説明

ポリエステル樹脂組成物

【課題】本発明の目的は、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶であるにもかかわらず、炭酸エステル又はラクトンに不溶であるか、又は膨潤率1%以下であり、更に、柔軟性及び耐屈曲性に優れるポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】前記課題は、(I)一般式(1)で表される、特定のポリエステル繰り返し単位(A−1)と、一般式(2)で表される特定のポリエステル繰り返し単位(A−2)とからなるポリエステルであって、繰り返し単位(A−1)及び繰り返し単位(A−2)の合計に対して、繰り返し単位(A−1)が50〜100重量%であり、繰り返し単位(A−2)が0〜50重量%であり、前記ポリエステルが重縮合反応で製造されることを特徴とするポリエステル樹脂1〜50重量部、並びに(II)正又は負の電極活物質99〜50重量部を含有するポリエステル樹脂組成物によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極又は負極材料として使用可能なポリエステル樹脂組成物に関する。本発明のポリエステル樹脂組成物は、柔軟性及び耐屈曲性に優れることに加え、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶であるにもかかわらず、電解液に用いられる炭酸エステル又はラクトンに不溶、又は膨潤率1%以下であることからリチウム二次電池電極用バインダーとして有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型(モバイル)機器の小型化、軽量化、高機能化に伴い、この駆動電源としての電池にも小型化、高容量化、信頼性が求められている。このような用途には、一次電池よりも充電可能で、繰り返し使用に耐える二次電池が用いられる。また、自動車分野においても、昨今の環境問題の観点から燃費の向上が求められ、石油資源を消費しない、あるいは消費量を極力少なくするため電気自動車の開発が盛んとなっている。この分野においても、信頼性の他、主として軽量化の目的から電池の小型化が求められている。
【0003】
中でも特に、電源としては従来の二次電池、例えば、ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素吸蔵合金電池は電解液にアルカリ水溶液を使用しているため、低温や高温の環境下では電解液が凍結、あるいは膨張、気化してしまうためその耐環境性に問題がある。
【0004】
これらの問題を解決できるものとして、リチウムイオン二次電池(特許文献1)が用いられるようになってきた。リチウムイオン二次電池では、電解液溶媒として主として炭酸エステル又はラクトン系の有機溶媒が用いられているため、特に低温側の信頼性が向上し、寒冷地屋外での使用も可能である。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池における電極材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(特許文献2)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミドイミド(PAI)(特許文献3)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等をバインダーとして用いることが多い。これらのものはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解又は分散して、更に電極活物質を加えたスラリーを、各種塗装法によって簡便にシート状に成形でき、加えて、電解液溶媒である炭酸エステル類に不溶であるため好適に用いられている。しかしながら、例えば、PVdF又はPAIの場合においては樹脂そのもの自体が硬く、脆いことから、電極活物質を加えてしまうと更に硬脆くなり、小型化するための曲げ加工を行ったりすると電極が破壊されるという問題点を有している。一方、SBRの場合には、柔軟性には優れているが、その軟化温度が低いために高温環境下での使用が困難であるという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−14607号公報
【特許文献2】特開2007−42620号公報
【特許文献3】特開2008−27766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記のような状況に鑑みてなされたものであり、すなわち本発明の目的は、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶であるにもかかわらず、炭酸エステル又はラクトンに不溶であるか、又は膨潤率1%以下であり、更に、柔軟性及び耐屈曲性に優れるポリエステル樹脂組成物を提供することである。更に、高温又は低温といった環境下においても、使用することのできるポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、柔軟性及び耐屈曲性、並びに高温又は低温における環境下で使用できるリチウムイオン2次電池の正極又は負極のバインダー用のポリエステル樹脂組成物について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の繰り返し単位を有するポリエステル樹脂が、リチウムイオン2次電池のバインダーとして、優れた柔軟性及び耐屈曲性を有し、更に高温又は低温における環境下で使用できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、(I)一般式(1):
【化1】

