説明

ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】ポリエステルの基本的性質を有し、かつ熱安定性および光反応性に優れたポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステルに桂皮酸誘導体が結合してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、熱安定性および光反応性に優れたポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。この生分解性ポリマーとして、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸等が知られている。そして、これらの生分解性ポリマーは、溶融成形が可能であり、汎用性ポリマーとしても期待されている。
【0003】
これらの中で、ポリ乳酸は、原料である乳酸あるいはラクチドを、トウモロコシ、サツマイモ、コメ等の植物資源・天然物であるブドウ糖から製造することが可能であり、単なる汎用性ポリマーとしてではなく、地球環境に配慮した汎用性ポリマーとしての利用も検討されつつある。ポリ乳酸のような生分解性ポリマーは、透明性を有し、強靭であるが、水の存在下では容易に加水分解され、さらに廃棄後には環境を汚染することなく分解されるので、環境負荷の少ない汎用性ポリマーであると言える。また、ポリ乳酸は、生分解性ポリマーの中では耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたものである。
【0004】
しかし、ポリ乳酸の融点は約170℃であり、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドに代表される石油系樹脂と比較すると、耐熱性に関しては劣っており、汎用性ポリマーとして用いるには十分であるとは言い難く、さらなる耐熱性、熱安定性等の向上が要求されている。さらに、ポリ乳酸は化学反応性の官能基を有しておらず、高機能化が困難である。
【0005】
そのため、ポリ乳酸の熱安定性の改善や高機能化を目的として、ポリ乳酸と様々なモノマーとの共重合に関する研究が数多くなされている(例えば、非特許文献1〜11参照)。
【非特許文献1】J. Coudane, C. Ustariz-Peyret, G. Schwach, M. Vert, J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 1997, 35, 1651-1657
【非特許文献2】K. Stridsberg, M. Ryner, A. C. Albertsson, Macromolecules, 2000, 33, 2862-2869
【非特許文献3】HR. Kricheldorf, SR. Lee, Polymer, 1995, 36, 2995-3003
【非特許文献4】T. Fujiwara, M. Miyamoto, Y. Kimura, T. Iwata, Y. Doi, Macromolecules, 2001, 34, 4043-4050
【非特許文献5】M. Nagata, Y. Sata, Polym. Int., 2005, 54, 386-391
【非特許文献6】T. Fujiwara, Y. Kimura, I. Teraoka, Polymer, 2001, 42, 1067-1074
【非特許文献7】H. T. Tran, M. Matsusaki, D. J. Shi, T. Kaneko, M. Akashi, J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 2008, 19, 75-85
【非特許文献8】M. Matsusaki, A. Kishida, N. Stainton, C. W. G. Ansell, M. Akashi, J. Appl. Polym. Sci., 2001, 82, 2357-2364
【非特許文献9】T. Kaneko, H. T. Tran, D. J. Shi, M. Akashi, Nat. Mater., 2006, 5, 966-970
【非特許文献10】B-H. Li, M-C. Yang, Polym. Adv. Technol., 2006, 17, 439-443
【非特許文献11】Y. Chen, R. Wombacher, J. H. Wendorff, J. Visjager, P. Smith, A. Greiner, Biomacromolecules, 2003, 4, 974-980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のポリ乳酸と様々なモノマーとの共重合(非特許文献1〜11参照)では、熱安定性の劇的な改善は困難であり、さらに共重合によりポリ乳酸の基本的性質(例えば、溶解性、結晶性等)が失われるという問題点を有している。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ポリ乳酸等のポリエステルの基本的性質を有し、かつ熱安定性および光反応性に優れたポリエステル組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリエステルに桂皮酸誘導体を結合させることで、ポリエステルの基本的性質を変えることなく、ポリエステルの熱安定性を向上させ、かつポリエステルに光反応性を付与することができることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。例えば、ポリエステルとしてポリ乳酸を用いると、ポリ乳酸の融点を約10℃、結晶化温度を約15℃、熱分解温度を100℃以上改善することができることを見出した。さらに、ポリエステルとしてポリ乳酸を用いると、光反応を利用して、ポリ乳酸フィルムの表面に他の分子を結合させることができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明のポリエステル組成物は、上記課題を解決するために、ポリエステルに桂皮酸誘導体が結合してなることを特徴としている。
【0010】
