説明

ポリエステル系熱融着性複合繊維

【課題】ポリエステル系未延伸糸の流動延伸過程を容易に、かつ安定的に発現させて、高い生産性で、細繊度の熱収縮性複合繊維が得られる熱融着性複合繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する未延伸糸を、延伸して得られた複合繊維であって、該複合繊維の第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折比が3.0以下である熱融着性複合繊維。従来の生産設備を用いて、流動延伸過程を容易に、かつ安定的に発現させることが可能となり、高い生産性と良好な操業性で、本発明の熱収縮性繊維や延伸中間体、そして延伸中間体を再延伸した細繊度の熱融着性複合繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系重合体とオレフィン系重合体からなる複合繊維に関する。さらに詳しくは、適度な熱収縮特性と熱融着特性を併せ持つ複合繊維に関し、また、繊度の小さい複合繊維を高い生産性で得ることができる延伸中間体、もしくは高強度、かつ熱安定性に優れた細繊度の複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン繊維は、皮膚に対する安全性や環境負荷の低さ、耐薬品性が優れるなどの理由で、衛生材料用途やフィルター用途などで広く用いられている。一方、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維は、耐熱性の高さやプリーツ特性などの理由で、衣料用途や産業資材用途など、幅広く用いられている。そして、これらの繊維は、風合いの柔らかさやソフト性、ドレープ性などをより向上させるために、これまで以上に単糸繊度を小さくする事が求められてきた。
【0003】
一般的に、繊度を小さくするためには、繊度の小さい未延伸糸を紡糸する、高倍率で延伸するなどの方策が採られる。しかし、繊度の小さい未延伸糸を紡糸しようとする場合には、吐出量低下に伴う生産性の低下、もしくは紡糸速度の高速化による断糸回数増大に伴う操業性および生産性の低下を招いてしまう。また、高倍率で延伸しようとする場合、あまりにも倍率を高くすると延伸切れを生じ、得られる延伸糸の繊度にも、おのずと限界がある。
【0004】
細繊度に関連して、ポリエステル未延伸糸を、そのガラス転移温度よりも高い温度で延伸することによって、高倍率で延伸可能となり、細繊度のポリエステル繊維が得られることが提案されている(例えば特許文献1参照)。これは1段目の延伸を高温で行うことによって流動延伸状態とし、構造の発達を抑制しつつも細繊化し、続いての2段目の延伸で繊維構造を発達させながら、更に細繊化するというものである。しかし、2段目で延伸できる程度に繊維構造を抑制しようとする場合、1段目の延伸温度を高くして低張力で延伸する必要があるが、低張力がゆえに繊維糸条が自重で垂れ下がったり、延伸温度の変動によって張力も大きく変動して延伸切れを生じたりするといった、工程の不安定化を招き、安定した操業性や、また均一な繊維物性が得られないといった問題がある。また、この方法をポリオレフィン繊維に適用しても、オレフィン系材料からなる未延伸糸は結晶化しており、また延伸過程で結晶化しやすく、更には分子鎖が極めて屈曲であるので、流動延伸状態とはなり得ないことが知られている。この事実が、オレフィン系重合体樹脂材料を含む繊維を対象とした工業的観点からの上記延伸法適用の試みを阻み、これまでそのような検討に目が向けられてこなかったのが実情である。
そのほか、実質的にポリエステル繊維やナイロン繊維を用い、これに赤外線光束を照射して急速に加熱することで、高速かつ均一な流動延伸状態となることが提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、赤外線光束の照射による加熱では、照射面積が制限されるので一度に多くの繊維糸条を加熱することができず、生産性が低くなってしまうという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−21737号公報
【特許文献2】特開2002−115117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ポリエステル系の繊維に関しては、流動延伸を施して、高い生産性で細繊度の繊維を得ようという検討が行われているが、安定した操業性が得られなかったり、十分な生産性が得られなかったりして、未だ満足できる結果は得られていない。
本発明の目的は、ポリエステル系未延伸糸の流動延伸過程を、容易に、かつ安定に発現させて、高い生産性で、熱収縮性複合繊維を得ること、次工程で再延伸可能な延伸中間体を得ること、さらに該延伸中間体を再延伸して細繊度の熱融着性複合繊維を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル系重合体にオレフィン系重合体を複合した未延伸糸とすることで、予期せず、流動延伸過程が安定化し、高い生産性と良好な操業性で、熱収縮性繊維や延伸中間体、そして該延伸中間体を再延伸して細繊度の熱融着性複合繊維が得られることを見出した。特に、その複合繊維の一部を構成するオレフィン重合体について、それを単独使用した繊維では到底実現できないレベルの高延伸、高配向が、ポリエステル系重合体との複合繊維の構成成分というかたちをとることによって計らずも実現され、それに相応した繊維構造の発達が生じて、ポリエステル系重合体とオレフィン系重合体との単なる複合効果以上の相乗効果をもって複合繊維自体の性能向上に反映される、ということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の構成を有する。
(1) ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する未延伸糸を、延伸して得られた複合繊維であって、該複合繊維の第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折比(第1成分の複屈折/第2成分の複屈折)が3.0以下であることを特徴とする熱融着性複合繊維。
(2)第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態である前記(1)の熱融着性複合繊維。
(3)繊維直径の標準偏差が4.0以下である前記(1)又は(2)の熱融着性複合繊維。
(4)単糸繊維強度が2.0cN/dtex以下で、伸度が100%以上である前記(1)〜(3)のいずれかの熱融着性複合繊維。
(5)第1成分であるポリエステルの平均屈折率が1.600以下である前記(1)〜(4)のいずれかの熱融着性複合繊維。
(6)第2成分のオレフィン系重合体が高密度ポリエチレンである前記(1)〜(5)のいずれかの熱融着性複合繊維。
(7)145℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が15%以上である前記(1)〜(6)のいずれかの熱融着性複合繊維。
【0009】
(8)ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する熱融着性複合繊維であって、該熱融着性複合繊維の第2成分の結晶部c軸配向度が90%以上で、該熱融着性複合繊維の単糸繊維強度が1.7cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性複合繊維。
ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルが挙げられる。
この熱融着性複合繊維を得る方法の例として、前記(1)〜(7)のいずれかの複合繊維を再延伸することを含む方法が挙げられる。
(9)前記(1)〜(7)のいずれかの複合繊維を再延伸して得られる、前記(8)の熱融着性複合繊維。
(10)繊度が4.0dtex以下である前記(8)又は(9)の熱融着性複合繊維。
(11)繊維直径の標準偏差が4.0以下である、前記(8)〜(10)のいずれかの熱融着性複合繊維。
(12)本発明はさらに、前記(1)〜(11)のいずれかの熱融着性複合繊維を加工して得られるシート状繊維集合体に向けられている。
【発明の効果】
【0010】
従来、ポリエステル系重合体単体からなる未延伸糸を工業的に流動延伸しようとした場合、工程の安定性や得られる繊維の品質安定性に課題があり、また、オレフィン系重合体からなる未延伸糸を流動延伸によって高倍率で延伸しようとしても、流動延伸過程を発現させることはできなかった。
本発明によれば、ポリエステル系重合体にオレフィン系重合体を複合した未延伸糸とすることで、従来の生産設備を用いて、流動延伸過程を容易に、かつ安定的に発現させることが可能となり、高い生産性と良好な操業性で、熱収縮性繊維や延伸中間体、そして該延伸中間体を再延伸した細繊度の熱融着性複合繊維を得ることができる。
