説明

ポリエステル混繊糸およびポリエステル布帛

【課題】深色性に優れ、加えて軽量感、反撥弾性等の着用快適性も兼ね備えており、しかも経筋斑が発生せず品位に優れた布帛が得られるポリエステル混繊糸およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部を、ポリエステルマルチフィラメントBが芯部を形成する芯鞘型混繊糸であって、下記要件を満足するポリエステル混繊糸。
a)下記(イ)〜(ハ)を満足すること。
b)ポリエステルマルチフィラメントAの単糸繊維軸に直交する断面においてその外周辺より少なくとも0.5μmの範囲内に、度数分布の最大値が0.1〜0.3μmの孔径の微細孔を有すること。
c)ポリエステルマルチフィラメントAの平均糸長がポリエステルマルチフィラメントBの平均糸長より5〜25%長いこと。
d)混繊糸の強度が2.5cN/dtex以上であること。
(イ)10dtex≦DA+DB≦60dtex
(ロ)0.5dtex≦DA/FA≦2.0dtex
(ハ)1.0dtex≦DB/FB≦3.0dtex
DA:ポリエステルマルチフィラメントAの全繊度(dtex)
DA:ポリエステルマルチフィラメントBの全繊度(dtex)
FA:ポリエステルマルチフィラメントAのフィラメント数
FB:ポリエステルマルチフィラメントBのフィラメント数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル混繊糸及びそれからなる布帛に関するものである。さらに詳しくは、アルカリ減量処理することにより、特殊な微細孔が形成され、着色した際に、色の深みと鮮明性を有する特殊ポリエステルからなり、布帛にした時、深色性を呈し、ソフト感、軽量感、反撥弾性等、着用快適性にも優れたポリエステル混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、混合マルチフィラメントを得るため、伸度の異なる2種以上の配向高伸度成分をそれぞれ別個に紡糸した後、仮撚工程にて適宜混合する方法、例えば、特許文献1(特公昭60−11130号公報)、特許文献2(特公昭61−19733号公報)などが一般に行なわれている。これらの方法は、太い繊度ゾーンでは、スパン感、嵩高性には優れ、かつ、フィラメント間の糸足差を調整しやすい点で優れている。しかしながら、近年、シルクライクあるいは、ウールライクの高級差別素材として特に要求の高い、総繊度100dtex以下で単糸細繊度のマルチフィラメントゾーンでは、淡染で、硬いタッチと弱い腰を有する風合しか得られていないという問題点がある。また、2種以上紡糸し、さらに混合する工程が必要であるので、製糸コストが高くなり、採算に合わない欠点がある。
【0003】
一方、近年はソフト感や、軽量感等の着用快適性を得る為、総繊度が10〜60dtexのポリエステル繊維が好んで用いられているが、上述の如く、色合いや風合も含め、消費者の要求全てを同時に満たすようなポリエステル繊維は提供されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−11130号公報
【特許文献2】特公昭61−19733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する問題を背景になされたもので、その目的は、シルクライクの高級差別素材として60dtex以下で、深色性を呈し、さらには、軽量感、反撥弾性等の着用快適性にも優れ、かつ、ソフトな表面タッチの風合を呈する新規な混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果得られたもので、下記により達成される。
即ち、ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部を、ポリエステルマルチフィラメントBが芯部を形成する芯鞘型混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル混繊糸。
a)下記(イ)〜(ハ)を満足すること。
b)ポリエステルマルチフィラメントAの単糸繊維軸に直交する断面においてその外周辺より少なくとも0.5μmの範囲内に、度数分布の最大値が0.1〜0.3μmの孔径の微細孔を有すること。
c)ポリエステルマルチフィラメントAの平均糸長がポリエステルマルチフィラメントBの平均糸長より5〜25%長いこと。
d)混繊糸の強度が2.5cN/dtex以上であること。
e)ポリエステルマルチフィラメントAを構成するポリマー全重量に対して0.1〜3重量%のポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーが含有されていること。
(イ)10dtex≦DA+DB≦60dtex
(ロ)0.5dtex≦DA/FA≦2.0dtex
(ハ)1.0dtex≦DB/FB≦3.0dtex
DA:ポリエステルマルチフィラメントAの全繊度(dtex)
DB:ポリエステルマルチフィラメントBの全繊度(dtex)
FA:ポリエステルマルチフィラメントAのフィラメント数
FB:ポリエステルマルチフィラメントBのフィラメント数
【0007】
好ましくは、ポリエステルマルチフィラメントAの微細孔が、ポリエステルの合成時にポリエステルの全酸成分に対して0.5〜3モル%の下記一般式(1)で表される含金属リン化合物及び該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物を添加してなるポリエステルを含むポリマーを繊維化後にアルカリ化合物の水溶液で処理して得られたものであるポリエステル混繊糸である。
