説明

ポリエステル樹脂

【課題】 ガスバリア性に優れると共に、紫外線遮断性、及び色調等にも優れた成形体を得ることができ、特に保香性が求められる飲食品用等のボトルの成形に好適なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分の含有量が全ジカルボン酸成分に対して4モル%以下であると共に、280℃で射出成形した厚さ3.5mmの成形体における、波長395nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.08以上、同じく波長500nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.05以下であるポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性に優れると共に、紫外線遮断性、及び色調等にも優れた成形体を得ることができ、特に保香性が求められる飲食品用等のボトルの成形に好適なポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、各種飲食品等の包装容器等として広く用いられており、特に、果汁飲料等の加熱殺菌充填を必要とする飲食品容器として、延伸しヒートセットを施すことにより高ガスバリア性を付与したボトルが急速な伸びを示すに到っている。これらのボトルは、例えば、有底管状の予備成形体を射出成形し、その予備成形体を再加熱して軟化させた後、延伸ブロー成形することにより製造され、その際、ブロー金型を加熱しておくことによってボトルにヒートセットを施し、延伸による分子鎖の配向結晶を固定化し高ガスバリア性を発現させている。
【0003】
所が、これらの飲食品容器分野において用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、汎用ボトル用として多用されているアンチモン化合物を重縮合触媒としたポリエチレンテレフタレート樹脂においては、透明性を発現さすべく、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の、例えばイソフタル酸やジエチレングリコール等の共重合成分を全ジカルボン酸成分に対して3〜10モル%程度共重合させていることから、意図するガスバリア性が得られないこととなって、ボトルとしての保香性が低下して内容物の香りを低下させ、又、紫外線遮断性が劣っていて内容物の香味成分や色調を劣化させる等の問題があり、一方、耐熱ボトル用として多用されているゲルマニウム化合物を重縮合触媒としたポリエチレンテレフタレート樹脂においては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分は全ジカルボン酸成分に対して2超過〜5モル%程度と比較的少量共重合させればよいものの、前述の保香性の低下の問題は依然として解決し得ているものではなく、又、紫外線遮断性も劣るものであった。
【0004】
又、チタン化合物を重縮合触媒として用いたポリエチレンテレフタレート樹脂も数多く提案されているが、得られる樹脂が黄味がかった色調となり、又、加熱された後の色調の変化も大きく熱安定性に欠けるという問題があり、これに対して、例えば、特開平8−73581号公報には、チタン化合物、コバルト化合物、及び、燐酸、亜燐酸及び/又はホスホン酸或いはそれらの誘導体からなる限定された量の錯形成剤を用いることによる無彩色の透明性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法が開示されている。しかしながら、本発明者等の検討によると、この方法によって得られるポリエチレンテレフタレート樹脂は、前述の保香性低下等の問題に解決を与え得るものではないことが判明した。
【特許文献1】特開平8−73581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の従来技術に鑑みてなされたもので、ガスバリア性に優れると共に、紫外線遮断性、及び色調等にも優れた成形体を得ることができ、特に保香性が求められる飲食品用等のボトルの成形に好適なポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分の含有量が全ジカルボン酸成分に対して4モル%以下であると共に、280℃で射出成形した厚さ3.5mmの成形体における、波長395nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.08以上、同じく波長500nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.05以下であるポリエステル樹脂、を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガスバリア性に優れると共に、紫外線遮断性、及び色調等にも優れた成形体を得ることができ、特に保香性が求められる飲食品用等のボトルの成形に好適なポリエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造されたものであり、テレフタル酸成分が全ジカルボン酸成分の96モル%以上、更には99モル%以上を占めるジカルボン酸成分と、エチレングリコール成分が全ジオール成分の96モル%以上、更には97モル%以上を占めるジオール成分との重縮合体であるのが好ましい。テレフタル酸成分の全ジカルボン酸成分に占める割合、及びエチレングリコール成分の全ジオール成分に占める割合が前記範囲未満では、ボトル等に成形する際の延伸による分子鎖の配向結晶化が不充分となり、ボトル等の成形体としての機械的強度、ガスバリア性、及び耐熱性等が不足する傾向となる。
【0009】
そして、本発明のポリエステル樹脂は、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分の含有量が全ジカルボン酸成分に対して4モル%以下であることが必須であり、3モル%以下であるのが好ましく、2モル%以下であるのが更に好ましい。共重合成分の含有量が前記範囲超過では、保香性等に優れた成形体を得ることが困難となる。
【0010】