特に、再延伸して得られた細繊度の熱融着性複合繊維は、従来にない高倍率で延伸されているので、その複合繊維の一部を構成するオレフィン系重合体の繊維構造は著しく発達している。こうして得られた熱収縮性繊維や細繊度の熱融着性複合繊維は、それらの特徴を活かして、オムツやナプキンなどの衛生材料用途や、フィルター濾材などの産業資材用途として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の第1の熱融着性複合繊維は、ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する未延伸糸を、延伸して得られた複合繊維であって、該複合繊維の第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折比(第1成分の複屈折/第2成分の複屈折)が3.0以下であることを特徴とする熱融着性複合繊維である。
第1成分であるポリエステルは特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート類、ポリ乳酸などの生分解性ポリエステル、及び、これらと他のエステル形成成分との共重合体などが例示できる。他のエステル形成成分としては、ジエチレングリコール、ポリメチレングリコールなどのグリコール類、イソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが例示できる。他のエステル形成成分との共重合体の場合、その共重合組成は特に限定されるものではないが、結晶性を大きく損なわない程度であることが好ましく、かかる観点からは、共重合成分は10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることが望ましい。これらのエステル系重合体は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いても何ら問題ない。原料コスト、得られる繊維の熱安定性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルが好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレートのみで構成された未変性ポリマーが最も好ましい。
【0012】
第2成分であるオレフィン系重合体は、第1成分よりも低融点であれば特に制限されることはなく、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及びこれらエチレン系重合体の無水マレイン酸変性物、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、及びこれらプロピレン系重合体の無水マレイン酸変性物、ポリ-4-メチルペンテン-1などが例示できる。
これらのオレフィン系重合体は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いても何ら問題ない。なかでも、繊維表面に露出したオレフィン系重合体同士が、紡糸時の冷却過程で固化しきれずに融着する現象を抑制する観点からは、高密度ポリエチレンを90質量%以上含むことが好ましい。
【0013】
また、オレフィン系重合体のメルトフローレート(試験温度230℃、試験荷重21.18N)も特に制限されるものではないが、8g/10min以上であることが好ましく、20g/10min以上であることが尚好ましく、より好ましくは40g/10min以上である。異なる成分を複合して紡糸する場合、両成分が互いに影響しあって未延伸糸の構造が変化するが、ポリエステルとオレフィン系重合体を複合した場合には、オレフィン系重合体のメルトフローレートは大きい方が、ポリエステルの複屈折が小さくなる傾向がある。オレフィン系重合体のメルトフローレートが20g/10min以上であると、第1成分の複屈折率が小さい未延伸糸を好適に得ることができ、40g/10min以上であると、複屈折率がより小さい未延伸糸を得ることができる。第1成分の複屈折率が小さい未延伸糸を得ることができれば、延伸工程で容易に流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。
尚、流動延伸過程および流動延伸状態とは、高分子鎖が十分に流動できるような高い延伸温度で、かつ高分子鎖の絡み合い構造の解かれが生じる程度に延伸による歪み速度が低い場合に発現する延伸挙動である。高分子鎖の絡み合い構造を解きながら延伸することで、絡み合い点間の分子鎖の緊張を抑制し、分子鎖をあまり配向させずに延伸できる。一般的に知られているネック延伸は配向結晶化を伴い、繊維構造が発達するのとは対象的である。
【0014】
ここで、ポリエステル系未延伸糸の流動延伸過程を、容易に、かつ安定に発現させるという本発明の効果を得るためには、ポリエステル系の第1成分に、オレフィン系重合体の第2成分を配した複合構造とすることが重要になる。
上記特許文献1や特許文献2に記載されているように、ポリエステル系未延伸糸は、そのガラス転移温度よりもある程度高い温度で、かつ歪み速度が小さい条件で延伸することによって流動延伸状態となり、繊維構造の発達を抑制しながら高倍率で延伸することができる。しかしながら、エステル系重合体単独からなる未延伸糸の流動延伸の場合、延伸温度がガラス転移温度以上で樹脂流動性が高い状態であるので、繊維糸条に作用する延伸張力が極めて低く、延伸糸条が自重によって垂れ下がって延伸機器への接触切れを生じたり、延伸斑を生じたりといった不都合が発生し、また、僅かな延伸温度の変動によって延伸張力が大きく変化し、延伸切れや繊度斑などの不都合が発生して、満足しうる操業性、生産性、品質安定性が得られないという大きな問題があった。
しかし、流動延伸状態となり得るエステル系重合体の第1成分と、流動延伸状態とはなり得ないことから当該方法の工業的適用の対象から除外されていたオレフィン系重合体を第2成分として複合した複合未延伸糸は、オレフィン重合体が溶融せず、かつ、第1成分が流動延伸状態となり得る延伸条件で延伸することで、第1成分については、その繊維構造の発達を抑制しながら高倍率で延伸して細繊化しつつ、第2成分であるオレフィン系重合体は流動延伸過程とはならないので、大きな延伸張力が働き、その結果、複合未延伸糸全体として、自重による垂れ下がりが生じない程度の適度な延伸張力が掛かるため、延伸機器への接触による繊維切れや、延伸斑などの不都合を生じなくなる。また、延伸温度の変動による張力変化についても、オレフィン系重合体がこれを吸収するからか、延伸切れや繊度斑などを劇的に抑制することが可能となり、高生産性と品質安定性が得られる。
【0015】
ポリエステルを第1成分に配し、及び第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配した未延伸糸が流動延伸過程を経た後に得られた熱融着性複合繊維は、特に制限されるわけではないが、その繊度が、好ましくは1.0〜20dtex、さらに好ましくは2.0〜10dtexである。
流動延伸過程を経た後の熱融着性複合繊維は、繊維構造があまり発達していないので単糸繊維強度(以下、「繊維強度」とは単糸繊維強度のことをいう)が低く、乾燥、カットなどの次工程に送る際に繊維切れを生じたり、絡まりを生じたりする可能性があるが、繊度が1.0dtex以上であれば、繊維1本あたりの強力は十分となり、繊維切れや絡まりを生じなくなる。また、流動延伸過程を経た後の熱融着性複合繊維の繊度があまりにも大きい場合には、流動延伸過程における繊維断面の温度分布が大きくなる傾向にあり、繊維内部での構造斑や応力集中を起こしやすく、著しく繊維強度が低くなってしまうことがあるが、繊度が20dtex以下であれば、繊維内部での構造斑や応力集中といった問題はなくなり、満足できる繊維強度が得られるようになる。繊度が2.0〜10dtexの範囲であれば、繊維1本が有する強力は適切なレベルとなり、次工程でトラブルを起こすこともなく、好適である。
【0016】
上記の流動延伸過程を経た後の熱融着性複合繊維は、特に制限されるわけではないが、繊維直径の標準偏差が好適に4.0以下のものとなり、特に好適に3.0以下のものとなる。前述のように、エステル系重合体単体からなる未延伸糸を流動延伸しようとした場合には、工程が不安定となり、繊度斑が大きくなるという問題があった。これによって生産性の低下や品質の低下を招いていたが、本発明の熱融着性複合繊維は、オレフィン系重合体からなる成分が複合された結果、予期せず、延伸工程が安定し、繊度斑も抑制されている。繊維直径の標準偏差が4.0以下である場合には、流動延伸過程が安定的に発現したことを示し、また品質が均一化するので好ましく、3.0以下である場合には、更に高いレベルの安定性と品質の均一性が得られるのでより好ましい。
