説明

ポリエステル異形断面糸

【課題】 高速で安定して溶融紡糸することができ、またアルカリ等で易溶出性成分を溶解除去することで、染色バラツキが少なく、毛羽感のあるソフトな風合とドライ感という相反する風合が混然一体となったシルキー織編物を得るのに好適なポリエステル異形断面糸を提供する。
【解決手段】 繊維の横断面において、易溶出性成分の鞘部と、難溶出性成分の芯部で構成された芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、易溶出性成分として、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜15質量%含有するポリエステルAを用い、難溶出性成分として、全構成単位の80モル%以上がエチレンフタレートであるポリエステルBを用い、ポリエステルAとポリエステルBとの溶融粘度を特定の関係とし、かつポリエステルAを突起部と細溝とを交互に有する断面とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横断面において、芯部を構成する難溶出性成分と鞘部を構成する易溶出性成分からなる複合繊維てあって、製編織後に鞘部の易溶出性成分をアルカリ等で溶出除去すれば、織編物に毛羽感のあるソフトな風合とドライ感を付与できるポリエステル異形断面糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメント糸は、シルクに比較して、毛羽感のあるソフトな風合、軽量感、嵩高性に欠けると共に、何よりもドライ感に欠けた特有のヌメリ感を有している。シルクライクなポリエステル織編物を得るには、一例を挙げると、特定の溶剤あるいは薬品を用いて繊維表面にエッジをつけたり、溶剤に対して易溶出性成分と難溶出性成分を用いた複合繊維を紡出し、易溶出性成分を溶剤あるいは薬品によつて除去することにより、割繊したりシャープなエッジを有する難溶出性成分からなる繊維を得る方法が採用されている。
【0003】
特に、易溶出性成分と難溶出性成分が、互いに相溶性のあるポリエステル系成分からなり、易溶出性成分のアルカリによる加水分解速度を、難溶出性成分よりも速めることにより溶出可能とした複合繊維は、溶出装置、操作、薬品等が特殊なものでなく、溶出装置への腐食性がなく、安全かつ安価であり、さらに、紡糸、延伸、製織等の溶出処理以前の工程において、糸切れや易溶出性成分と難溶出性成分との剥離等のトラブルがなく、安定した加工状況ができる等の利点を有し、多くの提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、異収縮混繊糸とした複合繊維にアルカリ処理を施し、共重合ポリエステルの一部を溶解して得たシャープなエッジを持つ異形断面糸が開示されている。しかしながら、この異型断面糸は断面のシャープな突起物が少なく、織編物にした場合、光沢の改良、ワキシー感の解消は可能であるが、シルクの持つドライ感と毛羽感を付与することができなかった。
【0005】
さらに、特許文献2、3には、幹成分と周上の突起成分で構成された異型断面糸が開示されているが、これらの繊維は、着用時、毛羽玉になるという欠点があった。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献4には、鞘部の易溶出性成分を溶出した後、難溶出性成分で構成される横断面が異形断面糸となり、製編織すれば、毛羽感のあるソフトな風合とドライ感に富んだ風合を有する布帛となる複合繊維が開示されている。
【0007】
しかしながら、この複合繊維を製造する場合、1500m/min以下の比較的低速度で溶融紡糸すれば、製糸性及び得られる繊維の性能等に問題はないが、生産性を向上するために、2500m/min以上の高速で紡糸すると、曳糸性が悪化して紡糸工程での糸切れが発生したり、溶出後の難溶出成分からなる繊維の物性にバラツキを生じ、その結果、染色性のバラツキのため織編物の品位が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平2−145825号公報
【特許文献2】特開平4−65506号公報
【特許文献3】特開平4−91213号公報