尚、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。又、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びに、これらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル、及びハロゲン化物、等が挙げられる。中で、本発明においては、フェニレンジオキシジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0011】
又、エチレングリコール以外のジオール成分としては、反応系内で副生するジエチレングリコールが挙げられ、そのジエチレングリコールの全ジカルボン酸成分に占める割合は、共重合成分として系外から添加される分も含め4モル%以下であるのが好ましく、3モル%以下であるのが更に好ましく、2モル%以下であるのが特に好ましい。又、その他のジオール成分としては、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、等が挙げられる。
【0012】
更に、共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等が挙げられる。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、280℃で射出成形した厚さ3.5mmの成形体における、波長395nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.08以上以上であることを必須とし、この吸光度の差が0.15以上であるのが好ましく、0.20以上であるのが更に好ましい。この吸光度の差が前記範囲未満では、紫外線遮断性に優れた成形体を得ることが困難となる。
【0014】
更に、本発明のポリエステル樹脂は、280℃で射出成形した厚さ3.5mmの成形体における、波長500nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.05以下であることを必須とし、この吸光度の差が0.04以下であるのが好ましく、0.03以下であるのが更に好ましい。この吸光度の差が前記範囲未満では、色調に優れた成形体を得ることが困難となる。
【0015】
尚、ここで、成形体の吸光度は、紫外可視吸収光度計を用いて、波長範囲300〜800nmをスキャン速度127nm/分で測定したときの各波長における値である。
【0016】
又、本発明のポリエステル樹脂は、280℃での射出成形後の成形体における樹脂の昇温結晶化温度(Tc)が150〜180℃であるのが好ましく、155〜165℃であるのが更に好ましく、157〜164℃であるのが特に好ましい。この昇温結晶化温度(Tc)は、ボトルを成形する際の口栓部等の結晶化速度に関係し、昇温結晶化温度(Tc)が前記範囲未満及び前記範囲超過のいずれの場合であっても、ボトルとしての口栓部の寸法安定性が劣り、口栓部からのガス漏れ、保香性の低下等の問題を生じ易い傾向となる。
【0017】
尚、ここで、昇温結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計を用いて、窒素気流下、20℃から285℃まで20℃/分の速度で昇温させ、その途中で観察される結晶化ピーク温度を測定したものである。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂は、固有粘度(〔η〕)が、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒の溶液で30℃で測定した値として、0.70〜0.90dl/gであるのが好ましく、0.70〜0.80dl/gであるのが更に好ましい。固有粘度(〔η〕)が前記範囲未満では、ボトル等の成形体としての機械的強度が不足する傾向となり、一方、前記範囲超過では、ボトル等の成形性が低下する傾向となる。又、色調として、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値が4以下であるのが好ましく、−5〜2であるのが更に好ましい。b値が前記範囲超過では、ボトル等の成形体としての色調が黄味がかる傾向となる。又、環状三量体含有量(CT)が0.50重量%以下であるのが好ましく、0.40重量%以下であるのが更に好ましい。環状三量体含有量(CT)が前記範囲超過では、ボトル等の成形時に金型汚染を生じ易い傾向となる。
【0019】
そして、本発明においては、前述の共重合成分の含有量、固有粘度(〔η〕)、色座標b値、及び環状三量体含有量(CT)、並びに、280℃での射出成形後の成形体における吸光度、及び昇温結晶化温度(Tc)等を前記範囲のものとするために、ポリエステル樹脂の重縮合はチタン化合物の存在下になされたものであるのが好ましく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には該チタン化合物が含有されるのが好ましい。
【0020】
ここで、そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中で、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0021】
又、重縮合は、その重縮合性、得られる樹脂のアセトアルデヒドや環状三量体等の副生成物の低減化、及び色調、並びに、成形体としての吸光度、昇温結晶化温度等の面から、燐化合物と、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物との共存下に重縮合されたものであるのが好ましく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には該燐化合物、及び、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物が含有されるのが好ましい。
【0022】
