説明

ポリエステル樹脂水性分散体

【課題】得られる被膜の耐水性、耐溶剤性に加え、耐屈曲性にも優れたポリエステル樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】酸価が8mgKOH/g以上、ガラス転移温度が40〜120℃であるポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂水性分散体であって、ポリエステル樹脂は、構成する酸成分としてイソフタル酸を含有せず、かつテレフタル酸95〜100モル%、およびトリメリット酸1〜5モル%を含有し、構成するアルコール成分としてビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体を25〜80モル%含有することを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲性に優れた被膜を形成することができるポリエステル樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエステル樹脂は有機溶剤に溶解し被膜形成用樹脂として塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等の用途で広く使用されている。
【0003】
近年、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善等の理由で有機溶剤の使用が抑制され、前記ポリエステル樹脂を水性媒体に微分散させたポリエステル樹脂水性分散体が用いられるようになってきた。
【0004】
特許文献1、2には、ポリエステル樹脂を構成する酸成分として芳香族ジカルボン酸、アルコール成分としてビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体を含有したポリエステル樹脂が提示されている。このようなポリエステル樹脂は耐水性、耐溶剤性に優れ、得られる被膜の特性を向上させることができるが、最終製品として賦形を伴うようなフィルム、シート、スチール板材、棒、パイプ用途で表面コーティングとして用いる場合、賦形工程で被膜にひび割れが発生したり、被膜が脱落する等被膜の耐屈曲性が不足するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−173582号公報
【特許文献2】特開2008−58467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、得られる被膜の耐水性、耐溶剤性に加え、耐屈曲性にも優れたポリエステル樹脂水性分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定組成の酸成分とアルコール成分とを有するポリエステル樹脂を用いた水性分散体は、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)酸価が8mgKOH/g以上、ガラス転移温度が40〜120℃であるポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂水性分散体であって、ポリエステル樹脂は、構成する酸成分としてイソフタル酸を含有せず、かつテレフタル酸95〜100モル%、およびトリメリット酸1〜5モル%を含有し、構成するアルコール成分としてビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体を25〜80モル%含有することを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
(2)ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体が2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体および/またはプロピレンオキシド付加体であることを特徴とする(1)のポリエステル樹脂水性分散体。
(3)ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000〜30000であることを特徴とする(1)または(2)のポリエステル樹脂水性分散体。
(4)(1)〜(3)のポリエステル樹脂水性分散体から水性媒体を除去してなる被膜。
(5)(4)の被膜を形成してなる積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、得られる被膜の耐水性、耐溶剤性に加え、耐屈曲性にも優れたポリエステル樹脂水性分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体(以下、単に「水性分散体」と称する場合がある)は、ポリエステル樹脂を水性媒体に分散してなるものである。
【0011】
本発明におけるポリエステル樹脂の構成成分について説明する。本発明で用いるポリエステル樹脂は、主に酸成分およびアルコール成分より構成されるものである。
【0012】
本発明におけるポリエステル樹脂は、全酸成分中にテレフタル酸を95〜100モル%含有する必要があり、好ましくは96〜100モル%、より好ましくは97〜100モル%含有するものである。テレフタル酸は、本発明のポリエステル樹脂水性分散体より得られる樹脂被膜の耐屈曲性、または微粒子の耐久性、耐アルコール性を向上させることができる。テレフタル酸の含有量が95モル%未満である場合は、得られる樹脂被膜、または微粒子の加工性、耐アルコール性が劣るものとなる。
【0013】
本発明において、テレフタル酸以外に用いることができる他の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、前記ポリエステル樹脂の特性を損ねない範囲で、単独、または2種類以上併用して用いることが可能である。ここで、イソフタル酸はポリエステル樹脂水性分散体より得られる樹脂被膜、または微粒子の耐溶剤性を低下させることがあり、用いるべきでない。また、後述するグリコール成分、特にネオペンチルグリコールと環状オリゴマーを形成し易い傾向にあり、その結果、均一な樹脂被膜が得られなくなる場合がある。
【0014】
さらに、本発明のポリエステル樹脂は、全酸成分中にトリメリット酸を1〜5モル%含有することが必要であり、1〜4モル%含有することがより好ましく、1〜3モル%含有することがさらに好ましい。トリメリット酸は、ポリエステル樹脂の解重合剤として機能するものであり、ポリエステル樹脂に対し適度な分子量まで下げるとともに、適度な酸価を付与することができる。また、トリメリット酸は他の解重合剤、例えば、イソフタル酸に比べ、少量添加で、多くの酸価を付与できる利点があり、分子量を大きく低下させることなく酸価の付与を行うことが出来るため、本発明においては好ましく用いることができる。トリメリット酸の含有量が1モル%未満である場合は、ポリエステル樹脂に付与される酸価が不十分であるものとなり、結果として水性媒体への分散が困難であるか、分散できたとしても均一な水性分散体を得ることは難しく保存安定性が劣るものとなる。トリメリット酸の含有量が5モル%を超える場合は、過度に分子量を下げることとなり、結果として、得られる樹脂被膜、または微粒子の造膜性が劣るものとなる。また、必然的にテレフタル酸が95モル%未満となり、耐屈曲性、耐アルコール性も劣るものとなる。
【0015】
