説明

ポリエステル組成物

【課題】
チタン触媒を使用し、耐熱性が優れ、エチレンテレフタレート環状三量体含有量の少ないポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】
90mol%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルであって、重合触媒金属化合物がチタン化合物、重合助触媒が特定のリン化合物であって、エチレンテレフタレート環状三量体の含有量が0.4wt%以下であり、末端カルボキシル基濃度が25eq/Tを超え、50eq/T以下、かつ固有粘度が0.50dl/g以上、0.70dl/g未満であることを特徴とするポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物に関する。詳しくは、透明性に優れ、エチレンテレフタレート環状三量体含有量の少ないポリエステル組成物に関する。本ポリエステル組成物で製造されたフィルムは透明性、平滑性に優れ、光学用、包装用、離型用、鋼板貼り合わせ用などの各種工業材料用フィルムの原料として活用でき、特に光学用フィルムの原料として好適である。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル組成物はジカルボン酸成分とジオール成分の重縮合によって得られ、特に、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造される線状高分子であり、汎用性、実用性の点で優れており、フィルム、シート、繊維などの素材として好適に使用されている。
【0003】
しかし、ポリエステルの成形工程等において、環状化合物の析出が問題となっている。例えば、磁気記録材料用のベースフィルムであれば、環状化合物が析出によって粗大突起を形成して磁気記録を阻害したり、光学用ベースフィルムであれば、加工工程での加熱により環状化合物が析出したりして光学的な濁りや輝点を発生させ、鋼板貼り合わせ用フィルムであれば、鋼板に貼り合わせた後の外観に曇りを発生させる。
【0004】
これらの環状化合物については、種々の報告がなされており、例えばポリエチレンテレフタレートについては、環状化合物の主たる成分はエチレンテレフタレート環状三量体(以下環状三量体と呼ぶことがある)であり、これらはポリエチレンテレフタレートの重縮合反応時に平衡反応で生成することが、例えば非特許文献1、2により報告されている。
【0005】
また、これらポリエチレンテレフタレートの製造には、重縮合触媒として主にアンチモン化合物が使用されている。しかしながら、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用して重合したポリエステル組成物は、固相重合等で環状三量体含有量を低減したポリエステルを用いても、溶融成形時に環状三量体が増加する速度が速いため、成形品に含まれる環状三量体量が多くなりやすい。そこで、アンチモンを全く使用しないかまたは使用しても極低量とすること、または他の金属を使用することが望まれている。
【0006】
アンチモン系触媒の代わりに、ゲルマニウム化合物を使用して重合したポリエステル組成物も公知である。しかし、ゲルマニウム化合物はアンチモン化合物よりも溶融成形時の環状三量体の増加速度が若干遅いものの、埋蔵量が僅かであるため、非常に高価であり、その代替として使用可能な触媒が望まれていた。そこで、安価なチタン化合物を使用して重合したポリエステル組成物が各種提案されている。チタン触媒は、アンチモン触媒やゲルマニウム触媒に比べ活性が高く少量の使用ですみ、更にアンチモン触媒やゲルマニウム触媒に比べて溶融成形時の環状三量体の増加速度が遅いため、チタン触媒を用いたポリエステル組成物は工業上価値ある検討課題である。
【0007】
上記課題を解決すべく、規定量、規定種の重合触媒で重合したポリエステルチップを固相重合(特許文献1)する方法、固有粘度や末端カルボキシル基濃度を特定の値にする(特許文献2)方法等が検討されている。しかし、これらの方法では、得られるポリエステル中の環状三量体量が変動するため、一定品質のポリエステルを工業的に得ることが非常に困難であった。
【0008】
また、かかる固相重合法により環状化合物を減少させる技術では、同時にポリエステルの重縮合反応も進行し、重合度の上昇も大きくなるため、環状化合物含有量の少ない成形品製造用原料としては不適当であった。
【0009】
すなわち、ポリエステルの重合度が大きくなると成形する際に溶融時のポリマーの粘度が大きくなり、そのために押し出し時の負荷が大きくなったり、また剪断発熱によりポリマー温度が上昇し、熱分解などの問題を生じたりすることとなる。
【0010】
そこで、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより環状化合物を減少させる加熱処理が実施されている。しかし、チタン触媒を用いて重合したポリエステル組成物は、加熱処理しても環状三量体減少速度が著しく遅いため、長時間の加熱処理が必要である。
【0011】
そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、チタン触媒で重合したポリエステルは結晶化速度が十分でないために環状三量体が十分に減少しないことを明らかにした。すなわち、ポリエステルの結晶化は結晶核を中心として開始するが、チタン触媒は他の重合触媒のように金属メタルを生成せず、結晶核を持たないため、結晶化速度が十分でない。
【0012】
更なる検討の結果、結晶核剤を添加することで、加熱処理時の環状三量体減少速度が大幅に上昇し、ポリエステルの環状三量体含有量を0.4wt%以下に下げられることを見出した。
【0013】
