説明

ポリエステル樹脂及びこれを含むトナー

電子写真像形成工程または静電印刷工程に用いられるトナー及び前記トナー用のポリエステル樹脂が開示される。前記ポリエステル樹脂は、芳香族二塩基酸成分70〜96モル%、シクロ脂肪族二塩基酸成分3〜20モル%及び3価以上の多価酸成分1〜10モル%を含む酸成分と、シクロ脂肪族ジオール成分10〜50モル%、3価以上の多価アルコール成分2〜20モル%及び脂肪族ジオール成分30〜88モル%を含むアルコール成分と、熱安定剤と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2007年11月21日付けで出願された大韓民国特許出願10−2007−119212号の優先権を請求するものであり、前記出願の全体の内容が取り込まれている。本発明はポリエステル樹脂及びこれを含むトナーに係り、さらに詳しくは、電子写真像形成工程または静電印刷工程に用いられるトナー及び前記トナーにバインダーとして含まれるポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子写真像形成工程または静電印刷工程は、(1)静電記録媒体、例えば、有機光導伝体(OPC:Organic Photoconductor)ドラムの表面上に、記録される像に対応する静電気的に荷電された像または電子伝導性像(すなわち「潜在性像」)を形成する過程と、(2)荷電されたトナーにより前記潜在性像を現像する過程と、(3)現像されたトナー像を紙、記録フィルムなどの記録媒体に転写する過程、及び(4)前記記録媒体上の転写された像を熱圧着ローラーにより固定する過程を含む。電子写真像形成工程または静電印刷工程などの像形成工程は、印刷物を高速にて得ることができ、記録物質の表面に形成される像が安定している他、像形成装置が操作し易いといったメリットを有する。これらの理由から、前記像形成工程は複写機及びプリンターの分野において汎用されている。
【0003】
前記現像工程に用いられるトナーは、1成分系のトナーと2成分系のトナーなどに大別される。2成分系のトナーは、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤、その他の添加剤及びドラムの上に形成された潜在性像を現像し、且つ、現像された像を転写するための磁性体を含む。通常、トナーは、トナー成分を溶融、混練、分散させ、混練された成分を微細に粉砕及び分級することにより粒状に製造される。前記トナーの主成分の一つであるバインダー樹脂は、着色剤の分散性、定着性、耐オフセット性、貯蔵安定性、その他の電気的な性質に優れている必要がある。また、バインダー樹脂は優れた透明性を有することが求められ、しかも、少量の着色剤を使用する場合であっても鮮やかな画像を形成しなければならない。なお、前記バインダー樹脂には、色調再現幅が広いこと、複写または印刷された像の画像濃度を向上させること、及び環境に優しいことが望まれる。
【0004】
前記バインダー樹脂として、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などが通常使用されている。最近、ポリエステル樹脂はその優れた定着性、及び良好な透明性のために、バインダー樹脂として一層汎用されている。一般に、バインダー樹脂用のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂のアルコール成分としてビスフェノールAまたはその誘導体を使用する。しかしながら、ビスフェノールAは環境の点から好ましくない。この理由から、ビスフェノールAまたはその誘導体を用いることなく、良好な耐オフセット性、低温定着性、シャープメルト性、耐ブロッキング性、帯電特性、粉砕性、貯蔵安定性、透明性、像形成特性を有するポリエステル樹脂を製造するための種々の研究がなされてきている。例えば、大韓民国公開特許第10−2005−51543号公報及び第10−2005−6232号公報には、ビスフェノールAまたはその誘導体を含まない樹脂が開示されている。しかしながら、この種の樹脂は、樹脂内における極性基としてのエステル基の含有量が相対的に多量であるため、高温/高湿の条件下で多量の水分を吸収する。このため、高温/高湿のカートリッジ内においては印刷初期画像は良好であるとはいえ、印刷が進むにつれてトナーが多量の水分を吸収し、且つ、トナーの帯電特性が低下するため画像が不良になる。また、上述した特許文献において、トナーの耐オフセット性を改善するために、多官能基酸成分及び/または多価アルコール成分を用いて、樹脂を架橋またはゲル化(すなわち、樹脂のテトラヒドロフラン(THF)に対する不溶分増加)させている。しかしながら、ポリエステル樹脂の架橋部分またはゲル化部分は、トナー製造のために押出混練されるときに高いせん断応力に起因して分解し易くなり、トナーの耐オフセット性を低下させてしまう。この種のビスフェノールAまたはその誘導体を利用しない樹脂の欠点は未だ改善されていない。さらに、特開平11−305485号公報には、トナーの定着特性及び画像再現性を改善するために、シクロヘキサン二塩基酸またはジオールがポリエステル樹脂の製造のために導入されることが開示されている。同文献においては、シクロヘキサンジカルボン酸の使用量が20モル%以上であり、形成されたポリエステル樹脂は約58℃未満のガラス転移温度(Tg)を有するが、これはトナーの貯蔵安定性及び粉砕性の低下の原因となる。なお、前記特許文献は、樹脂内に含まれているシクロヘキサン二塩基酸及びジオール成分の含量によってトナーの定着特性が劣化するということを考慮していない。
