説明

ポリエステル短繊維

【課題】ソフトな風合いをもち、優れた防透け性、紫外線カット性、接触冷感性、良好な染色性の特徴を有し、さらに中間製品である未延伸糸の取り扱い性に優れるなど生産性にも優れ、かつ品質のバラツキの少ないポリエステル短繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】芯部が、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとが溶融混合したポリエステルであり、鞘部が、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルである芯鞘複合構造を有する短繊維であって、下記(1)〜(3)のすべてを満足することを特徴とするポリエステル短繊維。
(1)芯部に無機粒子を2〜20重量%含有する。
(2)ポリエチレンテレフタレートを短繊維全体に対して5〜20重量%含有する。
(3)芯部と鞘部の重量比が60/40〜80/20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトな風合いをもち、優れた防透け性、紫外線カット性、接触冷感性、良好な染色性の特徴を有し、さらに中間製品である未延伸糸の取り扱い性に優れるなど生産性にも優れ、かつ品質のバラツキの少ないポリエステル短繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸の低級アルキルエステルとトリメチレングリコール(1,3プロパンジオール)を重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略記する)は、低弾性率、ソフトな風合い、易染性といった特徴が注目され、衣料に適する合成繊維として世界で生産されている。近年では、素原料の一部をバイオ法により製造する方法が発表され、さらに注目度が高まっている。
【0003】
しかし、PTTはガラス転移点が低く、また屈曲したメチレン鎖による嵩高な構造のために分子鎖間の相互作用が小さく、室温に近い温度でも分子運動によって経時的な物性変化が生じる。特に低紡糸速度である未延伸糸では分子拘束力が小さいため、環境温度に敏感であり、容易に経時的に寸法変化するという問題点があった。最も如実に現れる現象として経時的な収縮が挙げられ、長繊維の製造に際しては巻締りやパッケージ内外層での物性差やそれに起因する工程通過性不良が発生しやすい問題があり、短繊維の製造に際しては未延伸糸がトウ缶等の収納容器内で収縮することに起因するもつれ、延伸不良など工程通過性不良や、品質のばらつきが発生しやすい等の問題がある。
【0004】
しかしながら、短繊維は通常紡糸された未延伸糸を缶などの収納容器に納め、複数の収納容器から未延伸糸を、捲縮付与に用いるクリンパーに適正なトウの繊度になるように引きそろえてから、延伸、捲縮付与、切断という工程を通し、短繊維化するという製法をとられることが多い。このような製法でクリンパーへ供給されるトウは通常数十ktexと非常に大量であるため、必要な量の未延伸糸が収納容器に蓄えられるまで長時間が必要であり、紡糸生産開始直後の未延伸糸は延伸されるまで収納容器内で長時間放置されることとなる。PPTを用いた繊維では、この間に、未延伸糸に経時変化が生じるため、生産された時間差による物性のバラツキが生じたり、また経時的な収縮により収納容器内での絡まりや崩れがおこったりするなど、品質面・生産性いずれにも問題が生じていた。
【0005】
例えば、特許文献2では、PTTよりなる未延伸糸を得た後、通例どおり延伸しており、上記したような経時変化による未延伸糸の収縮が起こるために、未延伸糸の状態で保管できる時間が短く、大量生産を必要とする短繊維の製造には適用さない。
【0006】
一方、特許文献1では、紡糸と延伸を連続工程として、直接延伸し、未延伸糸状態を経ない方法で長繊維を得ることが開示されており、このようにして得られた長繊維をひきそろえ、捲縮付与する方法も考えられるが、短繊維の製造に用いられるクリンパーは生産性の面から数十ktexのトウを使用することが普通であるため、通常の直接紡糸延伸で得られる小さい繊度の糸条の場合、大量の本数の糸条をひきそろえる必要があるため、作業性・生産性の面で現実的ではないという問題がある。
【0007】
このようなPPTに起因する経時な寸法変化による生産性の悪化を回避するために、特許文献3では、未延伸糸を一旦巻取り、次いで延伸するという製法において、未延伸糸の巻取り、保管及び延伸各工程の温湿度を制御することによって、また特許文献4では、未延伸糸の複屈折率と水分含有率を適正化することによって経時的な収縮を抑えるという技術が提案されているが、特にクリンパーを用いた大量生産を必要とする短繊維製造の場合、大型の装置全体の温調などをする必要があり、そのような技術はコスト的に採用できない。
