説明

ポリエステル樹脂及びそれを用いてなる繊維

【課題】 重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いなくても重合することができ、かつ、色調が良好で優れた発色性を有するポリエステル繊維を得ることができるポリエステル樹脂とポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】 ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、酸化チタン粒子を0.005〜1.0質量%、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層を形成させた化合物を30〜200ppm含有し、下記式(1)を満足していることを特徴とするポリエステル樹脂及びそれよりなるポリエステル繊維。
Y>32X+68 (1)
ただし、X:酸化チタン粒子の含有量(質量%)
Y:樹脂の色調L値

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂及びそれを用いてなるポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)はその優れた機械的特性と化学的特性のため、 衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。
【0003】
通常、PETの重合には、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは安価で、かつ優れた触媒活性を有する触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、得られたポリエステル樹脂に黒ずみや異物が発生するという問題を有している。その結果、これを溶融紡糸して繊維とした際に、染色物の発色性が劣るという欠点があった。
【0004】
これに対し、重縮合触媒として三酸化アンチモンを用いながらも、ポリエステル樹脂の黒ずみや異物の発生を抑制する試みが行われている。例えば、重縮合触媒として三酸化アンチモンとビスマス及びセレンの化合物を用いることで、ポリエステル樹脂中の黒色異物の生成を抑制する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、重縮合触媒としてナトリウムと鉄の酸化物を含有する三酸化アンチモンを用いて、金属アンチモンの析出を抑制する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
一方、近年環境面からアンチモンの安全性に関する問題が指摘されており、アンチモンを含まない重縮合触媒並びにこれを用いたポリエステル樹脂の開発が望まれている。三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒としては、例えばテトラアルコキシチタネートがすでに提案されているが、これを用いて製造されたポリエステル樹脂は着色が著しく、熱分解を容易に起こすなどの問題がある。
【0006】
また、テトラアルキルチタネートとマグネシウム化合物とを接触させた成分を触媒として使用することが提案されている(特許文献3参照)が、この触媒においても得られるPETの着色の問題は解決するに至っていない。
【0007】
他方、三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒で、かつ、テトラアルコキシチタネートを用いたときのような問題点を克服する重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であり、重合中に反応系から外へ溜出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し、重合の制御が困難になるといった問題を有している。
【0008】
また、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物を逐次的に添加することで、それらの触媒活性を足し合わせた以上の触媒活性を持たすという手法が提案されている(特許文献4参照)が、得られるポリマーに触媒の分解物などの粗大な異物が発生したり、色調が充分には優れないという問題があった。
【0009】

【特許文献1】特許第2666502号公報
【特許文献2】特開平9−292241号公報
【特許文献3】特開2002−293906公報
【特許文献4】特開2000−302854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、特開2005−113056号公報では、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を添加することで、色調および透明性に優れ、ポリエステル樹脂内での粗大な異物の発生を抑制することが提案されている。この手法によると、従来のような問題を大幅に改善することができるが、異物の発生を完全に抑制することには至らず、溶融したポリエステル樹脂を長時間フィルタで濾過した場合に圧が上昇したり、ポリエステル樹脂の熱安定性に問題を生ずる場合があった。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決し、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用しなくとも重合でき、かつ、色調が良好で優れた発色性を有するポリエステル繊維を得ることができるポリエステル樹脂及びそれを用いてなるポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とする。さらに、得られたポリエステル樹脂内において異物の発生がなく、再溶融にあたっても熱安定性の優れたポリエステル樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定の化合物を触媒として重合されたポリエステルにおいて、添加される酸化チタン粒子の含有量とポリエステル樹脂の色調L値との間に、特定の関係式が満たされた場合、本発明の目的とするポリエステル樹脂が得られることが明らかとなった。