(式中、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジカルボン酸残基;又は非置換若しくは置換された炭素数6〜20の芳香族ジカルボン酸残基、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基である、ジオール残基(但し、Xがアルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である);又は炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数20〜48のジオール残基である)
で表されるポリエステル繰り返し単位(A−1)と、
一般式(2):
【化2】

(式中、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数18〜46のジカルボン酸残基、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;又は−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基である、ジオール残基(但し、Xが、アルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが、脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である));
で表されるポリエステル繰り返し単位(A−2)とからなるポリエステルであって、
繰り返し単位(A−1)及び繰り返し単位(A−2)の合計に対して、繰り返し単位(A−1)が50〜100重量%であり、繰り返し単位(A−2)が0〜50重量%であり、
前記ポリエステルが重縮合反応で製造されることを特徴とするポリエステル樹脂1〜50重量部、並びに
(II)正又は負の電極活物質99〜50重量部、
を含有するポリエステル樹脂組成物に関する。
本発明のポリエステル樹脂組成物の好ましい態様においては、前記Rが繰り返し単位ごとに同一であって、炭素数4〜20の非置換の脂肪族ジカルボン酸残基、又は炭素数4〜20の非置換の脂環式ジカルボン酸残基であり、前記Rが繰り返し単位ごとに同一である。
本発明のポリエステル樹脂組成物の好ましい態様においては、前記ポリエステル樹脂(I)が、N−メチル−2−ピロリドンに5重量%で可溶であり、炭酸エステル又はラクトンに対して、不溶又は膨潤率1%以下である。
【発明の効果】
【0009】
発明のポリエステル樹脂組成物は、リチウムイオン二次電池の正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶であるにもかかわらず、炭酸エステル又はラクトンに不溶又は膨潤率1%以下であり、更に、そのポリエステル樹脂組成物が柔軟性及び耐屈曲性に優れ、更には高温、あるいは低温といった環境下で使用することができることからリチウムイオン二次電池電極の正極又は負極として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ある特定の組成より構成されたポリエステル樹脂(I)及び正又は負の電極活物質(II)を含有してなる。
【0011】
《ポリエステル樹脂(I)》
本発明のポリエステル樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂(I)は、ポリエステル繰り返し単位(A−1)(以下、単に成分(A−1)と称することがある)と、ポリエステル繰り返し単位(A−2)(以下、単に成分(A−2)と称することがある)を重縮合するという製造方法によって得られる。
【0012】
〔成分(A−1)〕
成分(A−1)は、下記一般式(1)によって表される。
【化3】

【0013】
は、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジカルボン酸残基;又は非置換若しくは置換された炭素数6〜20の芳香族ジカルボン酸残基である。本明細書において、「ジカルボン酸残基」は式(1)又は(2)の2つの炭素原子と結合しているR又はRの残基を意味する。また、前記Rの脂肪族ジカルボン酸残基、脂環式ジカルボン酸残基、及び芳香族ジカルボン酸残基の炭素数には、置換基の炭素数を含まないものとする。
【0014】
前記脂肪族ジカルボン酸残基は、好ましくは炭素数4〜18、更に好ましくは6〜16である。また、脂肪族ジカルボン酸残基は、直鎖状又は分枝状でもよく、飽和又は2重結合若しくは3重結合を有する不飽和脂肪族ジカルボン酸残基でもよい。すなわち、直鎖状又は分枝状、及び飽和又は不飽和アルキレン基であることができ、好ましくは直鎖飽和アルキレン基である。なお、本明細書において、脂肪族ジカルボン酸残基は、環状基を含まない脂肪族のジカルボン酸残基を意味する。
前記脂環式ジカルボン酸残基は、好ましくは炭素数4〜18、更に好ましくは4〜16であり、最も好ましくは5〜11である。前記芳香族ジカルボン酸残基は、好ましくは炭素数6〜18である。
また、ジカルボン酸残基の置換基は、本発明のポリエステル樹脂組成物の効果を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルケニル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を挙げることができる。
【0015】
前記式(1)中の−CO−R−CO−の基を得るために用いることのできるジカルボン酸としては、炭素数6〜22の脂肪族ジカルボン酸、炭素数6〜22の脂環式ジカルボン酸、又は炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸を用いることができ、具体例として、炭素数6〜22の脂肪族ジカルボン酸としては例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、オクタデセンジオン酸、ドコサンジオン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、8−エチルオクタデカン二酸、エイコサン二酸;炭素数6〜22の脂環式ジカルボン酸としては例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸;炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸としては例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸;等が挙げられる。特に、炭酸エステル又はラクトンに対する溶解性又は膨潤率、得られるポリエステル樹脂の力学特性を向上させるという観点からアゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、及びテレフタル酸からなる群の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0016】
