説明

ポリエステル樹脂

【課題】
本発明の目的は、耐水性、耐湿性、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さいポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することにある。
【解決手段】
本発明のポリエステル樹脂は、下記化学式[化1]、
【化1】


で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、Yは、精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)
がアルコール成分の必須成分であることを特徴とする。また、本発明のポリエステル樹脂の好ましい実施態様において、前記[化1]に示す化合物が、ポリエステル原料として20重量%以上配合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に関し、特に、新規なアルコール化合物を利用したポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
飽和ポリエステルは、粉体塗料、電子写真現像剤、接着剤、紫外線硬化型インキなどの組成物、変性用材料として様々な分野で使用されているが、耐水性や耐湿性の厳しい環境下においては、塗膜に膨れが発生する場合や分子鎖が加水分解を起こし本来の性能を発揮できない場合があるため適用されていないケースも多々ある。
【0003】
一方で近年、再生可能なバイオマス資源より得られる原料を用いた樹脂の開発が盛んになってきている。これらバイオマス資源を使用する意義の一つは、バイオマスを用いた樹脂及び樹脂組成物、塗膜の焼却処理時に発生する二酸化炭素を植物が吸収してバイオマスを数年で再生する点にある。つまり、実質的に環境中の二酸化炭素量に影響を及ぼさない、いわゆるカーボンニュートラルの実現である。しかしながら、最も開発が盛んなポリ乳酸系材料は、従来のポリエステルに比べ耐水性、耐湿度、耐薬品性、機械的物性面において劣っており用途が限定されているのが現状である。
【0004】
ポリエステル樹脂として、ロジンと無水マレイン酸付加物を飽和酸として用いたポリエステル樹脂が知られており(非特許文献1)、当該ポリエステル樹脂が、耐アルカリ性、耐酸性に優れる記述がある。
【0005】
また、長鎖エポキシ樹脂とロジン、3官能以上のエポキシ樹脂とロジンの反応物を組成物の一材料として使用している例が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−240831号
【特許文献2】特開2007−240704号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】滝山栄一郎著 プラスチック材料講座10 ポリエステル樹脂、25頁日刊工業新聞社(昭和45年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2においては、いずれもロジンとエポキシ樹脂の反応生物とその他ポリエステルを混合して使用しており、混合された樹脂組成物中のロジン含有量は少なくなり、ロジン化合物が有する耐水性や耐湿性を発現させるのに十分でない。また、多官能のエポキシ樹脂を用いた場合、生成した化合物が多官能アルコールとなり、ポリエステルが分岐したり、ゲル化を起こし、目的とするポリエステルを得られないことがある。
【0009】
したがって、石油由来の原料を用いたポリエステル樹脂に比べて、耐水性、耐湿性、収縮率、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さいポリエステル樹脂の開発が望まれている。
【0010】
かかる状況下、ロジン系化合物をポリエステル樹脂原料に使用することで耐水性や耐湿性が向上することは公知の事実として知られているが、ロジン系化合物が1官能原料であることから分子鎖の大きい物性の優れる樹脂が得られなかったり、分子鎖の大きいものを得ようとすると分子鎖末端にしか反応させることできないため、そのコンテントが少なくなってしまい性能発揮に至らないといった問題がある。
【0011】
本発明の目的は、耐水性、耐湿性、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さいポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、新規な化合物及びポリエステル樹脂を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂は、下記化学式[化1]、
【化1】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、Yは、精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)がアルコール成分の必須成分であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のポリエステル樹脂の好ましい実施態様において、前記化合物が、下記化学式[化2]、
【化2】

で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させて得られることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のポリエステル樹脂の好ましい実施態様において、前記[化1]に示す化合物が、ポリエステル原料として20重量%以上配合されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の粉体塗料用樹脂組成物は、本発明のポリエステル樹脂を用いることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の電子写真現像剤用樹脂組成物は、本発明のポリエステル樹脂を用いることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のウレタンアクリレート樹脂は、本発明のポリエステル樹脂を用いて、かつイソシアネート変性したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリエステル樹脂は、従来のポリエステル樹脂に比べ、吸水率が低く、樹脂強度があり、且つバイオマス由来原料を使用していることから環境負荷が小さいものであるという有利な効果を奏する。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂を配合した粉体塗料は、様々な環境下で使用ができるという有利な効果を奏する。同様に本発明のポリエステル樹脂を利用した電子写真現像剤は、現像剤混練時やエマルション化の際に加水分解が起こりにくいため、設計どおりのものが得られるという有利な効果を奏する。また、本発明のポリエステル樹脂を原料としたポリエステルウレタンアクリレートは、熱硬化及び紫外線硬化により、耐水性、低収縮性に優れた密着性の良い皮膜を形成できるという有利な効果を奏する。このように様々な分野に適用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】合成例1で得られたポリエステル樹脂のIR(赤外線吸収スペクトル)チャートを示す。
【図2】合成例1で得られたポリエステル樹脂の1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す。
【図3】合成例1で得られたアルコール化合物の赤外線吸収スペクトルを示す。
【図4】合成例1で得られたアルコール化合物の1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0023】
本発明の化合物は、下記化学式[化3]、
【化3】

