説明

ポリエステル系合成繊維糸条及びその製造方法並びに織編物

【課題】 織編物の染色堅牢性や滑脱抵抗力等を低下させずに、織編物に優れた防汚性と吸水性とを与えうるポリエステル系合成繊維糸条を提供することを技術的な課題とする。また、そのような糸条を簡便に製造する方法、及び該糸条を用いた織編物を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】 糸条の長手方向に沿って、ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物が付着されている部分と、前記重縮合物が付着されていない部分とを交互に有し、かつ、前記重縮合物が付着されている部分の平均長さが、前記重縮合物が付着されていない部分の平均長さより長いことを特徴とするポリエステル系合成繊維糸条。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防汚性を有するポリエステル系合成繊維糸条及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系合成繊維糸条は、一般に強度が強く、また、該糸条を用いてなる織編物は、寸法安定性に優れている、染色堅牢性が良好である等の特徴を有しており、そのため広く使用されている。
【0003】
しかしながらポリエステル系合成繊維糸条はそれ自身が疎水性であるため、織編物とした場合、吸水性が悪い、汚れが着きやすく落ち難い、洗濯時に脱落した汚れが再び付着するいわゆる再汚染性がある等、着用に際して不快感を与えるという欠点を有している。
【0004】
これらの欠点を解消する方法として、従来は、染色加工時にポリエステル系織編物へ防汚(SR)剤を付与する方法が採用されており(例えば、特許文献1参照)、具体的には、染色時に織編物に防汚剤を吸尽させる方法や、拡布状でポリエステル系織編物に防汚剤を付着させる方法が一般に採用されている。
【0005】
また、ポリエステル系繊維自身を紡糸段階から改質する方法として、紡糸時に含有剤を含有して繊維表面の電位を変化させることで、繊維自身の防汚性向上を図るという方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭58−81685号公報
【特許文献2】特開平03−174068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る方法は、染色加工工程で行われるいわゆる後加工方法であるため、防汚性を高めるべく多量の薬剤を使用すると、ポリエステル系織編物の染色堅牢性や滑脱抵抗力等を著しく低下させるという問題を有している。
【0007】
また、特許文献2に係る方法により得られた繊維では、織編物にした場合の防汚性を改良できないばかりか、吸水性の改良も十分でないという問題を有している。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、織編物の染色堅牢性や滑脱抵抗力等を低下させずに、織編物に優れた防汚性と吸水性とを与えうるポリエステル系合成繊維糸条を提供することを技術的な課題とするものである。また、本発明は、そのような糸条を簡便に製造する方法、及び該糸条を用いた織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決するために、次の構成を有するものである。
(1)糸条の長手方向に沿って、ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物が付着されている部分と、前記重縮合物が付着されていない部分とを交互に有し、かつ、前記重縮合物が付着されている部分の平均長さが、前記重縮合物が付着されていない部分の平均長さより長いことを特徴とするポリエステル系合成繊維糸条。
(2)ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物を0.5〜40質量%含有した水溶液を糸条の長手方向に沿って間歇的に付着させ、次いで熱処理を施すことを特徴とする上記(1)記載のポリエステル系合成繊維糸条の製造方法。
(3)上記(1)記載のポリエステル系合成繊維糸条を用いてなり、JIS L−0217 103法に準じた洗濯10回後の防汚性が3級以上であることを特徴とする織編物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル系合成繊維糸条は、糸の状態で上記の重縮合物が間歇的に付着しているため、織編物の染色堅牢性や滑脱抵抗力等を低下させる危険性が少ない。また、本発明の製造方法によれば、上記のポリエステル系合成繊維糸条を容易に得ることができる。