【0005】
トナー用のポリエステル樹脂の製造には、ゲルマニウム系の触媒、アンチモン系の触媒、錫系の触媒などが使用されてきている。しかしながら、これらの触媒は活性が低くて多量使用されるため、前記触媒は環境の点から好ましくない。従来の触媒は触媒固有の着色性(例えば、アンチモン系の触媒は灰色の着色性)によりポリエステル樹脂の透明性を低下させる。この理由から、テトラエチルチタナート、アセチルトリプロピルチタナート、テトラプロピルチタナート、テトラブチルチタナート、ポリブチルチタナート、エチルアセトアセチックエステルチタナート、イソステアリルチタナート、チタンジオキシド、TiO/SiO共沈殿剤、TiO/ZrO共沈殿剤などのチタン系の触媒を用いて、触媒活性及び樹脂の透明性を改善する方法が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、アルコール成分としてビスフェノールAまたはその誘導体を含んでおらず、且つ、重合工程に際して錫、アンチモンなどの重金属触媒を使用する必要がないことから、環境に優しいトナー用のポリエステル樹脂を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、安価に製造可能であることから経済性に富んでおり、耐オフセット性、貯蔵安定性、静電記録物質への定着性、画像濃度、耐久性及び耐湿性に優れていることから、画像安定性が向上したトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、芳香族二塩基酸成分70〜96モル%、シクロ脂肪族二塩基酸成分3〜20モル%及び3価以上の多価酸成分1〜10モル%を含む酸成分と、シクロ脂肪族ジオール成分10〜50モル%、3価以上の多価アルコール成分2〜20モル%及び脂肪族ジオール成分30〜88モル%を含むアルコール成分と、熱安定剤と、を含むポリエステル樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るポリエステル樹脂は、芳香族二塩基酸、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシラート(または、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)、3価以上の多価酸、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3価以上の多価アルコール、脂肪族ジオール及び熱安定剤からなるものであり、アルコール成分としてビスフェノールAまたはその誘導体を含んでおらず、しかも、錫またはアンチモンなどの重金属触媒を使用しないことから、環境の点からも好ましい。なお、本発明に係るポリエステル樹脂から製造されたトナーは貯蔵安定性、定着温度領域及び画像濃度に優れているだけではなく、安価に製造可能であるというメリットがある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のより完全な理解及びこれに付随する多くの利点は、下記の詳細な説明を参照して一層詳述される。
【0011】
本発明に係るポリエステル樹脂は、酸成分及びアルコール成分を含む。前記酸成分は、芳香族二塩基酸成分、シクロ脂肪族(脂環族)二塩基酸成分及び3価以上の多価酸成分を含む。前記芳香族二塩基酸成分は、通常的にポリエステル樹脂の製造に用いられる芳香族二塩基酸、そのアルキルエステル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)及びその酸無水物を含む。前記芳香族二塩基酸の例として、テレフタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩、フタル酸などが含まれる。前記芳香族二塩基酸のアルキルエステルとしては、ジメチルテレフタラート、ジメチルイソフタラート、ジエチルテレフタラート、ジエチルイソフタラート、ジブチルテレフタラート、ジブチルイソフタラート、ジメチル5−スルホイソフタラートナトリウム塩などを例示することができる。前記芳香族二塩基酸とこのアルキルエステルは、単独にてまたはこれらを混合して使用可能である。前記芳香族二塩基酸は疎水性のベンゼン環を含むことから、トナーの耐湿性を向上させ、生成される樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと称する。)を増加させ、結果的にトナーの貯蔵安定性を向上させる。前記芳香族二塩基酸成分の量は、全体の酸成分に対して、70〜96モル%(すなわち、全体の酸成分100モルのうち、芳香族二塩基酸成分の量が70〜96モルである。)、好ましくは、70〜94モル%、さらに好ましくは、80〜90モル%である。また、前記テレフタル酸成分は樹脂の靱性とTgを上昇させる。イソフタル酸成分は反応性を増加させる。このため、ポリエステル樹脂の所望の性質に応じてイソフタル酸に対するテレフタル酸の割合が制御可能になる。
