説明

ポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物とこれを用いる精練方法

【課題】ポリエステル系繊維ニットに含まれている油剤やワックス等の油分をよく除去して、染色処理と同時に難燃剤を用いる難燃処理を行う際にも、難燃剤に由来するカス汚れを低減することができる精練剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、
(A)スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に、
(B)(i)数平均分子量200〜1500の範囲のポリエチレングリコールと、
(ii)一般式(I)
【化1】


(式中、R及びRは同一又は異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。)
で表わされるオリゴエチレン誘導体とから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物とこれを用いる精練方法、特に、染色と同時に行う精練方法及び染色と難燃加工と同時に行う精練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系繊維品には、主に、織物とニット(編物)がある。ポリエステル系繊維織物の生機、即ち、精練漂白の前の未加工布には、原糸製造から製織までの工程で付与された油剤、糊剤、その他機械潤滑油等の夾雑物が付着している。油剤としては、紡糸以降の摩擦による糸の物性劣化、毛羽、糸切れ等を防止するために流動パラフィン等の鉱物油が主として用いられている。糊剤としては、糸の収束性を高めて、製織効率を高めるために、アクリル酸エステル系やポリビニルアルコール系のサイジング剤等が用いられている。
【0003】
上述したようなポリエステル系繊維織物に含まれる夾雑物は、精練工程で完全に除去されない場合、その染色に悪影響を与えたり、仕上げムラにつながったりする。加えて、ポリエステル系繊維織物の場合には、糊剤を除去するために、通常、高アルカリ条件下での精練が必須であるので、高アルカリ条件下ですぐれた精練性を有する精練剤が提案されている(特許文献1及び2参照)。そのような精練剤は、通常、分子中にポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基を有するノニオン界面活性剤からなるか、又はそのようなノニオン界面活性剤を含む組成物である。
【0004】
また、ポリエステル系繊維品を染色し、又は染色と同時に難燃加工する場合に、ポリエステル系繊維品に含まれるポリエステルオリゴマーのほか、ポリエステル系繊維品に付着している各種油剤、糊剤、ワックス等に起因して生じる望ましくない染色ムラや、難燃剤等の機能性付与剤によるカス汚れを解決するために、(A)スルホン酸塩基を有する二塩基酸を15〜65モル%の量で含有する二塩基酸成分と分子量900〜3500のポリエチレングリコールを含有する二価アルコール成分とを重縮合させて得られた分子量3000〜30000、分子中のポリオキシエチレン鎖10〜40重量%のポリエステル共重合体と、(B)スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物及び高級アルコールアルキレンオキサイド付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる染色性向上剤を用いることが提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
カス汚れとは、染色浴と同浴で難燃剤その他の機能性付与剤を繊維品に付与したときに、上記繊維品に吸尽されなかった上記機能性付与剤が繊維表面に残留することによって生じる汚れをいう。
【0006】
しかしながら、ポリエステル系繊維ニットの生機には、製織工程が存在しないので、夾雑物として糊剤は残存していないものの、編成工程で流動パラフィン等の鉱物油が使用されるので、ポリエステル系繊維織物の生機よりも、油剤やワックス等の油分からなる夾雑物が多く付着している。これら、油剤やワックス等の油分は、ポリエステル系繊維織物の場合と同様に、ポリエステル系繊維ニットに残留するときは、染色に悪影響を与えたり、仕上げムラにつながったりする。
【0007】
ポリエステル系繊維ニットを含め、ポリエステル系繊維品の精練工程は、通常、上述したような精練剤を含む60〜100℃の浴中にポリエステル系繊維品を浸漬することによって行うが、精練には、このように、ポリエステル系繊維品を浴に浸漬し、昇温、洗浄、降温、水洗、脱水、乾燥という多くの処理工程を必要とすると共に、多量の水とエネルギーと多くの処理時間を要することから経済的ではない。
【0008】
そこで、ポリエステル系繊維ニットの生機については、前述したように、製織工程がないことから、糊剤は付着しておらず、そこで、一部では、染色加工の前工程として、170℃以上の乾熱処理を行って、油剤やワックス等の油分を揮発させ、その後、染色するという簡略処理が行われている。
【0009】
しかし、このような乾熱処理では、油剤やワックス等の油分は十分に揮発せず、ポリエステル系繊維ニットに残留するので、乾熱処理したポリエステル系繊維ニットに、例えば、染色浴と同浴で染色処理と共に難燃剤による難燃処理を行うときは、上記油剤やワックス等の油分と難燃剤に由来する凝集物を生じ、その結果、ポリエステル系繊維ニットに前述したカス汚れを生じるとう問題がある。
【0010】
そこで、このような問題を解決するために、ポリエステル系繊維ニットの精練についても、前述した精練剤を用いて精練を行ったり、前記染色性向上剤を染色浴に加えて染色することによって解決することが試みられているが、いずれの方法も、油剤やワックス等の油分の除去が十分でなかったり、難燃剤等の機能性付与剤の分散効果が不十分であることから、上述したように、染色への悪影響や仕上げムラ、カス汚れの解消には至っていないのが現状である。
【0011】
一方、ポリエステル系難燃加工繊維製品用の後処理方法として、ポリエステル系繊維品を難燃加工した後に、洗浄剤としてスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物を用いて、ポリエステル系繊維製品に固着していない難燃剤を除去する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0012】
しかしながら、このような方法では、確かに、ポリエステル系繊維製品に固着していない難燃剤は除去できるが、難燃加工の後処理であるので、例えば、染色浴と同浴で染色と同時に難燃処理する場合であれば、事前に油剤やワックス等の油分を除去できないので、染色への悪影響や仕上げムラ、カス汚れの解消が不可能である。
【0013】
そのうえ、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、例えば、スチレン化フェノールエチレンオキサイド付加物は、エチレンオキサイドの付加モル数にもよるが、水への溶解性や分散性が悪く、単独で用いても、繊維表面に均一に配布(リリース)することが困難であり、また、単純に水で希釈しても、高濃度の場合、ゲル化することから、ハンドリング性に問題がある。
【0014】
また、一般に、ポリエステル系繊維品を染色し、又はポリエステル系繊維品を染色浴と同浴で染色処理すると同時に難燃処理する場合は、ポリエステル系繊維品を精練処理した後、通常、分散染料や難燃剤を水に分散させた染色浴に高温高圧下にポリエステル系繊維品を浸漬させて行うが、ここに、上記分散染料や難燃剤は、通常、水に難溶性であるので、高温高圧下で凝集しやすい。
【0015】
