説明

ポリエステル系樹脂

【課題】 ポリエステル系樹脂は一般に溶融粘度が低く、肉厚の製品の成型は難しかった。このため溶融粘度を上げて成型性を向上させることが考えられている。例えば、改質剤や増粘効果のある高分子化剤を加えるか等である。しかし、従来のどの方法も満足できるような結果は得られていない。また、これとは別に、プラスチック自体に保形性を持たせて、金属代替品又は自由に形を変えて使用できるもの等も要望されてきている。
【解決手段】 ポリエステル、ポリオレフィン、及び多官能変性ビニルポリマーの少なくとも3成分を有するポリエステル系樹脂に、ポリエステル樹脂用柔軟剤を混合し、それを押出成型し、次いで1.05〜2.5倍に延伸し、ポリエステルの海の中にポリオレフィンの島が存在する構成としたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂は、主鎖にエステル結合を持つポリマーである。ポリエチレンテレフタレート(PET)がその代表であり最も多量に使用されている。このポリエステルは、種々の物性において優れているため現在非常に多様に使用されている。
【0003】
しかしながら、このポリエステルは一般に溶融粘度が低く、肉厚の製品の成型は難しかった。即ち、溶融粘度が低いと溶融物が押出成型機のダイやブロー成型機のパリソンから自重で垂れ下がるドローダウン現象が起こるため精度の高い成型が困難であるためである。
【0004】
このため溶融粘度を上げて成型性を向上させることが考えられている。例えば、改質剤や増粘効果のある高分子化剤を加える等である。改質剤は、それ自身が高粘度のもので、ポリエステルと混合し全体として粘度の増加させるものである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−エチレン−ブタジエンコポリマー、アクリルゴム等である。また、それ自身が溶融せずフィブリル化し繊維状のネットワーク構造を持たせ溶融張力を向上させる例もある。
【0005】
また、高分子化剤としては、ポリエステルと反応しうる官能基を有する高分子改質剤やピロメリット酸に代表される多官能酸無水物が使用される。これは、ポリエステルのアルコール基もしくはカルボン酸基と反応し高分子化することにより粘度を増すものである。
【0006】
しかし、従来のどの方法も満足できるような結果を得られていない。
更に、これとは別に、プラスチック自体に保形性を持たせて、金属代替品又は自由に形を変えて使用できるもの等も要望されてきている。
このようなものも従来は存在せず柔らかい金属のように、自由に形を変えることができ、且つその形を保つというものはなかったのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、比較的厚ものでも成型でき、且つ保形性と柔軟性を有するポリエステル系樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような状況に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果、本発明ポリエステル系樹脂を完成させたものであり、その特徴とするところは、ポリエステル、ポリオレフィン、及び多官能変性ビニルポリマーの少なくとも3成分を有するポリエステル系樹脂に、ポリエステル樹脂用柔軟剤を混合し、それを押出成型し、次いで1.05〜2.5倍に延伸し、ポリエステルの海の中にポリオレフィンの島が存在する構成とした点にある。
【0009】
ここでポリエステルとは、前記したポリエチレンテレフタレートばかりでなく、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸、、その他の生分解性ポリエステル、更にその他の脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル及びその誘導体等があり、要するに主鎖にエステル結合を有するものであればよい。
また、回収されたPET樹脂や市販されているものでもよい。
以上のものを複数混合したものでもよい。
【0010】
ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレンが代表的であるが、ポリブタジエンやメチルペンテン樹脂等でもよい。発明者の実験では、ポリエチレン、それも低密度ポリエチレンが好適であった。これも複数用いてもよい。
このポリオレフィンの混合量は、ポリエステル100重量部に対して、1〜30重量部が好ましく、更に1〜8重量部がより好ましい。これは、ポリエステルの海に対して、島構造を持たせるためである。
【0011】
多官能変性ビニルポリマーとは、ポリオレフィン部分と、官能基部分を有するものであり、エラストマーが好適である。官能基は、ポリエステルのカルボン酸やアルコールと反応するものであればよい。例えば、酸無水物、カルボン酸、アルコール、エステル、塩、等である。
化合物の例としては、無水マレイン酸含有スチレン系可塑性エラストマー、酸変性飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン−ブタジエン共重合物水素添加物有機酸誘導体付加物等である。
官能基は少なくとも1つ有しておればよく、2つ以上なければならないものではない。いわゆる架橋剤とは異なる目的であるためである。
【0012】
この多官能変性ビニルポリマーの混合量は、ポリエステル100重量部に対して、1〜30重量部が好ましく、更に1〜8重量部がより好ましい。
この量によって粘度は自由に調整することができる。
【0013】
更に、本発明ではここに、ポリエステル樹脂用柔軟剤を混合する。