【0012】
本発明に用いられるシクロ脂肪族二塩基酸成分において、シクロ脂肪族基の炭素数は5〜20であることが好ましい。前記シクロ脂肪族二塩基酸成分の例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1、3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、これらのアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)エステル及びその酸無水物が挙げられ、これらを単独にてまたは混合して使用可能である。また、前記シクロ脂肪族基の環状の1以上の水素がアルキル基などで置換されていてもよい。前記シクロ脂肪族二塩基酸成分は、140℃以下の低温下でポリエステル樹脂の粘弾性特性のうち貯蔵弾性率を低めることからトナーは良好な低温定着特性を有する。さらに、シクロ脂肪族二塩基酸成分が親油性を有することからトナーは良好な耐湿性を有する結果、良好な画像濃度を有する。さらに、シクロ脂肪族の環状構造は樹脂の耐加水分解性及び熱安定性を向上させて、トナー製造時の分子量低下を抑制する。このため、トナーは広範な温度範囲において良好な定着特性を有する。前記シクロ脂肪族二塩基酸成分の量は、全体の酸成分に対して3〜20モル%、好ましくは、5〜10モル%である。前記シクロ脂肪族二塩基酸成分の量が3モル%未満であれば、トナーは良好な画像濃度及び広い温度領域における良好な定着特性が得られず、前記シクロ脂肪族二塩基酸成分の量が20モル%を超えると、ポリエステル樹脂のTgが約58℃以下に低下して、トナーの貯蔵安定性が低下する。
【0013】
3価以上の多価酸成分の例としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸などのポリカルボン酸、これらのアルキルエステル及びその酸無水物が挙げられる。3価以上の多価カルボン酸成分は単独にてまたは混合して使用可能である。3価以上の多価カルボン酸成分は生成された樹脂のTgを上昇させ且つ樹脂の凝集性を向上させることから、トナーは改善された耐オフセット性を有する。また、3価以上の多価カルボン酸成分は樹脂の酸価を調節してトナーの帯電特性を向上させる結果、トナーは良好な画像濃度を提供する。前記多価酸成分の量は全体の酸成分に対して1〜10モル%、好ましくは、1〜5モル%である。前記多価酸成分の量が1モル%未満であれば、ポリエステル樹脂の分子量の分布が狭くなる結果、トナーの定着温度領域が狭くなる。前記多価酸成分の量が10モル%を超えると、ポリエステル樹脂の製造過程におけるゲル化の制御が困難になる結果、所望の物性を有するポリエステル樹脂が得難い。
【0014】
本発明に係るポリエステル樹脂を構成する酸成分は、必要に応じて、脂肪族二塩基酸、このアルキルエステル及び/またはこれらの酸無水物をさらに含むことができる。前記脂肪族二塩基酸成分は線状または枝状の脂肪族二塩基酸であり、例えば、フタル酸、セバシン酸、コハク酸イソデシル、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸など、これらのモノメチルエステル、モノエチルエステル、ジメチルエステルまたはジエチルエステルなどのアルキルエステル、これらの酸無水物などがある。前記脂肪族二塩基酸成分はトナーの定着性と貯蔵安定性を制御するため、樹脂の要求性能に応じて、且つ、発明の目的を損なわない範囲内において適切に使用され、例えば、脂肪族二塩基酸成分の好適な使用量は全体の酸成分に対して0.1〜10モル%である。
【0015】
本発明に係るポリエステル樹脂を構成するアルコール成分は、シクロ脂肪族ジオール成分、3価以上の多価アルコール成分及び脂肪族ジオール成分を含む。前記シクロ脂肪族(脂環族)ジオール成分は、シクロ脂肪族基において5〜20の炭素数を有することが好ましい。シクロ脂肪族ジオールの例としては、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物及び水素化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。前記シクロ脂肪族ジオール成分は、170℃以上の高温下で、ポリエステル樹脂の粘弾性特性のうち貯蔵弾性率を増加させる結果、トナーが高温オフセット特性を有する。また、シクロ脂肪族ジオール成分は親油性を有することから、トナーは良好な耐湿性を有する結果、トナーは良好な画像濃度を有する。さらに、前記シクロ脂肪族の環状構造はポリエステル樹脂の耐加水分解性及び熱安定性を向上させて、トナー製造時の分子量低下を抑制する。これにより、トナーは広い温度範囲において良好な定着特性を有する。シクロ脂肪族ジオール成分の量は全体のアルコール成分に対して10〜50モル%、好ましくは、20〜40モル%である。前記シクロ脂肪族ジオール成分の量が10モル%未満であれば、ポリエステル樹脂及びトナーは不要な多量の水分を含有してトナーの粘弾性が不良になり、トナーの高温オフセット特性が得られなくなる。その一方、前記シクロ脂肪族ジオール成分の量が50モル%を超えると、ポリエステル樹脂の製造に長時間かかり、所望の物性のポリエステル樹脂が得難い。