なお、本発明におけるポリエステル樹脂は、全酸成分中のスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分が1モル%未満であることが好ましく、0モル%であることがより好ましい。スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分が1モル%以上である場合、樹脂被膜、または微粒子の耐水性が大きく低下する。一般的に、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸をポリエステル樹脂の組成に配合することで、乳化剤を使用することなく、該ポリエステル樹脂を容易に水性媒体に分散することができるが、一方で、そのような配合は耐水性を著しく損ねる欠点を有する。そのために、特に、熱水殺菌や、ボイル殺菌を伴う食品包装材としては適さないものとなる。
【0016】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIPA−Na)、5−ナトリウムスルホテレフタル酸(STPA−Na)、5−カリウムスルホイソフタル酸(SIPA−K)、5−カリウムスルホテレフタル酸(STPA−K)、5−リチウムスルホイソフタル酸(SIPA−Li)、5−リチウムスルホテレフタル酸(STPA−Li)、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム(SIPG−Na)、2,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム(STPG−Na)、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸カリウム(SIPG−K)、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸リチウム(SIPG−Li)、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル(SIPM−Na)、5−ナトリウムスルホテレフタル酸ジメチル(STPM−Na)、5−カリウムスルホイソフタル酸ジメチル(SIPM−K)、5−リチウムスルホイソフタル酸ジメチル(SIPM−Li)等が挙げられる。
【0017】
本発明において、芳香族ジカルボン酸の他に用いることのできる酸成分としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のカルボン酸等、末端に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸等が挙げられる。飽和脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等が挙げられる。不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等が挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等が挙げられる。また、3官能以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるポリエステル樹脂は、全アルコール成分中にビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体を25〜80モル%含有することが必要であり、より好ましくは25〜60モル%含有する。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体はポリエステル樹脂水性分散体より得られる樹脂被膜、または微粒子の耐溶剤性を向上させることができる。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体が25モル%未満である場合は、得られる樹脂被膜、または微粒子は耐溶剤性が劣るものとなる。一方で、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体が80モル%を超える場合には、後述する、ポリエステル樹脂水性分散体の製造において、水性媒体への分散が困難であり、分散できたとしても、ポリエステル樹脂の体積平均粒径が大きくなってしまい保存安定性が劣る。
【0019】
ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体としては、例えば、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体(BAEO)、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのプロピレンオキシド付加体(BAPO)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールのエチレンオキシド付加体(BAFEO)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールのプロピレンオキシド付加体(BAFPO)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンのエチレンオキシド付加体(BSEO)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンのプロピレンオキシド付加体(BSPO)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンのエチレンオキシド付加体(BFEO)、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールのエチレンオキシド付加体(BMEO)、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールのエチレンオキシド付加体(BPEO)等が挙げられる。これらビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体は、単独、または2種類以上併用して用いることができる。
【0020】
前記ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体としては、BAEOおよび/またはBAPOがより好ましい。BAEOやBAPOは得られる樹脂被膜、または微粒子の耐溶剤性を向上させる効果に加え、水性分散体の長期保存安定性を向上させることができる。また、工業的に多量に生産されており、安価に入手できることからも好ましく用いることができる。
【0021】
本発明において、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体以外に用いることができるアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2‐プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、1,4‐ブタンジオール、2‐メチル―1,3‐プロパンジオール、1,5‐ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6‐ヘキサンジオール、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2‐エチル‐2‐ブチルプロパンジオール等の脂肪族グリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール成分、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテル結合含有グリコール成分等が挙げられる。また、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上のアルコール成分を用いることもできる。
