説明

ポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いた電線

本発明は、(a) ポリエステル成分とラクトン成分の共重合体を含む第1の樹脂成分と、 (b) ポリエステル系樹脂を含む第2の樹脂成分と、を含む樹脂組成物であって、上記樹脂組成物の全体重量に対する上記第1の成分の重量分率が30〜70%であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を開示し、また、導体と、この導体の周りに覆われる少なくとも1つの絶縁体層とを含む電線であって、少なくとも1つの絶縁体層が、前記ポリエステル系樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を用いた電線を開示する。本発明によるポリエステル系樹脂組成物及び、これを用いた電線は、添加剤の取入れが容易であり、加水分解の可能性を大きく減らし、耐熱性が向上し、広い弾性域を見せ、加工性、耐衝撃性、耐熱性及び、耐油性などが優れる。特に、ポリエステル成分とラクトン系樹脂を単に混合することなく、これらを共重合した樹脂を、更にポリエステル系樹脂とブレンドすることにより、耐熱特性の低下と長期間使用時の物性劣化を排除するという效果が得られ、これにより、電線等に応用する際、その所望する特性を満足することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いた電線に係り、詳しくは、ポリエステル成分とラクトン系樹脂を単に混合することなく、これらを共重合した樹脂を更にポリエステル系樹脂とブレンドするポリエステル系樹脂組成物及び、これを用いた電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル系樹脂、特に、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートは、機械的物性、耐熱性、耐化学性、安全性及びリサイクル性に優れ、重合工程に使用するモノマーを変更することで、物性や加工性などの変化を容易にすることができる。また、原料の需給が容易であり、生産工程が比較的単純であり、価格対性能の比が極めて高く、多様な用途で広く使用されてきた。最近では、ポリエステル樹脂の優れた電気的特性のため、電子部品や電線などまでにも利用されている。
【0003】
特に、ポリエステル系樹脂のうち、ポリブチレンテレフタレートは、構造においてポリエチレンテレフタレートと比較して、メチレン部分が2つ多いので、更に柔軟であるだけでなく、ガラス転移温度も、約25℃と低いため、相対的にガラス転移温度が更に高いポリエチレンテレフタレートよりも結晶化が早い。したがって、最近では、エンジニアリング・プラスチック分野で多く使用されている。また、多様な種類の添加剤を加えて、耐熱性や耐酸化性を高め、衝撃に弱いという不都合を解決するために、柔軟な樹脂とのブレンドを作る方法も、多く使用されている。
【0004】
一方、ポリエステル系樹脂を用いる熱可塑性エラストマーの製造も広く使用される技術であり、分子内に、剛性を有する結晶性部分と、弾性を有する非結晶性部分とを同時に含み、2つの部分の割合により、多様な物性を実現する。このような熱可塑性エラストマーは、ポリエステル部分の結晶が物理的架橋点として働くので、常温ではエラストマーのような挙動を見せ、結晶の融点以上に温度を上げると、溶融加工が可能となる。一般に、非結晶性部分の割合が大きくなることにより、弾性と柔軟性は増加し、成形性、機械的強度、寸法安全性及び、耐油性などは減少することと知られている。
【0005】
このようなポリエステル系樹脂の利用等において、ポリエステル系樹脂の物性を向上し、所望の目的を満足する材料を設けるため、ポリエステル系樹脂に他の樹脂を混合し、これに難燃剤と酸化防止剤などを加える技術が広く普及されている。これにより、化合物を造成して射出や圧出のような一般工程を介して、多様な製品を作る技術、特に電線に適用した場合も示されている。
【0006】
即ち、製品製造のため、樹脂を実際の工程に適用する場合、物性の向上とコストダウンなどのため、様々な樹脂を加え、各種の添加剤を同時に加えて化合物形態に作ることになる。このような化合物の製造において、ポリブチレンテレフタレートなどのようなポリエステル系樹脂を単独で使用することになると、難燃性や抗酸化性、加工特性などの向上のため加える各種添加剤の適用に限界があり、たとえ適用したとしても、樹脂の特性が極めて減少し、所望の目的を満足することができなくなる。また、ポリエステル系樹脂に、ポリオレフィンや熱可塑性エラストマーなどの他の樹脂を一定量添加したとしても、相溶性が急激に減少するか、物性が低くなることは勿論、各種添加剤の使用が制限される結果をもたらす。
【0007】
それで、このような問題点を解決するため、特に、ポリエステル系樹脂の物性を維持しながら、柔軟性を与え、加工性を向上するための試みの1つとして、ポリエステル系樹脂に、相溶性の良いラクトン系樹脂を加える技術が一部の文献に示されている。
