説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 環境への負担が少なく、着色を抑制した透明なポリエステル樹脂、特にカラートナー用に好ましく用いることができるポリエステル樹脂が得られるポリエステル樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ジカルボン酸を含有する多価カルボン酸とジオールを含有する多価アルコールとを、リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物、好ましくは、ホスフェート系チタン化合物および/またはホスファイト系のチタン化合物の存在下で重縮合することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への負担が少なく、着色を抑制した透明なポリエステル樹脂が得られるポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合触媒の存在下で重縮合させてることにより製造されている。ここで用い
る重合触媒としては、例えば、リン化合物、スズ化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等が用いられてきた。中でもスズ化合物は色調や透明性に優れるポリエステル樹脂が得られる為、頻繁に使用されている。しかしながら、このスズ化合物、例えばトリブチルスズ等は環境を汚染するという問題がある。またアンチモン化合物は安価で且つ重合活性が高いため広く使用されるが、反応中に異物が析出しポリマーを濁らせるため、透明性を落とすなど品質を悪化させるといった問題がある。更に、ゲルマニウム化合物は、高価なためポリエステル樹脂の製造コストが高くなる、ポリエステル樹脂を合成する際の反応時間が長く着色もするといった問題があり、チタン化合物は軽金属であり、環境負荷はないが、加水分解を受けやすく、特に重縮合時の水が系中に多く存在する際には触媒活性が長く続かない、得られるポリエステルの着色がひどく、濁りも生じるといった問題を抱えている。
【0003】
このような状況において、環境に付加をかけず、ポリエステル樹脂を製造する方法として、例えば、テレフタル酸を主体とするジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールを主体とするグリコールとのエステル化反応混合物を重縮合するに際し、該重縮合を、チタン原子としてポリエステルの理論収量に対して10〜100ppmの範囲内の有機チタン化合物およびリン原子として該有機チタン化合物中のチタン原子に対して3〜10倍モルの範囲内のリン化合物が添加された反応系において行うポリエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該製造方法でも着色を抑制した透明なポリエステル樹脂を得るのは困難である。
【0004】
【特許文献1】特開平06−100679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は環境への負担が少なく、着色を抑制した透明なポリエステル樹脂が得られるポリエステル樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、下記知見を見出した。
(1)リン化合物が共有結合したチタン化合物と、リン化合物が配位結合したチタン化合物は耐加水分解性に優れ、ポリエステル樹脂の重縮合反応中も安定に存在するのでポリエステル樹脂の縮合反応の触媒として好適に用いることができる。
【0007】
(2)前記リン化合物が配位したチタン化合物を重合触媒として用いることにより着色を抑制した透明なポリエステル樹脂が得られる。しかも、スズ化合物を用いないので環境への負担が少ない。
【0008】
(3)前記特許文献1のように用いることができる原料が限定されることがないので樹脂設計の幅が広がる。
本発明は上記知見に基づき完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、ジカルボン酸を含有する多価カルボン酸とジオールを含有する多価アルコールとを、リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物の存在下で重縮合することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば着色を抑制した透明なポリエステル樹脂を多大な負担を環境にかけることなく製造することができる。得られるポリエステル樹脂は、例えば、トナー、中でもカラートナー用途として特に好ましく使用できる。また、重縮合反応も短時間化が可能で、用いる触媒も安価なものであり、製造コストを抑制することもできる。また、本発明のポリエステル樹脂の製造方法は反応制御しやすい利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いる多価カルボン酸はジカルボン酸を含有するもので、更に3官能以上のカルボン酸を含有しても良い。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマ−ル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、修酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、ドデシルコハク酸、ドデシル無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、デカン−1,10−ジカルボン酸等の脂肪族のジカルボン酸;フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸およびその無水物、ヘキサヒドロフタル酸およびその無水物、テトラブロムフタル酸およびその無水物、テトラクロルフタル酸およびその無水物、ヘット酸およびその無水物、ハイミック酸およびその無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等の芳香族または脂環族のジカルボン酸等が挙げられる。
【0012】
前記3官能以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0013】
前記した多価カルボン酸はそれぞれ単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。さらに、前記多価カルボン酸は、そのカルボキシル基の一部または全部がアルキルエステル、アルケニルエステルまたはアリ−ルエステルとなっているものも使用できる。
【0014】
また、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸のような一塩基酸も本発明の効果を損なわない範囲内で併用することができる。更に、例えば、ジメチロ−ルプロピオン酸あるいはジメチロ−ルブタン酸の如き3官能の原料成分としてのヒドロキシ酸あるいは6−ヒドロキシヘキサン酸のような、1分子中に水酸基とカルボキシル基を併有する化合物あるいはそれらの反応性誘導体も使用できる。
【0015】