【0013】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
a)ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、酸化チタン粒子を0.005〜1.0質量%、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を30〜200ppm含有し、下記式(1)を満足していることを特徴とするポリエステル樹脂。
Y>32X+68 (1)
ただし、X:酸化チタン粒子の含有量(質量%)
Y:ポリエステル樹脂の色調L値
b)a)記載のポリエステル樹脂を用いてなることを特徴とするポリエステル繊維。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を重縮合触媒に用いており、チタン酸と固溶体との複合効果により、少量の添加量で十分な重縮合活性が得られる。加えて、重縮合触媒のポリエステル樹脂に対する溶解性が良好であるため、アンチモン化合物を触媒として用いた場合と比較して、得られるポリエステル樹脂はくすみがなく、その結果、繊維化して染色した際に、優れた発色性を有するポリエステル繊維を製造することが可能になる。さらには、得られたポリエステル樹脂の熱安定性が良好であるため、再溶融を経ても優れた特性を維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂としては、ポリエステルを構成する繰り返し単位が主としてエチレンテレフタレート単位であることが必要であり、全繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。エチレンテレフタレート単位が80モル%未満になると、ポリエチレンテレフタレートに特有の良好な物性が低下しやすくなる。
【0016】
本発明のポリエステルには、全繰り返し単位の20モル%未満を限度として、テレフタル酸以外のジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、環状エステル、またはエチレングリコール以外のグリコールが共重合されていてもよい。
【0017】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、無水フタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、エイコサン二酸、トリシクロデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸などに例示される芳香族スルホン酸塩、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0018】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。
【0019】
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0020】
また、エチレングリコール以外のグリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物などのグリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加した芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明のポリエステル樹脂の性能を損なわない範囲で、以下のような多価化合物を共重合することもできる。すなわち、多価カルボン酸としては、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0022】
また、多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0023】
また、本発明のポリエステル樹脂としては、酸化チタン粒子を0.005〜1.0質量%含有することが必要である。さらに、当該含有量が0.01〜0.5質量%であることが好ましい。一般的に酸化チタン粒子はポリエステル樹脂の艶消し剤や白色顔料として使用されているが、特定量の酸化チタン粒子を含有するポリエステル樹脂については、繊維とした際、白度が高くなり、良好な色調の布帛を得ることが可能となる。ここで、酸化チタン粒子の含有量が0.005質量%より少ないと、白度を向上させる効果が得られない。一方、酸化チタン粒子の含有量が1.0質量%を超えると、ポリエステル樹脂が黄色味を帯びてくる。また、酸化チタン粒子の二次凝集が起こりやすくなり、これにより紡糸の際にパック圧の上昇やガイドの摩耗が起こりやすく、溶融紡糸時の操業性が低下する。
【0024】
本発明における酸化チタン粒子の平均粒径としては、1.0μm以下のものが好ましく、0.1〜0.6μmのものが特に好ましい。
【0025】
本発明において、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物(以下、チタン酸が被覆された固溶体と略記する。)の含有量としては、ポリエステル樹脂に対して30〜200ppmであることが必要である。さらに当該含有量が50〜150ppmであることが好ましい。なお、本発明において、ppmはすべて質量ppmである。重縮合反応時に、チタン酸が被覆された固溶体の含有量が30ppm未満であると、重合活性が不足するため、得られるポリエステル樹脂の極限粘度は低いものとなる。一方、当該含有量が200ppmを超えると、添加量が多すぎるため、b値の高い黄色味を帯びたポリエステル樹脂となる。
【0026】
