説明

ポリエステル系繊維品の難燃加工

【課題】ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品にハロゲン系難燃剤を用いることなく、すぐれた難燃性を付与することができる難燃加工剤と難燃加工方法を提供する。
【解決手段】ある種のジアリールホスホロアミデートを難燃剤として界面活性剤の存在下に分散媒、例えば、水に分散させ、又は乳化させてなるか、又はある種のジアリールホスホロアミデートを難燃剤として有機溶剤、例えば、アルコールに溶解させてなるものであるポリエステル系繊維品の難燃加工剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品の難燃加工に関し、詳しくは、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品にハロゲン系難燃剤を用いることなく、すぐれた難燃性を付与することができる難燃加工剤と、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品のそのような難燃加工剤を用いる難燃加工方法と、更には、ポリエステル系スエード調人工皮革を含めて、上記難燃加工剤又は難燃加工方法によって得られる難燃加工ポリエステル系繊維品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系繊維品に後加工によって難燃性を付与する方法が種々、知られている。例えば、難燃剤として、ハロゲン系化合物、代表的には、例えば1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカンのような臭素化シクロアルカンを難燃剤として分散剤にて水に分散させてなる難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このように、ポリエステル系繊維品にハロゲン系化合物を付着させて難燃性を付与する方法によれば、このようなポリエステル系繊維品が燃焼したとき、有害なハロゲン化ガスが発生し、これが環境に有害な影響を及ぼす等の問題がある。従って、近年においては、難燃剤として、このようなハロゲン系化合物を用いることが規制されるに至っている。
【0004】
そこで、ハロゲン原子を含まないリン化合物からなる難燃剤が近年、種々、提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、従来から、代表的には極細ポリエステル繊維からなる不織布の空隙に高分子弾性体を充填してなる基体の少なくとも一方の表面に立毛を有せしめたポリエステル系スエード調人工皮革は、その高級感によって広く衣料用途に用いられているのみならず、種々の資材用途、例えば、高級乗用車のカーシートや内張り等の車輌内装材用途のほか、椅子張り、壁材等の家具やインテリア用途、建築材用途に供されているが、これらの用途分野では、通常、非常に高い難燃性能が要求されることがある。
【0006】
しかしながら、このようなポリエステル系スエード調人工皮革は、これを構成するポリウレタン等の高分子弾性体と不織布を構成するポリエステル系繊維の難燃化機構が異なるので、ポリエステル系繊維のみで構成された繊維品と比較して、難燃化が困難であることが知られている。
【0007】
そこで、このようなポリエステル系スエード調人工皮革に難燃性を付与するための難燃剤や難燃方法がこれまでにも、種々提案されてきており、例えば、その一つの方法として、リン酸グアニジンを含む難燃剤を付与して難燃性を図る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかし、このように、リン酸グアニジンを含む難燃剤をポリエステル系スエード調人工皮革に付与する方法によれば、人工皮革にすぐれた難燃性を与えることができるものの、リン酸グアニジンが高い水溶性を有することから、立毛面が水分、例えば、水滴を吸収した後、乾燥するという過程を経ると、上記水分によってリン酸グアニジンが溶解して表面に移行し、環状の染みを形成する現象、所謂「際付き(きわつき)」を生じて、ポリエステル系スエード調人工皮革の意匠性が著しく損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭53−8840号公報
【特許文献2】特開2003−193368号公報
【特許文献3】特開2005−2512
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、従来のポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品の難燃加工における上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、ある種のジアリールホスホロアミデートを難燃剤として用いることによって、ハロゲン系難燃剤によることなく、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品にすぐれた難燃性を付与することができ、特に、ポリエステル系スエード調人工皮革の場合には、上述したような際付きが生じることを抑えて、意匠性が損なわれることのない難燃加工製品を得ることができることを見出して、本発明に至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品にすぐれた難燃性を付与することができる難燃加工剤と、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品のそのような難燃加工剤を用いる難燃加工方法と、ポリエステル系スエード調人工皮革を含めて、そのような難燃加工剤又は難燃加工方法によって得られる難燃加工ポリエステル系繊維品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、一般式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとY及びYとYがいずれも環を形成していないとき、YとYは、上記に代えて、それらがそれぞれ結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、このとき、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、Y、Y、Y及びYの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものであることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤が提供される。
【0015】
本発明によれば、好ましい態様として、一般式(II)
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデート及び一般式(III)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基をし、Rが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種のジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものであることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤が提供される。
【0020】
以下、本発明においては、特に断らない限り、ポリエステル系繊維品はポリエステル系スエード調人工皮革を含むものとし、このように、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品を広義のポリエステル系繊維品といい、詳しくは、後述するように、ポリエステル系スエード調人工皮革を含まないポリエステル系繊維品を狭義のポリエステル系繊維品ということとする。
【0021】
また、本発明によれば、上記難燃加工剤によって、ポリエステル系繊維品を難燃加工することを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法が提供される。
【0022】
更に、本発明によれば、上記難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させ、乾燥させた後、100℃〜200℃の温度で熱処理することを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法が提供され、また、上記難燃加工剤をポリエステル系繊維品に60℃〜140℃の温度で吸尽させることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法が提供される。
【0023】
以上のほか、本発明によれば、上記方法によって得られる難燃加工ポリエステル系繊維品が提供され、特に、本発明によれば、上記方法によって得られる難燃加工ポリエステル系スエード調人工皮革が提供される。
【0024】
更に、本発明によれば、上記難燃加工剤によって難燃加工してなる、難燃加工ポリエステル系スエード調人工皮革を含む難燃加工ポリエステル系繊維品が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明による難燃加工剤は、前記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデート、好ましくは、前記一般式(II)及び一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種のジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものであって、上記難燃剤がジアリールリン酸エステル骨格と共に、グアニジン骨格又はこれに類似する骨格を併せて有することから、リン酸グアニジンに類似する高い難燃性能を有しており、それでいて、上記難燃剤は水溶性が低く、従って、特に、耐水性にすぐれる高い難燃性をポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品に付与することができる。
【0026】
特に、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系スエード調人工皮革を難燃加工することによって、所謂際付きの発生を抑えて、意匠性が著しく損なわれることのない難燃加工ポリエステル系スエード調人工皮革を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において、ポリエステル系繊維品とは、前述したように、広義には、ポリエステル系スエード調人工皮革を含むポリエステル系繊維品をいい、狭義には、少なくともポリエステル繊維を含む繊維と、そのような繊維を含む糸、綿、編職布や不織布等の布帛をいい、好ましくは、ポリエステル繊維、これよりなる糸、綿、編職布や不織布等の布帛をいい、ポリエステル系スエード調人工皮革を含まない。
【0028】
上記ポリエステル系繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−スルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリオキシベンゾイル、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、D−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボンとの共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)等のポリカプロラクトン、ポリリンゴ酸、ポリヒドロキシカルボン酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、β−ヒドロキシ酪酸(3HB)−3−ヒドロキシ吉草酸(3HV)ランダム共重合体等のポリ脂肪族ヒドロキシカルボン酸、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート−アジペート共重合体等のグリコールと脂肪族ジカルボン酸とのポリエステル等を挙げることができるが、これら例示したものに限定されるものではなく、更に、難燃性化合物をポリエステルの製造時にポリエステル中に共重合させたもの、また、重合時又は製糸時に難燃性化合物をブレンドした難燃原糸であってもよい。
【0029】
本発明において、ポリエステル系スエード調人工皮革とは、単繊維繊度1デシテックス以下、好ましくは0.5デシテックス以下、最も好ましくは、0.3デシテックス以下の上記ポリエステル系繊維からなる代表的には不織布の有する空隙に高分子弾性体を充填して基体とし、この基体の少なくとも一方の表面に立毛を有せしめたものである。上記不織布には、上述したポリエステル系繊維のなかでも、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートや、これらを主成分とした共重合ポリエステルからなる合成繊維が好ましく用いられ、なかでも、染色性、染色堅牢度及び耐摩耗性にすぐれるポリエチレンテレフタレート系繊維が好ましく用いられる。
【0030】
上述したようなポリエステル系スエード調人工皮革は既によく知られており、例えば、既によく知られているように下記のようにして製造される。
【0031】
例えば、断面が海島型の複合繊維を溶剤抽出して極細ポリエステル系繊維を形成させる工程を含む方法によって、ポリエステル系スエード調人工皮革を製造する場合について説明する。先ず、上記溶剤への溶解性が大きく、島成分との相溶性が小さい適宜のポリマーを海成分とし、繊維軸方向に長く伸びるポリエステルを島成分とする複合繊維を紡糸する。
【0032】
次いで、この複合繊維を用いてスパンボンド、メルトブロー、抄紙法、カードとクロスラッパーを組み合わせた方法によって繊維ウェブを形成し、この繊維ウェブにニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等の絡合処理を施して絡合不織布を形成する。
【0033】
次に、この絡合不織布に高分子弾性体の溶液を含浸させ、高分子弾性体の非溶剤で処理して凝固させ、かくして、絡合不織布に高分子弾性体を充填して、基体を得る。この後、この基体を前記海成分の良溶剤で処理して、海成分を複合繊維から除去して、極細ポリエステル系繊維を形成させて、人工皮革基層とし、その少なくとも一方の表面を起毛処理すれば、表面に立毛を有するポリエステル系スエード調人工皮革を得ることができる。但し、ポリエステル系スエード調人工皮革の製造方法が上記例示に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0034】
上記高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ブタジエンゴム、天然ゴム、ポリ塩化ビニル等が用いられるが、ジオールとイソシアネートを適宜に選択することによって風合い等の物性を比較的自由に調整することができるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0035】
本発明に従って難燃加工された上記ポリエステル系スエード調人工皮革をを含むポリエステル系繊維品は、例えば、座席シート、シートカバー、カーテン、ロールブラインド、プリーツブラインド、壁紙、天井クロス、カーペット、緞帳、建築養生シート、テント、帆布、ブラウス、ユニフォーム等の衣服、エプロン等に好適に用いられる。
【0036】
本発明によるポリエステル系繊維品の難燃加工剤は、一般式(I)
【0037】
【化4】