また、チタン化合物を重合触媒として用いると、その活性の高さゆえに副反応も促進してしまい、結果として熱安定性が悪くなったりポリマーが黄色く着色するという問題が生じてしまう。ポリマーが黄色味を帯びるということは、例えばポリエステルを繊維として用いる場合、特に衣料用繊維として用いる場合や光学用フィルムに用いる場合には好ましくない特性である。かかる問題に対して、チタン化合物とともにリン化合物を添加することでポリマーの耐熱性や色調を向上させる検討が広くなされている。この方法は、リン化合物により高すぎるチタンの活性を抑制して,ポリマーの耐熱性や色調を向上させるというものである。例えば、(特許文献3)にはチタン化合物を触媒として用いるポリエステルにおいて、リン化合物として燐酸や亜燐酸を添加する方法、また(特許文献4)においては、リン化合物として、リン酸塩や亜リン酸塩を添加する方法、また(特許文献5)には、燐酸化合物としてホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物を添加する方法について明示されている。しかしながら、これらの方法を用いると、確かにポリマーの耐熱性に一定の工場は見られるものの、リン化合物をある添加量以上加えるとチタン化合物の重合活性が抑えられ過ぎてしまい、目標の重合度まで到達しなかったり、重合反応時間が著しく伸びてしまい結局ポリマーの色調が悪化するといった問題が生じた。それに対して、(特許文献6)では、チタン化合物とリン化合物のモル比(Ti/P)をある一定の範囲に規定する方法について明示されている。この方法によれば、確かにチタン化合物の触媒の失活は防げるものの、ある一定レベル以上の耐熱性や色調を得ることはできない。上記の通り、チタン化合物の重合反応活性を損なうことなく、副反応を抑制すると言う矛盾した課題を解決する必要があった。そこで、本発明では上記課題を改善することについて鋭意検討した結果、チタン化合物を重合触媒としてポリエステルを得る工程において、特定のリン化合物を添加することにより本発明の目的を達成できるという知見を得た。
【非特許文献1】ピー・ジェイ・フローリー著「高分子化学」(岡小天、金丸競共訳、丸善出版社発行)P90〜97
【非特許文献2】湯木 和男著 飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社)P167〜178
【特許文献1】特開2001−048966号公報
【特許文献2】特開2006−096840号公報
【特許文献3】特開平6−100680号公報
【特許文献4】特開2000−143789号公報
【特許文献5】特開2004−292657号公報
【特許文献6】特開2000−256452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、チタン触媒を使用し、透明性に優れ、エチレンテレフタレート環状三量体含有量の少ないポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した本発明の目的は、90mol%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルであって、重合触媒金属化合物がチタン化合物、重合助触媒が後述の式1で表されるリン化合物であって、エチレンテレフタレート環状三量体の含有量が0.4wt%以下であり、末端カルボキシル基濃度が25eq/Tを超え、50eq/T以下、かつ固有粘度が0.50dl/g以上、0.70dl/g未満であることを特徴とするポリエステル組成物により達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チタン触媒を使用し、透明性に優れ、エチレンテレフタレート環状三量体含有量の少ないポリエステル組成物を提供することができる。本発明のポリエステル組成物は、成形体の使用時の環状三量体の析出による欠点を防止でき、繊維、フィルム、ボトルなどに有効に使用することができる。特に光学フィルムなどの光学基材用途、食品用の容器、鋼板貼り合わせ用、包装用途や離型用フィルムとして有効である。中でも光学用フィルムとして好適である。本発明のポリエステル組成物を使用することにより、環状三量体による製糸時の油剤の汚染や製膜時のキャスティング・延伸設備の汚染などを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレートは共重合してもかまわないが、ポリエステル構成単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位である必要がある。エチレンテレフタレート成分が90モル%未満である場合、ポリエステルの結晶性が悪くなり、本発明のポリエステル組成物の製造方法における結晶化度を満足することが難しくなる場合がある。
【0018】
これらポリエステルの共重合成分としてジカルボン酸成分、グリコール成分、多官能成分を挙げることができ、例えばジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウムおよびこれらのアルキルエステルなどの芳香族ジカルボン酸成分、アジピン酸、セバシン酸、およびこれらのアルキルエステルなどの脂肪族ジカルボン酸成分、1,4シクロヘキサンジカルボン酸およびこれアルキルエステルなどの脂環族ジカルボン酸成分を挙げることができる。グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、イソソルベート等をあげることができる。また多官能成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸成分、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールを挙げることができる。さらにpヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸を共重合成分として用いても良い。