【0008】
一方、ポリエステルは透明であるため、それを用いた繊維は透明であり、そのような繊維を布帛とした場合、下に着用している下着などの衣服や素肌が透けて見えるという欠点があった。
【0009】
このような透けを防止する機能、いわゆる防透け性を付与するために、従来より無機微粒子を高い濃度で含有させる手法がとられているが、その無機粒子により製造工程のガイド磨耗や毛羽が発生しやすい問題があり、それを抑制するために、芯部には高濃度の無機微粒子を含有させたポリエステルを用い、鞘部には通常の無機微粒子濃度のポリエステルを用いることにより改善が図られている。例えば特許文献5では芯部および鞘部に共重合のポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する)を用い、芯部に無機粒子を高い濃度で含有させる例が示されている。これにより、共重合ポリマーによる良好な染色性と無機粒子による防透け性を両立しているが、ソフト性という点では満足のいくものではなかった。
【0010】
防透け性とソフト性の両立を達成すべく、特許文献6や特許文献7には、芯に高濃度に無機微粒子を含有するPET、鞘にPTTを配した繊維が紹介されている。このような構成では、ポリエステル繊維単独で用いる用途においては、防透け性とソフト性を共に得ることができるが、特に他の合成繊維や綿などの天然繊維と混用されることが多い短繊維においては、混用時のポリエステル繊維の割合が下がってしまい、布帛とした際に十分な防透け性とソフト性を両立させることができなかった。
【特許文献1】特許第3789030号公報
【特許文献2】特開平9−3724号公報
【特許文献3】特許第3241359号公報
【特許文献4】特開2001−262435号公報
【特許文献5】特開平11−217732号公報
【特許文献6】特開2002−105796号公報
【特許文献7】特開平11−81048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ソフトな風合いをもち、優れた防透け性、紫外線カット性、接触冷感性、良好な染色性の特徴を有し、さらに中間製品である未延伸糸の取り扱い性に優れるなど生産性にも優れ、かつ品質のバラツキの少ないポリエステル短繊維およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のポリエステル短繊維は、上記課題を解決するために次のような手段を採用する。すなわち、芯部がポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとが溶融混合したポリエステルであり、鞘部がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルである芯鞘複合構造を有する短繊維であって、下記(1)〜(3)のすべてを満足することを特徴とするポリエステル短繊維である。
(1)芯部に無機粒子を2〜20重量%含有する。
(2)ポリエチレンテレフタレートを複合繊維全体に対して5〜20重量%含有する。
(3)芯部と鞘部の重量比が60/40〜80/20である。
【0013】
また、本発明のポリエステル短繊維の製造方法は、上記課題を解決するために次のような手段を採用する。すなわち、ポリトリメチレンテレフタレートと、無機粒子を30〜60重量%含有するポリエチレンテレフタレートとを溶融混合したポリエステルを芯部に、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘部として、口金より芯鞘複合の溶融紡糸を行って得た未延伸糸条を収納容器に収納して保管した後、複数の収納容器から未延伸糸条を立ち上げ引きそろえて延伸し、クリンパーで捲縮を付与した後、切断することを特徴とするポリエステル短繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル短繊維は、上記した手段を採用したことにより、ソフトな風合いをもち、優れた防透け性、紫外線カット性、接触冷感性、良好な染色性の特徴を有する。また、本発明のポリエステル短繊維の製造方法は、中間製品である未延伸糸の取り扱い性に優れるなど生産性にも優れ、かつ品質のバラツキが少ない特徴を有し、本発明のポリエステル短繊維を製造する上で、好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリエステル短繊維は、その横断面において芯部が鞘部により覆われ、芯部が表面に露出していないように配置された芯鞘複合構造を有する。ここで芯鞘複合構造とは芯部が鞘部により完全に覆われていれば良く、必ずしも同心円状に配置されている必要はない。また、繊維の断面形状についても、丸、扁平、多角形、複数の凸部を有する形状など、どのような形状でも良いが、安定な製糸性および高次加工性を得やすいという点より、丸断面であることが好ましい。