【0022】
本発明におけるポリエステル樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲で、脂肪族ラクトンやヒドロキシカルボン酸等を共重合してもよい。脂肪族ラクトンとしては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸のエチレンオキシド付加体等が挙げられる。脂肪族ラクトンやヒドロキシカルボン酸の共重合量は、全構成成分中の10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましく、1モル%以下とすることがさらにより好ましい。
【0023】
また、ポリエステル樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲で、モノカルボン酸、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸、モノアルコールはポリエステル樹脂を構成する酸成分、もしくはアルコール成分のうち、各々1モル%未満であることが好ましく、0.1モル%未満であることがより好ましく、0モル%であることが特に好ましい。1モル%以上である場合、後述するポリエステル樹脂の製造時に、分子鎖の延長を阻害し、重縮合が進まずに結果として必要な分子量が得られず、造膜性が不足する場合がある。
【0024】
前記モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、モノアルコールとしては、セチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価は、水性分散体の分散性、長期保存安定性を向上させるため、8mgKOH/g以上とする必要がある。ポリエステル樹脂の酸価が8mgKOH/g未満であると水性媒体への分散が困難であり、分散できたとしても均一な水性分散体を得ることは難しく保存安定性が劣る。ポリエステル樹脂の酸価は詳細には、8〜40mgKOH/gが好ましく、8〜30mgKOH/gがより好ましく、8〜25mgKOH/gがさらに好ましい。40mgKOH/gを超える場合はポリエステル樹脂の数平均分子量を高めることが困難になり、樹脂被膜を作製した時の造膜性が不足する傾向にある。
【0026】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度は、耐ブロッキング性を向上させるため40〜120℃である必要があり、50〜100℃が好ましい。ガラス転移温度が40℃未満であると耐ブロッキング性が劣るものとなり、ポリエステル樹脂を微粒子とした場合に微粒子同士が融着してハンドリング性が低下する。一方、ガラス転移温度が120℃を超えるようなポリエステル樹脂は本発明のポリエステル樹脂の組成においては作成することが難しい。
【0027】
本発明におけるポリエステル樹脂の数平均分子量は、樹脂被膜を作製したときの造膜性や、加工性を向上させるために1000〜30000であることが好ましく、3000〜25000であることがより好ましく、5000〜20000であることがさらに好ましく、6500〜15000であることが最も好ましい。数平均分子量が1000未満であると水性分散体から得られる樹脂被膜の造膜性が劣る。数平均分子量が30000を超えるとポリエステル樹脂の体積平均粒径が大きくなり、水性分散体の長期保存安定性が劣ることがある。なお、分散度は、1.5〜6であり、好ましくは1.5〜5であり、より好ましくは2〜4である。重量平均分子量は、上記数平均分子量に対し、分散度を乗じることによって算出することができる。ここでいう分散度とは、重量平均分子量を数平均分子量で除した値のことを指す。
【0028】
ポリエステル樹脂の数平均分子量を制御する方法としては、重合時のポリエステル溶融物を所定の粘度で重合を終了する方法、分子量の高いポリエステル樹脂を製造したのち解重合剤を添加して分子量を制御する方法、モノアルコールやモノカルボン酸を添加する方法等が挙げられる。中でも、解重合剤を添加して分子量を制御する方法が好ましい。
【0029】
次に、ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0030】
本発明におけるポリエステル樹脂は、前記のモノマーを組み合わせて、公知の方法で製造することができる。前記の酸成分の1種類以上と、アルコール成分の1種類以上とを、公知の方法により、重縮合反応に付する方法が挙げられる。例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、減圧下で、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めて、ポリエステル樹脂を得る方法等を挙げることができる。
【0031】
詳しくは、エステル化反応では、反応温度は180〜260℃とすることが好ましく、反応時間は2.5〜10時間とすることが好ましく、4時間〜6時間とすることがより好ましい。
【0032】
重縮合反応は、反応温度は、220〜280℃が好ましい。減圧度は、130Pa以下であることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる場合がある。大気圧から130Pa以下に達するまで、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0033】
重縮合触媒としては特に限定されないが、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、テトラ−n−ブチルチタネート、n−ブチルヒドロキシオキソスズ等の公知の化合物を用いることができる。触媒の使用量としては、酸成分1モルに対し、0.1〜20×10−4モルとすることが好ましい。
【0034】
上記の重縮合反応に引き続き、トリメリット酸、およびその無水物を添加し、不活性雰囲気下、解重合反応をおこなうことができる。解重合することで、ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与することができる。
【0035】