本発明の製造方法で用いるジカルボン酸を含有する多価カルボン酸としては、目的のガラス転移温度等を保持しながら、より着色を抑えクリアなポリエステル樹脂が得られることからテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する多価カルボン酸を用いるのが好ましい。また、3官能以上のカルボン酸を用いる場合にはトリメリット酸が好ましい。
【0016】
本発明で用いる多価アルコールはジオールを含有するもので、更に3官能以上のアルコールを含有しても良い。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のビスフェノール類、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのポリアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノール誘導体類等の芳香族のジオール類;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族のジオール類等が挙げられる。
【0017】
前記したビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0018】
前記したビスフェノールSのポリアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0019】
前記したビスフェノールFのポリアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0020】
また、「カ−ジュラE10」[シェルケミカル社製 分岐脂肪酸のモノグリシジルエステル]等の脂肪族モノエポキシ化合物もかかるジオ−ル類として使用することができる。
【0021】
前記3官能以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、1,2,3,6−ヘキサンテトロ−ル、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリト−ル、ジペンタエリスリト−ル、2−メチルプロパントリオ−ル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−ト等が挙げられる。
【0022】
また、下記に示すようなポリエポキシ化合物も3官能以上のアルコールとして使用することができる。例えば、エチレングリコール、ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等各種の脂肪族ないしは脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル類;
【0023】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはポリテトラメチレングリコールの如き、各種のポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−トのポリグリシジルエーテル類;アジピン酸、ブタンテトラカルボン酸、プロパントリカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸の如き、各種の脂肪族ないしは芳香族ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル類;ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、ドデカジエン、シクロオクタジエン、α−ピネンもしくはビニルシクロヘキセンの如き、各種の炭化水素系ジエンのビスエポキシド類;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートもしくは3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートの如き、各種の脂環式ポリエポキシ化合物;またはポリブタジエンもしくはポリイソプレンの如き、各種のジエンポリマーのエポキシ化物;「EGM−400」[東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の、3−グリシドキシプロピル基を有する、環状のポリシロキサンの商品名]等のポリエポキシ化合物が挙げられる。
【0024】
更に、一分子中に2個以上のエポキシ基を有する多価エポキシ化合物もジオール類を含む多価アルコール類として使用することができる。例えば、2〜4価のエポキシ化合物、5価以上のエポキシ化合物等が挙げられる。前記2〜4価のエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、耐可塑剤性が良好なことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0025】
前記5価以上のエポキシ化合物としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ基を有するビニル化合物の重合体あるいは共重合体、エポキシ化レゾルシノール−アセトン縮合物、部分エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、反応性が良好なことからクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック型エポキシ樹脂がより望ましい。また、前記2〜4価のエポキシ化合物と5価以上のエポキシ化合物は2種以上を併用しても差し支えない。
【0026】
前記した多価アルコ−ルは、単独で使用してもよいし2種以上のものを併用することもできる。さらに、これらの多価アルコ−ル類の他、ステアリルアルコ−ルなどの1価の高級アルコ−ル等も本発明の特徴を損なわない範囲で併用することができる。
【0027】
本発明の製造方法で用いるジオールを含有する多価アルコールとしては、目的のガラス転移温度等を保持しながら、より着色を抑えクリアなポリエステル樹脂が得られることから多価アルコールとしてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる一種以上のジオールを含有する多価アルコールを用いるのが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法で重合触媒として用いるチタン化合物は、リン化合物が共有結合したチタン化合物とリン化合物が配位結合したチタン化合物である。リン化合物が共有結合したチタン化合物としては、例えば、リン化合物のエーテル結合を介してチタン化合物に結合した構造を有するチタン化合物等が挙げられる。リン化合物が配位結合したチタン化合物としては、例えば、リン化合物の非共有電子対を介してチタン化合物に結合した構造等を有するチタン化合物等が挙げられる。そして、このような化合物としては、例えば、ホスフェート系のチタン化合物、ホスファイト系のチタン化合物、ホスホン酸系チタン化合物、亜ホスホン酸系チタン化合物、ホスフィン酸系チタン化合物、亜ホスフィン酸系チタン化合物、ホスフィンオキサイド酸系チタン化合物、ホスフィン系チタン化合物等が挙げられる。
【0029】
前記ホスフェート系のチタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスフェート、ビスジオクチルホスフェートエチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルピロホスフェート、ビスジオクチルピロホスフェート・エチレングリコラトチタン、チタニウム・ビスジオクチルピロホスフェートオキシアセテート等が挙げられる。
