説明

ポリエステル組成物およびポリエステル成形品

【課題】本発明の目的は、各種成型品に溶融成型可能できる、赤外線を遮蔽する性能を有するポリエステル組成物を提供することである。
【解決手段】無機粒子化合物の屈折率が1.6〜5.0であり、無機粒子化合物の1次粒径が0.6〜5.0μmである無機粒子化合物を2.5〜40重量%含むポリエステル組成物によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは、赤外線の透過率が低く、溶融成形性に優れたポリエステル組成物に関し、赤外線透過率が低く、各種産業製品に利用可能なポリエステル成形品、ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的および化学的性能が優れているため、繊維、フィルムまたはその他の成形物に広く利用されている。
【0003】
ポリエステルは、各種ポリエステルにより分子構造上に違いはあるものの、エステル結合に由来する赤外線吸収、脂肪族炭化水素のC−H結合・C−C結合に由来する赤外線吸収、ベンゼン環・ナフタレン環に由来する赤外線吸収を有している。反面、これら以外の赤外線吸収帯以外の領域において、光の吸収はほとんどない、例えば厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、波長2.5〜25μmの赤外線の透過率は約75〜90%である。つまり、ポリエステルを成形して得られる成形品は、高い赤外線透過性を有する。
【0004】
この性質のため、例えばポリエステルを成形してなる繊維製品の場合、太陽光の赤外線を透過してしまう。例として、ポリエステル繊維を利用したカーテンの場合、真夏の室内の温度が上昇してしまう、あるいはポリエステル繊維を利用したスポーツウェアの場合、着用時の温度が上昇してしまうなどの問題を有していた。そこで、このような問題を解決する事例として、例えば平均粒径が0.5μm以下の金属酸化物系微粒子赤外線吸収剤を含有したポリエステル繊維が挙げることができる(例えば、特許文献1参照。)。しかし、本手法で得られる赤外線の吸収は充分なレベルではなかった。
【0005】
一方、遠赤外線放射繊維とよばれる繊維内部から赤外線を放射する繊維が知られている。例えば、平均粒径2.5〜5.0μmの雲母と平均粒径8.0〜13μmの雲母を含有するポリエステル繊維(例えば、特許文献2参照。)や、セリサイトを1〜15wt%含有するポリエステル繊維(例えば、特許文献3参照。)を例示できる。これらは、繊維内部から赤外線を放射することで保温性を狙うものであり、本発明の目的とする赤外線の透過を抑制する性能を有していない。以上のことから、これまでに行われた数多くポリエステルの改質検討が実施されてきたが、赤外線の透過を高く、抑制することのできる有効な技術は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−307383号公報
【特許文献2】特開平09−077961号公報
【特許文献3】特開平02−300313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、赤外線の透過性を低減したポリエステル組成物を得ることであり、このポリエステル組成物を成形することによって産業上、有用なポリエステル成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、ポリエステル組成物であって、下記数式(1)〜(2)の要件を満たす無機粒子化合物をポリエステル組成物に対して2.5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とするポリエステル組成物であり、これによって上記の課題が解決できることを見出した。
1.6 ≦ n ≦ 5.0 ・・・・・(1)
0.6μm ≦ D ≦ 5.0μm ・・・・・(2)
[上記数式中、nは無機粒子化合物の屈折率、Dは無機粒子化合物の平均1次粒径(μm)を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機粒子化合物を含有するポリエステル組成物により、赤外線の透過性を低下させることにより、遮熱性に優れた産業上有用な各種ポリエステル成形品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリエステルについて>
以下本発明を詳しく説明する。本発明におけるポリエステルとは、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合反応により得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。ここで主たるとは全繰り返し単位中70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。さらに本発明のポリエステルの特性を損なわない範囲で、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸を併用することができる。例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(カルボキシル基の位置が異なる各構造異性体を含む)、ジフェニルジカルボン酸(カルボキシル基の位置が4,4’−に限定されず、カルボキシル基の位置が異なる各構造異性体を含む)、ジフェニルエーテルジカルボン酸(同前)、ジフェノキシエタンジカルボン酸(同前)、ジフェニルスルホンジカルボン酸(同前)、ジフェニルケトンジカルボン酸(同前)、フランジカルボン酸(同前)等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸(カルボキシル基の位置が異なる各構造異性体を含む)、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。本発明のポリエチレンテレフタレートの特性を損なわない範囲とは、全酸成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0011】