【0019】
さらに、上記のポリエステルは、他に、ポリエステルと非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つを5重量%を超えない程度に含有または共重合されていてもよい。
【0020】
本発明のポリエステルの製造方法は、リン化合物として式1で表されるリン化合物を任意の時点で添加することが必須である。
【0021】
【化1】

【0022】
(上記式1中、Xは、炭素数1〜10の炭化水素基または硫黄を表す。炭化水素基は脂環構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよく、あるいは置換基を含有しても良い。R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜30の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜10の炭化水素基を表しており、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。なおa+b、c+dは0〜4の整数である。)
チタン系重縮合触媒の存在下に重縮合させてポリエステルを得る方法において、式1で表されるリン化合物を添加すると、驚くべきことに、得られるポリマーの色調と耐熱性が飛躍的に改善される。ポリエステルの着色や耐熱性の悪化は、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P.178〜198)に明示されているように、ポリエステルの副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は、金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このビニル末端基によりポリエンが形成されることによってポリマーが黄色に着色し、また、アルデヒド成分が発生するために、主鎖エステル結合が切断されるため、耐熱性が劣ったポリマーとなる。特にチタン化合物を重合触媒として用いると、熱による副反応の活性化が非常に強いために、ビニル末端基成分やアルデヒド成分が多く発生し、黄色に着色した耐熱性が劣ったポリマーとなる。従来のリン化合物は、このチタン化合物にリン化合物を適度に相互作用させることにより、チタン触媒の活性を調節していた。しかし従来のリン化合物では、チタン化合物の副反応の活性とともに重合活性も低下させることは避けられなかった。ところが、本発明の式1に示されるリン化合物では、チタン化合物の重合活性を十分に保持したままに、副反応活性のみを極めて小さく抑えることが出来る。この効果は現在のところ完全に明らかにはなっていないが、式1のリン化合物のようにビスフェノール型の骨格を挟んで1分子中に2つ以上のリンを有するリン化合物では、チタン化合物に対する相互作用の結果、重合反応に対する触媒活性には影響を及ぼさないが、副反応である熱分解に対する触媒活性のみを著しく低下させるようなチタン−リン化合物を反応系中で形成しているものと推定している。これは、従来のリン化合物のチタン化合物への効果とは、本質的に異なったもの、あるいは少なくとも従来のリン化合物では十分に達成し得なかったものである。
【0023】
中でも、式2〜式4で表されるリン化合物であることが、色調や耐熱性の面から好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
(上記式2〜4中、R〜R、R11、R12、R15、R16は、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜30の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。R〜R、R13、R14、R17、R18は、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜10の炭化水素基を表しており、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。なおa+b、c+d、e+f、g+hはそれぞれ0〜4の整数である。R、R10は、水素または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
特にR〜R、R11、R12、R15、R16が、それぞれ炭素数5〜20の炭化水素基、R〜R、R13、R14、R17、R18が、それぞれ炭素数1〜5の炭化水素基、R、R10が、それぞれ水素または炭素数1〜5の炭化水素基であると、色調、耐熱性が良好となり好ましい。
【0026】
上記式2にて表されるリン化合物としては、例えばa+b=0、c+d=0、R、R10=メチル基の化合物として4,4‘−イソプロピリデン−ジフェノールアルキル(C12−C15)ホスファイトがあり、この化合物はアデカスタブ1500(旭電化社製)またはJA−805(城北化学社製)として入手可能である。また、a,c=1(R,R=メチル基)、b,d=1(R,R=tert−ブチル基)、R=水素、R10=プロピル基の化合物として4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイトがあり、この化合物はアデカスタブ260(旭電化社製)として入手可能である。
【0027】
