説明

ポリエステル仮撚加工装置および仮撚加工方法

【課題】工業的に生産性が高く、かつ糸の削れ等による白粉が発生なく、油剤での汚れを抑制し安定して製造することができ、特に糸の長手方向の冷却ムラの発生がなく、長時間糸切れの発生のない品質安定が図れるポリエステル仮撚加工装置および仮撚加工方法を提供することにある。
【解決手段】部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工するポリエステル仮撚加工装置において、延伸仮撚領域内に熱加工された糸条を冷却する非接触型の冷却装置を設けるとともに、以下の(イ)〜(ハ)の要件を有することを特徴とするポリエステル仮撚加工装置。
(イ)冷却温度をT(℃)としたとき下記式(1)を満足すること、
0≦T≦20 ・・・式(1)
(ロ)冷却装置の長さをL(mm)としたとき下記式(2)を満足すること、
500≦L≦2000 ・・・式(2)
(ハ)冷却装置の糸条通過部が筒状であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分配向したポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工装置に関するものであり、さらに詳しくは延伸仮撚領域内に非接触型の冷却装置を配設することで、糸の削れ等による白粉や油剤汚れの発生を抑制し、かつ冷却ムラを抑制することができ、極めて良好な品質を得ることができる部分配向したポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工装置および仮撚加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から部分配向したポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工装置は接触型の冷却プレートにより冷却する方式や室温下にて自然冷却する方式が知られている。例えば、ポリエステル仮撚加工糸の製法において、延伸仮撚加工するに先立って、冷却することにより実用上充分な強度を有し、かつ易染性が良好な仮撚加工糸を得る方法(例えば、特許文献1参照)や、ポリエステル未延伸糸を延伸しつつ仮撚ディスクにより仮撚を施し、この仮撚を熱セットしてから冷却プレートにより冷却し仮撚加工糸を得る方法(例えば、特許文献2、3参照)などが知られている。しかしながら、このような方式では冷却プレート上に糸の削れ等による白粉や油剤の汚れが付着し、糸条の長手方向に冷却ムラが生じる問題や、室温下での自然冷却では外気温度のバラツキに起因した冷却ムラによる染めムラが発生し、安定した品質の製品を生産することが困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開昭59−66529号公報
【特許文献2】特開平4−333629号公報
【特許文献3】特開平8−246276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を改良し、工業的に生産性が高く、かつ糸の削れ等による白粉が発生なく、油剤での汚れを抑制し安定して製造することができ、特に糸の長手方向の冷却ムラの発生がなく、長時間糸切れの発生のない品質安定が図れるポリエステル仮撚加工装置および仮撚加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工するポリエステル仮撚加工装置において、延伸仮撚領域内に熱加工された糸条を冷却する非接触型の冷却装置を設けるとともに、以下の(イ)〜(ハ)の要件を有することを特徴とするポリエステル仮撚加工装置。
(イ)冷却温度をT(℃)としたとき下記式(1)を満足すること、
0≦T≦20 ・・・式(1)
(ロ)冷却装置の長さをL(mm)としたとき下記式(2)を満足すること、
500≦L≦2000 ・・・式(2)
(ハ)冷却装置の糸条通過口が筒状であること。
(2)筒状の冷却装置の糸条通過口が真円であることを特徴とする前記(1)に記載のポリエステル仮撚加工装置。
(3)冷却装置の糸条通過口径が3mm以上6mm以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリエステル仮撚加工装置。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の仮撚加工装置を用いて部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工することを特徴とするポリエステル仮撚加工方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の構成とすることにより、部分配向したポリエステルマルチフィラメントを仮撚加工するに際し、糸の削れ等による白粉が発生なく、油剤での汚れを抑制し安定して製造することができ、特に糸の長手方向の冷却ムラの発生がなく、長時間糸切れの発生もなくポリエステル仮撚加工糸を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0007】
本発明の部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工するポリエステル仮撚加工装置において、延伸仮撚領域内に熱加工された糸条を冷却する非接触型の冷却装置を設けるとともに、冷却温度T(℃)としたとき下記式(1)を満足するようにしたものである。
【0008】
ただし、冷却温度とは、冷却装置の糸条通過部の円筒壁面温度を言い、該円筒の長さ方向の中央部における壁面の表面温度を測定し制御する。
【0009】
0≦T≦20 ・・・式(1)
冷却温度をT(℃)がT>20であると、仮撚加工時に充分な冷却が得られず加工糸の捲縮が粗くなり再結晶安定化不良が生じるため染めムラが生じる。また、冷却温度T(℃)<0であると分子の熱運動が凍結される限界温度を超え再結晶化が不安定になるため冷却ムラが生じる。より好ましくは8≦T≦12である。