【0038】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとY及びYとYがいずれも環を形成していないとき、YとYは、上記に代えて、それらがそれぞれ結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、このとき、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、Y、Y、Y及びYの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものである。
【0039】
上記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Y、Y、Y及びYの少なくとも1つが水素原子であるときは、一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートは、下に示すように、一般式(Ia)で表されるジアリールホスホロアミデートと相互に互変異性体である。
【0040】
【化5】

【0041】
従って、本発明において、上記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートは、互変異性体を有するときは、そのような互変異性体を含むものとする。
【0042】
上記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基であり、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基である。このようなアリール基として、例えば、フェニル、ナフチル及びビフェニル基を挙げることができ、なかでも、本発明においては、フェニル基が好ましい。
【0043】
これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。
【0044】
このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0045】
上記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基である。
【0046】
、Y、Y又はYがアルキル基であるとき、そのアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルキル基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル又はブチル基である。ここに、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。Y、Y、Y又はYがシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基は、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル基であるが、好ましくは、シクロヘキシル基である。
【0047】
、Y、Y又はYがフルオロアルキル基であるとき、そのフルオロアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級フルオロアルキル基であり、好ましい具体例として、例えば、トリフルオロメチル基を挙げることができる。
【0048】
、Y、Y又はYがアリール基であるとき、そのアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基であり、このようなアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル基を挙げることができ、なかでも、フェニル基が好ましい。これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0049】
、Y、Y又はYがアルコキシ基であるとき、そのアルコキシ基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルコキシ基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基である。ここに、炭素原子数3以上のアルコキシ基はそのアルキル基が直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。
【0050】
また、Y、Y、Y又はYがアリールアルキル基であるとき、そのアリールアルキル基は、好ましくは、ベンジル又はフェネチル基であり、これらのアリールアルキル基はそのアリール基上に置換基として前述したような炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を1個以上、好ましくは1〜3個の範囲で有していてもよい。
【0051】
本発明においては、上記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共には飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよい。
【0052】
とYが、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成している場合には、YとYは、それらが結合している窒素原子と共に共同して上記飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成し得る数の基=CZ12及び/又は基≡CZ3(但し、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)を構成し、上記飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環として、例えば、
【0053】
【化6】