上記の発明によれば、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステルに桂皮酸誘導体を結合させているので、該桂皮酸誘導体の分子間相互作用により、熱安定性が向上すると考えられる。また、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステルに桂皮酸誘導体を結合させているので、該桂皮酸誘導体の光反応性により、該ポリエステル組成物全体に光反応性を付与することができる。なお、上記桂皮酸誘導体は、サツマイモの葉、コーヒー豆等の植物に含まれており、安全な物質である。
【0011】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステルが脂肪族ポリエステルであることが好ましい。
【0012】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、立体障害等の問題が生じ難く、ポリエステルに桂皮酸誘導体を結合させやすくすることができる。
【0013】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステルがポリ乳酸もしくはその誘導体であることが好ましい。
【0014】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、地球環境に配慮したものとなる。
【0015】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリ乳酸がL体であることが好ましい。
【0016】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、コストを低くすることができる。
【0017】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステルの分子量が900以上、900,000以下の範囲内であることが好ましい。また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステルの構成単位であるエステルの重合度が10以上、10,000以下の範囲内であることが好ましい。
【0018】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、効率的に熱安定性を向上させ、かつ光反応性を付与することができる。
【0019】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記桂皮酸誘導体が下記一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R1はヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、アシル基、チオール基、アミノ基、水素原子またはハロゲン原子を表し、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ケト基、アミノ基、ハロゲン原子またはアセトキシ基を表す)で表されるものであることが好ましい。
【0022】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、より一層熱安定性を向上させ、かつ光反応性を付与することができる。
【0023】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステル組成物全体に対する上記桂皮酸誘導体の濃度が0.83重量%以上、10重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、上記桂皮酸誘導体の配合量を減らすことができ、ポリエステルの基本的性質をより一層維持することができる。
【0025】
また、本発明のポリエステル組成物は、上記ポリエステルの末端に桂皮酸誘導体が結合してなることが好ましい。
【0026】
これにより、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステル中の結合を切断する必要がなく、ポリエステルに桂皮酸誘導体を結合させやすくすることができる。
【0027】
また、本発明のポリエステル組成物の製造方法は、上記ポリエステル組成物を製造する方法であって、上記ポリエステルと上記桂皮酸誘導体とを、ジクロロメタン中でピリジンを触媒として冷却下で混合することが好ましい。
【0028】
これにより、本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ポリエステル組成物を効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のポリエステル組成物は、以上のように、ポリエステルに桂皮酸誘導体が結合してなるものである。
【0030】
それゆえ、ポリエステルの基本的性質を有し、かつ熱安定性および光反応性に優れたポリエステル組成物を提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書等において、便宜上、「重量ppm」を単に「ppm」,「重量%」を単に「%」と記載する。
【0032】
(I)本発明におけるポリエステル組成物
本発明におけるポリエステル組成物は、ポリエステルに桂皮酸誘導体が結合してなるものである。また、本発明におけるポリエステル組成物は、上記ポリエステルの末端に桂皮酸誘導体が結合してなることが好ましい。上記ポリエステルの末端とは、具体的には、上記ポリエステルの端に存在する水素原子をいう。
【0033】
また、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステルの特性を阻害しない限り、桂皮酸誘導体以外の物質を結合していてもよい。他の物質を結合させる方法としては、特に限定されるものではない。
【0034】
ここで、本明細書において、「結合する」とは「化学結合する」を意味する。また、「化学結合」とは、イオン結合、共有結合等をいう。
【0035】
<ポリエステル>
本発明に用いられるポリエステルは、特に限定されず、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。その中でも、地球環境に配慮したものであるとの理由から、ポリ乳酸が好ましい。