本発明におけるチタン酸が被覆された固溶体としては、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の存在下で、所定のチタン化合物を5〜100℃の範囲の温度、好ましくは、15〜70℃の範囲の温度下で加水分解させ、さらに当該固溶体の表面にチタン酸として析出させることによって、当該固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層を形成させたものである。
【0027】
上記チタン化合物としては、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類が用いられる。
【0028】
また、本発明において、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体としては、それぞれが溶け合って均一な相となった固体であり、これらの結晶格子の一部は他の原子によって置き換わり、組成を変化させることができるものである。固溶体中におけるモル比率は、アルミニウム/マグネシウム=0.1〜10であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましい。
【0029】
固溶体を形成するアルミニウム化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムなどの水酸化物、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイドなどのアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、さらには、酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化物、カルボン酸塩および無機酸塩が好ましく、さらに水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムがとくに好ましい。
【0030】
また、固溶体を形成するマグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0031】
さらに、本発明のポリエステル樹脂としては、下記式(1)を満足することが必要である。
Y>32X+68 (1)
ただし、X:酸化チタン粒子の含有量(質量%)
Y:ポリエステル樹脂の色調L値
Yが式(1)を満たしていない場合、白度が不足しているため、ポリエステル繊維として染色した場合の発色性が劣るものとなる。
【0032】
ここで、ポリエステル樹脂の色調L値とは、日本電色工業社製ND−Σ80型色差計を用いて測定した値をさし、色調の判定は、ハンターのLab表色系で行った。ちなみに、L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系の色相(+は黄味、−は青味)を表す。ポリエステル樹脂の色相としては、L値が大きい程、a値が0に近い程、また極端に小さくならない限りb値が小さい程良好である。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂としては、例えば次のような方法により製造することができる。
まず、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートまたはその低重合体(以下、エチレンテレフタレートオリゴマーと略記する。)の存在するエステル化反応槽に、エチレングリコール(以下、EGと略記する。)とテレフタル酸(以下、TPAと略記する。)からなり、両者のモル比が1.1〜2.0のスラリーを添加し、滞留時間7〜8時間で反応率95%のエステル化反応物を連続的に得る。
【0034】
次に、このエステル化反応物を重合反応缶に移送し、これに酸化チタン粒子とEGとからなるスラリーを所定量添加し、さらに重縮合触媒としてチタン酸が被覆された固溶体を添加した後、重合反応缶の温度を260〜280℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行う。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂の製造において、重縮合触媒を添加する時期としては、重縮合反応の開始前が望ましいが、エステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階で反応系に添加することもできる。
【0036】
また、重縮合触媒を添加する方法としては、特に限定されるものではなく粉末状態であってもよいし、エチレングリコールなどを分散媒としたスラリー状であってもよい。
【0037】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染色性改良剤、染料、顔料のような色調改良剤、酸化セリウムのような耐光剤、制電剤、消泡剤等の添加剤がポリエステル樹脂に含有されていてもよい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、通常の溶融紡糸法にて繊維とすることができる。例えば、得られたポリエステル樹脂ペレットを常法により乾燥し、通常の溶融紡糸機台に供給してポリエステル樹脂の融点より20℃以上高い温度で溶融紡糸し、1000〜4000m/分の速度で、未延伸糸又は半未延伸糸としていったん捲き取るか、あるいは、捲き取ることなく、引き続いて1.5〜3.5倍に延伸した後、80〜180℃で熱処理を行うことで目的の繊維を得ることができる。
【0039】
なお、本発明の効果が損なわれない限り、他の樹脂との複合繊維としてもよい。
また、ポリエステル繊維の形態は長繊維としても短繊維としてもよく、必要に応じて、捲縮加工、仮撚加工、薬液による処理等の後加工を施して用いることもできる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、実施例中の特性値の測定法は、次のとおりである。
