説明

ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体及び該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を用いて製造されるトナー

【課題】有機溶剤を実質的に含まず、耐熱保存安定性に優れたポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を提供すること。
【解決手段】ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体であって、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が100℃以下の有機溶剤の含有量が100μg/g以下であ
り、ポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、分子量3,500以上15,000以下の範囲にメインピークのピークトップが存在し、重量平均分子量が5,000以上50,000以下であり、分子量500以上2,000未満の成分を全成分量の0.1%以上20.0%以下含有し、ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上1.00μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真用トナー、インキ等の印刷材料、塗料、接着剤、粘着剤、繊維加工、製紙・紙加工、土木用等の分野に用いられるポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と、このポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を用いて製造される電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用トナーの結着樹脂として、ポリエステル樹脂は、溶融粘度特性と硬度から定着性に有利に働くことが知られており、カラートナーの結着樹脂として汎用的に用いられている。さらに、ケミカルトナー化へのシフトに伴い、乳化凝集法を用いたトナーへのポリエステル樹脂の適応が望まれている。乳化凝集法を用いた電子写真用トナーは、樹脂や顔料、ワックス等のトナー機能物質を別々に微粒子化し、それらを均一に再合一させることにより製造される。一方、電子写真用トナーの体積平均粒径は、通常3〜10μmである。したがって、上記乳化凝集法においてポリエステル樹脂を用いる場合には、体積平均粒径が1μm以下であるポリエステル樹脂微粒子の水系分散体が必要である。
【0003】
多塩基酸成分と多価アルコール成分とから構成される高分子量のポリエステル樹脂は、被膜形成用樹脂として、被膜の加工性、有機溶剤に対する耐性(耐溶剤性)、耐候性、各種基材への密着性等に優れることから、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等の分野におけるバインダー成分として大量に使用されている。
特に近年、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善の立場から有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、上記の用途に使用できるポリエステル樹脂系バインダーとして、ポリエステル樹脂を水系媒体に微分散させたポリエステル樹脂の水系分散体の開発が盛んに行われている。
その一例として、比較的低酸価で高分子量のポリエステル樹脂を塩基性化合物で中和させることにより、水性媒体中に分散させたポリエステル樹脂の水系分散体が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
これらは、いずれも、有機溶剤の使用量を減少させたとはいえ、有機溶剤の量が、ポリエステル樹脂の水系分散体に対して0.5質量%以上使用して製造されている。従来、ポリエステル樹脂の水系分散体は、有機溶剤を使用して製造されてきた。ポリエステル樹脂の水系分散体を得る方法のなかでも、有機溶剤を使用する方法としては、以下の方法が知られている。(1)水分散性のポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、攪拌下、水を添加することによって、ポリエステル樹脂の水系分散体を得る方法。(2)有機溶剤と水との混合物に、水分散性のポリエステル樹脂を分散する方法(例えば、特許文献4参照)。
有機溶剤を使用し、一旦、有機溶剤を含有するポリエステル樹脂の水系分散体を製造したのちに、該水系分散体より、常圧ないしは減圧下に、この有機溶剤を溜去せしめることによって、溶剤量を減少させた形の、ポリエステル樹脂の水系分散体を製造するという方法もまた知られている(例えば、特許文献5参照)。
しかし、これらは有機溶剤を、完全にポリエステル樹脂の水系分散体から取り除くことは難しく、できたとしても、工程、設備等が煩雑になり、実用的ではない。
【0004】
また、有機溶剤を使用せずにポリエステル樹脂の水系分散体を製造するという方法も知られている(例えば、特許文献6〜11参照)。
しかし、これらの方法では、例えば、以下に示す問題等が生じ易い。(1)樹脂がスルホン基を含む特定のポリエステルに限定される(例えば、特許文献6、7、8参照)。(2)高温で強い剪断力をかけるため(例えば、特許文献9、10参照)、ポリエステル樹脂が加水分解を起こし、得られたポリエステル樹脂の分子量分布は、分子量2,000以下の低分子側が増加する。
一方、上記加水分解を起こさないために塩基性物質の存在下で水系分散体を製造する方法(例えば、特許文献11参照)が知られているが、樹脂が比較的溶融温度が低い結晶性ポリエステルに限定されている。
【特許文献1】特開平9−296100号公報
【特許文献2】特開2000−26709号公報
【特許文献3】特開2000−313793号公報
【特許文献4】特公昭61−58092号公報
【特許文献5】特公昭64−10547号公報
【特許文献6】特開平8−245769号公報
【特許文献7】特開2001−305796号公報
【特許文献8】特開2002−82485号公報
【特許文献9】特開2000−191892号公報
【特許文献10】特開2004−189765号公報
【特許文献11】特開2004−287149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述のごとき従来技術の問題点を解決した有機溶剤を実質的に含まず、耐熱保存安定性に優れたポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を提供することにある。