【0008】
【化1】

(式中、R及びRは一価の有機基であって、R及びRは同一でも異なっていてもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【0009】
さらにポリエステルマルチフィラメントBがポリエステル全酸成分に対して8〜40モル%の第3成分を共重合したポリエステルであるポリエステル混繊糸。
また別の発明の態様として、
ポリエステル混繊糸の製造方法であって、ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBを同一または異なる紡糸口金からそれぞれ溶融紡糸し、夫々の吐出糸条群を冷却固化した後、これらを合糸し、1500〜4000m/分の速度で引き取った未延伸糸に、空気交絡を施し、延伸することを特徴とするポリエステル混繊糸の製造方法が提供される。
また別の発明の態様として、
ポリエステル混繊糸を含む織編物からなる布帛、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル混繊糸は、総繊度、単糸繊度とも細繊度で、且つ深色性に優れ、加えて軽量感、反撥弾性等の着用快適性も兼ね備えており、しかも強度に優れた布帛とすることができる。また、本発明の製造方法によれば、上記ポリエステル混繊糸を効率よく安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ポリエステルマルチフィラメントAについて)
本発明の混繊糸を構成するポリエステルマルチフィラメントAで使用するポリエステルは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも1種のアルキレングリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレートを主たる対象とし、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましい。かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲内、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下の範囲内で従来公知の共重合成分が含まれていてもよく、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の二官能性カルボン酸や、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のジオール化合物を例示することができる。さらには、ポリオキシアルキレングリコールを共重合してもよい。
【0012】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成ものを減圧下加圧して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造される。
【0013】
ポリエステルマルチフィラメントAで使用するポリエステルには、繊維化後にアルカリ処理により微細孔を形成させるために、上記ポリエステルの合成時に微細孔形成剤として下記一般式(1)で表される含金属リン化合物及びアルカリ土類金属化合物を添加されていることが好ましい。
【0014】
【化2】

(式中、R及びRは一価の有機基であって、R及びRは同一でも異なっていてもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【0015】
式中、R及びRは一価の有機基であって、この一価有機基は具体的にはアルキル基、アリール基、アラルキル基又は−[(CH)lO]kR(但し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はアラキル基、lは2以上の整数、kは1以上の整数)等が好ましく、R及びRは同一でも異なっていてもよい。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baが好ましく、特にCa、Sr、Baが好ましい。mはMがアルカリ金属の場合はlであり、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。
【0016】
上記含金属リン化合物に代えて、R及び/又はRが金属(特にアルカリ金属、アルカリ土類金属)で置換えたリン化合物を使用したのでは、得られた混繊糸をアルカリ減量処理しても繊維表面に形成される微細孔が大きくなって、目的とする鮮明化効果が得られず、また耐フィブリル性にも劣るようになる。
【0017】
上記含金属リン化合物と併用するアルカリ土類金属化合物としては、上記含金属リン化合物と反応してポリエステルに不溶性の塩を形成するものであれば特に制限はなく、アルカリ土類金属の酢酸塩、蓚塩酸、安息香酸塩、フタル酸塩、ステアリン酸塩のような有機カルボン酸塩、硼酸塩、珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩の如き無機酸塩、塩化物のようなハロゲン化物、エチレンジアミン4酢酸錯塩のようなキレート化合物、水酸化物、酸化物、メチラート、エチラート、グリコレート等のアルコラート類、フェノラート等をあげることができる。特にエチレングリコールに可溶性である有機カルボン酸塩、ハロゲン化物、キレート化合物、アルコラートが好ましく、なかでも有機カルボン酸塩が特に好ましい。
【0018】