従って、ポリエステル系繊維ニットを含め、ポリエステル系繊維品に油剤やワックス等の油分が残留しているとき、ポリエステル系繊維品を染色処理し、又は染色浴と同浴で染色処理すると同時に難燃加工すれば、浴中で上記分散染料や難燃剤の凝集が促進されて、その凝集物がポリエステル系繊維品に再付着することによって、ポリエステル系繊維品に染料が部分的に高濃度で付着する染色スポットや、仕上げムラ、難燃剤凝集物による前記カス汚れ等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−131091号公報
【特許文献2】特開2008−45266号公報
【特許文献3】特開2009−120969号公報
【特許文献4】特開2008−31614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らは、特に、ポリエステル系繊維ニットの精練や、染色浴と同浴での染色難燃加工における上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に、ポリエチレングリコールとある種のオリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む組成物が精練剤組成物としてポリエステル系繊維ニットに付着している油剤やワックス等の油分の分散性、即ち、除去性にすぐれているのみならず、分散染料や難燃剤に対してもすぐれた分散性を有するので、そのような精練剤組成物の存在下に染色浴と同浴で染色し、又は染色と同時に難燃剤を用いて難燃加工を行ったときにも、浴中での分散染料や難燃剤の凝集物の生成が抑制されて、染色ムラのような染色に悪影響をもたらす問題や、分散染料や難燃剤の凝集物によるカス汚れの問題を解決することができ、かくして、上述した精練剤組成物を用いることによって、染色処理や染色と同時の難燃処理における上述した問題をも一挙に解決することができることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
かくして、本発明は、浴中処理に用いることよって、ポリエステル系繊維ニットに残留している油剤やワックス等の油分を効果的に乳化して、ポリエステル系繊維ニットからよく除去することができる、即ち、精練性能にすぐれる精練剤組成物を提供することを目的とする。
【0019】
更に、本発明は、そのような精練剤組成物を含む染色浴と同浴でポリエステル系繊維ニットを染色処理し、又は染色処理すると同時に難燃処理することによって、上述したように、ポリエステル系繊維ニットに残留している油剤やワックス等の油分を効果的に乳化して、ポリエステル系繊維ニットからよく除去して、それら油分による染色への悪影響や仕上げムラをなくし、更には、難燃剤の分散性を高めて、その難燃剤による前記カス汚れを少なくし、かくして、前述したような問題なしに、染色浴と同浴でポリエステル系繊維ニットを染色処理し、又は染色処理すると同時に難燃処理することのできるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物を提供することを目的とする。
【0020】
即ち、本発明による精練剤組成物は、ポリエステル系繊維ニットに付着している油剤やワックス等の油分の分散性、即ち、除去性にすぐれているので、ポリエステル系繊維ニットの精練自体に有用であるのみならず、ポリエステル系繊維ニットを染色浴と同浴で染色するための染色同浴型精練剤組成物として有用であり、また、ポリエステル系繊維ニットを染色浴と同浴で染色と同時に難燃加工するための染色難燃同浴型精練剤組成物として有用である。
【0021】
更に、本発明は、上述したような精練剤組成物を用いるポリエステル系繊維ニットの精練方法、同浴で精練と共に染色処理する方法、更に、同浴で精練と染色と難燃加工する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、
(A)スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に、
(B)(i)数平均分子量200〜1500の範囲のポリエチレングリコールと、
(ii)一般式(I)
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、R及びRは同一又は異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。)
で表わされるオリゴエチレン誘導体とから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、上述した精練剤組成物を用いて、ポリエステル系繊維ニットを精練する方法が提供される。特に、本発明によれば、上述した精練剤組成物の存在下に同浴でポリエステル系繊維ニットを精練すると同時に染色処理する方法と、上述した精練剤組成物の存在下に同浴でポリエステル系繊維ニットを染色処理と難燃加工を同時に行う方法が提供される。
【0026】
本発明によれば、上記スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイド付加モル数は5〜18の範囲であることが好ましく、また、上記 スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量におけるそれぞれの割合は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が30〜90重量%の範囲にあり、溶媒が70〜10重量%の範囲にあることが好ましい。更に、本発明によれば、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物はスチレン化フェノールエチレンオキサイド付加物であることが好ましい。また、本発明による上記精練剤組成物は、好ましくは、水を50重量%以下の割合で含む。
【0027】
本発明において、上記オリゴエチレン誘導体は、特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル及びエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
更に、本発明によれば、上述した精練剤組成物を含む浴にポリエステル系繊維ニットを浸漬することを特徴するポリエステル系繊維ニットの精練方法が提供される。
【0029】
特に、本発明によれば、上記精練方法において、上記精練剤組成物を含む浴の温度を60〜100℃として、ポリエステル系繊維ニットを精練する方法、上記精練剤組成物と共に染料を含む浴の温度を120〜140℃として、ポリエステル系繊維ニットを同浴で染色する方法、上記精練剤組成物と共に染料と難燃剤を含む浴の温度を120〜140℃として、ポリエステル系繊維ニットを同浴で染色すると同時に難燃加工する方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、それ自体で、しかし、好ましくは、水を含む組成物として、常温で液状であって、第1の成分であるスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が油分の除去性と共に、分散染料と難燃剤の分散性にすぐれており、第2の成分であるポリエチレングリコール又はオリゴエチレン誘導体がスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と水のいずれに対しても、親和性にすぐれていることから、これをスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に用いることによって、いわば、ポリエチレングリコール又はオリゴエチレン誘導体を水との共溶媒として用いることによって、ポリエステル系繊維ニットの精練、染色及び難燃加工のための溶媒である水へのスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の溶解性又は分散性を著しく高めることができる。