前記Rのジカルボン酸残基は、繰り返し単位ごとに同一又は異なっていてもよい。すなわち、前記ポリエステル樹脂のジカルボン酸残基は、1種類のジカルボン酸残基でもよく、2種類以上のジカルボン酸残基でもよいが、得られるポリエステル樹脂(I)の融点が低下することがなく、また力学的強度の低下もないことから、1種類のジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0017】
前記炭素数6〜22の脂肪族ジカルボン酸、炭素数6〜22の脂環式ジカルボン酸、又は炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸は、遊離ジカルボン酸であってもエステル誘導体、例えばジカルボン酸メチルエステルであってもよい。遊離ジカルボン酸の場合は脱水反応、エステル誘導体の場合は対応する脱アルコール反応となる。
【0018】
前記式(1)のRは、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基であるジオール残基(但し、Xがアルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である)(以下、脂環式基含有ジオール残基と称する);又は炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数20〜48のジオール残基(以下、ダイマージオール残基と称する)である。本明細書において、「ジオール残基」は式(1)又は(2)の2つの酸素原子と結合しているR又はRの残基を意味する。なお、本明細書において、前記Rの脂肪族ジオール残基、及び脂環式ジオール残基の炭素数には、置換基の炭素数を含まないものとする。また、脂環式基含有ジオール残基のアルキレン基の炭素数も置換基の炭素数を含まないものとする。
【0019】
前記脂肪族ジオール残基は、好ましくは炭素数4〜18、更に好ましくは6〜16である。また、脂肪族ジオール残基は、直鎖状又は分枝状でもよく、飽和又は2重結合若しくは3重結合を有する不飽和脂肪族ジオール残基でもよい。すなわち、直鎖状又は分枝状、及び飽和又は不飽和アルキレン基であることができ、好ましくは直鎖飽和アルキレン基である。前記脂環式ジオール残基は、好ましくは炭素数4〜10、更に好ましくは6〜8である。
また、ジオール残基の置換基は、本発明のポリエステル樹脂組成物の効果を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルケニル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を挙げることができる。
【0020】
前記脂環式基含有ジオール残基のアルキレン基は、飽和又は不飽和の炭素数1〜4のアルキレン基であり、好ましくは飽和のアルキレン基であり、炭素数は好ましくは1〜3である。アルキレン基の置換基である炭素数1〜4のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜2である。脂環式基含有ジオール残基の脂環式基は、飽和又は不飽和の炭素数4から8のシクロアルキレン基であり、好ましくは飽和のシクロアルキレン基であり、より好ましくはシクロへキシレン基である。
【0021】
また、前記ダイマージオール残基は、後述のダイマー酸を還元反応して得られるジオール由来のジオール残基である。従って、得られたジオールは、主に二量体化物を含み、少量の三量体化物を含む混合物である。ダイマー酸を製造するための不飽和脂肪酸は、炭素数10〜24が好ましく、炭素数14〜22が好ましく、炭素数16〜20がより好ましく、炭素数18が最も好ましい。従って、ダイマー酸から得られるジオールは、炭素数20〜48であり、炭素数28〜44が好ましく、炭素数32〜40がより好ましく、36が最も好ましい。また、本発明に用いるポリエステル樹脂においては、二量体化物含有量が93重量%以上、好ましくは95重量%以上であるジオールを用いることが好ましい。
なお、ダイマージオール残基においては、三量体化したジオール残基又はトリオール残基が、7重量%未満で含まれることがあるが、それらのジオール残基又はトリオール残基が含まれていても同じ効果を得ることができる。従って、本明細書において、「炭素数20〜44のジオール残基」は、7重量%未満の三量体化したジオール残基又はトリオール残基を含むダイマージオール残基をも含む概念である。より好ましい「炭素数20〜44のジオール残基」は、5重量%未満の三量体化したジオール残基又はトリオール残基を含むものである。
【0022】
前記式(1)中の−O−R−O−の基を得るために用いることのできるジオールとしては、例えば、脂肪族ジオールの場合には、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,18−オクタデカ−9−エンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール;脂環式ジオールの場合には、シクロペンタジエン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、又はシクロヘキサン−1,4−ジオール;脂環式基含有ジオール残基の場合には、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、水添ビスフェノールA、又は水添ビスフェノールF;ダイマージオール残基の場合には、ダイマー酸(二量体化脂肪酸)を還元反応したダイマージオール等のジオールが挙げられる。