また本発明においては、ポリエステルの特性を損なわない範囲でエチレングリコール以外の他のジオール成分を併用することができる。このようなジオール成分としては、一般のポリエステルの原料として使用されるジオール、例えば、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオ−ル)、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチルオクタンジオールなどの直鎖または分岐鎖のある脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,1−シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、2,2−ノルボルナンジメタノール、3−メチル−2,2−ノルボルナンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、2,6−ノルボルナンジメタノール、パーヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ジメタノール、アダマンタンジメタノール、1,3−ジメチル−5,7−アダマンタンジメタノール、1,3−アダマンタンジオール、1,3−ジメチル−5,7−アダマンタンジオールなどの脂環式ジオール;ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ナフタレンジオール、フェナンスロリンジオール、キシリレンジオール[ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン]、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールS、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物またはプロピレンオキシド付加物などの芳香族ジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリメチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのエーテルグリコールなどが挙げられる。上記ジオール成分は1種又は2種以上混合して目的によって任意に使用できる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。本発明においてポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートのいずれかを含むことが好ましい。本発明のポリエステルの特性を損なわない範囲とは、全ジオール成分に対して30モル%以下が好ましく、更に好ましくは25モル%以下、更により好ましくは20モル%以下である。
【0012】
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルの製造方法は、通常知られているポリエステルの製造方法を適宜修正した製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸の如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法により、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、目的とするポリエステルが製造される。
【0013】
重合触媒については、特に限定されるものではないが、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、スズ化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すずの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0014】
<無機粒子化合物について>
また本発明のポリエステル組成物には、ポリエステル樹脂に対し、下記数式(1)〜(2)を満たされる無機粒子化合物を含有することが必要である。
1.6 ≦ n ≦ 5.0 ・・・・・(1)
0.6μm ≦ D ≦ 5.0μm ・・・・・(2)
[上記数式中、nは無機粒子化合物の屈折率、Dは無機粒子化合物の平均1次粒径(μm)を表す。]
【0015】
そして、無機粒子化合物としては、例えば、Fe(屈折率 n=2.7、以下この段落においてカッコ内の数値はその化合物の屈折率を表す。)、ルチル型TiO(2.72)、アナターゼ型TiO(2.52)、CeO(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl(2.3)、CdO(2.2)、Sb(2.0)、WO(2.0)、SiC(2.0)、In(2.0)、PbO(2.6)、Ta(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO(2.0)、MgO(1.6)、CeF(1.6)、AlF(1.6)、Al(1.6)が例示されるが、中でも二酸化チタン、二酸化チタン(IV)、チタン酸カリウム、チタン酸鉛、酸化鉛(II)、硫化亜鉛、酸化亜鉛および二酸化ジルコニウム(IV)よりなる群から少なくとも1種選ばれる無機粒子化合物が好ましく用いられ、二酸化チタンや二酸化チタン(IV)が本発明の課題の達成のためには最も好ましく用いられる。屈折率が1.6未満の場合、赤外線の透過性が高く好ましくない。屈折率の上限として5以下を設定しているが、屈折率5.0を超える工業的に使用可能な無機粒子化合物がないためである。屈折率としては1.8以上3.0以下が好ましく、さらに好ましくは2.0以上4.0以下である。
【0016】
これら無機粒子化合物は必要に応じ、表面処理することが可能である。従来公知の表面処理方法を使用すること出来る。表面処理により、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムで粒子表面を覆うことによって、ポリエステルへの分散性を向上させる、粒子の色相を変える、ポリエステルに対する粒子表面の活性を低下させ、ポリエステルの熱安定性を向上させることができる。
【0017】
<無機粒子化合物の1次粒径について>
本発明のポリエステル組成物においては、無機粒子化合物の平均一次粒径を0.6〜5.0μmにする必要がある。平均一次粒径が0.6μm未満であると、粒子の比表面積が大きすぎ、ポリエステル反応中に容易に凝集粒子を形成し、成形時の操業安定性が低下するのと同時に、本発明の効果である赤外線の透過性が低下せず、優れた遮熱性を奏さなくなり、5.0μmを超えると、ポリエステル反応過程において沈降しやすく、ポリエステル樹脂としての成形性が低下し、且つ遮熱性も奏さなくなり好ましくない。
【0018】
無機粒子化合物の平均一次粒子径を上記の数値範囲にするためには、予め平均一次粒子径の大きい無機粒子化合物を選択し、もしくは溶媒中に分散したスラリーの状態で場合には、粉砕又は解砕し、更に分級処理を加えても良いし、逆に、分級処理後に粉砕又は解砕しても良い。また乾式ですなわち粉体の状態のまま粉砕又は解砕し、更に分級処理を加えるか、粉砕又は解砕単独の処理を行うか、分級処理単独の処理を行った後、水及び/又は有機化合物とのスラリーとしてもよい。
【0019】
<含有量について>