また、式3にて表されるリン化合物としては、例えば、a,c,e=1(R,R,R13=メチル基)、b,d,f=1(R,R,R14=tert−ブチル基)R=水素、R10=イソプロピル基の化合物として1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−tert−ブチルフェニル)ブタンがあり、アデカスタブ522A(旭電化社製)として入手可能である。これらの化合物は単独で用いてもまたは併用して用いてもよい。
【0028】
本発明のポリエステル組成物にリン化合物を添加する場合、リン化合物を単独で添加してもよく、エチレングリコール等のジオール成分に溶解させた状態または分散させて添加してもよい。
【0029】
本発明のポリエステルの製造方法は、チタン化合物が得られるポリマーに対して、酸化チタン粒子をのぞくチタン原子換算で1〜50ppmとなるように添加することが好ましい。1〜30ppmであるとポリマーの熱安定性や色調がより良好となり好ましく、更に好ましくは2〜10ppmである。また、本発明のポリエステルの製造方法は、チタン化合物と共にリン化合物がポリエステルに対してリン原子換算で1〜500ppmとなるように添加することが好ましい。なお、製糸や製膜時におけるポリエステルの熱安定性や色調の観点からリン添加量は、1〜200ppmが好ましく、さらに好ましくは5〜75ppmである。
【0030】
本発明のポリエステルの重合触媒として用いるチタン触媒としては、チタンキレート化合物やテトラアルコキシチタン化合物が好ましい。例えばチタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンエチルアセトアセテート、クエン酸チタン、シュウ酸チタン、乳酸チタン、チタンペルオキソクエン酸チタンアンモニウムなどのチタンキレートやテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネートなどのアルキルチタネートなどを挙げることができるが、なかでも、チタンキレート、テトラブチルチタネートを用いることが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステルは助触媒としてマグネシウム化合物を任意の時点で添加することができる。これは、熱安定性、環状三量体の含有量、固有粘度、色座標b値、体積固有抵抗値等、特に体積固有抵抗値を好ましい範囲にコントロールするために添加される。化合物の種類としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、酢酸マグネシウムが好ましい。これらは1種または2種以上混合して使用する事ができる。
【0032】
これらマグネシウムの添加量は、得られるポリエステル樹脂に対して、マグネシウム金属量換算で、0.1〜100ppmが好ましい。更に好ましくは10〜80ppmであり、もっとも好ましくは20〜70ppmである。0.1ppm以下の場合、体積固有抵抗の値を十分に低下させることができないことがあり、また、100ppmよりも多い場合はフィルムの異物欠点を形成したり、熱安定性に不利を招く傾向にある。
【0033】
結晶核剤は、無機物でも有機物でもよい。具体的には、例えば、タルク、クレーなどの粘土類;酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化鉄などの金属酸化物;炭酸塩(例えば炭酸マグネシウムなど)、ケイ酸塩、硫酸塩(例えば硫酸バリウムなど)、リン酸塩などの無機塩;モノカルボン酸の金属塩(例えばリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩など)、安息香酸の金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、有機燐化合物の金属塩(例えばマグネシウム塩、亜鉛塩など)などの有機酸塩;アイオノマー、ポリエステルオリゴマーのアルカリ金属塩、全芳香族ポリエステルなどの高分子微粉末;カーボンブラック、グラファイト、アルミニウムなどの無機単体粉末を挙げることができる。これらの結晶核剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの結晶核剤の中でも、酢酸ナトリウムが好ましい。なお、平均粒径が0.1〜100μmのものが最も好ましく用いられる。
【0034】
本発明における結晶核を0.1〜1000ppm含むポリエステル組成物を得るためには、結晶核剤をPETに対して0.05〜800ppm添加することが好ましく、50〜600ppmであることが更に望ましい。添加量が0.05ppm以下である場合には、ポリマー中に生成する結晶核量が十分でなく、加熱処理時に結晶化速度が遅く、環状三量体の減少速度が低下する。また、800ppm以上添加した場合は、ポリマー中に生成する結晶核量が多すぎ、異物となるため好ましくない。また、結晶化促進剤の添加量は、PETに対して1〜1000ppmであることが好ましい。
【0035】
結晶化促進剤を添加することもできる。結晶化促進剤としては、PETの可塑剤として作用する低分子化合物又は高分子化合物を用いることができ、特に融点が80℃以下のものが好適に使用できる。上記低分子化合物としては、例えばベンゾフェノンなどのケトン;テトラクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素;ネオペンチルグリコールジベンゾエート、トリフェニルフォスフェート、フタル酸エステルなどのエステル;N−置換芳香族アミドなどのアミド類を挙げることができる。上記高分子化合物としては、例えばカプロラクトンその他の各種脂肪族ポリエステル類;末端封鎖脂肪族ポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリグリコール類;末端封鎖ポリグリコール類;脂環式カルボン酸変性ポリオレフィンなどのポリオレフィン類;ナイロン6などのポリアミドを挙げることができる。これらの結晶化促進剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記結晶化促進剤の添加量は、使用するPETの種類によっても相違するが、少な過ぎると、結晶化度が小さくなりやすく、逆に多過ぎると、結晶化度は高くなるが、PET本来の物性が損なわれやすく、いずれも得られる成形品の機械的強度が低下しやすくなる。