中でも、炭酸エステル又はラクトンに対する溶解性又は膨潤率、得られるポリエステル樹脂の力学特性を向上させるという観点から、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマージオールが好ましい。
【0023】
前記Rのジオール残基は、繰り返し単位ごとに同一又は異なっていてもよい。すなわち、前記ポリエステル樹脂のジオール残基は、1種類のジオール残基でもよく、2種類以上のジオール残基でもよいが、得られるポリエステル樹脂(I)の融点が低下することがなく、また力学的強度の低下もないことから、1種類のジオール等を用いることが好ましい。なお、本発明に用いるポリエステル樹脂のダイマージオール残基においては、三量体化したジオール残基又はトリオール残基が、7重量%未満で含まれることがあるが、それらの残基が含まれていても同一のジオール残基を用いたものと同じ効果を得ることができる。従って、本明細書において、ダイマー酸を還元反応して得られるジオール由来のジオール残基であって、7重量%未満の三量体化したジオール残基又はトリオール残基が含まれるものも、「同一のジオール残基」である。より好ましい「同一のジオール残基」は、7重量%未満の三量体化したジオール残基又はトリオール残基が含まれるものである。
【0024】
〔成分(A−2)〕
成分(A−2)は、下記一般式(2)によって表される。
【化4】

【0025】
は、炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数18〜46のジカルボン酸残基(以下、ダイマー酸ジカルボン酸残基と称する)である。
【0026】
前記式(2)中の−CO−R−CO−の基を得るために用いることのできる二量体化脂肪酸(ダイマー酸)としては、詳しくは、炭素数10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸をディールス−アルダー反応させて得た二量体化脂肪酸(ダイマー酸)を挙げることができる。より詳しくは、具体例として、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸、米糠油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸等の天然の脂肪酸及びこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得た二量体化脂肪酸(ダイマー酸)が用いられる。
【0027】
前記二量体化脂肪酸(ダイマー酸)は、通常、二量体化物を主成分とし、他に、原料の脂肪酸や三量体化物を含む混合物として得られるものである。中でも、本発明においては、二量体化物含有量が70重量%以上、好ましくは95重量%以上である二量体化脂肪酸(ダイマー酸)を用いることが好ましい。更に、水素添加(水添反応)して不飽和度を下げた二量体化脂肪酸(ダイマー酸)が、耐酸化性、特に反応時の温度における着色回避、最終的に得られるポリエステル樹脂の環境安定性の観点から特に好適に用いられる。
なお、ダイマー酸ジカルボン酸残基においては、三量体化したジカルボン酸残基又はトリカルボン酸残基が、30重量%未満で含まれることがあるが、それらの残基によっても同じ効果を得ることができる。従って、本明細書において、「炭素数18〜46のジカルボン酸残基」は、30重量%未満の三量体化したジカルボン酸残基又はトリカルボン酸残基を含むダイマー酸ジカルボン酸残基を意味する。なお、好ましい「炭素数18〜46のジカルボン酸残基」は、三量体化したジカルボン酸残基又はトリカルボン酸残基の含有量が好ましくは93重量%未満であり、より好ましくは95重量%未満である。
【0028】
前記二量体化脂肪酸(ダイマー酸)は公知の反応によって得ることができるが、市販品を用いることもできる。好ましい市販品の例としては例えば、プリポール1004,1009,1010(以上、クローダ(株)製)、エンポール1008(コグニス(株)製)等が挙げられる。
【0029】
前記のように、ダイマー酸ジカルボン酸残基は、不飽和脂肪酸を重合して得られた二量体化物及び三量体化物を含む混合物である。重合脂肪酸(ダイマー酸)を製造するための不飽和脂肪酸は、炭素数10〜24が好ましく、炭素数14〜22がより好ましく、炭素数16〜20が更に好ましく、炭素数18が最も好ましい。従って、重合脂肪酸(ダイマー酸)は、炭素数18〜46が好ましく、炭素数26〜42がより好ましく、炭素数30〜38が更に好ましく、34が最も好ましい。本発明においては、二量体化物含有量が70重量%以上、好ましくは95重量%以上である重合脂肪酸(ダイマー酸)を用いることが好ましい。
【0030】
前記二量体化脂肪酸(ダイマー酸)としては、遊離のダイマー酸であってもエステル誘導体、例えばダイマー酸ジメチルエステルであってもよい。前記同様に、遊離ダイマー酸の場合は脱水反応、エステル誘導体の場合は対応する脱アルコール反応となる。
【0031】
前記式(2)中、Rは非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;又は−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基であるジオール残基(但し、Xがアルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である)である。従って、Rは、ダイマージオール残基を除いて、Rと同様のものを用いることができ、−CO−R−CO−の基を得るために用いることができるジオールも、−CO−R−CO−の基を得るために用いることができる、ダイマージオール以外のジオールと同じものを用いることが可能である。