【0031】
その結果、本発明による精練剤組成物をポリエステル系繊維ニットに適用したとき、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物がポリエステル系繊維ニットを構成する繊維の表面に均一に配布されるので、繊維の表面に残留している油剤やワックス等の油分を効果的に除去することができ、かくして、ポリエステル系繊維ニットに付着している上記油分を効果的に除去することができる。
【0032】
かくして、本発明による精練剤組成物を用いることによって、ポリエステル系繊維ニットに残留する油剤やワックス等の油分による染色への悪影響や仕上げムラの生成をなくすことができ、更に、本発明による精練剤組成物は、分散染料と難燃剤に対してもすぐれた分散性を有するので、本発明による精練剤組成物の存在下にポリエステル系繊維ニットに染色と同時に難燃剤を用いて難燃加工を行ったときにも、難燃剤の凝集物の生成が抑制され、かくして、分散染料や難燃剤の凝集物によるカス汚れの問題を解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、
(A)スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に、
(B)(i)数平均分子量200〜1500の範囲のポリエチレングリコールと、
(ii)一般式(I)
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、R及びRは同一又は異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。)
で表わされるオリゴエチレン誘導体とから選ばれる少なくとも1種を含んでなるものである。
【0036】
即ち、本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、第1の成分として、界面活性剤であるスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物を有し、第2の成分として、上記ポリエチレングリコールとオリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種を有する常温(20℃、以下、同じ)で液状の組成物である。
【0037】
本発明によれば、上記精練剤組成物は、好ましくは、更に水を含む。前述したように、上記ポリエチレングリコールとオリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種は、水と共に、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物に対して、いわば共溶媒を形成して、この共溶媒において、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の分散性を著しく高めることができる。そこで、以下、上記ポリエチレングリコールとオリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種を単に「溶媒」ということがある。
【0038】
本発明において、ポリエステル系繊維ニットとは、少なくともポリエステル繊維を含む糸よりなるニット(編物製品)をいう。
【0039】
ニットには、例えば、よこ編生地、たて編生地、丸編生地、トリコット生地、ラッシェル生地、メッシュ生地、ジャージ等を挙げることができるが、これら例示したものに限定されるものではない。
【0040】
本発明において、ポリエステル系繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−スルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリオキシベンゾイル、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、D−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)等のポリカプロラクトン、ポリリンゴ酸、ポリヒドロキシカルボン酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、β−ヒドロキシ酪酸(3HB)−3−ヒドロキシ吉草酸(3HV)ランダム共重合体等のポリ脂肪族ヒドロキシカルボン酸、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート−アジペート共重合体等のグリコールと脂肪族ジカルボン酸とのポリエステル等を挙げることができるが、これら例示したものに限定されるものではなく、更に、難燃剤等の機能性化合物をポリエステルの製造時にポリエステルに共重合させたもの、また、重合時又は製糸時に難燃剤等の機能性化合物をブレンドしたものであってもよい。
【0041】
前述したように、本発明のポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物における第1の成分は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物である。このスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物は、好ましくは、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール及びトリスチレン化フェノールから選ばれる少なくとも1種のスチレン化フェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの付加物からなり、特に、好ましくは、エチレンオキサイドの付加物、即ち、スチレン化フェノールエチレンオキサイド付加物からなるものである。
【0042】
スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物以外に油分の除去性と難燃剤の分散性にすぐれるものとして、これまで、ベンジル化フェノールアルキレンオキサイド付加物や特定アルコールのエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物等が知られているが、これらを界面活性剤として用いて、前記溶媒と組み合わせて、精練剤組成物としても、そのような精練剤組成物は、冬期に固化したり、経日的に成分が分離したりして、ハンドリング性に劣るものである。
【0043】
本発明のポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物において、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物のエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの付加モル数は5〜18であり、好ましくは、8〜15である。上記付加モル数が5より小さいときは、ポリエステル系繊維ニットに残留する油剤やワックス等の油分の除去性が十分でないのみならず、分散染料や難燃剤の分散性が十分でない。一方、付加モル数が18より大きいときは、分散染料や難燃剤の分散性は高まるものの、油剤やワックス等の油分の除去性が十分でない。
【0044】
本発明のポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物における第2の成分は、前述したように、数平均分子量200〜1500の範囲のポリエチレングリコールと前記一般式(I)で表わされるオリゴエチレン誘導体とから選ばれる少なくとも1種である。