【0037】
酢酸ナトリウム等のエチレングリコールに可溶の金属塩は、エチレングリコールを50〜100℃に加熱し、30分以上攪拌した後に反応系に添加することで粒径の優れた結晶核が得られる。50℃以下または100℃以上の場合、結晶核が上手く形成されない。また、該エチレングリコール溶液は、溶融重縮合前または溶融重縮合中に添加することができる。
【0038】
加熱処理前のポリエステル組成物は、末端カルボキシル基濃度が25eq/Tを超え、50eq/T以下で、更に好ましくは25eq/Tを超え、40eq/T以下、最も好ましくは28〜40eq/Tである。25eq/T以下では、加熱処理後のポリエステルの末端カルボキシル基濃度が少なく、製膜時に破れの原因となる。また、50eq/T以上の場合、加熱処理時の環状三量体の減少速度が遅くなり好ましくない。
【0039】
加熱処理前のポリエステル組成物は、固有粘度が0.50dl/g以上、0.70dl/g未満の範囲にある。0.50dl/g未満では、環状三量体は減少しやすいものの得られたポリエステル成型体は機械特性が不十分となる。固有粘度が0.70dl/g以上の場合には環状三量体の減少速度が遅く、長時間の加熱処理が必要になり経済的に不利である。好ましい固有粘度は0.55dl/g以上、0.70dl/g未満の範囲、さらには0.60〜0.68dl/gの範囲が好ましい。このような範囲の固有粘度を有するポリエステル組成物は、通常の溶融重合において重合撹拌トルクを制御することで得ることができる。
【0040】
上記したポリエステル組成物を得る方法について次に示す。
【0041】
ポリエチレンテレフタレートの場合には例えば、次のいずれかのプロセスにより製造することができる。すなわち、(1)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。本発明においては、(1)または(2)のいずれの方法でも採ることができる。(1)または(2)どちらの方法においても、結晶核剤、結晶化促進剤はエステル化反応またはエステル交換反応の前及び/または反応中、及び/または重縮合反応の及び/または反応中に添加することができる。さらに必要に応じて酸化防止剤、ブロッキング防止剤などを反応前、反応中に添加することができる。
【0042】
ポリエステル組成物の固有粘度は、重合の終点をポリマーの撹拌トルクで判定することができる。撹拌トルクが高い場合にはポリマーの溶融粘度が高く、固有粘度も高くなる。目的とする固有粘度になるように重合装置の終点判定撹拌トルクを設定すればよい。
【0043】
得られた重合の終了したポリエステル組成物は重合装置下部からストランド状に吐出し、水冷しながらカッターによってカッティングすればよい。
【0044】
得られたポリエステル組成物は、加熱処理する前に乾燥することが好ましい。乾燥はチップを減圧下または熱風流通下で120℃〜180℃に加熱し、2時間以上加熱すればよい。このような乾燥工程によってポリエステル組成物の結晶化度も30%以上とすることができる。
【0045】
本発明のポリエステル組成物から成形性、製膜性に優れたポリエステル組成物を得るための加熱処理方法について以下に説明する。
【0046】
圧力が960hPa以上、1160hPa以下、流通量がポリエステル1kgあたり0.1リットル/hr未満の不活性ガスの雰囲気下、190℃以上250℃以下の温度で、0.5時間以上60時間以下加熱する方法を好ましく採用することが出来る。
【0047】
不活性ガス雰囲気としては、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスや窒素ガス、炭酸ガス等を挙げることができる。このうち窒素ガスが入手しやすく、好ましく用いることができる。これらの不活性ガスに含有される酸素や水の濃度は、500体積ppm以下であることが好ましい。酸素や水の濃度が500ppmを超える場合にはポリエステルの劣化が起こりやすくなり、ポリエステルの着色などの原因となる。
【0048】
上記処理において、圧力が高いほど末端カルボキシル基濃度が増加する傾向にあり、圧力が1160hPaを越えると、末端カルボキシル基濃度が多くなりすぎるためか、フィルムの巻き取り特性が低下、フィルムに傷が発生しやすくなり、環状三量体の析出が多くなる傾向がある。
【0049】
一方、圧力が低いほど固相重合に近い状態となって、末端カルボキシル基濃度が低下する傾向にあり、960hPa未満になると、フィルム成形工程において延伸ロールとフィルムの密着性が低下して滑りやすくなり、フィルム表面に傷が付きやすくなり、環状三量体の析出抑制が困難となる傾向がある。1000hPa〜1100hPaが更に好ましい。
【0050】
不活性ガスの流通量が1kgあたり0.1リットル/hr以下であると、いわゆる固相重合が起きないので、ポリエステルの末端カルボキシル基濃度が低下せず、環状三量体の抑制が良好となり好ましい。
【0051】
加熱処理を施す温度は、190℃〜250℃の範囲である。190℃未満では環状三量体減少速度が遅いために処理時間が長くなり、経済的に不利であり、一方処理温度が250℃を超える場合にはポリエステル組成物の融着が起こりやすく、さらには熱劣化も起こるためにポリエステルの着色が激しくなる。好ましい温度範囲は200℃〜240℃であり、さらには220℃〜235℃の範囲が好ましい。
【0052】
