説明

ポリエステル組成物およびポリエステル成形品

【課題】後加工を実施することなく組成物の段階から抗菌活性を有し、溶融成形性に優れ、成形品、繊維に利用可能なポリエステル組成物を提供すること。
【解決手段】ポリエステル樹脂に対して、金属アルミニウム原子を含む無機化合物および有機アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物を下記数式を満たす範囲で含有するポリエステル組成物。0.01wt%≦Al≦10.0wt%[Alはポリエステル組成物に対するアルミニウムの質量パーセント濃度を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは、後加工を実施することなく抗菌性を有するポリエステル組成物に関し、溶融成形性に優れ、各種産業製品に利用可能なポリエステル成形品、ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的および化学的性能が優れているため、繊維、フィルムまたはその他の成形物に広く利用されている。芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを主たる構成成分とする線状飽和ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)は、その優れた物理的性質および化学的性質により、幅広い用途に用いられている。
【0003】
ポリエステル繊維の用途として、病院その他、サニタリー分野での病原菌の感染防止を目的としたカーペット、マット、シーツ、カーテン、布団類への抗菌性付与、または、靴下、タイツ類への防臭効果を目的とした抗菌性付与の検討が進められている。
現在、主に検討されている抗菌処理方法としては、第4級アンモニウム塩、キトサン、ヒノキチオール、ポリフェノール等に代表される有機系抗菌剤、および、銀に代表される無機系抗菌剤等を後加工によりポリエステル繊維等の高分子素材表面に付着させる方法、または抗菌剤をポリエステル等の高分子樹脂に混練により含有させる方法等が挙げられる。
【0004】
後加工により抗菌性を付与する手法は、撥水加工・制電加工など別な後加工処理に悪影響を及ぼす、あるいは別な後加工処理によって抗菌性が失われてしまうという問題がある。そのため、後加工によらず、繊維の原糸段階で抗菌性を有するポリエステル繊維の開発が望まれていた。
【0005】
後加工を必要としないポリエステルの製造方法として、抗菌剤をポリエステル樹脂に練り混む方法が挙げられる。このような樹脂に練り込む抗菌剤として、銀化合物系、亜鉛化合物系、錫化合物系、鉛化合物系、銅化合物系など、開発されているが、しかしこれらの無機系抗菌剤の金属は有害な重金属を多量に樹脂に含ませる必要があり、人体への安全性の面・環境負荷に対する面で十分なものとは言えない(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−212419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、組成物の段階から抗菌性を有するポリエステル樹脂を得ることであり、このポリエステル樹脂を成形することによって産業上、有用なポリエステル成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ポリエステル樹脂に対し、金属アルミニウム原子を含む無機化合物および有機アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物を下記数式(1)を満たす範囲で含有することを特徴とするポリエステル組成物であり、これによって上記の課題が解決できる。
0.01wt%≦Al≦10.0wt% ・・・・・(1)
[上記数式中、Alはポリエステル組成物に対するアルミニウムの質量パーセント濃度を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエステル組成物段階で抗菌性を有するポリエステル組成物が得られ、後加工を実施することなく、産業上有用な各種抗菌性ポリエステル成形品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリエステルについて>
以下本発明を詳しく説明する。本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルポリマーとしては、汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレートおよびブチレン−2,6−ナフタレートよりなる群から選択されたものであることが好ましい。とりわけ物性に優れ、大量生産に適した点を考慮すると、ポリエステル樹脂を構成する主たる酸成分がテレフタル酸、ジオール成分がエチレングリコールであることを特徴とするポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第三成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0011】
例えば、本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルポリマーとしては、テレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシリレングリコール(ビス−p−[ヒドロキシメチル]ベンゼン)、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p′−ジヒドロキシフェニルスルホン(ビスフェノールS)、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ポリアルキレングリコール、p−フェニレンビス(ジメチルシクロヘキサン)などのオキシ化合物、あるいはその機能的誘導体;前記カルボン酸類、オキシカルボン酸類、オキシ化合物類またはその機能的誘導体から誘導される高重合度化合物などや、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。さらに(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸なども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0012】
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルの製造方法は、通常知られている製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸の如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法により、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。または、テレフタル酸ジメチルのごとき、ジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きジオール成分とエステル交換触媒の存在下をエステル交換反応させる方法により、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。次いでこの低重合体を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、目的とするポリエステルが製造される。
【0013】
<ポリエステルの固有粘度>
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は特に限定はないが、0.5〜1.5dL/gの範囲にあることが好ましい。該固有粘度が0.5未満の場合、得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となり、1.5を超える場合、溶融成形性が低下する為好ましくない、ポリエステルの固有粘度は0.6〜0.1.3dL/gの範囲が更に好ましい。
【0014】
<アルミニウム化合物について>
