説明

ポリエステル混繊糸

【課題】100℃以下の低温で濃〜中色に染色することのできる弾性率の高いポリエステル混繊糸を提供する。
【解決手段】高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aを芯部とし、低収縮性低温可染ポリエステルフィラメント糸条Bを鞘部とする芯鞘型複合混繊糸とする。より詳しくは該両ポリエステルフィラメント糸条を交絡させた後沸水収縮させることにより、収縮するポリエステルフィラメント糸条Aが芯部に、低温可染ポリエステルフィラメント糸条Bが鞘部に存在する芯鞘型複合混繊糸とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣料用途に用いられるポリエステル繊維、更に詳しくは100℃以下の低温で濃〜中色に染色することのできる弾性率の高いポリエステル混繊糸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維は強度、その他多くの優れた特性を備え種々の用途に利用されている。反面ポリエチレンテレフタレート繊維は染色性が劣り、染色に際しては130℃付近の高温高圧で染色する必要があるため特別な装置を必要としたり、またウール、アクリル等の高温染色により特性低下を生じる繊維との混用に制限がある等の欠点を有している。
【0003】
その為ポリエチレンテレフタレート繊維の染色性改良、低温可染化についてはいくつかの試みがなされており、例えば染色時にキャリヤーを用いる方法が知られているが、特別なキャリヤーを要すること、染色液の後処理が困難なこと等の欠点がある。
【0004】
又染色性の改良されたポリエチレンテレフタレートとして金属スルホネート基含有化合物やポリエーテル類を共重合したものが知られている。しかしながら、上記低温可染性を実現させるためには相当量の共重合率を必要とし、弾性率が低下したり、染色堅牢度が劣るという欠点があった。特開平6−10212号公報には特定のスルホン酸ホスホニウム塩を共重合することにより低温染色性と染色堅牢度を両立させる試みがなされている。確かに100℃以下で易染性で堅牢度も向上するが、該スルホン酸ホスホニウム塩を共重合することにより強度や軟化点の低下、弾性率の低下等が生じるため満足のいくものではなかった。
【0005】
以上のように化学的なポリマーの改質は低温染色性は向上するが、一般的に糸の結晶化を抑制し弾性率の低いものとなりやすくポリエステルの優れた特性の1つを犠牲にするという欠点が解決されていない。
【0006】
別の染色性改良の方法として化学的改質によらない試みがなされており、例えば高速紡糸、高ドラフト紡糸、異形断面化等の方法が知られている。しかしながら、これらの物理的改質手段のみでのアプローチはある程度の易染性は得られるものの、常圧ボイル可染のレベルまで染色性を高めることは不可能であった。
【0007】
又当然これらの改質方法の組合せ、例えばポリエチレングリコール等により化学改質されたポリエステルを高速紡糸すること等も提案されてきたが、100℃より低い温度で中〜濃色に染色するまでには至らなかった。
【特許文献1】特開平6−10212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記欠点を解決し、100℃以下の低温で濃〜中色に染色することのでき、且つ弾性率の高いポリエステル糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。熱収縮性の異なる2種類のポリエステルフィラメント糸条からなる混繊糸の軸方向に直交する断面において、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aを芯部とし、低収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bを鞘部とする芯鞘型複合混繊糸とし、より詳しくは該両ポリエステルフィラメント糸条を交絡させた後収縮させることにより、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが芯部に、低収縮性低温可染ポリエステルフィラメント糸条Bが鞘部に存在する芯鞘型複合交絡混繊糸とすることにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、100℃以下の低温で濃〜中色に染色することのできる弾性率の高いポリエステル混繊糸及びそれを用いた布帛を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル混繊糸を構成している高収縮性ポリエステルフィラメント糸条A(以後Aと略称する場合がある)は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルを基質ポリマーとし、固有粘度は、混繊糸に十分な強力と破断耐性(シルクファクター)を得るために0.63〜1.00であることが好ましく、より好ましくは0.75〜1.00であり、更に繊維強度5.5cN/dtex以上であることが好ましい。なお、固有粘度が0.63未満の場合には、破断耐性(シルクファクター)が発現しがたくなるので好ましくなく、1.00を越える場合には、そのようなフィラメントを製糸することが極めて難しくなり、商業的に生産することが困難になる。より好ましい固有粘度の範囲は0.70〜0.80である。また低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bとの混繊後の強度を十分なものとするにはフィラメント糸条Aの強度は4.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0012】
該ポリエステルに収縮性を付与する方法としては、ポリスチレン(以後PSと略称する場合がある)及び/又はポリメチルメタアクリレート(以後PMMAと略称する場合がある)等を添加することが好ましい。PS及び/又はPMMA等を基質ポリエステルに添加することで紡糸時の分子配向抑制効果が得られ、熱収縮性(特に湿熱収縮性)が大きく発現する糸となることは公知であり、本発明で効果を発現するためにはA全重量に対して2.0〜5.0%添加したものが好ましい。PSやPMMAの添加濃度が2.0重量%未満では収縮性が不十分で目的の芯鞘型複合混繊糸の芯部を構成する成分とならない。一方5.0重量%を超える場合は極端な製糸性の悪化により安定して生産する事が困難となる。好ましくは2.5〜4.5%の範囲である。