【0016】
本発明では、芯部となるポリマー、いわゆる芯部ポリマーとしてPETとPTTとが溶融混合したポリエステルを用い、鞘部となるポリマー、いわゆる鞘部ポリマーとしてPTTを用いる。そして、芯部には、無機粒子を、2〜20重量%、好ましくは5〜10重量%含有させるのである。芯部ポリマーにPETとPTTとの混合ポリマーを用いず、高濃度で無機微粒子を含むPETのみを用いた場合、芯部の重量比率が高い時は良好な防透け性を有するが繊維全体に占めるPTTの比率が低くなるために十分なソフト感を得ることができなくなり、特に他の天然繊維や合成繊維と混合して紡績糸や不織布等に用いられることの多い短繊維では高次加工製品のソフト感の喪失が顕著になる。逆に芯部の重量比率が低い時はソフト感は増すものの、繊維断面における高濃度の無機微粒子が占める部分が小さくなり、糸の光反射性が低下するため十分な防透け性が得られなくなる。また、本発明において鞘部ポリマーはPTTであることが必要である。芯部同様にPETを初めとするPTT以外のポリマーとブレンドをして用いた場合、ソフト感の喪失や、染色性が乏しくなる。
【0017】
無機粒子は防透け性を付与するための艶消し剤として作用する。無機粒子としては、シリカゾル、シリカ、アルキルコートシリカ、アルミナゾル酸化チタン、炭酸カルシウムなどがあるが、ポリエステル中に添加した際に化学的に安定していればとくに限定されない。好ましくは化学的安定性、対凝集性、コストの面から二酸化チタン(以下、TiOと略記する)が好ましい。
【0018】
また、無機粒子の量が2重量%を下回ると無機粒子による光反射率が低下し、良好な防透け性が得られなくなり、無機粒子の量が20重量%を超えると、製糸性悪化の原因となり、紡糸工程における濾圧上昇の度合いが大きくなるために工業的に実用的ではなく、また製品の軽量感が失われてしまう。無機粒子の含有量は、より多量であるほど防透け性の面で優れるものの、製品とした際の軽量感が得られなくなるため、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明で用いられるPETは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルであり、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなっており、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであってよい。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0020】
本発明で用いられるPTTは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルであり、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなっており、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであってよい。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0021】
ここで、短繊維全体に占めるPETの比率が5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%となるようにする。短繊維に占めるPETの比率は、芯部におけるPETとPTTの混合の比率や、芯部と鞘部との比率を後述の範囲内において変えることにより調整することができる。短繊維に占めるPETの比率が20重量%を超えると、繊維のソフト感が得られなくなり、5重量%を下回ると、未延伸糸の経時的収縮が発生し、特に後述する紡糸と延伸の2ステップを経る製造方法においては、未延伸糸を長時間放置せざるを得ないためにその経時的収縮が顕著となり、工程通過性の悪化や糸の品位の低下の原因となる。また未延伸糸の経時的収縮の他に、PTTの比率が高い場合はその低いヤング率から通常の機械捲縮による捲縮付与が難しく、また捲縮付与後に熱処理を行った場合にその低いガラス転移点のために付与した捲縮が伸びてしまうことから、良好な捲縮を有する短繊維を得ることが困難である。PETを短繊維中に5〜20重量%の比率で含ませることにより、通常PETと遜色のない捲縮付与性および捲縮保持性を与えることができるとともに、PTT特有のソフト性を最大限に付与させることができる。
