説明

ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】
ポリエステル組成物中の金属化合物の含有量を極めて少なくすることにより、環境に対して負荷が少なく、また金属化合物由来の異物の発生を抑制したポリエステル組成物を提供すること。
【解決手段】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体からなるポリエステル組成物であり、重合触媒由来の金属元素の含有量が10質量ppm未満であり、かつ、重合触媒が水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、臭素のいずれか1種類以上の元素を含有するポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物を含有しないポリエステル組成物に関するものである。更に詳しくは、重合触媒として金属化合物を使用せず、金属化合物に由来する異物の発生がないため、従来品に比べて異物の発生量が非常に少ないポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、資材用、医療用に用いられている。その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
一般にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるが、高分子量のポリマーを製造する商業的なプロセスでは、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などが広く用いられている。
【0004】
しかしながら、これらの金属化合物を重合触媒として用いると、ポリマーの中に金属化合物が含まれているために、製造工程での排水、例えばポリマーを繊維用途で用いる時に発生する染色廃液などの中には金属原子が含有されるため、環境への悪影響が懸念される。また、金属化合物がポリマー中に含有していると、金属化合物由来の異物が発生する。例えば、近年ポリエステル組成物を溶融紡糸する工程は、6000m/分以上の紡糸速度で生産されるような高速紡糸化が進んできているが、従来の金属化合物を含有しているポリエステル組成物では、金属化合物由来の異物によって糸切れが発生し操業性を悪化させる原因となる。
【0005】
かかる問題に対して、環境に負荷の少ない重合触媒を用いる検討が広くなされている。例えば、特許文献1ではアンチモン化合物、コバルト化合物、マンガン化合物などに代わり、ケイ素化合物などを重合触媒として用いるポリエステル組成物について開示されている。また、特許文献2には、リチウム化合物やマグネシウム化合物と芳香環化合物と組み合わせた化合物を重合触媒として用いたポリエステル組成物について開示されている。また、特許文献3には、重金属を含有しないポリエステル組成物について開示されている。しかしながら、これらの方法では触媒活性が十分でないため、汎用品への展開は困難である。また金属化合物を含有しているために、金属化合物由来の異物の発生を抑えることはできず、また排水中に金属化合物が漏出することは避けられない。
【0006】
そこで、本発明では上記課題を解決のため鋭意検討した結果、重合触媒由来の金属元素の含有量が10質量ppm未満であり、かつ、重合触媒が水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄のいずれか1種類以上の元素を含有するポリエステル組成物により本発明の目的を達成できるという知見を得た。
【特許文献1】特開2004−339390号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−98418号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2003−292598号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記従来の問題を解消、ポリエステル組成物中の金属化合物の含有量を極めて少なくすることにより、環境に対して負荷が少なく、また金属化合物由来の異物の発生を抑制したポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体からなるポリエステル組成物であり、金属元素の含有量が0〜10質量ppmであり、かつ、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄のいずれか1種類以上の元素を含有するポリエステル組成物により達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体からなるポリエステル組成物であり、重合触媒由来の金属元素の含有量が10質量ppm未満であり、かつ、重合触媒が水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄のいずれか1種類以上の元素を含有するポリエステル組成物は、従来の製造方法で得られたポリエステルに比べて金属化合物由来の異物の発生量を飛躍的に少なくすることができる。このポリエステル組成物は、繊維用、フィルム用、ボトル用等の成形体の製造工程における、異物によるフィルター詰まり、成形不良等の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させ低重合体を得た後、重合触媒を添加し、減圧条件下で重合を行いポリエステルを得るものである。このような方法により得られるポリエステルとして、具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体において好適である。
【0011】