(a)極限粘度([η])
フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)を溶媒とし、温度20℃下で常法にしたがって測定した。なお、本発明におけるポリエステル樹脂の極限粘度は0.60以上を合格とした。
(b)ポリエステル樹脂中の重縮合触媒の含有量
リガク社製蛍光X線分析装置3270を用いて、各触媒における主要元素の含有量を測定した。チタン酸が被覆された固溶体については、ポリエステル樹脂中のマグネシウム元素の含有量を測定し、予め測定されている同触媒中におけるマグネシウム元素の含有量の比率から同触媒全体としての含有量を算出した。 テトラブチルチタネートと三酸化アンチモン(Sb)の場合についても、同様にしてチタン元素とアンチモン元素の実測値から、含有量を換算して求めた。これらの分析結果を表1にまとめた。
(c)ポリエステル樹脂の色調
ポリエステル樹脂のL値は日本電色工業社製ND−Σ80型色差計を用いて測定し、色調の判定は、ハンターのLab表色系で行った。なお、b値については5.0以下を合格とした。
(d)酸化チタン粒子の含有量
リガク社製蛍光X線分析装置3270を用いて、ポリエステル樹脂中におけるチタン元素の含有量を測定し、触媒由来のチタン量(触媒の含有量から算出)を減じた値について、二酸化チタンの重量に換算して求めた。これらの分析結果を表1にまとめた。
(e)熱安定性
得られたポリエステル樹脂を常法により乾燥させた後、280℃の窒素雰囲気下で再溶融させ、1時間攪拌した。処理前の極限粘度[η]と処理後の極限粘度[η]1との比[η]/[η]が0.90以上を合格とした。
(f)糸強度(cN/dtex)
常法によりポリエステル樹脂をペレット化して乾燥させた後、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸した。このとき、紡糸温度を300℃、吐出量を39.6g/分として、ノズルパック内に装着された直径100mm、目開き2000♯のフィルタで濾過し、直径0.25mm、L/D=2の孔を36個有するノズルから紡出して3300m/分の速度で部分未延伸糸を捲き取った。続いて、部分未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら1.5倍に延伸、熱処理して捲き取ることにより、83dtex/36Fのフィラメントヤーンを得た。これを50cmの長さに切断したものを、オリエンティック社製テンシロンRTC−1210型を用いて、50cm/分の速度にて引張試験を行い、そのストレス−ストレイン曲線から求めた。ここでは、3.0cN/dtex以上を合格とした。
(g)発色性(染色後L値)
(f)と同様の方法で得られたフィラメントヤーンを筒編みし、60℃で20分の精練を行った後、下記の条件により常圧沸騰状態で60分染色し、次いで80℃で20分の還元処理を行い、風乾した。次に、小型ピンテンターを用いて150℃で1分間の熱セットをした後、4枚重ねのサンプル片を作製した。
このサンプル片のL値を色彩色差計(ミノルタ社製CR−100)で測定し、発色性の評価を行った。このL値は、低いほど繊維の色が濃いことを示し、染料が繊維中に多く吸尽されていることになる。したがって、染色後L値が低いほど発色性がよいと判断した。
染色条件
染料(分散染料):住友化学社製Sumikaron Blue SE−RPD(n)
=2%omf
分散剤 :明成化学工業社製ディスパーVG =1g/L
浴比 =1:50
なお、染色後L値が40以下を合格とした。
【0041】
なお、実施例および比較例において用いた重合触媒は次の通りである。
・TiコートHT−P(堺化学社製)
アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被膜層を形成させたもの。
・HT−P(堺化学社製)
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、Al/Mgの比率が0.4である固溶体。
実施例1
エチレンテレフタレートオリゴマーの存在するエステル化反応缶にTPAとEGとのモル比が1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマーを連続的に得た。
【0042】
このエチレンテレフタレートオリゴマー50.3kgを重縮合反応缶に移送し、続けて、酸化チタン粒子(チタン工業社製KA−30)の濃度が35質量%に調製されたEGスラリー0.03kg(ポリエステルに対し0.02質量%にあたる酸化チタン粒子量)を添加した後、触媒として、TiコートHT−Pを7.2g(ポリエステル対して150ppmにあたるTiコートHT−P量)を添加し、重縮合反応缶内の温度を30分間で280℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に最終的に0.9hPaとし、280℃で2時間重縮合反応を行った後、常法により払い出してペレット化した。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
実施例2〜3、比較例1〜4
実施例1における酸化チタン粒子の添加量と重縮合触媒の添加量をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に実施した。なお、比較例3は、極限粘度が所定の値(0.60以上)まで上がらなかった。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
実施例4
実施例1と同様の方法で得られた反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー45.2kgを重縮合反応缶に移送し、イソフタル酸(IPA)の濃度が45質量%に調製されたEGスラリー9.2kg(ポリエステルの全酸成分1モルに対し10モル%にあたるIPA量)を添加した後、2時間攪拌しながら保持した。