【0017】
本発明の第1の熱融着複合繊維に関わる、ポリエステルの第1成分、及びオレフィン系重合体である第2成分には、本発明の効果を妨げない範囲内で、必要に応じて種々の性能を発揮させるための添加剤、例えば酸化防止剤や光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤などを適宜添加してもよい。
【0018】
本発明の第1の熱融着複合繊維における、第1成分と第2成分の複合形態は特に制限されるものではないが、第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態であることが好ましく、なかでも同心または偏心の鞘芯構造が好ましい。
ポリエステル系の第1成分とオレフィン系重合体の第2成分を複合した未延伸糸であれば、流動延伸過程を容易に、かつ安定的に発現させるという本発明の効果が得られるが、第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態である場合には、ポリエステル系成分のガラス転移温度以上の温度で延伸する際に生じる、ポリエステル系成分同士の膠着の問題をも解決できるので、より好ましい。
また、繊維断面形状は円及び楕円などの丸型、三角及び四角などの角型、鍵型及び八葉型などの異型、または中空型などのいずれをも用いることができる。
【0019】
第1成分と第2成分を複合する際の構成比率は特に制限されるものではないが、第2成分/第1成分=70/30〜10/90vol%であることが好ましく、より好ましくは60/40〜30/70vol%である。第2成分の構成比率が10vol%以上である場合には、流動延伸過程においてオレフィン系重合体の第2成分が存在することによって適度な延伸張力が生じ、延伸繊維が重力で垂れ下がったりするといったトラブルを生じず、流動延伸過程を安定化できるので好ましい。また、第2成分の構成比率は、溶融紡糸によって未延伸糸を紡糸する際の細化挙動に影響し、第2成分の比率が高い場合には、第1成分であるポリエステルの複屈折が大きくなる方向に細化曲線が変化する傾向にある。従って、第2成分の構成比率は低い方が好ましいが、70vol%以下である場合には、未延伸糸における第1成分のポリエステルの複屈折率が十分に小さくなり、延伸工程で容易に流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。第2成分/第1成分=60/40〜40/60vol%である場合には、流動延伸過程の安定性と発現容易性のバランスに優れ、より好ましい。
【0020】
本発明の、第1の熱融着複合繊維の原料となる、ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配した未延伸糸は、一般的な溶融紡糸方法で得ることができる。溶融紡糸時の温度条件は特に制限されるものではないが、紡糸温度は250℃以上であることが好ましく、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは300℃以上である。紡糸温度が250℃以上であれば、紡糸時の断糸回数を少なくし、かつ延伸工程での流動延伸過程を容易に発現しうる未延伸糸が得られるので好ましく、280℃以上であればこれら効果がより顕著になり、300℃以上であれば更に顕著になるので好ましい。
また、紡糸速度は特に制限されるものではないが、300〜1500m/minであることが好ましく、より好ましくは600〜1000m/minである。紡糸速度が300m/min以上であれば、任意の紡糸繊度の未延伸糸を得ようとする際の単孔吐出量を多くし、満足できる生産性が得られるので好ましい。また、紡糸速度が1500m/min以下であれば、未延伸糸の第1成分の複屈折率が十分に小さくなり、延伸工程で容易に流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。紡糸速度が600〜1000m/minの範囲であれば、生産性と流動延伸過程発現の容易さのバランスに優れるので、更に好ましい。
【0021】
紡糸口金から吐出された繊維状の樹脂を引き取る過程での冷却方法は、従来の方法をとることができるが、第1成分のポリエステルの分子配向を抑制する、即ち第1成分の複屈折率が小さく抑制された未延伸糸を得るためには、なるべく温和な条件とすることが好ましい。
こうして得られた未延伸糸は、第1成分の複屈折率が0.020以下であることが好ましく、より好ましくは0.015以下である。第1成分の複屈折率が0.020以下の場合には、第1成分が紡糸時の配向結晶化を生じないレベルの分子配向しかしておらず、延伸工程での流動延伸過程発現を妨げる結晶成分が存在しないので好ましい。第1成分の複屈折率が0.015以下の場合には、分子配向がより抑制された未延伸糸であるので、延伸工程での流動延伸過程発現がより容易になるので、更に好ましい。
【0022】
こうして得られた未延伸糸を特定の延伸条件で延伸することで、流動延伸過程を発現させ、本発明の、第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折率比(第1成分の複屈折率/第2成分の複屈折率)が3.0以下であることを特徴とする熱融着性複合繊維が得られる。
流動延伸過程とは、前述の通り、未延伸糸を構成する高分子鎖の分子運動性を高め、高分子鎖の絡み合い構造を解きながら延伸することで、絡み合い点間の分子鎖の緊張を抑制し、繊維構造の顕著な発達を伴わない延伸である。即ち、高分子鎖の運動性を高めるためには延伸温度が重要となり、高分子鎖の絡み合い構造を解きながら延伸するためには延伸時の歪み速度(すなわち延伸倍率と延伸速度)が重要になり、これらの条件を適宜選択して設定する必要がある。
【0023】
延伸温度は、第1成分であるポリエステルのガラス転移温度よりも30〜70℃高温で、かつ第2成分であるポリオレフィン系重合体の融点以下の温度であることが好ましく、より好ましくは40〜60℃高温で、かつ第2成分であるポリオレフィン系重合体の融点以下の温度である。
ここで、延伸温度とは、延伸開始位置における繊維の温度を意味する。延伸温度が「第1成分であるポリエステルのガラス転移温度+30℃」以上であれば流動延伸過程を発現させることが可能となるが、より高温である場合には、高い歪み速度で、すなわち高倍率で延伸してもその効果が得られるので好ましい。ただ、延伸温度があまりにも高くなりすぎると、未延伸糸が延伸されるまでの間に、第1成分に冷結晶化が生じてしまい、これが流動延伸性の発現を阻害することになる。この観点からは、延伸温度は「第1成分であるポリエステルのガラス転移温度+70℃」以下であることが好ましい。更には、延伸温度は第2成分であるオレフィン系重合体の融点以下とし、繊維同士の融着による流動延伸過程の不安定化を抑制する必要がある。しかるに、例えばガラス転移温度が70℃であるポリエチレンテレフタレートを第1成分に配し、融点130℃の高密度ポリエチレンを第2成分に配した未延伸糸を延伸する場合には、100℃以上で130℃以下の延伸温度であることが好ましい。
【0024】
延伸時の歪み速度は小さい方が好ましいが、これは延伸速度と延伸倍率の影響を受ける。流動延伸は1段で行ってもよく、2段以上の多段で行ってもよい。更には、1段以上の流動延伸を行った後に、従来のネック延伸を施しても何ら問題ない。ここで、ネック延伸とは、延伸による配向結晶化を伴う延伸方法であり、繊維構造を発達させることができる。流動延伸過程の延伸速度は、延伸倍率との兼ね合いもあるが、5〜100m/minであることが好ましく、より好ましくは10〜80m/minである。ここで、流動延伸過程の延伸速度とは、流動延伸過程における到達速度であり、例えば2組以上のロールの速度差を利用して流動延伸する際には、流動延伸過程の最後のロール速度を意味する。延伸速度が100m/min以下である場合には十分に歪み速度が小さくなり、流動延伸過程を容易に発現させることができる。また、延伸速度が5m/min以上である場合には、満足できる生産性で流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。延伸速度が10〜80m/minである場合には、流動延伸過程発現の容易性と生産性のバランスに優れるので好ましい。
流動延伸過程の延伸倍率は、延伸速度との兼ね合いでもあるが、1.2〜8.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.4〜5.0倍であり、更に好ましくは1.6〜3.0倍である。ここで、流動延伸過程の延伸倍率とは、流動延伸過程におけるトータル延伸倍率であり、例えば1.4倍で流動延伸した後に、1.5倍で流動延伸し、次いで3倍でネック延伸した場合には、流動延伸過程の延伸倍率は2.1倍である。延伸倍率が8.0倍以下であれば、流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。また、延伸倍率が1.2倍以上であれば、満足しうる生産性で、流動延伸過程を発現させることができるので好ましい。延伸倍率が1.4〜5.0倍である場合には、流動延伸過程発現の容易性と生産性のバランスに優れ、1.6〜3.0倍の範囲であれば更に優れる。
