説明

ポリエステル組成物およびポリエステルフィルム

【課題】 添加物析出抑制性、オリゴマー析出抑制性性に優れ所定の固有粘度を確保できるポリエステル組成物を提供すること。
【解決手段】 ポリエステルを主成分とするポリエステル組成物であって、該ポリエステル組成物を溶解し、トルエンで希釈して再沈させて得たポリエステル組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したものをピーク比Aとするとき、ピーク比Aが3×10-3以上3×10-1以下であポリエステル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリードアウトなどの問題が少なく、生産性およびオリゴマー析出抑制性に優れたポリエステル組成物およびポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレート(以下PETという)フィルムは優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性により産業用途に広く使用され、需要量も増大している。しかしながら、用途および需要拡大に伴い、ポリエステルに要求される特性および生産性もそれぞれの用途分野においてますます厳しくなってきており、工業用、磁気材料用等多岐に渡って生産されている一方、解決すべき課題も数多くある。
【0003】
磁気記録媒体としてポリエステルフィルムを用いる場合、高記録密度の観点から表面の粗大突起や欠点は出来る限り少なくしなくてはならないが、ポリエステルフィルムには、宿命的に抱える問題として、オリゴマーの問題がある。ポリエステルは、その重合時にオリゴマーを副生し、PETの場合は、エチレンテレフタレート環状三量体を主成分としたオリゴマーを1〜3重量%程度も含有するため、フィルムとした場合は経時とともに表面にこれらオリゴマーが析出し、これが粗大突起を形成する。特に磁気材料フィルムとして用いる場合には、このような表面析出オリゴマーに基づく粗大突起は磁性層のデータ抜けの原因となるため、表面析出オリゴマーをいかに抑制するかが一つの課題である。
【0004】
こうした課題の解決策としては、たとえば特許文献1に開示されているように、脂肪族モノカルボン酸のエステルを添加して、製膜時のドラム上にオリゴマーなどの低分子量物が堆積することを抑える技術があったが、当該添加物中に含まれる異物に基づくフィルム表面の粗大突起の発生が問題であった。また、特許文献2に記載されているように、有機スルホン酸アルカリ金属塩などの添加物を加えると、フィルム表面へのオリゴマー析出が抑えられるが、この方法では、フィルム表面に凹み状の欠点を生じ、製膜性も低下してしまう問題があった。これら技術では、特に平滑表面の形成という観点から見た場合、磁気記録媒体としての使用には耐えないものであった。さらに特許文献3では高級脂肪族カルボン酸と高級脂肪族アルコールとから成る炭素数20〜60のエステル化合物を添加しているが、重合が頭打ちするため、目的の固有粘度を得ることが困難であるのに加えて、含有添加物の飛散による異物問題を解決することができなかった。
【特許文献1】特開昭58−145418号公報
【特許文献2】特開平11−188825号公報
【特許文献3】特開2001−323141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決し、生産性に優れ、所定の固有粘度を確保し、オリゴマー析出抑制性、添加物析出抑制性などに優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した本発明の目的は、ポリエステルを含むポリエステル組成物であって、このポリエステル組成物を溶媒に溶解せしめた後、トルエンで希釈して再沈殿させて得られるポリマー組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したもの(ピーク比A)が3×10-3以上3×10-1以下であるポリエステル組成物により解決できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、添加物析出抑制性、オリゴマー析出抑制性に優れ所定の固有粘度を確保できるポリエステル組成物およびポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリエステル組成物はジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマー(ポリエステル)を含んでいれば特に限定はない。
【0009】
このようなポリエステルとしては、次の酸成分を共重合していてもよい。具体的には、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0010】
また、上記のポリエステルは、次のジオール成分を共重合してもよい。具体的には、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等またはそのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0011】