本発明のポリエステル組成物は、重合触媒として金属化合物を実質的に含有しない化合物を用いることが必須である。金属化合物を実質的に含有しないとは、ポリエステル組成物中の金属元素の含有量が10質量ppm未満であることを表す。ポリエステル組成物中に金属化合物を含有させないことにより、金属化合物由来の異物の発生を抑制することができ、また環境への負荷を抑えたポリエステル組成物を得ることができる。
【0012】
本発明でいう金属化合物とは、金属元素を含有する化合物のことを表し、金属元素とは全元素の中で非金属元素以外の元素のことを表す。本発明でいう非金属元素は、水素、ヘリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン、砒素、セレン、臭素、クリプトン、テルル、ヨウ素、キセノン、アスタチン、ラドンを表す。その中でも、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、臭素からなる有機化合物を重合触媒として用いると、ポリエステル組成物中の異物の発生が抑えられるため好ましい。中でも、有機窒素化合物、有機ホウ素化合物、有機スルホン酸化合物が好ましく用いられる。これらの重合触媒は単独、あるいは併用しても良い。中でも有機スルホン酸化合物を重合触媒として用いると、重合活性も高く、色調が良好であるため好ましい。これらの重合触媒は、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol添加することが好ましい。より好ましくは得られるポリエステル組成物1kgに対して0.1mmol〜10mmolの範囲である。
【0013】
上記重合触媒として用いる有機スルホン酸化合物としては、スルホン酸およびベンゼンスルホン酸誘導体、ナフタレンスルホン酸誘導体が挙げられ、具体的なスルホン酸の誘導体としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸、などが好ましく挙げられる。中でも、p−トルエンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸が重合活性が高く特に好ましい。上記有機スルホン酸化合物の種類によっては結晶水を有するものもあり、この場合、触媒を添加する際に、予め触媒が有する結晶水を除去してから触媒添加する方が、反応の進行を阻害しないので好ましい。
【0014】
上記重合触媒として用いる有機ホウ素化合物としては、ホウ酸およびホウ酸の誘導体が挙げられ、具体的なホウ酸の誘導体としては、ホウ酸モノフェニル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ−o−トリル、ホウ酸トリ−n−ブチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリ−n−ヘキシル、ホウ酸トリ−n−デシル、ホウ酸トリ−n−テトラデシル、ホウ酸トリ−n−ヘキサデシルおよびホウ酸トリ−n−オクタデシルなどが好ましく挙げられる。中でも、ホウ酸、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ−o−トリルが重合活性が高いため好ましい。
【0015】
上記重合触媒として用いる有機窒素化合物としては、第3級アミン化合物が挙げられ、具体的な化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどが好ましく挙げられる。中でも、式3で表される1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
上記重合触媒のほかに、ポリエステル組成物の耐熱性・色調を向上させる目的で、少量のリン化合物を触媒とともに含有しても良い。ここで添加するリン化合物は、特に制限は無く、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物、ホスフェイト系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系の中から選ばれる。本発明のポリエステル組成物は、リン化合物の中でも式1または式2で表されるリン化合物を少なくとも1種含有することが好ましい。本発明でいう含有とは、ポリエステル組成物の製造過程で添加されることを含む。式1で表されるリン化合物は、発生する過酸化物(R-O-OH:副反応をさらに促進する)をアルコール(R-OH)に変換し、自らは5価のリン化合物に変わることでポリエステルの副反応を抑制し、式2で表されるリン化合物は、副反応で生成した熱分解物を還元したりする。
【0018】
【化2】

【0019】
(式1、式2中のR〜Rは炭素数が1〜20のアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
式1で表されるリン化合物としては、具体的にはフェニル亜ホスホン酸ジエチル、フェニル亜ホスホン酸ジイソプロピルなどがあるが、中でも下記式4で表されるリン化合物を用いると、リン化合物の耐熱性や耐加水分解性が高いため、ポリエステルの重合において好ましく使用される。式4で表されるリン化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト(大崎工業化学株式会社製GSY−P101として入手可能)、式5で表されるテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル){1,1−ビフェニル}−4,4’−ジイルビスホスホナイト(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製P−EPQとして入手可能)が挙げられる。
【0020】
【化3】

【0021】
(R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