【特許文献4】特開平7−102410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、高速で安定して溶融紡糸することができ、また、アルカリ等で易溶出性成分を溶解除去することで、染色バラツキが少なく、毛羽感のあるソフトな風合とドライ感という相反する風合が混然一体となったシルキー織編物を得るのに好適なポリエステル異形断面糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)繊維の横断面において、易溶出性成分からなる鞘部と、難溶出性成分からなる芯部で構成された芯鞘型ポリエステル複合繊維あって、易溶出性成分として、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜15質量%含有するポリエステルAを用い、難溶出性成分として、全構成単位の80モル%以上がエチレンフタレートであるポリエステルBを用い、ポリエステルAとポリエステルBとの溶融粘度が下記式(1)〜(3)の条件を満足し、かつポリエステルAを溶出後の横断面形状が、突起部と細溝とを交互に、略一様に有し、突起部と細溝の断面が長方形ないし略台形状を呈することを特徴とするポリエステル異形断面糸。
(A)<(B) ………(1)
2200≧(A)≧1000 ………(2)
2500≧(B)≧1200 ………(3)
ただし、(A)はポリエステルAの、(B)はポリエステルBの、温度290℃、剪断速度1000s−1における溶融粘度(dpa・s)を表す。
(2)突起部の数と寸法が下記(4)〜(6)式を満足することを特徴とする上記(1)記載のポリエステル異形断面糸。
15≦N≦35 ………(4)
0.3≦W≦1 ……(5)
1.5W≦H≦3W ……(6)
ただし、Nは突起部の数、Wは突起部の幅(μm)、Hは突起部の高さ(μm)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル異形断面糸は、高速で安定して溶融紡糸することができ、また、アルカリ溶出処理後の染色性のバラツキが少なく、かつ、溶出処理後の単糸繊維の断面において外周部に特定の突起部と細溝とを交互に形成する異形断面繊維となり、製編織すれば、毛羽を有していないにもかかわらず、毛羽感のあるソフトな風合とドライ感に富んだスパンシルク調の風合を有する布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステル異形断面糸は、図1で示したように、繊維横断面において鞘部が易溶出性成分であるポリエステルA、芯部が難溶出性成分であるポリエステルBで構成された芯鞘型ポリエステル複合繊維であり、鞘部を溶出した後において、図2で示したように繊維表面に突起部1と細溝2とを交互に, 略一様に分布させた異形断面繊維となるものである。
【0014】
本発明において、易溶出性成分のポリエステルAは、難溶出性成分のポリエステルBよりもアルカリ等の溶剤に対する溶解速度が5倍以上速いものであることが好ましい。そのため、ポリエステルAは、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、平均分子量が1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜15質量%含有することが重要である。
【0015】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
【0016】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分が、ジカルボン酸成分の1モル%未満になると、アルカリに対する溶解速度が遅くなる。一方、3モル%を超えると、高速での製糸性が悪くなり糸切れが発生しやすくなる。
【0017】
また、ポリアルキレングリコールは、平均分子量が1000〜10000のものが好適であり、1000未満のものでは、ポリエステルAのガラス転移点が低下するため、紡糸工程で融着が発生しやすくなり、10000を超えるものでは、相融性が悪くて均一に含有させることが難しい。
【0018】
ポリアルキレングリコール含有量が5質量%未満になると、アルカリに対する溶解速度が遅くなり、15質量%を超えると、溶解速度は速くなるものの製糸性が悪くなり、紡糸工程で糸切れが発生しやすくなる。
【0019】
次に、難溶出性成分のポリエステルBとしては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分からなり、全構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステルが好適である。また、ポリエステルBは、一般的に使用されている添加剤、艶消し剤、制電剤、酸化防止剤等を添加したものでもよい。
【0020】
安定した高速の溶融紡糸を可能にすると共に溶出処理後の難溶出性成分からなる繊維の性能を均一なものにするためには、ポリエステルA、Bの溶融粘度が前記式(1)〜(3)の条件を満足することが必要である。
【0021】