本発明においては、上記のポリエステルを主成分とするポリエステル組成物であると好ましい。この場合、「ポリエステルを主成分とするポリエステル組成物」とは、該ポリエステルにポリエステル成分以外の成分、すなわち異種成分を少量に含んでいても良いことを意味する。
【0012】
本発明のポリエステル組成物は、該ポリエステル組成物を一旦オルトクロロフェノールやヘキサフルオロイソプロパノールなどのポリエステル組成物を溶解する溶媒に溶解し、トルエンで希釈して再沈させて得られるポリエステル組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基のピーク面積をベンゼン環由来のピーク面積で除した値(ピーク比A)が3×10-3≦ピーク比A≦3×10-1である。さらに好ましくは6×10-3≦ピーク比A≦2×10-1、特に好ましくは4.5×10-2≦ピーク比A≦1×10-1である。該範囲よりも多い場合は効果が発現するものの、耐熱性、成形性が悪くなり、添加物自身がブリードアウトする恐れが生じる。また該範囲より少ない場合はオリゴマーの析出抑制効果が発現しにくくなる。
【0013】
なお、ここでピーク比Aはポリエステル組成物中でポリエステルと結合した脂肪族化合物の含有量の指標である。脂肪族化合物としては、特に一価の脂肪族化合物が好ましい。このような化合物としては、たとえばステアリルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ミリスチルアルコール、トリデシルアルコール、ラウリルアルコール、ウンデシルアルコール、ノナデカンアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ミチスチン酸、トリデカン酸、ラウリル酸、ウンデカン酸、ノナデカン酸、ベヘニン酸などがある。
【0014】
また、ポリエステル組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したものをピーク比Bとするとき、ピーク比B−ピーク比Aの値が3×10-2以下であることが好ましい。より好ましくは1×10-2以下、さらに好ましくは0.6×10-2以下が好ましい。かかる範囲にすることにより添加物のブリードアウト抑制に優れたポリエステル組成物となる。なお、ピーク比B−ピーク比Aはポリエステル組成物中でポリエステルと結合していない脂肪族化合物の指標である。この指標は少ないほど良い。
【0015】
なお、ピーク比Aを大きくし、ピーク比B−ピーク比Aを小さくする為にはポリエステル組成物の製造工程において脂肪族化合物を添加することで実現することが可能であり、特にその添加時期が重要である。好ましくは、エステル交換反応前に脂肪族化合物を添加するとよく、特にエステル化反応前に添加することが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、アルカリ金属元素の含有量をMa(モル/トン)、アルカリ土類金属元素の含有量をMd(モル/トン)、リン元素の含有量をMp(モル/トン)としたとき、Ma、MdおよびMpが次式を満足していると原因は不明であるが異物の発生を抑制できて好ましい。
【0017】
Ma+2×Md≧3×Mp
上記式は、Ma+2×MdをM、3×MpをPとすればM−P≧0と同義であり、さらに好ましくはM−P≧1であり、特に好ましくはM−P≧2である。M−P<0であると異物が増加する傾向にある。これはおそらく、アルカリ金属に対するリン存在量と脂肪族化合物に対するフリーのアルカリ金属、アルカリ土類金属元素の存在量が考えられる。脂肪族化合物に対するフリーのアルカリ金属、アルカリ土類金属元素が増加すると結合して異物となる恐れがある。そのため、アルカリ、アルカリ土類金属元素と結合する適度なリン元素の存在が必要となると考えられるが、明確な原因は不明である。上記式を満足させるために用いるアルカリ金属元素含有化合物やアルカリ土類金属元素含有化合物としては、特に限定されないが具体的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムなどを用いることができる。
【0018】
また本発明のポリエステル組成物は、シリコーン化合物及び/又はフッ素化合物を1ppm〜1,000ppm(重量基準)含有していると好ましい。好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは1〜50ppm、特に好ましくは1〜30ppmである。ここで含有量はシリコーン化合物、フッ素化合物の和である。
【0019】
かかる範囲を含有していることで脂肪族化合物のブリードアウト抑制効果が増加する。含有量が多いとそれ自身がブリードアウトして欠点になる恐れがあり、少ない場合は効果が発現されにくい。
【0020】
本発明のポリエステル組成物は異物などのブリードアウト少ないことが特徴であるがそのためには異物が少ないことが好ましい。好ましくは、最大径が1μm以上であり、かつ、チタン、アンチモンまたはゲルマニウム元素を含有する粒子の個数密度が10,000個/mg未満でなければならない。好ましくは5,000個/mgであり、さらに好ましくは個数密度が3,000個/mg未満である。かかる範囲とすることで異物が少なく、ブリードアウトの恐れがより少なくなる。