ここで、その燐化合物としては、具体的には、例えば、正燐酸、ポリ燐酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価の燐化合物、亜燐酸、次亜燐酸、及び、ジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価の燐化合物等が挙げられ、中で、正燐酸、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜燐酸が好ましく、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0023】
又、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物としては、エチレングリコール等のジオールや水に可溶の化合物であって、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン等の、酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等、具体的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マンガン、水酸化マンガン、酢酸マンガン等が挙げられる。中で、マグネシウム化合物、マンガン化合物が好ましく、マグネシウム化合物が特に好ましい。
【0024】
本発明において、前記チタン化合物、前記燐化合物、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物の重縮合時の各使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における各含有量は、ポリエステル樹脂1トン当たり、チタン原子(Ti)として0.002〜1モルであるのが好ましく、0.002〜0.5モルであるのが更に好ましく、0.002〜0.2モルであるのが特に好ましい。又、燐原子(P)として0.02〜4モルであるのが好ましく、0.02〜2モルであるのが更に好ましく、又、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物の原子の合計(M)として0.04〜5モルであるのが好ましく、0.04〜3モルであるのが更に好ましい。尚、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物として好ましいとするマグネシウム化合物においては、マグネシウム原子(Mg)として0.1〜3モルであるのが好ましく、0.3〜1モルであるのが更に好ましい。
【0025】
又、前記チタン化合物、前記燐化合物、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物の各化合物の量が、チタン原子(Ti)、燐原子(P)、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素、及びマンガンの原子の合計(M)として、前記範囲のモル量を満足した上で、チタン原子(Ti)に対する燐原子(P)のモル比〔P/Ti〕が0.5〜50、更には2〜20、特には4〜10であるのが、又、チタン原子(Ti)に対する周期律表第IA族、第IIA族の金属元素、及びマンガンの原子の合計(M)のモル比〔M/Ti〕が0超過〜10、更には0超過〜3、特には1.5〜2.5であるのが、又、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素、及びマンガンの原子の合計(M)に対する燐原子(P)のモル比〔P/M〕が0超過〜10、更には1〜5、特には2〜4であるのが、又、チタン原子(Ti)と、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素、及びマンガンの原子の合計(M)との和に対する燐原子(P)のモル比〔P/(Ti+M)〕が0超過〜10、更には0.5〜5、特には1〜3であるのが、それぞれ好ましい。
【0026】
前記モル比〔P/Ti〕、前記モル比〔P/M〕、及び、前記モル比〔P/(Ti+M)〕が前記範囲未満、並びに、前記モル比〔M/Ti〕が前記範囲超過の場合にはいずれも、得られる樹脂の色調が黄味がかったものとなる傾向となり、一方、前記モル比〔P/Ti〕、前記モル比〔P/M〕、及び、前記モル比〔P/(Ti+M)〕が前記範囲超過、並びに、前記モル比〔M/Ti〕が前記範囲未満の場合にはいずれも、重縮合性が低下する傾向となる。又、前記モル比〔M/Ti〕が前記範囲未満及び前記範囲超過の場合にはいずれも、色調も悪化する傾向となる。
【0027】
尚、本発明において、重縮合は、前記チタン化合物の存在下、或いは更に、前記燐化合物と、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物との共存下であって、更に、ゲルマニウム化合物の共存下になされたものであってもよく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には該ゲルマニウム化合物が含有されていてもよい。その含有量は、ポリエステル樹脂1トン当たり、ゲルマニウム原子(Ge)として0.4モル以下であるのが好ましく、0.3モル以下であるのが更に好ましく、0.25モル以下であるのが特に好ましい。
【0028】
ここで、そのゲルマニウム化合物としては、具体的には、例えば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド等が挙げられ、中で、二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0029】