本発明の目的は、有機溶剤を実質的に含まず、トナーとしたときに定着オフセット性、耐熱保存安定性を満たすための特定の分子量分布及び特定の粒子径を有するポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を提供することにある。
本発明の目的は、有機溶剤を実質的に含まないポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を用い、乳化凝集法で製造されたトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機溶剤を実質的に含まず、特定の分子量分布と、特定の粒子径を有するポリエステル樹脂微粒子の水系分散体が、上記課題を達成できることを見出し、本発明に達成した。
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体であって、前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が100℃以下の有機溶剤の含有量が100μg/g以下であり

前記ポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、分子量3,500以上15,000以下の範囲にメインピークのピークトップが存在し、重量平均分子量が5,000以上50,000以下であり、分子量500以上2,000未満の成分を全成分量の0.1%以上20.0%以下含有し、前記ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上1.00μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
(2)前記ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上0.40μm以下であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
(3)前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が200℃以下の有機溶剤の含有量が、100μg/g以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポ
リエステル樹脂微粒子の水系分散体。
(4)前記ポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、分子量500以上2,000未満の成分が全成分量の0.1%以上15.0%以下であることを
特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
(5)ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と着色剤とを少なくとも混合し、前記ポリエステル樹脂微粒子及び着色剤を水系媒体中で凝集させ凝集体を形成する凝集工程と、前記凝集体を加熱し融合する工程とを含む製造方法によって得られるトナーであって、前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体が、(1)乃至(4)のいずれか一に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体であることを特徴とするトナー。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、有機溶剤を実質的に含まず、耐熱保存安定性に優れたポリエステル樹脂微粒子の水系分散体の提供が可能となる。また、本発明により、有機溶剤を実質的に含まず、トナーとしたときに定着オフセット性、耐熱保存安定性を満たすための特定の分子量分布及び特定の粒子径を有するポリエステル樹脂微粒子の水系分散体の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体は、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が100℃以下の有機溶剤の含有量が100μg/g以下であり、ポリ
エステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、分子量3,500以上15,000以下の範囲にメインピークのピークトップが存在し、重量平均分子量が5,000以上50,000以下であり、分子量500以上2,000未満の成分を全成分量の0.1%以上20.0%以下含有し、ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上1.00μm以下であることを特徴とする。
上述のごとく、本発明のポリエステル樹脂微粒子は、そのTHF可溶分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量3,500以上15,000以下の範囲にメインピークのピークトップが存在する。上記メインピークのピークトップが分子量3,500未満に存在する場合、樹脂微粒子の熱安定性に乏しい。また、水系分散体としても、40℃以上で、凝集分離を起こしやすい。さらに、該ポリエステル樹脂微粒子等を凝集合一させトナーとした場合の熱安定性も悪くなりやすい。
一方、上記メインピークのピークトップが分子量15,000を越える場合では、該ポリエステル樹脂微粒子をトナーとした場合の低温定着性が得られにくい。
同様に、ポリエステル樹脂微粒子の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上50,000以下である(好ましくは、5,000以上30,000以下である)。重量平均分子量(Mw)が5,000未満の場合には、ポリエステル樹脂微粒子の熱安定性が乏しくなりやすい。一方、重量平均分子量(Mw)が50,000を越える場合には、ポリエステル樹脂に十分な酸価を付与させにくく、トナーとした場合の低温定着性が得られにくい。
更に、ポリエステル樹脂微粒子は分子量500以上2,000未満の成分を全成分量の0.1%以上20.0%以下(好ましくは、全成分量の0.1%以上15.0%以下)含有する。
上記分子量500以上2,000未満の成分が20.0%を越えて多くなると、トナーとした場合の粉体特性、特に熱安定性が悪くなりやすい。
上記メインピークのピークトップが存在する分子量、重量平均分子量(Mw)、分子量500以上2,000未満の成分をそれぞれ上記範囲に調整するためには、ポリエステル樹脂の組成を選択するとともに、水系中で微粒化する際に加水分解や分子鎖の切断が起こらない方法を選択するとよい。
【0009】
本発明において、水系分散体中のポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径
は、0.02μm以上1.00μm以下(好ましくは、0.02μm以上0.40μm以下)である。
