説明

ポリエステル樹脂

【課題】ポリエステル樹脂の分子鎖末端にフラーレノ酢酸残基を導入することにより、分散性を向上させ、ポリブチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルでは、結晶化特性と熱安定性、液晶性ポリエステルでは低発生ガス特性を向上させた、新規なポリエステルを提供する。
【解決手段】フラーレノ酢酸残基をエステル結合を介して分子鎖末端に有するポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレノ酢酸残基を分子鎖末端に有する新規なポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れているため、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途で成形材料として使用されている。昨今、用途の拡大、多様化に伴い、更に高度な性能、用途に応じた特殊性能や高度な品質が求められることが多くなってきている。
【0003】
例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートは、射出成形により精密機械部品を成形する場合に、成形サイクルの更なる短縮により生産性を高めたり、過酷な温度条件での使用に耐えられる長期耐熱特性等が要求される局面も多くなっている。特許文献1(特開平7−102048号公報)では、耐熱性向上のため、チオエーテル構造を分子鎖末端に導入する手法が提案されているが、成形サイクル短縮については触れられていない。
【0004】
また、液晶性ポリエステルは、ポリエステル樹脂の中でも特に熱安定性に優れており、ポリブチレンテレフタレート等よりも更に高い耐熱性を要求される場合に用いられる。しかし、液晶性ポリエステルは、使用時にその主鎖からの分解生成物であるフェノールやその誘導体を主成分とするガスを生じ、成形品を得た後の半田浴浸漬等の加熱プロセスにおいてブリスターと呼ばれる表面荒れが生じたり、ガスそのものが製品の電気接点汚染等の悪影響を及ぼす場合がある。例えば、特許文献2(特開2001−114890号公報)、特許文献3(特開2001−122963号公報)等には、モノマー組成、アシル化剤、触媒量の制御により、この問題を解決することが提案されている。
【0005】
一方、フラーレン([60]フラーレン等)は、「炭素第三の同素体」として知られ、sp2炭素のみから構成されており、五員環と六員環の組合せからなる特異な分子構造を有する全共役性球状分子である。特許文献4(特開平10−310709号公報)には、フラーレンに代表される炭素クラスターを配合した結晶性熱可塑性樹脂組成物について記載されている。また、フラーレン誘導体を凝集等の問題を起こさずに樹脂中に分散させる方法が特許文献5(特開2004−75933号公報)にて提案されているが、ポリエステル樹脂の熱安定性に寄与する手法は触れられていない。
【特許文献1】特開平7−102048号公報
【特許文献2】特開2001−114890号公報
【特許文献3】特開2001−122963号公報
【特許文献4】特開平10−310709号公報
【特許文献5】特開2004−75933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑み、ポリエステル樹脂の分子鎖末端にフラーレノ酢酸残基を導入することにより、分散性を向上させ、ポリブチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルでは、結晶化特性と熱安定性、液晶性ポリエステルでは低発生ガス特性を向上させた、新規なポリエステルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、特定のフラーレン誘導体を、ポリエステルを重合する任意の時期、即ち、反応開始から、エステル交換ないしエステル化アセチル化、および重縮合反応時の任意の時期添加することにより、末端にフラーレノ酢酸残基を導入された新規なポリエステル樹脂が得られ、かかるポリエステル樹脂は上記特性を有する優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、フラーレノ酢酸残基をエステル結合を介して分子鎖末端に有するポリエステル樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶化特性と熱安定性に優れたポリブチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルを提供することができ、また低発生ガス特性を向上した液晶性ポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル重合の任意の段階で、フラーレノ酢酸及び/又はフラーレノ酢酸誘導体を添加することで得ることができる。
【0011】
本発明における特徴であるフラーレノ酢酸残基は、フラーレノ酢酸又はフラーレノ酢酸誘導体から得られるものであり、好ましくは[60]フラーレノ酢酸又は[60]フラーレノ酢酸誘導体から得られるものである。
【0012】