【0016】
本発明に係るポリエステル樹脂を構成するアルコール成分は3価以上の多価アルコールをさらに含む。前記3価以上の多価アルコールの例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、スクローズ、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチオールエタン、トリメチオールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。これらの3価以上の多価アルコールは単独にてまたは混合して使用可能である。これらの3価以上の多価アルコールは樹脂のTgを上昇させて樹脂の凝集性を向上させる結果、トナーが改善された貯蔵安定性を有する。前記3価以上の多価アルコールの量は全体のアルコール成分に対して2〜20モル%、好ましくは、5〜15モル%である。前記3価以上の多価アルコールの量が2モル%未満であれば、樹脂の分子量の分布が狭くなってトナーの定着温度範囲が狭くなる。前記3価以上の多価アルコールの量が20モル%を超えると、ポリエステル樹脂の製造中にポリエステル樹脂のゲル化制御が困難になるため所望の特性を有する樹脂が得難い。
【0017】
また、本発明に係るポリエステル樹脂を構成するアルコール成分は、脂肪族ジオール成分をさらに含む。前記脂肪族ジオール成分は、線状または枝状の構造を有する。脂肪族ジオール成分の例としては、1,2−プロパンジオール(1,2−プロピレングリコール)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。前記脂肪族ジオール成分の量は全体のアルコール成分に対して30〜88モル%であることが好ましい。
【0018】
本発明において、前記アルコール成分は、環境の点で好ましくない芳香族ジオールを含んでいない。前記好ましくない芳香族ジオールの例としては、ビスフェノールA誘導体、具体的には、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0019】
本発明に係るポリエステル樹脂は、添加剤として熱安定剤、具体的に、重合安定剤を含む。前記熱安定剤の例としては、一般的に、リン酸、トリメチルホスファート、トリエチルホスファート及びこれらの混合物などが挙げられ、本発明において従来の各種の熱安定剤が使用可能である。前記熱安定剤の好適な量は、全体の樹脂重量に対して5〜1000ppm、さらに好ましくは、10〜300ppmである。前記熱安定剤の量が5ppm未満であれば、トナー製造のために押出混練時にポリエステル樹脂が架橋し過ぎてしまい、しかも、ポリエステル樹脂のゲル化部分が分解されて、トナーの耐オフセット性が不良になる。その一方、前記熱安定剤の量が1000ppmを超えると、所望の高重合度に達することが困難である。
【0020】
本発明に係るポリエステル樹脂は、エステル化反応またはエステル交換反応、及び重縮合反応といった通常の2段階を経て製造される。本発明のポリエステル樹脂を製造するためには、まず、前記酸成分、アルコール成分及び熱安定剤を反応器に充填させて加熱してエステル化反応またはエステル交換反応を行った後、重縮合反応を行う。好ましくは、エステル(または、エステル交換)反応及び/または重縮合反応は熱安定剤の存在下で行ってもよい。ここで、全体の酸成分(A)に対する全体のアルコール成分(G)のモル比は1.1〜1.8であることが好ましい。前記モル比(G/A)が1.1未満である場合、重合反応時に未反応酸成分が残留して樹脂の透明性が低下する。前記モル比(G/A)が1.8を超える場合、重合反応速度が遅過ぎて樹脂の生産性が低下する恐れがある。
【0021】
前記エステル化反応またはエステル交換反応は、通常のチタン系の触媒、例えば、テトラエチルチタナート、アセチルトリプロピルチタナート、テトラプロピルチタナート、テトラブチルチタナート、ポリブチルチタナート、エチルアセトアセチックエステルチタナート、イソステアリルチタナート、チタンジオキシド、TiO/SiO共沈殿剤、TiO/ZrO共沈殿剤などの触媒の存在下で行ってもよい。ここで、重金属系の触媒(例えば、アンチモン系、錫系の触媒)は環境の点から使用しないことが好ましい。前記エステル化反応またはエステル交換反応は、例えば、窒素気流下、230〜260℃の反応温度において、反応物から生成される水またはアルコールを通常の方法により除去しながら行ってもよい。
【0022】
前記エステル化反応またはエステル交換反応後、エステル化反応またはエステル交換反応の反応物に対する重縮合反応を行う。前記重縮合反応もまた、通常の条件下で行うことができる。例えば、240〜260℃の温度、好ましくは、250℃未満の温度において、(a)第1(初期)重縮合反応を高真空下および高速撹拌条件下で行い、(b)次いで、窒素を反応器に充填して反応圧力を常圧に調節した後、高速撹拌条件下でさらに反応を行い、(c)最後に常圧に維持しながら、低速撹拌状態で反応をさらに行うことによりポリエステル樹脂を製造することができる。前記重縮合反応中にグリコールなどの副産物は蒸留により除去される。前記初期重縮合反応において、高真空条件は100mmHg以下、好ましくは、30mmHg以下である。このような高真空条件に起因して重縮合反応システムから低沸点を有する副産物を有効に除去することができる。