で示される化合物(但し、式中Xは脂肪族または芳香族であり、Yは精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)である。
【0024】
また、本発明の化合物の好ましい実施態様において、前記[化3]に示す化合物が、1分子中に2個のエポキシ基を有する下記化合物[化4]、
【化4】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させることによって得られる。
【0025】
本明細書中において、ロジンとは、松類から得られる天然樹脂であり、その主成分は、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、ジヒドロアビエチン酸等の樹脂酸及びこれらの混合物のことを意味する。ロジンは、パルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等に大別され、本発明に用いられるロジンは、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上である。
【0026】
さらに、本発明のポリエステル樹脂は、アルコール成分の必須成分として、前記本発明の化合物が含まれる。
【0027】
本発明のポリエステルは、2段反応からなり、1段目の反応で下記化合物(a)を得てから、2段目に従来と同様の方法でポリエステルを製造するものである。
【0028】
まず、本発明の不飽和ポリエステル樹脂の必須アルコール原料となる下記化学式(2)で示した化合物(a)([化6])について説明する。化合物(a)は、例えば、化学式(1)([化5])で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物のエポキシ基に精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を公知の触媒の存在下、窒素下、温度130〜185℃で酸価が5mgKOH/g未満まで付加反応させて得ることができる。
【0029】
化学式(1)([化5])
【化5】

(式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)
【0030】
化学式(2)化合物(a)([化6])
【化6】