特に好ましいのは、下記式(A)で示される構造の[60]フラーレノ酢酸又は[60]フラーレノ酢酸エステルである。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、Rは水素原子、あるいはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ベンジル基、フェニル基、ターシャリーブチル基、オクチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、2−(トリメチルシリル)エチル基を示し、中でもRは水素原子、ターシャリーブチル基、ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0015】
このような[60]フラーレノ酢酸又は[60]フラーレノ酢酸エステルは、例えば特開2005−97241号公報に開示された方法で合成することができる。
【0016】
[60]フラーレノ酢酸エステルの合成は、スルホニウムイリド、ホスホニウムイリド、ジアゾ化合物、ケテンシリルアセタールとの付加・脱離反応により得られ
室温で1〜20時間反応させることで可能である。イリドを構成するエステルは、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ベンジルエステル、フェニルエステル、2−(トリメチルシリル)エチルエステル、ターシャリーブチルエステルが挙げられる。その中でもターシャリーブチルエステルが好ましく、この場合、[60]フラーレノ酢酸ターシャリーブチルエステルを得ることができる。
【0017】
また、[60]フラーレノ酢酸エステルは、[60]フラーレノ酢酸クロリドとヒドロキシ基を有する化合物を反応させることによっても製造することができる。[60]フラーレノ酢酸クロリドは、下記する[60]フラーレノ酢酸をエーテル系/ハロゲン系の混合溶媒中においてハロゲン化剤と反応させることで得られる。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。これらの中でも1,4−ジオキサンとジクロロメタンとの混合溶媒を用いるのが好ましい。また、ヒドロキシ基を有する化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、フェノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0018】
次に、[60]フラーレノ酢酸は、例えば、[60]フラーレノ酢酸ターシャリーブチルエステルにトリブロモボラン、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸一水和物、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等を反応させることにより得られるが、特にp−トルエンスルホン酸一水和物を用いるのが好ましい。
【0019】
フラーレノ酢酸又はその誘導体は、後述するポリエステル樹脂の重合反応工程中の任意の段階において添加することができる。
【0020】
フラーレノ酢酸又はその誘導体の添加量は、ポリマーの重合度を著しく阻害しない範囲で任意に添加できるが、実質的な重合度が得られ且つ効果が得られる範囲としては、重合により得られるポリマーを構成するモノマー単位100mol%に対して0.005〜1mol%であり、更に好ましくは0.01〜1mol%である。1mol%を超える添加量では、好適に用いられる前記式(A)の化合物は単官能性モノマーであるが故、末端封止効果により樹脂として必要な物性を備えうる十分な重合度のポリマーが得られない場合がある。また、0.005mol%未満の添加量では、ポリマーの目的とする十分な長期耐熱性、結晶化特性、低ガス効果が得られない。
【0021】
本発明おけるポリエステル樹脂とは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを構成成分とする芳香族ポリエステル、および、ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸等を構成要素とする液晶性ポリエステルの末端にフラーレノ酢酸残基が導入されたポリエステル樹脂である。
【0022】
芳香族ポリエステルの構成要素である芳香族ジカルボン酸としては、ジカルボン酸モノマーであるテレフタル酸ないしジメチルテレフタレートあるいはナフタレンジカルボン酸ないしナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル等、脂肪族ジオールとしては、ジカルボン酸に対しモル比1から3程度のジオールモノマー、即ち1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール等がある。
【0023】