【0023】
本発明に係るポリエステル樹脂のTgは58℃以上であることが好ましい。Tgが58℃未満であれば、製造されたトナーの粉砕性及び貯蔵安定性が低下する恐れがある。前記ポリエステル樹脂の好ましい軟化温度は150〜210℃であり、160〜180℃であることがさらに好ましい。もし、前記軟化温度が150℃未満であれば、Tgが低くなる結果、トナーの貯蔵安定性が低下するため、貯蔵中にトナー粒子が凝集する恐れがあり、高温下でオフセットが発生する恐れがある。前記軟化温度が210℃を超えると、トナーの低温定着性が低下してオフセットが発生する恐れがある。また、前記ポリエステル樹脂の酸価は30KOHmg/g以下であることが好ましく、1〜30KOHmg/gであることがさらに好ましく、1〜20KOHmg/gであることが最も好ましい。酸価が30KOHmg/gを超えると、樹脂の貯蔵及び/または運搬時、およびプリンターの現像機内におけるポリエステル樹脂の貯蔵安定性が不良になる恐れがある。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂はトナー用のバインダー樹脂の主成分として使用可能である。必要に応じて、本発明のポリエステル樹脂は、スチレン系の樹脂またはスチレン−アクリル系の樹脂などの他の従来の樹脂と共に用いてもよい。トナーにおけるバインダー樹脂の量は、好ましくは、30〜95重量%、より好ましくは、35〜90重量%である。バインダー樹脂の量が30重量%未満であれば、トナーの耐オフセット性が低下することがあり、その一方、バインダー樹脂の量が95重量%を超えるとトナーの帯電安定性が低下する恐れがある。本発明のポリエステル樹脂は、トナー用の着色剤と併用してもよい。着色剤または顔料の例としては、カーボンブラック、ニグロシン染料、ランプブラック、スダンブラックSM、ネーブルイエロー、ミネラルファストイエロー、リソールレッド、パーマネントオレンジ4Rなどである。また、本発明のポリエステル樹脂は、ワックス、荷電制御剤、磁性体(例えば、磁性粉末)などの通常の添加剤と併用可能である。前記ワックスの例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−ポリプロピレン共重合体ワックスなどがある。前記荷電制御剤の例としては、ニグロシン、アルキル含有アジン系の染料、塩基性染料、モノアゾ染料及びこの金属錯体、サリチル酸及びこの金属錯体、アルキルサリチル酸及びこの金属錯体、ナフト酸及びこの金属錯体などがある。前記磁性粉末の例としてはフェライト、マグネタイトなどがある。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂を含むトナーは、通常の方法により製造可能である。例えば、先ず、バインダー樹脂の軟化温度よりも15〜30℃高い温度においてポリエステル樹脂(バインダー樹脂)、着色剤及びその他の添加剤を、一軸押出機または二軸押出機またはミキサーなどの混練機を用いて混合及び混練し、混練された混合物を粉砕して粒状のトナーを製造することができる。トナー粒子の平均粒径は、通常、5〜20μmであり、好ましくは、7〜9μmである。なお、粒径5μm未満のトナー微粒子の量がトナー全体の3重量%未満であることが好ましい。
【実施例】
【0026】
下記の実施例及び比較例は本発明を一層具体的に説明するためのものであり、本発明がこれらの例により限定されるものではない。下記の実施例及び比較例において、物理的な特性は下記のようにして評価された。
【0027】
(1)Tg(ガラス転移温度、℃):ガラス転移温度は示差走査熱量計(differential scanning calorimeter、製造元:TAインスツルメンツ)を用いて、溶融された試料を急冷させた後に試料の温度を10℃/分にて昇温させて測定した。Tgは吸熱曲線及びベースラインの各接線の中央値から決定した。
【0028】
(2)酸価(KOHmg/g):樹脂をジクロロメタンに溶解させた後に冷却させ、0.1NのKOHメタノール溶液により滴定した。
【0029】
(3)軟化温度(℃):軟化温度は流動試験機(CFT−500D、製造元:株式会社島津製作所)を用いて決定し、1.0Φ×10mm(高さ)ノズル、10kgf荷重及び6℃/分の温度上昇率の条件下で、1.5g試料の半分が流れ出る瞬間の温度を軟化温度(℃)とした。
【0030】
(4)S/Mとtanδ:フィジカ(Physica)社(米国)のフィジカレーオメーター(Physica Rheometer)を用いて、貯蔵弾性率(S/M)、損失弾性率(L/M)及び損失正接(tanδ、Tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率)を測定した。測定中、せん断率(1/s)=1及び変形率5%において、25mm平行プレート状機構を用いてせん断力を加え、200℃から50℃まで−5℃/分の速度にて樹脂及びトナーを冷却した。表1及び表2には低温領域(130℃)及び高温領域(175℃)において測定した樹脂とトナーのS/M及びtanδを示し、これらの単位はPaである。
【0031】