【0008】
ラクトン系樹脂としては、普通、ダウ(Dow)社の 'トン(TONE)'とソルヴェイ(Solvay)社の 'カパ(COPA)'などを主として用いるが、ラクトン系樹脂は、毒性が少なく、圧出と射出において加工を容易にし、他の樹脂との相溶性が高く、また、添加剤の混合と分散に供することと知られている。特に、ポリラクトンは、柔軟で、融点が低く、また、他の樹脂との混合が容易であることから、物性の改善のため多く利用されている。
【0009】
このようなラクトン類を用いるポリエステル系樹脂の物性の改善に関する工夫は、例えば、以下の通りである。
【0010】
米国特許3,835,089とヨーロッパ特許57,415A2には、ポリブチレン・テレフタレートとポリカプロラクトンのブレンドに、ホスファイト系などの無機添加剤を取り入れた例が開示されている。
【0011】
また、米国特許5,248,713には、ポリブチレン・テレフタレートとポリカプロラクトンのブレンドに、カルボジイミドとホスファイト系無機添加剤を取り入れた例が開示されている。これらの記載によると、全体組成物の重量に対して、ポリブチレン・テレフタレートが少なくとも30%以上、ポリカプロラクトンが少なくとも3%以上、カルボジイミドが約0.05〜10%、脂肪族ホスファイトが約0.05〜10%で混合されることが開示されている。
【0012】
一方、米国特許5,660,932には、酸素指数を基準に、ポリブチレン・テレフタレートとポリエーテルイミド−シロキサン共重合体のブレンドに、水酸化マグネシウムを加える例が記載されている。更に、最近の技術では、米国特許5,824,412に、ポリブチレン・テレフタレート、グラフト剤、エチレン共重合体及び、熱可塑性エラストマーのブレンドが開示されている。
【特許文献1】米国特許3,835,089号明細書
【特許文献2】ヨーロッパ特許57,415A2公報
【特許文献3】米国特許5,248,713号明細書
【特許文献4】米国特許5,660,932号明細書
【特許文献5】米国特許5,824,412号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの従来技術によると、ラクトン系樹脂を加える場合には、ポリエステル系樹脂及び/又は第3の成分である熱可塑性エラストマーや、その他の樹脂と混練してブレンドを作り、ここに、難燃剤と酸化防止剤などを加える方法を中心に記載されている。一方、加水分解に弱いポリエステル系樹脂の問題点を解決するために、カルボジイミドのような加水分解防止剤を一定量添加する例についても開示している。
【0014】
ところが、一般に、ポリエステル系樹脂は、溶融加工に必要な温度が200℃を超える範囲で存在する一方、ポリラクトンの場合、60℃で融点が見出させる。したがって、複数の種類の樹脂を用いてブレンドを作る際、樹脂の適正加工温度間の差が大きいと、加工が難しくなるという問題が発生する。更に、加工温度が低い樹脂に対しては、過度な熱が加えられることで、物性や混練側面で問題を引き起こすことがある。そして、このような方法で加工が行われるとしても、長期間使用の観点で、否定的な結果をもたらす。
【0015】
このような問題の発生可能性は、DSCのような熱分析方法でも予測することができるが、ポリエステル系樹脂が完全に溶融した温度以上でブレンドに熱を加えてから、室温以下に冷却することを数回繰り返すと、冷却条件によらず、グラフ上でラクトン系樹脂のピークが逐次減少し、結局、ほぼ現われないことが確認することができる。これは、過度な熱がラクトン系樹脂の分解又は特性の変化を誘発することを意味し、実際の適用状態では、引張強度や伸張率などの各種の物性の低下につながることを意味することである。
【0016】
また、ポリエステル系樹脂と少量のその他の樹脂のブレンドを製造した後、難燃剤などを加えて構成された樹脂組成物の場合は、常温での物性が実現されたとしても、ポリエステル樹脂の根本的な加水分解の脆弱性のため、耐熱テストの後には、急激な物性の低下が観られるという問題点がある。
【0017】
言い換えれば、ポリエステルの構造的な特性により、酸または塩基性の環境で加水分解が容易に発生し、温度が高くなると、反応の速度が非常に早くなる。更に、難燃剤として多く使用される金属水酸化物は、このような加水分解反応に触媒役目を果たすので、結果として、上記のラクトンとポリエステル系樹脂組成物の単純なブレンド組成物を含むポリエステル系樹脂中心の組成物は、たとえ加水分解防止剤を使用したとしても、耐熱性の側面で、極めて弱くなるという問題がある。
【0018】
