子は、凝集性の制御あるいはポリエステルとの親和性向上のために、分散剤や表面処理剤を使用してもかまわない。このような分散剤または表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステルまたはその金属塩、あるいはポリアクリル酸およびその誘導体とその金属塩等を挙げることができる。これらのうち、ポリアクリル酸あるいはポリアクリル酸とその誘導体の共重合物およびその金属塩が特に好ましい。
【0031】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記の方法で測定した乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数が200回以上/往復であることが、乾粉末炭酸カルシウムによる摩耗が極めて著しい抄紙ドライヤーカンバスにおいて抜群の耐摩耗性効果を発揮させることから好ましい。
【0032】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントが必要とする引張強度は、用途により異なるが、概ね2.0cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が2.0cN/dtex未満では、工業用織物の必要最低限の強力を維持できない可能性があり、工業用織物への展開が難しくなることがある。
【0033】
上記の条件を満たしさらに適切な製糸条件を適用することによって、本発明のポリエステルモノフィラメントは、その線径変動率を3.0%以下と低くすることができ、織物とする場合に必要とされる優れた表面平滑性を発揮するものとすることができる。ここで、線径変動率が3.0%を越える場合には、織物の表面平滑性が低下し、紙表面に凹凸が発生する原因となりやすい。線径変動率は2.5%以下がより好ましく、2.0%以下が特に好ましい。
【0034】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、1本からなる連続糸であり、その繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉、6葉、7葉、8葉、などの多様形状、正方形、長方形、菱形、ドッグボーン状および繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。
【0035】
これらの断面形状の中でも、耐摩耗性、姿勢安定性および平滑性の観点からは、丸断面であることが好ましい。
【0036】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造は、例えば次のようにして行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
まず、必要に応じて乾燥した熱可塑性樹脂ペレットと無機粒子とを予め各々計量混合し、または各々計量しながら混合し、1軸エクストルダまたは2軸エクストルダに供給して、使用したポリエステル系樹脂の融点よりも20〜60℃高い温度で溶融混練した後、エクストルダ先端のノズルから押し出し、冷却水槽に導いて冷却したガットをカットして、無機粒子を所定量含有するポリエステル系樹脂ペレット(以下、予備混練ペレットという)を得る。
【0038】
この場合におけるポリエステル系樹脂中における無機粒子の含有量は、モノフィラメントに含有させたい濃度に設定するか、もしくはモノフィラメントに含有させたい濃度よりも高濃度に設定したマスターバッチとする。
【0039】
このようにして得た予備混練ペレットの場合には、そのペレットを先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルダ型紡糸機に供給し、使用したポリエステル系樹脂の融点より20〜60℃高い温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出する。次いで、溶融状態の紡出糸を冷却水槽中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく第1および第2延伸ゾーンで延伸し、次いでヒートセットゾーンで熱セットした後、必要に応じて油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、目的とするポリエステルモノフィラメントを得ることができる。また、静止混練子(流線入替器)を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
他の方法としては、高濃度のマスターバッチや無機粒子を用いる場合には、所定量の無機粒子含有率になるように熱可塑性樹脂ペレットとを予め各々計量混合し、または各々計量混合しながら、先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルダ型紡糸機に供給し、使用した熱可塑性樹脂の融点より20〜60℃高い温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出する。次いで、溶融状態の紡出糸を冷却水槽中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく第1および第2延伸ゾーンで延伸し、次いでヒートセットゾーンで熱セットした後、必要に応じて油剤を付与しボビンに巻き取ることによっても、目的とするポリエステルモノフィラメントを得ることができる。また、静止混練子(流線入替器)を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
モノフィラメントの線径変動率を4.0以下とするためには、本発明の無機粒子の平均粒子径と粒度分布比を本発明の範囲とする以外に、口金から冷却水槽までの距離を10cm以下とすることが好ましく、7cm以下とすることがより好ましい。下限は1cmである。この距離は通常の冷却の場合は15〜30cm程度であるが、無機粒子を配合する本発明のモノフィラメントの場合、前記した範囲とすることにより溶融変形過程の不安定性を排除することができる。
【0042】
本発明の工業用織物とは、上述した本発明のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したものであるが、本発明のポリエステルモノフィラメントは、一本の単糸から成る連続糸であり一本で使用される他に、この一本の単糸から成る連続糸を複数本組み合わせたもの、さらには複数本組み合わせた単糸を撚り合わせたものなどを、織物を構成する経糸および/または緯糸の少なくとも一部として使用すれば良い。
【0043】
上記工業用織物の織り方としては、用途によって適宜選択することができ、例えば、平織り、綾織り、2重織り、3重織りなど公知の織り方を採用することができる。
【0044】