上記の含金属リン化合物とアルカリ土類金属化合物の使用量は、少ないと色の深み等が改善されず、逆に多いと製糸や仮撚加工性等が低下するだけでなく耐摩擦耐久性も低下するので、含金属リン化合物はポリエステルの全酸成分に対して0.5〜3.0モル%の範囲にするべきであり、特に0.6〜2.0モル%の範囲が好ましい。一方、アルカリ土類金属化合物の添加量は、含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルの範囲にすべきであり、特に0.5〜1.0倍モルの範囲が好ましい。かくすることにより、不溶性粒子をポリエステル中に均一な超微粒子状態で生成せしめることができるようになり、良好な製糸性を有し、且つ最終的に色の深みと鮮明性が共に優れた混繊糸を得ることができるようになる。
【0019】
さらにポリエステルマルチフィラメントAにはポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーを混合使用することが必要である。ポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーの混合割合は、前述した含金属リン化合物やアルカリ土類金属化合物を含有するポリエステルと、上記ポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーとの混合ポリマー全重量を基準として0.1〜3.0重量%、好ましくは、0.2〜2.0重量%、さらに好ましくは0.2〜1.0重量%である。混合ポリマーとすることにより、後述するように上記マルチフィラメントAがポリエステル混繊糸の鞘部に配され、ソフトな風合いを有し、経筋斑のない高品質の布帛を得ることができる。これは、マルチフィラメントAが、ポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーを含有することによって低配向となるためと推定される。
【0020】
(ポリエステルマルチフィラメントBについて)
ポリエステルマルチフィラメントBで使用されるポリエステルは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも1種のアルキレングリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレートを主たる対象とし、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0021】
好ましくはポリエステル全酸成分又は全グリコール成分に対して8〜40モル%の第3成分を共重合したポリエステルである。第3成分として、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の二官能性カルボン酸や、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のジオール化合物を例示することができる。さらには、ポリオキシアルキレングリコールを共重合してもよい。
【0022】
(混繊糸について)
本発明のポリエステル混繊糸においては、軽量感、反撥弾性等、着用快適性を満足させるために、マルチフィラメントA及びBの繊度、フィラメント数が下記(イ)〜(ハ)を満足することが必要である。
(イ)10dtex≦DA+DB≦60dtex
(ロ)0.5dtex≦DA/FA≦2.0dtex
(ハ)1.0dtex≦DB/FB≦3.0dtex
DA:ポリエステルマルチフィラメントAの全繊度(dtex)
DB:ポリエステルマルチフィラメントBの全繊度(dtex)
FA:ポリエステルマルチフィラメントAのフィラメント数
FB:ポリエステルマルチフィラメントBのフィラメント数
【0023】
ポリエステルマルチフィラメントAを構成するフィラメントの単糸繊度(DA/FA)が0.5dtex未満の場合にはソフトで繊細なタッチは得られるものの、毛羽が多発する等、品位面での問題が生じる。一方、2.0dtexを超える場合には十分にソフトなタッチを得ることが出来ない。また、ポリエステルマルチフィラメントBを構成するフィラメントの単糸繊度(DB/FBA)が1.0dtexよりも小さい場合には十分な反撥弾性が得られず、3.0dtexよりも大きい場合にはポリエステルマルチフィラメントAの効果が薄れ、混繊糸にした際の繊細なタッチが失われる。更に、ポリエステルマルチフィラメントAの平均糸長がポリエステルマルチフィラメントBの平均糸長より5〜25%長いことが必要である。マルチフィラメントAの平均糸長が、マルチフィラメントBの平均糸長よりも5〜20%、好ましくは8〜15%長いことが必要であり、これによりマルチフィラメントAが鞘部に配された構造となる。上記糸長の差が、5%未満では布帛の反撥弾性が低くなり、一方、20%を越えると布帛がガサツキ感を呈するようになる。
【0024】
(製糸方法)
以上に説明したポリエステル混繊糸は次の方法により製造することができる。すなわち、ポリエステルの全酸成分に対して0.5〜3モル%の含金属リン化合物及び該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物を添加してなるポリエステルとポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーとの混合ポリマーをポリエステルマルチフィラメントA用ポリマーとし、ポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーのいずれも含有していない、好ましくは全酸成分又はグリコール成分を基準として8〜40モル%の割合で第3成分を共重合したポリエステルをポリエステルマルチフィラメントB用ポリマーとして、同一または異なる紡糸口金から夫々溶融吐出し、夫々の吐出糸条群を冷却固化した後、これらを合糸し、1500〜4000m/分の速度で引き取った未延伸糸に、公知の混繊装置を用いて空気交絡を施し、延伸することによって、本発明のポリエステル混繊糸を製造することができる。