【0054】
等を挙げることができる。上記環を形成するそれぞれの炭素原子は、上述した基=CZ12又は基≡CZ3である。従って、図示した各環構造においては、それぞれの炭素原子は、化学構造上、可能な場合には、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよい。
【0055】
3とY4が、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成している場合も、上記と全く同じである。
【0056】
従って、本発明において、YとYがそれらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成しており、Y3とY4がそれらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成しているとき、前記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートの好ましい具体例として、例えば、
【0057】
【化7】

【0058】
等を挙げることができる。
【0059】
このようなジアリールホスホロアミデートは、文献記載の方法によって得ることができる(Chem. Ber. (1958), 91, 911-918)。即ち、グアニジンに代えて、上記1及び/又は3位の窒素がそれぞれ5員環又は6員環構造を有するイミノ化合物を適当な溶媒中、塩基性条件下にジフェニルホスホロクロリデートを反応させることによって得ることができる。
【0060】
次に、前記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、YとYが環を形成しておらず、YとYも環を形成していないときは、YとYは、前記に代えて、それらがそれぞれ結合している2つの窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、このとき、YとYは前記と同じであって、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示す。
【0061】
とYが、それぞれが結合している2つの窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成している場合には、YとYは、それぞれが結合している2つの窒素原子と共同して上記飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成し得る数の基=CZ12及び/又は基≡CZ3(但し、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)を構成しており、従って、上記飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環として、例えば、下記を挙げることができる。
【0062】
【化8】

【0063】
等を挙げることができる。上記環を形成するそれぞれの炭素原子は、上述した基=CZ12又は基≡CZ3である。従って、図示した各環構造においては、それぞれの炭素原子は、化学構造上、可能な場合には、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよい。
【0064】
従って、本発明において、前記一般式(I)で表されるジアリールホスホロアミデートの好ましい具体例として、例えば、
【0065】
【化9】

【0066】
等を挙げることができる。
【0067】
このようなジアリールホスホロアミデートは、文献記載の方法によって得ることができる(Chem. Ber. (1958), 91, 911-918)。即ち、グアニジンに代えて、上記1及び3位の窒素が共同して1つの5員環又は6員環構造を有するイミノ化合物を適当な溶媒中、塩基性条件下にジフェニルホスホロクロリデートを反応させることによって得ることができる。
【0068】
なかでも、本発明において、好ましいジアリールホスホロアミデートは、前記一般式(I)において、Y、Y、Y及びYがそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基であるものである。
【0069】
即ち、本発明において、特に好ましいジアリールホスホロアミデートは、一般式(II)
【0070】
【化10】

【0071】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデート及び一般式(III)
【0072】
【化11】

【0073】
(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、Rが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種である。
【0074】
上記一般式(II)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子であるときは、一般式(II)で表されるジアリールホスホロアミデートは、下に示すように、一般式(IIa)で表されるジアリールホスホロアミデートと相互に互変異性体である。
【0075】
【化12】

【0076】
従って、本発明において、上記一般式(II)で表されるジアリールホスホロアミデートは、互変異性体を有するときは、そのような互変異性体を含むものとする。
【0077】
上記一般式(II)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基であり、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基である。このようなアリール基として、例えば、フェニル、ナフチル及びビフェニル基を挙げることができ、なかでも、本発明においては、フェニル基が好ましい。
【0078】
これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。
【0079】
このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0080】
上記一般式(II)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基である。
【0081】
、R、R又はRがアルキル基であるとき、そのアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルキル基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル又はブチル基である。ここに、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。R、R、R又はRがシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基は、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル基であるが、好ましくは、シクロヘキシル基である。
【0082】
、R、R又はRがフルオロアルキル基であるとき、そのフルオロアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級フルオロアルキル基であり、好ましい具体例として、例えば、トリフルオロメチル基を挙げることができる。
【0083】
、R、R又はRがアリール基であるとき、そのアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基であり、このようなアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル基を挙げることができ、なかでも、フェニル基が好ましい。これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0084】
、R、R又はRがアルコキシ基であるとき、そのアルコキシ基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルコキシ基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基である。ここに、炭素原子数3以上のアルコキシ基はそのアルキル基が直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。
【0085】
また、R、R、R又はRがアリールアルキル基であるとき、そのアリールアルキル基は、好ましくは、ベンジル又はフェネチル基であり、これらのアリールアルキル基はそのアリール基上に置換基として前述したような炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を1個以上、好ましくは1〜3個の範囲で有していてもよい。
【0086】
従って、本発明において、一般式(II)で表わされるジアリールホスホロアミデートの好ましい具体例として、例えば、式(2−1)
【0087】
【化13】

【0088】
で表されるグアニジノジフェニルホスフェートを挙げることができる。ここに、上記式(2−1a)と式(2−1b)は互変異性体である。
【0089】
一般式(II)で表わされるジアリールホスホロアミデートの更なる好ましい具体例として、以下を挙げることができる。但し、互変異性体が存在する場合には、そのような互変異性体の記載は省略するが、そのような互変異性体は含むものとする。
【0090】
【化14】

【0091】
【化15】

【0092】
【化16】

【0093】
【化17】

【0094】
【化18】

【0095】
【化19】

【0096】
【化20】

【0097】
【化21】

【0098】
【化22】

【0099】
【化23】

【0100】
【化24】

【0101】
【化25】

【0102】
上記例示のなかでは、例えば、グアニジノジフェニルホスフェート、1−フェニルグアジニノホスフェート、1,3−ジフェニルグアジニノホスフェート、1,1,3−トリフェニルグアジニノホスフェート、1,2,3−トリフェニルグアジニノホスフェート、1,1,3,3−テトラフェニルグアジニノホスフェート、1−o−トリルグアジニノホスフェート、1−p−メトキシフェニルグアジニノホスフェート、1,3−ジ−o−トリルグアジニノホスフェート、1,1,3,3−テトラメチルグアジニノホスフェート等が好ましく用いられる。
【0103】
このようなジアリールホスホロアミデートは、文献記載の方法によって得ることができる(Chem. Ber. (1958), 91, 911-918)。即ち、適当な溶媒中、塩基性条件下にグアニジン又はその誘導体にジフェニルホスホロクロリデートを反応させることによって得ることができる。
【0104】
前記一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Rが水素原子であるときは、一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートは、下に示すように、一般式(IIIa)で表されるジアリールホスホロアミデートと相互に互変異性体である。
【0105】
【化26】