【0030】
前記ホスファイト系のチタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスファイト、ビスジオクチルホスファイトエチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスファイ、テトライソプロポキシチタン・ビスオクチルホスファイト等が挙げられる。
【0031】
前記ホスホン酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスホン酸、ビスジオクチルホスホン酸エチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスホン酸等が挙げられる。
【0032】
前記亜ホスホン酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチル亜ホスホン酸、ビスジオクチル亜ホスホン酸エチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチル亜ホスホン酸等が挙げられる。
【0033】
前記ホスフィン酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスオクチルホスフィン酸、ビスオクチルホスフィン酸エチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスオクチルホスフィン酸等が挙げられる。
【0034】
前記亜ホスフィン酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスオクチル亜ホスフィン酸、ビスオクチル亜ホスフィン酸エチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスオクチル亜ホスフィン酸等が挙げられる。
【0035】
前記ホスフィンオキサイド酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスフィンオキサイド、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスフィンオキサイド、ビスジオクチルホスフィンオキサイドエチレングリコラトチタン、ビスジオクチルホスフィンオキサイドエチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスフィンオキサイド、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0036】
前記ホスフィン酸系チタン化合物としては、例えば、イソプロポキシチタン・トリスジオクチルホスフィン、イソプロポキシチタン・トリスジオクチル亜ホスフィン、ビスジオクチルホスフィンエチレングリコラトチタン、ビスジオクチルホスフィンエチレングリコラトチタン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスフィン、イソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスフィン等が挙げられる。
【0037】
本発明で用いるリン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物は、より着色を抑制し、透明性の高いポリエステル樹脂が得られることからホスフェート系チタン化合物、ホスファイト系チタン化合物が好ましく、中でも、チタニウム・ビスオクチルピロホスフェートオキシアセテート、テトライソプロポキシチタン・ビスオクチルホスファイトがより好ましい。
【0038】
本発明の製造方法はジカルボン酸を含有する多価カルボン酸とジオールを含有する多価アルコールとを、リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物の存在下で重縮合することを特徴とする。具体的には、前記ポリエステル樹脂の原料成分である多価カルボン酸及び多価アルコ−ルを必須として、窒素雰囲気中で加熱下に脱水縮合させる。この際使用される装置としては、窒素導入口、温度計、攪拌装置、精留塔等を備えた反応容器の如き回分式の製造装置が好適に使用できるほか、脱気口を備えた押し出し機や連続式の反応装置、混練機等も使用できる。また、上記脱水縮合の際、必要に応じて反応系を減圧することによって、エステル化反応を促進することもできる。
【0039】
本発明の製造方法では前記リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物を、該チタン化合物中のチタン原子の重量でポリエステル樹脂を構成する原料の合計に対して0.1〜100ppmとなるように用いるのが、得られるポリエステル樹脂が着色しにくいこと、反応効率も良好なことから好ましく、1〜50ppmとなるように用いるのがより好ましく、5〜30ppmとなるように用いるのが更に好ましい。
【0040】
本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度が30℃〜150℃となるように重縮合を行うのが好ましく、40℃〜90℃となるように重縮合を行うのがより好ましい。また、ポリエステル樹脂の軟化点が60℃〜200℃となるように重縮合を行うのが好ましく、80℃〜190℃となるように重縮合を行うのがより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂のポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000となるように重縮合を行うのが好ましく、1000〜6,000となるように重縮合を行うのがより好ましい。また、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が1,500〜1000,000となるように重縮合を行うのが好ましく、5,000〜500,000となるように重縮合を行うのがより好ましい。
【0042】
本発明でポリエステル樹脂の数平均分子量、重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、下記の条件により求めた。
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製ガードカラムHXL−H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件: カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.4重量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0043】
また、本発明でガラス転移温度及び軟化点は下記の条件より求めた。
・ガラス転移温度の測定条件
測定機器:セイコー電子工業(株)製DSC220C
測定条件:10℃/min,試料:アルミ容器に試料を10mg程度入れ、ふたをする。
測定方法:DSC(示唆走査熱量分析)法
【0044】
軟化点の測定条件
測定機器:メイテック(株)製 環球式自動軟化点測定装置 ASP−MG
測定条件:3℃/min