【0025】
本発明の第1の熱融着性複合繊維を得る際の、延伸方法は特に制限されるものではなく、熱ロール延伸、温水延伸、加圧蒸気延伸、ゾーン延伸などの従来の方法を採ることができる。流動加熱延伸過程を容易に、かつ安定的に発現させるためには、延伸される際には高分子鎖の分子運動性が十分に高い状態となるように昇温されていることが重要になり、かかる観点からは、延伸開始位置を加熱する方法よりは、延伸開始位置に至るまでに予め加熱、昇温されている、熱ロール延伸が好ましい。
【0026】
延伸開始位置における繊維の温度の均一性は特に制限されるものではないが、複数本数の繊維間、および繊維1本における長さ方向に均一であることが望ましい。繊維間での均一性は、温度差が5℃以下であれば流動延伸過程が安定化するので好ましく、3℃以下であればより好ましい。このように、繊維間での均一性を高めるためには、延伸する際の繊維本数は生産性を大きく低下させない程度に少なくし、また集束させないで広げて配置することが好ましい。繊維1本の長さ方向における均一性についても、温度差が5℃以下であることが好ましく、より好ましくは3℃以下である。このように、繊維1本の長さ方向における均一性を高めるためには、熱ロールの温度変動を抑制することが好ましく、かかる観点からは誘導加熱方式を採用することが望ましい。
【0027】
こうして、流動延伸過程を経て得られた、本発明の第1の熱融着性複合繊維は、第1成分であるポリエステルの複屈折率が0.150以下であり、より好ましくは0.100以下である。ここで、複屈折率が小さいことは分子配向度が小さいことを意味する。流動延伸過程では高分子鎖の絡み合い構造が解かれながら延伸されるので、延伸による顕著な分子配向を伴わない。よって、延伸して得られた複合繊維の第1成分の複屈折率が0.150以下である場合には、顕著な分子配向を伴うネック延伸ではなくて流動延伸過程を経たことを意味し、更には0.100以下である場合には、流動延伸過程での高分子鎖の解かれが効果的に成されたことを意味するので好ましい。
【0028】
また、流動延伸過程を経て得られた、本発明の第1の熱融着性複合繊維は、第1成分と第2成分の複屈折率比(第1成分の複屈折率/第2成分の複屈折率)が3.0以下であり、より好ましくは2.5以下である。
ポリエステルが第1成分であり、オレフィン系重合体が第2成分である未延伸糸を、流動延伸した場合には、第1成分は高分子鎖が解かれながら延伸されているので、ネック延伸の場合に比べて複屈折率の増大が抑制され、繊維構造があまり発達しない。対して、オレフィン系重合体である第2成分は、流動延伸状態とはならず、複屈折率はネック延伸を行った際とほぼ同等に増大し、繊維構造は発達する。つまり、第1成分と第2成分の複屈折率比(第1成分の複屈折率/第2成分の複屈折率)が3.0以下であることは、該複合繊維が流動延伸過程を経て得られたことを意味し、2.5以下である場合には、より効果的な流動延伸過程を経たことを意味するので好ましい。
【0029】
流動延伸過程を経て得られた、本発明の熱融着性複合繊維の繊維強度は、特に限定されるものではないが、2.0cN/dtex以下であることが好ましく、より好ましくは1.5cN/dtex以下である。効果的な流動延伸過程を経た場合には、高分子鎖の配向構造の発達は抑制されており、繊維強度はあまり大きくならない。よって、繊維強度が2.0cN/dtex以下であることは、効果的な流動延伸過程を経たことを意味し、繊維強度が1.5cN/dtex以下であれば、更に効果的な流動延伸工程を経たことを意味する。
【0030】
流動延伸過程を経て得られた、本発明の熱融着性複合繊維の伸度は、特に限定されるものではないが、伸度が100%以上であることが好ましく、より好ましくは200%以上である。効果的な流動延伸過程を経た場合には、高分子鎖の配向構造の発達は抑制されており、伸度が大きくなる。伸度が100%以上であることは、効果的な流動延伸過程を経たことを意味し、また次工程で再延伸して、細繊化や高強度化することができるので好ましく、伸度が200%以上であれば、次工程での延伸倍率を高くすることができるので、より好ましい。
【0031】
流動延伸過程を経て得られた、本発明の、熱融着性複合繊維の第1成分の平均屈折率は、1.600以下であることが好ましく、より好ましくは1.595以下であり、更に好ましくは1.590以下である。
ここで、平均屈折率は該成分の密度と相関し、すなわち該成分の結晶化度を反映する数値である。延伸によって結晶化度が大きくなると密度も大きくなり、平均屈折率は大きな値を示す。つまり、延伸された後の、熱融着性複合繊維の第1成分の平均屈折率が小さい場合には、延伸によって顕著な結晶化が生じなかったことを意味する。
第1成分の平均屈折率が1.600以下である場合には、流動延伸による繊維構造発達の抑制効果があったことを意味し、また次工程で再延伸して、細繊化や高強度化することができるので好ましく、第1成分の平均屈折率が1.595以下であれば、次工程での延伸倍率を高くできるので好ましく、第1成分の平均屈折率が1.590以下であればより好ましい。
【0032】
本発明の熱融着性複合繊維の熱収縮特性は特に限定されるものではないが、145℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が15%以上であることが好ましく、より好ましくは25%以上である。本発明の熱融着性複合繊維は、流動延伸過程を経て延伸されているので、第1成分の結晶化度が低く抑えられており、熱処理による収縮が大きくなる傾向がある。このような複合繊維は、熱収縮性繊維として好適に用いることができる。また、該複合繊維の乾熱収縮率が高いということは、効果的な流動延伸過程を経たということを意味しており、すなわち繊維構造はあまり発達しておらず、次工程で再延伸を行う際には、高倍率で延伸できるので好ましい。
【0033】
本発明の第1の熱融着性複合繊維は、流動延伸過程を経て得られているので、繊維構造の発達が抑制されており、再び延伸することができる。再延伸の工程は、本発明の熱融着性複合繊維を得るための流動延伸過程と連続していてもよく、連続していなくても何ら問題ないが、工程の安定性や生産性を考慮すると、連続していることが好ましい。連続した延伸工程としては、3組の熱ロールを用いた2段延伸で、延伸1段目は流動延伸過程とし、延伸2段目ではネック延伸過程とする方法などが例示できる。
【0034】
本発明の第2の熱融着性複合繊維は、ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する熱融着性複合繊維であって、該熱融着性複合繊維の第2成分の結晶部c軸配向度が90%以上で、繊維強度が1.7cN/dtex以上、好ましくは2.5cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性複合繊維である。
このような、第2成分のオレフィン系重合体が高度に配向し、ポリエステル/オレフィン系重合体という樹脂構成のわりには高い繊維強度を有する熱融着性複合繊維を得る方法は、特に限定されるものではなく、前述した、本発明の、ポリエステルの第1成分と、オレフィン系重合体からなる第2成分の複合繊維で、第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折比(第1成分の複屈折/第2成分の複屈折)が3.0以下であることを特徴とする熱融着性複合繊維を、再延伸することによって、容易に、高い生産性で安定的に得ることができる。また、これ以外の方法で得ても何ら問題ない。つまり、本発明の、第2の熱融着複合繊維の材料となる繊維は、特に制限されるものではなく、前述の、流動延伸過程を経て得られた、本発明の第1の熱融着性複合繊維はその一つであるが、それ以外の繊維を原料として用いることを排除するものではない。
【0035】