【0106】
従って、本発明において、前記一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートは、互変異性体を有するときは、そのような互変異性体を含むものとする。
【0107】
次に、一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基であり、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基である。このようなアリール基として、例えば、フェニル、ナフチル及びビフェニル基を挙げることができ、なかでも、本発明においては、フェニル基が好ましい。
【0108】
これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0109】
上記一般式(III)で表されるジアリールホスホロアミデートにおいて、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基である。
【0110】
、R、R又はRがアルキル基であるとき、そのアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルキル基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル又はブチル基である。ここに、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。R、R、R又はRがシクロアルキル基であるとき、そのシクロアルキル基は、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル基であるが、好ましくは、シクロヘキシル基である。
【0111】
、R、R又はRがフルオロアルキル基であるとき、そのフルオロアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級フルオロアルキル基であり、好ましい具体例として、例えば、トリフルオロメチル基を挙げることができる。
【0112】
、R、R又はRがアリール基であるとき、そのアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜18のアリール基であり、このようなアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル基を挙げることができ、なかでも、フェニル基が好ましい。これらのアリール基は、炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を置換基として芳香環上に1個以上、好ましくは、1〜3の範囲で有していてもよい。このような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基を挙げることができ、また、低級アルコキシ基を有するアリール基として、例えば、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基を挙げることができる。
【0113】
、R、R又はRがアルコキシ基であるとき、そのアルコキシ基は、好ましくは、炭素原子数1〜4の低級アルコキシ基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基である。ここに、炭素原子数3以上のアルコキシ基はそのアルキル基が直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。
【0114】
また、R、R、R又はRがアリールアルキル基であるとき、そのアリールアルキル基は、好ましくは、ベンジル又はフェネチル基であり、これらのアリールアルキル基はそのアリール基上に置換基として前述したような炭素原子数1〜4の低級アルキル基及び/又は低級アルコキシ基を1個以上、好ましくは1〜3個の範囲で有していてもよい。
【0115】
従って、本発明において、一般式(III)で表わされるジアリールホスホロアミデートの好ましい具体例として、例えば、下記を挙げることができる。
【0116】
【化27】