【0012】
さらに、本発明のポリエステル系合成繊維を用いれば、優れた防汚性と吸水性とを有する織編物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の糸条を構成するポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維と、これらのポリマーに他のモノマーを共重合させた繊維を包含する。
【0015】
また、本発明の糸条の形態としては、フラット糸、又は仮撚、延伸仮撚等が施された仮撚加工糸、あるいは撚糸、流体噴射が施された加工糸等があり、ポリエステル系合成繊維糸条に特定の重縮合物を付与する工程は、糸加工と別工程で施してもよいが、後述するように、糸加工と連続して施すことが好ましく、一般に使用されている糸加工機を用いればよい。
【0016】
本発明のポリエステル系合成繊維糸条には、ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物が間歇的に付着されていることが必要である。なお、糸条に重縮合物が付着されているとは、繊維表面及び繊維間に該重縮合物の皮膜が形成されている状態を指す。
【0017】
本発明に用いるポリエチレングリコールは、分子量が1000〜3000であることが好ましい。分子量が1000未満であると、織編物が十分な吸水性と防汚性とを有することができず、一方、分子量が3000を超えると、重縮合度とも関連するが、溶解性の低い重縮合物となるため、加工に用いることが難しくなり、ポリエステル系合成繊維糸条に重縮合物を付着させることが困難となる。
【0018】
また、重縮合物の平均重縮合度は、3〜10が好ましい。平均重縮合度が3未満であると、織編物が十分な吸水性と防汚性とを有することができず、一方、平均重縮合度が10より高くなると、用いるポリエチレングリコールの分子量にもよるが、重縮合物が水不溶性となりやすいため、ポリエステル系合成繊維糸条に重縮合物を付着させることが困難となる。
【0019】
本発明のポリエステル系合成繊維糸条は、糸条の長手方向に沿って、前記した重縮合物が付着されている部分(X)と、前記重縮合物が付着されていない部分(Y)とを交互に有していることが必要である。
【0020】
また、本発明の糸条は、前記重縮合物が付着されている部分(X)の平均長さが、前記重縮合物が付着されていない部分(Y)の平均長さより長いことが必要であるが、その理由は、Xの平均長さが、Yの平均長さよりも短いと重縮合物の含有量が少なく、優れた吸水性と防汚性が得られないためである。両者の長さの差は、必要とする性能に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
さらに、本発明の糸条を用いてなる織編物は、優れた防汚性を有するためにJIS L−0217 103法に準じた洗濯10回後の防汚性が3級以上、特に4級以上であることが好ましく、2級以下では防汚性が不足する。防汚性を3級以上とするためには、重縮合物の付着量や、Xの平均長さを適宜調整すればよい。
【0022】
JIS L−0217 103法に準じた洗濯とは、いわゆる家庭洗濯を指す。具体的な洗濯方法としては、市販の洗濯機(例えば、松下電器産業(株)製「NA−F42G1型」など)の洗濯槽に浴比が1:30となるように、試験片と、JIS K−3303に準拠した市販の洗剤を0.5g/L含む洗濯液(40℃)とを投入し運転を開始する。5分間処理した後、運転を止め、試験片を脱水槽で脱水し、洗濯液を25℃の新しい水に替えて、同一の浴比で2分間すすぎ洗いを行う。その後、試験片を脱水し再び2分間すすぎ洗いを行う。さらに、試験片を脱水し、吊り干し乾燥する。本発明においては、この操作を洗濯1回とする。
【0023】
次に、本発明のポリエステル系合成繊維糸条の製造方法について説明する。
【0024】
まず、前記した重縮合物を0.5〜40質量%含有した水溶液を、ポリエステル系合成繊維糸条の長手方向に沿って間歇的に付着させる。重縮合物の含有量が0.5質量%未満の水溶液を付着させても、ポリエステル系合成繊維に3級以上の防汚性と十分な吸水性とを付与することができず、また、40質量%を超える水溶液は高粘度となり、糸条に付着させることが困難となる。