更に詳しくは、ジカルボン酸成分は、ポリエステル樹脂の特性を損なわない範囲で、主成分ジカルボン酸以外のジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等)又はそのエステル形成性誘導体を含んでいてもよい。ジカルボン酸は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。ジカルボン酸は単独で又は2種以上使用できる。前記エステル形成性誘導体としては、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジイソプロピルエステル等の低級アルキルエステル、ジフェニルエステル等のジアリールエステル、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪族カルボン酸等との酸無水物(ジアシル化物)等が挙げられる。更に、ジカルボン酸成分は、分岐又は架橋構造を有するポリエステル樹脂を得るために、必要により、少量の多価カルボン酸(トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸等)を含んでいてもよい。かかる多価カルボン酸は、単独で又は2種以上混合して使用できる。
【0024】
ジオール成分としては、主成分のジオール以外のジオール、即ち、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオー等の脂肪族ジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキシレンジメタノール等の脂環族ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、ジヒドロキシフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA等の芳香族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等が例示でき、これらのジオールは、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。これらのジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。ジオール成分は、必要により、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールを含んでいてもよい。
【0025】
好ましいポリエステル樹脂には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等が含まれる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0026】
これらの重合において、適当な触媒、即ち、有機チタン化合物、三酸化アンチモン、有機ゲルマニウム化合物、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物等の存在下、窒素等の不活性ガス雰囲気の大気圧下、130〜240℃の範囲で反応を行い、副生する水またはアルコールを系外に除去し、エステル化ないしエステル交換反応を行う。続いて、系内を徐々に減圧および昇温を行い、過剰なグリコールを系外に除去することにより重縮合を進行させ、目的の重合度のポリマーを得る。
【0027】
芳香族ポリエステルの分子量は、固有粘度(25℃のオルソクロロフェノール中での測定値をもとに算出された値)として0.4〜1.8程度、好ましくは0.6〜1.5程度である。ポリエステル樹脂の分子量を高めるため、ある程度重合が進行した後、固相重合してもよい。固相重合は、例えば、真空条件または不活性ガス雰囲気下、適当な時間、粒子が融着しない程度の高温で処理することにより行われる。
【0028】
本発明で使用する液晶性ポリエステルとは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリエステルは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0029】
前記のような液晶性ポリエステルとしては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0030】
本発明に適用できる芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0031】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0032】
本発明に適用できる前記液晶性ポリエステルを構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
本発明が適用される特に好ましい液晶性ポリエステルとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主構成単位成分とする芳香族ポリエステルである。
【0035】
本発明の液晶性ポリエステルは、直接重合法やエステル交換法を用いて重合され、重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等が用いられる。本発明では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられ、使用量は、重合制御の観点から、水酸基の合計当量の1.01〜1.10倍が好ましく、更に好ましく1.02〜1.05倍である。
【0036】
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものはジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF3 の如きルイス酸塩等が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全重量に基いて約 0.001乃至1重量%、特に約0.003 乃至 0.2重量%が好ましい。