【0117】
【化28】

【0118】
【化29】

【0119】
上記例示のなかでは、例えば、ジフェニル−2−ピリミジルアミノホスホロアミデートが好ましく用いられる。
【0120】
このようなジアリールホスホロアミデートも、前記文献記載の方法によって得ることができる。即ち、適当な溶媒中、塩基性条件下に2−アミノピリミジン又はその誘導体にジフェニルホスホロクロリデートを反応させることによって得ることができる。
【0121】
上述した種々のジフェニルホスホロクロリデートのなかでも、本発明においては、特に、1,3−ジフェニルグアニジノジフェニルホスフェート、1,1,3,3−テトラメチルグアニジノジフェニルホスフェート、グアニジノジフェニルホスフェート及びジフェニル−2−ピリミジルアミノホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0122】
本発明によるポリエステル系繊維品のための難燃加工剤は、上述したようなジアリールホスホロアミデートを難燃剤として分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものである。上記分散媒としては、通常、水が用いられるが、しかし、必要に応じて、有機溶剤も用いられる。
【0123】
上述したようなジアリールホスホロアミデートを水に分散させ、及び/又は乳化させるときには、好ましくは、界面活性剤を用いて、分散媒に分散させ、及び/又は乳化させる。上記界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤又はこれらの組み合わせが適宜に用いられ、好ましくは、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤が用いられ、特に、好ましくは、ノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤の組み合わせが用いられる。
【0124】
一方、上述したようなジアリールホスホロアミデートを有機溶剤に溶解させるには、特に助剤を用いることなく、それ自体を有機溶剤に溶解させればよい。
【0125】
本発明による難燃加工剤は、好ましくは、上述したようなジアリールホスホロアミデートを上記界面活性剤と共に水に混合し、上記ジアリールホスホロアミデートが粉体の場合には、湿式粉砕機を用いて微粒子化させることによって、また、上記ジアリールホスホロアミデートが液状の場合には、ホモミキサー等を用いて乳化させることによって得ることができる。
【0126】
上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪族エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレン型非イオン系界面活性剤や、アルキルグリコキシド、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型非イオン系界面活性剤を挙げることができる。
【0127】
一方、上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩や、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ビス(スチレン化フェニルエーテルアルキレンオキサイド付加物)コハク酸エステルスルホン化物の塩等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル塩等を挙げることができる。
【0128】
また、本発明において、ジアリールホスホロアミデートの乳化物を難燃加工剤として得る場合において、上述した界面活性剤が用いられるほか、必要に応じて、得られる乳化物を均一に保持し、また、その難燃剤の乳化性を向上させるために、有機溶剤を用いることができる。そのような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ジオキサン等のエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、メチレンクロライド、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて、2種以上組み合わせて用いてもよい。このような有機溶剤を用いる場合は、その使用量は、通常、難燃剤であるジアリールホスホロアミデートに対して、1〜20重量%の範囲が好ましい。
【0129】
このように、本発明において、難燃剤であるジアリールホスホロアミデートを水に乳化又は分散させて、本発明による難燃加工剤を得る際に、この難燃加工剤は、上記ジアリールホスホロアミデート以外にも、ポリエステル系繊維品に付与する難燃性に有害な影響を与えない範囲において、その他の難燃剤を含んでいてもよい。例えば、本発明による難燃加工剤は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、ホスファゼン系化合物等の難燃剤を含んでいてもよい。
【0130】
本発明による難燃加工剤は、難燃剤である前記ジアリールホスホロアミデートを、通常、20〜60重量%の割合で含んでいる。難燃加工剤における難燃剤の割合が余りに低いときは、難燃加工に際して、徒に多量の難燃加工剤を用いざるを得ず、難燃加工の効率が低下し、一方、難燃加工剤における難燃剤の割合が余りに高いときは、難燃加工剤が安定性に欠けるおそれがある。好ましくは、本発明による難燃加工剤は、上記難燃剤を合計にて30〜50重量%の割合で含んでいる。
【0131】
次に、本発明に従って、上述した難燃加工剤を用いる狭義のポリエステル系繊維品の難燃加工について説明する。
【0132】
本発明による難燃加工剤を用いて、狭義のポリエステル系繊維品を難燃加工し、難燃性を付与する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、パディング法、スプレー法、コーティング法、捺染法、スクリーン印刷法等によって、難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させ、100〜200℃の温度で熱処理して、難燃剤であるジアリールホスホロアミデートを繊維に固着させる方法を挙げることができる。
【0133】
より詳細には、例えば、パディング法によるときは、本発明による難燃加工剤にポリエステル系繊維品を浸漬して、所定の付着量になるようにマングル等で絞った後、例えば、100〜200℃、好ましくは、150〜190℃の範囲の温度で数秒から数分間、乾熱処理を行うのである。
【0134】
また、本発明による難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付与して、難燃加工する別の方法として、浴中処理によることができる。この方法によるときは、例えば、難燃加工剤中にポリエステル系繊維品を浸漬し、60〜140℃の温度で、好ましくは、80〜135℃の温度で、浴中処理して、ジアリールホスホロアミデートを繊維に固着させる。この方法によるときは、例えば、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等のパッケージ染色機を用いることができる。
【0135】
本発明によれば、上述した浴中処理を行う場合に、難燃加工剤と共に染料として少なくとも分散染料を含む処理浴中にポリエステル系繊維品を浸漬して、難燃加工すると同時に染色することができる。染色と同時に難燃剤の浴中処理を行う場合、所要の染料の他に、必要に応じて、均染剤、緩染剤等を添加し、pH調整剤やpH緩衝剤を用いて浴中のpHを3〜6に調整することが望ましい。
【0136】
次に、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系スエード調人工皮革を難燃加工し、難燃性を付与する方法について説明する。この場合においても、特に限定されるものではないが、例えば、パディング法、スプレー法、コーティング法、捺染法、スクリーン印刷法等によって、難燃加工剤をポリエステル系スエード調人工皮革に付着させ、100〜180℃の温度で熱処理して、ジアリールホスホロアミデートを繊維に固着させる方法を挙げることができる。
【0137】
より詳細には、例えば、パディング法によるときは、本発明による難燃加工剤にポリエステル系スエード調人工皮革を浸漬して、所定の付着量になるようにマングル等で絞った後、例えば、100〜180℃、好ましくは、100〜150℃の範囲の温度で数秒から数分間、乾熱処理を行うのである。
【0138】
また、本発明による難燃加工剤をポリエステル系スエード調人工皮革に付与して、難燃加工する別の方法として、浴中処理によることができる。この方法によるときは、例えば、難燃加工剤中にポリエステル系スエード調人工皮革を浸漬し、60〜135℃の温度で、好ましくは、80〜130℃の温度で、浴中処理して、グアニジノホスフェートを繊維に固着させる。この方法によるときは、例えば、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等のパッケージ染色機を用いることができる。
【0139】
本発明によれば、上述した浴中処理を行う場合に、難燃加工剤と共に染料として少なくとも分散染料を含む処理浴中にポリエステル系スエード調人工皮革を浸漬して、難燃加工すると同時に染色することができる。染色と同時に難燃剤の浴中処理を行う場合、所要の染料の他に、必要に応じて、均染剤、緩染剤等を添加し、pH調整剤やpH緩衝剤を用いて浴中のpHを3〜6に調整することが望ましい。
【0140】
本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系スエード調人工皮革を難燃加工する場合は、人工皮革表面の意匠性を重視して、特に、コーティング法やスクリーン印刷法によってポリエステル系スエード調人工皮革の裏面のみに難燃剤を付与してもよい。このような加工方法によるときは、難燃加工剤のみを付与してもよく、また、バインダー樹脂を共に付与してもよい。バインダー樹脂は特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂が好ましい。また、作業性向上のために、これらの成分にカルボキシメチルセルロースのような増粘剤が添加されていてもよい。
【0141】
一般に、繊維品を後加工によって難燃加工する場合、用いる難燃剤の粒子径は、その加工によって繊維品に付与される難燃性能に重要な影響を及ぼすので、難燃剤は、その粒子径が小さいほど、繊維品に高い難燃性能を付与することができる。
【0142】
本発明においても、後加工によって、難燃剤がポリエステル系繊維品の内部に十分に拡散して、難燃剤による難燃性能が発現するように、難燃剤の粒子径は、通常、0.3〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0143】
本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系スエード調人工皮革を含めて、ポリエステル系繊維品を難燃加工するに際して、難燃剤であるジアリールホスホロアミデートのポリエステル系繊維品への付着量は、厳密には、そのポリエステル系繊維品の種類にもよるが、通常、0.1〜15重量%の範囲である。
【0144】
ポリエステル系スエード調人工皮革を含め、ポリエステル系繊維品への難燃剤の付着量が0.1重量%よりも少ないときは、そのポリエステル系繊維品に十分な難燃性を付与することができず、他方、15重量%を超えるときは、難燃加工後の繊維品の染色堅牢度が低下する等の不具合を生じる。
【0145】
ポリエステル系スエード調人工皮革は、前述したように、ポリエステル系極細繊維不織布に高分子弾性体、好ましくは、ポリウレタンが充填されて、柔軟で高級感のある風合いを有している。従って、このようなスエード調人工皮革は、レギュラーポリエステル系繊維のみで構成された織編物に比較して、前述したように難燃化が困難とされている。
【0146】
即ち、ポリウレタンのような高分子弾性体とポリエステル系繊維の熱分解温度や燃焼時の熱溶融性が異なるので、ポリエステル系繊維のみで構成された繊維品と比較して複雑な燃焼挙動をとることとなり、その結果、難燃化が困難となるのである。