加熱媒体:グリセリン
【0045】
本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂は着色を抑制した透明なポリエステル樹脂である。トナー、特にカラートナー用のポリエステル樹脂として好ましく使用できる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明する。例中特に断らない限り「部」、「%」は重量基準である。
【0047】
実施例1
エチレングリコール〔日曹油化工業(株)製〕400g、ネオペンチルグリコール〔三菱ガス化学(株)製〕750gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000g、p−tert−ブチル安息香酸〔扶桑化学(株)製〕300gを加え、チタニウム・ビスジオクチルピロホスフェートオキシアセテート3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で20時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂1を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエステル樹脂1のMwが6,900、Mnが3,000、軟化点が102℃、ガラス転移温度が57℃であった。
【0048】
得られたポリエステル樹脂1の着色度、透明度の評価を行った。測定サンプルの調製方法と各評価方法を下記に示す。結果を第1表に示す。
【0049】
<測定サンプルの調製>
冷却し固化したポリエステル樹脂1を180℃で溶解した。その後1時間かけて脱気した。続いて40mm×40mm×3mmのシリコン製の型に脱気した溶液状ポリエステル樹脂1を流し込み、固化して測定サンプルを得た。
【0050】
<着色度の評価>
着色度の評価は明るさと黄味度を測定することにより評価した。測定には日本電色工業(株)製のカラーメーターであるZE2000を用いた。尚、明るさは測定値が高いほどポリエステル樹脂1の明るさが明るいことを表す。黄味度は測定値が低いほどポリエステル樹脂1が着色していないことを表す。
【0051】
明るさの評価
○:ZE2000で測定したときの値(L値)が80以上。
△:L値が80未満70以上。
×:L値が70未満。
【0052】
黄味度の評価
○:ZE2000で測定したときの値(b値)が15以下で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に無色または淡黄色である。
△:b値が15以上30未満で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に薄黄または薄茶である。
×:b値が30以上で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に濃い黄または濃い茶である。
【0053】
<透明度の評価>
透明度の評価は曇価を測定することにより行った。測定にはスガ試験機(株)製の直読ヘーズコンピューターを用いた。尚、測定値が低いほど透明性に優れていることを表す。
【0054】
曇価の評価
○:測定値が10未満で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に透明である。
△:測定値が10以上20未満で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に若干にごりがある。
×:測定値が20以上で、且つ、ポリエステル樹脂を目視観察した際に明らかににごりのある。
【0055】
実施例2
エチレングリコール290g、ネオペンチルグリコール705.9g、ジエチレングリコール110g、エピクロン830〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂(エポキシ基当量171〕9g、エピクロンN−695〔大日本インキ化学工業(株)製のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ基当量213)40g、カ−ジュラE10〔シェルケミカル社製 分岐脂肪酸のモノグリシジルエステル〕25gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000gを加え、チタニウム・ビスジオクチルピロホスフェートオキシアセテート3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で15時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂2を得た。GPC法によるポリエステル樹脂2のMwが250,000、Mnが4,000、軟化点が136℃、ガラス転移温度が59℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0056】
実施例3
エチレングリコール400g、ネオペンチルグリコール600g、エピクロン850〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂(エポキシ基当量187〕を150g、カ−ジュラE10を82g、5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸1800gを加え、チタニウム・ビスジオクチルピロホスフェートオキシアセテート3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で16.5時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂3を得た。GPC法によるポリエステル樹脂2のMwは150,000、Mnが4,100、軟化点が180℃、ガラス転移温度が60℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0057】
実施例4
エチレングリコール290g、ネオペンチルグリコール705.9g、ジエチレングリコール110g、エピクロン830〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂(エポキシ基当量171〕9g、エピクロンN−695〔大日本インキ化学工業(株)製のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ基当量213)40g、カ−ジュラE10 25gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000gを加え、テトライソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスファイト3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で15時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂4を得た。GPC法によるポリエステル樹脂4のMwが200,000、Mnが3,500、軟化点が136℃、ガラス転移温度が59℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0058】
実施例5