式(1)を満足せず、ポリエステルAの溶融粘度(A)が、ポリエステルBの溶融粘度(B)より大きい場合、複合繊維の伸度を適正な伸度に調整しようとすると、延伸工程でのポリエステルBの延伸倍率が適正範囲を外れてしまうため、溶出処理後の難溶出性成分からなる繊維の染色性が、紡糸錘間、延伸錘間でバラツキを生じる。
【0022】
また、ポリエステルAの溶融粘度(A)が式(2)を満足せず1000より小さいと、溶融粘度が低すぎるために製糸性が悪く、紡糸工程で糸切れが発生しやすく、このため、溶出処理後の難溶性成分からなる繊維の物性が低下する。一方、ポリエステルAの溶融粘度(A)が2200を超えると、式(1)の条件を満足させても延伸工程でのポリエステルB側の延伸倍率が適正範囲を外れてしまうために、溶出処理後の難溶出性成分からなる繊維の染色性にバラツキが生じやすくなる。
【0023】
さらに、ポリエステルBの溶融粘度(B)が式(3)を満足せず、1200未満になると、溶出処理後の難溶出性成分からなる繊維の物性が低下する。一方、ポリエステルBの溶融粘度(B)が2500を超えると、溶融粘度が高すぎて通常の方法では溶融紡糸を行うことが困難となる。
【0024】
なお、上記のような溶融粘度の範囲となるポリエステルA及びポリエステルBの極限粘度は、共重合物質及びその共重合量により多少の違いはあるが、ポリエステルAが約0.70〜0.75、ポリエステルBが0.67〜0.73である。
【0025】
本発明において、溶融紡糸し、溶出処理後の難溶出性成分からなる繊維の目的とするソフトな風合とドライ感のあるシルキーな風合を得るためには、断面形状が重要であり、繊維表面に突起部と細溝部が交互に、かつ、略一様に分布し、突起部と細溝部の断面形状は、長方形ないし略台形形状とする必要がある。細溝の形状が三角のV形状になると,突起部は底面の幅が上面より広くなるため、布帛を指で滑らせた時の摩擦、あるいは曲げに対して変形が生じ難くなり、ソフトな風合が損なわれたり、粗硬な風合となる。
【0026】
上記の形状を有し、かつ、好ましくは前記式(4)〜(6)を満足する本発明の異形断面糸で構成された布帛は、繊維軸方向に指を滑らせた時に、突起部の各々一片は細く変形しやすいため、ソフトな風合となる。また、摩擦に対して突起部が独立の動きをするので、毛羽が存在しないにも関わらず、あたかも毛羽を有しているような風合となる。さらに、繊維軸に対して直角方向に指を滑らせた時に、突起部のギア効果によって単糸に転がりが生じたり、凹凸の効果によってドライ感を醸しだすことができる。
【0027】
溶出処理後の異形断面糸の突起部の数(N)は、繊維の周上に15〜35個、特に16〜25個存在することが好ましい。繊維周上に位置する細溝部の幅を一定とすると、突起部の数が15個未満では突起部一片当りの皮膚への接触面積が大きくなるため、ヌメリ感やまつわりが発生することがある。また、36個以上では、必然的に突起部の幅が薄くなり、加工時や着用時に突起部が脱落したり、フィブリル化して布帛に白ぼけが発生することがある。また、風合面では毛羽感が過度に進み、スエードやピーチフェイスタッチのヌメリ感が強調され、目的とする風合が得られないことがある。
【0028】
次に、糸条を構成する異形断面繊維の突起部の幅Wと高さHとの関係について、鞘部を溶出処理後の異形断面繊維の部分拡大断面図である図3を用いて説明する。図3において、突起部側面の線を延長し、突起部の頂点の外接円の交点をA、Bとし、細溝部の最深部の内接円の交点をA’、B’とする。また、線分A−B及び線分A’−B’の中点をD、D’とする。また、
(a)突起部の幅Wは線分A−Bの長さとする。
(b)突起部の高さHは線分D−D’の長さとする。
【0029】
まず、突起部の寸法は、幅Wは0.3〜1μmの範囲とすることが好ましい。突起部の幅Wが0.3μm未満の場合、突起部の数が多くなったと同様にフィブリル化しやくなり、ヌメリ感が強調されることがある。また、1μmを超えると、突起部の幅が広くなり、ガサツキ感や粗硬感が生じることがある。
【0030】
次に、突起部の高さHは、突起部の幅Wと関連があり、突起部の幅Wの1.5〜3倍の範囲にすることが好ましい。突起部の高さHが幅Wの1.5倍未満になると、必然的に凹凸が乏しくなって、布帛の表面を指で滑らせた時、通常の丸断面糸や多葉断面糸と変わらなくなり、本発明でいう突起部を指で滑らせた時に感ずる毛羽感のあるソフトな風合とはならないことがある。また、3倍を超えた場合は必然的に凹凸が大きくなり、単糸同士が堅固に充填されて単糸が拘束されるので、布帛にした時に単糸の転がりがなくなり、ドライ感が欠けたり、凹凸が強調され過ぎてガサツキが発生したり、品位を低下させることがある。
【0031】