本発明のポリエステル組成物中における、上記無機粒子化合物の含有量は、全ポリエステル組成物に対して、2.5質量%〜40質量%である必要がある。無機粒子化合物の含有量が2.5質量%未満の場合、得られるポリエステルの赤外線透過性が高くなり、40質量%を超えると、ポリエステルとしての成形性が大きく低下し、好ましくない。含有量の数値範囲は3.0〜30質量%の範囲が好ましく、4.0〜20質量%の範囲が更に好ましい。含有量は、用いる無機粒子化合物の添加量を増加・減少させることよって、当業者であれば容易に調整することが可能である。
【0020】
<無機粒子化合物の添加時期>
ここでポリエステル製造時における無機粒子化合物の添加時期としては特に限定はないが、エステル交換反応の開始前から重合反応が終了する任意の段階で添加することができる。また後述の混練による添加手法を採用した場合、ポリエステルの重合後、成形加工の直前に添加することも可能である。
【0021】
<無機粒子化合物の添加方法>
さらに、ポリエステル中への添加方法としては、無機粒子化合物を粉体状のまま添加する方法、溶媒に分散させたスラリーを調製した上でそのスラリーを添加する方法を挙げることができる。
【0022】
スラリーとして添加する方法の場合、無機粒子化合物スラリーを濾過することで、粗大な無機粒子化合物をフィルターで濾過できるため、好ましい。無機粒子化合物を分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレンの如き溶媒や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールの如きポリエステルを構成するジオール成分を溶媒、またこれら溶媒の混合液を例示できる。溶媒としては、水、エタノール、エチレングリコールが取り扱いの容易さの点、かつ安価である点から好ましい。無機粒子化合物のスラリー調整時は、必要に応じて、分散剤を添加することができる。
【0023】
<無機粒子化合物の乾式添加方法>
また本ポリエステルの製造方法として、溶融状態のポリエステルに混練による添加手法を採用することができる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
【0024】
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、好ましくは1分〜30分である。また、混練機への無機粒子化合物とポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えば乾式法によりホ無機粒子化合物とポリエステルを別々に混練機に供給する方法、無機粒子化合物とポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
【0025】
<ポリエステルの固有粘度>
本発明のポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は特に限定はないが、0.5〜1.5dL/gの範囲にあることが好ましい。該固有粘度が0.5dL/g未満の場合、得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となり、1.5dL/gを超える場合、溶融成形性が低下する為好ましくない、ポリエステルの固有粘度は0.6〜1.3dL/gの範囲が更に好ましい。
【0026】
<その他>
本発明のポリエステル組成物は、上述の無機粒子化合物以外に必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、難燃剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。また本発明のポリエステル組成物は溶融成形して、フィルム、成型品、繊維などのポリエステル成形品を得ることができる。本発明のポリエステル成形品を溶融成形により製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の方法が用いられる。
【0027】
本発明のポリエステル繊維を溶融紡糸により製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられる。例えば乾燥したポリエステル組成物を270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は400〜9000m/分で紡糸することができ、必要によって延伸工程などを経て繊維の強度を十分なものに高めることが可能である。
また紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、異形、中実または中空などのいずれも採用することが出来る。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【実施例】
【0028】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物チップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(イ)平均1次粒径:
無機粒子化合物を含有するポリエステル樹脂組成物サンプルまたは、その成形品を株式会社エイコー・エンジニアリング社製エッチング装置処理した後、日立社製SEM(S3500−N)で観察し、無機粒子化合物のサイズを観察した。観察した1粒の無機粒子について、最大となる長さ(Dmax)および最小となる長さ(Dmin)を測定し、平均値(Dave)を測定した。その後、同様の操作を繰り返し、100粒の無機粒子の平均値(Dave)をそれぞれ求め、この100粒あたりの平均値を平均1次粒径(D)と定義した。
(ウ)赤外線透過率:
ポリエステル組成物から下記実施例の項目に記載の方法によりポリエステルフィルムを作成し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、FT−IR NICOLET6700を用い、そのポリエステルフィルムを透過モードで測定し、4000cm−1での赤外線透過率を測定した。
(エ)無機粒子化合物の含有量測定
リガク製蛍光X線装置3270型を用いて測定し、定量を行った。ポリマーサンプルを加熱溶融し、円形ディスクを作成し、測定した。無機粒子化合物の定量にあたっては、金属元素の含有量を蛍光X線装置を用い測定し、下記換算数式を用いて、含有量を算出した。
[無機粒子化合物含有量]=[測定された金属種の含有量]×[無機粒子化合物の分子量]/[その測定された金属種の原子量]×100(%)
【0029】
[実施例1]
・二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリーの調製