【0032】
本発明において、前記Rのジオール残基は、繰り返し単位ごとに同一又は異なっていてもよい。すなわち、前記ポリエステル樹脂のジオール残基は、1種類のジオール残基でもよく、2種類以上のジオール残基でもよいが、得られるポリエステル樹脂(I)の融点が低下することがなく、また力学的強度の低下もないことから、1種類のジオール等を用いることが好ましい。
【0033】
更に本発明においては、繰り返し単位(A−1)及び繰り返し単位(A−2)の合計に対して、繰り返し単位(A−1)が50〜100重量%であり、繰り返し単位(A−2)が0〜50重量%である。言い換えると、成分(A−1)と成分(A−2)の重量比、(A−1):(A−2)が10:0〜5:5であることを特徴とする。
繰り返し単位(A−1)が50重量%未満の場合、すなわち(A−1):(A−2)が5:5を超えて(A−2)の方が多くなる場合には、得られるポリエステル樹脂(I)の結晶化度が小さくなってタックを生じたり、高粘度液状となってしまいハンドリング性が著しく低下することがある。また、ここで、繰り返し単位(A−2)の重量%が0重量%であることは、成分(A−2)が全く入っていないことを意味する。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂(I)の製造には、公知慣用の重縮合法によって製造できる。一般に工業的には、触媒存在下あるいは非存在下において150〜300℃で1〜24時間程度の反応を行う。脱水あるいは脱アルコール反応を促進し、高温のよる着色、分解反応を避けるために、180〜270℃で大気圧以下の減圧下で反応を行うのが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂(I)の製造においては、成分(A−1)及び(A−2)に対応する原料を一度に仕込んで反応させても良いし、成分(A−1)及び成分(A−2)を別々に合成した後、更に反応させてもよい。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂(I)を製造する場合、意図的に末端官能基(水酸基、又はカルボキシル基)を残すように成分(A−1)及び成分(A−2)のジカルボン酸成分、又はジオール成分の量を調整してもよいし、全く残らないように成分(A−1)及び成分(A−2)の量を調整してもよい。
重縮合反応であるために、意図的に末端官能基を残す場合には、必然的に最終的なポリエステル樹脂(I)の分子量、即ち粘度が決まる。一方、末端官能基が全く残らないように調整した場合、完全に反応してしまうと非常に高分子量、高粘度となり、取り扱いが困難になることがある。このような場合には、意図的に僅かの末端官能基を残すように調整するか、例え、末端官能基が残らないように調整した場合でも、所望する粘度に達するまで反応を継続すればよい。
【0037】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、3,000〜30,000であり、より好ましくは、5,000〜20,000であり、最も好ましくは、8,000〜16,000である。数平均分子量が3,000未満である場合には、最終的に得られるポリエステル樹脂組成物の力学特性、特に強度が得られなくなることがある。また、数平均分子量が30,000を超える場合には、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に溶解した場合に高粘度となり、塗工性が低下することがある。
【0038】
《ポリエステル樹脂(I)におけるその他の添加剤》
本発明におけるポリエステル樹脂(I)には、各種添加剤を含むことができる。特に、ポリエステル樹脂(I)の酸化分解、熱分解、着色を防止する目的で、安定剤を含むことが好ましい。このような安定剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、N,N−ヘキサメチレンビス(3,3−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナマイド)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス[2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、2−t−ブチル−α−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−p−クメニルビス(p−ノニルフェニル)ホスファイト、ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3−チオジプロピオネート等の熱安定剤等が挙げられる。これらの安定剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、一般的にはヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤を組み合わせて用いると酸化防止効果が高くなり好ましい。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂(I)は、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶であるにもかかわらず、1mol/Lの濃度で6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解したプロピレンカーボネート(以下、PCと称することがある)に対して不溶、あるいは膨潤率1%以下であることを特徴とする。このPCに代表される炭酸エステル又はラクトンは、リチウムイオン二次電池の電解液の主溶剤として用いられるものであり、例えば、炭酸ジメチル、又は炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、若しくはビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル又はこれらのフッ素化物、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトンが用いられ、工業的に多くの場合、プロピレンカーボネートが用いられることが多い。