加熱処理を施す時間は0.5〜60時間の範囲である。ポリエステル組成物に残存する重合触媒の量や処理温度によって時間は変わるが、0.5時間未満では十分に環状三量体を減少させることが困難であり、60時間を超える場合には経済的に不利となる。上記した製造方法によって、ポリエステルの重合度を上昇させず、着色などさせずに環状三量体のみを減少させることができる。更に好ましくは10〜50時間、最も好ましくは15〜35時間である。
【0053】
加熱処理を施すポリエステル組成物は、結晶化度が30%以上である。環状三量体はポリエステル組成物の非晶部に存在するため、結晶化が進行すれば環状三量体は非晶部に濃縮されることになる。このような状態のポリエステルは、非晶部において過飽和となった環状三量体が平衡量まで減少するために、ポリエステル組成物全体としての環状三量体量を低減することができる。結晶化度が30%未満である場合、非晶部における環状三量体の過飽和度が不十分なために大きな環状三量体低減効果を期待することができない。なお、結晶化度は加熱処理の最中にも高めることができ、最終的には70%以上の結晶化度とすることが好ましい。結晶化度を30%以上とする方法は、加熱処理の前に結晶化処理工程を設けることが好ましく、例えばポリエステル組成物を減圧下、または熱風流通下において120〜180℃で2時間以上加熱することが好ましい。該工程を乾燥工程と兼ねても良い。
【0054】
ポリエステル組成物の結晶化度は密度変化によって確認することができ、例えば完全非晶部の密度を1.335g/cm 、結晶密度を1.455g/cm とすれば、結晶化度=(チップ密度−1.335)/(1.455−1.335)で求めることができる。
【0055】
上記の加熱処理に使用する熱処理装置としては、ポリエステルを均一に加熱できるものが好ましい。具体的には静置式乾燥機、回転式乾燥機、流動式乾燥機や種々の撹拌翼を有する乾燥機、連続式タワー乾燥機などを用いることができる。
【0056】
加熱処理後のポリエステル組成物は、末端カルボキシル基濃度が25当量/T未満、50当量/T以上である。25当量/T以下の場合、フィルム成形工程において延伸ロールとフィルムの密着性が低下して滑りやすくなり、フィルム表面に傷が付きやすくなる。さらに、フィルム表面に加工を施す際の接着性が不十分となる。一方、50当量/Tを超える場合、フィルムの巻き取り特性が低下し、フィルムに傷が発生しやすくなり、環状三量体の析出が多くなる傾向がある。好ましい範囲は25当量/T以上、40当量/T以下であり、最も好ましい範囲は28〜40当量/Tである。
【0057】
加熱処理後のポリエステル組成物は、固有粘度が0.50dl/g以上、0.70dl/g未満の範囲にある。本発明において固有粘度とは、オルトクロロフェノールを溶媒として25℃で測定したものであるが、これが0.50dl/g未満では成型品として不十分な機械特性となり、一方0.70dl/g以上の場合、溶融押し出しの際に剪断発熱が著しくなりポリマーの熱分解を誘発することがある。好ましい範囲は0.55dl/g以上、0.70dl/g未満であり、更に好ましくは0.60〜0.68dl/gである。
【0058】
加熱処理後のポリエステル組成物中の環状三量体の含有量は0.4重量%以下、好ましくは0.3重量%以下である。ポリエステル組成物中の環状三量体の含有量が0.4重量%を超えると、フィルム等の成形時に環状三量体の含有量が0.6重量%を超えることとなり、成形体の表面から環状三量体が析出し、析出物が表面欠点となるため好ましくない。
【0059】
加熱処理が終了したポリエステル組成物は冷却して槽内から取り出す。
【0060】
フィルムに成形する際にはポリエステル組成物を押出機に投入し、押出機に備え付けたスリット口金から連続して溶融シートを押し出す。押し出された溶融シートは静電印加法によって鏡面冷却ドラムに密着させ、非晶のキャストシートを得る。なお、積層フィルムとする際には、2台以上の押出機を用いてポリマーを溶融し、溶融したポリマーを積層ブロックや口金内で合流させて積層することができる。
【0061】
得られた非晶性のシートは次いで、種々の延伸法、たとえば、ロール延伸法あるいはテンター延伸法により二軸に延伸しこれを巻き取る。延伸の順序は逐次でも同時でもいずれでも良い。
【0062】
ここで縦方向への延伸とはフィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸をいい、例えば、延伸ロールを用いてロールの周速差により施される。この延伸は1段階で行ってもよく、また複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては2〜15倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0063】
横方向の延伸とはフィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、例えば、テンターを用いてフィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して幅方向に延伸する。延伸の倍率としては2〜10倍が好ましい。
【0064】
同時二軸延伸の場合はテンター内にてフィルムの両端をクリップで把持しながら搬送しつつ、縦方向および横方向に同時に延伸するものであり、この方法を用いてもよい。
【0065】
こうして二軸延伸されたフィルムは平面性、寸法安定性を付与するためにテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましく、均一に除冷後、室温まで冷やして巻き取られる。本発明のフィルムにおいては熱処理温度としては120〜240℃であることが平面性、寸法安定性などの点から好ましい。
【0066】