次いで、本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体について説明する。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、ポリエステル樹脂が、水性媒体中に分散されてなる乳液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤や塩基性化合物を含んでいてもよい。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体中において、ポリエステル樹脂の含有率は5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が50質量%を超えると、分散していたポリエステル樹脂が凝集しやすくなり、保存安定性が乏しくなる傾向にある。ポリエステル樹脂の含有率が5質量%未満では、ポリエステル樹脂被膜を形成した場合に、被膜の膜厚を十分に得るために、多量のポリエステル樹脂水性分散体を消費してしまうことがある。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、pHが6以上であることが好ましく、7以上がより好ましく、8以上がさらにより好ましい。pHが6未満であるものは、分散しているポリエステル樹脂が凝集してしまい、均一な水性分散体を得られなくなることがある。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体において、ポリエステル樹脂微粒子の体積平均粒径は、長期保存安定性を向上させるために50nm未満であることが好ましく、40nm未満であることがより好ましい。体積平均粒子径が50nmを超える場合は、水性分散体を均一に分散することが難しくなり、多量の沈降物が発生する等長期保存安定性に劣るものとなる。
【0040】
水性媒体として用いる水の種類は特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水等が挙げられるが、不純物の混入を防止する観点から、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
【0041】
次に、ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、前記ポリエステル樹脂を塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を経て製造される。例えば、ポリエステル樹脂と塩基性化合物を、水性媒体中に一括で仕込み、昇温しながら、混合、攪拌することが挙げられる。塩基性化合物を用いない場合には、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散することが困難となる。また、有機溶剤を用いることは水性化を容易にするために好ましい。ただし、後述する脱溶剤工程により、有機溶剤および/または塩基性化合物の一部、または、全部を留去することができる。
【0043】
本発明の水性分散体の製造方法によれば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基が塩基性化合物と中和して生成するカルボキシルアニオンの親水性作用により分散化が進行する、いわゆる「自己乳化」が容易に達成される。したがって、あらかじめポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、この溶液を、塩基性化合物を含む水性媒体と混合して分散化を達成する、いわゆる転相乳化を採る必要がないため、工業的な製法としてより有利である。また、本発明のように、耐溶剤性に優れたポリエステル樹脂を用いる時、有機溶剤への溶解が困難な場合があるが、その様な場合でも、自己乳化法を用いることで解消されることがしばしばある。
【0044】
分散工程における反応槽の温度は、特に限定されないが、30〜100℃の範囲が挙げられる。また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下Tgと略す)に応じて設定されることが好ましく、Tg〜(Tg+70)℃が好ましい範囲として挙げられる。反応槽の温度が100℃を超えるような高温になると、そのために多大なエネルギーを消費することになるため、100℃以下であることが好ましい。反応槽の温度の下限はTg+10℃以上であることがより好ましく、温度の上限は80〜100℃であることがより好ましい。具体的には、例えば、Tgが50℃である場合は、反応槽の温度は50℃〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。また、例えば、Tgが70℃である場合は、反応槽の温度は、70℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。
【0045】
本発明に用いることのできる有機溶剤としては、たとえば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤など、公知のものが挙げられる。ケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、芳香族炭化水素系有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼンなど、エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。含ハロゲン系有機溶剤としては、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタンなど、アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノールなど、エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチルなど、グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。また、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコールなどの有機溶剤も使用することができる。なお、使用する有機溶剤は、単独、あるいは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
有機溶剤としては、20℃における水への溶解性が5g/L以上のものが好ましく、10g/L以上のものがさらに好ましい。また、沸点は150℃以下であることが好ましい。沸点が150℃を超える場合、樹脂被膜や、微粒子から乾燥によって揮散させるために多量のエネルギーを浪費してしまう。特に、前記溶解性が5g/L以上でかつ沸点150℃以下のものが好ましく、このような条件を満たす具体的な有機溶剤としては、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられ、易分散性、分散安定性、揮散性などがより優れたものとして好ましくは炭素数2〜4のアルコール、より好ましくは炭素数3のアルコール、特にイソプロパノールが例示される。
【0047】
さらに、用いる有機溶剤の含有比率を制御することによって、体積平均粒径が50nm未満となるポリエステル樹脂水性分散体を、より容易に製造できる。例えば、有機溶剤として、イソプロパノールを用いる場合、ポリエステル樹脂水性分散体のうちイソプロパノールの含有比率は、17〜27質量%にすることがより好ましい。
【0048】
本発明に用いる塩基性化合物としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば特に限定されず、例えば、金属水酸化物や、アンモニア、有機アミンなどが挙げられる。金属水酸化物の具体例としては、LiOH、KOH、NaOHなどが挙げられる。有機アミンの具体例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどが挙げられる。
【0049】