また、上記6フッ化リン酸リチウム(LiPF)はリチウムイオン二次電池の電解質として汎用的に用いられている。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂(I)は、正極又は負極の成形に用いる特定の溶剤に可溶である。正極又は負極の成形に用いる溶剤として、例えばN−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、又はシクロヘキサノンを挙げることができる。本発明のポリエステル樹脂(I)は、前記の溶剤(特には、N−メチル−2−ピロリドン)に対して、好ましくは5重量%で均一に溶解することができるものであり、より好ましくは10重量%で均一に溶解することができるものである。
【0041】
《正又は負の電極活物質(II)》
本発明における電極活物質(II)としては、リチウムイオン電池の構成において正極活物質、及び/又は負極活物質を含有する。
【0042】
(正極)
本発明に係わる正極活物質としては、リチウム含有金属化合物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、又はこれらの金属元素(Li、Co、Ni、Mn)に一部が他の金属元素、例えば、Al、Ti、Zr、Nb、Sr、Cu、Mg等で置換された複合金属酸化物が用いられる。中でも、電解液が高温にさらされたときの安定性の点からLiCoO、又はCoの一部が他の金属で置換された複合金属酸化物が好ましく用いられる。また、Oの一部が他の元素、例えば、S、ハロゲンで置換されていてもよい。これらの正極活物質は1種類あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、正極には、前記正極活物質のほか、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長型炭素繊維(VGCF)等の導電性炭素材料が用いられる。これらの導電助剤は1種類あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
(負極)
本発明に係わる負極活物質としては、リチウム金属そのもの、あるいはリチウム合金、例えば、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−ケイ素合金、リチウム−スズ合金等が好ましく用いられる。これらの負極活物質は、1種類あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、負極には、前記負極活物質のほか、前記正極の項で例示した導電助剤を含むことができる。
【0046】
《ポリエステル樹脂組成物》
本発明においては、前記ポリエステル樹脂(I)1〜50重量部、及び正又は負の電極活物質(II)99〜50重量部含有することを特徴とする。前記ポリエステル樹脂(I)が1重量部未満の場合には、組成物が脆いものとなることがあり好ましくない。また、前記ポリエステル樹脂(I)が50重量部を超える場合には、電極活物質量が相対的に減少するため、抵抗が大きくなり所望する電流量が得られない場合がある。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、炭酸エステル又はラクトンに不溶であるか、又は膨潤率1%以下であり、更に柔軟性及び耐屈曲性に優れることから、リチウムイオン二次電池における電極形成バインダーとして有効である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。以下の例示において「部」は特に示さない限り「重量部」を意味するものとする。
【0049】
[合成例1]<ポリエステル樹脂(I)の合成例>
機械式撹拌装置、温度計、脱水トラップ、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、成分(A−1)としてアジピン酸 28.9部、1,6−ヘキサンジオール 23.4部、成分(A−2)として炭素数36の水添ダイマー酸(二量体化脂肪酸、ダイマー酸含有率98%、クローダ(株)製プライポール1009)39.5部、1,6−ヘキサンジオール8.2部を入れ(実際の実験操作では1,6−ヘキサンジオールを分割せず、23.4+8.2=31.6部を一度に入れている。)、3時間かけて250℃まで昇温した。このとき約150℃付近から縮合水が流出してきた。250℃で15mmHg、30分減圧した後、更に同温度で3mmHg、30分間減圧して縮合水を除去した。減圧を解除し、エステル化触媒のステアリン酸ジルコニル0.2部を添加して更に同温度で3mmHg、2時間反応させた。反応混合物をテフロン(登録商標)バット上に取り出して、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)が20g/10分、数平均分子量(Mn)が12,000である目的とするポリエステル樹脂(I)を得た。
【0050】
[合成例2〜9、比較合成例1〜2]<ポリエステル樹脂(I)の合成例>
原料それぞれの配合量を表1に示したように変更した以外は参考例1と同様にして、本特許の請求範囲内、及び範囲外となるポリエステル樹脂(I)を得た。
なお、成分(A−1)に用いたダイマージオール(プライポール2033)及び成分(A−2)に用いたダイマー酸(プライポール1009)の2量体の含量は、それぞれ98.5%である。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例1]
合成例1で得られたポリエステル樹脂(I)を新興セルビック(株)製手動射出成型機を用いて、長さ60mmx幅60mmx厚さ2mmに成形して試験片を作製した。
【0053】
[実施例2〜9、比較例1〜2]