又、本発明において、重縮合時には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記各化合物以外の金属化合物を存在させてもよく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には該金属化合物が含有されていてもよい。その場合の金属化合物としては、アルミニウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、銀、錫、アンチモン、ランタン、セリウム、ハフニウム、タングステン、金等の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、燐酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等の化合物が挙げられる。尚、前記各化合物及びそれ以外の前記化合物は、エチレングリコール等のアルコールや水に可溶性のものであるのが好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂は、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て、好ましくは前記チタン化合物の存在下に重縮合させることにより製造されるが、基本的には、ポリエステル樹脂の慣用の製造方法による。即ち、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応槽で、通常240〜280℃程度の温度、通常0〜4×105Pa程度の加圧下で、攪拌下に1〜10時間程度でエステル化反応させ、或いは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、前記化合物の存在下に、通常250〜290℃程度の温度、常圧から漸次減圧として最終的に通常1333〜13.3Pa程度の減圧下で、攪拌下に1〜20時間程度で溶融重縮合させることによりなされ、これらは連続式、又は回分式でなされる。
【0031】
尚、その際、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分との原料スラリーの調製は、全ジカルボン酸成分に対する全ジオール成分のモル比を1.0〜2.5の範囲としてなすのが好ましい。又、エステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体のエステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)は、95%以上であるのが好ましい。又、エステル交換反応の場合はエステル交換触媒を用いる必要があること等から一般に得られる樹脂の透明性が劣る傾向にあるため、本発明においてはエステル化反応を経て製造されたものであるのが好ましい。
【0032】
又、重縮合時における、前記チタン化合物、前記燐化合物、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物、或いは前記ゲルマニウム化合物の反応系への添加は、エチレングリコール等のアルコールや水等の溶液として行うのが好ましく、その添加時期は、原料のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、並びに必要に応じて用いられる他のジカルボン酸成分及びジオール成分等とのスラリー調製工程、エステル化反応或いはエステル交換反応工程の任意の段階、又は、溶融重縮合工程の初期の段階のいずれであってもよいが、それらの添加順序としては、前記燐化合物、次いで、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物、或いは前記ゲルマニウム化合物、次いで、前記チタン化合物の順序でなされたものであるのが好ましい。
【0033】
各化合物の具体的添加工程としては、特に連続式製造法においては、前記燐化合物がスラリー調製工程で添加され、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物、或いは前記ゲルマニウム化合物、並びに前記チタン化合物が、エステル化反応或いはエステル交換反応工程以降で添加されたものであるのが好ましく、前記周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物、或いは前記ゲルマニウム化合物がエステル化反応或いはエステル交換反応工程で添加され、前記チタン化合物がエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体の重縮合槽への移送配管又は重縮合槽に添加されたものであるのが、特に好ましい。
【0034】
又、通常、溶融重縮合により得られた樹脂は、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状、チップ状等の粒状体とされるが、更に、この溶融重縮合後の粒状体を、通常、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は水蒸気雰囲気下、或いは水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で、通常60〜180℃程度の温度で加熱して樹脂粒状体表面を結晶化させた後、不活性ガス雰囲気下、又は/及び、1333〜13.3Pa程度の減圧下で、通常、樹脂の粘着温度直下〜80℃低い温度で、粒状体同士が膠着しないように流動等させながら、通常50時間程度以下の時間で加熱処理して固相重縮合させることが好ましく、この固相重縮合により、更に高重合度化させ得ると共に、反応副生成物のアセトアルデヒドや環状三量体等を低減化することもできる。
【0035】
又、更に、前記の如き溶融重縮合又は固相重縮合により得られた樹脂は、熱安定性の改良、成形時のアセトアルデヒドや環状三量体等の副生成物の低減化等の目的で、通常、40℃以上の温水に10分以上浸漬させる水処理、或いは、60℃以上の水蒸気又は水蒸気含有ガスに30分以上接触させる水蒸気処理等の処理が施されてもよい。
【0036】
尚、本発明のポリエステル樹脂は、前述の射出成形後の成形体における樹脂の昇温結晶化温度(Tc)を前記範囲に調整するために、必要に応じて、ポリエステル樹脂とは異種の結晶性熱可塑性樹脂を0.0001〜1000ppm、好ましくは0.0005〜100ppm、更に好ましくは0.001〜10ppmの含有量で含有していてもよく、その結晶性熱可塑性樹脂としては、代表的には、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0037】
そのポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8程度のα−オレフィンの単独重合体、それらのα−オレフィンと、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数2〜20程度の他のα−オレフィンや、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂、及び、1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体、1−ブテン−プロピレン共重合体等の1−ブテン系樹脂等が挙げられる。
【0038】
又、そのポリアミド樹脂としては、例えば、ブチロラクタム、δ−バレロラクタム、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウリルラクタム等のラクタム類の重合体、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノ酸類の重合体、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,5−ヘキサンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,11−ウンデカジアミン、1,12−ドデカンジアミン、α,ω−ジアミノポリプロピレングリコール等の脂肪族ジアミン、1,3−又は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m−又はp−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン類と、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸類との重縮合体、又はそれらの共重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/12、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等が挙げられる。
【0039】
本発明において前記ポリエステル樹脂に前記結晶性熱可塑性樹脂を含有させるには、前記ポリエステル樹脂に前記結晶性熱可塑性樹脂をその含有量が前記範囲となるように、直接に添加し溶融混練する方法、又は、マスターバッチとして添加し溶融混練する方法等の慣用の方法による外、前記結晶性熱可塑性樹脂を、前記ポリエステル樹脂の製造段階、例えば、溶融重縮合時(原料、スラリー、触媒等)、溶融重縮合直後、予備結晶化直後、固相重縮合時、固相重縮合直後等のいずれかの段階、又は、製造段階を終えてから成形段階に到るまでの間等、で粉粒体として直接に添加するか、又は、粉粒体として分散させた水等の液体とポリエステル樹脂チップ状体を接触させるか、粉粒体として混入させたエア等の気体とポリエステル樹脂チップ状体を接触させるか、或いは、ポリエステル樹脂チップ状体の流動条件下に結晶性熱可塑性樹脂の部材に接触させる等の方法で混入させた後、溶融混練する方法等によることもできる。後者方法の中では、ポリエステル樹脂の溶融重縮合後のチップ状体の、予備結晶化機への気力輸送時、又は固相重縮合槽への気力輸送時、又は、固相重縮合後のチップ状体の、貯蔵槽への気力輸送時、又は成形機への気力輸送時等に、気力輸送用エアに結晶性熱可塑性樹脂を混入しておく方法が好ましい。
【0040】
又、本発明において、ポリエステル樹脂には、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリシレート系、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、及び、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、可塑剤、着色剤、充填材等が含有されていてもよい。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂は、例えば、射出成形によってプリフォームに成形された後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形されたパリソンをブロー成形することによって、ボトル等に成形され、又、押出成形によってシートに成形された後、熱成形することによってトレイや容器等に成形され、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とされ、特に飲食品包装分野において有用なものとなる。中で、射出成形によって得られたプリフォームを二軸延伸するブロー成形法よってボトルを成形するのに好適であり、例えば、炭酸飲料、アルコール飲料、醤油、ソース、みりん、ドレッシング等の液体調味料等の容器として、更には、ヒートセットを施して、果汁飲料、ビタミン飲料、フレーバーティー等の飲料等の保香性や紫外線遮断性等を要求される容器として、好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1テレフタル酸43kg(260モル)とエチレングリコール19kg(312モル)のスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約60kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後も更に1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の約半量を重縮合槽に移送した。
【0044】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合槽に、その配管より、エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム、及びテトラ−n−ブトキシチタンを、それぞれエチレングリコール溶液として、得られるポリエステル樹脂1トン当たり、燐原子(P)として0.387モル、マグネシウム原子(M)として0.062モル、チタン原子(Ti)として0.063モルとなるように、順次5分間隔で添加した後、系内を2時間30分かけて250℃から280℃まで昇温すると共に、1時間で常圧から4×102Paに減圧して同圧を保持しつつ、得られる樹脂の固有粘度が0.55dl/gとなる時間溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷後、チップ状にカットすることにより、約50kgのポリエチレンテレフタレート樹脂を製造した。