【0037】
また、溶液重合又はスラリー重合を行う場合、溶媒としては流動パラフィン、高耐熱性合成油、不活性鉱物油等が用いられる。
【0038】
反応条件としては、反応温度200 〜380 ℃、最終到達圧力0.1 〜760 Torr(即ち、13〜101,080 Pa)である。特に溶融反応では、反応温度260 〜380 ℃、好ましくは300 〜360 ℃、最終到達圧力1〜100 Torr(即ち、133 〜13,300 Pa )、好ましくは1〜50 Torr(即ち、133 〜6,670 Pa)である。
【0039】
溶融重合は、反応系内が所定温度に達した後、減圧を開始して所定の減圧度にして行う。撹拌機のトルクが所定値に達した後、不活性ガスを導入し、減圧状態から常圧を経て、所定の加圧状態にして反応系からポリマーを排出する。
【0040】
本発明により得られるポリエステル樹脂には、その目的に応じて所望の特性を分子量よするため、一般にポリエステル樹脂に添加される各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、従来公知の紫外線吸収剤や抗酸化剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤)、難燃助剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、充填剤等が例示される。また、本発明のポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を添加、配合することもできる。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例、比較例における特性評価は、以下の方法に従って行った。
<評価方法>
・溶融粘度;
東洋精機製作所社製キャピログラフ1Bを用いて、260℃、キャピラリーφ1mm×20mm、剪断速度1216sec-1での粘度を測定した。サンプルのシリンダーへの投入から測定までの溶融時間は8分とした。
・溶融滞留安定性;
上記溶融粘度測定において溶融滞留時間を30分として測定し、8分溶融時との測定値との比を求め、溶融滞留粘度保持率として得た。
・結晶化温度;
TA社製Q1000 DSC装置を用い、270℃・3分間ホールド後、10℃/minで降温し、結晶化のピーク温度を測定して結晶化温度とし、結晶化しやすさの評価とした。
・発生ガス;
下記のATD−GC−MS装置を用いて、300℃×10分での発生ガス量を測定した。
【0042】
ATD:PerkinElmer社 TurboMatri x ATD
GC:HP6890、検出器:FID
Column:DB−5MS、φ0.25mm×1F 0.1μm×30m
・フラーレン分散性;
アルミスペーサーを用いてポリエステル樹脂4gを300℃、2MPaの条件下でホットプレスし、直径4.5cmの円盤を作成した。この円盤における凝集物の数を目視にて計測した。
[フラーレン誘導体の合成]
(合成例1)[60]フラーレノ酢酸(フラーレン1)の合成法
(1-1)ジメチルスルホニウム,2−(1,1−ジメチルエトキシ)−2−オキソエチリドの製造
減圧下ヒートガンでよく加熱した後に、アルゴン置換した100mlの2口フラスコに、ブロモ酢酸ターシャリーブチルエステル10.64g(0.055mmol)、アセトン16ml及びジメチルスルフィド5.4g(0.087mmol)を順に加えた。
【0043】
室温で5時間攪拌した後、生じた白色沈殿を濾過し、濾液より溶媒を減圧留去することによりスルホニウムブロマイド12.2g(0.047mol、収率85%)を得た。続いて、100mlのナスフラスコに、得られたスルホニウムブロマイド12.2g(0.047mol)及びクロロホルム30mlを加え、0℃に冷却した。ここに飽和炭酸カリウム水溶液6g、続いて12.5M水酸化ナトリウム水溶液3.8mlをゆっくりと滴下し、0℃にて15分攪拌後、室温にて10分攪拌した。
【0044】
生じた白色沈殿を濾別し、濾液をジクロロメタン20mlで3回抽出し、集めた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下にて溶媒を留去することで、目的のスルホニウムイリド3.5g(0.020mol、収率42%)を得た。
(1-2)[60]フラーレノ酢酸ターシャリーブチルエステルの製造
減圧下ヒートガンでよく加熱した500mlの2口フラスコに、[60]フラーレン300mg(0.42mmol)をトルエン300mlに溶解させ、室温にて1時間攪拌した後、(1-1)で得られたスルホニウムイリド59mg(0.34mmol)をトルエン5mlに溶解させ、ゆっくり滴下した。
【0045】
室温にて18時間攪拌した後、反応溶液を濃縮し得られる粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ワコーゲルB−5F、ヘキサン:トルエン=2:1)により精製することで目的物を267mg(0.32mmol、収率76%)を得た。
(1-3)[60]フラーレノ酢酸(フラーレン1)の製造