【0021】
本発明においては触媒としてチタン元素を含む化合物(チタン化合物)を用いることが好ましい。チタン元素はゲルマニウムと比較して廉価であり、重合活性が高く、触媒添加量を微量にすることが可能である為、異物の生成を抑止することが可能となる。存在量はポリマー重量に対してチタン元素重量として0.5〜50ppm含まれていると重合活性が高く、得られるポリマーの色調及び耐熱性も良好となり好ましい。50ppmを超える量を含有していると耐熱性が悪化し、さらに触媒起因の異物の要因となりやすい。含有量として、より好ましくは1〜30ppm、更に好ましくは1〜20ppmである。これらチタン元素の所定量をポリマに含有させるためには、それら元素を含む化合物の添加時に所定量を添加すればよい(添加量がそのままポリマ中に保持される)
また、リン化合物の含有量としてポリマー重量に対してリン元素重量として1〜100ppmが好ましい。より好ましくは5〜30ppmである。100ppmを超えて含有すると、重合反応性が悪化する傾向にあり、1ppm未満の含有量では耐熱性の維持が困難となる。なお、ここでいう含有量の基準は、リン化合物に含まれるリン元素の含有量である。このようなリン化合物としてはリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィンオキサイド、亜ホスホン酸、亜ホスフィン酸、ホスフィン、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネートおよびホスフィネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。具体的な化合物としてはリン酸、トリメチルリン酸、エチルジエチルホスホノアセテート、フェニルジプロピルホスホネートなどが好ましい。これらリン化合物を含有していることにより、異物を生成せずに耐熱性を改善することができる。
【0022】
また、リン化合物としてリン系酸化防止剤を用いることは好ましい。このような化合物としては、3価、5価のリン元素を有し、ベンゼン環に少なくとも1個のかさ高い基を持つ化合物が好適である。具体的には以下の構造を有する化合物であると好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
このような化合物の例としてはビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸やテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4'−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1 ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−yl]oxy]−、N,N−bis[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−yl]oxy]−エチル]エタンアミンなどがある。これらは例えばチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社から“IRGAFOS12”として市販されている。
【0027】
このような化合物を添加することにより脂肪族化合物の分解を抑制することができ、耐熱性向上、ブリードアウト抑制につながる。
【0028】
触媒として用いるチタン化合物としては、チタンキレート化合物やテトラアルコキシチタン化合物が好ましい。例えばチタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンエチルアセトアセテート、クエン酸チタン、乳酸チタン、チタンペルオキソクエン酸チタンアンモニウムなどのチタンキレートやテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネートなどのアルキルチタネートなどを挙げることができるが、なかでも、チタンキレート、テトラブチルチタネートを用いることが好ましい。
【0029】
次に本発明のポリエステル組成物の製造方法について説明する。
【0030】
ポリエステル組成物に含まれるポリエステルとして代表的なポリエチレンテレフタレートはたとえば、次のいずれかのプロセスにより製造することができる。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。本発明においては、(1)または(2)の一連の反応の任意の段階に、脂肪族化合物、酸化防止剤、シリコーン化合物、フッ素化合物を添加し重縮合反応を行い、高分子量のポリエチレンテレフタレートを得る方法を採ることができる。
【0031】
また、上記の反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の形式で実施されるが、本発明の製造方法はそのいずれの形式にも適応し得る。
【0032】