本発明のポリエステル異形断面糸は、繊維の形態は長繊維、短繊維のいずれでもよいが、織編物にした場合、毛羽感のあるスパンシルク調の風合いが得られるため、長繊維が好ましく、単糸繊度は2〜10dtex、単糸本数は20〜50本とすることが好ましい。
【0032】
次に、本発明のポリエステル異形断面糸の製造法について説明する。
【0033】
本発明のポリエステル異形断面糸は、複合紡糸法によって芯部のポリエステルBを鞘部のポリエステルAが、好ましくは15〜35(図1では20個)に分割した繊維を紡糸して得られる図1で示したような形態のものであり、図2で示したように、異形断面の形態を顕在化させるには、製編織した後、アルカリ等の溶剤で溶解速度の違いを利用してポリエステルAを除去して異形化する方法が用いられる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例において各種の測定及び評価は、次の通りに行った。
(1)極限粘度
フエノールと四塩化エタンの等質量混合溶媒を用い、温度20℃で測定した。
(2)溶融粘度
ペレット状の試料を130℃で24時間減圧乾燥して水分を除き、フローテスター(島津製作所製、型式CFT-500)を用いて測定した。
(3)突起部の寸法
延伸して得られた糸条を筒編みし、NaOH濃度0.5質量%,処理温度95℃の条件で易溶出性成分であるポリエステルAを完全に除去した後、水洗乾燥した筒編地を解編し、走査型電子顕微鏡で断面写真を撮り、写真上で測定した。
(4)風合い評価
織、編、染色技術者からなるパネラー10人を選定し、触感での官能検査方法により、布帛の毛羽感、ソフト感、ドライ感を中心に1人ずつ5段階で評価させ、その合計点で評価した。(最高点は50点)
(5)染色性のバラツキ評価(染色評価)
1条件について80本からなる延伸糸群より標準糸を1本選定し、標準糸を周期的に入れた筒編地とし、NaOH濃度0.5質量%、処理温度95℃の条件でアルカリ減量して易溶出性成分であるポリエステルAを完全に除去する。続いて、減量処理した筒編地を、Sumikaron Biue SE-RPD(N)(住友化学社製分散染料)を用い、ミニカラー染色機にて温度100℃で60分間常法により染色し、洗浄して風乾した後、JIS L084標準色票による判定を行い、標準糸に対してグレースケール差が0.5級未満となる率を求めた。この率が高い程染色バラツキが少なく、90%以上を合格とした。
【0035】
実施例1〜3、比較例1〜4
紡糸において、易溶出性成分であるポリエステルAとして5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5モル%と、平均分子量が8000のポリエチレングリコールを8.0質量%共重合し、溶融粘度が異なる種々の共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、難溶出性成分であるポリエステルBとして同じく溶融粘度が異なる種々のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。紡糸錘数4錘の複合紡糸機を用いて単糸の断面形状が、図1に示すように繊維の円周上に易溶出性成分のポリエステルAが難溶出性成分のポリエステルBをギア形状に複数分割した芯鞘構造糸になるように設計した紡糸口金を用いて、延伸糸繊度が約110デシテックスとなるように紡糸時の吐出量を設定して紡糸を行った。 具体的には、突起部の数が20個になるようにした複合紡糸口金装置を用いて、難溶出性成分であるポリエステルBと易溶出性成分であるポリエステルAが質量比率で80/20となる複合繊維比率で、紡糸速度3,250m/min、紡糸温度290℃の条件で紡糸を行い、1kg捲きの半延伸糸を80本採取した。引続いて、延伸温度90℃、熱セット温度170℃の条件で延伸を行い、繊度が110デシテックスで48フィラメントの延伸糸を80本得た。
こうして得られた延伸糸を前記した評価法に基づいて評価を行った結果を、表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例1、2、3は、紡速3250m/minで安定した紡糸が可能で、溶出後の難溶出性成分であるポリエステルBの繊維は染色性のバラツキが少ないものであった。
【0038】
一方、比較例1は、ポリエステルAの溶融粘度が高すぎるため、比較例2はポリエステルAの溶融粘度がポリエステルBより高いため、いずれも高速紡糸は可能であったが、溶出後の難溶出性成分であるポリエステルBの繊維は染色性のバラツキが大きいものであった。次に、比較例3は、ポリエステルAの溶融粘度が低すぎるため、糸条採取は可能であったが、染色性のバラツキは大きく、さらに、比較例4は、ポリエステルAの溶融粘度が低すぎ、かつポリエステルBの溶融粘度が高すぎるため、糸切れが多発して糸条を得ることができなかった。