【0025】
なお、上記の水溶液は、ポリエステル系合成繊維への重縮合物の付着促進を目的として、浸透剤や界面活性剤等の薬剤を含有してもよい。含有量は、水溶液の粘度、重縮合物の含有量、ポリエステル系合成繊維糸条への付与量等によって適宜選択すればよい。
【0026】
上記のように、本発明では、重縮合物を含有した水溶液を、糸条の長手方向に沿って間歇的に付着させ、水溶液付着部と非水溶液付着部とを交互に形成する。その理由として、糸条の全てに水溶液を付着させると、後の熱処理の効率が下がるからである。
【0027】
また、供給糸条に水溶液を長手方向に沿って間歇的に付着させる方法は、適宜の長さで付与できる方法であれば、特に限定されるものではない。比較的簡単な方法としては、例えば、ローラ表面に突条を設けたギヤ型の変形ローラで付着させる方法等があり、長い水溶液付着部を得ることのできる方法としては、例えば、電磁ソレノイド法を適用して糸条を間歇的、かつ任意の長さで水溶液に接触させる方法等が挙げられる。
【0028】
本発明では、前記重縮合物を0.5〜40質量%含有した水溶液を糸条の長手方向に沿って間歇的に付着させた後、熱処理を施して、重縮合物が付着されている部分(X)と前記重縮合物が付着されていない部分(Y)とが糸条の長手方向に沿って交互に存在し、かつXの平均長さがYの平均長さより長い本発明の繊維を得る。
【0029】
また、上記熱処理時のヒ−タ温度は、加工速度にもよるが、通常はポリエステルの融点以下の温度が好ましい。
【0030】
本発明によれば、織編物の状態ではなく、糸の状態で防汚加工することができるため、染色加工時に防汚剤を付与した場合の問題点として提起される、織編物の染色堅牢度、滑脱抵抗力等の低下を懸念する必要がない。また、染色加工時に各種付帯加工を施せば、織編物にさらに別の特性も付加することができる。
【0031】
本発明によって、織編物に優れた吸水性と防汚性とを与えうるポリエステル系合成繊維糸条が得られる理由については、必ずしも明確ではないが、本発明者は、次のように推測している。
【0032】
すなわち、本発明で用いるポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物は、被処理繊維であるポリエステル系合成繊維の分子構造的と類似しているため、該繊維と非常に親和性が高い。したがって、糸条加工において、該重縮合物を含有した水溶液が繊維間へ浸透しやすく、その後、該重縮合物が繊維表面及び繊維間に定着しやすい。したがって、加工可能な範囲で高い濃度の水溶液を糸条に付着させれば、それだけ糸条の特性を向上させることができる。
【0033】
次に、本発明のポリエステル系合成繊維の製造方法を図面を用いて説明する。
【0034】
図1は、本発明のポリエステル系合成繊維糸条の製造方法の一実施態様を示す概略工程図であり、延伸仮撚加工と同時に行う例を示すものである。
【0035】
図1において、スプール1より引き出された糸条Fは、糸条供給装置2を経て間歇液体付着装置3によって間歇的に前記水溶液が付与される。続いて第1熱処理装置4に入り、糸条供給装置2と負荷抵抗体5によって所定張力で熱処理されて負荷抵抗体5を通過し、延伸仮撚加工領域に送り込まれる。
【0036】
次いで、糸条Fは、糸条供給装置2と糸条引取り装置8によって所定の延伸比で延伸されると同時に仮撚施撚体7により加撚されつつ第2熱処理装置6により熱固定され、引き続き、糸条引取り装置8を経て巻取り装置9によって本発明の繊維としてパッケージ10に巻き取られる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各特性は、次の方法により測定した。
(1)織編物の吸水性
JIS L−1096の滴下法及びバイレック法に準じて測定した。
(2)織編物の防汚性
ランダオメーター試験機を用い、試験ビーカーにトリポリリン酸ナトリウムとラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムとを各々1g/l配合した洗剤液200mlに、表1に示す成分からなる汚染源を0.2g含有した試験液と、スチールボール10個、5cm×5cmの試験片4枚を入れ、40℃にて15分間処理を行ない、得られた処理布を乾燥した後、グレースケールにて汚染度合を評価し、この値を織編物の防汚性とした。
(3)滑脱抵抗力
JIS L−1096の縫目滑脱B法に準じ、荷重117.7Nで測定した。
【0038】
【表1】

(実施例1)