さらに酸化防止剤、脂肪族化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物を重合終了後に練り込みなどによって添加しても構わない。
【0033】
上記したポリエステル組成物は、フィルムとして好適に用いることができる。
【0034】
中でも、主層と副層とを有する積層フィルムとすることが好ましい。積層フィルムは、例えば、ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ溶融し製造することができる。この場合、溶融温度は特に限定されず、ポリエステル(A)、(B)を口金から押し出しするのに支障の無い温度であればよい。次いで、溶融されたポリエステル(A)、(B)の両者を積層し、積層シートを形成する。積層方法はポリエステル(A)、(B)を押し出し機から口金までの間、あるいは、口金内などで合流積層させ、積層シートとして口金から吐出させる方法、いわゆる共押し出し法、あるいは、相異なるスリット状の口金からポリエステル(A)、(B)をそれぞれシート状にして吐出させ、その両者を積層する方法などいずれであっても良いが、共押し出し法が好ましい。なお、積層シートの層構成は少なくとも、ポリエステル(A)、(B)が積層されておればよいが、(A)/(B)二層構成や、(A)/(B)/(A)、(B)/(A)/(B)、の三層構成を採ることもできる。特に、三層構成が好ましい。この際、本発明のポリエステル単独で製膜してもよいし、また他のポリエステル組成物に本発明のポリエステル組成物を1重量%以上混合したフィルムを得る方法も、他品種の生産性や耐熱性の向上の観点から好ましい。
【0035】
共押し出し積層法としてはフィードブロックやスタティックミキサー、マルチマニホールドダイなどを用いることができる。スタティックミキサーとしてはパイプミキサー、スクエアミキサーなどが挙げられるが、本発明ではスクエアミキサーを用いることが好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層が少なくとも片表面を構成することが異物の観点から好ましい。
【0036】
かくして得られた積層シートを、種々の移動冷却体、好ましくは回転ドラムで引き取ると共に、シートに静電荷を析出させて移動冷却体で冷却固化する。シートに静電荷を析出する方法はいずれの方法であっても良い。たとえば、口金と移動冷却体間の近傍で、かつ、シートが移動冷却体と接しない側のシート面上にワイヤ電極を設け、そのワイヤ電極と移動冷却体との間に電圧を印加する方法などを用いることができる。冷却固化された積層シート、すなわち、未延伸シートは次いで、種々の延伸法、たとえば、ロール延伸法あるいはテンター延伸法により一軸もしくは二軸に延伸しこれを巻き取る。延伸の順序は逐次でも同時でもいずれでも良い。
【0037】
ここで縦方向への延伸とはフィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸をいい、例えば、ロールの周速差により施されるこの延伸は1段階で行ってもよく、また複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては2〜15倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0038】
横方向の延伸とはフィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、例えば、テンターを用いてフィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して幅方向に延伸する。延伸の倍率としては2〜10倍が好ましい。
【0039】
同時二軸延伸の場合はテンター内にてフィルムの両端をクリップで把持しながら搬送しつつ、縦方向および横方向に同時に延伸するものであり、この方法を用いてもよい。
【0040】
こうして二軸延伸されたフィルムは平面性、寸法安定性を付与するためにテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましく、均一に除冷後、室温まで冷やして巻き取られる。本発明のフィルムにおいては熱処理温度としては120〜240℃であることが平面性、寸法安定性などの点から好ましい。
【0041】
本発明の積層ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、好ましくは0.5〜100μm、特に1〜80μmが好ましい。
【0042】
また、易接着層、粒子層等を形成する場合は、グラビアコートやメタリングバーなどのコーティング技術を用いて、延伸前、または縦延伸と横延伸の間でコーティング成分をインラインで塗布してもよいし、延伸後オフラインコーティングしてもよい。
【0043】
本発明のポリエステル組成物およびポリエステルフィルムは、コンデンサー用ベースフィルム、電気絶縁用ベースフィルムに特に適しているが、そのほか、写真用ベースフィルム、蒸着用ベースフィルム、包装用ベースフィルム、粘着テープ用ベースフィルム、磁気テープ用ベースフィルム、光学用ベースフィルムにも好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中の各特性は、次の方法により測定した。