【0025】
上記方法において、一方のポリエステルマルチフィラメントAに、含金属リン化合物、アルカリ土類金属化合物、および、ポリメチルメタクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーを含有させるのに際しては、含金属リン化合物、アルカリ土類金属化合物をあらかじめ含有させたポリエステルのペレットに、ポリメチルメタクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーのペレットを添加し、これらを溶融混合して、紡糸口金から溶融吐出するか、あるいは、含金属リン化合物、アルカリ土類金属化合物をあらかじめ含有させたポリエステルを溶融したものと、ポリメチルメタクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーを溶融したものとを混合して、紡糸口金から溶融吐出する方法などを採用することができる。この際、使用するポリメチルメタアクリレート系ポリマー及びポリスチレン系ポリマーは、アタックチックまたはシンジオタクチック構造を示す非晶性ポリマーであっても良いし、また、アイソタックチック構造を示す結晶性のポリマーであっても構わない。
【0026】
上記方法においては、一方の吐出糸条には、ポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーが含有されていることにより、伸長粘度低下、及び、配向結晶抑制が発現する。そして、これらを合糸して、引き取った未延伸糸条においては、上記ポリマーを含有した未延伸マルチフィラメントAが、該ポリマーを含有しない未延伸マルチフィラメントBよりも高伸度となっており、さらに、該未延伸糸を同時延伸することで、マルチフィラメントAが鞘部、マルチフィラメントBが芯部に配されたポリエステル混繊糸を得ることができる。
【0027】
この際、上記の未延伸糸においては、これを構成する未延伸マルチフィラメントAと未延伸マルチフィラメントBの伸度差が、あまり小さくても芯鞘構造となりにくく、また大きすぎても同時延伸で張力変動が発生しやすくなる。このため、未延伸マルチフィラメントAの平均伸度が、未延伸マルチフィラメントBよりも30〜130%大きいことが好ましく、50〜100%大きいことがより好ましい。
未延伸糸の引き取り速度は、1500m/分未満の場合には、同時延伸の際、未延伸糸が脆化して糸切れが多発する。一方、4000m/分を超える場合には、紡糸工程で毛羽が発生しやすくなる。
【0028】
(布帛の作成)
以上に説明した本発明のポリエステル混繊糸は、従来の公知の製編織工程へ供給されて織編物、好ましくは織物として使用される。得られた織編物は、通常ポリエステル布帛に施されるアルカリ減量処理により、該ポリエステル混繊糸の鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントAから含金属リン化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる不溶性粒子(微細孔形成剤)が溶出除去され、ポリエステル混繊糸の表面部にボイドが形成される。
【0029】
(アルカリ減量)
上記の製織編された布帛を、公知のアルカリ減量装置を用いて含金属リン化合物、アルカリ土類金属化合物からなる不溶性粒子を溶出する。
ここで使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等をあげることができる。なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0030】
かかるアルカリ化合物の水溶液の濃度は、アルカリ化合物の種類、処理条件等によって異なるが、通常0.01〜40重量%の範囲が好ましく、特に0.1〜30重量%の範囲が好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲が好ましく、処理時間は1分〜4時間の範囲で通常行なわれる。また、このアルカリ化合物の水溶液の処理によって溶出除去する量は、繊維重量に対して2重量%以上の範囲にすべきである。このようにアルカリ化合物の水溶液で処理することによって、単糸繊維軸に直交する断面においてその外周辺より少なくとも0.5μmの範囲内に、度数分布の最大値が0.1〜0.3μmの孔径の微細孔が繊維軸方向に形成され、少なくとも一部は連通している微細孔を繊維表面及びその近傍に多数形成せしめることができる。
【0031】
(染色)
上記のアルカリ減量処理後の布帛を公知の染色方法で染色することにより優れた色の深み(濃染性)を呈するようになる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0033】
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
【0034】
(2)紡糸断糸
紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数を紡糸断糸とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
【0035】
(3)未延伸マルチフィラメントAと未延伸マルチフィラメントBの伸度差
