説明

ポリエステル組成物の製造方法およびシリカ粒子アルキレングリコールスラリー

【課題】シリカ粒子が極めて凝集が少なく均一に分散されたポリエステル組成物の製造方法とそれに用いるシリカ粒子を含むアルキレングリコールスラリーを提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させることによって得られた反応生成物を重縮合反応させ、かつ重縮合反応が終了するまでの間に、シリカ粒子をアルキレングリコールスラリーの状態で添加するポリエステル組成物の製造方法において、
シリカ粒子は、平均粒径が1.5μm以下で、かつ得られるポリエステル組成物の重量を基準として、0.001〜5.0重量%となるように添加されること、そして
アルキレングリコールスラリーは、水分率が1.0〜5.0重量%の範囲にあること
を特徴とするポリエステル組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物の製造方法およびそれに用いるシリカ粒子アルキレングリコールスラリーに関し、さらに詳しくは、シリカ粒子が均一に分散されたポリエステル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有し、磁気テープ、電気絶縁材料、コンデンサー、写真フィルムまたは包装材等などのフィルム用途に広く用いられている。
【0003】
このようなポリエステルをフィルムなどに用いる場合、得られるフィルムに優れた巻き取り性を付与する目的で、不活性粒子が添加されている。そして、このような不活性粒子の中でも、アルコキシド法や水ガラス法によって得られる形状が真球状のシリカ粒子は、粒度分布がシャープであることから、フィルム表面に突起を均一に形成しやすく好適に用いられている。
【0004】
ところで、近年のフィルムへの要求はますます高度になり、例えば従来よりも高度な表面平坦性が要求されてきている。特に、局所的に発生するシリカ粒子の凝集、具体的にはシリカ粒子同士やシリカ粒子と触媒として添加する金属成分との凝集は、フィルム成形時にフィッシュアイなどといった欠点となる。そのため、ポリエステル組成物には、平均粒径の比較的小さなシリカ粒子を、凝集を抑制しつつ均一に分散させることが望まれていた。
【0005】
このようなシリカ粒子などの不活性粒子の凝集抑制技術としては、例えばポリエステルの重合反応中に不活性粒子を形成する方法が特許文献1(特開平7−216068号公報)で、不活性粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、温度が150〜260℃で圧力が0.05〜0.3MPaの高温加圧処理する方法が特許文献2(特開2003−238671号公報)で、シリカ粒子をシラン系、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤で処理する方法も特許文献3(特開昭63−312345号公報)で提案されている。しかしながら、これらの方法でもその凝集抑制効果は充分ではなく、さらなる改善が望まれていた。
【0006】
また、シリカ粒子の凝集を抑制するために、重合触媒としてチタン触媒を用い、カルボキシ基を含むホスホネート化合物を使用する方法が特許文献4(特開2005−239940号公報)で提案されている。しかしながら、特許文献4で具体的に評価されているシリカ粒子は平均粒径が2.0μm以上という比較的大きなものだけで、平均粒径の小さなシリカ粒子の凝集抑制効果としては充分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−216068号公報
【特許文献2】特開2003−238671号公報
【特許文献3】特開昭63−312345号公報
【特許文献4】特開2005−239940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はかかる従来技術の問題点を解消し、平均粒径の小さなシリカ粒子を凝集が少なく極めて均一に分散されたポリエステル組成物を効率的に製造できるポリエステル組成物の製造方法、またそこで使用するシリカ粒子のアルキレングリコールスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の条件のシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーを添加することによりシリカ粒子の分散性が飛躍的に向上し、局所的に発生するシリカ粒子同士の大きな凝集を減少させることを見出し本発明に到達したものである。
【0010】
かくして本発明によれば、芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させることによって得られた反応生成物を重縮合反応させるポリエステル組成物の製造方法において、
エステル化反応もしくはエステル交換反応の80%が終了するまでの間に、平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子をアルキレングリコールスラリーの状態で、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、0.001〜5.0重量%となるように添加すること、そして