【0045】
本発明において、ポリエチレングリコールは、テトラエチレングリコールや、トリエチレングリコールのような低重合物を含んでもよいが、ペンタエチレングリコール以上の高重合物を含む混合物であって、数平均分子量が200以上のものをいう。
【0046】
本発明によれば、前述したように、上記ポリエチレングリコールとオリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種は、水と共に用いるとき、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の水に対する溶解性を著しく高めることができる共溶媒であり、従って、常温において、水溶性であることが必要である。
【0047】
更に、本発明においては、上記ポリエチレングリコールは、精練剤組成物を高濃度化した場合の低粘度化の観点から、数平均分子量は1500以下のものが好ましい。数平均分子量が1500を超えるポリエチレングリコールは、油剤やワックス等の油分の除去性や、分散染料や難燃剤の分散性に劣る虞がある。
【0048】
上記ポリエチレングリコールとして、数平均分子量が200、300、400又は600であり、水と任意に混和し得る無色の液状物や、数平均分子量が1000又は1450であって、水への溶解度が200g程度のワックス状物を例示することができ、このようなポリエチレングリコールはいずれも、市販品を入手することができる。
【0049】
本発明において、上記ポリエチレングリコールは、常温で水溶性である限り、末端ヒドロキシル基が低級アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基でモノエーテル化又はジエーテル化されていてもよくこれらもポリエチレングリコールと同様に用いることができる。従って、本発明においては、ポリエチレングリコールは、末端ヒドロキシル基が低級アルキル基でモノエーテル化又はジエーテル化されている水溶性のものを含むものとする。そのようなモノエーテル化又はジエーテル化されているポリエチレングリコールとして、例えば、数平均分子量220のポリエチレングリコールモノメチルエーテルや数平均分子量240のポリエチレングリコールジメチルエーテルを挙げることができる。
【0050】
他方、上記オリゴエチレン誘導体としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。
【0051】
本発明において、溶媒、即ち、上記ポリエチレングリコールと上記オリゴエチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種は、ポリエステル系繊維ニットに残留する油剤やワックス等の油分の除去性能の向上に加え、精練剤組成物を高濃度化した場合の低粘度化に寄与する。
【0052】
特に、本発明によれば、上記溶媒は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と組み合わせてなる精練剤組成物の存在下に同浴中で染色難燃処理したときの難燃剤の凝集物によるカス汚れの防止の観点から、数平均分子量200〜1000のポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、なかでも、数平均分子量200のポリエチレングリコールとエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物において、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と上記溶媒の合計量中、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒のそれぞれの割合は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が30〜90重量%であり、溶媒が70〜10重量%であることが好ましく、特に、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が50〜85重量%であり、溶媒が50〜15重量%であることが好ましい。
【0054】
ポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物において、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量中、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が90重量%よりも多いときは、ポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物を処理浴に添加した際の分散性が悪くなったり、精練剤組成物がゲル化したりして、ハンドリング性が悪化する虞がある。しかし、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量中、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が30重量%よりも少ないときは、残留する油剤やワックス等の油分の除去性、即ち、乳化性が悪くなり、染色と同時に難燃処理する場合は、分散染料と難燃剤の分散性も悪くなり、その結果、特に、難燃剤によるカス汚れが発生する虞がある。これらの不具合を回避するために精練剤組成物を過剰に添加すれば、経済性が悪くなる。
【0055】
本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、上述したように、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と前記溶媒を含み、そして、好ましくは、水を含む。即ち、本発明によるポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、好ましくは、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量が50重量%以上、水が50重量%以下とからなる。
【0056】
ポリエステル系繊維ニットの精練に際しては、本発明による精練剤組成物は、通常、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量、即ち、有効成分としての濃度が0.1〜2.0g/Lとなるように処理浴に加えて用いられる。処理浴における有効成分の濃度が0.1g/Lよりも少ないときは、ポリエステル系繊維ニットの精練効果が十分でなく、残留する油剤やワックス等の油分による染色への悪影響に加えて、仕上げムラや難燃剤に由来するカス汚れが発生する虞がある。他方、有効成分を濃度2.0g/Lを越えて用いたときは、処理浴の発泡によって精練ムラや染色ムラを生じる虞がある。
【0057】