【0147】
一般的に、ポリエステル系スエード調人工皮革における高分子弾性体、例えば、ポリウレタンの含有率は1〜50重量%であり、高分子弾性体の含有率が高い程、難燃化が困難となる傾向にある。このようなポリエステル系スエード調人工皮革に最も効果的に難燃性を付与できるものとして、前述したように、リン酸グアニジンが知られているが、リン酸グアニジンは非常に水溶性が高いので、リン酸グアニジンを難燃剤として付与したポリエステル系スエード調人工皮革は、前述したように、際付きを生じて、意匠性が著しく損なわれる問題がある。
【0148】
本発明による難燃加工剤は、ジアリールリン酸エステル骨格とグアニジン骨格を有する前記一般式(I)又は(II)で表されるジアリールホスホロアミデートを難燃剤とするものであり、このように、グアニジン骨格を有することから、この難燃剤はリン酸グアニジンに類似する高い難燃性能を有しており、それでいて、ジアリールリン酸エステル骨格を有することから、水溶性が低く、従って、本発明による難燃加工剤を付与されて難燃加されたポリエステル系スエード調人工皮革は、際付きを生じ難く、その意匠性が著しく損なわれることがない。
【0149】
本発明による難燃加工剤は、その性能が阻害されない範囲において、必要に応じて、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の分散安定剤、難燃加工剤の難燃性を高めるための難燃助剤、耐光堅牢度を高めるための紫外線吸収剤や酸化防止剤等を含んでいてもよい。更に、必要に応じて、従来から知られている界面活性剤を含んでいてもよい。
【0150】
更に、本発明による難燃加工剤は、他の機能加工剤と併用することもできる。機能加工剤の例としては、硬仕上げ剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、風合い調整剤、SR剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0151】
以下に本発明による難燃加工剤の製造と本発明による難燃加工の実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下において、「不揮発分」とは、難燃加工剤中の難燃剤と界面活性剤と消泡剤を合わせた成分をいう。
【0152】
I.難燃加工剤の製造
以下において、融点は、示差熱−熱重量測定(TG−DTA)において,20℃/分で昇温したときに最初に出現する吸熱ピークから求めた値である。
【0153】
実施例I−1
(難燃加工剤Aの製造)
セパラブルフラスコにトルエン100mLとジフェニルグアニジン10.5g(0.05モル)を仕込み、水酸化ナトリウム10%水溶液25mLを加え、激しく攪拌した。氷冷下、ジフェニルホスホロクロリデート10.4mL(0.05モル)を少しずつ滴下した。氷冷下で2時間攪拌した後、有機層を水層から分離し、乾燥し、濃縮して、1,3−ジフェニルグアニジノジフェニルホスフェート(前記式(2−3)の化合物)20gを得た。融点48℃、分子量が443(質量スペクトル)。
【0154】
この1,3−ジフェニルグアニジノジフェニルホスフェート40重量部、界面活性剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム3.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水25重量部と混合し、これを直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、上記難燃剤の平均粒子径がレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所SALD−2000J、以下、同じ)で測定して1.0μm以下となるまで粉砕し、105℃の温度で30分乾燥させたときの不揮発分濃度が41.5%(難燃剤濃度38%)となるように水で希釈して、1,3−ジフェニルグアニジノジフェニルホスフェートを含む水分散型の難燃加工剤Aを得た。
【0155】
実施例I−2
(難燃加工剤Bの製造)
セパラブルフラスコにトルエン200mLとテトラメチルグアニジン23g(0.2モル)を仕込み、水酸化ナトリウム10%水溶液100mLを加え、激しく攪拌した。氷冷下、攪拌しつつ、ジフェニルホスホロクロリデート40.1mL(0.2モル)を少しずつ滴下した。氷冷下、2時間攪拌した後、有機層を水層から分離し、乾燥し、濃縮して、1,1,3,3−テトラメチルグアニジノジフェニルホスフェート(前記式(2−13)の化合物)69gを液体として得た。分子量347(質量スペクトル)。
【0156】
この1,1,3,3−テトラメチルグアニジノジフェニルホスフェート40重量部、界面活性剤としてソルビタンモノステアレートのエチレンオキサイド20モル付加物3.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水55重量部に乳化させて、105℃の温度で30分間乾燥させたときの不揮発分濃度が41.5%(難燃剤濃度38%)となるように水で希釈して、1,1,3,3−テトラメチルグアニジノジフェニルホスフェートを含む水乳化型の難燃加工剤Cを得た。
【0157】
実施例I−3
(難燃加工剤Cの製造)
セパラブルフラスコに水300mL、グアニジン塩酸塩60g(0.63モル)、水酸化ナトリウム48g(1.2モル)、アセトン100mLを仕込み、氷冷下、攪拌しつつ、ジフェニルホスホロクロリデート103mL(0.5モル)を少しずつ滴下した。滴下終期には沈殿が析出した。氷冷下、2時間攪拌した後、前記沈殿を濾過し、水洗し、乾燥して、グアニジノジフェニルホスフェート(前記式(2−1)の化合物)123g得た。融点112℃(文献値118℃)、分子量291(質量スペクトル)。
【0158】
このグアニジノジフェニルホスフェート40重量部、界面活性剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム3.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水25重量部と混合し、これを直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、上記難燃剤の平均粒子径がレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所SALD−2000J、以下、同じ)で測定して1.0μm以下となるまで粉砕し、105℃の温度で30分乾燥させたときの不揮発分濃度が41.5%(難燃剤濃度38%)となるように水で希釈して、グアニジノジフェニルホスフェートを含む水分散型の難燃加工剤Cを得た。
【0159】
実施例I−4
(難燃加工剤Dの製造)
セパラブルフラスコに水50mL、2−アミノピリミジン9.5g(0.1モル)、水酸化ナトリウム4.0g(0.1モル)、アセトン50mLを仕込み、氷冷下、攪拌しつつ、ジフェニルホスホロクロリデート20.7mL(0.1モル)を少しずつ滴下した。
【0160】
氷冷下、2時間攪拌した後、有機層を分離し、水層を塩化メチレンで抽出した。有機層を集めて、乾燥した後、濃縮して、ジフェニル−2−ピリミジルアミノホスホロアミデート(前記式(3−1)の化合物)22.4g得た。融点145℃、分子量327(質量スペクトル)。
【0161】
このジフェニル−N−(2−ピリミジル)ホスホロアミデート40重量部、界面活性剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム3.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水25重量部と混合し、これを直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、上記難燃剤の平均粒子径がレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所SALD−2000J、以下、同じ)で測定して1.0μm以下となるまで粉砕し、105℃の温度で30分乾燥させたときの不揮発分濃度が41.5%(難燃剤濃度38%)となるように水で希釈して、ジフェニル−N−2−ピリミジルアミノホスホロアミデートを含む水分散型の難燃加工剤Dを得た。
【0162】
実施例I−5
(難燃加工剤Eの製造)
実施例I−3で合成したグアニジノジフェニルホスフェート20重量部をメタノール80重量部に溶解させて、105℃の温度で30分乾燥させた時の不揮発分濃度が20%(難燃剤濃度20%)の難燃加工剤Eを得た。
【0163】
II.浴中処理によるポリエステル繊維布帛の難燃加工
実施例II−1
ポリエステルトロピカル(目付重量200g/m)を本発明による難燃加工剤Aを用いて、以下に示すように、浴中処理によって染色と同時に難燃加工して、難燃加工ポリエステル布帛を得た。
【0164】
(難燃加工方法)
分散染料(Dianix Rubine S−2G 150%)2.0%owfと本発明による難燃加工剤を難燃剤に換算して6.0%owf用い、浴比1:15にて試料ポリエステル布帛を染浴に投入し、染浴を氷酢酸でpH3.5〜5.0に調整した。
【0165】
染浴を60℃から毎分2℃の昇温速度で130℃まで昇温し、その温度で60分間保持した後、毎分3℃の降温速度で60℃まで冷却した。この後、無水炭酸ナトリウム1g/Lとノニオン系精練剤1g/Lを溶解させた温湯を用いて、80℃で15分間ソーピングした。次いで、60℃で10分間湯洗いした後、5分間水洗し、乾燥後、170℃で1分間熱処理を行い、染色と同時に難燃加工して、難燃加工ポリエステル繊維布帛を得た。
【0166】
実施例II−2
実施例II−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、本発明による難燃加工剤Bを用いた以外は、同様にして、難燃加工ポリエステル繊維布帛を得た。
【0167】
比較例II−1
実施例II−1において、本発明による難燃加工剤を用いない以外は、同様にして、染色のみがなされたポリエステル繊維布帛を得た。
【0168】
上記実施例II−1、II−2及び比較例II−1において得た難燃加工ポリエステル繊維布帛のそれぞれについて、下記のようにして、難燃剤の付着量、D法(コイル法)による初期の難燃性能、水洗濯及びドライクリーニング後の難燃性能を測定した。結果を表1に示す。
【0169】
(難燃剤の付着量)
上記実施例II−1、II〜2及び比較例II−1の難燃加工における難燃剤の付着量は、次のようにして求めた。即ち、一般に、難燃加工において、染色を同時に行わないとき、難燃加工前の被処理布帛の重量をW、難燃加工した処理布帛の重量をWとすれば、難燃加工前後の布帛の重量変化率ΔWが難燃剤の付着量Rである。従って、難燃剤の付着量Rは、式
R=ΔW=[(W―W)/W]×100(%)
から求められる。
【0170】
上記実施例の難燃加工においては、難燃加工と同時に染色を行ったので、難燃剤の付着量Rは、染色処理のみによる重量変化w(%)を別に求めて、下記式
R=ΔW−w(%)
から求めた。
【0171】
(難燃性能試験)
難燃性能はJIS L 1091 D法(コイル法)にて評価した。接炎回数が3回以上であれば、難燃性能にすぐれるといえる。
【0172】
(水洗濯)
JIS K 3371に従って、弱アルカリ性第1種洗剤を1g/Lの割合で用い、浴比1:40として、60±2℃で15分間水洗濯した後、40±2℃で5分間の濯ぎを3回行い、遠心脱水を2分間行い、その後60±5℃で熱風乾燥する処理を1サイクルとして、これを5サイクル行った。
【0173】
(ドライクリーニング(DC))
試料1gにつき、テトラクロロエチレン12.6mL、チャージソープ0.265g(チャージソープの重量組成はノニオン系界面活性剤(ノニルフェニルエーテルのエチレンオキサイド10モル付加物)/アニオン系界面活性剤(ジオクチルコハク酸ナトリウム塩)/水=10/10/1)を用いて、30±2℃で15分間クリーニングする処理を1サイクルとして、これを5サイクル行った。
【0174】
【表1】