また、式2で表されるリン化合物としては、具体的にはメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジエチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル、ベンジルホスホン酸ジメチルエステル、ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、ベンジルホスホン酸ジフェニルエステル、リチウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ナトリウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、マグネシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、カルシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸メチル、ジエチルホスホノ酢酸エチルなどが挙げられるが、中でも下記式5で表されるリン化合物を用いると、リン化合物の耐熱性や耐加水分解性が高いため、ポリエステルの重合において好ましく使用される。式5で表されるリン化合物としては、テトラエチルビフェニル−4,4’−ジイルジホスホネート、テトラドデシルビフェニル−4,4’−ジイルジホスホネート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル){1,1−ビフェニル}−4,4’−ジイルビスホスホネート(城北化学社製)などが挙げられる。
【0022】
【化4】

【0023】
(R〜R10は、それぞれ独立に、水酸基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
上記リン化合物は、重量平均分子量が100〜2000の範囲であることが好ましい。リン化合物の分子量が上記範囲内であると、減圧条件下での添加におけるリン化合物の飛散が少なく、また、リン化合物のポリエステル中への溶融が早く均一に分散されるためにリン由来の凝集異物の発生が抑えられる。重量平均分子量は、好ましくは150〜1500、さらに好ましくは200〜1200である。
【0024】
通常ポリエステル組成物は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体に、重合触媒の添加を行った後、反応器内を減圧にして重合反応を進行させることにより製造される。ポリエステル組成物は、用途・目的によって様々な重合度が求められるため、所望の重合度に到達した時点で反応器内を常圧または加圧にして重合反応を停止し、反応器外に吐出する。本発明のポリエステル組成物は、この反応器内を減圧にして重合反応を開始させてからポリエステル組成物が目標とする重合度に到達するまでの間に式1または式2で表されるリン化合物を添加することが好ましい。
【0025】
リン化合物を添加する時期は、反応器内を減圧にして重合反応を開始させてから重合が実質的に完了するまでの間が好ましく、ポリエステル組成物の固有粘度が目的とする固有粘度の40〜99%の時期に添加すると、重合触媒の失活が極めて少ないまま副反応を抑制できるために好ましい。好ましくは50〜98%の間であり、特に好ましくは、75〜98%の間である。リン化合物を添加する時期におけるポリエステル組成物の固有粘度は、直接サンプリングを行い後述する方法で粘度測定を行って算出しても良いが、反応器の攪拌翼にかかるトルク負荷から算出しても良い。
【0026】
リン化合物は、数回に分割して添加してもよく、フィーダーなどで継続的に添加を行っても良い。リン化合物を添加する場合、リン化合物を単独で添加してもよく、エチレングリコール等のジオール成分に溶解させた状態または分散させて添加してもよく、また高濃度にリンを含有したマスターペレットを添加してもよい。ただし、エチレングリコール等のジオール成分を多量に持ち込んで添加を行うと、ポリエステルの解重合(ポリエステル主鎖の切断反応)が進行してしまうため、リン化合物を単独で添加することが好ましい。
【0027】
リン化合物は、重合系に溶解又は溶融可能であり、かつ本発明で得られる重合体と実質的に同一成分の重合体から成る容器に充填して添加することが好ましい。上記のような容器にリン化合物を入れて添加を行うと、減圧条件下での重合反応器に添加を行うことで、リン化合物が飛散して、減圧ラインにリン化合物が流出するのを防止することができるとともに、リン化合物をポリマー中に所望量添加することができる。本発明でいう容器とは、リン化合物がまとめられるものであればよく、例えば、ふたや栓を有する射出成形容器、あるいはシートやフィルムをシールあるいは縫製などで袋状にしたものなどが含まれる。上記の容器は、空気抜きを作ることがさらに好ましい。空気抜きを作った容器にリン化合物を入れて添加すると、真空条件下で重合反応器に添加しても、空気膨張により容器が破裂してリン化合物が減圧ラインに流出したり、重合反応器の上部や壁面に付着することがなく、ポリマー中にリン化合物を所望量添加することができる。この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄いほうがよいが、リン化合物の封入・添加作業の際に破裂しない程度の厚さを確保する。そのためには10〜500μm厚さで均一で偏肉のないものが好ましい。
【0028】
また、上記リン化合物は、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol添加することが好ましい。特に、得られるポリエステル組成物を反応器内を減圧にして重合反応を開始させてからポリエステルが目標とする重合度に到達するまでの間に添加するリン化合物が、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol添加すると、ポリエステルの耐熱性を向上できるため好ましい。上記範囲より添加量が少ないと所望の目的効果を発揮するに至らず、上記範囲より添加量が多いと重合触媒が失活して重合反応が遅延したり、目標の重合度まで反応が進行しないといった問題が発生する。より好ましくは得られるポリエステル組成物1kgに対して0.5mmol〜10mmolである。