上記体積分布基準の50%粒径が、1.00μmを越える場合には、樹脂微粒子の保存安定に欠け、沈降分離を起こしやすい。また、該ポリエステル樹脂微粒子を用い、乳化凝集法によりトナーを製造する場合には、トナー粒径が、3〜7μmであるので、1.00μm以上の粒子が存在することは、そのトナー組成の均一性を保つ上で難しい。したがって、トナーの製造を考慮した場合、上記体積分布基準の50%粒径は、0.40μm以下であることが好ましい。上記ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径を上記範囲に調整するためには、ポリエステルの溶融温度以上に加熱した状態で高圧衝撃力や高速剪断力により、微粒化するとよい。
【0010】
本発明においては、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が100℃以下の有機溶剤の含有量が、100μg/g以下(好ましくは、沸点が200℃以下の有機溶剤の含有量が、100μg/g以下)である。上記の範囲外の場合、乳化凝集法によってトナーを製造する際、有機溶剤を除去、回収する工程が新たに必要になり、廃水処理対策に負荷がかかる。また、塩化ナトリウムを凝集剤として、凝集を行う場合、凝集体の粒度分布がブロードになる傾向にある。
【0011】
上記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を製造する方法を以下に説明するが、これらに限定されない。
上記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体は、ポリエステル樹脂をジェットミルや機械式粉砕機等で乾式粉砕(予備粉砕)し、水系媒体と混合後、高圧衝撃式分散機等による微粒化をすることによって得られる。この際、加水分解を防止用の適度な濃度の塩基性物質、界面活性剤等を添加することが好ましい。
【0012】
上記ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分から成る。多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の飽和又は不飽和の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸及びその無水物等の脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0013】
また、上記多塩基酸として、3官能以上の多塩基酸を用いることができる。そのような、3官能以上の多塩基酸としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が含まれていてもよい。上記3官能以上の多塩基酸は、樹脂被膜の加工性を良好に保つ点から、多塩基酸成分中10モル%以下とすることが好ましく、8モル%以下がより好ましく、5モル%以下が特に好ましい。
【0014】
上記ポリエステル樹脂の多価アルコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール等を挙げることができる。脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等が挙
げられる。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、更には、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのようにビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドをそれぞれ1〜数モル付加して得られるグリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。また、3官能以上の多価アルコールとして、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が含まれていてもよい。
【0015】
また、ポリエステル樹脂には、必要に応じて、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸やそのエステル形成性誘導体、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等のモノカルボン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等のモノアルコール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やそのエステル形成性誘導体が共重合されていてもよい。
【0016】
上記ポリエステル樹脂の酸価は、特に限定されないが、3〜35mgKOH/gが好ましく、8〜25mgKOH/gがより好ましい。酸価が35mgKOH/gを超える場合は、低湿環境下でのチャージアップが顕著になる傾向にある、一方、酸価が3mgKOH/g未満では、帯電性が低くなり、トナー用途には不向きである。
また、上記ポリエステル樹脂には、水酸基が導入されていてもよい。
さらに、上記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとする)としては、特に限定されるものではないが、好ましくは50〜75℃、より好ましくは52〜70℃である。
【0017】
本発明において、ポリエステル樹脂は上記の多塩基酸成分の1種類以上と多価アルコール成分の1種類以上とを重縮合させることや、重縮合後に多塩基酸成分で解重合すること、また、重縮合後に酸無水物を付加させること等、公知の方法によって製造することができる。また、水酸基も同様の方法により導入することができる。
【0018】
本発明のトナーは、上記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と着色剤とを少なくとも混合し、上記ポリエステル樹脂微粒子及び着色剤を水系媒体中で所望のトナー粒子径にまで凝集させ凝集体を形成する凝集工程と、該凝集体を加熱し融合する工程とを含む製造方法によって得られることを特徴とする。
【0019】
上記製造方法は、特に限定されないが、以下の方法が好適に例示できる。
(凝集工程)
凝集工程では、上記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と着色剤、その他離型剤等のトナー成分を混合し、混合液を調製する。ついで、該混合液中に凝集粒子を形成させ、凝集粒子分散液を調製する。前記凝集粒子は、例えばpH調整剤、凝集剤、安定剤を該混合液中に添加し混合し、温度、機械的動力等を適宜加えることにより該混合液中に形成することができる。