(式中Xは、脂肪族または芳香族であり、Yは、精製ロジン、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)
【0031】
反応温度について特に限定されるものではないが、1段目の反応温度が185℃以上になるとエポキシ化合物分子内に存在する水酸基または、ロジンが反応して生成した水酸基と未反応のロジンが脱水反応を起こし、ポリエステル原料となるアルコールが得られない虞があるという観点から、好ましくは、1段目の反応温度は185℃未満である。
【0032】
また、反応時間を短くする観点から、好ましくは、130℃以上で反応させることができる。1段目の反応終点は、酸価で規定しているが、酸価が5mgKOH/g以上で2段目の反応に移行すると未反応のロジンが分子鎖形成を妨げる反応を起こし、目的とする分子量のポリエステルが得られない虞がある。また化学式(1)で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物の繰り返し数nが1より大きいと生成した化合物が多官能アルコールとなり、ポリエステルが分岐し粘度が高くなったり、ゲル化を起こし、目的とするポリエステルが得られない虞がある。1段目で生成した化合物(a)の添加量については特に限定されない。耐水性や物性面においてその効果が低く、且つ環境負荷低減効果も低くなるという観点から、1段目で生成した化合物(a)は、目的とするポリエステル原料中の重量で20%以上含まれるのが好ましい。
【0033】
化学式(1)([化5])で示される1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物は、特に限定はされないが、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有するフェノール類、1分子中に2個の水酸基を有するアルコール類を、単独又は2種以上を組み合わせて、公知の方法によりエピクロルヒドリンにてエポキシ化することにより製造することができる。また、市販のエポキシ化合物を使用することもできる。市販のエポキシ化合物としては、三菱化学社製の「JER828」、旭化成ケミカルズ社製の「AER260」、DIC社製「エピクロン840、850」、東都化成社製の「エポトート128」、ダウケミカル社製の「D.E.R.317」、「D.E.R.331」、住友化学工業社製の「スミエポキシESA−011」等のビスフェノールA型エポキシ化合物、DIC社製の「エピクロン830S」、三菱化学社製の「エピコート807」、東都化成社製の「エポトートYDF−170」、旭化成ケミカルズ社製の「アラルダイトXPY306」等のビスフェノールF型エポキシ化合物、日本化薬製の「EBPS−200」、旭電化工業社製の「EPX−30」、DIC社製の「エピクロンEXA1514」等のビスフェノールS型エポキシ化合物、大阪ガスケミカル社製の「BPFG」等のビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物、三菱化学社製の「YL−6056」、「YX−4000」等のビキシレノール型、或いはビフェニル型エポキシ化合物、又はそれらの混合物、新日本理化社製の「HBE−100」、東都化成社製の「エポトートST−2004」等の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、DIC社製の「エピクロン152」、阪本薬品工業社製の「SR−BSP」、東都化成社製の「エポトートYDB−400」、ダウケミカル社製の「D.E.R542」、旭化成ケミカルズ社製の「AER8018」、住友化学工業社製の「スミエポキシESB−400」等の臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、新日鉄化学社製の商品名「ESN−190」、DIC社製の商品名「HP−4032」等のナフタレン骨格を有するエポキシ化合物、共栄社化学社製の商品名「エポライト400E」、「エポライト400P」、「エポライト1600」、坂本薬品工業社製の「SR−NPG」、「SR−16HL」等の脂肪族エポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
次に2段目の反応で使用するポリエステル原料であるカルボン酸とアルコール、グリコール酸は、従来の石油から熱化学的に製造されたもの、動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたものを使用できるが、環境負荷、カーボンニュートラルの点から、動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたものを使用するのが好ましい。
【0035】
従来の石油から熱化学的に製造されたカルボン酸類としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5-tert-ブチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等のような誘導体等が挙げられる。これらの中でも、特にテレフタル酸、イソフタル酸及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。テレフタル酸及びイソフタル酸は、それらの低級アルキルエステルを用いても良く、テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルの例としては、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等があるが、コスト及び取り扱い(ハンドリング)の点で、テレフタル酸ジメチルやイソフタル酸ジメチルが好ましい。
【0036】
動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたカルボン酸としては、ダイマー酸、コハク酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、2,5−フランジカルボン酸などが挙げられる。
【0037】
これらのカルボン酸又はその低級アルキルエステルは、単独で用いられても、2種以上が併用されても良い。また、本発明の効果を損なわない範囲で、3価以上の芳香族ポリカルボン酸も更に用いることができる。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やその無水物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、反応性の観点から、無水トリメリット酸が好ましい。
【0038】
従来の石油から熱化学的に製造されたアルコール類としては、脂肪族アルコール及びエーテル化ジフェノールが挙げられる。脂肪族アルコールの例としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチルプロパン-1,3-ジオール、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル-3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。脂肪族アルコールとしては、酸との反応性及び樹脂のガラス転移温度の観点から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0039】
動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたアルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、グリセリン、2,5−ジヒドロキシメチルフランが挙げられる。
【0040】
これら脂肪族アルコールは単独で用いても、二種以上を併用しても良い。また、本発明において、脂肪族アルコールとともに、エーテル化ジフェノールを更に用いても良い。エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンンオキサイドを付加反応させて得られるジオールであり、該アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドであり、該アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2〜16モルであるものが好ましい。環境負荷、カーボンニュートラルの点から、動植物原料から生化学的に製造されたエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールの使用が好ましい。更に、本発明の効果を損なわない範囲で、3価以上のポリオールも用いることができる。3価以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上のポリオールとしては、環境負荷、カーボンニュートラルの観点から、グリセリンが好ましく、反応性の観点からはトリメチロールプロパンが好ましい。
【0041】
ポリエステル原料のその他の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等の脂環族ポリカルボン酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸等の含ハロゲンジカルボン酸、乳酸、3−ヒドロキシブタン酸、3−ヒドロキシ−4−エトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸等を用いることもできる。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂は、前記化合物(a)と所定のカルボン酸成分、アルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製される。その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応の何れも適用可能である。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進することもできる。2段目の反応は、無触媒でも良いし、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンより選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒を用いて、反応を促進しても良い。これら反応触媒の添加量は、カルボン酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、以下においては、部数は全て重量部を、原料にバイオマス由来と記載のないものについては石油燃料由来の原料を表す。
【0044】
(合成例1)新規ポリエステル樹脂及び比較例用樹脂合成例
化合物(a)のエポキシ樹脂としてビスフェノールA型樹脂1316gと不均化ロジン(酸価156mgKOH/g、バイオマス由来)2506g及び反応触媒としてトリフェニルホスフィン1.9gを撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら180℃で5時間反応させ、酸価が5mgKOH/g未満に達したことを確認し化合物(a)を得た。反応式については以下の通りである。すなわち、下記[化7]に示すように、まずビスフェノールA型エポキシ樹脂と不均化ロジンを反応させ、化合物(a)を合成した。
【0045】
【化7】