エチレングリコール79.5質量%に対して、20.5質量%のルチル型二酸化チタンを添加して、ガラスビーズを加え、サンドグラインダーで1時間攪拌処理を実施し、得られたスラリーをフィルターに通し、ガラスビーズを除去した。さらにスラリーを10μmのポールフィルターに通じ、粗大な無機粒子化合物を除去した。得られた二酸化チタンスラリーを秤量し、120℃の乾燥機で48時間乾燥させ、エチレングリコールを除去し、除去後の残渣物を秤量した。その結果、二酸化チタンの濃度(=[残渣物の質量]/[二酸化チタンスラリー質量])は20質量%であった。
【0030】
・ポリエステル組成物チップの製造
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に、酢酸マグネシウム・4水和物0.086質量部(DMT対比20mmol%)をSUS製容器に仕込んだ。常圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、リン酸トリメチル0.042質量部(DMT対比30mmol%)になるよう添加し、5分後、二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリー24.9質量部(全樹脂組成物に対して、酸化チタンが2.5質量%になる量)を添加して、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.087質量部(DMT対比30mmol%)、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器内温を285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、固有粘度0.64dL/gであるポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
【0031】
・ポリエステルフィルムの製造
ポリエステルチップサンプルを窒素気流下160℃で6時間乾燥後、成膜温度290℃で成膜し、厚さ0.02mmのポリエステルフィルムを成形した。このポリエステルフィルムの赤外線透過率は50%であった。
【0032】
・ポリエステル繊維の製造
ポリエステルチップサンプルを窒素気流下160℃で6時間乾燥後、紡糸温度290℃、口金孔径0.27mm、ホール数24の条件で溶融紡糸し、84dtex(24fil)のポリエステル繊維が得られた。各形態の物性評価結果を表1に示した。
【0033】
[実施例2〜3,比較例1〜6]
実施例1において、酸化チタンの種類・量を表1に記載したように変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。比較例1〜2は、製膜を実施したが、製膜中にフィルムの破断が多発し、フィルムを得ることができなかった。各形態の物性評価結果を表1に示した。
【0034】
[実施例4]
・無機粒子化合物無添加のポリエステルの重合
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に、酢酸マグネシウム・4水和物0.086質量部(DMT対比20mmol%)をSUS製容器に仕込んだ。常圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、リン酸トリメチル0.042質量部(DMT対比30mmol%)になるよう添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.087質量部(DMT対比30mmol%)、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器内温を285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、固有粘度0.68dL/gであるポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
【0035】
・2軸混練機による無機粒子化合物を添加したPETの製造
ポリエステル90質量部に対して、アナターゼ型酸化チタン(IV)10質量部になるよう計量しながら、2軸混練押し出し機にポリエステル及び酸化チタンを供給した。混練温度285℃で混練し、ダイより吐出されたポリマーをチップ化した。
【0036】
・ポリエステルフィルムの製造
ポリエステルチップサンプルを窒素気流下160℃で6時間乾燥後、成膜温度290℃で成膜し、厚さ0.02mmのポリエステルフィルムを成形した。このポリエステルフィルムの赤外線透過率は42%であった。各形態の物性評価結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、赤外線透過性の低いポリエステル組成物を得ることができる。その結果、その後の種々の成形により、フィルム・樹脂・繊維など、赤外線の透過を抑制することが可能な各種成形品を生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル組成物であって、下記数式(1)〜(2)の要件を満たす無機粒子化合物をポリエステル組成物に対して2.5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とするポリエステル組成物。
1.6 ≦ n ≦ 5.0 ・・・・・(1)
0.6μm ≦ D ≦ 5.0μm ・・・・・(2)
[上記数式中、nは無機粒子化合物の屈折率、Dは無機粒子化合物の平均1次粒径(μm)を表す。]
【請求項2】
無機粒子化合物が二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸鉛、酸化鉛(II)、硫化亜鉛、酸化亜鉛および二酸化ジルコニウム(IV)よるなる群から少なくとも1種選ばれる無機粒子化合物である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
無機粒子化合物が二酸化チタンである請求項1〜2のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
ポリエステル組成物に含まれるポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物を溶融成形して得られるポリエステル成形品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物を溶融紡糸して得られるポリエステル繊維。

【公開番号】特開2012−172133(P2012−172133A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38396(P2011−38396)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】