【0029】
本発明のポリエステル組成物は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を含有していても良い。本発明でいうフェノール系酸化防止剤とは、フェノール構造を有したラジカル連鎖反応禁止剤であって、具体的には2,6−t−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジーt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ{5,5}ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル、トコフェロールなどが挙げられる。添加量は特に限定されないが、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol、好ましくは0.5mmol〜10mmolの範囲である。また、本発明でいう硫黄系酸化防止剤とは、過酸化物をラジカルを発生しない形で還元し、自身が酸化される硫黄系酸化防止剤であって、具体的には、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネートなどが挙げられる。添加量は特に限定されないが、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol、好ましくは0.5mmol〜10mmolの範囲である。これらフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
【0030】
本発明のポリエステル組成物は、色調調整剤として青系調整剤および/または赤系調整剤を添加してもよい。本発明の色調調整剤とは樹脂等に用いられる染料のことであり、COLOR INDEX GENERIC NAMEで具体的にあげると、SOLVENT BLUE 104,SOLVENT BLUE 122,SOLVENT BLUE 45等の青系の色調調整剤、SOLVENT RED 111,SOLVENT RED 179,SOLVENT RED 195,SOLVENT RED 135,PIGMENT RED 263,VAT RED 41等の赤系の色調調整剤,DESPERSE VIOLET 26,SOLVENT VIOLET 13,SOLVENT VIOLET 37,SOLVENT VIOLET 49等の紫系色調調整剤があげられる。なかでも装置腐食の要因となりやすいハロゲンを含有せず、高温での耐熱性が比較的良好で発色性に優れた、SOLVENT BLUE 104,SOLVENT BLUE 45,SOLVENT RED 179,SOLVENT RED 195,SOLVENT RED 135,SOLVENT VIOLET 49が好ましく用いられる。
【0031】
また、これらの色調調整剤を目的に応じて、1種類または複数種類用いることができる。特に青系調整剤と赤系調整剤をそれぞれ1種類以上用いると色調を細かく制御できるため好ましい。さらにこの場合には、添加する色調調整剤の総量に対して青系調整剤の比率が50重量%以上であると得られるポリエステルの色調が特に良好となり好ましい。最終的にポリエステルに対する色調調整剤の含有量は総量で30ppm以下であると得られるポリマーの発色が良好となり好ましい。
【0032】
本発明のポリエステル組成物は、後述する測定方法によって求められる固有粘度が、0.5〜0.75dlg−1の範囲であることが、溶融成形加工をする上で好ましい。より好ましくは、0.55〜0.7dlg−1の範囲である。
【0033】
本発明のポリエステル組成物は、チップ形状での色調がハンター値でそれぞれL値が50〜90、a値が−5〜5、b値が0〜8の範囲にあることが、繊維やフィルムなどの成形品の色調の点から好ましい。さらに好ましいのは、L値が60〜80、a値が−3〜4、b値が0〜6の範囲である。
【0034】
本発明のポリエステル組成物は、後述する測定方法により、等価円直径として0.8μm以上である異物の個数がポリエステル0.02mg当たり100個未満であることが、繊維用、フィルム用、ボトル用等の成形体の製造工程における、異物によるフィルター詰まり、成形不良等を抑制するため好ましい。より好ましくは、0.02mg当たり50個未満である。
【0035】
以下に本発明のポリエステル組成物の製造方法を説明する。具体例としてポリエチレンテレフタレートの例を記載するがこれに限定されるものではない。
【0036】
ポリエチレンテレフタレートは通常、次のいずれかのプロセスで製造される。
【0037】
すなわち、(A)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(B)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応は進行するが、エステル交換反応においては、前述した有機化合物を重合触媒として用いて進行させる。
【0038】
本発明のポリエステル組成物は、(A)または(B)の一連の反応の任意の段階、好ましくは(A)または(B)の一連の反応の前半で得られた低重合体に、重合触媒として前述の有機化合物を添加した後、反応器内を減圧にして重合反応を開始して、目的のポリエチレンテレフタレートを得るというものである。この反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の形式に適応し得る。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
(1)ポリマーの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)ポリマーのカルボキシル末端基
オルソクレゾールを溶媒として、25℃で0.02規定のNaOH水溶液を用いて、自動滴定装置(平沼産業社製、COM−550)にて滴定して測定した。