ポリエステル樹脂用柔軟剤とは、ポリエステル樹脂に混合した場合、その柔軟性が向上するものである。特別、柔軟剤として市販されているものだけでなく、そのような性質を示すものならばよい。例えば、アジピン酸誘導体、エチレングリコール誘導体、グリセリン誘導体、植物性オイル、珪素化合物誘導体(シリコンパウダー等)、フタル酸エステル等の塩化ビニル用可塑剤等である。
このポリエステル樹脂用柔軟剤の混合量は、ポリエステル100重量部に対して、0.5〜30重量部程度が好適である。
【0014】
更に、本発明ポリエステル樹脂には、無機系微粒子を混合してもよい。例えば、タルク、炭カル、酸化ケイ素の超微粒子等である。タルクは、結晶水を有するマグネシウム、珪素の酸化物である。またこれらの大きさは特に限定しないが、数十μm〜数nmが好適である。これらは、結晶核剤となりうるものであり、これを添加することによって結晶化を促進し、耐熱温度が上がると考えられる。混合量は、ポリエステル100重量部に対して1〜8重量部が好適である。
【0015】
また、この一般的な無機系微粒子(フィラー)の一部又は全部をナノフィラーに変えることもできる。ナノフィラーとは、そのサイズが5〜100nmの微細粉末であり、エアロジル(日本エアロジル社製)等が市販されている。勿論、他の微細粒子でもよい。
【0016】
本発明では、上記した成分に更に添加剤を加えてもよい。例えば、顔料、香料、紫外線吸収剤、フィラー等である。更に、無機フィラーにポリエステルと反応する官能基を持った高分子化剤で表面処理したものを加えることも好適である。
要するに、本発明の趣旨に反しない限り何を加えてもよい。
【0017】
本発明は、以上のような材料を押出成型して更にそれを延伸したものである。押出は通常の方法でよく、特別な方法である必要はない。通常の装置で、通常の条件でよい。即ち、押出の温度、速度、厚み等も自由であるということである。しかし、厚みとしては、0.5mm〜3mm程度が好適である。
また、これを延伸するのであるが、延伸の方向は長手方向でもその直角方向でもよい。勿論、他の角度でもよい。
【0018】
延伸倍率としては、1.05〜2.5倍程度である。特に1.05〜1.5倍程度が好適であった。長手方向に延伸する場合には通常のピンチロールで把持して引っ張ればよく、押出し方向とほぼ直角方向に延伸するには、TD方向延伸装置を用いて行なえばよい。また、所定の長さにカットしてシート状にした後引っ張ってもよい。また、1方向以外にも延伸してもよい。即ち、二軸延伸タイプである。この時も延伸倍率は、前記同様1.05〜2.5倍である。
【0019】
また、本発明の材質は、ポリエステルの海の中にポリオレフィンの島が存在する構成となっている点も特徴である。単に、混合するのではなく、このような構造になっていることが必要である。これは、前記した混合比率で達成できるものである。更に、この島状態のポリオレフィンの周囲には、多官能変性ビニルポリマーが卵の殻のように覆っているようである。
【0020】
このような材料を押出し成型すると、島部分が押出方向に長く延びた1:3〜10程度の楕円になる。更に、これを押出し方向とほぼ直角方向に延伸すると、海の部分に延伸方向に多数のクラックが入る。この多数のクラックの存在により、保形性が生まれるものと考えられる。
【0021】
また、その多数のクラックは島の部分で停止して、それ以上クラックが延びることはない。このクラックの延長防止によって、強度(破断強度)が確保されていると考えられる。特に、島の周囲に存在すると考えられる多官能変性ビニルポリマーによって、より確実にクラックが停止しているものと考えられる。
【0022】
本発明の用途としては、保形性を要求される部分、柔軟性を要求される部分その他種々の用途に使用でき、金属代替部分その他どのようなものにも使用できる。例えば、書類を綴じるファスナー、捻り紐等である。
【発明の効果】
【0023】
本発明ポリエステル系樹脂には次のような大きな利点がある。
(1) 低粘度で成形が難しかったポリエステルが高粘度となり、成形性が良好となった。特にPETの場合、肉厚は従来は0.8mm程度までであったが、それ以上が可能となった。
(2) 従来難しかった発泡成形が、高粘度化により可能となった。
(3) 従来難しかったダイレクトブロー成形が、高粘度化により可能になると考えられる。
(4) 物性的には耐熱性が向上し、耐衝撃性の向上が期待される。
(5) 延伸することによって非常に柔軟になり、且つ保形性が生まれる。曲げた感じは、柔らかい粘土のようなもので、簡単に曲がり、その状態を保持する。とてもプラスチックとは思えない。
(6) 引張強度にも優れており、通常にプラスチック成型品として十分しようできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
まず各成分を混合し組成例1〜12、及び比較組成1〜3を調製した。
それぞれの成分は次のものを使用した。
ポリエステル樹脂:三井化学社製の「ポリ乳酸H−440」
ポリオレフィン:三井化学社製の「低密度ポリエチレン樹脂、ウルトゼックス3010F(商標)」
多官能変性ビニルポリマー:旭化成社製の「酸変性飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー、タフテックM1913(商標)」
柔軟剤:
A:ジオクチルアジペート (DOA):大八化学工業社製「DOA」
B:ジイソデシルアジペート (DIDA):大八化学工業社製「DIDA」
C:ジオクチルフタレート (DOP):ジェイ・プラス社製「DOP」
D:グリセリルトリアセテート:大八化学工業社製「トリアセチン」
E:ポリオキシエチレンベンゾエート:新日本理化社製「リカフローLA−100」
F:菜種大豆混合油:日清オイリオ社製「サラダ油」
【0025】
これらの混合割合を表1に示す。数値は重量部である。
【表1】