【0036】
さらに、ポリ乳酸としては、L体、D体、DL体、L体とD体とのステレオコンプレックス構造のものが挙げられる。その中でも、コストが低いとの理由から、L体のポリ乳酸が好ましい。ここで、L体のポリ乳酸とは、L−乳酸単位を主として含む重合体をいう。
【0037】
ポリ乳酸は、乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合法(特開平7−118259号公報、特開平7−138253号公報参照)、乳酸の直接重縮合法(特開平9−31180号公報参照)、溶融重合法や固相重合法(特開2001−139672号公報、特開2001−297143号公報参照)、これら2種類以上の組み合わせなどの、従来公知の方法で製造することができる。その中でも、品質の面から、乳酸を脱水縮合する方法で製造することがより好ましい。
【0038】
また、本発明に用いられるポリエステルは、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルであることが好ましい。脂肪族ポリエステルは、炭素数が1以上の脂肪酸がより好ましく用いられる。
【0039】
また、本発明に用いられるポリエステルは、分子量が900以上、900,000以下の範囲内であることが好ましい。また、本発明に用いられるポリエステルは、該ポリエステルの構成単位であるエステルの重合度が10以上、10,000以下の範囲内であることが好ましい。エステルの重合度が10未満であれば、高分子としての特性を有しないおそれがある。一方、エステルの重合度が10,000よりも大きければ、ポリエステルを製造するのが困難であるおそれがある。
【0040】
ここで、例えばポリ乳酸の場合には、構成単位である乳酸の重合度とは、下記一般式(2)
【0041】
【化2】

【0042】
で表される構造の「n」を意味する。
【0043】
<桂皮酸誘導体>
本発明に用いられる桂皮酸誘導体は、特に限定されないが、下記一般式(1)
【0044】
【化3】

【0045】
(式中、R1はヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、アシル基、チオール基、アミノ基、水素原子またはハロゲン原子を表し、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ケト基、アミノ基、ハロゲン原子またはアセトキシ基を表す)で表されるものであることが好ましい。その中で、反応性および環境安全性の理由により、R1,R2およびR3はヒドロキシル基がより好ましい。
【0046】
本発明におけるポリエステル組成物全体に対する桂皮酸誘導体の濃度は、好ましくは0.83重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.83重量%以上8重量%以下、特に好ましくは0.83重量%以上6.25重量%以下の範囲内である。
【0047】
(II)本発明におけるポリエステル組成物の製造方法
本発明におけるポリエステル組成物の製造方法は、ポリエステル中に桂皮酸誘導体を均一に混合することが可能な方法であれば特に限定されない。例えば、ポリエステルと桂皮酸誘導体とを溶媒中で溶解し、混合した後、溶媒を蒸発等によって除去することによって、所望形状のポリエステル組成物を得ることができる。なお、溶媒としてはクロロホルム等の有機溶媒が好適に使用される。触媒としてはピリジン等が好適に使用される。また、ポリエステルと桂皮酸誘導体とを溶融混練法によって混合し、所望形状のポリエステル組成物を得ることも可能である。
【0048】
また、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法は、ポリエステル、桂皮酸誘導体、他の物質等の投入順序は問わない。また、混合はミルロール、ミキサー、単軸または二軸押出機、加熱可能なバッチ式容器等を用いて行えばよい。
【0049】
また、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法は、好ましくは以下の温度条件で混合を行う。
【0050】
例えば、3,4−ジアセトキシ桂皮酸(DACA)の合成工程は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは100℃以上150℃以下、特に好ましくは120℃以上130℃以下の範囲内の温度条件で混合を行う。
【0051】
例えば、3,4−ジアセトキシ桂皮酸のカルボン酸クロライド(DACC)の合成工程は、好ましくは0℃以上100℃以下、より好ましくは10℃以上70℃以下、特に好ましくは50℃以上60℃以下の範囲内の温度条件で混合を行う。
【0052】
例えば、ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)合成工程は、好ましくは0℃以上100℃以下、より好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは0℃以上10℃以下の範囲内の温度条件で混合を行う。
【0053】
また、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法は、好ましくは以下の時間混合を行う。
【0054】
例えば、3,4−ジアセトキシ桂皮酸(DACA)の合成工程は、好ましくは1時間以上24時間以下、より好ましくは2時間以上12時間以下、特に好ましくは4時間以上5時間以下の範囲内で混合を行う。
【0055】
例えば、3,4−ジアセトキシ桂皮酸のカルボン酸クロライド(DACC)の合成工程は、好ましくは1時間以上24時間以下、より好ましくは2時間以上12時間以下、特に好ましくは5時間以上7時間以下の範囲内で混合を行う。
【0056】
例えば、ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)合成工程は、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは12時間以上24時間以下、特に好ましくは20時間以上24時間以下の範囲内で混合を行う。
【0057】