未延伸糸を気温25℃、湿度60%の恒温恒湿に保たれた部屋に1昼夜放置した後、サンプル長さ100mmを(株)島津製作所製引張試験機テンシロンにセットし、200mm/分の速度にて引張り荷伸曲線を記録した。記録したチャートから2群の構成マルチフィラメントの荷伸曲線を特定し、各々の破断時の伸度を読み取り、その差を未延伸マルチフィラメントAと未延伸マルチフィラメントBとの伸度差とした。
【0036】
(4)マルチフィラメントAとBとの糸長差
50cmのポリエステル混繊糸の一端に0.176cN/dtex(0.2g/de)の荷重を掛け、垂直に吊るし、正確に5cm間隔のマーキングを行った。荷重を外し、マーキング部分を正確に切りとって10本の試料とした。この試料より、鞘部のフィラメントおよび芯部のフィラメントとを各々10本取出し、各々の単糸に0.03cN/dtex(1/30g/de)の加重を掛けて、垂直に吊るし、各々の長さを測定する。10本の試料について上記の測定を行い、各々の平均値をLa(鞘部糸長)およびLb(芯部糸長)とし、下記式で糸長差を計算した。
糸長差=(La−Lb)/La×100%
【0037】
(5)ポリエステル混繊糸の強度、伸度
JIS L−1013−75に準じて測定した。
【0038】
(6)毛羽個数
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、複合仮撚加工糸を500m/分の速度で20分間連続測定して発生毛羽数を計測し、サンプル長1万m当たりの個数で表した。
【0039】
(7)染めの経筋
混繊糸に400回/mの撚りを掛け、経緯使いの平織り組織(目付け135g/m)で製織し、80℃で精錬・リラックス処理、160℃・45秒でプレセット乾熱処理を行った。この織物を、常法のカレンダー加工機に通し、160℃に加熱されたローラーで押圧した後、10%のアルカリ減量処理を行い、押圧された織物表面を主体的にフィブリル化した。ついで120℃・30分で染色を行い、自然乾燥した後、160℃・45秒でファイナルセットを行い、評価用織物とした。3人の検査員により、ボイドが形成された織物表面の目視検査を行い、以下の格付けを行った。
レベル1 :織物表面に均一にボイドが形成され、経筋は認められない。
レベル5 :織物表面のボイド形成が不均一で、長短の明瞭な経筋が一面に認められる。
レベル2〜4:織物表面のボイド形成状態および経筋の発生状況が上記レベル1とレベル5の間に格付けされる。
【0040】
(8)色の深み
色の深みを示す尺度としては、深色度(K/S)を用いた。この値はサンプル布の分光反射率(R)を島津RC−330型自記分光光度計にて測定し、次に示すクベルカームンク(Kubelka Munk)の式から求めた。この値が大きいほど深色効果が大きいことを示す。
K/S=(1−R)2/2R
なお、Kは吸収係数、Sは散乱係数を示す。
【0041】
(9)風合い
(7)で得られた織物について、3人の検査官により、手で触って、ソフト感を下記のようにそれぞれ3段階で評価した。
(ソフト感)
レベル1:ソフトでしなやかな感触がある
レベル2:ややソフト感が乏しい
レベル3:カサカサした触感あるいは硬い触感である
【0042】
(10)反撥性(曲げ硬さ、曲げ反撥性)
KES(男用冬スーツ風合い)により、曲げ反撥性(BR(%))、及び、曲げ硬さ(BS(g))を測定した。曲げ反撥性(BR)が90%以上、曲げ硬さ(BS)が2.3g以上のものが、反撥弾性が良好である。
【0043】
(11)微細孔孔径
島津製作所(株)製ポアサイザー9310を用い、水銀圧入式ポロシメーター法により測定した。
【0044】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から230℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。
続いて、得られた反応生成物に、0.5部のリン酸トリメチル(テレフタル酸ジメチルに対して0.693モル%)と0.31部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して0.5倍モル)とを8.5部のエチレングリコール中で120℃の温度において、全還流下60分間反応せしめて調整したリン酸ジエステルカルシウム塩の透明溶液9.31部に室温下0.57部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して0.9倍モル)を溶解せしめて得たリン酸ジエステルカルシウム塩と酢酸カルシウムとの混合透明溶液9.88部を添加し、次いで三酸化アンチモン0.04部を添加して重合缶に移した。
【0045】
次いで1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から285℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度285℃で更に3時間、合計4時間30分重合して固有粘度0.641、軟化点259℃のポリマーを得た。反応終了後ポリマーを常法に従いペレット化した。このペレットに、分子量が50000、メルトインデックスが9.0のシンジオタクティックポリスチレン(PS)を、該ポリエチレンテレフタレートの重量を基準として1.5重量%混合した混合ポリマー(A1)のペレットを作成しこれを常法で乾燥した。一方、固有粘度が0.64であるポリエチレンテレフタレート(B1)のペレットを常法で乾燥した。