また本発明のポリエステル組成物には、金属アルミニウム原子を含む無機化合物および有機アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物を下記数式(1)を満たす範囲で含有することが必要である。
0.01wt%≦Al≦10.0wt% ・・・・・(1)
[上記数式中、Alはポリエステル組成物に対するアルミニウムの質量パーセント濃度を表す。]
【0015】
ポリエステル組成物に対するアルミニウム化合物の含有量が0.01wt%未満の場合、抗菌活性が低く好ましくない。アルミニウム化合物の含有量が10.0wt%を超える場合、得られるポリエステル組成物の溶融粘度が高くなり、溶融成形性が低くなるため、好ましくない。アルミニウム化合物の含有されるアルミニウム量の範囲としては0.02〜9.0wt%以上が好ましく、さらに好ましくは0.04〜8.0wt%である。そして、金属アルミニウムとしては、得られるポリエステル樹脂の成形加工性を保つため、平均1次粒径が0.1μm〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
<アルミニウム化合物の例>
本発明のポリエステル組成物において用いられる有機アルミニウム化合物としては、下記式(2)で示される有機アルミニウム化合物がポリエステルとの親和性が高く、均一に分散し、優れた成形加工性を有するため、好ましい。
Al(OX)(OX)(OX) ・・・・・(2)
[上記数式中、X〜Xは酸素原子を含むこともある炭素数2〜8の炭化水素残基である。X〜Xは同一の官能基であっても異なる官能基であっても良い。]
【0017】
OX〜OXの官能基としては、アルコラート基、フェノラート基、脂肪族、脂環族もしくは芳香族のカルボキシル基をあげることができ、より具体的にはメチレート基、エチレート基、プロピレート基、ブチレート基、ペンチレート基、ヘキシレート基、1または2以上のエーテル基を含むこれらのアルキレート基、フェノラート基、蟻酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、酪酸アニオン、吉草酸アニオン、安息香酸アニオン、グリコール酸アニオン、乳酸アニオン、アクリル酸アニオン、メタクリル酸アニオン、シュウ酸アニオン、マロン酸アニオン、コハク酸アニオン、グルタル酸アニオン、アジピン酸アニオン、酒石酸アニオン、アセチルアセトナート基などを挙げることができ、X〜Xの各官能基は単一種の官能基であっても、2以上の複数種の官能基であっても構わない。
【0018】
このような有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムトリエチレート、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、アルミニウムメチレート、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセチルアセテートなどのアルミニウムキレート化合物や、アルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物を挙げることができる。中でもアルミニウムトリスアセチルアセトナート、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリsec−ブチレートおよびアルミニウムトリエチレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物が好ましく用いられ、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、アルミニウムsec−ブチレートが最も好ましく用いられる。
【0019】
一方金属アルミニウム原子を含む無機化合物の具体例としては、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが例示される。
【0020】
<アルミニウム化合物の添加時期>
ここでポリエステル製造時におけるアルミニウム化合物の添加時期としては特に限定はないが、エステル交換反応の開始前から重合反応が終了する任意の段階で添加することができる。また後述の混練による添加手法を採用した場合、ポリエステルの重合後、成形加工の直前に添加することも可能である。
【0021】
<アルミニウム化合物の添加方法>
さらに、ポリエステル中への添加方法としては、アルミニウム化合物を粉体状のまま添加する方法、溶媒に分散させたスラリーを調製した上でそのスラリーを添加する方法を挙げることができる。スラリーとして添加する方法の場合、アルミニウム化合物スラリーを濾過することで、粗大な粒子をフィルターで濾過できるため、好ましい。粒子化合物を分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレンの如き低沸点の溶媒や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールの如きポリエステルを構成するジオール成分を溶媒、またこれら溶媒の混合液を例示できる。溶媒としては、エチレングリコール、イソプロパノール、ブタノールがアルミニウム化合物を均一に溶解できるため、好ましい。アルミニウム化合物のスラリー調整時は、必要に応じて、分散剤を添加することができる。
【0022】
<アルミニウム化合物の乾式添加方法>
また本ポリエステル組成物の製造方法として、溶融状態のポリエステルに混練による添加手法を採用することができる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
【0023】
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのアルミニウム化合物とポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えば乾式法によりアルミニウム化合物とポリエステルを別々に混練機に供給する方法、アルミニウム化合物とポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
【0024】
<エステル交換触媒について>
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルの製造方法で用いるエステル交換触媒については、特に限定されるものではなく、従来公知のエステル交換触媒を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、マンガン、コバルト、亜鉛、アルミニウム化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えば各金属化合物の酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。またアルミニウム化合物をエステル交換触媒として用いる場合、本発明に用いる抗菌成分であるアルミニウム化合物を触媒として用いることも可能である。
【0025】
<重合触媒について>
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステルの製造方法で用いるエステル重合触媒については、特に限定されるものではないが、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、スズ化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すずの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。またアルミニウム化合物を重合触媒として用いる場合、本発明に用いる抗菌成分であるアルミニウム化合物を触媒として用いることも可能である。
【0026】
重合活性が高く、また入手容易である点からアンチモン化合物が好ましく用いられる。その際のアンチモン化合物の量としては、下記数式(2)を満たす範囲で含有することが好ましい。
10mmol%≦Sb≦50mmol% ・・・・・(2)
[上記数式中、Sbはポリエステルを構成する全酸成分に対するアンチモンのミリモルパーセント濃度を表す。]