【0022】
本発明において、芯部と鞘部の比率(芯鞘複合比率)は重量比で60/40〜80/20、好ましくは65/35〜75/25とする必要がある。芯部の比率が60%を下回ると、繊維断面における高濃度の無機微粒子が占める部分が小さくなり、糸の光反射性が低下するため良好な防透け性が得られなくなり、芯部の比率が80%を超えると芯部の一部が繊維表面に現れやすくなり、製品にした際の染色ムラや毛羽の発生、あるいは製造工程でのガイドの磨耗や切断装置の刃の寿命が短くなるなどの原因となる。
【0023】
以上のような芯鞘複合構造の短繊維とすることにより、芯部に高濃度に無機粒子を含有させることが可能となり、優れた防透け性、紫外線カット性を得ることができるとともに、繊維全体におけるPTTの比率が高いことにより、短繊維として他の繊維と混合して用いられる際も、十分なソフト性をもった製品を得ることができる。また、繊維の表面はPTTであることにより良好な染色性を得ることができ、特に低温で染色ができることから、コットンやウールなど高温染色で劣化が生じやすい天然繊維との混合に最適な素材となり得る。また、繊維中にPETが適正量含有されていることにより、紡糸後の未延伸糸の経時変化を抑えることができるために、従来の紡糸、延伸の2ステップからなる製造方法により、短繊維を効率よく生産することが可能となる。
【0024】
次いで、上記したポリエステル短繊維を生産性良く安定して製造することができる方法について説明する。
【0025】
まず、芯部ポリマーを、PETとPTTとを溶融混合して得るが、溶融混合する方法については、別個に製造されたPETチップとPTTチップをチップブレンドしてから溶融設備に供給する方法、PETとPTTそれぞれに投入設備を設け一定の割合で溶融設備に供給する方法、あらかじめPETとPTTを溶融混練してチップ化しておく方法などが挙げられる。
【0026】
芯部ポリマーに無機粒子を適正量含有させるためには、溶融混合する前のPETとPTTの両方または片方に無機粒子を添加して溶融混合する手法や、PETとPTTとを溶融混合する際に別の供給装置から無機粒子を添加するなどの手法が挙げられる。ただし、PPTを含有するポリエステルに高濃度に無機粒子を添加するとポリマー中での無機粒子の凝集が非常に起こりやすくなる。そのため、そのようにして得た無機粒子を高濃度に含有したポリエステルを芯部として紡糸すると、凝集物が粗大粒子として振舞ってしまい、糸切れや濾圧上昇などの操業の点で問題となりうる。また、PETとPTTとを溶融混合する時に無機粒子を添加するためには、無機粒子用の供給装置が別に必要となるため、設備の大型化、複雑化によるコスト面や保全の煩雑さという点で問題がある。
【0027】
したがって、無機粒子を高濃度に含有した芯部ポリマーを得るためには、無機粒子を高濃度に含有するPETと、無機粒子を含有しないか、含有するとしても低濃度に含有するPTTとを溶融混合するのが良い。前述のとおりPTTに高濃度に無機粒子を添加すると無機粒子の凝集が非常に起こりやすいため、溶融混合する前のPTTに含有させる場合には、無機粒子の量は2重量%以下、好ましくは0.5重量%以下とする。
【0028】
一方、PETはPTTに比べ、無機粒子を高濃度に添加しても無機粒子の凝集は起こりにくいため、無機粒子混合PETに占める含有量を30〜60重量%、好ましくは40〜55重量%という高濃度に無機粒子を含有させることが可能である。かかる含有量が30重量%未満であると、芯部ポリマーにおける無機粒子含有量を高めることができないし、60重量%を超えると、芯部ポリマーにおける無機粒子含有量が高くなりすぎて、紡糸時の濾圧上昇など紡糸性が悪くなり、また得られる繊維の強度が低下することが多い。無機粒子を含有しないか低濃度に含有するPTTと無機粒子を高濃度に含有するPETとの混合比率や、PET中の無機粒子含有量を適宜調整することにより、芯部ポリマーにおける無機粒子含有量や繊維全体におけるPET比率を所望の範囲に設定することができる。
【0029】
このようにして得た芯部ポリマーと、PTTである鞘部ポリマーを芯鞘複合紡糸して未延伸糸条を得る。芯部ポリマーが芯に、鞘部ポリマーが鞘になるように口金から溶融紡糸して未延伸糸条を得るのである。短繊維の製造では、生産性の観点から、未延伸糸条を紡糸に連続して延伸することはせずに、一旦引き取って、ある程度の量を蓄えた後に、複数本の未延伸糸条を引きそろえて、延伸するのが一般的である。
【0030】