本発明の、第2の熱融着性複合繊維の、第1成分であるポリエステルは特に限定されるものではなく、前述と同様に、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート類、ポリ乳酸などの生分解性ポリエステル、及び、これらと他のエステル形成成分との共重合体などが例示できる。他のエステル形成成分としては、ジエチレングリコール、ポリメチレングリコールなどのグリコール類、イソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが例示できる。他のエステル形成成分との共重合体の場合、その共重合組成は特に限定されるものではないが、結晶性を大きく損なわない程度であることが好ましく、かかる観点からは、共重合成分は10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることが望ましい。これらのエステル系重合体は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いても何ら問題ない。原料コスト、得られる繊維の熱安定性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルが好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレートのみで構成された未変性ポリマーが最も好ましい。
【0036】
第2成分であるオレフィン系重合体は、第1成分よりも低融点であれば特に制限されることはなく、前述と同様に、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及びこれらエチレン系重合体の無水マレイン酸変性物、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、及びこれらプロピレン系重合体の無水マレイン酸変性物、ポリ-4-メチルペンテン-1などが例示できる。
これらのオレフィン系重合体は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いても何ら問題ない。なかでも、繊維表面に露出したオレフィン系重合体同士が、紡糸時の冷却過程で固化しきれずに融着する現象を抑制する観点からは、高密度ポリエチレンを90質量%以上含むことが好ましい。
【0037】
また、オレフィン系重合体のメルトフローレート(試験温度230℃、試験荷重21.18N)も特に制限されるものではないが、8g/10min以上であることが好ましく、20g/10min以上であることが尚好ましく、より好ましくは40g/10min以上である。異なる成分を複合して紡糸する場合、両成分が互いに影響しあって未延伸糸の構造が変化するが、ポリエステルとオレフィン系重合体を複合した場合には、オレフィン系重合体のメルトフローレートは大きい方が、ポリエステルの複屈折が小さくなる傾向がある。オレフィン系重合体のメルトフローレートが20g/10min以上であると、第1成分の複屈折率が小さい未延伸糸を好適に得ることができ、40g/10min以上であると、複屈折率がより小さい未延伸糸を得ることができる。
【0038】
本発明の第2の熱融着性複合繊維に関わる、ポリエステルの第1成分、及びオレフィン系重合体である第2成分には、本発明の効果を妨げない範囲内で、必要に応じて種々の性能を発揮させるための添加剤、例えば酸化防止剤や光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤などを適宜添加してもよい。
【0039】
本発明の第2の熱融着性複合繊維における、第1成分と第2成分の複合形態は特に制限されるものではないが、第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態であることが好ましく、なかでも同心または偏心の鞘芯構造が好ましい。低融点のオレフィン系重合体である第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態である場合には、繊維表面全体で熱接着し得るので、高強度の熱融着不織布が得られる。また、繊維断面形状についても特に限定されるものではなく、前述と同様に、円及び楕円などの丸型、三角及び四角などの角型、鍵型及び八葉型などの異型、または中空型などのいずれをも用いることができる。
【0040】
第1成分と第2成分を複合する際の構成比率は特に制限されるものではなく、第2成分/第1成分=70/30〜10/90vol%であることが好ましく、より好ましくは60/40〜30/70vol%である。第2成分の構成比率が10vol%以上であれば、熱融着不織布を得る際に適度な接着点を形成し、満足しうる強度の熱融着不織布が得られる。また、第1成分の構成比率が30vol%以上であれば、熱融着不織布を得る際の嵩へたりを抑制でき、嵩高い熱癒着不織布が得られる。第1成分と第2成分の複合比率が60/40〜30/70vol%の範囲であれば、嵩高性と不織布強度のバランスに優れた熱融着不織布が得られるので好適である。
【0041】
前述のように、本発明の第2の熱融着性複合繊維は、前述した、本発明の第1の熱融着性複合繊維を、再延伸することによって、容易に、高い生産性で安定的に得ることができるので、これを材料繊維として用いることが好ましい。というのも、この延伸方法を採用すれば、従来の延伸法に比べて高倍率で延伸できるという特徴があるからである。
最初の延伸工程において、ポリエステルからなる第1成分は流動延伸状態となり、繊維構造はあまり発達しないが、オレフィン系重合体からなる第2成分は流動延伸状態とはならないので、繊維構造の発達を伴って細繊化される。そして、次の再延伸工程においては、ポリエステルからなる第1成分がネック延伸となるような延伸条件をすることで、ポリエステルからなる第1成分の繊維構造は十分に発達し、また、オレフィン系重合体の第2成分は、前の延伸工程で発達した繊維構造が更に発達し、高度に配向した繊維構造となるのである。このとき、特に注目すべきは、オレフィン系重合体を単独で紡糸したものを延伸しようとしても実現できないレベルの高倍率の延伸が、ポリエステルとの複合という形態をとることによって、複合繊維を構成する一成分というかたちで実現され、かつ、それによって、オレフィン系重合体成分が、この高い延伸倍率に相応する、単独使用では発現し得なかった高度な繊維構造の発達を遂げうるという点である。
第2成分のオレフィン系重合体の結晶部c軸配向度が90%以上、好ましくは92%以上であるときに、第2成分のオレフィン系重合体は特に高度な配向を示し、これによって複合繊維の繊維強度が1.7cN/dtex以上、好適に2.5cN/dtex以上、好ましくは2.8cN/dtex以上、更に好ましくは3.0cN/dtex以上となり、複合繊維の耐摩耗性が向上したり、不織布化する際のカード加工性が向上したりするなどの、予期せぬ効果を奏するのである。
例えば1.0〜1.5dtexといった細繊度の熱可塑性繊維をカーディング加工する場合、熱可塑性繊維の繊度があまりにも小さいと、シリンダーへの沈み込みやネップの発生を生じやすく、満足しうる生産性が得られないという問題がある。しかし、前述の熱融着性複合繊維は、高い繊維強度を有し、剛性が高く、耐摩耗性にも優れるので、カード加工においてシリンダーへの沈み込みやネップの発生を生じにくく、細繊度であってもカード機の運転速度を高くすることが可能となり、高い生産性が達成されるのである。
【0042】
本発明の第1の熱融着性複合繊維を、再延伸する際の延伸条件は特に限定されるものではないが、第2成分のオレフィン系重合体の結晶部c軸配向度が高くなり、熱安定性に優れ、嵩高性に富み、また繊維強度がより高い熱融着性複合繊維が得られるので、ネック延伸過程となるように、延伸温度は第1成分であるポリエステルのガラス転移温度よりも5〜30℃高温であることが好ましく、10〜30℃高温であることが尚好ましく、より好ましくは15〜25℃高温である。延伸温度が「第1成分であるポリエステルのガラス転移温度+10℃」以上であれば、延伸糸切れによる著しい生産性低下を招かない程度の、第1成分の分子運動性が得られるので好ましい。延伸温度が「第1成分であるポリエステルのガラス転移温度+30℃」以下であれば、第1成分の分子運動性が高くなりすぎることなく、延伸による分子配向、配向結晶化が進行するので好ましい。延伸温度が第1成分のガラス転移温度よりも15〜25℃高温である場合には、生産性と得られる繊維物性のバランスに優れるので好ましい。
【0043】
本発明の第1の熱融着性複合繊維を、再延伸する際の延伸速度は特に制限されるものではないが、生産性と工程の安定性を考慮すると、50〜200m/minの範囲が好ましく、より好ましくは80〜150m/minの範囲である。
また、再延伸工程の延伸倍率についても特に制限されるものではないが、熱安定性や嵩高性、強度特性に優れる延伸繊維を得るためには、繊維の破断を生じない範囲でなるべく高倍率である方がよく、かかる観点からは1.5倍以上、より好ましくは1.8倍以上であることが好ましい。更には、流動延伸過程での延伸倍率と、流動延伸過程で得られた本発明の熱融着性複合繊維を再延伸する際の延伸倍率の積であるトータルの延伸倍率は、特に制限されるものではないが、4倍以上であることが好ましく、6倍以上であることが更に好ましく、特に好ましいのは、7倍以上である。本発明の、流動延伸過程を経て得られた熱融着性複合繊維を再延伸するという延伸方法を採用すれば、そのトータルの延伸倍率において、従来の延伸方法より高倍率で延伸できるという特徴がある。高倍率で延伸できるということは、ある繊度の未延伸糸をより細く延伸できるという細繊化効果と、ある繊度の延伸糸を得るための未延伸糸の繊度を大きく設定できるので、紡糸工程安定化および吐出量増加による生産性向上効果が得られる。トータルの延伸倍率が4倍以上である場合には、それらの効果が得られ、トータルの延伸倍率が6倍以上である場合には満足できるレベルで、7倍以上である場合には十分に高いレベルでそれらの効果が得られるので好ましい。