本発明のポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物は、必要に応じて、前記スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物に加えて、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物スルホコハク酸エステル塩等のアニオン系の界面活性剤のほか、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチリデンホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチルホスホン酸(ATMP)、ニトリロトリ酢酸(NTA)等のポリカルボン酸、ホスホン酸又はそれらの塩からなるキレート剤、炭酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のアルカリビルダー、シリコーンオイル系、鉱物油系等の消泡剤を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の精練剤組成物を用いるポリエステル系繊維ニットの精練処理は、上記精練剤組成物を含む温度60〜100℃の処理浴中、バッチ方式又は連続方式によって、浴液をポリエステル系繊維ニットに含浸させることによって行うことができるほか、上記精練剤組成物と共に染料を含む120〜140℃の処理浴中、バッチ方式又は連続方式によって、浴液をポリエステル系繊維ニットに含浸させて、ポリエステル系繊維ニットの染色処理と同時に行うことができ、また、上記精練剤組成物と共に染料と難燃剤を含む120〜140℃の処理浴中、バッチ方式又は連続方式によって、浴液をポリエステル系繊維ニットに含浸させて、ポリエステル系繊維ニットの染色処理及び難燃処理と同時に行うことができる。
【0059】
染色浴と同浴で染色と難燃加工を同時に行うための染色浴の組成の一例を挙げれば、分散染料は所要の色濃度にもよるが、通常、0.1〜15.0%owf、浴のpHを約3〜6に調整するための酢酸等の酸0.3〜1.0g/L、染料の染着速度を調節するための均染剤、通常、界面活性剤を含む配合物0.3〜1.0g/L、浴を軟水化するためのポリカルボン酸のようなキレート化剤0.2〜0.5g/L、折れマーク防止のためのポリエステル系柔軟剤0.2〜0.5g/L、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物からなる耐光堅牢度向上剤0.5〜2.0%owf、難燃加工剤1.0〜9.0%owf、精練剤0.5〜3.0g/L、ポリエステル系繊維ニットに対して重量比で9〜15倍量の水である。上記難燃加工剤は難燃剤を含む分散液である。しかし、本発明において、精練剤組成物を含む染色浴や、また、染色と同浴で染色と難燃加工を同時に行うための染色浴の組成は、上記例示に限定されるものではない。
【0060】
このようにして、ポリエステル系繊維ニットを本発明による精練剤組成物を含む染色浴と同浴で染色し、又は同浴で染色難燃処理した後、ポリエステル系繊維ニットを浴から取り出し、これを還元洗浄又はソーピングし、湯洗、水洗、脱水、乾燥することによって、ポリエステル系繊維ニットに残留している油剤やワックス等の油分による染色への悪影響や仕上げムラ、更には、難燃剤による前記カス汚れなしに、ポリエステル系繊維ニットを染色処理し、又は染色処理すると同時に難燃処理することができる。
【0061】
本発明による精練剤組成物を用いて、ポリエステル系繊維ニットを同浴で精練と染色を効果的に行うことができる分散染料や、また、本発明による精練剤組成物を用いて、ポリエステル系繊維ニットを同浴で精練と染色と難燃加工を効果的に行うことができる分散染料と難燃剤特に限定されるものではない。
【0062】
本発明において好適に用いることができる分散染料として、アントラキノン系、ベンゼンアゾ系(モノアゾ及びジスアゾ)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、ピリドンアゾ、ピラゾンアゾ、チオフェンアゾ等)、縮合系(キノフタロン、スチリル、クマロン等)を挙げることができる。
【0063】
従って、分散染料の具体例として、カラー・インデックスによる名称にて、例えば、ディスパースイエロー3、ディスパースイエロー42、ディスパースイエロー51、ディスパースイエロー54、ディスパースイエロー64、ディスパースイエロー71、ディスパースイエロー79、ディスパースイエロー82、ディスパースイエロー114、ディスパースイエロー126、ディスパースイエロー163、ディスパースイエロー211、ディスパースイエロー226、ソルベントイエロー163、ディスパースオレンジ29、ディスパースオレンジ30、ディスパースオレンジ31、ディスパースオレンジ55、ディスパースオレンジ61、ディスパースオレンジ66、ディスパースオレンジ73、ディスパースオレンジ155、ディスパースレッド54、ディスパースレッド58、ディスパースレッド60、ディスパースレッド73、ディスパースレッド86、ディスパースレッド127、ディスパースレッド141、ディスパースレッド146、ディスパースレッド153、ディスパースレッド167.1、ディスパースレッド191、ディスパースレッド277、ディスパースレッド356、ディスパースバイオレット12、ディスパースバイオレット28、ディスパースバイオレット33、ディスパースバイオレット57、ディスパースブルー3、ディスパースブルー、ディスパースブルー56、ディスパースブルー60、ディスパースブルー73、ディスパースブルー73.1、ディスパースブルー77、ディスパースブルー79、ディスパースブルー81、ディスパースブルー87、ディスパースブルー125、ディスパースブルー149、ディスパースブルー153、ディスパースブルー165、ディスパースブルー198、ディスパースブルー291、ディスパースブルー291.1、ディスパースブルー268、ディスパースブルー284、ディスパースブルー367、ディスパースグリーン9等を挙げることができる。しかし、本発明において用いることができる分散染料は、上記例示に限定されるものではない。
【0064】
また、本発明において好適に用いることができる難燃剤として、例えば、トリクレジルホスフェート、ナフチルジフェニルホスフェートのような芳香族モノホスフェートやレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)のような芳香族ジホスフェート、アニリノジフェニルホスフェートのような芳香族アミノホスフェート、ジアニリノフェニルホスフェートのような芳香族ジアミノホスフェート、トリフェニルホスフィンオキシドのような芳香族ホスフィンオキシド、10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、10−クレジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドのようなホスファフェナントレン誘導体、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドのようなジオキサホスホリナンオキシド誘導体、ヘキサフェノキシトリホスファゼン、トリフェノキシトリメトキシトリホスファゼンのようなホスファゼン誘導体等を挙げることができる。しかし、本発明において用いることができる難燃剤は、上記例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0066】
(液流染色機を用いる精練剤組成物の精練性能試験)
実施例1
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、ポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物(以下において、単に、精練剤組成物という。)Aを調製した。
【0067】
比較例1
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Bを調製した。
【0068】
液流染色機を用いる実機試験において、分散染料にて試料ポリエステル繊維ニットを染色すると同時に難燃剤を用いて難燃加工するに際して、精練剤組成物として、上記実施例1による精練剤組成物Aと上記比較例1による精練剤組成物Bをそれぞれ用いた。
【0069】
用いた試料ポリエステルニットの残脂率は1.3%であった。この残脂率は、試料ポリエステルニットの乾燥重量を測定した後、ジエチルエーテルを用いて試料ポリエステルニットをソックスレー抽出器で5時間抽出して、得られた抽出物を乾燥して、油分量とし、下記式によって残脂率を求めた。