未延伸糸条の引き取り方法としては、各口金から吐出された未延伸糸条をそれぞれ巻取り機で巻き取る方法でもよいが、短繊維製造における生産性という点から、未延伸糸条を収納容器に収納する方法、いわゆる収納引き取り法が好ましく採用される。具体的には、複数の口金から得られた多数本の未延伸糸条を集め数千〜数万dtexのサブトウとしてこれを多数のローラー群で誘導しながらトウ缶などの収納容器内に振り落として収納するのである。
【0031】
未延伸糸条を得る際の溶融紡糸の溶融温度としては、生産性を考えると、芯部ポリマーについては260〜280℃、鞘部ポリマーについては220〜260℃とすることが好ましい。溶融方法としては、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられ、いずれの方法でも問題はないが、均一溶融と滞留防止の観点からエクストルーダーによる溶融方法を採用するのが好ましい。芯部ポリマーと鞘部ポリマーは別々に溶融され、各ポリマーは別々の配管を通り、計量された後、口金パックへと流入する。この際、熱劣化を抑えるために配管通過時間は30分以下であることが好ましい。パックへ流入した各ポリマーは口金にて合流し、所望の断面構造となるよう芯鞘複合され口金より吐出される。この際のポリマー温度は、250〜280℃が適当である。
【0032】
口金より吐出されたポリマーは、冷却、固化されて未延伸糸条とされた後引き取られる。引き取る前に工程通過性向上を目的として油剤を付与してもよい。その際の引き取り速度は速度安定性と品質バラツキの観点から、好ましくは900〜1500m/分、より好ましくは1100〜1400m/分とする。
【0033】
引き取られた未延伸糸条は、多数本引き揃えられて、延伸工程へと導かれる。引き取り方法として収納引取りを採用した場合には、複数の収納容器から未延伸糸条を立ち上げ引きそろえてから延伸工程へと導かれる。延伸する際の総繊度は生産性を考えて数十〜数百ktexとするのが好ましく、未延伸糸条への熱の伝達をスムーズに行うためには延伸は温水浴中で行うことが好ましい。この際、糸条中への温水の浸透を促しより均一な加熱を実現するために、温水中へ油剤を添加してもよい。延伸倍率は紡糸の際の引取速度に依存するため一概には言えないが、通常は1.5〜5倍、好ましくは2.5〜4倍に設定される。延伸倍率が1.5倍を下回ると十分なポリマーの配向が達成できず十分な強度が得られなかったり、部分的な未延伸状態が発生し染色ムラなどの異常の原因となったりすることがあり、5倍を超えると単繊維切れが起こり、安定な延伸が行えなかったり、ローラー巻きつきなどの発生により生産安定性に劣る原因になりうる。
【0034】
延伸されたトウ、いわゆる延伸糸条は必要に応じてクリンパーを用いて捲縮付与される。その際の総繊度は、生産性を考慮して、好ましくは50ktex以上、より好ましくは70ktex以上とする。また捲縮付与時にトウを加熱蒸気を晒すことで、繊維の塑性変形を促し捲縮付与性が向上するため、より良好な捲縮を付与することができる。捲縮付与されたトウに弛緩熱処理を施すことで捲縮形状を固定することができる。熱処理温度は、80〜150℃の範囲であることが得られる短繊維の物性面で好ましい。捲縮の状態は、紡績工程における開繊性や工程通過性を考え、捲縮数3〜30山/25mm、捲縮率2〜30%であることが好ましい。
【0035】
必要に応じて捲縮付与、熱処理された延伸糸条は切断装置によって所望の繊維長に切断され短繊維となる。繊維長は高次加工の方法や混用する繊維の種類によって3〜200mmの範囲内で設定できるが、例えば綿紡方式の場合では38mmの長さに切断することが好ましい。
【0036】
また、必要に応じて抗菌性等の機能付与を目的とした機能剤を延伸工程で付与してもよい。クリンパーで捲縮付与する場合には、その直後で付与しても良いし、切断する直前で付与してもよい。
【実施例】
【0037】

以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本実施例で用いる特性は次のようにして測定した。
【0038】
(1)ポリマーの固有粘度
測定すべきポリマーを、溶媒である純度98%以上のo−クロロフェノールに溶解して検体溶液を作製する。25℃における検体溶液の粘度ηと、同一温度における溶媒のみの粘度ηをオストワルド粘度計を用いて測定し、次式によって固有粘度[η]を求める。
【0039】
【数1】

【0040】
ここで、cは上記検体溶液100ml中のグラム単位によるポリマー重量である。
【0041】
(2)紡糸性−1(異常糸数)
紡糸工程において、トウ缶に振り込まれる直前の走行中の糸条を素手の状態の指で挟み、10分間触っている間に観測された異常部(紡糸時に糸切れや融着などの異常部がない場合は糸条を触っていても滑らかでなにも感じないが、異常部がある場合は糸条に小さな塊が入っているような凹凸を感じる)の数を数えた。6名の作業者が交代で行い、合計1時間の間に観測された異常部の数を合計し、その異常部の数が、0回〜2回である場合に優良(◎)、3回〜6回である場合に良(○)、7回以上である場合に不可(×)とする。