上記pH調整剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ、硝酸、クエン酸等の酸があげられる。上記凝集剤としては、ナトリウム、カリウム等の1価の金属塩;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属塩;鉄、アルミニウム等の3価の金属塩等;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類があげられる。上記安定剤としては、主に界面活性剤そのものまたはそれを含有する水系媒体などが挙げられる。
上記凝集剤等の添加・混合は、混合液中に含まれるポリエステル樹脂微粒子のガラス転
移点(Tg)以下の温度で行うのが好ましい。この温度条件下で上記混合を行うと、凝集が安定した状態で進行する。上記混合は、公知の混合装置、ホモジナイザー、ミキサー等を用いて行うことができる。
ここで形成される凝集粒子の平均粒径としては、特に制限はないが、通常、得ようとするトナーの平均粒径と同じ程度になるように制御するとよい。制御は、例えば、温度と上記攪拌混合の条件とを適宜設定・変更することにより容易に行うことができる。以上の凝集工程において、トナーの平均粒径とほぼ同じ平均粒径を有する凝集粒子が形成され、凝集粒子を分散させてなる凝集粒子分散液が調製される。
【0020】
(加熱・融合工程)
加熱・融合工程は、上記凝集粒子を加熱して融合する工程である。加熱・融合工程に入る前に、トナー粒子間の融着を防ぐため、前記pH調整剤、前記界面活性剤等を適宜投入することができる。
加熱の温度としては、凝集粒子に含まれる樹脂のガラス転移点(Tg)の温度から樹脂の分解温度であればよい。
加熱・融合の時間としては、加熱の温度が高ければ短い時間で足り、加熱の温度が低ければ長い時間が必要である。即ち、前記融合の時間は、前記加熱の温度に依存するので一概に規定することはできないが、一般的には30分〜10時間である。
本発明においては、加熱・融合工程の終了後に得られたトナーを、適切な条件で洗浄、ろ過、乾燥等することにより、トナー粒子得る。更に、得られたトナー粒子の表面に、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム等の無機粒体や、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂粒子を、乾燥状態で剪断力を印加して添加してもよい。これらの無機粒体や樹脂粒子は、流動性助剤やクリーニング助剤等の外添剤として機能する。
【0021】
以下に本発明における物性測定方法を説明する。
<ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布、重量平均分子量(Mw)の測定>
ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂微粒子のTHF可溶分のGPCにより測定される分子量分布及び重量平均分子量(Mw)は以下のように求められる。
40℃のヒートチャンバ中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を毎分1mlの流速で流し、THF試料溶液を約100μl注入して測定する。試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を、数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えば、東ソー社製或いは、昭和電工社製の分子量が102〜107程度のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。検出器にはRI(屈折率)検出器を用いる。カラムとしては、市販のポリスチレンジェルカラムを複数本組み合わせるのが良く、例えば昭和電工社製のshodex GPC KF−801,802,803,804,805,806,807,800Pの組み合わせや、東ソー社製のTSKgelG1000H(HXL),G2000H(HXL),G3000H(HXL),G4000H(HXL),G5000H(HXL),G6000H(HXL),G7000H(HXL),TSKguardcolumnの組み合わせが挙げられる。
試料は以下のようにして作製する。
ポリエステル樹脂又は風乾したポリエステル樹脂微粒子(試料)をテトラヒドロフラン(THF)中に入れ、数時間放置した後、十分振とうし、THFと良く混ぜ(試料の合一体がなくなるまで)、更に12時間以上静置する。この時THF中への放置時間が24時間以上となるようにする。その後、サンプル処理フィルター(ポアサイズ0.45〜0.5μm、例えば、マイショリディスクH−25−5:東ソー社製、エキクロディスク25CR:ゲルマン・サイエンス・ジャパン社製などが利用できる)を通過させたものを、GPCの試料とする。試料濃度は、樹脂成分が0.5〜5mg/mlとなるように調整する。
また、作成された分子量分布から、メインピークのピークトップの存在する分子量(Mp)、及び全成分量に対する分子量500以上2,000未満の成分量を導くことが可能である。全成分量に対する分子量500以上2,000未満の成分量は、例えば、分子量2000までの頻度分布累積値から、分子量500までの頻度分布累積値を差し引くことにより算出することができる。
【0022】
<ポリエステル樹脂のガラス転移点の測定>
上記ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)測定装置を用いて測定することが可能である。DSC測定では、測定原理から、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法は、ASTM D3418−82に準じて行う。具体的には、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、10℃/minで昇温させた時に測定されるDSC曲線からガラス転移点(Tg(℃))を計算する。吸熱前後のベースラインと吸熱による曲線の接線との交点の中心値をTg(℃)とする。
【0023】
<ポリエステル樹脂の酸価の測定>
上記ポリエステル樹脂の酸価は以下のように求められる。尚、基本操作は、JIS−K0070に準ずる。酸価は試料1g中に含有されている遊離脂肪酸、樹脂酸などを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいう。
(1)試薬
(a)溶剤:エチルエーテル−エチルアルコール混液(1+1または2+1)またはベンゼン−エチルアルコール混液(1+1または2+1)を使用直前にフェノールフタレインを指示薬としてN/10水酸化カリウムエチルアルコール溶液で中和しておく。
(b)フェノールフタレイン溶液:フェノールフタレイン1gをエチルアルコール(95v/v%)100mlに溶かす。