【0010】
また、冷却装置長さをL(mm)とした時以下の式(2)を満足するようにする。
【0011】
500≦L≦2000 ・・・式(2)
上記式(2)においてL>2000であると設備的に糸掛け作業が困難となり工業生産には不向きである。また、L<500であると充分な冷却が得られず捲縮ムラが発生する。より好ましくは800≦L≦1200である。
【0012】
また、冷却装置の糸条走行部である糸条通過口が筒状であることが重要である。冷却装置の糸条走行部の糸条通過口を筒状とすることで糸条と冷却の位置が一定範囲内にあり、均一に冷却でき、また保温性の面においても優れている。さらに好ましくは、冷却装置の糸条通過口はその横断面形状が真円のものが工業生産に向いている。冷却装置の糸条走行部に角があると同一方向に冷却ができず糸条の冷却温度にバラツキが生じ、冷却ムラが生じやすい。また、一般的に冷却方式は接触プレートがよく用いられているが溝底部に汚れが堆積し短期間で清掃作業を要するのに対して、筒状型とすることにより清掃周期を長くでき清掃作業の効率化が図れる。
【0013】
冷却装置の糸条通過口径は3mm以上6mm以下のものが好ましい。3mmより小さいと糸条と糸条通過チューブ(筒状部)内面が接触しやすくなるため毛羽が発生しやすい。6mmより大きいと冷却効果がやや劣り、冷却ムラが生じやすい。より好ましくは4mm以上5mm以下である。
【0014】
また、本発明の非接触型の冷却装置の冷却手段としては種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば吸気パイプを介して接続した真空ポンプなどの減圧装置を有し、糸条通過チューブに微細孔を有する非接触型冷却装置内を減圧することにより糸条通過チューブ内の温度を低下させる冷却方法が品質的にも工業生産的にも好ましい。
【0015】
本発明の仮撚加工糸の製造装置の一例について図1、図2を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の仮撚加工糸の製造装置の一例を説明するための概略図である。
【0017】
図1において、部分配向したポリエステルマルチフィラメントPは、糸道ガイド1、2を経て、フィードローラー3とフィードローラー7との間で熱板4に接糸させ延伸されるとともに、冷却装置5に非接触した状態で仮撚具6により仮撚が付与され加工糸条とされるものである。冷却装置5は均一冷却を目的とした円筒状をしており、糸条と非接触状態となる構造になっている。糸道ガイド8,9,10を経て、ヤーントラバース装置で加工糸条をトラバースさせ巻き取りローラー11によって加工糸パッケージTを得ることができる。
【0018】
また、図2は本発明に用いられる冷却装置の一例を示す概略図であり、真空ポンプなどの減圧装置12に連結された吸気パイプ13を介して微細孔を有する糸条通過チューブ15からなる非接触型冷却装置5内を減圧することにより糸条通過チューブ15内の温度を低下させて冷却させるようにしたものである。
【0019】
糸条は冷却装置糸条通過口14を介して冷却温度センサー16にて制御される。Lは冷却装置長、Dは冷却装置糸条通過口径を示す。
【0020】
本発明においてポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレートを主体とするものであれば、ホモポリエステル、共重合ポリエステル のいずれであってもよい。共重合ポリエステルの場合の共重合成分は、特に限定されず、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、2,2´ビス(4−ヒドロキシエチルフェニル)プロパンなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸成分などがあげられる。また、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が添加されていてもよい。
【0021】
また、本発明の部分配向ポリエステルマルチフィラメントは、好ましくは、紡速2000〜7000m/分で得られる、複屈折率Δnが20×10-3〜70×10-3であるポリエステルマルチフィラメント未延伸糸であり、この未延伸糸を延伸して仮撚加工糸を製造するにあたって、供給ローラと延伸ローラの間で仮撚し、好ましくは1.05〜2.00倍に延伸し、100〜250℃で熱セットし、さらに延伸仮撚領域内に設けられた冷却装置により冷却することにより製造することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。図1の仮撚加工装置、および図2の冷却装置を用い、冷却温度、冷却装置長さ、冷却装置糸条通過口形状、冷却装置糸条通過口径を変更した。実施例中に使用した各特性値は次の測定方法により求めた。
[複屈折率]
試料長2〜3cmをNIKON製偏光顕微鏡(ECLIPSE−E−600−P−OL)を用い複屈折を下式にて求め、N=3の測定値の平均値にて評価した。
【0023】
複屈折=R/D
D(単糸直径μ)=直径×2.5
R=((180×X+θ)/180)×587.5
X:縞数、θ:アナライザー角度、使用波長(λ)587.5nm
[作業性]
糸掛け時、作業者が通常作業の場合は○、踏み台を使用した際には×とした。
[染色ムラ]
98℃のパドル染色機内で、分散染料フォロン・ネービー・S−2GL200%、0.3%owfで20分間染色し、乾燥後ディライト下で目視にて標準糸との判定を行った。染めムラを2段階に分類し、染めムラの発生がないものは○とし、軽度の染めムラが発生した場合は△とし、染めムラが発生した場合は×とした。標準糸は以下の方式で作成した。
(1)n=54の加工糸を仮の標準糸で交互編みする。
(2)染め分布の中央の加工糸の中から再度標準糸を選んで交互編みする。