アルキレングリコールスラリーは、水分率が1.0〜5.0重量%の範囲にあることを具備するポリエステル組成物の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、エステル化反応もしくはエステル交換反応が、チタン化合物の存在下で行われること、エステル交換反応を経由することの少なくともいずれかを具備するポリエステル組成物の製造方法も提供される。
【0012】
さらにまた、本発明によれば、シリカ粒子を含有するアルキレングリコールスラリーであって、水分率が1.0〜5.0重量%の範囲にあるポリエステル組成物用アルキレングリコールスラリーも提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリカ粒子を含むアルキレングリコールスラリー中の水分率が特定の範囲に調整されていることにより、ポリエステル組成物中にシリカ粒子を凝集させることなく均一に分散できる。そのため、極めて表面平坦性が求められるフィルムなどの原料に好適に用いることができるポリエステル組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリエステル組成物の製造方法を説明する前に、もう一つの本発明であるシリカ粒子のアルキレングリコールスラリーについて説明する。
【0015】
本発明のアルキレングリコールスラリーは、ポリエステル組成物の製造に用いるシリカ粒子を含有するアルキレングリコールスラリーであり、そのスラリー中の水分率が1.0〜5.0重量%の範囲である。好ましい水分率は、1.5〜4.5重量%の範囲、特に2.0〜4.0重量%の範囲である。アルキレングリコールスラリー中の水分率を、上記範囲内に調整することで、得られるポリエステル組成物中に局所的に発生するシリカ粒子の大凝集を防止することができる。その理由としては、シリカ粒子中に残存しているシラノール基同士の反応が、水分により阻害され、ポリエステル組成物の製造工程に添加した後のシリカ同士の凝集が抑制されるためと推定される。また、同様に水分によって触媒とシリカ粒子との反応に起因する凝集も抑制されるためと推定される。したがって、アルキレングリコールスラリー中の水分率が上記下限未満の場合は、シリカ粒子の凝集抑制効果が発現されにくくなる。そのような観点から、水分率は多いほど良いように一見考えられるが、水分率が上記上限を超えると、シリカ粒子自体の加水分解が進行してシラノール基が発生するためか、むしろ凝集が多くなる。
【0016】
ところで、アルキレングリコールスラリー中のシリカ粒子の濃度は、シリカ粒子の分散安定性とポリエステル組成物の製造工程における副生物の発生を抑制する点から、スラリーの重量を基準として、2〜25重量%の範囲が好ましく、更に5〜20重量%の範囲が好ましい。また、シリカ粒子のアルキレングリコールスラリーは、前述の水分率に調製する前に、事前に加熱処理を行い、シリカ粒子中に残存しているシラノール基をアルキレングリコールとの反応で減少させることが好ましい。加熱処理温度は120〜230℃の範囲で、さらに150〜195℃の範囲で行うことが好ましい。加熱処理の時間は加熱温度によって適宜調整すればよいが、十分に処理を行う観点から60分以上行うことが好ましい。他方、加熱処理時間の上限は特に制限されないが、生産性や加熱によるジアルキレングリコールなどの副生物の発生を抑制する点から5時間以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明で使用するシリカ粒子は、平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子である。好ましい平均粒径は、1.0μm以下、さらに0.5μm以下である。なおシリカ粒子の平均粒径の下限については、特に制限されないが、取扱い性などの観点から0.01μm以上であることが好ましい。またシリカ粒子の形状は真球状であることが好ましい。本発明における真球状とは、例えば走査型電子顕微鏡により、用いたシリカ粒子のサイズに応じた倍率にて各粒子の写真を撮影し、画像解析処理装置ルーゼックス500(日本レギュレーター社製)を用い、投影面最大径(D)(μm)と投影面の面積円相等径とを測定し、さらに面積円相等径から球として算出した粒子の体積(V)(μm)と前述の投影面最大径(D)(μm)とから、体積球状係数(f)を算出した。なお、体積球状係数(f)はVをDで割ったものである。そして、本発明における真球状粒子とは、fが0.4〜π/6といった粒子を意味する。また、本発明におけるシリカ粒子は、フィルムとしたときに比較的均一な突起高さの突起を形成しやすい球状の形状を有する粒子が好ましいことから、シリカ粒子の長径の平均値(D)を、シリカ粒子の短径の平均値(D)で割った粒径比(D/D)が1.0〜1.2の範囲にあることが好ましい。また、好ましく使用する真球状シリカ粒子は、不活性粒子自体に含まれる粗大粒子の少ないものが好ましく、積算粒子数70%の粒子径(D70)を積算粒子数30%の粒子径(D30)で割った値(D70/D30)が1.1〜2.0、さらに1.2〜1.5の範囲にあることが好ましい。
【0018】
なお、本発明のシリカ粒子のアルキレングリコールスラリーは、ポリエステル組成物に添加する前に、アルキレングリコールスラリー中に含まれる凝集粒子やわずかに含まれる粗大粒子を除去することを目的にフィルターにてろ過処理することが好ましい。使用されるフィルターの目開きはシリカ粒子の粒径によって決められる。
【0019】