(c)N/10水酸化カリウム−エチルアルコール溶液:水酸化カリウム7.0gをできるだけ少量の水に溶かしエチルアルコール(95v/v%)を加えて1リットルとし、2〜3日放置後ろ過する。標定はJIS K 8006(試薬の含量試験中滴定に関する基本事項)に準じて行う。
(2)操作
ポリエステル樹脂(試料)1〜20gを正しくはかりとり、これに溶剤100ml及び指示薬としてフェノールフタレイン溶液数滴を加え、試料が完全に溶けるまで十分に振る。固体試料の場合は水浴上で加温して溶かす。冷却後これをN/10水酸化カリウムエチルアルコール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを中和の終点とする。(3)計算式
次の式によって酸価を算出する。
A=B×f×5.611/S
A:酸価
B:N/10水酸化カリウムエチルアルコール溶液の使用量(ml)
f:N/10水酸化カリウムエチルアルコール溶液のファクター
S:試料(g)
【0024】
<有機溶剤の含有量の測定>
ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体中に存在する有機溶剤の含有量は以下のように求められる。
ガスクロマトグラフィー(GC)を用い、以下の条件で有機溶剤のピーク面積を求めることにより有機溶剤の含有量を測定する。測定方法は、試料(ポリエステル樹脂微粒子の
水系分散体)に塩化ナトリウム水溶液を固形分が沈殿するまで加え、精製水で定容した後、遠心分離し、その上澄み液をGCで測定する。
[GCの条件]
測定装置:GC−15A(キャピラリー付き)(株式会社島津製作所製)
キャリア:He
Split 40ml/min.
カラム :DB-WAX 30m×0.25mmφ
昇温 :40℃ で3分間保持後、250℃まで1分間に15℃の割合で昇温。250℃で2分間保持。
試料量 :1.0μl
【0025】
<ポリエステル樹脂微粒子等の微粒子の粒度分布の測定>
ポリエステル樹脂微粒子等の微粒子の粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920:堀場製作所社製)を用い、該装置の操作マニュアルに従い測定する。
具体的には、前記測定装置の試料導入部で、透過率が測定範囲内(70〜95%)になるように、測定試料を調整し、体積分布を測定した。
体積分布基準の50%粒径は、累積50%に相当する粒子径(メジアン径)であり、体積分布基準の95%粒径は、小さい方から累積95%に相当する粒子径である。
なお、変動係数は、下記式に従って算出した。
(式) 変動係数[%]=(算術標準偏差/算術平均径)×100
【0026】
<トナー粒子の個数平均粒径(D1)及び重量平均粒径(D4)の測定>
上記トナー粒子の個数平均粒径(D1)及び重量平均粒径(D4)はコールター法による粒度分布解析にて測定する。測定装置として、コールターカウンターTA−II或いはコールターマルチサイザーII(コールター社製)を用い、該装置の操作マニュアルに従い測定する。電解液は、1級塩化ナトリウムを用いて、約1%塩化ナトリウム水溶液を調製する。例えば、ISOTON−II(コールターサイエンティフィックジャパン社製)が使用できる。具体的な測定方法としては、前記電解水溶液100〜150ml中に分散剤として、界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を、0.1〜5ml加え、さらに測定試料(トナー粒子)を2〜20mg加える。試料を懸濁した電解液は、超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行う。得られた分散処理液を、アパーチャーとして100μmアパーチャーを装着した前記測定装置により測定し、トナー粒子の体積及び個数をチャンネル毎に計測して、トナーの体積分布と個数分布とを算出する。それから、トナーの個数分布から求めた個数平均粒径(D1)と、トナーの体積分布から求めた重量基準のトナーの重量平均粒径(D4)(各チャンネルの中央値をチャンネル毎の代表値とする)を求める。
上記チャンネルとしては、2.00〜2.52μm;2.52〜3.17μm;3.17〜4.00μm;4.00〜5.04μm;5.04〜6.35μm;6.35〜8.00μm;8.00〜10.08μm;10.08〜12.70μm;12.70〜16.00μm;16.00〜20.20μm;20.20〜25.40μm;25.40〜32.00μm;32.00〜40.30μmの13チャンネルを用いる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例と比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されない。
【0028】
(実施例1)
ポリエステル樹脂A((組成(モル比)/ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビ
ス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:テレフタル酸:フマル酸:トリメリット酸=30:20:26:20:4)、酸価が11、重量平均分子量(Mw)が11,000、分子量500以上2,000未満の成分が8.5%、Tgが56℃)を、リンレックスミル(ホソカワミクロン社製)を用いて最大粒径が1.0μm以下になるように粉砕し、体積分布基準の50%粒径が18μmの樹脂粉砕物を得た。この樹脂粉砕物100質量部を、ノニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:ノイゲンEA−167)3質量部を加えたイオン交換水900質量部と混合した。得られた混合物に、更に5N水酸化カリウム水溶液を3質量部加えた後、高圧衝撃式分散機ナノマイザー(吉田機械興業社製)を用い、処理部直前で前記混合物を155℃に加熱して、処理部(ジェネレータ)に導入し、200MPaで乳化処理を行い、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1を得た。
得られたポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1の体積分布基準の50%粒径は0.26μm、変動係数が16.7%であり、該水系分散体中に存在する沸点200℃以下及び沸点100℃以下の有機溶剤量は、検出下限10μg/g未満であった。また、該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1を30℃で風乾して得られたポリエステル樹脂微粒子固形分のTHF可溶分をGPCにより測定した。結果、メインピークのピークトップの存在する分子量(Mp)が8,000であり、重量平均分子量(Mw)が8,600、分子量500〜2000の成分の割合が10.1%であった。
得られたポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1を室温(25℃)で30日間 保存し
たが、沈降や、分離は生じなかった。また、40℃で24時間放置したが、同様に変化はなかった。上記得られた結果を表1に示す。尚、下記表1及び2において保存安定性の評価基準は以下の通りである。上記「室温(25℃)で30日間の保存」又は「40℃で24時間の放置」で沈降や、分離が全く生じない場合を「○」、若干の沈降や、分離が生じる場合を「△」、明らかに沈降や、分離が生じる場合を「×」とした。
【0029】
(実施例2)
ノニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:ノイゲンEA−167)3質量部をアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:プライサーフAL) 5質量部に変更し、5N水酸
化カリウムの添加量を27質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体2を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体2を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0030】
(実施例3)
ポリエステル樹脂Aをポリエステル樹脂B((組成(モル比)/ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:エチレングリコール:テレフタル酸:マレイン酸:トリメリット酸=35:15:33:15:2)、酸価が13、
重量平均分子量(Mw)が16,500、分子量500以上2,000未満の成分が7.1%、Tgが67℃)に変更し(体積分布基準の50%粒径は19μmであった)、5N水酸化カリウム水溶液量の添加量を12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体3を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体3を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0031】
(実施例4)
5N水酸化カリウム水溶液12質量部を、N,N−ジメチルアミノエタノール2質量部に変更すること以外は、実施例3と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体4を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体4を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0032】
(実施例5)
高速剪断乳化装置クレアミックス(エム・テクニック社製:CLM−2.2S)を備えた密閉加圧できる(350mlの)容器に、上記ポリエステル樹脂A100質量部、イオ
ン交換水895質量部及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:プライサーフAL)5質量部を入れ、混合した。該容器内の混合物を130℃に加温しながら、ローター回転数を18,000r/minとし30分間剪断分散した。その後、冷却を行い、100℃以下になったところで5N水酸化カリウム水溶液を7質量部添加した後、室温まで冷却し、体積分布基準の50%粒径が3.4μmのポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を得た。このポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を、高圧衝撃式分散機ナノマイザー(吉田機械興業社製)を用い、処理部直前で前記水系分散体を155℃に加熱して、処理部(ジェネレータ)に導入し、200MPaで乳化処理を行い、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体5を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体5を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0033】
(実施例6)
実施例5と同様にして、体積分布基準の50%粒径が3.4μmのポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を得た。このポリエステル樹脂微粒子の水系分散体に、6N水酸化ナトリウム水溶液量を0.6質量部添加した後、高圧衝撃式分散機ナノマイザー(吉田機械興業社製)を用い、処理部直前で前記水系分散体を155℃に加熱して、処理部(ジェネレータ)に導入し、200MPaで乳化を行い、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体6を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体6を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0034】
(実施例7)
5N水酸化カリウム水溶液27質量部をN,N−ジメチルアミノエタノール2質量部に変更することと、高圧衝撃式分散機ナノマイザーを用いた処理の処理部直前での混合物の加熱温度を130℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体7を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体7を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0035】
(実施例8)
N,N−ジメチルアミノエタノールを0.6質量部に変更すること以外は、実施例7と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体8を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体8を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0036】
(実施例9)
アニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:プライサーフAL) を10質量部に変更