【0042】
(3)紡糸性−2(濾圧上昇性)
紡糸開始から10時間経過後の濾圧上昇の値(ΔP1)を測定する。他方で、芯部および鞘部ともに、TiOを0.3重量%含有した固有粘度0.7のPETに変更した以外は同一の条件にて紡糸を行い、その時の10時間後の濾圧上昇の値(ΔP2)を測定する。次式により定義する濾圧上昇性を算出し、その濾圧上昇性が、1.5未満である場合に優良(◎)、1.5〜3である場合に良(○)、3を超える場合に不可(×)とする。
【0043】
濾圧上昇性=ΔP1/ΔP2
(4)遅延収縮率
採取した未延伸糸を、採取後速やかに約300mmの長さに切断し、2×10−3cN/dtexの荷重をかけ、採取から2分以内に糸長L1を測定してから、温度25℃、相対湿度65%の雰囲気で100時間放置する。100時間後の糸長L2を測定し、次式より遅延収縮率を算出する。
【0044】
遅延収縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100
(5)未延伸糸立ち上がり性
トウ缶に収納された未延伸糸条は上に立ち上げられた後、合糸されて延伸工程へと導かれるが、その際未延伸糸条がトウ缶内で絡まり、もつれた状態で立ち上げられることがある。遅延収縮が顕著であると、トウ缶内での絡まりが多発するため、このもつれの回数を遅延収縮による悪性要素の指標として用いる。すなわち、延伸30分間で30個のトウ缶から立ち上がる未延伸糸もつれの回数を記録し、その回数が0〜2回である場合に優良(◎)、3〜5回である場合に良(○)、6以上である場合に不可(×)とする。
【0045】
(6)風合い−1(ソフト感)
測定すべき短繊維と綿とを重量比65/35の割合で混紡し番手30Sの紡績糸とした後、編み機にて180g/mの編地を作製する。作製した編地について、ソフト風合いを10人のモニターによる官能検査にて1〜5点の点数評価(1点:非常に劣る、2点:やや劣る、3点:従来の織物と変わりない、4点:良好、5点:非常に良好)を行い、全員の判定を平均して、その平均値が、4.5点を超え5点以下である場合に優良(◎)、3.5〜4.5点である場合に良(○)、3.5点未満である場合に不可(×)とする。
【0046】
(7)風合い−2(軽量感)
上記の風合い−1評価と同様にして編地を作製する。作製した編地を縦横各1.5mの正方形の大きさにし、その中央に直径30cmの円形の穴を開けて試験体を作製する。10人のモニターそれぞれがこの穴に頭を通しポンチョのような状態で着用し、試験体の軽量感を官能検査にて1〜3点の点数評価(1点:明らかに重く感じる、2点:若干重く感じる、3点:従来の織物と違いを感じない)を行い、全員の判定を平均して、その平均値が、2.8点を超え3点以下である場合に優良(◎)、2.5〜2.8点である場合に良(○)、2.5点未満である場合に不可(×)とする。
【0047】
(8)防透け性
上記の風合い−1評価と同様にして編地を作製する。作製した編地の裏面にL値が1の黒い板を当てた上で、分光光度計を用いて編地の明度L1を測定する。続いて、得られた編地の裏面にL値が92の白い板を当てた上で編地の明度L2を測定し、下記の式で定義する防透け性を算出し、防透け性が90%以上である場合を合格(○)、90%未満である場合を不合格(×)とする。なお、本実施例では、分光光度計として、マクベス社製CE−3100を用いた。
【0048】
防透け性(%)=L1/L2×100
(9)紫外線遮蔽率
上記の風合い−1評価と同様にして編地を作製する。作製した編地について、分光光度計を用い、波長280〜400nmの範囲で5nm毎に下記の式にて透過率を測定し、280〜400nmの範囲で平均したものを紫外線遮蔽率とし、その紫外線遮蔽率が、90%以上である場合を合格(○)、90%未満である場合を不合格(×)とする。
【0049】
透過率(%)=(1−Ta/To)×100
ここで、Taは編地を挿入している時の紫外線透過量であり、Toは編地を挿入していない時の紫外線透過量である。なお、本実施例では、分光光度計として、島津製作所社製MPS−2450を用いた。
【0050】
(10)染色性
上記の風合い−1評価と同様にして編地を作製する。作製した編地を、Estrol BlueN−3RL1.5owf、酢酸0.5ml/l、酢酸ソーダ0.15g/lからなる浴比1:100、98℃の水溶液で60分染色を行い、その後染色された編地を取り出した後、水溶液中に残存している染料濃度を測定して染料吸着率を求め、染料吸着率が70%以上である場合を合格(○)、70%未満を不合格(×)とする。