【0070】
残脂率(%)={油分量(g)/試料ポリエステルニットの乾燥重量(g)}×100
【0071】
次に、上記油分をFT−IR分析したところ、油分は流動パラフィンであることが確認された。処理前の試料ポリエステルニットは、目付500g/m、幅2m、布帛長365mであった。
【0072】
液流染色機に試料ポリエステル繊維ニットに対する重量比が10となるように水 約3650Lを入れ、更に、試料ポリエステル繊維ニット生機を投入し、両端をオーバーロックミシンにより結反して無端状とし、液流染色機中の試料ポリエステル繊維ニットの循環速度を250m/分とした。
【0073】
実施例1及び比較例1においてそれぞれ得られた精練剤組成物6kg(有効成分量は浴液1Lに対して約1g)、難燃加工剤ビゴールFV−6010(大京化学株式会社製アニリノジフェニルホスフェートとジアニリノフェニルホスフェートの混合物を34重量%含有する難燃加工剤)22kg、分散染料(C.I.Disperse Orange 155)10.9kg、分散染料(C.I.Disperse Red 86)3.6kg、分散染料(C.I.Disperse Blue 77)3.6kgを薬品添加槽から液流染色機に投入して、処理液とした。
【0074】
この処理液を処理開始温度40℃から70分を要して処理温度135℃まで昇温し、この温度に30分保持して、染色と同時に難燃処理を行い、次いで、45分かけて、処理液の温度を70℃まで降温し、この後、液流染色機から処理液を排出した。次いで、湯洗し、推薦し、染色と同時に難燃加工した試料ポリエステル繊維ニットを取り出し、乾燥した後、検査したところ、実施例1による精練剤組成物Aの存在下に染色と同時に難燃加工した試料ポリエステル繊維ニットには、難燃剤によるカス汚れや染色ムラ等がみられなかったが、比較例1による精練剤組成物Bの存在下に染色と同時に難燃加工した試料ポリエステル繊維ニットには、難燃剤によるカス汚れ67箇所が見出された。
【0075】
上述した難燃剤によるカス汚れは、試料ポリエステル繊維ニット生機に残留していた流動パラフィンによって、水に難溶性である分散染料や難燃剤の凝集が促進され、この凝集物が試料ポリエステル繊維ニットに再付着することにより生じたものである。
【0076】
(モデル実験による精練剤組成物の性能試験)
上述した液流染色機を用いる試験には、大面積の試料ポリエステル繊維ニットに加えて、大量の薬剤と水を必要とするので、以下においては、カス汚れのモデル実験を構成して、このモデル実験において、油分負荷の高い状態において、精練剤組成物の使用が難燃剤の分散安定性にどのように影響するかの試験、即ち、難燃剤によるカス汚れ試験を行った。
【0077】
ポリエステル繊維ニットを難燃加工するに際して、そこに残留する流動パラフィン等の油剤は、昇温と共にポリエステル繊維ニットから遊離し、これが添加されている精練剤組成物によってよく乳化されていない場合には、難燃剤と油剤の乳化不良物が会合することによって粗大な凝集物を生じる。この凝集物がポリエステル繊維ニットに再付着することによって、染色への悪影響や仕上げムラ、難燃剤によるカス汚れが発生するとみられる。
【0078】
モデル実験のためのブランクとして、先ず、次の参考例の試験を行った。
参考例
水200mLと流動パラフィン0.4gを含む処理液を調製し、これに試料ポリエステル繊維ニットを投入することなく、処理液を60℃から2℃/分の速度で135℃まで昇温し、135℃で30分間ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を空運転し、この後、3℃/分の速度で60℃まで冷却し、次いで、アドバンテック東洋株式会社製No.131黒色濾紙(保留粒子径3μm)を用いて、処理液を吸引濾過した。吸引濾過の後、濾紙を乾燥させて、吸引濾過後の濾紙重量を測定した。この後、吸引濾過前の濾紙重量と吸引濾過後の濾紙重量から、下記式に従って凝集物の重量を求めたところ、0.394gであった。
【0079】
凝集物の重量(g)=吸引濾過後の濾紙重量(g)−吸引濾過過前の濾紙重量(g)
そこで、以下のモデル実験においては、凝集物の重量が0.3g以下であるとき、難燃剤の凝集物の生成が少なく、難燃剤によるカス汚れが効果的に抑制されるので、精練性能にすぐれており、凝集物の重量が0.22g以下であるときは、精練性能に非常にすぐれており、そして、凝集物の重量が0.1g以下であるとき、精練性能が極めてすぐれていると評価することができる。
【0080】
モデル実験は以下のようにして行った。即ち、水200mL、流動パラフィン0.4g、難燃加工剤ビゴールFV−6010を1.2g、前記実施例1、比較例1及び下記実施例及び比較例において得られたそれぞれの精練剤組成物を有効成分として0.4g含む処理液を調製し、これに試料ポリエステル繊維ニットを投入することなく、処理液を60℃から2℃/分の速度で135℃まで昇温し、135℃で30分間ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を空運転し、この後、3℃/分の速度で60℃まで冷却し、次いで、アドバンテック東洋株式会社製No.131黒色濾紙(保留粒子径3μm)を用いて、処理液を吸引濾過した。吸引濾過の後、濾紙を乾燥させて、吸引濾過後の濾紙重量を測定した。この後、吸引濾過前の濾紙重量と吸引濾過後の濾紙重量から上記式に従って凝集物の重量を求めた。
【0081】
また、実施例及び比較例においてそれぞれ得られた精練剤組成物の粘度は、B型粘度計を用いて、液温20℃と5℃において、それぞれ測定した。精練剤組成物は、その粘度が高くなると、加工時のハンドリング性が悪くなるだけでなく、染色中に添加した際の分散性も悪くなるので、精練剤組成物がポリエステル系繊維編物に対して均一に配布されなくなる虞がある。これらの観点から、本発明においては、精練剤組成物の粘度は、特に、5℃において、4000mPa・s以下であることが好ましい。
【0082】
以下に実施例及び比較例による精練剤組成物の調製を記載する。
実施例2
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、エチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Cを調製した。
【0083】
実施例3
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド15モル付加物50重量部、ジエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Dを調製した。
【0084】
実施例4
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量400のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Eを調製した。
【0085】
実施例5
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量600のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Fを調製した。
【0086】
実施例6
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量800のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Gを調製した。
【0087】
実施例7
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量1000のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Hを調製した。