【0045】
引き続いて、前記で得られたポリエステル樹脂チップを、約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約5分となるように連続的に供給して結晶化させ、イナートオーブン(ESPEC社製「IPHH−201型」)中で、40リットル/分の窒素気流下160℃で2時間乾燥させた後、210℃で、固有粘度が0.74dl/gとなる時間加熱して固相重縮合させた。
【0046】
得られたポリエステル樹脂チップについて、以下に示す方法で、共重合成分の含有量、各金属化合物における金属原子含有量、固有粘度(〔η〕)、色調としての色座標b値、及び環状三量体含有量(CT)を測定し、結果を表1に示した。
【0047】
共重合成分の含有量
樹脂試料を重水素化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%となるように溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」)を用いて、1H−NMRを測定して各ピークを帰属し、ピークの積分値から全ジカルボン酸成分に対するジエチレングリコールのモル%を算出した。
【0048】
金属原子含有量
樹脂試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES「JY46P型」)を用いて定量し、ポリエステル樹脂1トン中のモル量に換算した。
【0049】
固有粘度(〔η〕)
凍結粉砕した樹脂試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして、110℃で20分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、溶媒との相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度(ηrel)−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0050】
色調
樹脂試料を、内径36mm、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルにすりきりで充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0051】
環状三量体含有量(CT)
樹脂試料4.0mgを精秤し、クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)の混合溶媒2mlに溶解した後、更にクロロホルム20mlを加えて希釈し、これにメタノール10mlを加えて再析出させ、次いで濾過して得た濾液を蒸発乾固後、残渣をジメチルホルムアミド25mlに溶解し、その溶液中の環状三量体(シクロトリエチレンテレフタレート)量を、液体クロマトグラフィー(島津製作所製「LC−10A」)を用いて定量した。
【0052】
引き続いて、得られた樹脂を、真空乾燥機(ヤマト科学社製「DP−41型」)中で、160℃で16時間以上乾燥させた後、射出成形機(名機製作所社製「M−70AII−DM」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×105Pa、射出率40cc/秒、保圧力35×105Pa、金型温度25℃、成形サイクル約75秒で、図1に示される形状の、縦50mm、横100mmで、横方向に6mmから3.5mmまで段差0.5mmの6段階の厚みを有する段付成形板を射出成形した。尚、図1において、Gはゲート部である。
【0053】
得られた成形板について、以下に示す方法で、波長395nm及び500nmの吸光度、及び昇温結晶化温度(Tc)を測定し、結果を表1に示した。
【0054】
吸光度
成形板における厚み3.5mm部(図1におけるA+B部)について、紫外可視吸収光度計(島津製作所製「UV−2400」)を用いて、波長範囲300〜800nm、スキャン速度を低速モード(127nm/分)、スリット幅5nm、サンプリングピッチ0.5nmとし、透過モードで測定したときの波長395nm及び500nmにおける吸光度の、波長800nmにおける吸光度との差を求めた。
【0055】
昇温結晶化温度(Tc)
成形板における厚み3.5mm部の先端部分(図1におけるA部)を切り出して、真空乾燥機にて40℃で3日間乾燥させた後、その非表面部から切り出した試料を用い、その約10mgを精秤し、アルミニウム製オープンパン及びパンカバー(常圧タイプ、セイコー電子社製「P/N SSC000E030」及び「P/N SSC000E032」)を用いて封入し、示差走査熱量計(セイコー社製「DSC220C」)にて、窒素気流下、20℃から285℃まで20℃/分の速度で昇温させ、その途中で観察される結晶化ピーク温度を測定した。
【0056】
別に、得られたポリエステル樹脂チップを真空乾燥機にて130℃で10時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE−80S」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×105Pa、射出率45cc/秒、保圧力30×105Pa、金型温度20℃、成形サイクル約40秒で、外径29.0mm、高さ165mm、平均肉厚3.7mm、重量60gの試験管状の予備成形体(プリフォーム)を射出成形した。
【0057】
得られた予備成形体を、石英ヒーターを備えた近赤外線照射炉内で70秒間加熱し、25秒間室温で放置した後、160℃に設定したブロー金型内に装入し、延伸ロッドで高さ方向に延伸しながら、ブロー圧力7×105Paで1秒間、更に30×105Paで40秒間ブロー成形、ヒートセットし、空冷することにより、外径約95mm、高さ約305mm、胴部平均肉厚約0.37mm、重量約60g、内容積約1.5リットルのボトルを500本成形し、得られた498本目〜500本目のボトルについて、保香性を以下の方法で測定、評価し、結果を表1に示した。