つぎに、もう一つの本発明であるポリエステル組成物の製造方法について説明する。本発明のポリエステル組成物の製造方法は、芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させることによって得られた反応生成物を重縮合反応させ、かつエステル化反応もしくはエステル交換反応が80%以上進行するまでの間に、前述の本発明のアルキレングリコールスラリーを添加する。
【0020】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、前述の本発明のアルキレングリコールスラリーを、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、シリカ粒子の添加量が0.001〜5.0重量%となるように添加される。好ましい添加量の範囲は、0.01〜2.5重量%、さらに0.05〜1.0重量%の範囲である。シリカ粒子の添加量が下限未満では、シリカ粒子を添加したことによる滑り性などの改善効果が乏しくなりやすく、他方上限を超えると、シリカ粒子の凝集が増加してくる。
【0021】
本発明におけるポリエステルは、ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルが好ましく、フィルムなどへの製膜性を有するものであれば特に制限はされない。そのようなポリエステルの中でも、力学的特性の観点などから、全繰り返し単位の80mol%以上、特に85mol%以上がエチレンテレフタレート単位またはエチレン−2、6―ナフタレート単位からなるポリエステルが好ましい。そのような観点から、本発明におけるアルキレングリコールスラリーは、炭素数2〜4のアルキレングリコールスラリーが好ましく、特にエチレングリコールスラリーが好ましい。もちろん、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば芳香族ポリエステルの全繰返し単位に対して、20モル%以下、さらに15モル%以下、特に10モル%以下で、他の第3成分を共重合した共重合体であっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(エチレンー2、6―ナフタレート単位の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(エチレンテレフタレート単位の場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、エステル化反応もしくはエステル交換反応を経由し、それらで得られた低重合体を重縮合反応させる溶融重合法である。なお、エステル化反応でもエステル交換反応のいずれを経由してもよいが、反応中の水分量を制御しやすいことから、エステル交換反応を経由することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法において、エステル化反応およびエステル交換反応は、触媒の存在下で行ってもよい。存在させる触媒としては、フィルムなどに成形したときに、得られる成形品の表面をより平坦にしやすいことから、比較的添加量を少なくでき、しかも水の存在によって反応速度の低下が少ないチタン化合物が好ましい。また、チタン化合物を使用することにより、ポリエステル組成物中のシリカ粒子の分散をより良化させることができる。
【0024】
ところで、本発明で用いるチタン化合物としては、ポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましく、特に得られるポリエステル組成物やそれを成形したフィルムに、優れた耐熱性を付与できることから、下記一般式(I)
Ti(OR)(OR)(OR)OR (I)
(式(I)中の、R、R、RおよびRは、炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基を表す。)
で表される化合物、または、上記一般式(I)で表される化合物と下記一般式(II)
6−n(COOH) (II)
(式(II)中、nは2〜4の整数である。)
で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物が望ましい。
【0025】
具体的な上記一般式(I)で表わされるチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシドなどを好ましく例示できる。一方、上記一般式(I)のチタン化合物と反応させる上記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物を好ましく例示できる。
【0026】
なお、上記一般式(I)のチタン化合物と上記一般式(II)の芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させるには、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部を溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
【0027】