300mlのナスフラスコに、上記(1-2)で得られた化合物163mg(0.195mmol)及びp−トルエンスルホン酸一水和物67mg(0.39mmol)をトルエン120mlに溶解させ、8時間加熱還流した。その後、反応溶液をゆっくりと室温まで冷まし、続いて0℃に冷却した。
【0046】
生じた沈殿物を濾過し、トルエン及び水で洗浄し、得られた赤褐色固体をジクロロメタンと1,4―ジオキサン混合溶媒で溶解させることで得られた黒色溶液を濃縮し、目的物を147mg(0.189mmol、収率97%)得た。
(合成例2)[60]フラーレノ酢酸2−ヒドロキシエチルエステル(フラーレン2)の合成法
(2-1)[60]フラーレノ酢酸クロリドの製造
減圧下ヒートガンでよく加熱した100mlの2口フラスコをアルゴンで置換した後、上記(1-3)で得られた化合物50mg(0.064mmol)をジクロロメタン20ml及び1,4―ジオキサン20mlの混合溶媒に溶解させた。しばらく室温で攪拌した後、塩化チオニル5ml(68.5mmol)をゆっくり滴下した。
【0047】
反応溶液を5時間加熱還流した後、ゆっくりと室温まで冷まし、続いて0℃に冷却した。生じた沈殿物を濾過し、ジクロロメタンと1,4―ジオキサンの混合溶媒で洗浄し、得られた黒色固体に二硫化炭素を加え、濾過により不溶物を取り除いた。
【0048】
その後、減圧下で濾液から溶媒を留去することで、目的物51mg(0.064mmol,収率100%,純度100%)を得た。この化合物は、アルゴン雰囲気下、室温で3日間安定に保存することができた。
(2-2)[60]フラーレノ酢酸2−ヒドロキシエチルエステル(フラーレン2)の製造
減圧下ヒートガンでよく加熱した50mlの2口フラスコをアルゴンで置換した後、(2-1)で得られた[60]フラーレノ酢酸クロリド100mg(0.125mmol)をブロモベンゼン50mlとテトラヒドロフラン50mlに溶解させた。続いてエチレングリコール62mg(1mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン16mg(0.131mmol)を加えた。
【0049】
室温にて12時間反応させた後、反応系に生じた沈殿物を濾過・洗浄することで目的物を84.8mg(0.103mmol、収率82%)得た。
【0050】
得られた化合物についてCDCl3溶媒を用い、1H-NMRを測定することでフラーレン2であることを検証した。1H-NMRチャートと帰属を図1、図2に示す。
実施例1
攪拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、テレフタル酸ジメチル49.96452mol部、1,4−ブタンジオール75mol部、[60]フラーレノ酢酸2−ヒドロキシエチルエステル(フラーレン2)0.03548mol部を投入し、これに0.0178mol部のテトラブチルチタネートを加えた後、常圧窒素気流下にて170℃から230℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換率が90%になるまでエステル交換を行った、低重合体を製造した。次いで、絶対圧10Pa以下の減圧下、250の温度で2時間重縮合し、ポリマーを得た。
【0051】
本ポリマーについて、フラーレン2がポリブチレンテレフタレート末端に導入されているかどうかを、1H-NMRを測定することで確認した。
【0052】
図3に示すように、CDCl3/HFIP-d2溶媒に溶解させたポリマーについては、3.95ppm付近にポリブチレンテレフタレートの1H-NMRチャートでは通常見られないピークを確認した。そこで、更に図4に示すようにCF3COOD溶媒を用いて測定したところ、1H-NMRチャート上に同様のピークが現れ、ポリブチレンテレフタレートとフラーレン2が結合していることを確認した。
【0053】
更にフラーレン2の導入量を抽出実験により確認した。本ポリマー(16.68g)をクロロホルム(250ml)に懸濁させ、8時間加熱還流した後、濾過・洗浄して本ポリマーのクロロホルム抽出溶液を得た。次いで、1,2―ジクロロベンゼン(250ml)に懸濁させ、30分間加熱還流した後、濾過・洗浄して本ポリマーの1,2―ジクロロベンゼン抽出溶液を得た。
【0054】
クロロホルム及び1,2―ジクロロベンゼンを減圧下留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(二硫化炭素)により精製し、更にゲル透過クロマトグラフィー(GPC、クロロホルム)を実施したところ、分解により副生したと思われる単体[60]フラーレン(フラーレン3)(2.3mg,3.19・mol,6%相当)、および1,4−ブタンジオールとの反応生成物である[60]フラーレノ酢酸4−ヒドロキシブチルエステル(1.1mg,1.29・mol,2%相当)を得た。この抽出条件では、ポリマーに結合していない[60]フラーレンおよびフラーレン誘導体(フラーレン2や[60]フラーレノ酢酸4−ヒドロキシブチルエステル)は容易に抽出されるため、92%のフラーレン2がポリブチレンテレフタレートに導入されたことが確認された。
実施例2
テレフタル酸ジメチルを49.992945mol部、フラーレン2を0.007085mol部とする以外は実施例1と同様にして、ポリマーを得た。