用いたポリエステル樹脂(I)を、それぞれ合成例2〜9、及び比較合成例1〜2で得られたものに代えた以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。比較合成例2で得られたポリエステル樹脂(I)を用いた場合には、試験片表面にタックを生じ、金型から取り出すときに試験片が変形した。
【0054】
[比較例3]
クレハ(株)製ポリフッ化ビニリデン樹脂W#1300を、東洋精機(株)製ミニテストプレス−10を用いて、220℃、10MPaの条件で2mm厚に成形した。更にこの成形板を10mmx60mmに切り出して試験片を作製した。
【0055】
<評価方法>
下記項目について評価し、結果を表2に示した。
【0056】
《各種溶剤への溶解性》
合成例1〜9、及び比較合成例1〜2で得られたポリエステル樹脂を10重量%の水準で、及び比較例3のポリフッ化ビニリデンを5重量%の水準で、表2に示したリチウムイオン2次電池の正極又は負極の成形に用いる溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、又はシクロヘキサノン)に加熱、溶解した後室温(23℃)まで冷却した溶液の状態を目視で観察した。○:均一に溶解し、流動性あり、△:均一溶解しているが、室温まで冷却した時に流動性なし、×:加熱時に溶解しない、又は室温冷却時に樹脂と溶剤が分離した状態、の3種類で評価した。
【0057】
《リチウムイオン二次電池電解液に対する膨潤率》
実施例1〜9、及び比較例1、3で作製した試験片を、1mol/Lの濃度で6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解したプロピレンカーボネート(PC)に、23℃で7日間浸漬した後の重量を測定し、下記式により膨潤率を求めた。
(膨潤率)%={(浸漬後の重量)g/(浸漬前の重量)g}×100
【0058】
《柔軟性》
実施例1〜9及び比較例1、3で作製した試験片を、島津製作所(株)製オートグラフAGS−5kNDを用いて2mm/minで引張試験を行い、引張弾性率を柔軟性の指標とした。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステル樹脂は、各種溶剤溶解性に優れる一方、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解したPCに対する膨潤率が小さく、また、柔軟性に優れることから、電極活物質を添加したポリエステル樹脂組成物はリチウムイオン二次電池用電極に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)一般式(1):
【化1】

(式中、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジカルボン酸残基;又は非置換若しくは置換された炭素数6〜20の芳香族ジカルボン酸残基、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基である、ジオール残基(但し、Xがアルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である);又は炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数20〜48のジオール残基である)
で表されるポリエステル繰り返し単位(A−1)と、
一般式(2):
【化2】

(式中、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が重合したジカルボン酸から得られる炭素数18〜46のジカルボン酸残基、
は、繰り返し単位ごとに同一又は異なり、非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂肪族ジオール残基;非置換若しくは置換された炭素数4〜20の脂環式ジオール残基;又は−X−Y−Z−で表されるジオール残基であって、X、Y及びZは、それぞれ独立して、非置換若しくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレン基又は炭素数4〜8の2価の脂環式基である、ジオール残基(但し、Xが、アルキレン基の場合、Yは脂環式基及びZはアルキレン基であり、Xが、脂環式基の場合、Yはアルキレン基及びZは脂環式基である));
で表されるポリエステル繰り返し単位(A−2)とからなるポリエステルであって、
繰り返し単位(A−1)及び繰り返し単位(A−2)の合計に対して、繰り返し単位(A−1)が50〜100重量%であり、繰り返し単位(A−2)が0〜50重量%であり、
前記ポリエステルが重縮合反応で製造されることを特徴とするポリエステル樹脂1〜50重量部、並びに
(II)正又は負の電極活物質99〜50重量部、
を含有するポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記Rが繰り返し単位ごとに同一であって、炭素数4〜20の非置換の脂肪族ジカルボン酸残基、又は炭素数4〜20の非置換の脂環式ジカルボン酸残基であり、前記Rが繰り返し単位ごとに同一である、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(I)が、N−メチル−2−ピロリドンに5重量%で可溶であり、炭酸エステル又はラクトンに対して、不溶又は膨潤率1%以下である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−241070(P2012−241070A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110649(P2011−110649)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(592215435)株式会社ティ−アンドケイ東華 (12)
【Fターム(参考)】