【0044】
本発明の第2の熱融着性複合繊維の繊度は、特に限定されるものではないが、4dtex以下であることが好ましく、より好ましくは2dtex以下である。
本発明の流動延伸過程を経て得られた熱融着性複合繊維を、再延伸するという延伸方法は、前述の通り、従来の延伸法に比べてトータルの延伸倍率を高くでき、高い生産性で細繊度化できるという利点がある。繊度が4dtex以下である場合には、単位重量あたりの繊維本数が多くなり、例えばフィルター材に用いた際には濾過特性が向上するので好ましく、また熱融着不織布に用いた際には緻密性が向上するので低目付化が可能になり、更には柔らかい風合いが得られるので好ましい。繊度が2dtex以下の場合には、更に高いレベルで前述の効果が得られるのでより好ましい。
【0045】
本発明の、第1の熱融着性複合繊維、及び第2の熱融着性複合繊維には、加工適正や製品物性を満たすために、その繊維表面に界面活性剤を付着させることが望ましい。界面活性剤の種類は特に限定されるものではなく、また付着方法も公知の方法、例えばローラー法、浸漬法、噴霧法、パットドライ法などを採用することができる。
【0046】
本発明の第1の熱融着性複合繊維、及び第2の熱融着性複合繊維は、様々な用途に使用することができ、その用途に合わせて種々の繊維形態とすることができる。
例えば、カード不織布用の繊維の場合には、捲縮を付与したステープルの繊維形態が好ましい。捲縮の形態は特に制限されるものではなく、ジグザグの機械捲縮であってもよく、Ω型やスパイラル状の立体捲縮であってもよい。また、繊維長や捲縮数も特に制限されるものではなく、繊維やカード機の特性に応じて、適宜選択することができる。
織布フィルター用繊維やワインディングフィルター用繊維、織布シート用繊維、編み加工ネット用繊維などの場合には、フィラメントの繊維形態が好ましい。また、エアレイド不織布用繊維や抄紙不織布用繊維、またはコンクリートなどの補強用繊維の場合には、ショートカットチョップの形態が好ましい。捲縮の形態、もしくは有無や、繊維長は特に制限されるものではなく、加工機のタイプ、要求特性、生産性などを考慮して、適宜選択することができる。また、ロッド用繊維やワインディングフィルター用繊維、ワイピング部材の原料となる繊維の場合には、カットしていない連続トウの繊維形態が好ましい。捲縮の形態、もしくは有無は特に制限されるものではなく、加工法や求める製品特性に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
(1)複屈折
CARL−Zeiss Jena社製インターファコ型干渉顕微鏡を用いて、繊維の直径、および芯部の直径とレターデーションを測定し、繊維軸に対して平行および垂直方向に対する屈折率を求め、平均屈折率と複屈折率を算出した。
(2)結晶部c軸配向度
Bruker社製のD8 DISCOVERにより、広角X線回折測定を実施した。X線源は電圧45kV、電流360mAで発生させたCuKα線(波長:0.154nm)である。PPについては(200)面、PEについては(200)面の方位角方向の強度プロフィールから、Wilchinskyの方法により配向軸に対する結晶部c軸配向度を算出した。
(3)単糸繊度、単糸強伸度
未延伸糸、延伸糸について、JIS−L−1015に準じて測定した。
【0048】
(4)乾熱収縮率
収縮性繊維を約500mmの長さになるように切り出し、これを145℃の循環オーブン中で5分間熱処理し、以下の式により算出した。
乾熱収縮率(%)=(熱処理前繊維長−熱処理後繊維長)÷熱処理前繊維長×100
(5)繊維直径の標準偏差
熱融着性複合繊維の像を形VC2400−IMU 3Dデジタルファインスコープ(オムロン(株)製)を用いて取込み、n=50で繊維直径を測定し、標準偏差を算出した。
(6)オレフィン系重合体のメルトフローレート(MFR)
試験温度230℃、試験荷重21.18Nで測定した。(JIS−K−7210「表1」の試験条件14)
(7)延伸倍率
延伸前の繊度と延伸後の繊度から算出した。
延伸倍率=(延伸前の繊度)÷(延伸後の繊度)
(8)延伸工程の安定性
延伸工程が安定しているか否かを○、×で判定した。
○:繊維切れや繊維同士の膠着による延伸工程の停止が、1回/hrより少ない。
×:繊維切れや繊維同士の膠着による延伸工程の停止が、1回/hr以上である。
(9)カーディング加工性
得られた繊維をカーディング加工し、高速加工性やウェブの均一性、ネップの発生量などを観察して、◎、○、△、×の4段階で判定した。
【0049】
[実施例1]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を第1成分に配し、メルトフローレートが36g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)を第2成分に配し、同心鞘芯ノズルを用いて、これらを鞘/芯=第2成分/第1成分=50/50(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度900m/minの条件にて8.2dtexの未延伸糸を採取した。これの第1成分の複屈折は0.016であった。得られた未延伸糸を温度120℃、速度25m/min、倍率2.0倍の条件で熱ロール延伸したところ、安定的に4.1dtexの延伸糸が得られ、繊維直径の標準偏差は2.01で、均一なものであった。これの第1成分の複屈折は0.033で、複屈折率比(第1成分複屈折/第2成分複屈折)は1.16で、伸度は312%であった。乾熱収縮率を測定したところ、22%と高い収縮率を示し、収縮性繊維として好適に用いることができた。伸度が312%と大きかったことから、温度90℃、速度100m/min、で再び延伸したところ、3.7倍で安定的に延伸することができた。1回目の延伸と2回目の延伸によるトータル延伸倍率は7.5倍であり、最終的に得えられた熱融着性複合繊維の繊度は1.1dtex、繊維直径の標準偏差は1.89、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度は96%であった。繊維強度は3.7cN/dtexで、高強度化していた。これに14山/2.54cmの機械捲縮を付与し、110℃で熱処理した後に繊維長38mmに切断し、ステープルを得た。ステープル繊維をカーディング加工したところ、カード通過性がよく、加工速度を高く設定する事ができた。次いでエアスルー方式にて繊維同士を融着させてエアスルー不織布を作製したところ、繊度が小さいからか、非常に軟らかい風合いで、例えばナプキンのトップシートとして好適に用いることができた。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同じ未延伸糸を、温度120℃、速度40m/min、倍率3.0倍の条件で熱ロール延伸した。即ち、実施例1とは延伸倍率が異なるが、安定的に2.7dtexの延伸糸が得られ、繊維直径の標準偏差は1.77で、均一なものであった。これの第1成分の複屈折は0.136で、複屈折率比(第1成分複屈折/第2成分複屈折)は2.67で、伸度は176%であった。乾熱収縮率を測定したところ、17%と高い収縮率を示した。延伸倍率が高くなったからか、実施例1に比べると収縮率が低下したものの、収縮性繊維として好適に用いることができた。次いで、温度90℃、速度100m/minで再び延伸したところ、2.3倍で安定的に延伸することができた。1回目の延伸と2回目の延伸によるトータル延伸倍率は6.8倍で、実施例1と比べると低下したものの、最終的に得えられた繊度は1.2dtex、繊維直径の標準偏差は1.72、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度は93%、繊維強度は3.3cN/dtexで、安定的に細繊度で高強度の均一な熱融着性複合繊維を得ることができた。これに15山/2.54cmの機械捲縮を付与し、100℃で熱処理した後に繊維長44mmに切断し、ステープルを得た。ステープル繊維をカーディング加工したところ、カード通過性がよく、加工速度を高く設定する事ができた。次いでエアスルー方式にて繊維同士を融着させてエアスルー不織布を作製した。これをエアフィルター濾材として使用したところ、繊度が小さいために、優れた濾過特性が得られた。