(3)ポリマーの色調
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L、a、b値)として測定した。
(4)金属成分分析
ポリエステル組成物サンプルを硫酸アンモニウム、硫酸、硝酸、過塩素酸とともに混合して約300℃で9時間湿式分解後、蒸留水で希釈し、ICP発光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、SPS1700)を用いて定性分析し、金属元素の有無を確認した。1質量ppm以上の存在が確認された金属元素について、その元素含有量を示した。
(5)ポリエステル中の粗大異物の数(異物粒子の個数密度)
測定にはハイビジョン画像解析装置を適用し、測定装置として、ハイビジョンパーソナル画像解析システム(株)ピアス製PIAS−IV、光学顕微鏡としてLeitz社製Metaloplanを使用した。
【0040】
(A)プレパラート作製
ポリエステルチップを希塩酸で洗浄し、その後、精製水で洗浄した後、スライドグラスの上に試料0.2mgを乗せ、280℃にて溶融した後、挟み込むようにカバーグラスをその上に置く。試料はスライドガラスとカバーグラス間で引き延ばされた状態になり、この後カバーガラスをスライドさせながら相互に剥離した。このようにしてカバーガラス上にポリマー薄膜が形成されたプレパラートを作成した。プレパラート上のポリマー薄膜には鋭利なカミソリにて10行×10列の切れ込みを入れ、合計100個の升目を作成した。
【0041】
(B)調整法および測定条件
光学顕微鏡の対物レンズを32倍に設定して、暗視野法で検鏡し、画像解析装置のハイビジョンモニターにその画像を取り込む。このとき、対物レンズが高倍率であり焦点深度が小さくなるため、上側の面にピントを合わせると上側の表層約1μm程度の部分を観察することになる。
【0042】
また、このとき、モニター上での観察倍率は1,560倍となる。画像を入力する場合は白黒画像で、入力した画像は二値化を行って輝度変換する。このときの濃度レベルを表す輝度値は160に設定する。設定前は、あらかじめブランク値として試料をセットしない条件で測定したときの輝度平均値が183になるように、光学顕微鏡の絞り等の明るさを調節する。
【0043】
(C)測定
二値化して得られた画素の等価円の直径を粒子径とし、0.8μm以上の粒子個数をカウントし、その粒子位置を升目から読みとった。
【0044】
プレパラートは、ポリマー薄膜部のプラズマ灰化処理を施した後にカーボン蒸着をおこない、光学顕微鏡で0.8μm以上とカウントされた粒子を異物粒子とした。また、この異物粒子の存在する升目をSEM−XMAにて観察し、異物粒子に含有される元素を確認した。このようにして0.8μm以上の粒子個数をポリマー0.02mg当たりに換算した数値を異物粒子個数密度とした。
(容器の作成)
<容器1>
ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形により厚さ0.2mm、内容積500cmの容器およびそのふたを成形し、空気抜きを設けた。容器およびふたを合わせた重量は30gであった。
<容器2>
厚さ0.07mmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、縫製糸としてポリエチレンテレフタレート繊維を用いて縫製し、空気抜きを有した内容積500cmの袋を作成した。フィルム、糸を含んだ容器の重さは10gであった。
【0045】
実施例1
予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に高純度テレフタル酸(三井化学社製)82.5kgとエチレングリコール(日本触媒社製)35.4kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物101.5kgを重合槽に移送した。
【0046】
エステル化反応生成物に、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.5mmolのテトラキス(2,4−ジーt−ブチル−5−メチルフェニル){1.1−ビフェニル}−4,4’−ジイルビスホスホナイト(大崎工業社製)を添加した。その5分後に、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.5mmolのm−ニトロベンゼンスルホン酸を添加し、さらに5分後に、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を、250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクの85%となった時点(減圧を開始してから2時間45分の時点)で、反応缶上部より得られるポリエステル組成物1kgに対して2.0mmolのテトラキス(2,4−ジーt−ブチル−5−メチルフェニル){1.1−ビフェニル}−4,4’−ジイルビスホスホナイトを、容器1に詰めた後添加した。その後反応を継続し、所定の攪拌トルク(目標とする重合度をIV=0.60とした)に到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間10分であった。
【0047】
得られたポリマーは表1に示すように、金属元素を含有しておらず、色調に優れ異物の少ないものであった。
【0048】
実施例2〜7
リン化合物の添加量、添加する時期を変更した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例4、5では、重合時間が遅延したが、得られたポリマーは色調が良好であった。また、実施例2、6では、わずかに色調が黄色味を帯びていたが、品質にはまったく問題のない程度であった。また全ての水準において、異物の少ないポリエステルが得られた。
【0049】
実施例8〜13