したがって、本発明は、上記のような問題点を解決するために導出したものであって、本発明の目的は、添加剤の取入れが容易であり、広い弾性域を見せ、加工性、耐衝撃性及び、耐油性などが優れる一方、特に耐熱性の低下がなく、長期間使用時の物性の劣化を排除できるポリエステル樹脂組成物及び、これを用いた電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記した本発明の目的は、(a) ポリエステル成分とラクトン成分の共重合体を含む第1の樹脂成分と、(b) ポリエステル系樹脂を含む第2の樹脂成分とを含む樹脂組成物であって、上記樹脂組成物の全体重量に対する上記第1の成分の重量分率が30〜70%であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物により達成される。
【0020】
そして、上記ポリエステル系樹脂組成物は、上記第1の樹脂成分の重量分率が、上記第2の樹脂成分の重量分率より大きいことが望ましい。また、上記ポリエステル系樹脂組成物は、上記第1の樹脂成分のポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、上記第2の樹脂成分のポリエステル系樹脂がポリブチレンテレフタレートであることが望ましい。また、上記ラクトンは、カプロラクトンであることが望ましく、上記ポリエステル系樹脂組成物は、更に、上記樹脂組成物の全体重量に対して、重量分率が10〜40%の水酸化マグネシウムを含むことが望ましく、この際、上記ポリエステル系樹脂組成物は、更に、上記樹脂組成物の全体重量に対して、重量分率が10%以下で酸化防止剤及びポリカルボジイミドを含むことが望ましい。
【0021】
上記した本発明の目的は、更に、導体と、上記導体の周りに覆われる少なくとも1つの絶縁体層とを含む電線であって、少なくとも1つの絶縁体層が、上記ポリエステル系樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を用いた電線により達成される。
【0022】
そして、上記電線は、外層絶縁体層又は内層絶縁体層から構成される2層の絶縁体層を有し、前記外層絶縁体層又は内層絶縁体層が、上記のポリエステル系樹脂組成物からなることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明によるポリエステル系樹脂組成物について、詳細に説明する。
本発明は、従来のようなポリエステル系樹脂組生物を使用した時に生じる様々な問題点を解決するために、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂を主成分とし、この共重合樹脂にポリエステル系樹脂を混合し、これに各種添加剤を加える方法を提案する。さらには、上記共重合樹脂と上記ポリエステル系樹脂を混合するにおいて、特に耐熱性を確保することができる適切な混合比を確認して提示する。
【0024】
即ち、本発明によるポリエステル系樹脂組成物は、基本的に、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂を含む第1の樹脂成分を用い、上記第1の樹脂成分に、ポリエステル系樹脂を含む第2の樹脂成分を適切に混合するものであり、この際、全体の樹脂組成物に対する第1の成分である共重合樹脂の重量分率を30〜70%にし、上記第1の樹脂成分と上記第2の樹脂成分のブレンドには、各種の添加剤を加える方式で製造されるものである。
【0025】
先ず、第1の樹脂成分であるポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂は、ポリエステル成分として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、又はポリブチレンテレフタレートを使用し、ラクトン成分として、例えば、ガムマカプロラクトン、又はポリカプロラクトンを使用する。
【0026】
上記共重合樹脂においてラクトン成分の重量分率は、10〜60%であることが好適であり、より望ましくは、15〜45%である。このように、共重合樹脂内のラクトン成分の重量分率を変更するか、又は、共重合樹脂内のポリエステル成分の重量分率を変更することで、物性の変化を誘発することができる。ラクトン成分の割合が過大又は過小であると、各々耐熱性が低下するか、柔軟性のような物性上の改善が発現されなくなる。本発明で示したポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂の使用は、ポリエステル樹脂とラクトン樹脂とを単純にブレンドして適用する従来の方法に比べて、耐熱性、耐候性及び、耐化学性に卓越し、加工が容易であるという利点が得られる。また、ラクトン成分の重量分率が一定の範囲内で変化しても、共重合樹脂の融点が200℃ 以上を維持するので、その他の樹脂との混練及び混合加工が容易である。一方、従来のようにブレンドする方法を適用する場合には、ポリエステル樹脂とポリラクトン樹脂の融点が各々、200℃ 以上と約60℃と大きい差を表わすため、加工が非常に困難であり、特に、加工過程でポリラクトン樹脂に対して過度な熱が加えられる問題点を引き起こす。このような激しい熱履歴は、短期的な物性の低下だけでなく、長期間使用の観点でも、否定的な結果をもたらすことになる。