することと、5N水酸化カリウム水溶液27質量部を炭酸ナトリウム1.5質量部に変更すること以外は、実施例2と同様にして、ポリエステル微粒子の水系分散体9を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体9を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
攪拌機、温度制御装置、滴下ロートを有する1L反応装置に、上記ポリエステル樹脂A100質量部及びテトラヒドロフラン300質量部を入れ攪拌しながら溶解させた後、25%のアンモニア水溶液を4質量部添加した。該溶解及び中和された樹脂溶液に、室温で攪拌しながら、イオン交換水300質量部を滴下ロートより毎分10gの速度で滴下した。滴下終了後、50℃に加温し、反応系内よりテトラヒドロフランと水を合計で400質量部減圧留去し、さらにイオン交換水を加え固形分濃度10%として、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体11を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体11を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表2に示す。
【0038】
(比較例2)
攪拌機、温度制御装置を有する1L反応装置に、上記ポリエステル樹脂B100質量部、アセトン100質量部、メチルエチルケトン100質量部、イソプロピルアルコール50質量部、エチレングリコール50質量部及びイオン交換水300質量部を入れ、80℃に加温し、5時間攪拌し、更に減圧加熱し、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、エチレングリコールと水を合計で400質量部溜出させた。さらにイオン交換水を加え固形分濃度10%としてポリエステル樹脂微粒子の水系分散体12を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体12を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表2に示す。
【0039】
(比較例3)
高速剪断乳化装置クレアミックス(エム・テクニック社製:CLM−2.2S)を備えた密閉加圧できる(350mlの)容器に、ポリエステル樹脂A100質量部、イオン交換水870質量部及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:ネオゲンRK)30質量部を入れ、混合した。該容器内の混合物を160℃に加温しながら、ローター回転数を18,000r/minとし30分間剪断分散した。その後、30℃まで冷却し、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体13を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体13を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表2に示す。
【0040】
(比較例4)
アニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製:プライサーフAL)を30質量部に変更したこと、5N水酸化カリウム水溶液を30質量部に変更したこと、高圧衝撃式分散機ナノマイザーを用いた処理の処理部直前での混合物の加熱温度を175℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体14を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体14を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表2に示す。
【0041】
(比較例5)
実施例5と同様にして、体積分布基準の50%粒径が3.4μmのポリエステル樹脂微粒子の水系分散体を得た。このポリエステル樹脂微粒子の水系分散体に、5N水酸化カリウム水溶液量を36質量部添加した後、高圧衝撃式分散機ナノマイザー(吉田機械興業社製)を用い、処理部直前で前記水系分散体を155℃に加熱して、処理部(ジェネレータ)に導入し、200MPaで乳化を行い、ポリエステル微粒子の水系分散体15を得た。該ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体15を実施例1と同様に測定及び評価し、得られた結果を表2に示す。
【0042】
次に、上記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と着色剤とを少なくとも混合し、樹脂微粒子及び着色剤を水系媒体中で凝集させ凝集体を形成する凝集工程と、該凝集体を加熱し融合する工程を含む製造方法によって得られるトナーについて説明する。
(トナーの製造例1)
<離型剤粒子分散液の調製>
・エステル系ワックス(融点65℃) 10質量部
・アニオン性界面活性剤 2質量部
(第一工業製薬社製:ネオゲンRK)
・イオン交換水 88質量部
以上を95℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、圧力吐出型ホモジナイザーで分散処理した。この離型剤粒子分散液を、上記レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所社製)を用いて測定した。結果、含まれる離型剤粒子の体積分布基準の50%粒径は0.2μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。

<着色剤粒子分散液の調製>
・ フタロシアニン顔料(PB−15:3) 10質量部
・ アニオン性界面活性剤 2質量部

(第一工業製薬社製:ネオゲンRK)
・イオン交換水 88質量部
以上を混合し、サンドグラインダーミルを用いて分散した。この着色剤粒子分散液を、上記レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所社製)を用いて測定した。結果、含まれる着色剤粒子の体積分布基準の50%粒径は0.2μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。

<帯電制御粒子分散液の調製>
・ジーアルキルーサリチル酸の金属化合物 20質量部
(帯電制御剤、ボントロンE−84、オリエント化学工業社製)
・アニオン性界面活性剤 2質量部
(第一工業製薬社製:ネオゲンRK)
・イオン交換水 78質量部
以上を混合し、サンドグラインダーミルを用いて分散した。この帯電制御粒子分散液を、上記レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所社製)を用いて測定した。結果、含まれる帯電制御粒子の体積分布基準の50%粒径は0.2μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。

