説明

ポリエステル系混繊糸

【課題】細繊度でありながら高強力を有し、かつ嵩高で、ソフトで柔軟な風合いをもつポリエステル極細混繊糸を提供する。
【解決手段】収縮率の異なるポリエステル糸Aとポリエステル糸Bからなるポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル極細混繊糸。
a)ポリエステル糸Aが、総繊度(A1)15〜30dtex、単糸繊度(A2)0.15〜0.50dtex、沸騰水中の収縮率(A3)3〜10%であること。
b)ポリエステル糸Bが、総繊度(B1)10〜20dtex、単糸繊度(B2)0.80〜2.0dtex、沸騰水中の収縮率(B3)10〜25%であること。
c)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとが交絡を有し、交絡数が60〜160ケ/mであること。
d)ポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bが0.75〜1.00であること。
e)強度が4.0CN/dtex以上であること。
f)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bの混繊比率(重量比)が80〜55:20〜45であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総繊度、単糸繊度、収縮率が異なる、少なくとも2成分糸から構成されるポリエステル極細混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来ポリエステル繊維は優れた強度と取り扱いの利便性から衣料用繊維として広く利用されてきた。合成繊維としての優れた機能のバランスから、天然繊維の様な風合いやドレープ性を追求する製造技術検討は多い。(特許文献1、2、3)。
中でも合成繊維特有の単調な外観を改善する為の杢調外観、梳毛調外観付与と並んで、合成繊維特有の薄く硬い手触りを改善すべく様々な形態付与の方法が提案されている。
【0003】
特にポリエステル繊維は優れた機械的強度の為に織機上で高速製織されるが、他方仕上がりでの生地のフクラミやドレープ性といった柔らかさという相反する性質が求められている。これを両立させる方法として、例えば特開平9−241938号公報、特開平11−279879号公報、特開2003−336136号公報では、糸の熱収縮差を利用して製織後に生地にフクラミを与えるという手法が紹介されている。
【0004】
確かにこの方法により嵩高で、ソフトで柔軟な風合いが得られるため、織編物用途を始めとして、広く用いられるようになってきている。しかしながら更に柔軟性の高いソフトな布帛を得るためには、単糸繊度の細い原糸を使用せざるを得ず、そのため原糸強度ひいては布帛の強度が低下するという問題があった。
【0005】
このため極細化可能繊維、例えば分割型繊維、海島繊維の海成分を溶解して極細化するという方法が開示されているが(特許文献8、9)により可能であるが煩雑な手段となりコストが高いという問題があり、通常紡糸極細繊維からなる混繊糸の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特公昭47−22334号公報
【特許文献3】特許第2915045号公報
【特許文献4】特開平9−241938号公報
【特許文献5】特開平11−279879号公報
【特許文献6】特開2003−336136号公報
【特許文献7】特開2003−171836号公報
【特許文献8】特開2002−302839号公報
【特許文献9】特開平10−158947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決し、極細繊度でありながら高強力を有し、かつ嵩高で、ソフトで柔軟な風合いをもつ布帛とすることができるポリエステル極細混繊糸を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果得られたもので、
すなわち、本発明によれば、
収縮率の異なるポリエステル糸Aとポリエステル糸Bから構成されるポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル極細混繊糸、
a)ポリエステル糸Aが、総繊度(A1)15〜30dtex、単糸繊度(A2)0.15〜0.50dtex、沸騰水中の収縮率(A3)3〜10%であること。
b)ポリエステル糸Bが、総繊度(B1)10〜20dtex、単糸繊度(B2)0.80〜2.0dtex、沸騰水中の収縮率(B3)10〜25%であること。
c)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとが交絡を有し、交絡数が60〜160ケ/mであること。
d)ポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bが0.75〜1.00であること。
e)強度が4.0CN/dtex以上であること。
f)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bの混繊比率(重量比)が80〜55:20〜45であること。
又該混繊糸において、好ましくはポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bがポリエステル糸Aの固有粘度[η]Aより大きいポリエステル混繊糸、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の混繊糸は収縮させることにより芯部と鞘部の2層構造糸となり、特定の総繊度、極細繊度を有するポリエステル糸が鞘部を構成するので、極細繊維のソフト性、風合いを有し且つ高強度の布帛となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の混繊糸の加工装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルを対象とするものであり、好ましくは70モル%、より好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位とするポリエステルである。
【0012】