【0027】
また、全体の樹脂組成物に対する第1の成分である共重合樹脂の重量分率は、耐熱性の側面等で、下記の実施例で確認されているように、30〜70%とし、望ましくは、35〜60%とする。共重合樹脂の重量分率が低く過ぎると、耐熱性が減少する傾向を示し、高く過ぎる重量分率の共重合樹脂が含まれた場合は、機械的物性と電気的な絶縁抵抗などが低下される様態を見せるので、このように適合な重量分率の選定が必要である。
【0028】
この際、上記第1の成分である共重合樹脂の重量分率を、上記第2の成分であるポリエステル系樹脂の重量分率よりも大きくすることが、耐熱性の側面で優れた物性を実現することができるので、より望ましい。
【0029】
上記第2の成分のポリエステル系樹脂は、基本的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、又はポリブチレンテレフタレート(PBT)で構成され、物性の向上と脆弱な特性の改善のため、分子量や粘度などを改質した樹脂も含み、ポリテトラメチレン・テレフタレート(PTMT)、ポリシクロヘキシレン・ジメチレン・テレフタレート(PCT)及び、ポリエチレン・ナフタレート(PEN)を使用することができる。
【0030】
全体の樹脂組成物に対する第2の成分であるポリエステル系樹脂の重量分率は、5〜60%であることが好適であり、より望ましくは、10〜50%である。ポリエステル系樹脂の変量は、上記の第1の成分の共重合樹脂と共に物性の変化を誘発する。
【0031】
本発明では、添加剤として難燃性の確保のための難燃剤、熱安定性及び抗酸化性などの向上のための酸化防止剤、そして、ポリエステル系樹脂が共通に持つ加水分解の脆弱性を解決するための加水分解防止剤、その他、流れ性を制御するための多官能性アクリル樹脂などを適切に使用する。
【0032】
まず、本発明で用いた難燃剤は、金属水酸化物とメラミン系及び、リン系などであり、これらを単独で使用するか、適切に配合することにより、相乗效果を期することができる。全体の樹脂組成物に対して、難燃剤の重量分率は、難燃性の確保から、5〜45%であることが好適であり、10〜40%であることがより望ましい。特に、金属水酸化物系の難燃剤を使用する場合は、ポリエステル系樹脂の根本的な脆弱性である加水分解反応を誘発することができる蓋然性を内包するので、過度な使用は、機械的物性などの急激な低下を引き起こすことがある。
【0033】
上記酸化防止剤は、ブチルフェニル・ホスファイト系、ヒドロキシフェノールプロピオネイト系、ヒドロキシフェニル・プロピオン・アミド、ヒドロキシベンジル・トリアジン系、ペンタエリトリトル・ジホスファイト系などを、単独で、又は適切な配合で使用することにより、耐熱性及び抗酸化性などを強化することができる。このような耐熱性及び抗酸化性の補強の側面で、酸化防止剤の全体の樹脂組成物に対する重量分率は、1〜10%が好適であり、過多又は過少量の使用は、物性の改善に否定的な影響を引き起こす。
【0034】
上記加水分解防止剤は、ポリエステルで加水分解が生じる末端部分を分離させて、反応の誘発を抑制する添加剤であり、芳香族ポリカルボジイミドのような物質を使用することができる。本発明の場合、第1の成分である共重合樹脂の使用により加水分解が相当に抑制され、必要に応じて、ポリカルボジイミド系の加水分解防止剤を、全体の樹脂組成物に対する重量分率で0〜5%使用することができる。このような加水分解防止剤は、添加剤のコストが極めて高く、また、適量以上を投入しても、物性の改善が得られない。
【0035】
一方、ポリエステル系樹脂の溶融指数が高いため、流れ性が過度であると考えられる場合は、エポキシのような作用基が連結した多官能性アクリル樹脂などを加え、これを適切に調節することができるが、このような多官能性アクリル樹脂の全体の樹脂組成物に対する重量分率は、必要時、良好な流れ性を有するように、0〜5%とすることが望ましい。このような多官能性アクリル樹脂は、多くの場合、融点が100℃程度と高くないので、耐熱性などの側面で、適量の使用が必要である。
【0036】
本発明で工夫した樹脂組成物は、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂を主成分とし、これをポリエステル系樹脂と混合しており、この時、全体の樹脂組成物のうち、共重合樹脂の適切な割合を導出して使用することにより、ポリエステル系樹脂を中心に単にブレンドし、その他の成分を付加する従来技術に比べて、添加剤の取入れが容易であり、また加水分解の可能性を大きく減らし、耐熱性を大幅向上した。特に、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合体を使用することになると、単純にポリエステル成分とラクトン系樹脂を混合した例で発見される、耐熱特性の低下と長期間使用時の物性劣化の可能性を排除することができる。
【0037】