【0043】
次に、酸化チタン粒子の濃度が35質量%に調製されたEGスラリー0.6kg(ポリエステルに対し0.40質量%にあたる酸化チタン粒子量)を添加した後、触媒として、実施例1記載のTiコートHT−Pを7.2g(ポリエステルに対し150ppmにあたるTiコートHT−P量)を添加し、重縮合反応缶内の温度を30分間で280℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら、所定の極限粘度(0.60以上)となるまで重縮合反応を行い、常法により払い出してペレット化した。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
実施例5
実施例1と同様の方法で得られた反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー49.7kgを重縮合反応缶に移送し、続いて、酸化チタン粒子の濃度が35質量%に調製されたEGスラリー0.6kg(ポリエステルに対し0.40質量%にあたる酸化チタン粒子量)を添加した後、触媒として、実施例1記載のTiコートHT−Pを7.2g(ポリエステルに対し150ppmにあたるTiコートHT−P量)を添加した。
【0044】
次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸のEGエステル(SIP)の濃度が30質量%に調製されたEG溶液3.0kg(全酸成分1モルに対し1.0モル%にあたるSIP量)を添加した後、重縮合反応缶内の温度を30分間で270℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら、所定の極限粘度(0.60以上)となるまで重縮合反応を行い、常法により払い出してペレット化した。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
比較例5
実施例1におけるTiコートHT−Pに代えて、重縮合触媒としてHT−Pを12.0g(ポリエステル対して250ppmにあたるHT−P量)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
比較例6
実施例1におけるチタン粒子の濃度が35質量%に調整されたEGスラリーの添加量を、0.55kg(ポリエステルに対し0.40質量%にあたる酸化チタン粒子量)に変更し、重縮合触媒としてテトラブトキシチタネート6.3g(ポリエステル対して120ppmにあたるテトラブトキシチタネート量)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。
比較例7
実施例6における重縮合触媒について、三酸化アンチモンを14.4g(ポリエステルに対して250ppmにあたる三酸化アンチモン量)添加すると変更した以外は、実施例6と同様に実施した。
【0045】
得られたポリエステル樹脂の組成及び特性値を表1に示す。 表1から明らかなように、実施例1〜5では、色調が良好で、繊維化するのに適した極限粘度を有するポリエステル樹脂が得られた。これらのポリエステル樹脂を溶融紡糸した結果、糸強度が十分であり、かつ、染色後の発色性も良好である繊維を得ることができた。
【0046】
一方、比較例1〜7では、次のような問題があった。すなわち、比較例1は、酸化チタン粒子の含有量が少なすぎたため、ポリエステル樹脂の色調L値が低く、式(1)を満たさないものであった。その結果、繊維として染色した際に発色性が劣るものとなった。
比較例2は、酸化チタン粒子の含有量が多すぎたため、ポリエステル樹脂の色調b値が高くなった。また、酸化チタン粒子含有量の割には樹脂の色調L値が低く、式(1)を満たさないものであった。その結果、繊維として染色した際に発色性が劣るものとなった。
【0047】
比較例3は、チタン化合物が被覆されたマグネシウム化合物の含有量が少なすぎたため、重縮合反応が進み難く、ポリエステル樹脂の極限粘度は所定値(0.60以上)まで上昇しなかった。その結果、得られたポリエステル繊維は糸強度が劣っており、実用に価しないものであった。
比較例4は、チタン化合物が被覆されたマグネシウム化合物の含有量が多すぎたため、得られたポリエステル樹脂の色調が悪く、また、熱安定性も低かった。
【0048】
比較例5は、重縮合触媒として、HT−Pを用いたため、ポリエステル樹脂の熱安定性が低くなった。
比較例6は、重縮合触媒として、テトラブチルチタネートを用いたため、ポリエステル樹脂の熱安定性が悪く、また、酸化チタン粒子含有量の割にはポリエステル樹脂の色調L値が低く、式(1)を満たさないものであった。また、b値も高いものとなった。
【0049】
比較例7は、重縮合触媒として三酸化アンチモンを用いたので、酸化チタン粒子含有量の割にはポリエステル樹脂の色調L値が低く、式(1)を満たさないものであった。その結果、繊維として染色した際に発色性が劣るものとなった。
【0050】
【表1】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、酸化チタン粒子を0.005〜1.0質量%、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を30〜200ppm含有し、下記式(1)を満足していることを特徴とするポリエステル樹脂。
Y>32X+68 (1)
ただし X:酸化チタン粒子の含有量(質量%)
Y:ポリエステル樹脂の色調L値
【請求項2】
請求項1記載のポリエステル樹脂を用いてなることを特徴とするポリエステル繊維。





【公開番号】特開2007−246814(P2007−246814A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74600(P2006−74600)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】