【0058】
保香性
ボトルに100%オレンジジュースを熱充填し、キャップで密栓して10℃で1ヶ月間保存した後、開栓したときの香りを、ガラス瓶中に同条件で保存した場合と比較して官能検査し、以下の基準で評価した。
○:ガラス瓶との間で香りに差がなく、保香性良好。
△:ガラス瓶よりも香りが弱く、保香性やや不良。
×:ガラス瓶よりも香りが極端に弱く、保香性劣る。
【0059】
更に、得られた491本目〜500本目のボトルについて、ボトル胴部の表面外観を目視観察して以下の基準で評価することにより金型汚染性を評価し、結果を表1に示した。
◎:表面平滑であり、金型汚染なし。
○:表面平滑性若干劣り、従って金型汚染性も若干劣るが、実用上問題なし。
×:表面が荒れて粗面となり、異物の付着も認められ、金型汚染性劣る。
【0060】
実施例2〜6
溶融重縮合時のエチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム、及びテトラ−n−ブトキシチタンの添加量を表1に示すように変えた外は、実施例1と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0061】
実施例7
実施例2で得られた固相重縮合ポリエステル樹脂を、更に90℃の熱水に2時間浸漬して水処理した外は、実施例2と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0062】
実施例8
実施例7で得られたポリエステル樹脂を用い、その段付成形板の射出成形時、及び予備成形体の射出成形時に、それぞれ低密度ポリエチレンを添加した外は、実施例7と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0063】
比較例1
溶融重縮合時に、エチルアシッドホスフェート、酢酸マグネシウム、及び三酸化アンチモンを、それぞれエチレングリコール溶液として、順次5分間隔で添加したこと、及び、それぞれの添加量を表1に示すようにしたことの外は、実施例1と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0064】
比較例2
溶融重縮合時に、正燐酸、及び二酸化ゲルマニウムを、それぞれエチレングリコール溶液として、順次5分間隔で添加したこと、及び、それぞれの添加量を表1に示すようにしたことの外は、実施例1と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0065】
比較例3
二酸化ゲルマニウムの添加量を変えたこと、及び、得られた固相重縮合ポリエステル樹脂を、更に90℃の熱水に4時間浸漬して水処理したことの外は、比較例2と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0066】
比較例4
溶融重縮合時に、テトラ−n−ブトキシチタン、酢酸マグネシウム、及びエチルアシッドホスフェートを、それぞれエチレングリコール溶液として、順次5分間隔で添加したこと、及び、それぞれの添加量を表1に示すようにしたことの外は、実施例1と同様にして実施し、結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例において成形した物性評価用段付成形板の(a)は平面図、(b)は正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分以外の共重合成分の含有量が全ジカルボン酸成分に対して4モル%以下であると共に、280℃で射出成形した厚さ3.5mmの成形体における、波長395nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.08以上、同じく波長500nmの吸光度と波長800nmの吸光度との差が0.05以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
280℃での射出成形後の成形体における樹脂の昇温結晶化温度(Tc)が150〜180℃である請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
射出成形前の樹脂が、固有粘度(〔η〕)0.70〜0.90dl/g、ハンターの色差式の色座標b値4以下、及び、環状三量体含有量(CT)0.50重量%以下のものである請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
チタン化合物の存在下に重縮合されたものであり、そのチタン化合物の含有量が、ポリエステル樹脂1トン当たり、チタン原子(Ti)として0.002〜1モルである請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
燐化合物と、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物との共存下に重縮合されたものであり、その燐化合物の含有量が、ポリエステル樹脂1トン当たり、燐原子(P)として0.02〜4モルであり、周期律表第IA族、第IIA族の金属元素の化合物、及びマンガン化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物の含有量が、ポリエステル樹脂1トン当たり、それらの原子の合計(M)として0.04〜5モルである請求項4に記載のポリエステル樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2007−146187(P2007−146187A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63678(P2007−63678)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【分割の表示】特願2001−29135(P2001−29135)の分割
【原出願日】平成13年2月6日(2001.2.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】