【0046】
次いでエチレングリコール(バイオマス由来)273g、テレフタル酸1157gを仕込み、反応温度250℃で14時間重縮合反応させ、所定の酸価に達したところで反応を終了し、ポリエステル樹脂(A−1)(合成配合については、表1を参照。)を得た。反応式については、以下の通りである。すなわち、下記[化8]に示すように、化合物(a)をポリエステル原料のアルコール成分として、従来どおりの反応を行った。
【0047】
【化8】

【0048】
(合成例2及び3)
表1は、合成配合を示す。表の数値は、重量部を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示す配合割合とすることを除き、合成例1と同様にして、ポリエステル樹脂(A−2)、(A−3:参照例)を合成した。
【0051】
(合成例4)比較用ポリエステル樹脂合成例
ポリエステル樹脂のアルコール成分としてネオペンチルグリコール813g、エチレングリコール1082g、酸成分としてテレフタル酸3966g及び反応触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート4.7gを撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら250℃で16時間重縮合反応させ、所定の酸価に達したところで反応を終了し、ポリエステル樹脂(B−1)を得た。
【0052】
(合成例5)
表1に示す配合割合とすることを除き、合成例3と同様にして、ポリエステル樹脂(B−2)を合成した。
【0053】
表1には、合成配合に加え、化合物(a)の割合、終点酸価、水酸基当量を示した。バイオマス含有量は、以下の式より算出した。
バイオマス由来原料含有量=
(バイオマス成分仕込量)×100/(総仕込量−理論脱水量)
【0054】
ただし、バイオマス成分仕込量は以下のように算出する。すなわち、バイオマス成分が酸の場合はその分子量よりOH相当分の分子量である17.01を、バイオマス成分がアルコールの場合にはH相当分の分子量である1.01をそれぞれ引いた値にモル数を掛けて算出した。
【0055】
(合成例6)新規ポリエステルを用いたウレタンアクリレート合成例
イソボロニルアクリレート1000.0g、2−ヒドロキシアクリレート58.2g、イソホロンジイソシアネート54.6g、ポリエステル樹脂(A−2)885.9g、重合禁止剤としてハイドロキノン1.0g、触媒としてジブチルチンジラウレート0.2gを撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、空気雰囲気下、撹拌しながら100℃で6時間反応させた。IRにてイソシアネート基が消失したことを確認し、ポリエステルウレタンアクリレート樹脂(U−1)(合成配合については、表2を参照。)を得た。表2は、合成配合を示す。表中の数値は、重量部を示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(合成例7)
表2に示す配合割合とすることを除き、合成例6と同様にして、比較用ポリエステルウレタンアクリレート樹脂(U−2)を合成した。
【0058】
(実施例1)
ポリエステル樹脂単独の評価として、注型物の吸水率と衝撃性を測定した。表3に測定結果を示した。表3は、吸水率と衝撃性測定の結果を示す。
【0059】
【表3】

【0060】
吸水率:23℃の水浴に5cm角厚み3mmのポリエステル板を浸漬し、24時間後に取り出し、浸漬前後の重量から算出した。
【0061】
衝撃性:直径4cm厚み5mmの円盤を試験体とし、直径9.53mm、重量3.5gの鋼球を落下させ、試験体が破壊するまでの高さを測定した。
【0062】
(実施例2)
粉体塗料の評価として下記配合にて、粉体塗料を作製し、静電塗装を行い、塗膜を作製した。評価は、溶融混練前後の分子量分布を測定し、分子鎖の加水分解による切断有無と塗膜の耐水性(耐湿性)を調べた。表4に評価結果を示した。表4は、粉体塗装塗膜性能評価を示す。
【0063】
【表4】