また、易接着層、粒子層等を形成する場合は、グラビアコートやメタリングバーなどのコーティング技術を用いて、延伸前、または縦延伸と横延伸の間でコーティング成分をインラインで塗布してもよいし、延伸後オフラインコーティングしてもよい。
【0067】
上記ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量は0.60重量%より小さいことが好ましく、0.50重量%より小さいことが好ましい。環状三量体はポリエステルの結晶部では存在できないため、フィルム成形の過程でポリエステルの結晶化が進行すれば非晶部へ偏在するようになる。非晶部で高濃度に偏在する環状三量体は、ポリエステル表面に析出しやすい状態にあり、非晶部での環状三量体量がおよそ1.2重量%を超えると析出してしまう。このため、ポリエステル組成物の結晶化度をc%(体積%)とすれば、環状三量体の含有量(重量%)は1.2×((100−c)/100)よりも小さいことが好ましい。よって結晶化度が50%のフィルムであれば、環状三量体の含有量は0.60重量%より小さいことが好ましく、0.50重量%より小さいことが好ましい。
【0068】
本発明のポリエステル組成物から得られるポリエステルフィルムは、長期の保管においても環状三量体がフィルム表面に析出しにくく、さらに加熱した状態でフィルムを処理しても環状三量体がフィルム表面に析出しにくいので、磁気記録媒体や光学用、包装用フィルムに好適である。フィルムの特定表面だけ環状三量体の析出を抑制したい場合であれば、積層フィルムとすることもできる。前記のポリエステル組成物を積層すれば、積層した面だけでなく、積層していない面の環状三量体析出を少なくすることもできる。積層を行う場合は、少なくとも一方の表面が上記した本発明のポリエステル組成物を含んでいることが好ましい。
【0069】
上記ポリエステル組成物およびポリエステルフィルムは、離型用や光学基材用のフィルム、鋼板貼り合わせ用フィルムおよび包装用フィルムに好適である。
【実施例】
【0070】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(1)ポリエステル中の環状三量体の測定
試料20mgをOCP(オルトクロロフェノール)に150℃で30分間溶解し、室温で冷却する。その後、内部標準として1、4−ジフェニルベンゼンを添加後、メタノール2mlを加えて、高速遠心分離機でポリマーを分離後、液層部を測定する。
【0071】
装置:島津製LC−10ADvp
カラム:YMC−Pack ODS−2 150mm×4.6mm
カラム温度:40℃
流量:1.3ml/min
注入量:10μm
検出器:UV240nm
溶離液:A液(純水):B液(メタノール)=25:75
(2)結晶核含有量の測定
ポリエステルをオルトクレゾール/クロロホルム(重量比7/3)に90〜100℃で溶解し、遠心分離器で遠心分離し、沈殿物をオルトクレゾール/クロロホルム(重量比7/3)で洗浄し、乾燥後重量を測定した。
(3)固有粘度
オルトクロロフェノールを用いて25℃で測定した。
(4)末端カルボキシル基濃度
ポリエステルをオルトクレゾール/クロロホルム(重量比7/3)に90〜100℃で溶解し、アルカリで電位差測定して求めた。
(5)ポリマーの色調(b値)
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型SM−T45)を用いて、ハンターb値を測定した。
(6)環状三量体析出量
縦・横5cm角のフィルムを150℃で30分間熱風オーブン内で加熱した後、走査型電子顕微鏡でフィルム表面を観察し、100μm四方あたりの直径が1μm以上の環状三量体析出物個数をカウントした。
(参考例)乳酸チタンナトリウムキレート化合物の合成方法
攪拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中の温水(371g)に乳酸(226.8g、2.52モル)を溶解させた。この攪拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(285g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、そしてその攪拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、そして減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(チタン含有量5.6重量%)を得た。{乳酸チタンナトリウムキレート化合物}
実施例1
高純度テレフタル酸(三井化学社製)82.5kgとエチレングリコール(日本触媒社製)35.4kgのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に4時間掛けて順次供給し、供給終了後も更に1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の101.5kgを重縮合槽に移送した。
【0072】
ここに酢酸マグネシウムをポリマーに対して441.1ppm(マグネシウム原子換算で50ppm)と酢酸ナトリウム0.025kgをエチレングリコール1.0kgに80℃で1時間攪拌後、添加した。ついでチタン元素としてポリマーに対して5ppm(重量)相当の参考例で準備した乳酸チタンナトリウムキレート化合物とポリマーに対して400ppm(リン原子換算で20ppm)相当の4,4‘−イソプロピリデン−ジフェノールアルキル(C12−C15)ホスファイト(旭電化社製、アデカスタブ1500)を添加する30分前に別の混合槽にて事前混合し、常温にて30分攪拌した後、その混合物を添加した。
【0073】