また、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法は、上記ポリエステルの末端以外に桂皮酸誘導体を結合させる場合には、触媒を用いることが好ましい。なお、上記ポリエステルの末端に桂皮酸誘導体を結合させる場合にも、触媒を用いてもよい。触媒としては、塩化第一スズ、塩化亜鉛等の金属ハロゲン化物、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化亜鉛等の金属酸化物、オクチル酸スズ、酢酸亜鉛等の有機カルボン酸金属塩などを用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
(I)本発明におけるポリエステル組成物の合成
【0060】
【化4】

【0061】
本発明におけるポリエステル組成物の合成方法は、例えば上記スキーム(A)の方法である。具体的には、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸(DHCA)と無水酢酸とを、ピリジン中、0℃で2時間、その後130℃で5時間反応させることにより、3,4−ジアセトキシ桂皮酸(DACA)を合成した。この3,4−ジアセトキシ桂皮酸を塩化チオニルで、DMF中、60℃で7時間処理することにより、3,4−ジアセトキシ桂皮酸のカルボン酸クロライド(DACC)とした。この3,4−ジアセトキシ桂皮酸のカルボン酸クロライドを、ピリジン中、0℃で2時間、その後室温で24時間L体のポリ乳酸(PLLA)と混合することにより、ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)を得た。その後、ピリジンを除去した。得られたポリ乳酸組成物の収率は、90%以上であった。なお、上記の反応は、NMRおよびIRにより確認した。
【0062】
(II)本発明におけるポリエステル組成物の物性
〔実施例1〕
上記ポリ乳酸中における乳酸の重合度(ユニット数)が16、3,4−ジアセトキシ桂皮酸の重合度(ユニット数)が1である場合の上記ポリ乳酸の物性を表1に示す。ここで、実施例1〜5において、乳酸と3,4−ジアセトキシ桂皮酸との重合度(ユニット数)は、核磁気共鳴分光装置(H−NMRスペクトル、日本分光株式会社製、商品名「JEOLJNM−GSX400」)により測定した。
【0063】
〔実施例2〕
上記ポリ乳酸中における乳酸の重合度(ユニット数)が38、3,4−ジアセトキシ桂皮酸の重合度(ユニット数)が1である場合の上記ポリ乳酸の物性を表1に示す。
【0064】
〔実施例3〕
上記ポリ乳酸中における乳酸の重合度(ユニット数)が49、3,4−ジアセトキシ桂皮酸の重合度(ユニット数)が1である場合の上記ポリ乳酸の物性を表1に示す。
【0065】
〔実施例4〕
上記ポリ乳酸中における乳酸の重合度(ユニット数)が79、3,4−ジアセトキシ桂皮酸の重合度(ユニット数)が1である場合の上記ポリ乳酸の物性を表1に示す。
【0066】
〔実施例5〕
上記ポリ乳酸中における乳酸の重合度(ユニット数)が120、3,4−ジアセトキシ桂皮酸の重合度(ユニット数)が1である場合の上記ポリ乳酸の物性を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、ポリ乳酸の分子量に関わらず、結晶融解温度(Tm)、結晶化温度(Tc)等が劇的に向上した。さらに、光反応性の発現と、桂皮酸誘導体の二量化に伴う分子量の増加が確認された。ここで、各物性の測定方法を以下に示す。
【0069】
<数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、商品名「HLC―8220GPC」)により、ポリスチレン含有のテトラヒドロフラン(THF)中で分子量を測定した。ここで、UVは、波長280nm以上、強度56mWcm−2で90分間照射した。
【0070】
<結晶融解温度(Tm)、結晶化温度(Tc)>
示差走査熱量測定計(DSC、セイコーインスツル株式会社製、商品名「EXTER6100 DSC」)により、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで室温から250℃まで昇温し、20分間放冷、再び10℃/minで250℃まで昇温させる方法により分析を行った。第二スキャンより結晶融解温度(Tm)と結晶化温度(Tc)とを求めた。
【0071】
<10%重量減少温度(T10)>
熱重量分析装置(TGA、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製、商品名「Q500」)により、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minの条件で熱重量分析を行い、10%重量減少温度(T10)を測定した。
【0072】
<熱重量分析>
熱重量分析装置(TGA)により、空気中において、昇温速度20℃/minの条件で熱重量分析を行った。図1は、上記ポリ乳酸組成物と、該ポリ乳酸組成物と同じ分子量を有するポリ乳酸との熱重量分析の結果を示している。なお、図1において、例えば「PLLA16」は「乳酸の重合度が16であること」、「PLLA35」は「乳酸の重合度が35であること」等を表している。
【0073】
図1に示すように、ポリエステル中に桂皮酸誘導体を結合させてなるポリエステル組成物では、該ポリエステル組成物と同じ分子量を有するポリエステルと比較して、昇温することによる残留物(Residue)の濃度変化が小さいという結果であった。つまり、ポリエステル中に桂皮酸誘導体を結合させてなるポリエステル組成物は、ポリエステルと比較して、熱安定性に優れているということが明らかになった。
【0074】
<光反応性分析>
UV照射装置(株式会社 三永電機製作所製、商品名「SUPERCURE−352S」)によりUV(波長280nm以上)を照射した際の光反応性分析を、光反応性分析装置(日立株式会社製、商品名「U3010」)で行った。図2,3は、上記ポリ乳酸組成物の光反応性分析の結果を示している。なお、図3において、例えば「PLLA16」は「乳酸の重合度が16であること」、「PLLA38」は「乳酸の重合度が38であること」等を表している。
【0075】