【0088】
実施例8
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量1450のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Iを調製した。
【0089】
実施例9
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、エチレングリコールモノメチルエーテル10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Jを調製した。
【0090】
実施例10
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、エチレングリコールモノブチルエーテル10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Kを調製した。
【0091】
実施例11
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、ジエチレングリコールモノメチルエーテル10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Lを調製した。
【0092】
実施例12
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、エチレングリコールジメチルエーテル10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Mを調製した。
【0093】
実施例13
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物20重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール40重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Nを調製した。
【0094】
実施例14
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物40重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール20重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Oを調製した。
【0095】
実施例15
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物46重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール24重量部及び水30重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Pを調製した。
【0096】
実施例16
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物53重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール27重量部及び水20重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Qを調製した。
【0097】
実施例17
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物60重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール30重量部及び水10重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Rを調製した。
【0098】
実施例18
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物67重量部と数平均分子量200のポリエチレングリコール33重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Sを調製した。
【0099】
実施例19
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物52重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール8重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、本発明による精練剤組成物Tを調製した。
【0100】
比較例2
トリスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物硫酸エステルアンモニウム塩50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Uを調製した。
【0101】
比較例3
ステアリルアルコールエチレンオキサイド7モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Vを調製した。
【0102】
比較例4
ソルビタンモノステアレートエチレンオキサイド20モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Wを調製した。
【0103】
比較例5
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド20モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Xを調製した。
【0104】
比較例6
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド2モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Yを調製した。
【0105】
比較例7
ラウリルアルコールエチレンオキサイド13モル付加物リン酸エステルナトリウム塩50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物Zを調製した。
【0106】
比較例8
スルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩50重量部、平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物AAを調製した。
【0107】
比較例9
2−ブチルオクタノールエチレンオキサイド5モルプロピレンオキサイド9モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物ABを調製した。
【0108】
比較例10
トリベンジル化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物ACを調製した。
【0109】
比較例11
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物50重量部、数平均分子量2000のポリエチレングリコール10重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物ADを調製した。
【0110】
比較例12
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物57重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール3重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物AEを調製した。