【0064】
溶融混練前後の分子量変化:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって溶融混練前後の分子量を測定した。溶融混練前後の分子量変化:変化がほとんどない○ 若干変化がある△ 変化がある×
【0065】
耐水性:JIS K5600−7−2に従い、湿潤箱内の試験片の位置の温度50±1℃、相対湿度95%以上の条件下で500時間試験を行った。耐水性試験後の塗膜の状態:膨れ無し、光沢引け無し○ 膨れ無し、光沢引け有り△ 膨れ有、光沢引け有り×
【0066】
粉体塗料配合
合成した各ポリエステル樹脂87部、Evonik Industries社製ε-カプロラクタムブロックイソホロンジイソシアネート系硬化剤「Vestagon B1530」13部、石原産業製ルチル型二酸化チタン顔料「タイペークCR−90」50部、ベンゾイン0.5部、シリコーン系レベリング剤1.0部、有機錫化合物系硬化触媒0.3部を、先ずFM20C/I型三井ヘンシェルミキサーでドライブレンドし、次いでPLK46型Bussコニーダーで110℃にて溶融混練を行い、それを冷却後、粉砕、および150メッシュの金網で分級して粉体塗料を得た。
【0067】
上述のように作製された粉体塗料を、静電粉体塗装機を用いてリン酸亜鉛処理鋼板上に塗装し、180℃で20分間焼き付けることによって膜厚50〜60μmの硬化塗膜を得た。
【0068】
(実施例3)
電子写真現像剤の評価として下記配合にて、樹脂組成物を作製した。評価は、溶融混練前後の分子量分布を測定し、分子鎖の加水分解による切断有無と電子写真現像剤の吸湿性について調べた。表5に評価結果を示した。表5は、電子写真現像剤性能評価を示す。
【0069】
【表5】

【0070】
溶融混練前後の分子量変化:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって溶融混練前後の分子量を測定した。溶融混練前後の分子量変化:変化がほとんどない○ 若干変化がある△ 変化がある×
【0071】
吸湿性
槽内温度50±1℃、相対湿度85%の環境下に電子写真現像剤を供し、500時間後の重量変化を調べた。吸湿による重量変化:ほとんどない○ 変化がある△ 変化大きい×
【0072】
電子写真現像剤配合
合成した各ポリエステル93部、銅フタロシアニン顔料4部、パラフィンワックス(融点76℃)3部を混合した後、130℃で溶融混練、粉砕、分級して、平均粒径7.4μmの負帯電性粒子を作成した。次いで、この粒子100部に対し、ジメチルジクロロシランで処理したシリカ微粉体1.0部を添加、混合して電子写真現像剤を作成した。
【0073】
(実施例4)ポリエステルウレタンアクリレート樹脂100部に反応性希釈剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート3部、光開始剤(イルガキュア184)2部を配合し、紫外線硬化にて厚さ100ミクロンの塗膜を作製し、常温吸水率を測定した。また、収縮率を比重から算出した。表6に測定結果を示した。表6は、ポリエステルウレタンアクリレート評価を示す。
【0074】
【表6】

【0075】
吸水率:23℃の水浴に3cm角厚み100μmのポリエステルウレタンアクリレート硬化物を浸漬し、24時間後に取り出し、浸漬前後の重量から算出した。
【0076】
収縮率:液状比重と硬化物比重の差から体積収縮率を算出した。
【0077】
(実施例5)
環境への負荷の指標として、ポリエステル樹脂を燃焼廃棄した際の発生する二酸化炭素量を算出した。ただし、バイオマス原料由来の二酸化炭素は、カーボンニュートラルの概念により排出量から除いた。算出結果を表7に示した。表7は、ポリエステル1kg燃焼廃棄時の二酸化炭素排出量を示す。
【0078】
【表7】

【0079】
本発明のポリエステル樹脂及びそれを用いた粉体塗料、電子写真現像剤、ポリエステルウレタンアクリレートは、表3〜6より、従来の石油由来の原料を用いたポリエステル樹脂に比べて、耐水性、収縮率、機械的物性において優れた性能を有している。また、本発明のポリエステル樹脂は表7より、燃焼時の二酸化炭素排出量が従来の石油由来の原料を使用したポリエステル樹脂より少なく、環境負荷が小さい材料であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の化合物を用いた樹脂は、環境へ及ぼす負荷の小さい、バイオマス資源より誘導される原料を多く含有したポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式[化1]、
【化1】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、Yは、精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)がアルコール成分の必須成分であるポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記化合物が、下記化学式[化2]、
【化2】

で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させて得られることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1記載の化合物が、ポリエステル原料として20重量%以上配合されていることを特徴とする請求項1又は2項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いた粉体塗料用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いた電子写真現像剤用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いて、かつイソシアネート変性したウレタンアクリレート樹脂。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246650(P2011−246650A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123250(P2010−123250)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【特許番号】特許第4699559号(P4699559)
【特許公報発行日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000230364)日本ユピカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】