<混合液調製>
・ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1 250質量部
・上記着色剤粒子分散液 50質量部
・上記離型剤粒子分散液 70質量部
以上を、攪拌装置,冷却管,温度計を装着した1リットルのセパラブルフラスコに投入し攪拌した。

<凝集粒子形成工程>
この混合液に凝集剤として、10%塩化ナトリウム水溶液70質量部を滴下し、加熱用オイルバス中でフラスコ内を攪拌しながら57℃まで加熱した。この温度の時に、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1を3質量部と帯電制御剤粒子分散液10質量部を加えた。その後、57℃で1時間保持した後、形成された凝集粒子の体積平均粒径を、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製:FPIA−3000)を用い、該装置の操作マニュアルに従いで測定した。結果、体積平均粒径が約4.9μmである凝集粒子1が形成されていることが確認された。

<加熱、融合工程>
その後、ここにアニオン製界面活性剤(第一工業製薬社製:ネオゲンRK)3質量部を追加した後、攪拌を継続しながら75℃まで加熱し、3時間保持した。そして、冷却後、反応生成物をろ過し、イオン交換水で十分に洗浄した後、乾燥させることにより、トナー粒子1を得た。
トナー粒子1を上記コールターマルチサイザーII(コールター社製)で測定したところ、重量平均粒径D4が5.1μm、個数平均粒径D1が4.2μmであった。すなわちD4/D1が1.21であり、該トナー粒子1はシャープな粒度分布を示す。
次に、このトナー粒子1に、BET比表面積200m/gの疎水性シリカ微粉体(一次平均粒径0.01μm)を1.5質量%混合して本発明のトナー1を調製した。
【0043】
(トナーの製造例2〜9)
上記混合液調製工程において、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1をポリエステル樹脂微粒子の水系分散体2〜9に変更する以外は、前記トナーの製造例1と同様にして、トナー2〜9を調製した。
【0044】
(比較用トナーの製造例1〜5)
上記混合液調製工程において、ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体1をポリエステル樹脂微粒子の水系分散体11〜15に変更する以外は、前記トナーの製造例1と同様にして、比較用トナー11〜15を調製した。
【0045】
上記トナー1〜9及び比較用トナー11〜15の粒径及びこれらトナーの評価等を表1及び2に示す。
【0046】
<実施例10〜18及び比較例6〜10>
上記トナー1〜9及び比較用トナー11〜15を用いて、下記の評価を実施した。結果は表1及び2に示す。
【0047】
(ブロッキングの評価)
上記各トナーを、50℃に温調された恒温槽中に24時間静置し、ブロッキングの程度を評価した。
○:ブロッキングが発生しない
△:ブロッキングが発生するが、力を加えると容易に分散する。
×:ブロッキングが発生し、力を加えても分散しない。
【0048】
(定着オフセットの評価)
接触現像方式のLBP−2510(キヤノン社製)のプロセススピードを150mm/secに改造した装置を用いて、常温常湿環境下で評価を行った。該装置の定着器の設定
温度(定着温度)を130℃から230℃まで5℃ずつ上げていき、各定着温度でA4の75g/m2紙に単位面積あたりのトナー量が0.6mg/cmとなるようにベタ画像
を形成した。形成されたベタ画像を観察して、高温オフセット現象が発生する温度(高温オフセット温度)を調べた。なお、高温オフセット現象の発生の有無は、画像上及び紙裏の汚れを目視して判断した。
○:220℃以上
・ △:210℃以上220℃未満
△:200℃以上210℃未満
×:210℃未満
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体であって、
前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が100℃以下の有機溶剤の含有量が100μg/g以下であり、
前記ポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、分子量3,500以上15,000以下の範囲にメインピークのピークトップが存在し、重量平均分子量が5,000以上50,000以下であり、分子量500以上2,000未満の成分を全成分量の0.1%以上20.0%以下含有し、
前記ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上1.00μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂微粒子の体積分布基準の50%粒径が0.02μm以上0.40μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体における、沸点が200℃以下の有機溶剤の含有量が、100μg/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエス
テル樹脂微粒子の水系分散体。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂微粒子のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、分子量500以上2,000未満の成分が全成分量の0.1%以上15.0%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体。
【請求項5】
ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体と着色剤とを少なくとも混合し、前記ポリエステル樹脂微粒子及び着色剤を水系媒体中で凝集させ凝集体を形成する凝集工程と、前記凝集体を加熱し融合する工程とを含む製造方法によって得られるトナーであって、
前記ポリエステル樹脂微粒子の水系分散体が、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂微粒子の水系分散体であることを特徴とするトナー。

【公開番号】特開2008−201865(P2008−201865A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37657(P2007−37657)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】