実施例3
フラーレン2に代えてフラーレン1を用いる以外は実施例1と同様にして、ポリマーを得た。
【0055】
本ポリマーについて、実施例1と同様の抽出実験を行ったところ、分解により副生したと思われる単体[60]フラーレン(フラーレン3)(1mg,1.39・mol,3%相当)を得た。また、1,4−ブタンジオールとの反応生成物と思われる[60]フラーレノ酢酸4−ヒドロキシブチルエステル等のフラーレン誘導体は、MALDI−TOF−MASS、UV/Visスペクトルからその存在は確認されなかった。即ち、97%のフラーレン1がポリブチレンテレフタレートに導入されたことが確認された。
比較例1
テレフタル酸ジメチルを50mol部とし、フラーレン2を無添加とする以外は実施例1と同様にして、ポリマーを得た。
比較例2
フラーレン2に代えて[60]フラーレン(フラーレン3)を用いる以外は実施例1と同様にして、ポリマーを得た。
実施例4
攪拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、4−ヒドロキシ安息香酸72.957mol部、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸27mol部、[60]フラーレノ酢酸(フラーレン1)0.043mol部、酢酸カリウム0.01mol部、無水酢酸1.02mol部を投入した。続いて、常圧窒素気流下にて反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。攪拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部から液晶性ポリエステルを得た。
実施例5
4−ヒドロキシ安息香酸を72.9914mol部、フラーレン1を0.0086mol部とする以外は実施例4と同様にして、ポリマーを得た。
比較例3
4−ヒドロキシ安息香酸を73mol部とし、フラーレン1を無添加とする以外は実施例4と同様にして、ポリマーを得た。
比較例4
フラーレン1に代えて[60]フラーレン(フラーレン3)を用いる以外は実施例4と同様にして、ポリマーを得た。
【0056】
得られた実施例1〜3、比較例1〜2のポリマーについて、溶融滞留安定性と結晶化温度を評価した。結果を表1に示す。また、得られた実施例4〜5、比較例3〜4のポリマーについて、発生ガスとフラーレン分散性を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3については溶融滞留による溶融粘度の低下が抑制され熱安定性が改善されたこと、また結晶化温度が上昇し結晶化速度が改善されたことがわかる。また、表2の結果から明らかなように、実施例4〜5については発生ガスが余生され、且つフラーレンの分散性が改善されたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】合成例2で合成した[60]フラーレノ酢酸2−ヒドロキシエステル(フラーレン2)の1H-NMRチャートである。
【図2】図1の1H-NMRチャートの帰属を示す図である。
【図3】実施例1で製造したフラーレン2が導入されたポリブチレンテレフタレートの1H-NMRチャート(CDCl3/HFIP-d2溶媒)である。
【図4】実施例1で製造したフラーレン2が導入されたポリブチレンテレフタレートの1H-NMRチャート(CF3COOD溶媒)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレノ酢酸残基をエステル結合を介して分子鎖末端に有するポリエステル樹脂。
【請求項2】
フラーレノ酢酸及び/又はフラーレノ酢酸誘導体の存在下に重縮合してなる請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエステル樹脂のモノマー単位100mol%に対して0.005〜1mol%のフラーレノ酢酸及び/又はフラーレノ酢酸誘導体の存在下に重縮合してなる請求項2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
フラーレノ酢酸又はフラーレノ酢酸誘導体が、下記式(A)で示される構造である請求項3記載のポリエステル樹脂。
【化1】

(Rは水素原子、あるいはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ベンジル基、フェニル基、ターシャリーブチル基、オクチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、2−(トリメチルシリル)エチル基を示す。)
【請求項5】
ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート又は液晶性ポリエステルである請求項1〜4の何れか1項記載のポリエステル樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214472(P2008−214472A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53001(P2007−53001)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】