添加するチタン化合物の量は特に規定しないが、ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として、チタン元素換算で、2〜30ミリモル%の範囲にあることが好ましい、特に3〜15ミリモル%の範囲にあることが好ましい。該チタン化合物量が2ミリモル%より少ない場合、チタン化合物による反応速度の向上効果が乏しくなり、他方該チタン化合物量が50ミリモル%を超える場合は、重縮合反応中に熱分解反応が同時に進行しやすくなり、重合度を上げにくくなったり、熱安定性が悪化する。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、エステル化反応もしくはエステル交換反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0028】
ところで、本発明の製造法における、シリカ粒子を含有するアルキレングリコールスラリーの添加時期は、シリカ粒子の分散性を高めるために、より早い段階で添加することが必要であり、エステル化反応もしくはエステル交換反応において、そのポリエステル前駆体のエステル化反応率もしくはエステル交換反応率が80%に達するまでに添加することが好ましい。エステル化反応率もしくはエステル交換反応率が上記の値以上となってから添加すると、ポリエステル組成物中のシリカ粒子の分散状態が悪化し、また大きな凝集も発生しやすくなる。なお、エステル化反応率およびエステル交換反応率は、例えばエステル交換反応によってメタノールが発生する場合、発生しているメタノールの量とトータル発生するメタノールの量の比により把握することができる。好ましいのは、エステル化反応またはエステル交換反応の開始時から存在するように添加するのが好ましい。
【0029】
また、本発明の製造方法は、エステル化反応もしくはエステル交換反応が終了してから重縮合反応を開始するまでの間に、熱安定剤としてリン化合物を添加することが好ましい。使用するリン化合物の種類については特に限定をされず、既知のものが使用できるが、下記式(III)で示されるホスホネート化合物を添加することが好ましい。(III)で示されるホスホネート化合物を添加することでより分散性を高めることができる。(III)で示されるホスホネート化合物について特に好ましく用いられるものとして、ジエトキシホスホノ酢酸エチル、ジエトキシホスホノ酢酸メチルが例示される。
【0030】
【化1】

(式III中、RおよびRは、それぞれ炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xは−(CH)m−又は−CH(Y)−(mは0以上4以下の整数、Yはフェニル基)を表す。)
【0031】
本発明におけるリン化合物の添加量は、エステル交換反応またはエステル化反応の違いや、使用するチタン化合物触媒の添加量によって変化するが、使用するチタン化合物触媒の量を基準として、以下の関係を満足することが好ましい。
0.5≦P/Ti≦3.0
(上記式中の、PおよびTiは、それぞれポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準としたときの、はリン化合物のリン元素換算のモル%とチタン化合物のチタン元素換算モル%である。)このような範囲内とすることで、重縮合反応性また得られるポリエステル組成物を保ちつつ、シリカ粒子の分散性を高めることができる。
【0032】
ところで、該ホスホネート化合物の添加方法としては、よりシリカ粒子の凝集を抑制しやすいことから、アルキレングリコール溶液の状態で添加するのが好ましい。アルキレングリコール溶液中のリン化合物の濃度は特に指定されないが、凝集抑制の面からはできるかぎり濃度が低い方が好ましい。ただし、過度に濃度が低くなると、過剰にアルキレングリコールを添加することになり、ポリエステル組成物中のジエチレングリコール量が増加させるといった問題があり、0.5〜30重量%、さらに1〜20重量%の範囲で添加するのが好ましい。なお、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0033】
このようにして、リン化合物を添加した後、所望とする固有粘度になるまで重縮合反応を行う。使用する重縮合反応触媒については特に制限はされないが、前述のとおり、チタン化合物を重縮合反応触媒としても用いるのが好ましい。もちろん、必要に応じて、さらに固相重合などを行ってもよい。なお、得られるポリエステル組成物の固有粘度は、フィルムとしたときの強度や耐摩耗性などの観点から、0.40dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.45〜1.0dl/gの範囲であることが好ましい。
【0034】
以上、説明してきた本発明のスラリーと製造方法を用いれば、シリカ粒子のポリエステル組成物中での分散性を向上でき、シリカ粒子を凝集させることなく均一に分散させたポリエステル組成物を製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル組成物の特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0036】
(1)固有粘度(IV)
ポリマーサンプルを35℃の温度下で、オルソクロロフェノールに溶解して測定した。
【0037】
(2)シリカ単粒子の分散率