【0175】
実施例II−1及びII−2に示すように、本発明による難燃加工剤を用いてポリエステル繊維布帛を難燃加工することによって、そのポリエステル布帛に耐久性のあるすぐれた難燃性を付与することができる。
【0176】
III.パディング処理によるポリエステル繊維布帛の難燃加工
実施例III−1
ポリエステルトロピカル(目付重量200g/m)を以下に示すように、浴中処理によって染色加工した後、本発明による難燃加工剤Aを用いて、パディング処理にて難燃加工して、難燃加工ポリエステル布帛を得た。
【0177】
(ポリエステル繊維布帛の染色加工)
分散染料(Dianix Rubine S−2G 150%)2.0%owf、本発明による難燃加工剤は添加せず、浴比1:15にて試料ポリエステル布帛を染浴に投入し、染浴を氷酢酸でpH3.5〜5.0に調整した。
【0178】
染浴を60℃から毎分2℃の昇温速度で130℃まで昇温し、その温度で60分間保持した後、毎分3℃の降温速度で60℃まで冷却した。この後、無水炭酸ナトリウム1g/L、ノニオン系精練剤1g/Lを溶解させた温湯を用いて、80℃で15分間ソーピングした。次いで、60℃で10分間湯洗いした後、5分間水洗し、乾燥し、170℃で1分間熱処理を行い、被染色布帛とした。
【0179】
(被染色布帛の難燃加工)
本発明による難燃加工剤Aを水で希釈して150g/Lになるよう調製し、これを用いて上記被染色布帛をパディング処理し、100℃で3分間乾燥し、180℃で1分間熱処理し、80℃の温水で洗浄、乾燥後、180℃で1分間熱処理して、難燃加工ポリエステル繊維布帛を得た。
【0180】
実施例III−2
実施例III−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、本発明による難燃加工剤Bを用いた以外は、同様にして、難燃加工ポリエステル繊維布帛を得た。
【0181】
比較例III−1
実施例III−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、リン酸グアニジン水溶液(リン酸:グアニジンのモル比=1:1.2 濃度38.5%)を水で希釈して150g/Lになるよう調製し、これを用いて上記被染色布帛をパディング処理し、100℃で3分間乾燥し、180℃で1分間熱処理した。
【0182】
上記実施例III−1、III−2及び比較例III−1において得た難燃加工ポリエステル繊維布帛のそれぞれについて、下記のようにして難燃剤の付着量を求めた。また、実施例IIと同様にして、D法(コイル法)にて初期の難燃性能、水洗濯及びドライクリーニング後の難燃性能を測定した。結果を表2に示す。
【0183】
(難燃剤の付着量)
難燃加工前の被染色布帛の重量をW、難燃加工した処理布帛の重量をWとし、難燃加工前後の布帛の重量変化ΔWを難燃剤の付着量Rとした。従って、難燃剤の付着量Rは、式
R=ΔW=[(W―W)/W]×100(%)
から求めた。
【0184】
【表2】