本発明における塩基性化合物は、樹脂被膜や、微粒子から乾燥する際に揮散させやすいという理由から、沸点が150℃以下のものであることが好ましく、その中でも、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、特に、分散安定性に優れたものとなるためトリエチルアミンを使用することが好ましい。
【0050】
塩基性化合物の使用量は、易分散性、分散安定性、長期保存安定性などの観点から、例えば、酸価10mgKOH/gのポリエステル樹脂100gに対して、0.90〜3.61g、好ましくは1.80〜2.71g程度使用する。その目安としては、酸価が2倍となれば、用いる塩基性化合物の使用量も2倍とするのが好ましい。その量が多すぎると、分散工程中に液粘度が激しく上昇することがあるため、容易にポリエステル樹脂水性分散体を得ることが困難となり、またその量が少なすぎるとポリエステル樹脂が水性媒体中に十分分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができない。
【0051】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法では、有機溶剤や塩基性化合物の留去(脱溶剤)をおこなってもよい。脱溶剤工程は、分散工程の後に水性媒体を蒸留する方法によりおこなうことができる。蒸留は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよく、蒸留をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
【0052】
本発明の製造方法においては、異物などを取り除く目的で、分散工程後にろ過工程を設けることもできる。このような場合には、たとえば、600メッシュのステンレス製フィルター(濾過精度25μm、綾織)を設置し、常圧ろ過、または、加圧(空気圧0.2MPa)ろ過をおこなえばよい。ろ過工程は分散工程の直後に設けてもよいし、前述の脱溶剤工程を設ける場合には、脱溶剤工程の後に設けてもよい。
【0053】
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、保護コロイド作用を有する化合物、水、有機溶剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂等の水性樹脂等を配合して使用することができる。
【0054】
本発明における樹脂被膜の形成方法としては、例えば、グラビアコート法、マイヤーバーコート法、ディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法などが挙げられ、これらの方法により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどを使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である、基材の種類などにより適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、通常60〜250℃であり、70〜230℃が好ましく、80〜200℃が最も好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜30分間であり、5秒〜20分が好ましく、10秒〜10分が最も好ましい。
【0055】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その目的や用途によって適宜選択されるものであるが、通常0.01〜40μmであり、0.1〜30μmが好ましく、0.5〜20μmが最も好ましい。
【0056】
本発明における樹脂微粒子の作成方法としては、例えば、水性分散体を、ポリエステル樹脂のガラス転移温度未満にて水性媒体を乾燥除去することで得られる。もしくは、コア/シェル構造の粒子を得る場合等は、水性分散体中に、コアとなる樹脂のプレポリマーを分散し、該水性分散体中でプレポリマーを重合、その後に水性媒体を除去する等公知の方法で、コア粒子に、本発明のポリエステル樹脂微粒子がシェル粒子として決着した、コア/シェル構造の粒子を得ることができる。
【0057】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、各特性に優れているので、得られる樹脂被膜、または、微粒子は非常に好適に使用することができる。例えば、ボイル処理をおこなう包装フィルム、レトルト処理をおこなう包装フィルム、浴室など高温多湿空間用の加飾フィルムの積層部材として非常に有用であるし、コア/シェル構造をとるトナー粒子のシェル部を担う微粒子としても非常に有用である。
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
【0059】
(1)ポリエステル樹脂の構成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製、ECA500 NMR)を用いて、H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)。また、H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
【0060】
(2)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを水/1,4−ジオキサン=1/9(体積比)50mlに室温で溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、中和に消費された共重合ポリエステル樹脂1gあたりの水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)を酸価とした。
【0061】
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、Diamond DSC、検出範囲:−50℃〜200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
【0062】
(4)ポリエステル樹脂の数平均分子量、重量平均分子量、分散度
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量、重量平均分子量、および分散度を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC−10ADvp
[紫外−可視分光光度計]:島津製作所社製SPD−6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF−803 1本、Shodex社製KF−804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
【0063】
(5)ポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリエステル樹脂水性分散体を約1g秤量(Xgとする。)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物の質量を秤量(Ygとする。)し、以下の式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y/X)×100
【0064】
(6)ポリエステル樹脂水性分散体のpH