フィルムサンプルをエイコーエンジニアリング(株)製スバッターリング装置(1B−2型イオンコーター装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、シリンダージャー内に試料を設置し、約6.65Paの真空状態まで真空度を上げ、電圧0.45kV、電流5mAにて約15分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にてフィルム表面に金スパッターを施した。そして走査型電子顕微鏡(日立製S−2150)を用いて、測定倍率5千〜2万倍で1×10−2mmの範囲にある全一次粒子数及び凝集粒子の数をカウントし、下記式より求めた。なお、ここで、2ケ以上のシリカ粒子が集まっているものを凝集粒子とし、2個の一次粒子からなる場合は凝集粒子数は2個、3個の一次粒子からなる場合は凝集粒子数は3個といったようにカウントした。
凝集粒子率(%)=凝集粒子数÷全一次粒子数×100
【0038】
(3)シリカ粒子の大凝集数
フィルムサンプルを(2)と同様にイオンエッチングおよび金スパッターを行った後に走査型電子顕微鏡にて測定倍率2千〜1万倍で、10個以上の一次粒子が凝集している大凝集物を1mmの範囲でカウントした。なお、大凝集物の数は、それを形成する個々の一次粒子の数ではなく、集合体としての数をカウントした。
【0039】
(4)水分率の測定
微量のシリカアルキレングリコールスラリーを平沼産業(株)製水分測定装置(AQ−3C)にて水分量の測定を行い、水分率を算出した。
【0040】
[実施例1]
エチレングリコールに、平均粒径が0.1μmで、体積球状係数が0.52の真球状シリカ粒子と水とを添加して、スラリーの重量を基準として、シリカ粒子の含有量が10重量%で水分率が2.5重量%のシリカ粒子含有エチレングリコールスラリーを用意した。
つぎに、2,6−ナフタレンジメチルエステル(NDCM)100モルとエチレングリコール(EG)200モルとをエステル交換反応槽に仕込み、170℃まで昇温した。次いでテトラブトキシチタンとトリメリット酸をモル比1:2で反応させた化合物であるトリメリット酸チタンを0.008モル添加し、前述のシリカ粒子含有エチレングリコールスラリーを、得られるポリエステルの重量を基準として、シリカ粒子の含有量が0.3重量%となるように添加した。
その後エステル交換反応槽全体を0.10MPaへ加圧してエステル交換反応を実施した。エステル交換反応槽内温が235℃に到達後、放圧し、ジエトキシホスホノ酢酸エチルの10wt%エチレングリコール溶液を、リン量で0.015モル添加し、245℃に昇温した。得られた反応生成物を重合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度300℃、100Paの真空下で重縮合を行い、固有粘度0.62dl/gのポリエステル組成物を得た。
【0041】
このようにして得られたポリエステル組成物を180℃で4時間乾燥した後、290℃で溶融状態とし、回転しているキャスティングドラムに溶融状態のポリエチレン−2、6−ナフタレート樹脂組成物を押出して、厚さ350μmの未延伸シート状物を得た。次いでこの未延伸シートを二軸延伸装置にて150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ3.75倍で同時二軸延伸し、厚さが25μmのフィルムサンプルを作成した。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0042】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
表1に示すとおり、シリカ粒子の粒径、スラリー中の水分率、添加量、添加時期を変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ポリエステル組成物に凝集を起こしやすい平均粒径の小さなシリカ粒子を均一に分散させることができ、それをフィルムに用いた場合、極めて表面平坦性の優れたフィルムとすることができ、例えば磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させることによって得られた反応生成物を重縮合反応させるポリエステル組成物の製造方法において、
エステル化反応もしくはエステル交換反応の80%が終了するまでの間に、平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子をアルキレングリコールスラリーの状態で、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、0.001〜5.0重量%となるように添加すること、そして
アルキレングリコールスラリーは、水分率が1.0〜5.0重量%の範囲にあること
を特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【請求項2】
エステル化反応もしくはエステル交換反応が、チタン化合物の存在下で行われる請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項3】
エステル交換反応を経由する請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項4】
シリカ粒子を含有するアルキレングリコールスラリーであって、水分率が1.0〜5.0重量%の範囲にあることを特徴とするポリエステル組成物用アルキレングリコールスラリー。

【公開番号】特開2011−1453(P2011−1453A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145404(P2009−145404)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】