本発明の工業用織物の用途としては、その優れた耐摩耗性、表面平滑性および引張強度を活かした抄紙用織物、特に抄紙ワイヤー、抄紙ドライヤーカンバスや抄紙プレスフェルトなどが挙げられるが、中でも特に乾粉末炭酸カルシウムの影響が大きい抄紙ドライヤーカンバスに適用した場合には、抜群の耐摩耗性効果を発揮することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を基に本発明のポリエステルモノフィラメントをさらに詳細に説明する。
【0046】
なお、無機粒子の平均粒子径ならびに粒度分布、ポリエステルモノフィラメントの線径変動率、引張強度、紡糸操業性および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数の評価は次の方法で行った。
【0047】
[平均粒子径ならびに粒度分布]
原料粒子の場合はエチレングリコール分散液を水に希釈し、繊維中の粒子の場合は繊維をオルソクロロフェノールに溶解した粒子分散液を準備し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA700)を用いて、平均粒子径ならびに粒度分布の測定を行った。粒度分布については、光線透過率80〜95%になるように水希釈濃度を調整し、測定温度25℃、循環速度570ml/min で測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒子径を凝集粒子径(=平均粒子径)とし、大粒径粒子側から25%、75%の粒子径をそれぞれd25、d75とした。
【0048】
[引張強度]
JIS L−1013:1999−8.5引張強さ及び伸び率の規定に準じて、試長250mm、引張速度300mm/分の条件で測定した。引張強度は測定試料繊度のデシテックス単位当たりに換算して得た値である。なお測定には、引張試験機((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−lll−100)を用いた。
【0049】
[線径変動率]
アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用して、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で外径を測定し、さらにキーエンス製データ処理機NR−250&PCに準じたデータ処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した値を線径変動率とした。
【0050】
[紡糸操業性]
連続押し出し紡糸を行う際の状態を観察し、延伸工程における糸切れの発生頻度を次の三基準で評価した。
○・・全て良好であった、
△・・糸切れの発生はあるものの十分操業可能であった、
×・・糸切れが多発し操業が極めて困難であった。
【0051】
[乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数]
ポリエステルモノフィラメントの一方の先端に0.20cN/dtexの荷重をかけると共に、他方の先端を摺動装置につなぎ、炭酸カルシウム粉末中にてSUS製金属摩擦子と直交、接触させて、試料を往復120回/minの速度で摺動させ、試料が破断するまでの摺動回数を破断回数として、測定した。そして、同一試料につき各5本のポリエステルモノフィラメントについて夫々破断するまでの破断回数/往復を測定して、その平均値を乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数とした。
【0052】
[実施例1]
乾燥したポリエチレンテレフタレートのバージンペレットと、平均粒子径が0.29μm、粒度分布比が1.58である炭酸カルシウムとを混合し、1軸エクストルダに供給して、280℃で溶融混練した後、エクストルダ先端のノズルから押し出し、冷却水槽に導いて冷却したガットをカットして、炭酸カルシウム20重量%を含有するポリエチレンテレフタレートペレット(以下、予備混練ペレットという)を得た。
【0053】
次いで、ポリエチレンフタレートペレットと、上記予備混練ペレットとを、モノフィラメント組成中の炭酸カルシウム含有量が5.0%となるように計量しながら1軸エクストルダ型の紡糸機に供給し、290℃で溶融混練紡糸し、90℃の温水浴で冷却後、180℃で5.3倍に延伸し、次いで0.95倍で弛緩熱セットすることにより、直径0.40mmの円形断面を有するポリエステルモノフィラメントを得た。口金冷却水槽間距離は5cmとした。
【0054】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表1に示す。
【0055】
[実施例2〜5]
混合する炭酸カルシウムの平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の炭酸カルシウム含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0056】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表1に併記する。
【0057】
[比較例1〜5]
混合する炭酸カルシウムの平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の炭酸カルシウム含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表1に併記する。
【0058】
[実施例6]
乾燥したポリエチレンテレフタレートのバージンペレットと、平均粒子径が0.31μm、粒度分布比が1.62である二酸化チタンとを混合し、1軸エクストルダに供給して、280℃で溶融混練した後、エクストルダ先端のノズルから押し出し、冷却水槽に導いて冷却したガットをカットして、二酸化チタン20重量%を含有するポリエチレンテレフタレートペレット(以下、予備混練ペレットという)を得た。
【0059】
次いで、ポリエチレンフタレートペレットと、上記予備混練ペレットとを、モノフィラメント組成中の二酸化チタン含有量が5.0%となるように計量しながら1軸エクストルダ型の紡糸機に供給した以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの円形断面を有するポリエステルモノフィラメントを得た。
【0060】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表2に示す。
【0061】
[実施例7〜10]
混合する二酸化チタンの平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の二酸化チタン含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0062】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表2に併記する。
【0063】
[比較例6〜9]
混合する二酸化チタンの平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の二酸化チタン含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0064】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表2に併記する。