【0051】
[実施例3]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のPETを第1成分に配し、メルトフローレートが28g/10minのHDPEを第2成分に配し、同心鞘芯ノズルを用いて、これらを鞘/芯=第2成分/第1成分=30/70(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度450m/minの条件にて16.8dtexの未延伸糸を採取した。これの第1成分の複屈折は0.008であった。得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度110℃、速度30m/min、延伸倍率2.5倍の流動延伸、2段目が温度85℃、速度100m/min、延伸倍率2.8倍のネック延伸の、トータル延伸倍率が7.8倍である連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が2.4dtex、繊維直径の標準偏差が1.42、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度が93%、繊維強度が3.5cN/dtexの熱融着性複合繊維が得られた。なお、1段目の流動延伸が完了した延伸中間糸を採取したところ、繊度が6.7dtex、第1成分複屈折が0.056、複屈折率比が1.45で、伸度は262%であった。連続2段延伸で得られた延伸糸に16山/2.54cmの機械捲縮を付与し、100℃で熱処理した後に繊維長51mmに切断し、ステープルを得た。ステープル繊維をカーディング加工し、エアスルー不織布を作製したところ、カーディング加工性は良好で、従来のネック延伸法のみで得られた繊度2.4dtexの不織布と同等の不織布物性を示していた。本発明の熱融着性複合繊維は高延伸倍率で生産されており、従来延伸方法で2.4dtexの熱融着性複合繊維を得ようとする場合に比べて、未延伸糸の繊度を大きくできる。このことは、紡糸時の吐出量を増加させることができることを意味し、即ち生産性向上の効果が得られている。
【0052】
[実施例4]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のPETを第1成分に配し、メルトフローレートが36g/10minのHDPEと、メルトフローレートが24g/10minの無水マレイン酸変性ポリエチレンとの、質量分率90/10の混合物を第2成分に配し、同心鞘芯ノズルを用いて、これらを鞘/芯=第2成分/第1成分=60/40(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度800m/minの条件にて6.2dtexの未延伸糸を採取した。これの第1成分の複屈折は0.015であった。得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度125℃、速度15m/min、延伸倍率2.0倍の流動延伸、2段目が温度85℃、速度70m/min、延伸倍率3.9倍のネック延伸の、トータル延伸倍率が7.8倍である連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が0.8dtex、繊維直径の標準偏差が1.02、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度が94%、繊維強度が3.5cN/dtexの熱融着性複合繊維が得られた。なお、1段目の流動延伸が完了した延伸中間糸を採取したところ、繊度が3.1dtex、第1成分複屈折が0.039、複屈折率比が1.30で、伸度は322%であった。連続2段延伸で得られた延伸糸に11山/2.54cmの機械捲縮を付与し、100℃で熱処理した後に繊維長5mmに切断し、ドライクリンプチョップを得た。これと粉砕パルプを重量分率20/80で混綿し、エアレイド法にてウェブを形成してエアスルー不織布を得た。熱融着性複合繊維の繊度が小さいので構成本数が多く、熱融着性複合繊維とパルプの接着点が増加して接着性が向上し、またパルプを物理的に保持する効果も高くなり、不織布表面をラテックス処理しなくても、不織布強度が高く、またパルプ保持性に優れるパルプ混綿不織布が得られた。これをウェットワイパーとして使用したところ、ラテックス処理が施されていないので水分の吸収性に優れ、またパルプの脱落が極めて少なく、好適に用いることができた。
【0053】
[実施例5]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のPETを第1成分に配し、メルトフローレートが40g/10minのポリプロピレン(PP)を第2成分に配し、同心鞘芯ノズルを用いて、これらを鞘/芯=第2成分/第1成分=50/50(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度600m/minの条件にて8.1dtexの未延伸糸を採取した。これの第1成分の複屈折は0.012であった。得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度140℃、速度40m/min、延伸倍率3.0倍の流動延伸、2段目が温度85℃、速度90m/min、延伸倍率1.9倍のネック延伸の、トータル延伸倍率が5.8倍である連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が1.4dtex、繊維直径の標準偏差が0.97、第2成分のPPの結晶部c軸配向度が96%、繊維強度が3.4cN/dtexの熱融着性複合繊維が得られた。なお、1段目の流動延伸が完了した延伸中間糸を採取したところ、繊度が3.7dtex、第1成分複屈折が0.109、複屈折率比が2.27で、伸度は186%であった。連続2段延伸で得られた延伸糸に14山/2.54cmの機械捲縮を付与し、120℃で熱処理した後に繊維長38mmに切断し、ステープルを得た。ステープル繊維をカーディング加工し、ポイントボンド不織布を作製したところ、カーディング性は良好で、繊度が小さいので繊維構成本数が多く、不織布目付を低減しても地合が乱れることがなかった。
【0054】
[実施例6]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のPETを第1成分に配し、メルトフローレートが54g/10minの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を第2成分に配し、偏心鞘芯ノズルを用いて、鞘/芯=第2成分/第1成分=50/50(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度750m/minの条件にて6.4dtexの未延伸糸を採取した。下記の式で定義される偏心度は0.22であり、第1成分の複屈折は0.016であった。
偏心度(h)=d/r
r:繊維全体の半径
d:繊維全体の中心点から芯成分の中心点までの距離
得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度105℃、速度15m/min、延伸倍率2.0倍の流動延伸、2段目が温度90℃、速度50m/min、延伸倍率2.7倍のネック延伸の、トータル延伸倍率が5.4倍である連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が1.2dtex、繊維直径の標準偏差が1.16、第2成分のPPの結晶部c軸配向度が91%、繊維強度が2.6cN/dtexの熱融着性複合繊維が得られた。なお、1段目の流動延伸が完了した延伸中間糸を採取したところ、繊度が3.2dtex、第1成分複屈折が0.047、複屈折率比が1.38で、伸度は248%であった。連続2段延伸で得られた延伸糸に14山/2.54cmの機械捲縮を付与し、110℃で熱処理した後に繊維長38mmに切断し、ステープルを得た。ステープル繊維をカーディング加工し、エアスルー不織布を作製した。通常、鞘成分に摩擦が高いLLDPEを使用した熱融着性複合繊維は、カーディング加工性が劣るが、実施例6の方法で得られた熱融着性複合繊維は、鞘成分のLLDPEが高度に配向しており、その結果として摩擦も低減しているのか、カーディング加工性は良好であった。得られた不織布は、繊度の小ささからくる風合いの柔らかさと、繊維表面を構成するLLDPEの触感の軟らかさ、および偏心断面形状に由来する不織布の嵩高さがあり、紙おむつの表面材として好適に用いることができた。
【0055】
[比較例1]