(3)再び染め分布の中央の加工糸から標準糸を採取する。
[毛羽(コ/2000m)]
東レエンジニアリング株式会社製であるMFC−1100にて毛羽測定し、400m/分の解舒速度で5分間測定した。検知結果にて毛羽数を比較し3段階に分類し評価を実施した。なお、○は毛羽数0個、△は毛羽数1〜2個、×は毛羽数3個以上とした。
【0024】
総合評価を3段階に分類し、全ての項目について○がついたものは○、○または△のみの場合は△、1つでも×がついたものは×とした。
【0025】
実施例1
図1に示す装置を用い非接触型の冷却装置を設置した。冷却温度10℃、冷却装置長さを1200mm、冷却装置糸条通過口形状を真円、冷却装置糸条通過口径を4mmとして、紡速3000m/分の速度で紡糸した複屈折率30×10−3のポリエステルマルチフィラメントを図1に示す延伸仮撚加工装置により、加工速度600m/分、延伸倍率1.80倍、加熱温度220℃で延伸仮撚し、56デシテックスのポリエステル仮撚加工糸を得た。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく加工性良好な結果を得、毛羽の発生もなく染めムラ品位も良好であった。
【0026】
実施例2
冷却温度を20℃とし冷却装置長さを800mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく加工性良好な結果を得、毛羽の発生もなく染めムラ品位も良好であった。
【0027】
実施例3
冷却温度を0℃とし冷却装置長さを800mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく加工性良好な結果を得、毛羽の発生もなく染めムラ品位も良好であった。
【0028】
実施例4
冷却装置糸条通過口径を2mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく、染めムラ品位も良好であった。
【0029】
実施例5
冷却装置糸条通過口径を7mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく、毛羽の発生もなかった。
【0030】
実施例6
冷却装置糸条通過口形状を正四角形とした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく、品位も良好であった。
【0031】
実施例7
冷却装置糸条通過口形状を楕円とし、糸状通過口径の短径を3mm長径を5mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生もなく、品位も良好であった。
【0032】
比較例1
冷却装置長さを450mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生がなかったが染めムラが発生した。
【0033】
比較例2
冷却温度を−5℃とした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生がなかったが染めムラが発生した。
【0034】
比較例3
冷却温度を30℃とし、冷却装置長さを1000mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生がなかったが毛羽が発生し加工性不良な結果を得た。
【0035】
比較例4
冷却温度を0℃とし、冷却装置長さを2000mmとした以外は実施例1と同様な方法にて加工した。3日間の連続加工において糸切れの発生がなかったが作業性が悪化した。
【0036】
実施例1〜7、比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる仮撚加工糸の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に用いられる冷却装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1、2、8、9、10 :糸道ガイド
3、7:フィードローラー
4:熱板
5:非接触冷却装置
6:仮撚具
11:巻き取りローラー
12:減圧装置
13:吸気パイプ
14:冷却装置糸条通過口
15:糸条通過チューブ
16:冷却温度センサー
P:部分配向したポリエステルマルチフィラメント
T:加工糸パッケージ
L:冷却装置長さ
D:冷却装置糸条通過口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工するポリエステル仮撚加工装置において、延伸仮撚領域内に熱加工された糸条を冷却する非接触型の冷却装置を設けるとともに、以下の(イ)〜(ハ)の要件を有することを特徴とするポリエステル仮撚加工装置。
(イ)冷却温度をT(℃)としたとき下記式(1)を満足すること、
0≦T≦20 ・・・式(1)
(ロ)冷却装置の長さをL(mm)としたとき下記式(2)を満足すること、
500≦L≦2000 ・・・式(2)
(ハ)冷却装置の糸条通過部が筒状であること。
【請求項2】
筒状の冷却装置の糸条通過口が真円であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル仮撚加工装置。
【請求項3】
冷却装置の糸条通過口径が3mm以上6mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル仮撚加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の仮撚加工装置を用いて部分配向したポリエステルマルチフィラメントを延伸仮撚加工することを特徴とするポリエステル仮撚加工方法。

【図1】
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【図2】
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