(5)粉砕性:トナー製造に際して溶融押出されたトナーフレークをホソカワミクロン株式会社製のジェットミル粉砕機(100AFG,50ATP,50ZPS)で粉砕、分級した。時間当たりに生産されるトナーの量を下記のようにして評価した。
◎:0.4kg/hr超
○:0.2〜0.4kg/hr
×:0〜0.2kg/hr
【0032】
(6)貯蔵安定性:トナー100gをガラス瓶に入れた後にガラス瓶を密閉した。50℃において48時間経過後、トナーの凝集を目視にて観察した。凝集の度合いは下記のようにして評価した。
◎:凝集が全く見られず、貯蔵安定性が良好である。
○:わずかな凝集が見られるが、貯蔵安定性が良好である。
×:激しい凝集が見られ、貯蔵安定性が不良である。
【0033】
(7)最小の定着温度及びオフセット温度:製造されたトナーを白紙の上にコーティングした後、その紙をシリコンオイル塗布のヒートローラーに200mm/秒の速度にて通させた。90%を超えるトナーが定着される最小温度を最低の定着温度として定義した。90%を超えるトナーが定着される最大温度をオフセット温度として定義した。ヒートローラーの温度を50℃から230℃まで調節して最小定着温度とオフセット温度を測定した。最小定着温度とオフセット温度との間の温度領域を定着温度領域として定義した。
【0034】
(8)トナーの画像濃度
テフロン塗布のヒートローラー及び温度制御機付きの、印刷速度が40枚/分の黒白プリンターを用いて、OHPフィルムまたは紙の上に5000画像を印刷した。そのとき、100枚、2000枚、5000枚目の画像の流れと画像濃度(ソリッド面積画像)をマクベス反射濃度計のRD918で測定し、下記の基準に準拠して評価した。
◎:画像濃度が1.4以上である。
○:画像濃度が1.2以上である。
×:画像濃度が1.2未満である。
なお、実施例及び比較例における略字は下記の通りである。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
DMCD:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシラートまたは1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
TMA:トリメリット酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PG:1,2−プロピレングリコール
BPA−EO:ポリオキシエチレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
BPA−PO:ポリオキシプロピレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
TMP:トリメチオールプロパン
GLY:グリセロール
触媒:チタンジオキシドとシリコンジオキシドとの共沈殿剤
安定剤:トリメチルホスファート
【0035】
[実施例1−5及び比較例1−14]
A.ポリエステル樹脂の製造
撹拌機と流出コンデンサーを取り付けた2Lの反応器に、下記表1に示す成分及び含量の反応物を充填し、ここで、全体の酸成分(A)に対する全体のアルコール成分(G)の比(G/A)が1.2〜1.5に制御され、触媒としてTiO/SiO共沈殿剤を酸成分に対して200ppmの量だけ加えた。窒素気流下において反応器の温度を250℃まで徐々に上昇させて水(副産物)を反応器の外部に流出しながら、エステル化反応を行った。前記水の発生及び流出が終了した後、反応物を撹拌機、冷却コンデンサー及び真空システムが取り付けられた重縮合反応器に搬送した。そして、熱安定剤(トリメチルホスファート)200ppmを添加した。反応温度を250℃まで上昇させ、反応圧力を30分かけて50mmHgまで減圧しながら低真空下で反応させつつ、過量のジオール成分を流出させた。次に、反応器の圧力を高真空の0.1mmHgまで徐々に減圧して、所定の撹拌トルクが現れるまで反応を行った。その後、真空を取り除き、常圧下でTMAを投入して所望の酸価を得た後に反応を終結した。製造されたポリエステル樹脂の軟化温度、Tg及び酸価を測定して表1に示した。
【0036】
B.トナーの製造
製造されたポリエステル樹脂50重量部、磁性体及び着色剤としてのマグネタイト45重量部、荷電制御剤であるアゾ染料系の金属錯体2重量部、そしてポリエチレンワックス3重量部を混合機を用いて混合し、押出機において溶融及び混練した。その後、ジェットミル粉砕機で微粉砕し、風力分級機で分級した。その後、粒子をシリカ1重量部及びチタンジオキシド0.2重量部でコーティング処理して、体積平均粒子径が8〜9μmのトナー粒子を得た。製造されたトナー粒子の粉砕性、貯蔵安定性、最小定着温度、オフセット温度及びトナー画像濃度(100枚、2000枚及び5000枚)を測定して表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