本発明のポリエステル混繊糸の染色性、抗ピル性、熱収縮特性等を改善するために、ポリエステルに少量(通常、15モル%以下、好ましくは10モル%以下)の第3成分を共重合したものであってもよい。また、他種ポリマーを少量(通常、ポリエステルに対して10重量%以下)混合してもよい。更に、制電剤、艶消剤、紫外線吸収剤、染色性改良剤の添加剤を配合したものであってもよい。また、リサイクル可能なポリマーであることが好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル混繊糸の一方成分であるポリエステル糸Aとしては、総繊度が15〜30dtexである必要があり、好ましくは17〜25dtexである。総繊度が15dtex未満であれば混繊糸の強度が低下し、30dtexを超える場合は柔軟性低下し布帛が硬くなる。又単糸繊度は0.15〜0.50dtexである必要があり、0.20〜0.40dtexであることが好ましい。0.15dtex未満であれば強度が低下し、0.50dtexを超える場合は極細繊維の風合い、柔軟性が低下し好ましくない。更に沸騰水中の収縮率が3〜10%であることが必要であり、好ましくは3〜5%である。沸騰水中の収縮率が3%未満であれば布帛とした時緻密感が得られず好ましくなく、10%を超える場合は混繊糸の嵩高性、膨らみ感が得られず好ましくない。固有粘度[η]Aはポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bより低いことが好ましく、0.75未満であることが好ましい。より好ましくは0.4〜0.70である。固有粘度[η]Aが0.75以上であれば混繊糸、それを製編織して得られる布帛の柔軟性が低下し好ましくない。
【0014】
本発明のポリエステル混繊糸のもう一方の成分であるポリエステル糸Bにおいては、総繊度が10〜20dtexであることが必要であり、好ましくは12〜18dtexである。総繊度が10dtex未満であると強度が低下し、20dtexを超える場合は混繊糸ひいては布帛のソフト性、柔軟性が低下し好ましくない。又単糸繊度は0.8〜2.0dtexである必要があり、好ましくは1.0〜1.5dtexである。0.8dtex未満であれば混繊糸の強度が低下し、2.0dtexを超える場合は混繊糸ひいては布帛のソフト性、柔軟性が低下し好ましくない。又ポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bは0.75〜1.00であることが必要である。好ましくは0.75〜0.90である。固有粘度[η]Bが0.75未満であれば強度が低下し、1.0を超える場合は重合粘度が高く、製糸性が悪くなり好ましくない。又沸騰水収縮率が10〜25%であることが必要である。好ましくは12〜18%である。収縮率が10%未満であれば布帛にした後染色等の熱処理により収縮が少ないため嵩高性が発現せず膨らみ感のない布帛となる。25%を超える場合は収縮しすぎるため布帛が硬くなり風合いが低下する。沸騰水収縮率を調整するためには公知の方法を用いることができるが、例えば弛緩熱処理して延伸倍率を調整するなどの方法を用いることができる。
【0015】
本発明のポリエステル混繊糸の製造方法としては、ポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、2,700〜2,900m/分の紡糸速度で紡糸して、単糸繊度が0.15〜0.50dtexのポリエステル延伸糸(ポリエステル糸A)とし、一方、固有粘度[η]Bが0.75〜1.00であるポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、800〜900m/分の紡糸速度で紡糸して、単糸繊度が0.80〜2.0dtexのポリエステル未延伸糸(ポリエステル糸B)とし、両者を図1に示す公知の混繊装置でポリエステル混繊糸とすることにより得られる。
【0016】
すなわち、ポリエステル糸Bを800〜900m/分の速度で表面温度が85〜90℃の加熱ロール2に糸条を巻回し、弛緩熱処理を施した後、第2引取ロール(冷ロール)4に3.0〜4.5倍の延伸倍率にて供給し、巻回した後、ポリエステル糸A及びBを引き揃えて第2引取ロールとパッケージ6との間に設けたインターレースノズル3に、800〜900m/分の速度で供給し、圧空により交絡させ、インターレースを付与した後、パッケージ6に巻き取る。
【0017】
上記した本発明の構成、方法により製造したポリエステル混繊糸は極細繊度で構成され且つ4.0cN/dtex以上の強度を有するものとなり、公知の製編織機により布帛とし、その後に染色等の沸騰水処理工程を通過することにより、ポリエステル糸Bが収縮し芯部を、0.15〜0.50dtexの単糸繊度からなるポリエステル糸Aが外層部を構成する構造を形成し、極細糸の風合い、柔軟性を有し且つ嵩高性で強度の高い布帛とすることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
物性測定は下記の通り行った。
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルソクロロフェノール溶液にて、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
(2)沸騰水(100℃)収縮率(%)
JISL10138.18.1 B法に準じて測定した。熱水温度は100℃とした。
(3)強度(cN/dtex)、伸度(%)
繊維試料を気温25℃、湿度60%の恒温恒湿に保たれた部屋に1昼夜放置した後、サンプル長さ100mmを(株)島津製作所製引張試験機テンシロンにセットし、200mm/minの速度にて引張し、破断時の強度、伸度を測定した。
(4)繊度
JIS L1013の方法で行った。
【0019】
[実施例1]
固有粘度0.60のポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、2,785m/分の紡糸速度で紡糸して、総繊度25dtex/72フィラメント(単繊維繊度:0.35dtex)の延伸糸ポリエステル糸A’(混繊工程処理によりポリエステル糸Aとなる)を得た。沸騰水収縮率A3は7%であった。一方、固有粘度が0.91のポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、820m/分の紡糸速度で紡糸して、56dtex/12フィラメント(単繊維繊度:4.7dtex)の未延伸糸ポリエステル糸B(混繊工程処理によりポリエステル糸Bとなる)を得た。
【0020】