pHメーター(堀場製作所社製F−21)を用いて、pH7およびpH9の標準緩衝液(ナカライテスク社製)により校正した後、測定温度25℃でポリエステル樹脂水性分散体のpHを測定した。
【0065】
(7)ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径、数平均粒径
ポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂の濃度が0.1質量%になるように水で希釈し、レーザー回折式粒径測定装置(日機装社製、MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA))を用いて、体積平均粒径、および数平均粒径を測定した。ポリエステル樹脂の屈折率は1.57、ポリエステル樹脂の密度は1.21g/cmと設定した。
【0066】
(8)ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性
水性分散体30gを50mLのガラス製サンプル瓶に密封し、25℃で180日保存した。保存後、サンプル瓶から上澄み液を採取し、固形分濃度を測定し、以下の式により、沈殿したポリエステル樹脂の割合を計算し、以下の基準で評価した。
沈殿したポリエステル樹脂の割合(質量%)={保存前の固形分濃度(質量%)−保存後の固形分濃度(質量%)}/{保存前の固形分濃度(質量%)}
◎:0.1質量%未満
○:0.5質量%未満
△:1.0質量%未満
×:1.0質量%以上
【0067】
(9)樹脂被膜の造膜性
水性分散体を、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ38μm)のコロナ処理面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、120℃に設定された熱風乾燥機中で1分間乾燥させることにより膜厚が1μmの樹脂被膜を形成した。樹脂被膜を目視にて観察し、クラック、ブツ、白化が見られない樹脂被膜を形成しているか否かにより以下のように分類し、造膜性を評価した。なお、被膜の膜厚は、厚み計(ユニオンツール社製、MICROFINE)を用いて、フィルムの厚みを予め測定しておき、水性分散体を用いてフィルム上に樹脂被膜を形成した後、この樹脂被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差を樹脂被膜の膜厚とした。
○:クラック、ブツ、白化が見られない
×:クラック、ブツ、白化が見られる
【0068】
(10)樹脂被膜の耐ブロッキング性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの樹脂被膜を形成した後、被膜形成面に別のPETフィルム(厚さ38μm)を重ねた状態で500Paの荷重をかけ、38℃の雰囲気下で24時間放置後、20℃まで冷却し、島津製作所社製オートグラフAG100Bを用いて、20℃の恒温槽中で、試験速度50mm/minで180度剥離試験をおこない、剥離後のPETフィルム面を目視にて観察し、以下の評価で耐ブロッキング性を判定した。
○:融着跡は全く見られない。
×:融着跡が見られるか、被膜面が破壊される。
【0069】
(11)樹脂被膜の耐水性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの樹脂被膜を形成した後、25℃の蒸留水に浸漬させ、30分後に静かに引き上げ、風乾させた後、樹脂被膜の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:外観変化がなかった。
△:表面状態は変化したが(表面が白く曇る等)、樹脂被膜は溶解、もしくは膨潤しなかった。
×:共重合ポリエステル樹脂が溶解、もしくは膨潤した。
【0070】
(12)樹脂被膜の耐アルコール性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの樹脂被膜を形成した後、25℃のイソプロピルアルコールに浸漬させ、30分後に静かに引き上げ、風乾させた後、樹脂被膜の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:外観変化がなかった。
△:表面状態は変化したが(表面が白く曇る等)、樹脂被膜は溶解、もしくは膨潤しなかった。
×:共重合ポリエステル樹脂が溶解、もしくは膨潤した。
【0071】
(13)樹脂被膜の耐溶剤性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの樹脂被膜を形成した後、25℃の酢酸エチルに浸漬させ、30分後に静かに引き上げ、風乾させた後、樹脂被膜の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:外観変化がなかった。
△:表面状態は変化したが(表面が白く曇る等)、樹脂被膜は溶解、もしくは膨潤しなかった。
×:共重合ポリエステル樹脂が溶解、もしくは膨潤した。
【0072】
(14)樹脂被膜の耐屈曲性
水性分散体を、ティンフリースチール(0.3mm厚)に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、150℃に設定された熱風乾燥機中で3分間乾燥させることにより膜厚が4μmの樹脂被膜を形成した。被膜が形成されたティンフリースチールを150mm×50mmに切り出し、試験片とした。測定はJIS K5600−5−1に準じて次のようにおこなった。塗膜性能評価装置(安田精機製、No.514塗料被膜屈曲試験機)に、被膜面を曲率芯棒に対して外側になるように試験片を差し込み、1秒間で180°折り曲げた後、折り曲げた部分を目視により判断した。曲率芯棒として直径の異なる3種を用いた。それぞれの直径は10、6、1mmであった。曲率芯棒の直径が小さいほど厳しい試験であり、厳しい試験で良い評価ほど耐屈曲性が良好であると判断する。
○:樹脂被膜が割れたり、剥がれたりしておらず、折り曲げに耐えている。
△:樹脂被膜に微小のひび割れが見られる(2mm未満の亀裂)。
×:樹脂被膜が割れて、剥がれている。
【0073】
実施例、および比較例で用いたポリエステル樹脂は、以下のようにして得た。
[ポリエステル樹脂の調製例]
[ポリエステル樹脂A]
テレフタル酸(TPA)3323g、エチレングリコール(EG)683g、ネオペンチルグリコール(NPG)1042g、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体(BAEO)1898gからなる混合物をオートクレーブ中で、260℃で6時間加熱してエステル化反応をおこなった。仕込樹脂組成はTPA/EG/NPG/BAEO=100/55/50/30(モル比)であった。次いで、触媒として三酸化アンチモン1.6g(酸成分1モルあたり2.7×10−4モル)とリン酸トリエチル1.0g(酸成分1モルあたり2.7×10−4モル)を添加し、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、6時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、265℃になったところでトリメリット酸147g(酸成分1モルに対して0.035モル)を添加し、265℃で2時間撹拌して、解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出した。これを室温まで十分に冷却した後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂Aを得た。
【0074】
[ポリエステル樹脂B〜K]
ポリエステル樹脂の仕込組成、および解重合剤を、表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂Aと同様にして、ポリエステル樹脂B〜Kを得た。
【0075】
【表1】

【0076】
[ポリエステル樹脂L]
テレフタル酸3323g、エチレングリコール683g、ネオペンチルグリコール1042g、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体1898gからなる混合物をオートクレーブ中で、260℃で6時間加熱してエステル化反応をおこなった。仕込樹脂組成はTPA/EG/NPG/BAEO=100/55/50/30(モル比)であった。次いで、触媒として三酸化アンチモン1.6g(酸成分1モルあたり2.7×10−4モル)とリン酸トリエチル1.0g(酸成分1モルあたり2.7×10−4モル)を添加し、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、6時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、265℃になったところでトリメリット酸34g(酸成分1モルに対して0.008モル)を添加し、265℃で2時間撹拌して、解重合反応をおこなった。その後、系の圧力を徐々に減じて30分後に13Paとし、その後1時間脱泡をおこなった。次いで系を窒素ガスで加圧状態にしてストランド状に払出し、水冷後、カッティングしてペレット状(直径約3mm、長さ約3mm)のポリエステル樹脂Mを得た。
【0077】
[ポリエステル樹脂M]
テレフタル酸2824g、イソフタル酸166g、セバシン酸(SEA)404g、エチレングリコール683g、ネオペンチルグリコール1042g、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体1898gからなる混合物をオートクレーブ中で、240℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。仕込組成はTPA/IPA/SEA/EG/NPG/BAEO=85/5/10/55/50/30(モル比)であった。次いで、触媒としてテトラブチルチタネート2.0gを添加した後(酸成分1モルあたり3.0×10−4モル)、系の温度を240℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、5時間後に系を窒素ガスで常圧にし、トリメリット酸147g(酸成分1モルに対して0.035モル)を添加し、240℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておきシート状に樹脂を払い出した。これを室温まで冷却し、シート状のポリエステル樹脂Nを得た。
【0078】
得られたポリエステル樹脂A〜Mの最終樹脂組成および特性値を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
[実施例1]
ジャケット付きの、密閉が可能なガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、ポリエステル樹脂Aを300g、イソプロピルアルコールを250g、トリエチルアミンを11.0g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を439gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼攪拌翼(羽根付き攪拌棒)の回転速度を75rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して加熱した。つづいて、系内温度を71〜75℃に保ってさらに1時間分散工程をおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を30rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた水性分散体を、600メッシュのステンレス製フィルターで濾過しポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様の方法をおこなって得られた水性分散体を、2Lフラスコに900g仕込み、さらに蒸留水430gを仕込んで、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が約430gになったところで終了し、25℃まで冷却した。脱溶剤した水性分散体を、600メッシュのステンレス製フィルターで濾過しポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0082】
[実施例3]
ポリエステル樹脂Bを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを14.9g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を435gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0083】
[実施例4]
ポリエステル樹脂Cを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを11.4g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.5倍当量)、蒸留水を439gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0084】
[実施例5]
ポリエステル樹脂Dを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを11.4g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を439gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0085】
[実施例6]
ポリエステル樹脂Eを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを11.9g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を438gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0086】
[実施例7]
ポリエステル樹脂Fを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを8.9g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.5倍当量)、蒸留水を441gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0087】
[比較例1]
ポリエステル樹脂Gを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを10.4g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を440gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0088】