【0045】
A.ポリマーの固有粘度([η]):
o−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した。
【0046】
B.フィルム表面の粗大突起(凹み状欠点個数も同様):
フィルム表面をアルミニウム蒸着して微分干渉顕微鏡で総合倍率100倍で観察し、最大径0.2mm以上の粗大突起または凹み状欠点の個数をカウントし、その総数を1mm2あたりの個数に換算した。
【0047】
C.製膜性
製膜キャスト時の静電印加ムラを観察し、キャスト速度8m/分の条件下で、下記3段階で判定した。
【0048】
A:ムラが全く発生しない。
【0049】
B:まれにムラが発生する。
【0050】
C:定常的にムラがある。
【0051】
D.熱処理指数
熱処理指数を求めるフィルム(b)に対して、触媒以外添加物を添加しないポリエステルを用いた他はフィルム厚み、積層構成、積層厚など構成が全く等しいフィルム(a)を準備する。
【0052】
150℃で30分、オーブン中に放置し、オリゴマーなどの低分子量体を強制的にフィルム表面に析出させ、表面をアルミニウム蒸着して微分干渉顕微鏡で総合倍率400倍で10視野観察する。各視野でのオリゴマーなどの低分子量体の個数を数え、その総数を表面オリゴマー析出個数(個/mm2)に換算し、フィルムa、bそれぞれの析出個数をA、Bとしたとき、熱処理指数は下記式で算出される。
【0053】
熱処理指数=(B/A)×100
E.ポリエステル組成物中の粗大異物の数(個/mg(Ti、Sb、Geの元素を含む粒子の個数密度))
クラス100のクリーンルームにてチップを(濃塩酸:純水=1:1)で1分間超音波洗浄した後、純水で1分間超音波洗浄し、その後、ホットプレート上のカバーガラス上で融解し、気泡が入らないようにカバーガラスを載せてサンプルを作成し、キーエンス社製デジタル顕微鏡(VHZ−450)を用いて暗視野法(450倍)で4視野測定しその平均で観察した。プレパラート上のポリマー薄膜には鋭利なかみそりにて10行×10列の切れ込みを入れ、合計100個の升目を作成した。最大径が1μm以上の欠点を異物と判断した。視野面積0.0034cm2、厚み40μmから0.02mgチップ中の異物を測定している。さらにプレパラートをポリマー薄膜部のプラズマ灰化処理を施した後にカーボン蒸着をおこない、光学顕微鏡で1μm以上とカウントされた粒子の存在する升目をSEM−XMAにて観察し、該当粒子に含有されるTi、Ge、Sb元素の有無を確認した。このようにしてTi、Ge、Sb元素を含有する1μm以上の粒子個数をポリマー1mg当りに換算した数値を粒子個数密度とした。
【0054】
F.ピーク比B
ポリエステル組成物を凍結粉砕して粉末状物とし、ヘキサフルオロイソプロパノール−重クロロホルム混合溶媒(1:1)に溶解し、日本電子(株)社製H−NMR測定器(GSX−400)にて水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したものをピーク比Bとして求めた。ここで脂肪族メチレン基由来のHの最大ピーク面積とはメチレン基由来のピークが複数存在する中で最大面積を有するピークを最大ピーク面積とした。
【0055】
G.ピーク比A
ポリエステル組成物をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、まず、不溶物を濾別する。ついで、濾液に徐々にトルエンを添加し、ポリマーの沈殿が測定必要量認められれば、添加を止め濾別し、濾過物をメタノール/HFIP混合溶媒、次いでメタノールで数回洗浄後乾燥した。乾燥後該試料を上記ピーク比Bと同様の方法にて測定しピーク比Aを求めた。
【0056】
なお、上記ピーク比の算出にあたり溶媒や不純物に相当するピークは控除して求めた。
【0057】
H.シリコーン化合物、フッ素化合物の定量
ポリエステル組成物を凍結粉砕して粉末状物とし、ヘキサフルオロイソプロパノール−重クロロホルム混合溶媒(1:1)に溶解し、日本電子(株)社製H−NMR測定器(GSX−400)にて水素核NMRで観察したときのシリコーン化合物、フッ素化合物のHのピーク面積とベンゼン環由来のHのピーク面積より算出した。
【0058】
I.ポリエステル中のリチウムなどアルカリ金属の含有量(原子吸光法)
日立製作所社製偏光ゼーマン原子吸光光度計型番180−80(フレーム:アセチレン−空気)を用いて原子吸光法により測定した。ポリマー8gを光源として中空陰極ランプを用いて、フレーム方式で原子化し、測光部により検出して予め作成した検量線を用いて金属含有量に換算した。
【0059】
J.ポリエチレンテレフタレート中のチタン元素、アンチモン元素及びゲルマニウム元素などの金属の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)またはICP発光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、SPS1700)により求めた。なお、必要に応じて、対象となるポリエチレンテレフタレート中の酸化チタン粒子等の無機粒子の影響を除去するために次の前処理をした上で蛍光X線またはICP発光分析を行った。すなわち、ポリエチレンテレフタレートをオルソクロロフェノールに溶解し、必要に応じてクロロホルムで該ポリマー溶液の粘性を調整した後、遠心分離器で粒子を沈降させる。その後、傾斜法で上澄み液のみを回収し、アセトン添加によりポリマーを再析出、濾過、洗浄して粒子を除去したポリマーとする。以上の前処理を施して得られた粒子を除去したポリマーについてチタン元素量、アンチモン元素及びゲルマニウム元素などの金属量の分析を行った。