リン化合物の添加種を変更した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例8、11では、わずかに色調が黄色味を帯びていたが、品質にはまったく問題のない程度であった。また全ての水準において、異物の少ないポリエステルが得られた。
【0050】
実施例14,15
実施例15では容器2にリン化合物を詰め、実施例16ではリン化合物を容器に詰めずに添加物投入ラインから直接添加を行った以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例16は、わずかに色調が黄色味を帯びていたが、品質にはまったく問題のない程度であった。また全ての水準において、異物の少ないポリエステルが得られた。
【0051】
実施例16、17
減圧開始後に添加するリン化合物とともにフェノール系酸化剤または硫黄系酸化剤を添加した以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。具体的には、実施例16ではフェノール系酸化防止剤として、得られるポリエステル組成物1kgに対して5.0mmolの2,6−t−ブチル−p−クレゾール(和光純薬社製、分子量220)を添加した。実施例17では硫黄系酸化防止剤として、得られるポリエステル組成物1kgに対して5.0mmolのジラウリル3,3’−チオジプロピオネート(和光純薬社製、分子量515)を添加した。得られたポリマーは、色調に優れ、異物の少ないものであった。
【0052】
実施例18〜21
重合触媒の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例18、20では、わずかに重合時間が遅延した。また、実施例19,21では、わずかに色調が黄色味を帯びていたが、品質にはまったく問題のない程度であった。また全ての水準において、異物の少ないポリエステルが得られた。
【0053】
実施例22、23
目標重合度を変更した以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例23、は、重合時間が遅延し、また、わずかに色調が黄色味を帯びていたが、品質には問題のない程度であった。実施例23では、わずかに異物が含まれていたが、品質には問題のない程度であった。
【0054】
実施例24〜30
重合触媒の添加種を変更した以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。実施例27、28、29、30では、重合時間が遅延した。また、実施例27、28、29では、色調が黄色味を帯びていたが、品質には問題のない程度であった。また実施例27、28、29、30では、わずかに異物が含まれていたが、品質には問題のない程度であった。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例1〜11
重合触媒の添加種を変更した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。表2に示すとおり、比較例では異物が多く発生した。また、比較例10、11では、重合活性が不十分であり、目標の重合度まで重合が進行しなかった。また、比較例3、4、5、6、8、9では、着色が著しいポリエステルとなった。
【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体からなるポリエステル組成物で、重合触媒由来の金属元素の含有量が10質量ppm未満であり、かつ、重合触媒が水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、臭素のいずれか1種類以上の元素を含有するポリエステル組成物。
【請求項2】
窒素元素が有機窒素化合物を由来として含有する請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
ホウ素元素として有機ホウ素化合物を由来として含有する請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
硫黄元素として有機スルホン酸化合物を由来として含有する請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
式1または式2で表されるリン化合物を少なくとも1種含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【化1】

(式1、式2中のR〜Rは炭素数が1〜20のアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
等価円直径が0.8μm以上である異物の個数密度が100個/0.02mg未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を、重合触媒として有機窒素化合物、有機ホウ素化合物、有機スルホン酸化合物のいずれか1種以上の存在下で重合反応して得られるポリエステル組成物を製造する方法において、重合反応器内の減圧を開始してからポリエステルが目標とする重合度に到達するまでの間に式1または式2で表されるリン化合物を、得られるポリエステル組成物1kgに対して0.01mmol〜50mmol添加することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【化2】

(式1、式2中のR〜Rは炭素数が1〜20のアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)

【公開番号】特開2009−179740(P2009−179740A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20973(P2008−20973)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】