【0111】
比較例13
ジスチレン化フェノールエチレンオキサイド13モル付加物15重量部、数平均分子量200のポリエチレングリコール45重量部及び水40重量部を混合攪拌して水溶液とし、比較例による精練剤組成物AFを調製した。
【0112】
上記実施例において得られた精練剤組成物の組成、粘度、状態及び難燃剤によるカス汚れ試験における凝集物の重量を表1及び表2に示し、上記比較例において得られた精練剤組成物の組成、粘度、状態及び難燃剤によるカス汚れ試験における凝集物の重量を表3に示す。実施例1による精練剤組成物Aと比較例1による精練剤組成物Bについては、前述した液流試験機を用いる実機試験に加えて、モデル実験による結果も、それぞれ表1及び表3に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

前述したように、本発明によれば、実施例及び比較例のいずれによる精練剤組成物においても、前記凝集物の重量が0.3g以下であれば、難燃剤によるカス汚れ、即ち、凝集物の重量が少なく、精練性能にすぐれているということができる。一方、実施例及び比較例によるいずれの精練剤組成物においても、粘度が4000mPa・s以下であれば、ハンドリング性がよいということができる。更に、状態については、精練剤組成物が5℃において固化せず、また、経日的に二層に分離せず、均一な溶液状態を維持していれば、経日的な液安定性にすぐれるということができる。
【0116】
実施例1〜19による本発明による精練剤組成物はいずれも、凝集物の重量が0.3g以下であるので、難燃剤によるカス汚れの発生も少なく、しかも、常温、低温のいずれにおいても、経日的な液安定性にすぐれており、更に、ハンドリング性にもすぐれている。
これに対して、比較例1〜4及び7〜10による精練剤組成物は、界面活性剤としてスチレン化フェノールアルキレンオキサイド以外のものを用いており、比較例1〜4、7及び8による精練剤組成物は、凝集物の重量が0.3gを越えており、難燃剤によるカス汚れの発生が多い。また、比較例3、4及び7による精練剤組成物は、5℃で固化するので、冬期のハンドリング性に問題がある。
【0117】
比較例9及び10による精練剤組成物は、凝集物の重量が0.3g以下であって、難燃剤によるカス汚れの発生は少ないものの、比較例9の精練剤組成物は液安定性が悪く、二層に分離する。精練剤組成物をこのような分離状態で用いた場合は、有効成分が均一に処理浴に配布されず、難燃剤によるカス汚れが発生しやすい。比較例10による精練剤組成物も、5℃で固化するので、冬期のハンドリング性に問題がある。
【0118】
比較例5及び6による精練剤組成物は、界面活性剤としてスチレン化フェノールエチレンオキサイドを用いたものであるが、比較例5による精練剤組成物は、スチレン化フェノールエチレンオキサイドにおけるエチレンオキサイド付加モル数が20モルであるので、凝集物の重量が0.3gを越えており、難燃剤によるカス汚れが多い。他方、比較例6による精練剤組成物は、エチレンオキサイド付加モル数が2モルであり、同様に、凝集物の重量が0.3g以上であって、難燃剤によるカス汚れが多いうえに、液安定性が悪く、経時的に二層に分離する問題がある。
【0119】
比較例11による精練剤組成物は、用いたポリエチレングリコールの数平均分子量が2000であるので、凝集物の重量が0.3g以上であって、難燃剤によるカス汚れが多い。
【0120】
比較例12による精練剤組成物は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物とオリゴエチレン誘導体の合計量におけるスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の割合が95重量%であって、凝集物の重量は0.3g以下であるものの、5℃で増粘し、粘度が5000mPa・sを超えるので、冬期のハンドリング性に問題がある。
【0121】
これに対して、比較例13による精練剤組成物は、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物とポリエチレングリコールの合計量におけるスチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の割合が25重量%であって、凝集物の重量が0.3gを越えており、難燃剤によるカス汚れが多い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と共に、
(B)(i)数平均分子量200〜1500の範囲のポリエチレングリコールと、
(ii)一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。)
で表わされるオリゴエチレン誘導体とから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物。
【請求項2】
スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイド付加モル数が5〜18である請求項1に記載の精練剤組成物。
【請求項3】
スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物と溶媒の合計量において、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物が30〜90重量%の範囲にあり、溶媒が70〜10重量%の範囲にある請求項1に記載の精練剤組成物。
【請求項4】
スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物がスチレン化フェノールエチレンオキサイド付加物である請求項1から3のいずれかに記載の精練剤組成物。
【請求項5】
水を50重量%以下の割合で含む請求項1に記載の精練剤組成物。
【請求項6】
オリゴエチレン誘導体がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル及びエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の精練剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル系繊維ニット用精練剤組成物を含む浴にポリエステル系繊維ニットを浸漬することを特徴するポリエステル系繊維ニットの精練方法。
【請求項8】
請求項7に記載の精練方法において、浴の温度を60〜100℃として、ポリエステル系繊維ニットを精練する方法。
【請求項9】
請求項7に記載の精練方法において、更に、染料を含む浴の温度を120〜140℃として、ポリエステル系繊維ニットを同浴で染色する方法。
【請求項10】
請求項7に記載の精練方法において、更に、染料と難燃剤を含む浴の温度を120〜140℃として、ポリエステル系繊維ニットを同浴で染色すると同時に難燃加工する方法。
【請求項11】
難燃剤がアニリノジフェニルホスフェートとジアニリノフェニルホスフェートから選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載の方法。


【公開番号】特開2012−102444(P2012−102444A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254327(P2010−254327)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(592092032)大京化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】