実施例1と同じ未延伸糸を、温度90℃、速度25m/min、倍率2.0倍の条件で熱ロール延伸したところ、安定的に4.1dtexの延伸糸が得られ、繊維直径の標準偏差は1.27で、均一なものであった。これの第1成分の複屈折は0.168で、複屈折率比(第1成分複屈折/第2成分複屈折)は5.79で、伸度は74%であった。乾熱収縮率は7%で、低い値であった。これを温度90℃、速度100m/minで再び延伸しようとしたところ、実施例1のように高倍率で延伸する事ができず、1.4倍で延伸するのが精一杯であった。結果、延伸1回目と延伸2回目のトータル延伸倍率は2.8倍、繊度は2.9dtexで、実施例1のように細繊度の熱融着性複合繊維を得ることができなかった。また、これのカーディング加工性を、同程度の繊度である実施例3のカーディング性と比較したところ、運転速度を高くすることができず、またネップの発生量も多いなど、著しく劣っていた。
【0056】
[比較例2]
IV値が0.64、ガラス転移温度が82℃のPETを用いて、紡糸速度1200m/minの条件にて8.2dtexの単成分の未延伸糸を採取した。複屈折は0.013であった。得られた未延伸糸を温度110℃、速度40m/min、倍率3.8倍の条件で熱ロール延伸したところ、延伸張力が低いので熱ロール間で繊維が弛んで接触切れを生じ、操業性は著しく悪かった。また得られた延伸糸は繊維間での膠着が著しく、解除性に劣るものであり、繊維直径の標準偏差は5.59で繊度斑が大きく、品質の均一性が悪いものであった。これを温度125℃、速度80m/minで再び延伸したところ、繊度斑に起因してか単糸切れが多発した。徐々に延伸倍率を高くしたところ、延伸ロールへの巻き付きが生じ、最終的に得られた延伸糸の繊度は1.3dtexであった。トータル延伸倍率は6.3倍であり、まずまずの倍率で延伸できているが、得られた繊維の繊維直径標準偏差は10.21と著しく大きく、見た目にも延伸切れ部分の混入が多く見られ、品質安定性に劣るものであった。
【0057】
[比較例3]
メルトフローレートが16g/10minのPPを第1成分に配し、メルトフローレートが36g/10minのHDPEを第2成分に配し、同心鞘芯ノズルを用いて、これらを鞘/芯=第2成分/第1成分=50/50(容量分率)の断面形態で複合し、紡糸速度1000m/minの条件にて8.2dtexの未延伸糸を採取した。これの第1成分の複屈折は0.013であった。得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度90℃、速度25m/min、延伸倍率2.0倍、2段目が温度90℃、速度55m/min、延伸倍率1.9倍のネック延伸の連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が2.2dtex、繊維直径の標準偏差が0.54、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度が86%の熱融着性複合繊維が得られた。オレフィン系重合体のみからなる未延伸糸を、ネック延伸で延伸しようとしても、延伸倍率を十分に高くすることができず、よって第2成分のHDPEの結晶化度は、本発明により達成されるレベルまで高めることができなかった。また、これを実施例3と同様の条件でステープルとし、カーディング加工性を確認したが、同等繊度の実施例3の熱融着性複合繊維に比べて劣っていた。
【0058】
[比較例4]
比較例3の未延伸糸を用いて、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度120℃、速度25m/min、延伸倍率2.0倍、2段目が温度90℃、速度55m/minの連続2段延伸を実施したところ、前述同様に延伸2段目の倍率は1.9倍までしか高くできず、繊度が2.2dtex、繊維直径の標準偏差が0.59、第2成分のHDPEの結晶部c軸配向度が84%の熱融着性複合繊維が得られた。1段目の延伸条件は流動延伸過程の発現を意図したものであったが、これを成すことはできなかった。即ち、鞘/芯=第2成分/第1成分=HDPE/PPからなる未延伸糸は、延伸条件を適切に制御しても流動延伸状態とはならず、高倍率延伸することができなかった。また、これを実施例3と同様の条件でステープルとし、カーディング加工性を確認したが、同等繊度の実施例3の熱融着性複合繊維に比べて劣っていた。
【0059】
[比較例5]
メルトフローレートが36g/10minのHDPEのみを用いて、紡糸速度600m/minの条件にて10.0dtexの単成分の未延伸糸を採取した。複屈折は0.013であった。得られた未延伸糸を、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度80℃、速度40m/min、延伸倍率3.0倍、2段目が温度90℃、速度55m/min、延伸倍率1.2倍のネック延伸の連続2段延伸を実施したところ、安定的に繊度が2.8dtex、繊維直径の標準偏差が0.79、HDPEの結晶部c軸配向度が84%の熱融着性繊維が得られた。このように、オレフィン系重合体のみからなる未延伸糸を、ネック延伸で延伸しようとしても、延伸倍率を十分に高くすることができず、よってHDPEの結晶化度は、本発明により達成されるレベルまで高めることができなかった。また、これを実施例3と同様の条件でステープルとし、カーディング加工性を確認したが、同等繊度の実施例3の熱融着性複合繊維に比べて大きく劣っていた。
【0060】
[比較例6]
比較例5の未延伸糸を用いて、3組の熱ロールを有する延伸機にて、1段目が温度115℃、速度40m/min、延伸倍率3.0倍、2段目が温度90℃、速度55m/minの連続2段延伸を実施したところ、比較例5と同様に延伸2段目の倍率は1.2倍までしか高くできず、繊度が2.2dtex、繊維直径の標準偏差が0.84、HDPEの結晶部c軸配向度が84%の熱融着性繊維が得られた。1段目の延伸条件は流動延伸過程の発現を意図したものであったが、これを成すことはできなかった。即ち、HDPEのみからなる未延伸糸は、延伸条件を適切に制御しても流動延伸状態とはならず、高倍率延伸することができなかった。また、これを実施例3と同様の条件でステープルとし、カーディング加工性を確認したが、同等繊度の実施例3の熱融着性複合繊維に比べて大きく劣っていた。
【0061】
以下、表1に上記各例の第1回目の延伸工程を終えるまでの条件及び物性、及び表2に再延伸工程を終えるまでの条件及び物性をまとめる。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する未延伸糸を、延伸して得られた複合繊維であって、該複合繊維の第1成分であるポリエステルの複屈折が0.150以下で、第1成分と第2成分の複屈折比(第1成分の複屈折/第2成分の複屈折)が3.0以下であることを特徴とする熱融着性複合繊維。
【請求項2】
第2成分が繊維表面を完全に覆う複合形態である請求項1記載の熱融着性複合繊維。
【請求項3】
繊維直径の標準偏差が4.0以下である請求項1又は2記載の熱融着性複合繊維。
【請求項4】
単糸繊維強度が2.0cN/dtex以下で、伸度が100%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項5】
第1成分であるポリエステルの平均屈折率が1.600以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項6】
第2成分のオレフィン系重合体が高密度ポリエチレンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項7】
145℃、5minの熱処理による乾熱収縮率が15%以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項8】
ポリエステルを第1成分に配し、第1成分よりも融点の低いオレフィン系重合体を第2成分に配する熱融着性複合繊維であって、該熱融着性複合繊維の第2成分の結晶部c軸配向度が90%以上で、該熱融着性複合繊維の単糸繊維強度が1.7cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性複合繊維。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合繊維を再延伸して得られたことを特徴とする、請求項8記載の熱融着性複合繊維。
【請求項10】
繊度が4.0dtex以下である請求項8又は9記載の熱融着性複合繊維。
【請求項11】
繊維直径の標準偏差が4.0以下である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維を加工して得られるシート状繊維集合体。

【公開番号】特開2009−114613(P2009−114613A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266284(P2008−266284)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】