この範囲にある場合、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aの収縮率は、例えば沸水収縮率として20〜50%程度となり好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル混繊糸を構成している他方成分の低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条B(以後Bと略称する場合がある)としては、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルに他の成分を全酸成分を基準として8〜15モル%共重合することにより得られたものが好ましく、又高速紡糸、高ドラフト紡糸、異形断面化等の方法で得られた低温可染性ポリエステルであっても良い。共重合成分としては、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラメチレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどがあげられる。一般的に共重合ポリエステルは収縮性の高いものとなりやすいが、例えば4500m/分以上のような十分な高紡速化による配向結晶化の促進を行えば低収縮化を達成できる。また、例えば2500〜3500m/分で高速紡糸し、これをオーバーフィード下で熱処理する方法などにより通常のポリエステルに比較してやや低い分子配向性、低結晶性とすることができ、収縮性を低収縮〜非収縮にすることができる。尚非収縮性には自己伸長性も含まれる。
【0014】
低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bの収縮率としては例えば沸水収縮率として−10〜10%の範囲が好ましく、より好ましくは−5〜5%の範囲である。(−の収縮とは収縮せず伸長することを示す)
【0015】
またこうして得られる低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bは、その固有粘度が0.50以上であることが好ましい。該低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bの固有粘度が0.5未満の場合には、紡糸時の融液の粘度が低下しすぎるため、安定に紡糸することが困難になる。
【0016】
また低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bは単糸繊度が3dtex以下であることが好ましい。繊度を低く抑えることで糸表面積が広がることで易染性が増すばかりでなく、混繊糸表層への低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメントB糸条の絡まり状態が改善され、全体が低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bで覆われた構造となるためである。ただし0.5dtex以下であると逆に糸自体の厚みが不足する事から透け感が生じ、十分に染色しているにも関わらず見た目に薄い色感となってしまうので好ましくない。
【0017】
本発明による混繊糸では物性を司る高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが芯部、濃染性を司る低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメントBが鞘部となる必要がある。この構成配置を得るために熱収縮性を利用することが好ましい。Aの熱収縮性をBより大とし、交絡混繊した後熱処理する時、AはBより大きく収縮するため芯部を形成しやすく、収縮の少ないBはAを覆う形で鞘部を形成しやすくなる。芯鞘部が適切な構成配置になるように収縮性(率)、収縮温度、時間等を適宜調整することが好ましい。
【0018】
好ましい熱収縮法としては熱水で収縮させることがふさわしく、熱水浴に混繊糸を適切な時間浸漬するか又は布帛にした後適切な温度、条件で染色することによっても達成される。
【0019】
上記の高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aと低収縮性低温可染性フィラメント糸条Bとからなる本発明の混繊糸は、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが物性を、低収縮性低温可染性フィラメント糸条Bが染色性をそれぞれ司るために、それぞれの性能を両立させることが可能となる。低収縮性又は非収縮性低温可染性フィラメント糸条Bの混繊糸全重量を基準とする割合が30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲にあることが好ましい。30%未満では芯部が完全に覆われない部分が生じる為好ましくない。又70%を超える場合は芯部が少なくなり、強度や弾性率が目標に到達せず好ましくない。
【0020】
更に本発明のポリエステル混繊糸は第1次降伏点強度が0.5cN/dtex以上であることが好ましい。該強度が0.5cN/dtex未満であると、このポリエステル混繊糸を用いた加工品はわずかな外力により変形しやすく非常に寸法安定性が悪く取り扱い性の悪いものとなる。また本発明のポリエステル混繊糸は強度2.2cN/dtex以上、伸度25%以上であることが一般的な取り扱いにおける有用性の為に必要である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で求めた。
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用して35℃で測定した。
(2)弾性率
JIS L 1013に準拠して初期引張抵抗度(N/tex)から下記式より弾性率を計算した。
弾性率(N/mm)=1000×密度×初期引張抵抗度
(3)染色性