このポリエステル糸A’及びポリエステルト糸B’を用い、図1に示す装置でポリエステル混繊糸を製造した。すなわち、ポリエステル糸B’を800m/分の速度で表面温度が87℃の加熱ロール2に糸条を巻回し、弛緩熱処理を施した。次いで、第2引取ロール(冷ロール)4に3.8倍の延伸倍率にて供給し、巻回した後、両ポリエステル糸A’及びB’を引き揃えて第2引取ロールとパッケージ6との間に設けたインターレースノズル3に、800m/分の速度で供給し、1.2kg/cmの圧空により交絡させ、80ヶ/mのインターレースを付与した後、パッケージ6に巻き取った。
【0021】
この工程でポリエステル糸B’は総繊度15dtex/12フィラメント(単繊維繊度:1.25dtex)のポリエステル糸Bとなった。又固有粘度[η]Bは0.80、沸騰水収縮率B3は16%であった。
ポリエステル混繊糸の製造中、スリットヒータ5への糸条の接触は認められず、糸切れはわずか2.9%であった。得られた混繊糸の強度は4.6cN/dtexであった。
得られた混繊糸を経糸、緯糸に用いて羽二重に製織し、常法に従って精練、熱セット、アルカリ減量加工(減量率15%)染色を施して無地の染め織物を得た。染色工程で沸騰水処理することによりポリエステル糸Bが収縮し芯部を、ポリエステル糸Aが鞘部を構成した。
【0022】
[比較例1]
実施例1において、ポリエステル糸Bのポリエステルとして固有粘度を0.6のものを使用した以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、混繊糸の強度は2.4cN/dtexであった。
【0023】
[比較例2]
実施例1において、ポリエステル糸Bの単糸繊度を4dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛の風合いが硬いものとなった。
【0024】
[比較例3]
実施例1において、ポリエステル糸Bの単糸繊度を0.5dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、毛羽、断糸が多く、混繊糸の強度は2.0cN/dtexであった。
【0025】
[比較例4]
実施例1において、ポリエステル糸Bの総繊度を25dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛の風合いが硬いものとなった。
【0026】
[比較例5]
実施例1において、ポリエステル糸Bの総繊度を7dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、断糸が発生し、得られたものの強度は3cN/dtexであった。
【0027】
[比較例6]
実施例1において、ポリエステル糸Aの単糸繊度を0.8dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛の表面触感が悪く、ソフト性も低下し風合いの劣るものとなった。
【0028】
[比較例7]
実施例1において、ポリエステル糸Aの単糸繊度を0.1dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛の表面の耐摩耗性が悪く商品価値のないものとなった。
【0029】
[比較例8]
実施例1において、ポリエステル糸Aの総繊度を10dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛が硬いものとなった。
【0030】
[比較例9]
実施例1において、ポリエステル糸Aの総繊度を40dtexとする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛を染色時、ポリエステル糸Bが十分に収縮せず嵩高性が十分なものとはならなかった。
【0031】
[比較例10]
実施例1において、ポリエステル糸Aの沸騰水収縮率を12%とする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛は嵩高性がなくソフト性、柔軟性の低下しものと成った。
【0032】
[比較例11]
実施例1において、ポリエステル糸Bの沸騰水収縮率を7%とする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛は嵩高性がないものと成った。
【0033】
[比較例12]
実施例1において、ポリエステル糸Bの沸騰水収縮率を30%とする以外は実施例1と同じ条件で行なった。その結果、布帛は収縮が強くソフト性、柔軟性がなく風合いのよくないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の極細混繊糸により強度の高いスポーツ用途、紳士婦人用の布帛として有用である。
【符号の説明】
【0035】
A:ポリエステルA’糸
B:ポリエステルB’糸
1:供給ロール
2:第一引取ロール
3:インターレースノズル
4:第二引取ロール
5:スリットヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮率の異なるポリエステル糸Aとポリエステル糸Bからなるポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル極細混繊糸。
a)ポリエステル糸Aが、総繊度(A1)15〜30dtex、単糸繊度(A2)0.15〜0.50dtex、沸騰水中の収縮率(A3)3〜10%であること。
b)ポリエステル糸Bが、総繊度(B1)10〜20dtex、単糸繊度(B2)0.80〜2.0dtex、沸騰水中の収縮率(B3)10〜25%であること。
c)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bとが交絡を有し、交絡数が60〜160ケ/mであること。
d)ポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bが0.75〜1.00であること。
e)混繊糸の強度が4.0CN/dtex以上であること。
f)ポリエステル糸Aとポリエステル糸Bの混繊比率(重量比)が80〜55:20〜45であること。
【請求項2】
ポリエステル糸Bの固有粘度[η]Bがポリエステル糸Aの固有粘度[η]Aより大きい請求項1に記載のポリエステル極細混繊糸。
【請求項3】
請求項1〜2記載のポリエステル極細混繊糸を含むことを特徴とする布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2010−196227(P2010−196227A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46000(P2009−46000)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】