図2,3に示すように、ポリエステル中に桂皮酸誘導体を結合させてなるポリエステル組成物では、照射時間(Irradiation time)とともに吸光度(Absorbance),初期吸光度に対する吸光度の比(Abs/Abs0)は低下するものの、照射時間が短ければ高い吸光度を示すという結果であった。なお、上記ポリエステル組成物と同じ分子量を有するポリエステルでは、吸光度は0であった。つまり、ポリエステル中に桂皮酸誘導体を結合させてなるポリエステル組成物は、ポリエステルと比較して、光反応性に優れているということが明らかになった。
【0076】
また、上記ポリ乳酸組成物の光二量化は、下記スキーム(B)の通りである。
【0077】
【化5】

【0078】
また、図4(a)は、UV(280nm以上)を照射した際の上記ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)フィルムへの蛍光分子(Dye)の固定化の状態を示している。ここで、上記ポリ乳酸組成物のフィルムは、ポリ乳酸組成物を10mg/mLの濃度でジクロロメタンに溶解し、キャスティング法により作製した。その後、上記ポリ乳酸組成物のフィルムを、蛍光分子を含む水溶液に浸漬し、波長280nm以上の紫外線光(UV)を照射した。
【0079】
また、図4(b)は、L体のポリ乳酸(PLLA)にUV(280nm以上)を照射した後の位相差を示しており、図4(d)は、上記ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)にUV(280nm以上)を照射した後の位相差を示している。
【0080】
また、図4(c)は、L体のポリ乳酸(PLLA)にUV(280nm以上)を照射した後の顕微鏡写真を示しており、図4(e)は、上記ポリ乳酸組成物(DACA−PLLA)にUV(280nm以上)を照射した後の顕微鏡写真を示している。なお、顕微鏡写真は、顕微鏡(オリンパス株式会社製、商品名「DSU−IX81−SET」)により撮影した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリエステル組成物は、成形品として、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空気成形品、ブロー成形品、農業用資材、食品包装用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、薬剤や酵素等の活性保護カプセル、薬物除放担体、スキャホルド、縫合糸や骨固定剤等の医療用品、電気・電子部品、自動車部品などに利用することができる。特に、本発明のポリエステル組成物は、熱安定性に優れているため、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチックなどの分野において利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態にかかる熱重量分析(TGA)の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態にかかる光反応性分析の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態にかかる光反応性分析の結果を示すグラフである。
【図4】(a)は本発明の一実施形態にかかる光反応の結果を示す斜視図であり、(b)は従来の光反応性分析後の位相差を示す図であり、(c)は従来の光反応性分析後の顕微鏡観察結果を示す図であり、(d)は本発明の一実施形態にかかる光反応性分析後の位相差を示す図であり、(e)は本発明の一実施形態にかかる光反応性分析後の顕微鏡観察結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルに桂皮酸誘導体が結合してなることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項2】
上記ポリエステルが脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
上記ポリエステルがポリ乳酸もしくはその誘導体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
上記ポリ乳酸がL体であることを特徴とする請求項3に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
上記ポリエステルの分子量が900以上、900,000以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
上記ポリエステルの構成単位であるエステルの重合度が10以上、10,000以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
上記桂皮酸誘導体が下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1はヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、アシル基、チオール基、アミノ基、水素原子またはハロゲン原子を表し、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ケト基、アミノ基、ハロゲン原子またはアセトキシ基を表す)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
上記ポリエステル組成物全体に対する上記桂皮酸誘導体の濃度が0.83重量%以上、10重量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
上記ポリエステルの末端に桂皮酸誘導体が結合してなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリエステル組成物を製造する方法であって、
上記ポリエステルと上記桂皮酸誘導体とを、ジクロロメタン中でピリジンを触媒として冷却下で混合することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184467(P2011−184467A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171269(P2008−171269)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】