【0026】
表1に示す組成例や比較組成を用いて成形し、異型平板やシートに成形した。そして柔軟性や保形性を調べた。その結果を表2に示す。
表2において、柔軟性の○は十分柔らかい、×は硬いを表す。保形性(形状保持性)の○は曲げた状態をほとんどそのまま保つ、−は戻りが激しいを表す。
また、延伸方向のMDは押出方向と同じ方向を示し、TDは押出し方向とほぼ直角の方向を示す。
【表2】

【0027】
表2の実施例から、本発明では、柔軟性も保形性も優れていることが分かる。
また、比較例1から成分は同じでも延伸しなければ効果がでないことが分かる。比較例2、3から比較組成1のように柔軟剤がないものは効果がないことも明らかである。比較例4から、ポリオレフィンの量が多すぎても効果がでないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル、ポリオレフィン、及び多官能変性ビニルポリマーの少なくとも3成分を有するポリエステル系樹脂に、ポリエステル樹脂用柔軟剤を混合し、それを押出成型し、次いで1.05〜2.5倍に延伸し、ポリエステルの海の中にポリオレフィンの島が存在する構成としたことを特徴とするポリエステル系樹脂。
【請求項2】
ポリエステル100重量部に対して、ポリオレフィンが1〜30重量部、多官能変性ビニルポリマーが1〜30重量部混合したものである請求項1記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
ポリエステル100重量部に対して、無機系微粒子を1〜8重量部混合したものである請求項2記載のポリエステル系樹脂。

【公開番号】特開2007−31636(P2007−31636A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220204(P2005−220204)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000198802)積水成型工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】