【0051】
(11)染色均一性
上記の染色性評価にて得られた染色された編地を10人のモニターによる外観検査にてムラなく均一に染まっているかを判定した。全員が均一と判断した場合は合格(○)、1人でもムラを感じた場合は不合格(×)とする。
【0052】
(12)繊維の捲縮数および捲縮率
JIS L 1015:1999に準じて測定する。
【0053】
実施例1
TiOを0.3重量%含有した固有粘度1.3のPTTチップと、TiOを50重量%含有した固有粘度0.7のPETチップを用意し、ブレンド比率をPET/PTT=15/85(重量比)としてチップブレンドして芯部ポリマーとした。鞘部ポリマーとしては上記したPTTチップをそのまま用いた。芯部ポリマーと鞘部ポリマーをそれぞれ270℃、240℃で溶融し、ポンプによる計量を行い、280℃にて口金に流入し芯鞘複合紡糸した。断面形状は同心円状の芯鞘複合断面であり、芯鞘複合比率は重量比で70/30とした。紡糸された糸条を1100m/分の速度で引き取りながら、冷却装置にて冷却し、オイリングローラーにて油剤を付与し、フリーローラーを経て収束ガイドで他の紡糸錘と合糸した後に、トウ缶内へ振り落とし収納することで未延伸糸条を得た。30分毎にトウ缶の交換を行い、未延伸糸条が収納されたトウ缶を必要数用意した。
【0054】
用意したトウ缶を並べ、各トウ缶から未延伸糸条を立ち上げ引きそろえてから85℃の温水浴へ導き、延伸倍率3.2倍で延伸し、79ktexの繊度となった糸条をクリンパーへ導き機械捲縮を付与し、その後、90℃にて弛緩熱処理してから、スプレー方式にて油剤を付与し、回転式のカッターにより長さ38mmに切断してポリエステル短繊維を得た。得られた短繊維の捲縮数は14山/25mm、捲縮率は15%であり、良好なソフト風合いと染色性をもち、防透け性に優れるものであった。また製造する際の紡糸性、延伸性ともに問題なく工程通過性良好であった。
【0055】
比較例1
芯部ポリマーを、TiOを5重量%含有した固有粘度1.3のPTTチップのみに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。短繊維を構成するポリマーがPTTのみであるため、非常にソフトな風合いを有し染色性にも優れていたが、ポリマー溶融時のTiOの凝集が由来と考えられる紡糸性の悪化および、未延伸糸の経時的な収縮に起因する延伸性不良という問題があり、安定操業することができなかった。
【0056】
比較例2
芯部ポリマーを、TiOを5重量%含有した固有粘度0.7のPETチップのみに変更し、芯鞘複合比率を重量比で20/80に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。短繊維中のPETの比率が十分に低いため、ソフト風合いには優れていたが、芯の比率が低く、十分な防透け性および紫外線遮蔽性が得られなかった。
【0057】
比較例3
芯部ポリマーを、TiOを5重量%含有する固有粘度1.3のPTTチップのみに変更し、鞘部ポリマーを、TiOを0.3重量%含有する固有粘度0.7のPETチップに変更し、芯鞘複合比率を重量比で80/20に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。短繊維中のPETの比率が十分に低いため、ソフト風合いには優れていたが、繊維の外側がPETで覆われているために、満足のいく染色性を得ることができなかった。
【0058】
実施例2、3、比較例4、5
芯鞘複合比率を表1または表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。実施例2および3では紡糸性、風合い、防透け性、染色性いずれも満足のいく結果が得られたが、芯部の比率の低い比較例4では十分な防透け性が得られず、また芯部の比率が高い比較例5では芯部として用いたPETとPTTの混合ポリマーが一部繊維表面に露出してしまい、染色時にムラが発生し、製品品位の劣るものであった。
【0059】
実施例4
芯部ポリマーに用いるPETチップ中のTiOの含有量を20重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。実施例1と比較して芯部に含まれるTiOの量が少ないため若干防透け性に劣ってはいたが、十分に満足のいく性能であった。
【0060】
比較例6
芯鞘複合比率を重量比で95/5と変更した以外は実施例4と同様にしてポリエステル短繊維を得た。実施例4と比較して芯部の比率が高くなったため、防透け性は向上したが、芯部ポリマーが一部繊維表面に露出してしまい、染色時にムラが発生し、製品品位の劣るものであった。