低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を235℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を130Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに90分とした。所定の撹拌トルクとなった時点で反応系を窒素ガスによって常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリエステルチップを得た。
【0074】
得られたポリエステルチップの固有粘度は0.64、末端カルボキシル基濃度は34当量/T、環状三量体の含有量は1.2重量%であった。
【0075】
このポリエステルを170℃で減圧下に乾燥し、結晶化度が60%であるポリエステルを得た。ついで乾燥済みのチップ100kgを回転式熱処理機に仕込み、内部圧力を1024hPaとした。ついで槽内温度を昇温し、230℃となった時点から20時間温度を保持したのちチップを取り出した。
【0076】
得られたチップの固有粘度は0.64dl/g、末端カルボキシル基濃度が34当量/T、環状三量体量は0.25重量%、結晶化度は70%であった。その他特性を表1に示す。
【0077】
処理の終わったチップを押出機に投入し、285℃で溶融し、口金からシート状に押し出した。溶融シートは、表面温度が25℃に制御された鏡面ドラムへ静電印加法によって密着させて冷却した。ついで得られた非晶性ポリエステルシートは90℃に加熱された延伸ロールによって長手方向に3.3倍延伸し、ついでテンター式延伸機によって110℃で幅方向に3.8倍延伸した。延伸の終了したフィルムは230℃で熱固定してロールに巻き取った。フィルム厚みは30μmであり、フィルムに含まれる環状三量体の含有量は0.42重量%であった。環状三量体析出量を測定したところ、環状三量体析出はみられなかった。
【0078】
実施例2〜5
実施例1における酢酸マグネシウム添加量のみを変更した以外は実施例1と同様に重合をおこない、固相重合したのち製膜した。
【0079】
実施例6〜9
実施例1における酢酸ナトリウムの添加量のみを変更して同様に重合をおこない、固相重合したのち製膜した。
【0080】
実施例10、11
重合終了判定トルクを変更し、固有粘度をそれぞれ0.50dl/g、0.69dl/gと変更する以外は実施例1と同様に製膜した。
【0081】
ポリマーの固有粘度が低いまたは高いために押出のシートの厚みを均一にすることが難しく、製膜中に破れが発生することがあった。
【0082】
実施例12
加熱処理条件を表1のように変更する以外は実施例1と同様に製膜した。
【0083】
実施例13
固相重合条件を表1のように変更した。若干チップに融着が見られた。固相重合条件以外は実施例1と同様に製膜した。
【0084】
実施例14〜17
加熱処理条件を表1のように変更する以外は実施例1と同様に製膜した。
【0085】
比較例1
酢酸ナトリウムを添加しない以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。環状三量体析出量が多く、製品として適さないものであった。
【0086】
比較例2
実施例1における4,4‘−イソプロピリデン−ジフェノールアルキル(C12−C15)ホスファイトをリン酸に変更した以外は実施例1と同様に重合をおこない、加熱処理したのち製膜した。色調が黄色がかり、製品として適さないものであった。
【0087】
結果を表1にまとめた。
【0088】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
90mol%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルであって、重合触媒金属化合物がチタン化合物、重合助触媒が下記式1で表されるリン化合物であって、エチレンテレフタレート環状三量体の含有量が0.4wt%以下であり、末端カルボキシル基濃度が25eq/Tを超え、50eq/T以下、かつ固有粘度が0.50dl/g以上、0.70dl/g未満であることを特徴とするポリエステル組成物。
【化1】

(上記式1中、Xは、炭素数1〜10の炭化水素基または硫黄を表す。炭化水素基は脂環構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよく、あるいは置換基を含有しても良い。R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜30の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基、アルコキシ基を含む炭素数1〜10の炭化水素基を表しており、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。なおa+b、c+dは0〜4の整数である。)
【請求項2】
重合触媒金属化合物であるチタン化合物がアルカリ金属を含有するキレート金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
マグネシウムをマグネシウム元素として0.1〜100ppm含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
結晶核剤を0.1〜1000ppm含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル組成物。

【公開番号】特開2009−185193(P2009−185193A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27522(P2008−27522)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】