そして、本発明によるポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂は、ポリエステル成分として、例えば、ポリエチレン・テレフタレート、又はポリブチレン・テレフタレートを用い、ラクトン成分として、例えば、ガムマカプロラクトン、又はポリカプロラクトンを使用し、これにより、広い弾性域を見せ、加工性、耐衝撃性、耐熱性及び、耐油性などが優れている。
【0038】
次に、本発明によるポリエステル系樹脂組成物を用いた電線について詳述する。
上記のように構成されるポリエステル系樹脂組成物を、射出や圧出のような加工方法により、様々な用途に使用することができ、この場合、機械的物性と耐化学性、耐熱性などが確保される。
【0039】
本発明では、上記ポリエステル系樹脂組成物を電線の製造に適用した。即ち、本発明による電線は、導体と、その導体の周りに覆われる1又は2以上の絶縁体層を有する通常の電線において、上記したポリエステル系樹脂組成物を、圧出工程で導体または絶縁体層上に被覆させることにより、導体を覆う1または2以上の絶縁体層の少なくとも1つ以上の絶縁体層が、本発明によるポリエステル系樹脂組成物からなるようにする。
【0040】
この際、電線が特に、外層と内層との2重絶縁体層からなる場合は、外層絶縁体層に、従来のポリエステル系樹脂組成物を使用し、内層絶縁体層には、上記した本発明によるポリエステル系樹脂組成物を使用することが可能であり、又はその反対、即ち、電線が外層と内層との2重絶縁体層からなる場合に、外層絶縁体層には、上記した本発明によるポリエステル系樹脂組成物を使用し、内層絶縁体層に、従来のポリエステル系樹脂組成物を使用することができる。
【0041】
以下、本発明の好適な実施例を説明することで、本発明を更に詳述する。しかし、本発明は、下記の実施例に限定するものではなく、添付の特許請求内で様々な形態の実施例などが実現されることができ、単に、下記の実施例は、本発明の開示を完全にさせると共に、当業界で通常の知識を有する者にとって、発明の実施を容易にすることである。
【実施例】
【0042】
本発明によるポリエステル系樹脂組成物を、その組成を異ならせて3つの実施例として示し、本発明によるポリエステル系樹脂組成物との物性比較のための樹脂組成物を、3つの比較例として示された。
【0043】
下記の表1には、各実施例と比較例の組成を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
各実施例と比較例において含まれた成分は、インターナルミキサーのような装備を用いて、230〜250℃の温度範囲で、15分間混練し、試片状態で引張強度と伸張率及び耐油性を試験した。
常温での機械的物性は、ASTM D 638及び639により、試験を行った。
耐油性は、100℃の温度に維持されたASTM No.2オイルに70時間浸漬した後、幅の変化率を測定して判断した。
耐熱性試験は、180℃のオーブンに試料を1週間置いた後、常温と同様な方法で機械的物性を測定した。
【0046】
多様な規格を検討し、機械的物性においては常温で引張強度2.5kgf/cm2以上、常温で伸張率100%以上を基準としており、耐油性は、幅変化率5%以内で規定した。耐熱性を判断するための加熱後の機械的物性も、常温と同様な基準を使用した。
【0047】
下記の表2は、上記のような方法で測定された各実施例と比較例の物性を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示したように、試験結果、常温での機械的物性は、実施例と比較例共に、基準を超過したが、実施例に比べて比較例では、引張強度が高く表れた一方、伸張率は相当に低かった。
【0050】
また、180℃で1週間加熱した後、機械的物性を測定した結果、表2に示したように、実施例では、引張強度と伸張率共に適合な特性を示したが、比較例では、伸張率が大きく低下した結果を示した。耐油性では、全試料で問題が発生しなかった。
【0051】
また、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂とポリエステル系樹脂の混合比を変わって実験した結果(実施例及び比較例1、2)、一般的な添加剤の投入状態で樹脂組成物に対する共重合樹脂の重量分率が約 30%以上の例(実施例など)で、上記の基準を満足する結果を得た
【0052】
共重合樹脂の重量分率がその以下に低下する場合には、耐熱性に問題が発生しており、特に、加熱後、伸張率が非常に低くなることを確認した。一方、共重合樹脂の重量分率が70%以上になると、引張強度が低くなり、基準に達していないことを確認した。
【0053】
したがって、ポリエステル成分及びラクトン成分の共重合樹脂とポリエステル系樹脂を適切な割合で混合することによって、耐熱性と物性等で望ましい特性が達成されるという結論に至ることができた。
【0054】