[比較例2]
ポリエステル樹脂Hを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを11.4g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を439gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0089】
[比較例3]
ポリエステル樹脂Iを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを11.9g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を438gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0090】
[比較例4]
ポリエステル樹脂Jを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを10.5g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.5倍当量)、蒸留水を439gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0091】
[比較例5]
ポリエステル樹脂Kを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを12.0g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を438gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0092】
[比較例6]
ポリエステル樹脂Lを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを8.9g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を441gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0093】
[比較例7]
ポリエステル樹脂Mを用いること、および、仕込むトリエチルアミンを9.7g(ポリエステル樹脂の酸価に対して1.2倍当量)、蒸留水を440gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0094】
[参考例1]
仕込むイソプロピルアルコールを180g、蒸留水を509gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0095】
[参考例2]
イソプロピルアルコールの代わりに、1−ヘキサノールを250g仕込むのに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0096】
[参考例3]
トリエチルアミンの代わりに、ジブチルアミンを14.1g、および蒸留水を436g仕込むのに変更すること以外は、実施例1と同様の方法をおこない、ポリエステル樹脂水性分散体を得た。
【0097】
実施例1〜7、比較例1〜7、および参考例1〜3より得られたポリエステル樹脂水性分散体の特性値、および該水性分散体を用いて得られるポリエステル樹脂被膜の特性評価結果を、表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
実施例1〜7のように、本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、長期間の保存安定性に非常に優れているだけでなく、得られる樹脂被膜は、造膜性、耐水性、耐アルコール性、耐溶剤性、耐屈曲性等の非常に優れた特性を併せ持つものであり、さらにその樹脂被膜は、水性分散体より得られるため、環境への負荷を低減できる点においても非常に優れている。
【0100】
比較例1は、構成酸成分として構成酸成分としてイソフタル酸が含有されていたため、耐溶剤性が不足していた。
【0101】
比較例2は、構成酸成分として含有する、テレフタル酸が95モル%未満であったため、耐アルコール性、耐屈曲性に乏しいものであった。
【0102】
比較例3は、構成アルコール成分として含有する、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体が、25モル%未満であったため、耐溶剤性に乏しいものであった。
【0103】
比較例4は、構成アルコール成分として含有する、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体80モル%を超えていたため、保存安定性に乏しいものであった。
【0104】
比較例5は、構成酸成分として含有する、トリメリット酸が5モル%を超えており、またテレフタル酸が95モル%未満であったため、造膜性、耐屈曲性、耐アルコール性に乏しいものであった。
【0105】
比較例6は、構成酸成分として含有する、トリメリット酸が1モル%未満であり、また、酸価が8mgKOH/g未満であったため、ポリエステル樹脂を水性媒体に分散させることができなかった。
【0106】
比較例7は、ガラス転移温度が40℃未満であったため、耐ブロッキング性に乏しいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が8mgKOH/g以上、ガラス転移温度が40〜120℃であるポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂水性分散体であって、ポリエステル樹脂は、構成する酸成分としてイソフタル酸を含有せず、かつテレフタル酸95〜100モル%、およびトリメリット酸1〜5モル%を含有し、構成するアルコール成分としてビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体を25〜80モル%含有することを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項2】
ビスフェノール類のアルキレンオキサイド誘導体が2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのエチレンオキシド付加体および/またはプロピレンオキシド付加体であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項3】
ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000〜30000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体から水性媒体を除去してなる被膜。
【請求項5】
請求項4に記載の被膜を形成してなる積層体。

【公開番号】特開2012−72308(P2012−72308A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219112(P2010−219112)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】