【0060】
K.ポリマーのゲル化率(%)
ポリマーチップ2g程度を フリーザミルで凍結粉砕し#42(350μ以下)でふるいわけし、減圧乾燥(100℃、40分、圧力133Pa)、秤量(1.0±0.01g)後、熱処理(2時間、300℃、大気圧下、空気流量100ml/分)を行う。
【0061】
熱処理終了後、80℃×0.5hrで溶解し(オルソクロロフェノール)、ガラスフィルター(3G3)でろ過し、ジクロロメタン50〜100ml程度で洗浄し、減圧乾燥(110℃×2.0hr、圧力133Pa)し、フィルター上のろ上物を秤量し、処理ポリマーの重量に対するゲル化率(%)を算出した。
【0062】
L.ブリードアウト指数
ポリマーを5×5×5mm角の立方体に切断し、クロロホルム溶液5ml、25℃に60分間入れて静置し、その溶液を東ソー(株)社製高速液体クロマトグラフィー(SC−8020)を用いて脂肪族化合物量の測定を行った。その測定値をポリマーに対する重量%で示す。測定条件はカラム:YMC−ODS−A302−7、溶媒:水/メタノール=30/70、温度:35℃。
【0063】
(チタンクエン酸キレート化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中の温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、そしてその撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、8モル)と混合し、そして減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量4.15重量%)を得た。{チタンクエン酸キレート化合物}
(実施例1)
高純度テレフタル酸(三井化学社製)100kgとエチレングリコール(日本触媒社製)45kgとステアリルアルコール1.48kgのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の123kgを重縮合槽に移送した。
【0064】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽にチタンクエン酸キレート化合物を、得られるポリマーに対してチタン原子重量で15ppmとなるように添加し、その後、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトをリン原子重量でポリマーに対して20ppmとなるように加え、酢酸マグネシウム溶液をマグネシウム原子重量で40ppm添加し、シリコーンオイルをシリコーンオイル化合物として500ppm添加し、その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットポリエステル組成物(A)を得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
【0065】
得られたポリマーのηは0.63、溶液ヘイズは0.2%であった。また、ポリマーから測定したチタン触媒由来のチタン原子の含有量は15ppmであることを確認した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2)
チタンクエン酸キレートの代わりに三酸化アンチモンを重合触媒として添加する以外はすべて実施例1と同様にしてポリエステル組成物(B)を作成した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例3)
酢酸マグネシウムを添加しない以外はすべて実施例1と同様にしてポリエステル組成物(C)を作成した。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
シリコーン化合物を添加しない以外はすべて実施例1と同様にしてポリエステル組成物(D)を作成した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例5)
シリコーン化合物の代わりにポリクロロトリフルオロエチレン500ppm添加する以外は実施例1と同様にポリエステル組成物(E)を作成した。結果を表1に示す。
(比較例1)
ステアリルアルコールを添加しない以外はすべて実施例1と同様にしてポリエステル組成物(F)を作成した。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
ステアリルアルコールを7kg添加する以外はすべて実施例1と同様にしてポリエステル組成物(G)を作成した。結果を表1に示す。重合度の上昇が悪く生産性に劣った。
【0071】
(実施例5)