前記表1に示すように、実施例1−5(全体の酸成分に対して3価以上の多価ポリカルボン酸含量1〜10モル%及びDMCD含量3〜20モル%、全体のアルコール成分に対してCHDM含量10〜50モル%、3価以上の多価アルコール含量2〜20モル%)において、適当な反応性(重合反応時間)を有する良好な重合反応生成物が製造された。実施例1−5のポリエステル樹脂は高いTgを有し、これにより、良好な貯蔵安定性が得られる。また、実施例1−5のポリエステル樹脂は3価以上の多価ポリカルボン酸または多価アルコールによる分子量分布の増加のために良好な粉砕性を有していた。さらに、樹脂とトナーとの間の軟化温度差が10℃未満である。トナー製造時の軟化温度の減少があまり見られないことから、オフセット温度が高温域となった。特に、高温(175℃)下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)が増大し、トナーと樹脂との間の損失正接(tanδ)差が−0.4未満に低くなった。前記実施例のポリエステル樹脂内に、脂肪族ジオール(CHDM)及び熱安定剤5〜1000ppmが導入されて、これが樹脂の耐加水分解性及び熱安定性を向上させる。このため、混練機において溶融混合時に強いせん断力と熱によりトナーを製造するとき、ポリエステル樹脂の分子量の減少が予防される。また、樹脂内における無機添加剤はトナーの弾性を増加させる。このような特性から、トナーのオフセット温度が高温域となった。さらに、トナーを低温(130℃)下で製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)は相対的に徐々に増大し、トナーと樹脂との間の損失正接(tanδ)差が相対的に小さくなくなり、具体的には−0.2を超えた。このため、低温下では、無機添加剤混合によるトナーの弾性増加が抑制され、これにより、トナーは好適な低温定着性を有する。これは、ポリエステル樹脂の酸成分として、硬質部であるTPA、IPA、TMAの代わりに軟質部である脂環族ジ塩基酸(DMCD)を導入することに起因する。また、親油性であるDMCD及びCHDM成分はトナーの耐湿性を向上させ、これにより、トナーは長時間使用または貯蔵においても良好な画像濃度を有していた。さらに、軟化温度が150〜210℃、Tgが58℃超及び酸価が2〜30KOHmg/gの樹脂を用いてトナーを製造する場合、トナーは良好な貯蔵安定性、好適な定着温度領域及び画像濃度を有する。
【0040】
一般的に、トナーは低温下で良好な定着特性を有するために低温下で高い粘性と低い弾性を有することが求められる。そして、トナーは高温下で良好なオフセット特性を有するように、高温下で低い粘性と高い弾性を有することが求められる。樹脂からトナーを製造すると、損失弾性率(L/M)は低温及び高温下で一概に上昇する。しかしながら、貯蔵弾性率(S/M)は樹脂の特性に応じて、低温及び高温における変化の度合いが異なってくる。本発明のポリエステル樹脂は、CHDM及びDMCDを含む。このため、低温下ではトナーの貯蔵弾性率(S/M)の増加、すなわち、tanδの減少が小さいことから好適な低温定着性が得られる。これに対し、高温下ではトナーの貯蔵弾性率(S/M)の増加、すなわち、tanδ減少が大きいことから好適な高温オフセット特性が得られる。
【0041】
比較例1及び2に示すように、芳香族ジオール(ビスフェノールA誘導体)を使用することにより、良好な粉砕性、貯蔵安定性及び画像濃度が得られた。比較例3に示すように、親油性を有するDMCD、CHDM及びビスフェノールAまたはその誘導体を導入することなく、線状脂肪族ジオール(EG、NPG、TMP)だけを使用した場合にトナーの良好な粉砕性が得られたが、樹脂は相対的に多量のエステル基を含むことから、トナーは高温/高湿条件下で多量の水分を吸収し、長期使用時に良好な画像濃度を維持することが困難である。比較例1〜3のトナーにおいて、樹脂とトナーとの間の軟化温度差は10℃超である。すなわち、トナー製造に際し、軟化温度は減少し、これにより、オフセット温度が高温域で形成できなかった。特に、比較例2及び3に示すように、熱安定剤が使用されないことにより、トナー製造に際して熱分解により軟化温度の低下が一層激しく発生していた。また、175℃の高温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)が減少し、且つ、トナー及び樹脂の損失正接(tanδ)差が−0.5を超えた。このため、混練機における溶融混合に際し、強いせん断力と熱によりトナーを製造するとき、ポリエステル樹脂の分子量が減少し、トナーのオフセット温度が低くなった。さらに、130℃の低温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)がかなり増加し、樹脂及びトナーの損失正接(tanδ)差が−0.2未満と低くなった。このため、低温下で、樹脂と無機添加剤との混合によりトナーの弾性が一層増加し、これは、結果的に低温定着特性の低下を招く。
【0042】
比較例4〜6に示すように、CHDMが導入され、且つ、DMCDが導入されない場合、トナーは良好な貯蔵安定性及び画像濃度を有する。樹脂とトナーとの間の軟化温度差が10℃未満であった。トナー製造に際し、軟化温度の減少が小さいため、オフセット温度が高温域で形成された。特に、175℃の高温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)が増加し、樹脂とトナーとの間の損失正接(tanδ)差が−0.5未満と低くなった。しかしながら、130℃の低温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)が一層増加し、樹脂及びトナーの損失正接(tanδ)差が−0.2未満と低くなった。これにより、低温下で、樹脂と無機添加剤との混合によりトナーの弾性がかなり増加し、これは低温定着特性の低下を招く。