このように、本発明による樹脂組成物は、一般に、ポリエステル成分とラクトン成分の共重合樹脂に、ポリエステル系樹脂を適切に混合したブレンドを基本にし、ここに各種添加剤を加えた形態で構成されるにより、ポリエステル系樹脂を中心に、その他の樹脂をブレンドする既存の樹脂組成物に比べて、耐熱性を含む物性が優れており、特に、本発明による進歩した樹脂組成物は、共重合樹脂内のポリエステル成分とラクトン成分の重量分率を変更して物性の変化を誘発し、この変化を基に、特定物性の発現のため、樹脂重量分率の最低値を設定することができることになる。
【0055】
また、本発明による樹脂組成物は、上記のような適合な物性により、射出や圧出のような加工方法で様々な用途に適用されることができ、特に、電線の絶縁体やその他の電子部品のような形態に応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によるポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いた電線は、ポリエステル系樹脂を中心とする従来技術とは異なり、添加剤の取入れが容易であり、加水分解の可能性を大きく減らし、耐熱性が向上し、広い弾性域を見せ、加工性、耐衝撃性、耐熱性及び、耐油性などが優れる。特に、ポリエステル成分とラクトン系樹脂を単に混合することなく、これらを共重合した樹脂を、更にポリエステル系樹脂とブレンドすることにより、耐熱特性の低下と長期間使用時の物性劣化を排除する效果が得られ、これにより、電線等に応用する際、その所望する特性を満足することになる。
【0057】
たとえ、本発明を上記した好適な実施例に関連して説明したが、発明の要旨と範囲から逸脱することなく、様々な修正や変形をすることが可能である。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の要旨に属するこのような修正や変形を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ポリエステル成分とラクトン成分の共重合体を含む第1の樹脂成分と、
(b) ポリエステル系樹脂を含む第2の樹脂成分とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の全体重量に対する前記第1の成分の重量分率が、30〜70%であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、
前記第1の樹脂成分の重量分率が、前記第2の樹脂成分の重量分率より大きいことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組生物。
【請求項3】
前記第1の樹脂成分のポリエステルは、ポリブチレンテレフタレートであり、前記第2の樹脂成分のポリエステル系樹脂は、少なくともポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組生物。
【請求項4】
前記ラクトンは、カプロラクトンであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組生物。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、更に、
前記樹脂組成物の全体重量に対して、重量分率10〜40%で水酸化マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組生物。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、更に、
前記樹脂組成物の全体重量に対して、重量分率が10%以下で酸化防止剤及びポリカルボジイミドを含むことを特徴とする請求項5に記載のポリエステル系樹脂組生物。
【請求項7】
導体と、この導体の周りに覆われる少なくとも1つ以上の絶縁体層とを含む電線であって、
少なくとも1つの絶縁体層が、請求の範囲第1項乃至第6項のいずれか1項によるポリエステル系樹脂組成物からなることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を用いた電線。
【請求項8】
前記電線は、外層絶縁体層又は内層絶縁体層から構成される2層の絶縁体層を有し、
前記外層絶縁体層又は内層絶縁体層は、請求の範囲第1項乃至第6項のいずれか1項によるポリエステル系樹脂組成物からなることを特徴とする請求項7に記載のポリエステル系樹脂組成物を用いた電線。

【公表番号】特表2008−500423(P2008−500423A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514881(P2007−514881)
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001373
【国際公開番号】WO2005/121244
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(505032311)エルジー ケーブル リミテッド (4)
【Fターム(参考)】