【0061】
実施例5
芯部ポリマーに用いるPETチップ中のTiOの含有量を75重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。TiOの含有量が非常に高いため実施例1と比較して若干紡糸性が劣るものの、生産する上では問題ないレベルであった。
【0062】
比較例7
芯鞘複合比率を表2に示すように変更した以外は実施例5と同様にしてポリエステル短繊維を得た。紡糸性は実施例5と比較して良化したものの、芯部の比率の低いため十分な防透け性が得られなかった。
【0063】
比較例8
芯部ポリマーにおけるブレンド比率をPET/PTT=35/65(重量比)に変更した以外は、実施例5と同様にしてポリエステル短繊維を得た。非常に高い比率でTiOを含むため極めて良好な防透け性を有していたが、ポリマー溶融時のTiOの凝集が由来と考えられる紡糸性の悪化が顕著であり、連続生産に耐えられるものではなかった。また複合繊維中におけるPETの比率が高いためソフトな風合いが得られず、さらに軽量感も得られなかった。
【0064】
比較例9
芯部ポリマーにおけるブレンド比率をPET/PTT=6/94(重量比)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。芯部のTiO含有量および芯部の比率は十分であるため、防透け性は満足のいく性能であり、また繊維中のPETの比率が低いためにソフトな風合いに優れていたが、未延伸糸の経時的な収縮に起因する延伸性不良という問題があり、連続生産に耐えられるものではなかった。
【0065】
実施例6
芯部ポリマーに用いるPETチップ中のTiOの含有量を0.3重量%に変更し、チップブレンドされた芯部ポリマーを溶融した後でポンプにて計量する前までの間に、芯部のTiO含有量が8重量%になるように別途設けた設備によりTiOを供給した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。実施例1と比較して、PTT中のTiOの凝集に由来すると思われる紡糸時の濾圧上昇が若干高かったものの、操業性としては問題となるレベルではなかった。また防透け性やソフト風合いは十分に満足のいく性能が得られた。
【0066】
比較例10
芯部ポリマーに用いるPETチップ中のTiOの含有量を0.3重量%に変更し、チップブレンドされた芯部ポリマーを溶融した後でポンプにて計量する前までの間に、芯部のTiO含有量が30重量%になるように別途設けた設備によりTiOを供給した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル短繊維を得た。非常に高い割合でTiOを含有させ、かつ繊維中のPETの比率が低いために優れた防透け性とソフトな風合いを有していたが、PTT中のTiOの凝集に由来すると思われる紡糸性の著しい悪化が見られ、長時間連続で紡糸することが困難であった。
【0067】
以上説明した実施例および比較例での実験条件や評価結果などを表1および表2にまとめて示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部が、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとが溶融混合したポリエステルであり、鞘部が、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルである芯鞘複合構造を有する短繊維であって、下記(1)〜(3)のすべてを満足することを特徴とするポリエステル短繊維。
(1)芯部に無機粒子を2〜20重量%含有する。
(2)ポリエチレンテレフタレートを短繊維全体に対して5〜20重量%含有する。
(3)芯部と鞘部の重量比が60/40〜80/20である。
【請求項2】
ポリトリメチレンテレフタレートと、無機粒子を30〜60重量%含有するポリエチレンテレフタレートとを溶融混合して得た芯部ポリマーと、ポリトリメチレンテレフタレートである鞘部ポリマーを、芯鞘複合紡糸して得た未延伸糸条を収納容器に収納し保管した後、複数の収納容器から未延伸糸条を立ち上げ引きそろえて延伸し切断することを特徴とするポリエステル短繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−197339(P2009−197339A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37041(P2008−37041)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】