【0065】
[実施例11]
乾燥したポリエチレンテレフタレートのバージンペレットと、平均粒子径が0.28μm、粒度分布比が1.80である二酸化ケイ素とを混合し、1軸エクストルダに供給して、280℃で溶融混練した後、エクストルダ先端のノズルから押し出し、冷却水槽に導いて冷却したガットをカットして、二酸化ケイ素20重量%を含有するポリエチレンテレフタレートペレット(以下、予備混練ペレットという)を得た。
【0066】
次いで、ポリエチレンフタレートペレットと、上記予備混練ペレットとを、モノフィラメント組成中の二酸化ケイ素含有量が5.0%となるように計量しながら1軸エクストルダ型の紡糸機に供給した以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの円形断面を有するポリエステルモノフィラメントを得た。
【0067】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表3に示す。
【0068】
[実施例12〜15]
混合する二酸化ケイ素の平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の二酸化ケイ素含有量を表3に示すように変更したこと以外は、実施例11と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0069】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表3に併記する。
【0070】
[比較例10〜13]
混合する二酸化ケイ素の平均粒子径、粒度分布比およびモノフィラメント組成中の二酸化ケイ素含有量を表3に示すように変更したこと以外は、実施例11と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0071】
得られたモノフィラメントの引張強度、線径変動率、繊維中の粒子の平均粒子径と粒度分布比および乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数を表3に併記する。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表1〜3の結果から明らかなように、本発明におけるポリエステルモノフィラメント(実施例1〜15)は、耐摩耗性が高く、かつ工業用織物として求められる引張強度および線径変動率を有していることが分かる。
【0076】
これに対して、本発明の製造条件を満たさずに得られたポリエステルモノフィラメント、つまり無機粒子の平均粒子径および粒度分布比が本発明の規定から外れたモノフィラメント(比較例2〜3、6〜7、10〜11)は、耐摩耗性が低く、工業用織物として求められる引張強度および線径変動率を有していないことが分かる。
【0077】
また、モノフィラメント組成中の無機粒子含有量が本発明の規定を超えたモノフィラメント(比較例4〜5、8〜9、12〜13)は、含有量が低ければ耐摩耗性を満足することができず、また含有量が高ければ工業用織物として求められる引張強度および線径変動率を満足できず、また、操業性が不安定であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、耐摩耗性に優れると共に、線径変動が小さくて表面平滑性が良好であり、また工業用織物として必要十分な引張強度を有していることから、抄紙用織物の構成素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂に対し、平均粒子径が0.2〜1.0μm、かつd25/d75(d25:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の25%における粒径、d75:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の75%における粒径)で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量%を含有せしめた樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記モノフィラメントの線径が0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記無機粒子が、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレートであって、カルボキシル末端濃度が10当量/トン以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
前記モノフィラメントの線径変動率が4.0以下であることを特徴とする請求項1〜5に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項7】
前記モノフィラメントのJIS L−1013:1999−8.5の規定に準じて測定した引張強度が2.0cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜6に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項8】
前記モノフィラメントの次に示す方法で測定した乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数が200回以上/往復であることを特徴とする請求項1〜7に記載のポリエステルモノフィラメント。
[乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数の測定方法]
ポリエステルモノフィラメントの一方の先端に0.20cN/dtexの荷重をかけると共に、他方の先端を摺動装置につなぎ、炭酸カルシウム粉末中にてSUS製摩擦子と直交、接触させて、試料を往復120回/minの速度で摺動させ、試料が破断するまでの摺動回数を破断回数として測定した。そして、同一試料につき各5本のポリエステルモノフィラメントについて夫々破断するまでの破断回数/往復を測定して、その平均値を乾粉末炭酸カルシウム摩耗破断回数とした。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする織物。
【請求項10】
工業用織物であることを特徴とする請求項9に記載の織物。
【請求項11】
抄紙用織物であることを特徴とする請求項10に記載の工業用織物。
【請求項12】
抄紙ドライヤーカンバス用織物であることを特徴とする請求項11に記載の織物。

【公開番号】特開2008−266873(P2008−266873A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79577(P2008−79577)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】