【0039】
実施例4〜10
易溶出性成分であるポリエステルAとして5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5モル%と、平均分子量が8000のポリエチレングリコールを8.0質量%共重合し、溶融粘度1550dpa.sの共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、難溶出性成分であるポリエステルBとして溶融粘度が1650dpa.sのPETを用いた。
紡糸錘数4錘の複合紡糸機を用いて難溶出性成分であるポリエステルBと易溶出性成分であるポリエステルAの質量比率が80/20となる複合比率で、単糸の断面形状が、図1に示すように繊維の円周上に易溶出性成分のポリエステルAが難溶出性成分のポリエステルBをギア形状に複数分割した芯鞘構造糸になるようにし、アルカリ溶出処理後に形成される突起部の数と寸法が種々変化するようにした複合紡糸ノズルを用いて、紡糸速度3250m/min、紡糸温度290℃の条件で、延伸糸繊度が約110デシテックスになるように吐出量を調整して、1kg捲きの半延伸糸を80本採取した。引続いて、延伸温度90℃、熱セット温度170℃の条件で延伸を行い、繊度が110デシテックスで48フィラメントの延伸糸を80本得た。
次いで、得られた異形断面糸を経糸と緯糸とに用い、経糸密度85本/2.54cm、 緯糸密度72本/2.54cmで平織に製織し、得られた織物をNaOH濃度0.5%、処理温度95℃の条件で略32%のアルカリ減量と染色等の一連の後加工を施した。
得られた延伸糸と織物の評価結果を併せて表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、実施例5〜8で得られた織物は目的とする毛羽感とスパンシルク調の風合を有したものであり、パネラー等の評価点も何れも高いものであった。
実施例4は、突起部の数がやや少なく、幅がやや広く、高さがやや高いので、毛羽感、ドライ感についての評価点は実施例5〜8のものよりやや低かった。また、実施例9,10は、突起部の数がやや多いので、毛羽感、ヌメリ感がやや強く、実施例5〜8のものより評価点はやや低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のポリエステル異形断面糸を構成する単糸の異形断面の一実施態様を示す横断面模式図である。
【図2】図1の異形断面糸をアルカリ減量処理して異形断面を顕在化させた後の繊維の一実施態様を示す横断面模式図である。
【図3】図2の部分拡大模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 突起部
2 細溝
A 易溶出性成分であるポリエステル
B 難溶出性成分であるポリエステル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の横断面において、易溶出性成分からなる鞘部と、難溶出性成分からなる芯部で構成された芯鞘型ポリエステル複合繊維あって、易溶出性成分として、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜15質量%含有するポリエステルAを用い、難溶出性成分として、全構成単位の80モル%以上がエチレンフタレートであるポリエステルBを用い、ポリエステルAとポリエステルBとの溶融粘度が下記式(1)〜(3)の条件を満足し、かつポリエステルAを溶出後の横断面形状が、突起部と細溝とを交互に、略一様に有し、突起部と細溝の断面が長方形ないし略台形状を呈することを特徴とするポリエステル異形断面糸。
(A)<(B) ……(1)
2200≧(A)≧1000 ……(2)
2500≧(B)≧1200 ………(3)
ただし、(A)はポリエステルAの、(B)はポリエステルBの、温度290℃、剪断速度1000s−1における溶融粘度(dpa・s)を表す。
【請求項2】
突起部の数と寸法が下記(4)〜(6)式を満足することを特徴とする請求項1記載のポリエステル異形断面糸。
15≦N≦35 ………(4)
0.3≦W≦1 ……(5)
1.5W≦H≦3W ……(6)
ただし、Nは突起部の数、Wは突起部の幅(μm)、Hは突起部の高さ(μm)である。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−23423(P2007−23423A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207070(P2005−207070)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】