【0043】
比較例7〜9に示すように、DMCDが含まれているものの、CHDMが含まれていない場合に、使用初期には良好な画像濃度が得られた。しかしながら、樹脂は低いTgを有し、粉砕性、貯蔵安定性及び長期使用時の画像濃度が不良であった。また、樹脂とトナーとの間の軟化温度差が4〜5℃であった。トナー製造時の軟化温度の減少により、オフセット温度が高温域で形成できなかった。特に、175℃の高温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)の増加が十分ではなく、そして、樹脂及びトナーの損失正接(tanδ)差が−0.5を超えた。このため、高温オフセット特性は好ましくない。しかしながら、130℃の低温下でトナーを製造するとき、樹脂に対するトナーの貯蔵弾性率(S/M)が相対的に小さめに増加し、樹脂及びトナーの損失正接(tanδ)差が−0.2を超えて低くなった。これにより、低温下で、樹脂と無機添加剤との混合によりトナーの弾性増加が低くなり、これは低温定着特性を改善させる。
【0044】
比較例10に示すように、多価アルコールの量が少な過ぎると、トナーは不良な粉砕性を有し、トナーは正常に製造できなくなる。比較例11に示すように、3価以上の多価アルコールの量が20モル%を超えると、樹脂がゲル化され、しかも、樹脂が適切に粉砕されないため、トナーが正常に製造できなかった。比較例12〜13に示すように、熱安定剤の量が多過ぎたり、CHDMの量が多過ぎると、重合反応時間が長びいて所望の重合度を有する樹脂が得られず、これにより、オフセットによる良好な画像濃度及び定着温度領域が得られなかった。比較例14に示すように、DMCDの量が多過ぎると、樹脂のTgが低下し、トナーの粉砕性及び貯蔵安定性が低下した。また、高酸価のために、画像濃度もまた低下した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のトナーは安価に製造可能であり、良好な貯蔵安定性、広範な定着温度領域及び良好な画像濃度を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族二塩基酸成分70〜96モル%、シクロ脂肪族二塩基酸成分3〜20モル%及び3価以上の多価酸成分1〜10モル%を含む酸成分と、
シクロ脂肪族ジオール成分10〜50モル%、3価以上の多価アルコール成分2〜20モル%及び脂肪族ジオール成分30〜88モル%を含むアルコール成分と、
熱安定剤と、を含むポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記熱安定剤の量は、ポリエステル樹脂全体に対して重量比として5〜1000ppmである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記酸成分は、酸成分全体に対して0.1〜10モル%の脂肪族二塩基酸成分をさらに含むものである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記熱安定剤は、リン酸、トリメチルホスファート、トリエチルホスファート及びこれらの混合物よりなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂の軟化温度は150〜210℃であり、前記ポリエステル樹脂の酸価は1〜30KOHmg/gであり、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が58℃超である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項7】
(a)芳香族二塩基酸成分70〜96モル%、シクロ脂肪族二塩基酸成分3〜20モル%及び3価以上の多価酸成分1〜10モル%を含む酸成分と、シクロ脂肪族ジオール成分10〜50モル%、3価以上の多価アルコール成分2〜20モル%及び脂肪族ジオール成分30〜88モル%を含むアルコール成分とをチタン系の触媒存在下でエステル化反応またはエステル交換反応を行うステップと、
(b)前記エステル化反応またはエステル交換反応の反応物に対して重縮合反応を行うステップと、を含み、
前記エステル化反応、エステル交換反応及び/または前記重縮合反応を熱安定剤の存在下で行う、ポリエステル樹脂の製造方法。


【公表番号】特表2011−504199(P2011−504199A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534865(P2010−534865)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004067
【国際公開番号】WO2009/066849
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】