本発明の混繊糸を使用し、筒編み後、スコアロール2g/リットルを用い60℃で20分間精練し、更に乾燥調湿(20℃×65%RH)の後、分散染料スミカロンネービーブルー S―2GL 3%owf、浴比1:100で常圧100℃、90℃、80℃でそれぞれ染色した。染色性はL*a*b*h表色系による色差式(CIE奨励)により、マクベスカラーアイ(Macbeth(登録商標)COLOR−EYE(登録商標)モデルM−2020PL)を用いて行い、染色された布帛について、明度:L*値を測定し、これにより染色性を評価した。この場合、明度:L*値が低いほど濃色系に染色されたことを示す。
(4)沸水収縮率
JIS L 1013に準拠して行った。
【0022】
[実施例1]
高収縮性ポリエステルフィラメントAとして、固有粘度が0.80のポリエチレンテレフタレートにポリスチレンを3.0重量%添加しながら290℃で溶融し、また低収縮性低温可染ポリエステルBとして、固有粘度が0.64のイソフタル酸を15モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを285℃で別々に溶融し、紡糸パックに融液を供給した。その際、A:Bの吐出重量比が5:5となるようにし、かつ延伸後の総繊度が84dtexとなるように計量後、温度290℃の紡糸口金より吐出し単糸数36本の混繊糸糸条を得た。吐出された糸条は、冷却後インターレースノズルにて交絡数10ケ/mとなるように交絡処理を施し、4500m/分の速度にて巻き取り表1に記載の混繊糸を得た。尚A及びBの沸水収縮率は複合化することなく単独ポリマーで行った糸条で測定した結果、それぞれ20%、10%であった。
【0023】
得られた混繊糸を製編し、上記記載の方法、条件で染色した。染色加工中に高収縮性ポリエステルフィラメントA部分が収縮し芯部を構成し、低収縮性低温可染ポリエステルB部分は収縮は少なく、芯部を膨らみをもって覆う形で鞘部を構成する、芯鞘型混繊糸構造が発現した。得られた混繊糸布帛の評価結果を表1に示す。この結果強伸度、弾性率、低温染色性も良好であった。
【0024】
[比較例1]
実施例1においてポリスチレンの添加を停止したサンプルを採取した。このものは収縮処理した時、ポリスチレン非添加ポリエステルは収縮性を示さないため、芯部がB、鞘部がポリスチレン非添加ポリエステルとなり低温染色ではほとんど染まらなかった。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
100℃以下の低温で濃〜中色に染色することのできる弾性率の高いポリエステル混繊糸が得られるので、他の繊維との混用することが可能で、特に衣料用途に用いられるポリエステル繊維として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のポリエステル混繊糸の1実施態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 フィラメントA
2 フィラメントB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性の異なる2種類のポリエステルフィラメント糸条からなる混繊糸であって、該混繊糸の軸方向に直交する断面において、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aを芯部とし、低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bを鞘部とする芯鞘型複合混繊糸であることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【請求項2】
高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが、固有粘度が0.63〜1.00のポリエステルにポリスチレン及び/又はポリメチルメタアクリレートをポリエステルに対して2.0〜5.0重量%含むポリエステルであり、低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bが低温可染性ポリエステルである請求項1記載のポリエステル混繊糸。
【請求項3】
高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが繊維全重量に対して30〜60%、低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bが70〜40%で構成される請求項1〜2いずれか1項記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
下記(a)〜(c)を同時に満足する請求項1〜3いずれか1項記載のポリエステル混繊糸。
(a)強度 2.2cN/dtex以上
(b)伸度 25%以上
(c)第1次降伏点強度 0.5cN/dtex以上
【請求項5】
低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bの単糸繊度が3dtex以下である請求項1〜4いずれか1項記載のポリエステル混繊糸。
【請求項6】
固有粘度が0.63〜1.00のポリエステルにポリスチレン及び/又はポリメチルメタアクリレートをポリエステルに対して2.0〜5.0重量%含む高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aと低温可染性ポリエステルである低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bを同一口金より溶融紡糸後交絡処理した後、熱収縮処理することを特徴とする、高収縮性ポリエステルフィラメント糸条Aが芯部、低収縮性又は非収縮性ポリエステルフィラメント糸条Bが鞘部である芯鞘型複合ポリエステル混繊糸の製造方法。
【請求項7】
熱収縮処理が熱水収縮処理である請求項6記載の芯鞘型複合ポリエステル混繊糸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5記載のポリエステル混繊糸を用いて布帛となし、該布帛を染色してなることを特徴とする衣料製品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−57073(P2008−57073A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235389(P2006−235389)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】