エチレングリコール400g、ネオペンチルグリコール600g、エピクロン850 150g、カ−ジュラE10を82g、5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸1800gを加え、テトライソプロポキシチタン・ビスジオクチルホスファイト3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で16.5時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂5を得た。GPC法によるポリエステル樹脂5のMwは170,000、Mnが4,300、軟化点が182℃、ガラス転移温度が61℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0059】
比較例1
エチレングリコール400g、ネオペンチルグリコール750gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000g、p−tert−ブチル安息香酸300gを加え、テトライソプロポキシチタン3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で25時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂1´を得た。GPC法によるポリエステル樹脂1´のMwは7,100、Mnが3,000、軟化点が101℃、ガラス転移温度が57℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0060】
比較例2
エチレングリコール290g、ネオペンチルグリコール705.9g、ジエチレングリコール110g、エピクロン830を9g、エピクロンN−695を40g、カ−ジュラE10、25gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000gを加え、チタンラクテート〔松本製薬(株)製44%イソプロピルアルコール溶液〕3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で15時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂2´を得た。GPC法によるポリエステル樹脂2´のMwは240,000、Mnが4,200、軟化点が135℃、ガラス転移温度が58℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0061】
比較例3
エチレングリコール400g、ネオペンチルグリコール600g、エピクロン850〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂(エポキシ基当量187〕を150g、カ−ジュラE10を82g、5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸1800gを加え、チタンラクテート3gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で14時間反応させ取り出し、ポリエステル樹脂3´を得た。GPC法によるポリエステル樹脂3´のMwは130,000、Mnが3,800、軟化点が176℃、ガラス転移温度が62℃であった。実施例1と同様にして着色度、透明度の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0062】
比較例4
エチレングリコール290g、ネオペンチルグリコール705.9g、ジエチレングリコール110g、エピクロン830を9g、エピクロンN−695を40g、カ−ジュラE10、25gを5リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、テレフタル酸2000gを加え、テトライソプロポキシチタン3.5gを投入、さらにリン酸7.0gを添加し窒素気流下にて徐々に昇温させ255℃で反応させたが反応速度が遅く、また、反途中に着色も強くなったことから途中で停止した。この反応を途中で終了させた反応物の評価は行わなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
本発明の実施例、比較例から明らかな通り、本発明の製造方法で得られたポリエステル樹脂は以前のチタン触媒およびチタン触媒とリン化合物の添加したものよりも着色を抑制した透明なポリエステル樹脂が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸を含有する多価カルボン酸とジオールを含有する多価アルコールとを、リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物の存在下で重縮合することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記多価カルボン酸としてテレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する多価カルボン酸を用い、且つ、多価アルコールとしてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる一種以上のジオールを含有する多価アルコールを用いる請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物として、ホスフェート系チタン化合物および/またはホスファイト系のチタン化合物を用いる請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物として、チタニウム・ビスオクチルピロホスフェートオキシアセテートおよび/またはテトライソプロポキシチタン・ビスオクチルホスファイトを用いる請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記リン化合物が共有結合したチタン化合物および/またはリン化合物が配位結合したチタン化合物を、該チタン化合物中のチタン原子の重量でポリエステル樹脂を構成する原料の合計に対して0.1〜100ppmとなるように用いる請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記重縮合をポリエステル樹脂のガラス転移温度が30℃〜150℃で、軟化点が60℃〜200℃となるように行う請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記重縮合をポリエステル樹脂のポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000で、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が1,500〜1000,000となるように行う請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−133407(P2008−133407A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351707(P2006−351707)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】