【0185】
実施例III−1及びIII−2に示すように、本発明による難燃加工剤を用いてポリエステル繊維布帛を難燃加工することによって、そのポリエステル布帛に耐久性のあるすぐれた難燃性を付与することができる。
【0186】
しかし、比較例III−1に示すように、難燃加工剤としてリン酸グアニジン水溶液を用いた場合は、リン酸グアニジンが水溶性であるため、水洗濯に対して耐久性のある難燃性を付与することができない。
【0187】
IV.スエード調人工皮革の難燃加工
実施例IV−1
目付400g/mのポリエステル基布スエード調人工皮革の裏面に、カルボキシメチルセルロース(糊剤)で増粘させた難燃加工剤Aをロータリースクリーン法で塗布した後、温度110℃で10分間乾燥して難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0188】
実施例IV−2
実施例IV−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、本発明による難燃加工剤Bを用いた以外は、同様にして、難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0189】
実施例IV−3
実施例IV−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、本発明による難燃加工剤Cを用いた以外は、同様にして、難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0190】
実施例IV−4
実施例IV−1において、本発明による難燃加工剤Aに代えて、本発明による難燃加工剤Dを用いた以外は、同様にして、難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0191】
実施例IV−5
目付400g/mのポリエステル基布スエード調人工皮革の裏面に、難燃加工剤Eをスプレー法で塗布した後、温度110℃で10分間乾燥して難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0192】
比較例IV−1
目付400g/mのポリエステル基布スエード調人工皮革に、リン酸グアニジン水溶液(リン酸:グアニジンのモル比=1:1.2 濃度38.5%)を水で希釈してパディング法にて付与した後、温度110℃で10分間乾燥して難燃性スエード調人工皮革を得た。
【0193】
上記実施例IV−1〜IV−5及び比較例IV−1において得た難燃加工ポリエステル系スエード調人工皮革のそれぞれについて、下記のようにして、難燃剤の付着量、難燃性能、際付き性を測定した。結果を表3に示す。
【0194】
(難燃剤の付着量)
難燃加工前の被処理布帛の重量をW、難燃加工した処理布帛の重量をWとし、難燃加工前後の布帛の重量変化ΔWを難燃剤の付着量Rとした。従って、難燃剤の付着量Rは、式
R=ΔW=[(W―W)/W]×100(%)
から求めた。
【0195】
(難燃性能試験)
難燃性能は、FMVSS.No.302の自動車内装材燃焼試験規格により、水平燃焼速度を測定した。炎が燃焼速度測定開始の標線を越えずに自己消火した場合と、標線を越えた後の燃焼速度が80mm/分以内のときを○とし、これらの条件に満たないときを×とした。
【0196】
(際付き試験)
ウレタンフォームの上に人工皮革の試料を置き、表面に水5ccを載せてそのまま放置し、風乾して、表面における環状の染みの生成の有無とその程度を観察した。際付きの目立たないものを○とし、際付きの目立つものを×とした。
【0197】
【表3】

【0198】
実施例IV−1〜IV−5に示すように、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系スエード調人工皮革を難燃加工することによって、際付きの目立たない難燃性にすぐれたポリエステル系スエード調人工皮革を得ることができる。
【0199】
しかし、比較例IV−1に示すように、難燃剤としてリン酸グアニジンを用いると、難燃性にすぐれたポリエステル系スエード調人工皮革は得られるものの、際付きが目立ちやすく、意匠性が損なわれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、Y、Y、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとYは、上記に代えて、それらが結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、また、YとY及びYとYがいずれも環を形成していないとき、YとYは、上記に代えて、それらがそれぞれ結合している窒素原子と共に飽和又は不飽和の5員環又は6員環の環を形成していてもよく、このとき、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、Y、Y、Y及びYの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものであることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
【請求項2】
一般式(II)
【化2】

(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基を示し、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデート及び一般式(III)
【化3】

(式中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリル基又はアリールアルキル基をし、Rが水素原子であるときは、互変異性体を含む。)
で表されるジアリールホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種のジアリールホスホロアミデートを分散媒に溶解又は分散させ、及び/又は乳化させてなるものであることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
【請求項3】
ジアリールホスホロアミデートをノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤又はこれらの組み合わせの存在下に水に分散させ、及び/又は乳化させてなる請求項1又は2に記載のポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
【請求項4】
ジアリールホスホロアミデートを有機溶剤に溶解させてなる請求項1又は2に記載のポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
【請求項5】
ジアリールホスホロアミデートが1,3−ジフェニルグアニジノジフェニルホスフェート、1,1,3,3−テトラメチルグアニジノジフェニルホスフェート、グアニジノジフェニルホスフェート及びジフェニル−2−ピリミジルアミノホスホロアミデートから選ばれる少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載のポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の難燃加工剤によって、ポリエステル系繊維品を難燃加工することを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させ、乾燥させた後、100℃〜200℃の温度で熱処理することを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の難燃加工剤をポリエステル系繊維品に60℃〜140℃の温度で吸尽させることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の難燃加工剤によって難燃加工してなることを特徴とする難燃加工ポリエステル系繊維品。
【請求項10】
請求項6から8のいずれかに記載の方法によって得られる難燃加工ポリエステル系繊維品。
【請求項11】
請求項6から8のいずれかに記載の方法によって得られる難燃加工ポリエステル系スエード調人工皮革。



【公開番号】特開2012−229508(P2012−229508A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98309(P2011−98309)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(592092032)大京化学株式会社 (19)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】