実施例1で得られたポリエステル組成物(A)を180℃で3時間、133Paで減圧乾燥して280℃に加熱された押出機Aに供給し、その後、表面温度25℃のキャスティングドラム上に溶融押出して、キャストドラム上に静電印加をかけながら密着させて急冷固化し、単層未延伸フィルムとした後、この未延伸フィルムをロール式延伸機にて90℃で縦に3.5倍、さらに、テンターを用いて、105℃で横に3.5倍ずつ延伸し、定長下で温度200℃で10秒間熱処理後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、厚み50μmの2軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0072】
(実施例6)
押出機2台を用い、実施例1で得られたポリエステル組成物(A)を180℃で3時間、133Paで減圧乾燥し、主層(A層)押出機に供給した。また、実施例2で得られたポリエステル組成物(B)を180℃で3時間、133Paで減圧乾燥した後、副層(B層)押出機に供給して、Tダイ中で合流させ、二層ダイからキャスティングドラム上に溶融押出して、表面温度25℃のキャストドラム上に静電印加をかけながら密着させて急冷固化し、A/B型(厚み比6/1)の二層未延伸フィルムとした。次いで、この未延伸フィルムをロール式延伸機にて90℃で縦に3.5倍、さらに、テンターを用いて、105℃で横に3.5倍ずつ延伸し、定長下で温度200℃で10秒間熱処理後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、厚み50μmの積層ポリエステルフィルムを得た(B層の積層厚み7.1μm)。製膜性は良好であった。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例3)
比較例1で得られたポリエステル組成物(F)を用いる以外は実施例5と同様にしてポリエステルフィルムを得た。製膜性は良好であった。こうして得られたフィルムは、環状三量体が析出して粗大突起が多かった。結果を表2に示す。
【0074】
(比較例4)
比較例2で得られたポリエステル組成物(G)を用いる以外は実施例5と同様にしてポリエステルフィルムを得た。粘度が低い為、製膜にやや問題があった。こうして得られたフィルムは、脂肪族化合物が析出し粗大突起が多かった。結果を表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含むポリエステル組成物であって、このポリエステル組成物を溶媒に溶解せしめた後、トルエンで希釈して再沈殿させて得られるポリマー組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したもの(ピーク比A)が3×10-3≦ピーク比A≦3×10-1であるポリエステル組成物。
【請求項2】
ポリエステル組成物を水素核NMRで観察したときの脂肪族のメチレン基由来のHの最大ピーク面積をベンゼン環由来のHのピーク面積で除したものをピーク比Bとするとき、ピーク比B−ピーク比Aの値が3×10-2以下である、請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
アルカリ金属元素の含有量をMa(モル/トン)、アルカリ土類金属元素の含有量をMd(モル/トン)、リン元素の含有量をMp(モル/トン)としたとき、Ma、MdおよびMpが次式を満足する、請求項1または2記載のポリエステル組成物。
Ma+2×Md≧3×Mp
【請求項4】
シリコーン化合物及び/又はフッ素化合物を1ppm〜1,000ppm(重量基準)含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
最大径が1μm以上であり、かつ、チタン、アンチモンまたはゲルマニウム元素を含有する粒子の個数密度が10,000個/mg未満である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
チタン化合物およびリン化合物を含有し、チタン元素の含有量がチタン金属原子重量として0.5〜50ppm、リン元素の含有量がリン原子重量として1〜100ppmである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
リン化合物がリン系酸化防止剤である、請求項6記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
チタン化合物がテトラアルコキシチタン化合物またはチタンキレート化合物である、請求項6または7に記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル組成物を含むポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−16604(P2006−16604A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155162(P2005−155162)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】