上記ポリマーA1及びB1の乾燥ペレットを、それぞれ2基のスクリュー押出機を装備した複合紡糸設備にて各々常法で溶融し、スピンブロックを通して、スピンパックに導入した。A1の溶融ポリマー流は、該スピンパックに組み込まれた円形吐出孔を24個穿設した紡糸口金から、B1の溶融ポリマー流は円形吐出孔を12個穿設した紡糸口金よりそれぞれ別々に吐出した。引き続き、吐出された2群のポリマー流を、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、一つの糸条として集束し、3200m/分の速度で引き取り60dtex/36フィラメントの未延伸糸を得た。
公知の延伸方法で1.6倍に延伸し、40dtex/36フィラメントの混繊糸を得た。
【0046】
この混繊糸はポリマーA1からなるマルチフィラメントA(20dtex/24フィラメント)が鞘部を、ポリマーB1からなるマルチフィラメントB(20dtex/12フィラメント)が芯部を構成するものであった。
得られた混繊糸を使用し筒編を作成し、常法によりヒートセット後、3.5%の水酸化ナトリウム水溶液で80℃×10分にて13%の減量率で処理した。このアルカリ減量処理後の布帛をDianix BlackHG−FS(三菱化成工業製)15%owfで130℃で60分間染色後、水酸化ナトリウム1g/lおよびハイドロサルファイト1g/lを含む水溶液にて70℃で20分間還元洗浄して黒色布を得た。得られた布帛は黒深色性に優れたものであった。評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2、比較例1]
ポリスチレンの含有量を0.5重量%、0重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3、比較例2]
ポリスチレンを、分子量が33000、メルトインデックスが14.0のポリメチルメタクリレート(PMMA)に変更し、その含有量を3.0重量%、3.5重量%とした以外は、実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例4〜7、比較例3〜6]
ポリエステルマルチフィラメントA及びBの単糸繊度を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリエステル混繊糸は、深色性に優れ、加えて軽量感、反撥弾性等の着用快適性も兼ね備えており、しかも経筋斑が発生せず品位に優れた布帛を得ることができる。このため、婦人衣料をはじめ、ソフトな風合いが要求される用途にも広く展開することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部を、ポリエステルマルチフィラメントBが芯部を形成する芯鞘型混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル混繊糸。
a)下記(イ)〜(ハ)を満足すること。
b)ポリエステルマルチフィラメントAの単糸繊維軸に直交する断面においてその外周辺より少なくとも0.5μmの範囲内に、度数分布の最大値が0.1〜0.3μmの孔径の微細孔を有すること。
c)ポリエステルマルチフィラメントAの平均糸長がポリエステルマルチフィラメントBの平均糸長より5〜25%長いこと。
d)混繊糸の強度が2.5cN/dtex以上であること。
e)ポリエステルマルチフィラメントAを構成するポリマー全重量に対して0.1〜3重量%のポリメチルメタアクリレート系ポリマーまたはポリスチレン系ポリマーが含有されていること。
(イ)10dtex≦DA+DB≦60dtex
(ロ)0.5dtex≦DA/FA≦2.0dtex
(ハ)1.0dtex≦DB/FB≦3.0dtex
DA:ポリエステルマルチフィラメントAの全繊度(dtex)
DB:ポリエステルマルチフィラメントBの全繊度(dtex)
FA:ポリエステルマルチフィラメントAのフィラメント数
FB:ポリエステルマルチフィラメントBのフィラメント数
【請求項2】
ポリエステルマルチフィラメントAが、ポリエステルの合成時にポリエステルの全酸成分に対して0.5〜3モル%の下記一般式(1)で表される含金属リン化合物及び該含金属リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属化合物を添加してなるポリエステルを含むポリマーを繊維化後にアルカリ化合物の水溶液で処理してえられたものである請求項1記載のポリエステル混繊糸。
【化1】

(式中、R及びRは一価の有機基であって、R及びRは同一でも異なっていてもよく、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【請求項3】
ポリエステルマルチフィラメントBがポリエステル全酸成分に対して8〜40モル%の第3成分を共重合したポリエステルである請求項1〜2いずれかに記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
請求項1〜3記載のポリエステル混繊糸の製造方法であって、ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBを同一または異なる紡糸口金からそれぞれ溶融紡糸し、夫々の吐出糸条群を冷却固化した後、これらを合糸し、1500〜4000m/分の速度で引き取った未延伸糸に、空気交絡を施し、延伸することを特徴とするポリエステル混繊糸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を含む織編物からなる布帛。

【公開番号】特開2011−162888(P2011−162888A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24317(P2010−24317)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】