マイクロコンピューターとランダムパルス発生ユニットとを併用した間歇液体付着装置を有する図1に示す装置を用い、高速紡糸して得た高配向PET未延伸糸255dtex/48fを供給糸とし、糸条長手方向に沿って水溶液付着部が80%となるように間歇的に重縮合物含有水溶液を付着させ、次いで温度200℃の第1熱処理装置で、張力0.02g/dtexで熱処理を施した。
【0039】
引き続き、マグネットテンサーを通過させて延伸仮撚領域に送り、糸条供給装置と糸条引取り装置により延伸比率1.4倍にして第2熱処理装置の温度200℃、スピンドル回転数20×10rpm、仮撚数2750T/Mで延伸仮撚加工を施し、本発明の本発明のポリエステル系合成繊維糸条を得た。この際、用いた水溶液は、ポリエチレングリコール(分子量2000)とテレフタル酸との重縮合物(平均分子量7000)を10質量%含有したものであった。
【0040】
得られた糸条を経緯糸に用いて、経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの綾織物を製織した。次いで、この綾織物に通常の方法で精練、プレセット、染色、乾燥、仕上セットを行ない、本発明の織編物を得た。
(比較例1)
ポリエステル系合成繊維糸条の作製における水溶液の付着と熱処理とを省略する以外は実施例1と同様にして、織編物を得た。
(比較例2)
水溶液に含有する重縮合物の含有量を0.4質量%にする以外は実施例1と同様にして、ポリエステル系合成繊維糸条及びその糸条からなる織編物を得た。
(比較例3、4)
比較例1で得た織編物に、実施例1で用いた重縮合物が5%omf(比較例3)、10%omf(比較例4)付着するように、水溶液中で130℃×20分間の条件で処理して織編物を得た。
【0041】
実施例1及び比較例1〜3で得られた織編物の性能を評価して、その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

表2から明らかなように、実施例1で得られた織編物は、優れた吸水性と防汚性を有し、それらの耐久性も優れたものであり、さらに、滑脱抵抗力の低下もなかった。
【0043】
一方、重縮合物を付着させなかった比較例1と、重縮合物の含有量が少ない水溶液を用いた比較例1で得られた織編物は、吸水性と防汚性とのいずれもが劣るものであった。また、染色工程で重縮合物を糸条の全長にわたって付与した比較例3、4で得られた織編物は、ある程度の吸水性と防汚性を有してはいたが、滑脱抵抗力は低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のポリエステル系合成繊維の製造方法の一実施態様を示す概略工程図であり、延伸仮撚加工と同時に行う例を示すものである。
【符号の説明】
【0045】
F 糸条
1 スプール
2 糸条供給装置
3 間歇液体付着装置
4 第1熱処理装置
5 負荷抵抗体
6 第2熱処理装置
7 仮撚施撚体
8 糸条引取り装置
9 巻取り装置
10 パッケージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条の長手方向に沿って、ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物が付着されている部分と、前記重縮合物が付着されていない部分とを交互に有し、かつ、前記重縮合物が付着されている部分の平均長さが、前記重縮合物が付着されていない部分の平均長さより長いことを特徴とするポリエステル系合成繊維糸条。
【請求項2】
ポリエチレングリコールとテレフタル酸との重縮合物を0.5〜40質量%含有した水溶液を糸条の長手方向に沿って間歇的に付着させ、次いで熱処理を施すことを特徴とする請求項1記載のポリエステル系合成繊維糸条の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のポリエステル系合成繊維糸条を用いてなり、JIS L−0217 103法に準じた洗濯10回後の防汚性が3級以上であることを特徴とする織編物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−112002(P2006−112002A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300161(P2004−300161)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】