アンチモン化合物の含有量が10mmol%未満であると重合活性が不十分であり、50mmol%を超えると重縮合反応の際に副反応が起こり、不適切な副反応性生物が多量に生成する可能性があり好ましくない。
【0027】
<その他>
本発明のポリエステル組成物は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、リン化合物系安定剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、難燃剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。
また本発明のポリエステル組成物は溶融成形して、フィルム、成型品、繊維などのポリエステル成形品を得ることができる。本発明のポリエステル成形品を溶融成形により製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の方法が用いられる。
【0028】
本発明のポリエステル繊維を溶融紡糸により製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられる。例えば乾燥したポリエステル組成物を270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は400〜9000m/分で紡糸することができ、必要によって延伸工程などを経て繊維の強度を十分なものに高めることが可能である。
また紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、異形、中実または中空などのいずれも採用することが出来る。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【実施例】
【0029】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物チップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。なお、組成物中に含有する無機化合物など粘度計使用時に障害になる化合物は測定前にろ過などにより取り除いた。
(イ)ポリエステル組成物中の金属元素含有量:
ポリエステル組成物中の金属元素量は粒状のポリエステル組成物サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。
(ウ)静菌活性値:
黄色ぶどう球菌(Stphylococcus aureus ATCC 6538P)の試験菌懸濁液を用い、JIS L1902(2008年改訂版)に基づいた菌液吸収法を実施した。
(静菌活性値)=(Mb)−(Mc)
(Mbは綿標準白布18時間培養後の3検体の生菌数の常与対数の平均値を表す。)
(Mcはサンプル布18時間培養後の3検体の生菌数の常与対数の平均値を表す。)
静菌活性値の値が、2.2以上をもって、抗菌性が良好と判断した。
(エ)成形加工性:
実際に得られたポリエステルチップサンプルを窒素気流下160℃で6時間乾燥後、紡糸温度290℃、口金孔径0.27mm、ホール数24の条件で溶融紡糸した。5分間の紡糸時間において糸サンプルを得られた物を○とし、断糸など工程不調が発生し糸サンプルを得られなかったものを×と判断した。
【0030】
[実施例1]
・ポリエステル組成物チップの製造
テレフタル酸ジメチル(DMT)194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に、酢酸マンガン・4水和物0.025質量部(DMT対比10mmol%)をSUS(ステンレス鋼)製容器に仕込んだ。常圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させ、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.145質量部(DMT対比50mmol%)を加え、次いでアルミニウムトリスアセチルアセトナート0.971質量部(最終的に得られるポリエステル組成物量に対してアルミニウムが0.042質量パーセント)を添加し、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器内温を285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、固有粘度0.64dL/gであるポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
【0031】
・ポリエステル筒網サンプルの製造
ポリエステルチップサンプルを窒素気流下160℃で6時間乾燥後、紡糸温度290℃、口金孔径0.27mm、ホール数24の条件で溶融紡糸・延伸し、84dtex(24fil)のポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維を常法により、筒編み機で筒網試験片を作成後し、試験片の静抗菌活性値を測定した。静菌活性値は2.3であった。結果を表1に示した。
【0032】
[実施例2〜5,比較例1〜5]
実施例1において、アルミニウム化合物の種類・量、三酸化二アンチモンの量を表1記載に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、抗菌性が高く、製糸など成型加工性の優れたポリエステル組成物を得ることができる。その結果、その後の種々の成形により、フィルム・樹脂・繊維など、抗菌性の高い各種成形品を生産することができる。結果を表1に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウム原子を含む無機化合物および有機アルミニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物を含むポリエステル組成物であって、下記数式(1)を満たす範囲で含有することを特徴とするポリエステル組成物。
0.01wt%≦Al≦10.0wt% ・・・・・(1)
[上記数式中、Alはポリエステル組成物に対するアルミニウム原子の質量パーセント濃度を表す。]
【請求項2】
有機アルミニウム化合物が、下記化学式(2)で表されることを特徴とするポリエステル組成物。
Al(OX)(OX)(OX) ・・・・・(2)
[上記数式中、X〜Xは酸素原子を含むこともある炭素数2〜8の炭化水素残基である。X〜Xは同一の官能基であっても異なる官能基であっても良い。]
【請求項3】
有機アルミニウム化合物がアルミニウムトリスアセチルアセトナート、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムトリエチレートよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物であることを特徴とする請求項2記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
ポリエステル組成物を重合する際の重合触媒として、アンチモン原子を下記数式(2)を満たす範囲で含有することを特徴とする請求項3記載のポリエステル組成物。
10mmol%≦Sb≦50mmol% ・・・・・(2)
[上記数式中、Sbはポリエステルを構成する全酸成分に対するアンチモン原子のミリモルパーセント濃度を表す。]
【請求項5】
ポリエステル組成物に含まれるポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載のポリエステル組成物を溶融成形して、得られるポリエステル成形品。
【請求項7】
請求項1〜5記載のポリエステル組成物を溶融紡糸して、得られるポリエステル繊維。
【請求項8】
請求項7記載のポリエステル繊維よりなるポリエステル繊維加工品。

【公開番号】特開2012−184346(P2012−184346A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49023(P2011−49023)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】